企画調査委員会

名著探訪

新しい都市デザイン(An Introduction to Urban Design):アメリカにおける実践

Jonathan Barnett 著/倉田直道・倉田洋子訳

集文社/1985年

 この本は,私にとって,建設省(現:国土交通省)都市計画課のスタッフとして容積率インセンティブ制度の運用改善の仕事をする上で,大きな示唆を与えてくれた。特に,この本を読んでいたからこそ,と思い出すのが,1997年暮れに東京中央区銀座地区のためほぼ独りで起草した「機能更新型高度利用地区の創設について」という建設省通達だ。
 本の内容は,主に1970年代におけるアメリカ諸都市の都市計画の展開を考察したものである。私が仕事の面で特に影響を受けたのは,ニューヨーク市の特別ゾーニング地区のパートだった。そこでは,劇場地区に始まり,リンカーンスクエア,五番街,グリニッジストリート,ロウアー・マンハッタンまで,特別地区の指定に至る経緯と市の都市計画委員会の考え方,および筆者の評価が小気味よく語られている。
 私事の思い出で恐縮だが,1997年秋に政府の緊急経済対策の検討が開始され,いきなり尾身幸次経済企画庁長官(当時)から容積率不適格状態にあった銀座資生堂ビルの建替えについて,空地やセットバックなしで容積率割増しを認めよとの指示が来た。発信源は,吉田不曇さん(当時中央区都市計画課長)だった。この要求に建設省幹部たちは困惑し「空地なしで容積率割増しなんて出来ないよな」と言ったが,当時課長補佐だった私は即座に「方法はあります」と答えた。この本を読んでいたおかげである。
 その方法とは,オフィス床を減らす替わりに商業床をそれ以上に増やすという容積率特例である。容積率は,建物群がインフラに及ぼす交通負荷の抑制が規制の根拠になっている。交通の混雑は,同じ時刻に同じ場所に集中するからなので,建物床に起因する交通発生を時間帯で分散できれば,混雑は緩和できる。東京都心のクリティカルな混雑は朝ラッシュ時の事務所通勤者によるもので,商店によるものではない。だからオフィス床を減らすならば,商業床を増やしても,朝のラッシュに影響しないばかりか,むしろ緩和する。それどころか休日にはガラ空きの地下鉄の有効活用にもなる,という理屈だ。アイデアの元は,ニューヨーク市の劇場地区である。
 著者のジョナサン・バーネット氏は,実務家から大学教授になった都市デザインの専門家で,原著は1982年出版である。これを1985年という早い時期に翻訳出版してくださった倉田直道・洋子夫妻には本当に感謝している。

紹介:東京都市大学都市生活学部 明石達生

(都市計画374号 2025年5月15日発行)

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