企画調査委員会

名著探訪

ジェイコブズ対モーゼス: ニューヨーク都市計画をめぐる闘い

アンソニー・フリント 著/渡邉泰彦 訳

鹿島出版会/2011年

 約15 年前,疲弊する大阪を蘇生すべく広域インフラ強化や民間都市再生事業を進めていた頃に出会い,都市再生の意味を再考させられた一冊です。
 ニューヨークのマスタービルダーと称され,道路,橋梁,公園,公共住宅等によりNY 都市圏の近代化を率いたモーゼス。絶大な権限を持つ行政マンが50~60 年代に計画した①ワシントン広場公園を分断する道路,②グリニッジビレッジ都市再生,③ローワーマンハッタン・ハイウェイを,ジャーナリスト上りの子育て主婦ジェイコブズが撤回に追い込んだ闘いが描かれ,名著「アメリカ大都市の死と生」に繋がった彼女の都市哲学の形成プロセスがよくわかります。
 衰退する19 世紀都市NY の復活を期し,自動車社会の到来・交通渋滞,急激な人口増加・郊外化,中心部の貧困化・衰退などの課題解決のため,モダニズム的アプローチでスラムクリアランスも辞せず実行するモーゼスの組織的・計画論的な視点。一方,ジェイコブズの「ダウンタウンは人々のもの」という思想や「通りを見守る目」を推奨し都市の自己再生力を信じ,地域コミュニティ機能や路地・公園というヒューマンスケールの空間の大切さを説く視点。政治や金を動かしていくモーゼスに対して,住民やジャーナリズムを巻き込んで反対運動を行う彼女に寄り添って世論形成プロセスが描かれます。一見,開発か保全か,経済力目線か生活者目線か,大規模かヒューマンスケールか,行政のトップダウン型か住民主体のボトムアップ型かといった二律背反の論争に捉えられがちですが,時代・エリア・課題に応じて両者をどうバランスさせるのか,どう選択していくか,共通する価値は何か等を本書は改めて問いかけてくれます。
 人中心の居心地の良い公共空間へという現在の日本の方向性にも繋がる彼女の思想・言動は肯定的に,他方モーゼスは悪役に扱われますが,時代の落とし子として大胆に都市改造し,出来上がったインフラシステムが象徴する彼の長期・広域的な視点は見直される価値もあるのではないでしょうか。
 半世紀以上前の物語ですが,対照的な都市計画の視点や巧みな実行プロセスなど多角的にヒントを与えてくれますので,行政職員をはじめ学生,まちをつくる人々に是非お薦めの一冊です。

紹介:南海電気鉄道(株) 川田均

(都市計画375号 2025年7月15日発行)

一覧へ戻る