刊行

都市計画350号
景観と景観法

 これまで『都市計画』では,景観法が施行された2005 年に「景観法をどう育てるか:その可能性と課題」(253 巻),2004 年の公布から10 年経った2014年に「景観法10 年」(309 巻)の2 回の特集を行った。これまでの2 回は,特集タイトルを見ても分かるように景観法をベースにしたものであったが,今回の特集では景観法を意識しつつも「景観とは何か」という,もう少し根本的なところに立ち返って議論することを目的としている。

 その理由は大きく分けて3 つある。1 つ目は,「景観」の定義が不明になってきたことである。さまざまな自治体で行われている「景観施策」を見ると,例えば「景観まちづくり」という言葉がよく聞かれるように,景観とまちづくり活動の境界が曖昧になってきているように思う。景観法では表層の景観を扱っているが,実際に行政のもとでやられている,あるいは推奨されているのは活動だったりする。市民の活動自体は重要であるが,目的と手段の境界が不明確な政策が無自覚に行われることで,ともすると物理空間としての「良好さ」がなおざりになっている場合もある。

 2 つ目は,景観に影響を与える事象が変化してきたことである。例えば過疎や空き家の問題はますます深刻化してきており「開発時のコントロール」をベースとした景観法では対処できないことも明らかになりつつある。また,持続可能な社会への認識が定着してきて,自然環境と人間活動の関係性を見直す必要があるなか,景観法の「人々が良さを決める」という枠組みでは対応できない場面も出てきているように思う。

 3 つ目は,「景観至上主義」で良いのかという疑問である。景観研究室出身の私としては「景観が良好なことは良いことである」という主張を持ちたいところであるが,実際,それではコトは動かないことも見えてきた。景観法にあるように「良好な景観」は「国民共通の資産」であると言い切ってしまうのではなく,住みよく活力ある地域づくりの中にどう「景観」を位置付けるべきかという視点で議論すべき時期に来ているのではないだろうか。

 以上,景観施策内外の事情が変化してきたことが,この時期に3 度目の景観特集を組んだ理由である。「景観と景観法」という特集タイトルには,地域や個人にとっての良い景観と,景観法で守られる,あるいは規定できる景観を分けたうえで議論を始めてみようという意図を込めた。なお,上記3 つの理由は,本特集を読む上での縦糸にもなるのではないかと思う。

[趣旨文:真田 純子]

(編集担当:伊藤 香織・真田 純子)

目次

地図の中の風景

風景とは何か
 宮脇 勝


支部トピックス


【景観法の位置づけを再考する】

景観法の成立をめぐって―そのねらいとその後に残されたこと
 西村 幸夫

「良好な景観」と「美しい景観」―街並形成過程から考える景観の意味
 齋藤 潮

法の影の下の景観協議―景観法と法の表出的機能
 ⻆松 生史

景観におけるマルチスケール・アーバニズム―デザインからランドスケープへ
 小浦 久子

【景観行政と景観法】

景観法の限界と景観行政の可能性―景観創造に対する景観法の限界と地方公共団体,専門家の連携の可能性
 小出 和郎

木密の景観:生活景と防災性の両立をめざして―台東区谷中地区まちづくりからの考察
 椎原 晶子

市街化調整区域における開発許可との組み合わせ―農村集落の景観保全と活性化
 小布施町 建設水道課

農山漁村の文化的景観と制度の間―重要文化的景観「日根荘大木の農村景観」から
 神吉 紀世子

[インタビュー]小さな自治体での景観法の活用―徳島県神山町における景観計画策定の課題と意味
 馬場 達郎・高田 友美

再生可能エネルギーと景観―生活に根ざすものとして
 秋田 典子

【良い景観とは何か】

国の景観評価,景観施策の現在地―都市景観大賞の制定背景から今日までの展開を軸に
 高見 公雄

都市空間における人の活動と景観―参加型景観の視点から―
 三輪 康一

良い農業景観とは何か―「良さ」の決定と設定について考える
 真田 純子

オーバーツーリズムと消費される景観
 阿部 大輔

【欧州各国の景観と景観施策】

イギリス都市計画におけるデザインへの言及―定性的評価手法の構築に向けた模索
 坂井 文

ドイツの風景計画の特徴―その制度と概要
 坂本 英之

スペイン・カタルーニャの景観政策における景観概念とその具現化―景観を<地域>としてとらえる思想
 齊藤 由香

ワインスケープ,思惑の都市計画,そして享楽の広域協働へ―フランスの景観制御の補助線
 鳥海 基樹

【景観の共有に向けて】

景観デザイン協議への市民参画―神戸市景観デザイン協議における景観形成市民団体の参画事例に着目して
 栗山 尚子

クラウドソーシング・オープンデータによる景観の把握と共有―景観データの民主化に向けて
 瀬戸 寿一

環境イメージと景観教育―ケヴィン・リンチの手法を手がかりに
 北原 理雄

【編集後記】
 伊藤 香織


まちづくりマインドを育む

高校での「地理総合」必修化によるまちづくりや都市計画への影響
 大島 英幹

科学的知見と地域協働による防災まちづくり教育の展開
 山本 俊哉


コロナ禍は都市と都市計画をどのように変えるのか?

新型コロナウイルス感染症における保健所業務について
 清古 愛弓


書籍探訪・新刊レビュー|企画調査委員会


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