刊行

都市計画347号
イタリアに学ぶ,豊かさ

 日本で法定の都市計画が始まって100年経つが,その間に,区画整理,公園整備,再開発,中心市街地活性化など,さまざまな都市計画技術が進展してきた。しかしながら近年,それを必要とする社会そのものが変化してきた。具体的には人口減少や持続可能な発展など自然との共生である。さらに今年に入ってCOVID-19の影響で分散を良しとするようになり,秩序良く集積するためのルールづくりとして始まった都市計画そのものが揺らいでも来ている。

 また一方では,中山間地域の過疎化が年々深刻化している。これは農村部だけの問題ではなく,都市との関係において考えられるべき事項でもある。都市計画は都市計画区域を定めてその内部で検討してきたという側面があるが,都市内部で完結するわけではないのだ。

 このように都市計画を再考する必要に迫られてきているなか,中心市街地での生活も,農村の保全や観光もなんだか上手くいっているイタリアに着目し,イタリアの都市計画や地域計画について広く取り上げることにした。確かに失業率は高く,経済的には「豊か」とは言えないかもしれないが,本特集ではもう少し広義での「豊かさ」に着目した。

 都市計画学会誌の特集では,場所を限定したものはこれまでほとんどなかった(最近では,埼玉や銀座特集くらいか)。しかし,これからの都市や都市計画そのものについて考える材料とするためには,イタリアで行われていることを多面的にとらえる必要があると考え,個別の都市計画技術をテーマとするのではなく,イタリアという場所そのものをテーマとしたのである。

 前段では,概論としてイタリアの都市や都市計画を理解するための論考,中段でテーマごとの論考,最後はそれらの実践としての事例を集めた。イタリアには州制度があり,基礎自治体の権限も日本とは異なる。そのため,紹介した都市計画技術をすぐに取り入れるということにはならない。しかし本特集では,都市計画そのものを再考するための考え方を提示したつもりである。ぜひ,全体を通読し,背景にある都市計画の理念,展望について感じとっていただければと思う。

(編集担当:真田 純子)

目次

地図の中の風景

地図の中にある食の風景
 正田 智樹


支部トピックス


特集:イタリアに学ぶ,豊かさ

【イタリアの都市・地域政策を知る】

[鼎談]建築保存から都市,農村,テリトーリオへ ─都市計画の対象の拡大と食・農との連携
 陣内 秀信×中井 検裕×真田 純子

地域性を担保するイタリアの行政制度と都市計画 ─鍵を握る地方自治体,そして諸刃の剣の法制度
 工藤 裕子

都市政策の歴史 ─チェントロ・ストリコからテリトーリオへ,小さな町ほど生活の質は高い
 宗田 好史

3ステップ100 年の風景政策と効果 ─ウルバーニ法典(2008 年)の風景計画に見る豊かさの表現
 宮脇 勝

【都市・地域の実情】

[インタビュー]イタリアの小さな村に見る豊かさと暮らし ─地域文化の再興と人々のつながり
 小池田 由紀

グローバリズムとイタリアの幸福な町づくり スローシティ
 島村 菜津

街並みを守る技術と社会の常識 ─修復における建築家のアイデンティティと建築の豊かさ
 井口 勝文

震災復興の観点から考えるイタリアの豊かさ ─アブルッツォ州ラクイラ市での取組みを中心に
 益子 智之

イタリアの小規模な町におけるコミュニティ協同組合の取り組みを通じた自治・仕事・暮らし
 田中 夏子

【都市と農村を繋ぐ仕組み】

都市と農村を繋ぐ持続可能なモデル,アルベルゴ・ディフーゾ ─山岳地域における波及効果の事例
 中橋 恵

環境と地域のためのアグリツーリズモ ─本来の食,風景,農村文化を守るために
 温井 亨

持続的発展のテストとEU農村振興政策 ─イタリアとフランスの比較から
 須田 文明

イタリアの小規模都市の分布と公共交通の状況
 ティザンナ・デルマストロ,中村 文彦

【地域の価値づけと活性化】

水都ヴェネチアの再生 ─ラグーナの過去・現在・未来
 樋渡 彩

文化的景観 オルチャ渓谷 ─ありきたりの田園風景という世界遺産の新たな切り口
 植田 暁

テリトーリオ・アプローチによる農村の内発的発展 ─トスカーナ州アミアータ・テリトーリオの事例
 木村 純子

都市から田園,そしてテリトーリオの再生 ─南イタリアの「後進性」と「豊かさ」
 稲益 祐太

【編集後記】
 真田 純子


まちづくりマインドを育む

高校地理でまちづくり ─道の駅を通したSDGsへ
 戸井田 克己

まちづくりマインドを育む3 つの勘所
 河田 祥司


コロナ禍は都市と都市計画をどのように変えるのか?

With/postコロナにおける都市の魅力 スマートシティの加速と安全・安心な密の実現
 井上 俊幸


書籍探訪・新刊レビュー|企画調査委員会


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