気候変動の影響が生活環境や都市のあり方に顕在化しつつある今,都市空間における「快適性」という概念は,再定義を迫られている。特に雨の日の都市体験においては,文化的背景や感性的効果,景観的魅力,さらには経済的インパクトが複合的に作用しうる領域であり,今後の都市計画における新たな探求領域として注目される。
日本は世界的にも降水日数が多く,多くの地域で年間100日を超える。古来より,和歌や絵画,庭園などにおいて,雨は侘び寂びや余白の美意識と深く結びつき,人々の感性や生活文化を形づくってきた。雨音や水面の揺らぎ,霧に包まれる景観は,単なる気象現象を超えて心身に働きかける存在として,文化的価値を帯びてきたといえる。しかしながら,現代都市において雨は依然として「回避すべきもの」として扱われ,都市計画や運営も晴天時の利用を前提とする傾向が根強い。
一方で近年では,観光や文化分野において,日本特有の「雨の風景」や「雨を感じながら過ごす時間」に価値を見出す来訪者が少しずつ増えている。石畳を濡らす雨,水滴に揺れる街灯,霧に包まれた山並みなど,偶発的かつ詩的な体験は記憶に残り,人々の感性を刺激している。
こうした視点から,雨を「防ぐ対象」にとどめず,「共にあるもの」として捉え直すことは,気候変動時代やインクルーシブ社会実現をめざす都市計画における重要な転換点である。雨を積極的に組み込む都市デザインは,文化的価値の再発見や景観資源の活用を通じ,都市生活の質を高め,地域の魅力を持続的に育む可能性を拓くだろう。
これらの背景を踏まえ,本特集では,これまで晴天時の利用を前提として設計・運営されてきた公共空間に対し,「雨」に焦点を当て,雨をいかに都市の魅力や体験価値に転換できるかを多角的に探る。
(特集担当:小川 貴裕)
堀川に接続する水路の変遷
秀島 栄三
【文化・歴史・芸術から見る雨】
雨
中西 進
江戸と東京の雨と雪─その感覚と生活文化
段上 達雄
雨とかさねのコミュニケーション─雨のリズムとうたう身体
やまだ ようこ
絵画を彩る雨の情景─西洋・東洋絵画にみる雨の表現の歴史
長谷部 愛
雨のコンテンツツーリズム─現代の〈歌枕〉と場所の想像力
山村 高淑
【生活・建築・デザインから見る雨】
「雨との共生」が都市計画に問いかける─都市美運動における省察を手がかりに
中島 直人
「晴天前提」のアーバニズムを超えて─気候変動時代のパブリックスペースと「雨」の受容と戦術
泉山 塁威
水循環型都市デザイン─水循環から構想するランドスケープ
福岡 孝則
雨のランドスケープデザイン
武田 重昭
「和の花」の雨庭都市─小規模分散自律型ソルーションへ
森本 幸裕
雨という現象を再設計する─風の研究から考える気象と空間の新しい関係性
谷 清鳳・大栁 友飛・今井 健人
[インタビュー]雨を「ひらく」ことの意義と可能性─雨のみちをデザインするという発想
谷田 泰
【日常・非日常から見る雨】
晴れの日も味方の街─コペンハーゲンの雨対策と日常のデザイン
宮武 壮太郎
“ぬかるみ” は資源になるか?予測不能な地面と遊びの関係性─予測不能=だから面白い
天野 秀昭
雨の日にも行きたくなる公園™─雨と人の関係性から見出す,都市の新しい選択肢とは
伊藤 真愛美
豪雨災害となりわいの再建─令和2年7月豪雨からの知見
松島 格也
「日々是好日」の都市生活─“ゲリラ豪雨”を「価値」に変える“心持ち”のためのプラン
高広 伯彦
【まちづくり・市民参加から見る雨】
雨も愉しむ建築の実現に向けて─雨水貯留浸透技術レインスケープ®の展開
向井 一洋・鈴木 康平・花岡 郁哉・横堀 伸
武蔵野市における市民協働による雨庭づくりの実践─むさしのエコreゾートにおける事例
尾崎 昂嗣
小川再生による「グリーン・ロード」創出─“雨水活用が当たり前になる社会”の実現のために
松本 正毅
わたしの雨庭からはじまる地域づくり─一般財団法人 世田谷トラストまちづくりによる「自分でもできる雨庭づくり」支援
角屋 ゆず
「水みんフラ」の視点からみた小規模雨水管理と市民実践─東京都墨田区の40年の取り組みと小さなグリーンインフラ導入
笹川 みちる
【編集後記】
小川 貴裕
パリ(フランス)
西村 愛
【お詫びと訂正】
本号の掲載内容に誤りがございました。
お詫び申し上げますとともに、下記のとおり訂正致します。
■ P. 46 左段2行目
誤)平成7年
正)令和7年