企画調査委員会

名著探訪

Local Planning: Contemporary Principles and Practice

Gary Hack, Eugénie L. Birch, Paul H. Sedway, Mitchell J. Silver(eds.)

International City/County Management Association(ICMA)/2009年

 本書は,地方自治体の行政運営を支援する国際的非営利団体であるInternational City County Management Association(ICMA)が,American Planning Association(APA)と連携して編纂した,都市計画実務の標準的テキストである。ICMAは1941年に最初の都市計画実務書を刊行して以来,いわゆる「Green Book」シリーズを長年発行し高い評価を得てきたが,本書はその系譜を継承しつつ,内容が大幅に刷新されている。全496ページに及ぶ構成で,American Institute of Certified Planners(AICP)資格を有するプランナーを含む90名超の専門家が執筆に参加している。計画史(Eugénie L. Birch),アーバンデザインJonathan Barnett,Gary Hack),ゾーニングの判例・法制度(Jerold Kayden,Daniel Mandelker),防災(Robert Olshansky)など,日本でも知られた第一線の専門家が名を連らね,アメリカ都市計画の歴史的・制度的背景から最新の計画課題と手法までを広く概観できる点で有用性は高い。Peter Hallによる“Top Ten Planning Ideas” を拾い読みするだけでも示唆に富む。
 しかし本書の意義は,Donald Schön のいう“theories in use” に焦点を当てるとともに,全てのプランナーが共有すべきとされている内容が一冊に凝縮されている点にこそある。APA のホームページではAICP資格試験準備の必須書とされ,自治体のplanning commission やboards のメンバー向けの参考書ともみなされている。APA会長によるAICPのCode of Ethics and Professional Conductの解説が収録されている点も重要である。
 私は本書に触れるたび,ある記憶が蘇る。渡辺俊一先生とかつて論考註)を共著した際に,何度となく長時間の電話を通じて議論を重ねていたときの,職能論をめぐる渡辺先生の熱量についての強い印象である。「都市計画の固有領域もプロフェッションも成立していない」「都市計画の技術・行政に総合的責任を負う体制が不在」である日本に対し,アメリカでは「都市計画の専門技術の固有領域が確立している」「教育訓練を受けた専門家が,共通の知識体系や資格,自己規律,価値観を共有している」という点の議論であった。
 私にとってとりわけ印象的なのは,本書の中でMitchell J. Silver がplannerをdoctorであり,detectiveであり,evangelistであると表現している点,さらに“Local planning is about the uniqueness of a place: not just its physical appearance, but its social fabric, its cultural identity─its soul.” と述べている点である。
 アメリカ都市計画の専門家が共有する知識,理念,価値観に関心をもつ者にとって,本書は格好の入門書と言えるだろう。

註) 渡辺俊一・有田智一(2010)「都市計画の制度改革と『都市法学』への期待」,『社會科學研究』61(3-4),pp.161-205,東京大学社会科学研究所

紹介:筑波大学システム情報系社会工学域 教授 有田智一

(都市計画380号 2026年5月15日発行)

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