刊行

都市計画361号
大量相続時代の都市政策

 2025 年問題を背景に,日本はいよいよ類を見ない大量相続時代を迎える。こうした中で,新たに「つくる」ときにしか規制・誘導できない現行の都市計画法では,市街地の持続的な更新が難しくなっている。なぜなら,すでにある土地・建物の中には,権利関係の輻輳化,所有者の多数・不明化,相続放棄による所有者の不存在化,海外居住等に伴う所有者探索の困難化,地元から離れた相続人等の無関心化といった様々な問題を抱える場合が少なくないからである。特に,古くからある街なかは,都市機能誘導区域などに指定されていても,長年にわたる様々な人が使ってきた積み重ねの中で,より問題が複雑化しているところも多く,マスタープランや計画は策定できても机上の空論になりがちな状況となっている。

 すでにある街を「つくりなおす」にも,収益が確保できる場所を除けば,土地・建物を動かすための前提条件を整理する手間・時間・コストがかかるため,郊外に広がる安価な農地などの開発に流れる事態を生み出している。

 一方で,今後,街の中で相続が同時多発的に発生する機会をとらえて効果的な都市政策を展開することができれば,市街地に新たな魅力を加えながら,街の新陳代謝を促すことも期待できよう。

 本特集では,昨今の関連法制度改正の動きとともに,空き家・空き地・生産緑地の活用や街なか再生に関わっていらっしゃる様々な分野・お立場の方々に,実際に生じている都市問題やその解決に向けた取り組みについて紹介・論じていただき,大量相続時代を迎える中で必要な都市政策とは何かについて具体的に考えたい。

(編集担当:野澤 千絵)

目次

地図の中の風景

その窓に明かりを灯すために,地図に空き家のマークをつける
 和田 貴充


支部トピックス


【解題】

大量相続時代の都市政策─「つくる」時から「引き継ぐ」時の対応策の充実に向けて
 野澤 千絵

【第1 部:大量相続が引き起こす新たな都市問題】

既成市街地における長期空き家という問題
 鈴木 雅智・樋野 公宏

自律的な地域経済活性化を妨げる都市中心部の「低未利用不動産」─中心市街地・まちなかの再生に向けた公民共創の必要性と課題
 日本商工会議所地域振興部

住工混在市街地における「まち工場」の空き家活用の可能性と課題─東京の下町エリアでの,中小規模の事業用建物の活用に向けた取り組みから
 千葉 敬介

災害の多発化・激甚化と空き家問題─令和2 年7 月豪雨災害,人吉市を事例として
 本間 里見

【第2 部:関連法制度改正の動きや取り組み】

土地政策と民事基本法制の見直し─今後の可能性と所有者探索の課題
 吉原 祥子

所有者不明土地対策に関する制度的対応─土地基本法及び所有者不明土地法の改正
 国土交通省土地政策審議官部門土地政策課

空家法基本指針及び特定空家等ガイドラインの改正─空き家対策に係る地方公共団体からの主な要望への対応
 国土交通省住宅局住宅総合整備課

都市農地に関する法制度の改正と活用状況について
 酒井 翔平

【第3 部:地域の世代交代に向けて】

山形県上山市の空き家対策について─3 バンク(空き家バンク,住み替えバンク,ランドバンク)推進
 鏡 昌博

京都市非居住住宅利活用促進条例の可能性と課題
 阿部 大輔

都市農地貸借円滑化法により新たな時代を迎えた東京の都市農業・農地─東京都内における貸借による新たな生産緑地の保全と可能性
 松澤 龍人

群馬県における街の魅力向上に向けた新たな交通戦略─県内事例を参考にして
 山木 健一

【第4 部:民間による住まいの終活サポート】

空き家所有者への意識調査結果から見る支援施策のポイント─解決の鍵は「金銭面の支援」「実効性の高い相談窓口」「オンラインでの支援」
 宮田 ゆかり

戸建住宅地における「自助」×「共助」による空き家対策の実践─逗子市グリーンヒル住宅地の取り組みから学ぶもの
 松本 昭

これからの住まいをサポートする「シニアデザイン」の取り組み─不動産仲介事業を通じて見る高齢者のお住み替え事情について
 松本 泰輔

「空き家問題」解決の鍵を握る「地方」「戸建」の中古再生住宅販売事業とは
 株式会社カチタス 広報チーム

【座談会】

大量相続時代の都市政策に必要なこととは?
 北村 喜宣×阿部 眞一×浜本 栄二×藤島 新也×野澤 千絵

【編集後記】
 野澤 千絵


官民連携による公共空間の利活用を通じたウォーカブルなまちづくり

大丸有地区における公共空間の利活用によるウォーカブルなまちづくりに向けた取組み
 高瀬 太郎


書籍探訪・寄贈図書レビュー|企画調査委員会


わたしとあの街

ダマスクス(シリア)
 松原 康介


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