企画調査委員会

プロジェッティスタの控えめな創造力 イタリアンデザインの静かな革命
慶應義塾大学出版会/2024年
プロジェッティスタとは職業としてのデザイナーが確立されていく戦後イタリアの中で,暮らしに寄り添い,人間的なクリエーションに心血を注いだ人々の呼称である。イタリアンデザインの父祖と言える彼ら(ブルーノ・ムナーリ,アキッレ・カスティリオーニ,エンツォ・マーリ)は,「控えめな創造力」を手がかりに,対象を観察し,どのように介入することが可能かを細心の注意を持って創造する。彼らは,早急に結果だけを出すのではなく,プロセスを正しく,美しい形で時間をかけて辿ることに重点を置いた。著者は,個人レベルでも集団レベルでも,本来創造力とは,「環境」と「人間」と「技術」という三者が調和をもって発揮される能力として想定できるものだったと言い,産業革命以降,「技術」だけが異様に強大化し,三者間のバランスは失われ,「技術」が人間を抑圧,調教し,自然を搾取するというのが,現代の歴史を生み出す創造力のモデルになっていると断じる。
そして,こうした中で登場した,痛み傷ついた地球,社会,そして個々の人間の精神を積極的に癒やし,またその原因になっている文明の創造力を修復しようとする人々が多くの分野に現れたことに着目する。彼らはいずれも,それまであまり見かけたこともなかった職能を身に付け,伝統的な職能においても,それまでの時代には考慮されていなかった新たな使命と方法論を持ってアプローチする人たちである。著者は,彼らを「優しき生の耕人たち」と呼ぶ。それはまさに現代の「プロジェッティスタ」と言える存在である。
その中には,人間が自分の美学を植物に押し付ける伝統的な造園術とは対象的に,植物自身の創造力を活かし,それを人間の創造力がサポートするという,革新的な造園術「動いている庭」を開発したジル・クレマンも取り上げられている。クレマンの「動いている庭」は,植物の創造力を主役に受け入れることで,実は見えている地上の部分だけではなく,普段は見えない土の中の状態と調和することが重要だという認識を私たちに与える。可視/不可視という区別を持つ二元論的思考を解消し,認識の地平が拡張される。こうして,人間とその他の間に仕切りを入れない,非二元論的な視野のもと,すべてを隔てなく捉えることで「多様性」の概念も生まれたと著者は語る。
改めて「控えめな創造力」という姿勢とは,対象となる物質や人に対して己の意志や創造力を押し付けず,むしろ,今そこにあるものの本性,素質を引き出し,開花させるべく育てていくことなのである。今,これからの都市計画の研究,教育,実践に関わる私たちの姿勢を治癒してくれる名著であり,ぜひお勧めしたい一冊である。
紹介:一般社団法人新渡戸遠友リビングラボ 理事長 小篠隆生
(都市計画381号 2026年7月15日発行)