刊行

都市計画355号
変容する郊外―郊外の捉えなおしとこれからの可能性

 日本では,戦後の経済成長に伴う都市圏への人口集中や郊外化の進行により多様な市街地が形成されてきた。それにもかかわらず,郊外は住宅の量的充足を目的とした初期の「均質」なイメージを引きずっている。戦後の郊外開発から既に半世紀以上が経過しており,人,建物,さらには都市機能も新旧が入り混じり,一定の時間的経過を感じさせる郊外を均質なイメージで一様に捉えることには無理がある。また人口もピークを迎え,人口増減の明暗が分かれるなど,郊外の地域的差異も明瞭なものになってきた。

 つまり郊外は時間の経過にともない均質なものから異質なものへと変容しており,その変容の方向に目を向けることが,現在の郊外を理解し,そしてこれからの郊外のあり方を考える第一歩になるだろう。

 こうした問題意識から,本特集では,「個性化」および「多機能化」という点から郊外の変容を捉えるとともに,リモートワークが支える「通勤しない(ワークプレイス化する)」郊外をCOVID-19 が加速させた新しい変容パターンとし,この3 点に注目しながら郊外の現状と今後について議論を行うこととした。

 「個性化する郊外」では,特定のライフスタイル(趣向)や地域課題の解決など,特定のテーマに着目しながらユニークな住環境・コミュニティを形成している事例を取り上げた。

 「多機能化する郊外」は,“ベッドタウン” と呼ばれたような単一的用途で捉えられる郊外から脱却し,用途・機能の多様化や不足する機能の補完,新型モビリティ導入による流動性の向上を図るような(=本稿では「多機能化」と定義)事例を扱う。

 「通勤しない(ワークプレイス化する)郊外」では,COVID-19 の蔓延を契機としてリモートワークが加速させた住宅や近隣環境などへの変化の兆しを取り上げている。

 最後に,これらの変容を都市計画分野はどのように捉え,どのように支えていくべきかという点について,座談会において議論した。

(編集担当:矢吹 剣一・石田 一誠・寺田 徹)

目次

地図の中の風景

「模範的郊外生活」第一号 池田室町住宅地
 中嶋 節子


支部トピックス


【口絵】

データでみる郊外
 矢吹 剣一・寺田 徹・石田 一誠

【郊外論のゆくえ】

郊外住宅地のこれまでとこれから
 角野 幸博

日本の郊外はガラパゴス化する!?(良い意味で)
 三浦 展

郊外再論─反都市の系譜
 平山 洋介

大都市郊外の姿─東京西郊を対象として
 饗庭 伸

緑地計画からみる首都圏郊外の変容─都市の変化を受容する「地」の都市緑地計画
 竹内 智子

【個性化する郊外】

持続的な郊外住宅地に向けた再編・再生のコミュニティ・マネジメント
 室田 昌子

豊四季台団地のまちづくり─団地再生事業と地域医療福祉拠点化の取組み
 小池 信子

「里山住宅博in神戸& inつくば」から
 小池 一三

豊かな暮らしの場をつくる─東村山の信頼関係でつながる愉しく豊かな暮らし
 迎川 利夫

【多機能化する郊外】

郊外住宅地の多機能化に向けた課題と展望─「小さな多機能化」による暮らしやすさの向上
 藤井 さやか

地域を支える拠点創出─上郷ネオポリスの挑戦
 瓜坂 和昭

横浜市における用途地域等の見直しに向けた取り組み─暮らしやすさや多様な活動を実現するための用途地域等の活用
 雨宮 寿親

「丘の上の惣菜屋さん『やまわけキッチン』」の取り組み─団地の空き家を活用した「食」のコミュニティスペース
 田中 陽三

進化する郊外を支えるモビリティの形─郊外市街地におけるモビリティの可能性
 新階 寛恭

【通勤しない(ワークプレイス化する)郊外】

ワークプレイス化する郊外─ベッドタウンからベースタウンへ
 松下 慶太

コロナ禍での暮らしと住まいの変化─ワークスペースのある家づくりの研究
 山田 恭司

郊外駅前における新たなライフスタイルの提案─働く,遊ぶ,暮らす,を含んだ多様な郊外生活拠点として(ネスティングパーク黒川)
 菅谷 裕子・滝島 敬史

【座談会】

地方都市郊外のこれからを探る─コミュニティ,生活,インフラ,都市機能の視点から
 三寺 潤×薬袋 奈美子×後藤 純×武田 重昭

【編集後記】
 矢吹 剣一・石田 一誠・寺田 徹


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