刊行

都市計画379号
雨は都市の味方にできるか?

 気候変動の影響が生活環境や都市のあり方に顕在化しつつある今,都市空間における「快適性」という概念は,再定義を迫られている。特に雨の日の都市体験においては,文化的背景や感性的効果,景観的魅力,さらには経済的インパクトが複合的に作用しうる領域であり,今後の都市計画における新たな探求領域として注目される。

 日本は世界的にも降水日数が多く,多くの地域で年間100日を超える。古来より,和歌や絵画,庭園などにおいて,雨は侘び寂びや余白の美意識と深く結びつき,人々の感性や生活文化を形づくってきた。雨音や水面の揺らぎ,霧に包まれる景観は,単なる気象現象を超えて心身に働きかける存在として,文化的価値を帯びてきたといえる。しかしながら,現代都市において雨は依然として「回避すべきもの」として扱われ,都市計画や運営も晴天時の利用を前提とする傾向が根強い。

 一方で近年では,観光や文化分野において,日本特有の「雨の風景」や「雨を感じながら過ごす時間」に価値を見出す来訪者が少しずつ増えている。石畳を濡らす雨,水滴に揺れる街灯,霧に包まれた山並みなど,偶発的かつ詩的な体験は記憶に残り,人々の感性を刺激している。

 こうした視点から,雨を「防ぐ対象」にとどめず,「共にあるもの」として捉え直すことは,気候変動時代やインクルーシブ社会実現をめざす都市計画における重要な転換点である。雨を積極的に組み込む都市デザインは,文化的価値の再発見や景観資源の活用を通じ,都市生活の質を高め,地域の魅力を持続的に育む可能性を拓くだろう。

 これらの背景を踏まえ,本特集では,これまで晴天時の利用を前提として設計・運営されてきた公共空間に対し,「雨」に焦点を当て,雨をいかに都市の魅力や体験価値に転換できるかを多角的に探る。

(特集担当:小川 貴裕)

目次

地図の中の風景

堀川に接続する水路の変遷
 秀島 栄三


支部トピックス


特集:雨は都市の味方にできるか?

【文化・歴史・芸術から見る雨】


 中西 進

江戸と東京の雨と雪─その感覚と生活文化
 段上 達雄

雨とかさねのコミュニケーション─雨のリズムとうたう身体
 やまだ ようこ

絵画を彩る雨の情景─西洋・東洋絵画にみる雨の表現の歴史
 長谷部 愛

雨のコンテンツツーリズム─現代の〈歌枕〉と場所の想像力
 山村 高淑

【生活・建築・デザインから見る雨】

「雨との共生」が都市計画に問いかける─都市美運動における省察を手がかりに
 中島 直人

「晴天前提」のアーバニズムを超えて─気候変動時代のパブリックスペースと「雨」の受容と戦術
 泉山 塁威

水循環型都市デザイン─水循環から構想するランドスケープ
 福岡 孝則

雨のランドスケープデザイン
 武田 重昭

「和の花」の雨庭都市─小規模分散自律型ソルーションへ
 森本 幸裕

雨という現象を再設計する─風の研究から考える気象と空間の新しい関係性
 谷 清鳳・大栁 友飛・今井 健人

[インタビュー]雨を「ひらく」ことの意義と可能性─雨のみちをデザインするという発想
 谷田 泰

【日常・非日常から見る雨】

晴れの日も味方の街─コペンハーゲンの雨対策と日常のデザイン
 宮武 壮太郎

“ぬかるみ” は資源になるか?予測不能な地面と遊びの関係性─予測不能=だから面白い
 天野 秀昭

雨の日にも行きたくなる公園™─雨と人の関係性から見出す,都市の新しい選択肢とは
 伊藤 真愛美

豪雨災害となりわいの再建─令和2年7月豪雨からの知見
 松島 格也

「日々是好日」の都市生活─“ゲリラ豪雨”を「価値」に変える“心持ち”のためのプラン
 高広 伯彦

【まちづくり・市民参加から見る雨】

雨も愉しむ建築の実現に向けて─雨水貯留浸透技術レインスケープ®の展開
 向井 一洋・鈴木 康平・花岡 郁哉・横堀 伸

武蔵野市における市民協働による雨庭づくりの実践─むさしのエコreゾートにおける事例
 尾崎 昂嗣

小川再生による「グリーン・ロード」創出─“雨水活用が当たり前になる社会”の実現のために
 松本 正毅

わたしの雨庭からはじまる地域づくり─一般財団法人 世田谷トラストまちづくりによる「自分でもできる雨庭づくり」支援
 角屋 ゆず

「水みんフラ」の視点からみた小規模雨水管理と市民実践─東京都墨田区の40年の取り組みと小さなグリーンインフラ導入
 笹川 みちる

【編集後記】
 小川 貴裕


書籍探訪・寄贈図書レビュー|企画調査委員会


わたしとあの街

パリ(フランス)
 西村 愛


学会ニュース


【お詫びと訂正】

本号の掲載内容に誤りがございました。
お詫び申し上げますとともに、下記のとおり訂正致します。

■ P. 46 左段2行目
誤)平成7年
正)令和7年