大産業空間

都市計画315号
変わりゆく大産業空間
―都市再編・地域再生の新しいカタチ

 産業とは,人の営みを支える業いであり,経済的な効率性を求めた産業の偏在が都市を形成したということを鑑みれば,産業が展開される空間にまつわる問題は,都市や地域の根源的な課題といえよう。

 近年,産業構造や都市を取り巻く状況の変化等に取り残され,生産や商活動等の本来の産業機能を喪失した産業空間が放棄される事象がみられる。耕作放棄地や「ブラウンフィールド」とよばれる工場等の跡地,閉鎖後も解体されないまま放置される遊園地やショッピングセンターなど,第一次,第二次,第三次産業にわたりみられる事象である。これらの事象は,地域衰退をもたらす社会的課題や,自然環境への負の影響,防災や治安上の問題などを内包している。都市計画制度上においても,諸処の法制度から適応外の空間として放置され,問題が顕在化することが懸念されている。放棄される産業空間は,産業構造の更なる変化や人口減少と高齢化に伴う都市縮退などにより,今後,さらに増加するであろう。

 一方,産業機能は減衰しても,新たな景観価値や都市機能を獲得する産業空間が存在する。景観価値を認知された棚田や工場群の風景,コミュニティ活動が展開される都市農園,ネットワーク型の公共空間へと転換される交通基盤,公共機能をも含んで多機能化する商空間などである。放棄された状態が風景として認知されたことを契機に都市機能を獲得したハイラインのような事例もあり,こうした事象を産業空間の変遷として捉えたい。

 産業が成熟した北米や欧州をはじめとする先進諸国では,放棄された産業空間が引き起こす諸問題の重要性を鑑み,いちはやく産業空間の変遷を国家的課題と位置づけ,都市再編や地域再生に結びつける試みに取り組んできた。国内においても放棄される産業空間は多発しており,産業の発展著しい開発途上国においても,早晩,現れると考えられる世界的な課題である。

 本特集では,従来,生産や商活動や交通など単一の目的に特化して活用されてきた産業空間が,時代の変化に応じて多様な都市機能へと変遷していく事象を多面的に捉えようと試みた。変わりゆく産業空間には,諸問題を乗り越え,現代に適応し次代へと展開する,都市や地域における新たな役割を果たす大きな可能性がみえる。本特集により,その一部がかいまみえ,都市や地域の持続的な発展へとつながる示唆を得るものとなれば幸いである。

(編集担当:杉浦 榮)

特集目次

変わりゆく産業空間の今-北米・欧州・アジアの事例20

総論

変わりゆく産業空間への視座
 杉浦 榮・黒瀬 武史・三島 由樹・中島 健太郎

特別寄稿

アーバン・ブラウン:実践と探求-ハーバード大学と高麗大学校における事例研究を通して
 ニール・ゴードン・カークウッド

風景化する産業空間

砿都のテクノスケープ -白いダイヤの育む地域景観
 岡田 昌彰
仕舞いの風景・仕立ての風景-旧産業技術と新産業技術に内包される景観形態へのアプローチ
 三谷 徹
機能重視の中に流れる美
 森 日出夫

自然・環境と産業空間

Gray×Green=Landscape Infrastructure-産業景観の持続可能な再生をめぐる実践的視点-
 宮城 俊作
ブラウンフィールドと自然環境の保全
 横張 真
ドイツ地方都市における軍用地の再生と環境モデル事業
 クリスティアン・ディマ

生活・文化と産業空間

台北市における産業遺産の保全・活用 -その経緯及び取り組みの変化について
 楊 惠亘
モノづくりのまちづくり -産業空間と都市空間の関係性回復に向けて
 野原 卓

教育の現場から

教育の現場から -「産業棄地の再生」をテーマにした関西大学設計演習を通して
 木下 光
編集後記
 杉浦 榮