刊行

都市計画336号
多国籍・多文化共住の都市づくり

 このところ,国内の外国人人口の増加や,外国人との共住に関する論説,新聞記事などを頻繁に見かけるようになった。事実,総務省が発表した住民基本台帳による平成30年1月1日時点の外国人人口は249万7656人となり,平成になってから約2.5倍に増加したが,今後この傾向はさらに拡大することが予想されている。少子化と高齢化が進行する我が国において,外国人人口の割合は総人口の 2.02%に上昇しているのが現状である。この間,国は平成18年に「多文化共生地域づくり」を進める目的から,各自治体に対して増え続ける外国人を安定して地域に受け入れるためのハードとソフトの環境整備を進める指針・計画づくりと,その実施を求めてきた。本会においても,これまでに外国人居住に関連する研究論文,調査報告などが多角的視点から数多く発表されてきた。この詳細については,本特集の研究動向ほかをご参照いただきたい。

  いま,地域のまちづくり活動や日常的なコミュニティの担い手として外国人居住者への期待が高まりつつあるなかで,改めて本特集では,既成市街地における居住環境の更新と整備,多国籍・多文化コミュニティの保全と再生,さらに今後発生が予想される巨大自然災害に対する防災・減災の社会的仕組み構築とその運営など,ハード・ソフトの両側面から多国籍・多文化共住の都市づくりを進める都市計画の視座と方法論を考究し,提示することを目的としている。

 各地で実践されている地域組織や住民グループなどによる外国人受け入れへの取り組みと継続的な支援活動の成果と課題を都市計画の観点から把握し,「多国籍・多文化を背景とする外国人居住者との共生可能な都市・地域像の共有と実現」への視座を得ることは,従来の語学教育,生活支援,医療,保健に加えて,居住・住環境整備,地域コミュニティ再生,また巨大災害へ備える防災・減災まちづくりなどの観点から都市計画の研究と実践にとって重要な意義を持っており時宜を得たテーマであると考える。

(編集担当:有賀 隆, 山近 資成)

目次

地図の中の風景

上州草津温泉之全圖
 吉田 道郎


支部トピックス


特集:多国籍・多文化共住の都市づくり

【共住化する住環境】

多国籍化するアジアの都市居住 ―シンガポール・香港を事例として
 木下 光・守山 健史

ドイツにおける都市空間整備と移民の背景を持つ人々 ―ミュンヘン市における「社会的都市プログラム」の事例
 山本 健兒

都市生活者としての移民
 是川 夕

民族的・経済的多様性を継承する都市コミュニティとその変容 ―米国サンフランシスコ市ミッション地区のヒスパニック系住商工混在市街地に着目して
 有賀 隆

パリ市における「移民・難民」集積地域と「共住」の試み ―「キャンプ」から「市民ハウジング」まで
 森 千香子

【外国人居住者の受け入れと支援】

自治体の外国人移民政策の現状と課題
 渡戸 一郎

外国人労働者の受け入れ拡大に向けた多文化共生の住環境づくり
 北原 玲子

多文化共生は終わりなきプロセスである ―新宿区大久保が経験してきた30 年とは
 稲葉 佳子

外国人住民をめぐる災害時対応 ―これまでの実践とこれからの課題
 田村 太郎

「育てる」地域防災と「受け皿としての」地域防災 ―「テンポラリーな移動者」を組み込んだ,多文化社会における「地域防災」の必要性
 片岡 博美

【多国籍・多文化共住に向けて】

多文化共生施策と自治体行政 ―全国の動向を踏まえた三大都市圏の先進自治体に着目して
 蕭 閎偉

エコロジカル・デモクラシーと多文化共生 ―自然と社会の交流が生み出す,多様な文化と都市の統合
 土肥 真人

住宅団地における多文化コミュニティ形成に向けた取り組み ―外国人集住が進む住宅団地事例から
 藤井 さやか・王 爽

中国系ニューカマーズにみるトランスナショナル・コミュニティの形成プロセス
 田嶋 淳子

【日本都市計画学会における研究動向】

多国籍・多文化共住にむけた都市計画学会の研究動向 ―日本都市計画学会学術論文から得られた知見の変遷
 山近 資成

【編集後記】
 山近 資成


連載 立地適正化のプラン・メイキング

長野県松本市の立地適正化計画について ―健康寿命延伸都市の構築と生きがいのまちづくり
 柳澤 均


国際協力の都市計画

人力施工(LBT)を用いたみちなおし ―ガーナ国における試み
 徳永 達己・小川 基樹


書籍探訪・新刊レビュー|総務・企画委員会


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