刊行

都市計画359号
都市計画古典再論

 日本の近代都市計画諸制度の成立から 100 年余りが経過した現在,度重なる災害,感染症の流行をはじめとして都市は大きな転換期を迎えている。ここで,「古典」としてわれわれの都市計画の礎となってきた20 世紀の理論を改めて読み返し,考え直す機会をつくりたい。そのとき重要なのは,「古典」をどのようにラディカルに読み返すことができるかである。

 特集は「第I部 近代都市計画理論の再論にむけて」「第II部 古典再論:近代都市計画理論の可能性」「第III部 古典を越えて:後期近代の都市計画論」の三つの部から構成される。

 いまではK. リンチやJ. ジェイコブズなどの名前は決まりきった文脈で引用されるようになった。しかしこれらを注意深く読めば,見落としていたが現代にも示唆深い多くの論点があるはずだ。本特集では,これらのおなじみの理論家たちを改めて読み直しながら,近代都市計画は何に注力してきたのか,それらの影響が日本の現在の実践にどこまで取り入れられているのか,そして取り入れられていない別の論点とはなにかを考えていく。さらに第III 部では,D. ハーヴェイやN. スミスなどの地理学者,R. ヘスターなど近年注目される理論家たちを取り上げながら,われわれが取り組まなければならない課題を俯瞰していく。

 本特集は,20 世紀の都市計画をめぐる理論を単に紹介したり要約したりするのではなく,その思考の根幹をつかみだし,見過ごされてきた論点を確認し,現在に向けた可能性を展望する,「都市計画の古典のクリティカル・リーディング」の試みである。

(編集担当:吉江 俊・真田 純子)

目次

地図の中の風景

ガイドマップに見る「都市」と「記憶」の関わり
 林 廷玟


支部トピックス


【第I部 近代都市計画理論の再論にむけて】

近代都市計画理論のクリティカル・リーディング─「古典再論」へのご案内
 吉江 俊

[インタビュー]欧米から日本へ移入された都市計画の〈古典〉たち─1920 年代・1960 年代を二つの焦点として
 秋本 福雄

近代日本の都市計画理論の旗手たち─“technik” と“politik” の間にて
 中島 直人

【第II部 古典再論:近代都市計画理論の可能性】

パトリック・ゲデス─漸進的に変化する世界の複雑さの肯定─ル・プレイ,ルクリュ,ゲデス,オトレ,ル・コルビュジエを結びながら
 松田 達

ハワードの田園都市と日本での理解─見過ごされていた視点とこれからの展望
 真田 純子

日本の都市計画家・石川栄耀再論
 西成 典久

シカゴ学派の都市社会学─1 世紀後の視点から
 松本 康

日本における近隣住区論の受容
 中野 茂夫

パターン・ランゲージと「遊び」─ルール・システムが生成するもの:幾何学的構造とプレイ
 長坂 一郎

[対談]ジェイン・ジェイコブズとシャロン・ズーキン─ふたつの時代のニューヨークから発された理論を考える
 山形 浩生×真野 洋介

【第III部 古典を越えて:後期近代の都市計画論】

デヴィッド・ハーヴェイ─都市空間形成に関する理論的・経験的研究と新自由主義批判
 大城 直樹

ジェントリフィケーションから報復都市へ─ニール・スミスによる批判的都市論の射程
 原口 剛

都市社会運動─「都市とグラスルーツ」を読む
 大澤 善信

『場所の力』(ドロレス・ハイデン著)の現代的解釈と展望─場所の再生産と包摂社会の実現
 後藤 春彦

ニュー・アーバニズムの古典を再論する─ピーター・カルソープの書籍を中心として
 服部 圭郎

Randolph T. Hester の思想・行為・場所─エコロジカル・デモクラシー:人類が地球に根づく都市のために
 土肥 真人

これからの都市計画理論への期待
 高見沢 実

【編集後記】
 吉江 俊・真田 純子


官民連携による公共空間の利活用を通じたウォーカブルなまちづくり

公共空間利活用に向けた都市政策実現の経緯
 渡邉 浩司


書籍探訪・寄贈図書レビュー|企画調査委員会


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