企画調査委員会
新刊探訪
たたかう東京:東京計画2030+
鹿島出版会/2014年3月
本書は,著者が主宰し,建設・不動産・エネルギー各社が参加している「2030年の東京都心市街地像研究会」の成果から,東京の国際競争力強化に関わる部分をとりまとめたものである。内容は,東京計画2030+として,4つの目標,7つの計画,9つの提案がわかりやすくまとめられている。
研究者にしろ実務家にしろ,ヒラメキと分析の両方が大事なことはいうまでもない。ただ,分析能力の方はトレーニングによって向上させることができるのに対して,ヒラメキを磨くのは難しい。本書は都市計画を知り尽くした著者が「土地の権利関係に足を置いて法制度の柔軟な運用を前提とした『現実的な都市計画像』」というだけのことはあって,7つの計画と9つの提案は,いずれも「たたかう東京」という観点からはかなりの迫力がある。こうした書は,読者のヒラメキを磨くのに役立つ数少ない書であるように思う。
本書のもととなった研究会ではないが,評者もかつて,著者が主宰する類似の勉強会のメンバーだったことがある。評者以外のメンバーに比べると,評者は小僧のようなものだったが,そこでの自由な議論は,柔軟で縦横無尽,実に刺激的であり,今にして思えば,研究や実務のヒラメキの種のようなものを,そこで随分と得ていたように思う。本書はそういう意味では,サロンのような場で,著者の語りとともに味わうことで,より一層の理解が深まり,著者の都市計画ワールドの奥行きを体感できるように思う。学会で,そうした場の提供を考えてみてはどうか。
紹介:東京工業大学大学院教授 中井検裕
(都市計画311号 2014年10月25日発行)