刊行

都市計画351号
清潔な都市と近代以降の感染症対策

 コロナ禍の中,ソーシャルディスタンス,IT の活用等も含めた新たな生活様式が模索されているところです。

 その一方で,感染症を切り口に歴史や社会を振り返る出版等の動きも幅広い分野で見られます。感染症対策は,もたらす症状・生命の危険という側面では生きている時代に関わらず共感しうる我々の身体に近しい課題であることが,重要な学びの機会をもたらしているようにも感じられます。

 近代以降,これまでの都市や都市社会,さらには都市を含む各種の交流の形成において,衛生の確保,感染症対策の取組は連綿と続いてきました。コロナ禍は,それまで,公衆衛生・感染症対策といった面では当事者以外には一見充足しているようにも見えていた現在の都市の形態・生活が,それらの面でも未だ途上にあるという視点を改めて提供したと言えます。

 本特集では,都市の公衆衛生・感染症対策等にかかわる各種要素を近代以降の変遷を中心に取り上げています。コロナ禍とは異なるタイプの感染症を含むより広い視点から,また最新の知見からすれば必ずしも正確ではなかったとしても,当時の知見の中で,どのような都市や生活の改善が図られたのか,一方で人々の動機や社会状況からあまり変わらなかったものは何か,議論の基礎となる知見の提供を目指して各分野から御執筆をいただきました。

 本特集が,新型コロナウィルス感染症対策を経た後の都市の維持や更新,都市生活や交流に関わる議論をより充実させる一助となりますと幸いです。

(編集担当:大島 英司)

目次

地図の中の風景

ジョン・スノウのコレラ地図
 塩出 徳成・塩出 志乃


支部トピックス


【解題】

特集の編集にあたって
 大島 英司

【英国における公衆衛生と都市空間】

近代郊外居住の誕生と公衆衛生─衛生と健康を目指した住宅地開発
 中井 検裕

公衆衛生と都市空間─チャドウィック衛生改革の歴史的背景
 見市 雅俊

英国における公営住宅政策─産業革命以降の住宅政策
 周藤 利一

イギリスにおける都市公園制度の理念と歴史
 宮川 智子

19世紀イギリスにおけるナイチンゲールの感染症対策と衛生改革
 金井 一薫

【日本における近代的防疫行政】

日本における近代的防疫行政の形成─京都の場合を中心に
 小林 丈広

東京の市区改正と衛生─明治期における都市計画と衛生行政との接点に関するレビュー
 中島 直人

健康の基盤としての居住を目指して─居住福祉の視点
 岡本 祥浩

都市からの隔離収容先としてのハンセン病療養所の成立と展開
 古山 周太郎

【都市の水循環と感染症対策】

都市の水循環と病原微生物─近代水道から100年を経て
 片山 浩之

江戸の町屋の上下水道整備状況─日本橋鉄炮町を例にして
 栗田 彰

東京の都市化と水道の発達─江戸・東京の成長の基盤としての水道
 鈴木 浩三

下水道システムによる感染症リスクの低減─新型コロナを契機に下水道の機能を進化
 田野中 新・高田 一輝・加藤 紗貴

【空間疫学】

感染症対策と空間情報の活用─モバイル位置データに着目して
 柴崎 亮介

空間疫学─ John Snowのコレラの疾病地図から始まった疾病の空間集積性の検出
 丹後 俊郎

【交通における感染予防】

新型インフルエンザ対策で検討された公共交通機関における感染予防
 岩倉 成志

インフルエンザの流行動態に学ぶ─感染者数と人々の移動量の相関性
 岩田 伸一郎

明治日本の海港検疫と外国人居留地における感染症対策
 市川 智生

【感染症対策と都市のにぎわい】

精神衛生と公園緑地
 横張 真・山崎 嵩拓

日本の局所的・漸次的・長期的な感染症対策について
 齊藤 誠

地方都市の感染状況とにぎわい創出に向けた取り組み─新潟県長岡市と柏崎市を対象として
 樋口 秀

[インタビュー]感染症対策の先に求められる都市生活
 馬場 正尊

【編集後記】
 大島 英司


まちづくりマインドを育む

人と地域の共創へ─大学における地域貢献とまちづくり人材育成
 山中 英生

風景との対話─まち歩きはまちづくり
 田中 尚人


コロナ禍は都市と都市計画をどのように変えるのか?

COVID-19 感染拡大が招く行動変化の実態と都市の危機
 谷口 守・武田 陸


書籍探訪・新刊レビュー|企画調査委員会


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