企画調査委員会

名著探訪

江戸の川・東京の川

鈴木 理生 著

日本放送出版協会(井上書院)/1978年(1989年再刊)

 私は,大学を卒業すると大宮市(現さいたま市)から練馬区石神井公園駅の近くに住まいを求め,社会人生活を始めた。休日には,近くの石神井池,三宝寺池,氷川神社,石神井城址などを散歩したものである。少し足を延ばすと善福寺池,井の頭池と水辺の公園があり,みな同じ地形で,武蔵野台地の谷頭にあふれ出した湧水が池となって,石神井川や善福寺川,神田川に流れ出している。
 三宝寺池や石神井池について書かれた資料に,池の水は1 週間程度ですべて入れ替わっているとあり,台地のくぼ地や端部に多くの湧水があることを知った。昭和30 年代から湧水が減少し,現在は,井戸ポンプにより地下水が供給されている。谷頭側の三宝寺池には,国の天然記念物に指定されている「三宝寺池沼沢植物群」にカキツバタやミツガシワ,コウホネなどがみられ,自然豊かな景観が展開している。
 こうしたときに,見つけた本がここで紹介する「江戸の川・東京の川」である。本書は,東京という都市を川の視点から,その成立,構造を詳しく紹介しており,江戸の都市計画を,川や水路を活用した「水のインフラ都市」と定義している。内容の多くは,東京の川と地形から江戸の拡大と湊,河岸について,歴史,文化,生活などを踏まえて解説している。
 本書で石神井川及び神田川は,荒川水系と位置づけられるが,江戸と東京の市街地を流れる東京の代表的な河川とされている。また,武蔵野台地については,古多摩川の洪水によって形成された武蔵野礫層の上部に厚く富士・箱根火山灰の関東ロームが堆積したものであり,雨水が浸透しやすいローム層下部の礫層に滞水し,この礫層が地表に露出した箇所に湧水がみられる。こうした湧水群と中小河川が江戸期から生活用水や農業用水として都市形成に大きな影響を与えてきたとされている。
 水辺の大規模公園や都市河川は,東京のまちを潤す水辺ネットワークとして,自然環境インフラとして重要な要素であり,都市再生や新たなまちづくりの原点となるものである。また,都市の水と緑の軸は,防災上の防火帯や避難地ともなり,レクリエーション,地域コミュニティの場として持続可能で魅力的な都市空間の基盤となるものと本書を通じて理解が深まった。

紹介:株式会社国際開発コンサルタンツ 芳賀稔

(都市計画379号 2026年3月15日発行)

一覧へ戻る