企画調査委員会

戦後英国の都市計画理論:計画技術論から総合的まちづくり論へ
明石書店/2024年
英国の都市は,人口・経済成長から停滞,衰退に向かうライフステージに伴い大きく変節してきた。この現象の背景とプロセス,対処する計画の概念と理論の変遷の「物語」を綴ったのが本書である。
18 世紀末に世界に先駆けた産業革命によって,餓死が常態化した農村から農民が産業の雇用を求めて都市に流入した。都市は急速に成長し,ロンドンの人口が19世紀の間に100万人から600万人超になるなど,人口圧力から「郊外化」して自然を侵食していった。そこに,コレラが蔓延し,リバプールの平均寿命が17 歳となるなど,産業都市は墓場と化した。その悲劇が郊外に新天地を求めるユートピア運動を起こし,英国の近代都市計画は,上中流階級の人々がインナーシティの感染から逃れるための空間管理手法としてスタートした。
早くは1930 年代からインナーシティは衰退し「逆都市化」が始まり,70 年代以降スラム化していった。80 年代,サッチャー政権はロンドン・ドックランズなどの「再都市化」を企てた。しかし,英国病は根深く容易には立ち直れなかったが,成果は21 世紀に現れ,リバプールのインナーシティなどが見違えるように再生した。
本書は,都市計画を,物的計画とデザインあるいは科学と芸術の両面から描いている。そこには,誤った技術主義,市民参加,都市の封じ込め,サーキュラーエコノミー,サッチャリズム,レギュレーション論,モダニズムとポストモダニズム,社会的不平等と機会均等,地球規模の生態学的危機と持続可能な発展,等々,時代思潮と登場してきた理論を対比しながら,かかわった人の思想を織り込んで描かれている。
ナイジェル・テイラーの卓越した才能により,戦後英国の都市計画が時空間で浮かび上がり,佐藤洋平らの深い理解に基づく日本語訳により,本翻訳書は第一級の教科書となった。現代日本は,経済の長期停滞と社会の閉塞感が漂い,80 年代の英国と酷似する。英国が時代の現象を見つめて予見し,新たな計画概念と理論を繰り出してきた蓄積が日本にあるか?本書は,学生はもとより,教員がこの時代の潮流と計画理論の大きな流れをまず理解して教育に当たり,また都市計画実務者が実践の拠り所とすべき必読のバイブルである。
紹介:東海学園大学 卓越教授 林良嗣
(都市計画372号 2025年1月15日発行)