企画調査委員会

寄贈図書レビュー

 日立製作所と東京大学の産学連携事業である日立東大ラボがスマートシティについてのアーキテクチャ(つくり上げる術や構築する方法)とそのためのキーファクターを6 つに整理しているものである。キーファクターは,社会的な受容,データガバナンス,生活者参画,スマートシティQoL 評価,人材育成,データエコシステムであり,それぞれについて事例を取り入れつつ説明が行われる。例えば,柏の葉スマートシティでのリビングラボの実践例が紹介され
ている。Society 5.0 及びスマートシティの概念を,再度振り返り,整理して理解するための一助となる書籍である。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

Society5.0 のアーキテクチャ:人中心で持続可能なスマートシティのキーファクター

日立東大ラボ 編著/日経BP・日本経済新聞出版/2023年12月

 こども主体のまちづくりの先進都市である高知市についてまとめられた書籍であり,大きく2 つの取り組みが紹介される。一つはこどもたちの提案をこどもたちが審査し,助成の是非を決定する「こうちこどもファンド」,もう一つはこどもたちが自分で選んだ仕事をし,ルール自体も変えていくことが可能な架空のまち「とさっ子タウン」事業。特に前者は,「意見表明権」より上位の「提案権」「決定権」を保証する仕組みで,「形だけ」,「お飾り」にとどまらない真の意味での参加を実現しており,地域の次世代を担うリーダーとなるきっかけを与える手法として大いに期待できる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

こどもまちづくりファンド:ミュンヘンから高知へ

卯月盛夫・畠中洋行 編著/萌文社/2023年11月

 本書は,ニューヨークにおけるパブリックスペース・ムーブメントについて,公共空間そのものの改変だけでなく,ムーブメントを支える制度やしくみ,人材や体制について整理している。また,公共空間の再構築によって,都市のガバナンスを変革しているものや都市の可能性や魅力を最大限に引き出しているもの,都市のレジリエンスやサステイナビリティと深く関係する取組となっているものなど多くの事例を紹介している。パブリックスペース・ムーブメン
トの先に,公共空間の意義を再考するとともに,日本の都市はどのように進んでいくべきか考えるきっかけを与えてくれる一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

ニューヨークのパブリックスペース・ムーブメ ント:公共空間からの都市改革

中島直人 編著/学芸出版社/2024年01月

 筆者は,コミュニティ・アセットとは,空き家や空き地・遊休不動産を活用し,公共的な役割を担いつつ自立性・持続性のある活動を行えるような,コミュニティ再生/活性化の拠点となるアセットのことを指すとし,今後の日本の地域再生に貢献する仕組みのひとつだとしている。
 本書では,アメリカやイギリスでのアセットを活用した再生事例をはじめ,日本における民間主導もしくは民間と公共が連携した「新しい公共性」に基づいた既存のストック施設の再生・活性化の事例について紹介している。遊休不動産等の再生・活用や地域再生に興味のある方にお薦めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

コミュニティ・アセットによる地域再生:空き家や遊休地の活用術

田島則行/鹿島出版会/2023年09月

 本書は,「東京一極集中の裏面で地域社会は,ますます自主性と自信を喪失し,持続可能性が危うくなっている。しかし,瀬戸内国際芸術祭は,そうした時流に抗って善戦している。」との見立てのもと,なぜそのような力を発揮しているのかを様々な関係者への聞き取り調査などに基づき検証している。経済や政治,文化に対峙し鑑賞者に歴史認識を問う現代アートの性質が,瀬戸内の豊かな歴史を再認識させ,地域の人々の自主性と自信の回復に役立っている。
 「長い時間をかけて育まれてきたものを,視点を変えてとらえ直す」アプローチは,他のエリアにおいても大いに参考になると思う。地域創生必読の書。

紹介:企画調査前担当理事 田中敏行

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

瀬戸内国際芸術祭と地域創生:現代アートと交流がひらく未来

狹間惠三子/学芸出版社/2023年11月

 本書は,公営住宅建て替えに伴うまちづくり,駅前道路空間を活用したマーケット,高齢者の健康づくりで,公共と市民,筆者が所属する公民連携まちづくり事業会社がどのような役割を担い事業を進めてきたことが紹介されている。「公共サービス」の「質」が最も高まるのは,「経費削減」と「税収増」がセットで相互に作用している時,また,行政が経費をかける「時間」は事業を始める前,「内容」は事業費そのものではなく人材育成やビジョンづくり,マスタープラン作成など,事業の準備に関わるものが重要であると書かれている。今後の公民連携のまちづくりを考える一助となるといえる。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

公民連携エージェント:「まち」と「まちを使う人」を元気にする仕事

入江智子/学芸出版社/2023年02月

 タイトルから都市計画とあまり関係ない書物かと思われるが,ある目的をもって物事に対処し,納得したり解決策を見つけたりするための技術としてのモデル分析にさまざまな角度から焦点を当て,それをうまく役立てるための方法をわかりやすく解説している。定量的モデルと定性的モデル,マクロモデルとミクロモデル,普遍性を追求するモデルと個体を把握するモデル,静的・動的モデルというモデルの切り分け方で説明している。さらに一般の読者の方に配慮して数式は一切用いておらず,特に文系と理系の境界をまたいで方法論や概念を学べる。モデル分析の思考法とは何かを学ぶにはよい一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

思考の方法学

栗田治/講談社/2023年09月

 子ども時代,「外遊び」で身近な都市空間を使いこなした記憶がある人も多いのではないだろうか。本書は,地域で子どもが育つために重要な〈社会関係資本〉の再構築のための108 パタンの型録(ルビ:カタログ)である。C. アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』を参考に,子供の育つ「場所」の空間形態に応じたパタンが,挿し絵と文章に事例の写真等が添えられて表現されている。型録の内容は,専門家に限らず多世代の人々が気軽に理解できる内容
と表現になっており,身近な場づくりからWS などの実践の現場まで,子どもを核としたまちづくりの提案に活用が期待される一冊である。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

子どもまちづくり型録

木下勇・寺田光成 編著/鹿島出版会

 2015 年度からスタートしたトヨタ自動車と筑波大学社会工学域との共同研究,そこで蓄積された知見が9 つの章でとりまとめられている。医療アクセシビリティ評価やシェアリングシステムの最適化,重伝建地区の自動車保有,データ共有のジレンマなどの多様なテーマが示す通り,学際的な研究体制をベースとした多角的な分析がなされている。未来のデジタル社会を見据えた実践的な内容は研究者・実務者の双方にとって参考になるほか,異なる研究者によ
る着眼点の差を知ることも興味深い。変革期にある自動車と社会の新しい関係性の追求,という壮大なテーマを一歩ずつ進めるにあたってなすべきことが示された一冊である。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

スマートモビリティ時代の地域とクルマ:社会工学アプローチによる課題解決

大澤義明 編著/学芸出版社/2023年09月

 本書では大阪圏の過去のプロジェクトの検証結果を基に,都市計画において必要な視点が論じられている。およそ半分の頁数が割かれた第2 章第2 節では,現在の大阪の姿がいかにしてつくられたかが12の観点で示されているが,個人や組織の影響,当時の議論も含めて記載されている点が特徴的である。終章では都市計画に携わってきた実務者としての視点がまとめられており,国と地方公共団体,土木と建築などの境界に関する論点について,過去のエピソードも含めて率直に記載されている。余話として記された阪神高速大阪湾岸線の車線数決定の経緯等も含め,関西の過去について面白く学べる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

大阪・関西からつくる日本型都市計画:先人に学び,次代を拓く

平峯悠 著編/地域デザイン研究会/2023年05月

 都市計画やまちづくりに関する言葉は,生み出されては流行になり,時が経つと使われなくなったりと,常に変化し続けており最新の情報を把握するのは難しい。本書は書名通り事典ではあるが,現代の都市に係わるキーワードをバランスよく24 のテーマに分類して整理されており,テーマで取り上げられている内容を読む事で,その単語にまつわるトレンドや他の
キーワードとの関係が掴めるようになっている。キーワードの説明は,押さえておくべき情報が整理されているので,本書を入口にその言葉とそれにまつわる事象を勉強する機会づくりになる内容と思われる。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

都市を学ぶ人のためのキーワード事典:これからを見通すテーマ24

饗庭伸 編著/学芸出版社/2023年09月

 空き店舗の増加,ネットショッピングの台頭など,商店街は多くの課題に直面している。そんな中,北九州市の魚町商店街は,独自の取り組みを通して再生を遂げ,リノベーションまちづくりの聖地とも呼ばれる。本書では,商店街の「大家」として魚町の再生をリードしてきた著者自身の手で,「リノベーションまちづくり」「エリアマネジメント事業」「SDGs商店街宣言」の手法と経緯が詳細に解説され,商店街が生き残るための方向性と方策が照らし出される。現場の人間模様や苦労話などの生々しいエピソードも満載で,思わず引き込まれる一冊。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

滅びない商店街のつくりかた:リノベーション まちづくり・エリアマネジメント・SDGs

梯輝元/学芸出版社/2022年06月

 本書は,およそ100 年前に今和次郎が提唱した「考現学」(社会現象を調査・研究し,世相を分析する学問)を引き合いに出しながら,現在の消費経済の中で目まぐるしく変化するまちの姿を観察し記録する方法について述べられている。観察対象は①まちの人②まちの表情③ショップの動き④ストリート性格⑤まちの構造の5 分野を扱い,様々な観察視点と調査結果が紹介されている。その内容は多岐に亘っており,まちの観察に取組む人々にとっては良い参考になると思われる。目の前の風景をただ眺めるだけでなく,「観察」という行為に高めることで,まち歩きは発見に満ち面白くなることを示唆してくれている。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

都市感覚を鍛える観察学入門:まちを読み解き,まちをつくる

平本一雄・末繁雄一/晶文社/2023年07月

 本書はパブリックスペースに関する情報を整理した3 章の構成からなる手引書である。パブリックスペースが多様な分野につながることを示し,その意義を論じた1 章に続き,2 章では空間タイプ(公園・広場・道路など)別のパブリックスペースの歴史的変遷が年表形式で一覧整理され,現在の多様なムーブメントに至る流れが理解しやすくなっている。また3 章では体系化された全60 の制度・プログラムが,具体のケーススタディ・図解と共に示される。タイトルの通り事典としても使用可能である一方,実践的なノウハウも多く詰め込まれており,幅広い読者にとって活用が可能な一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画370号 2024年9月15日発行)

パブリックスペース活用事典:図公共空間を使いこなすための制度とルール

泉山塁威・宋俊煥・大藪善久・矢野拓洋・林匡宏・村上早紀子・ソト ノバ・パブリックスペース活用学研究会 編著/学芸出版社/2023年12月

 東京市政調査会とその後身である東京都市研究所の創立100 周年にあわせて刊行された本書は,16 編の論文で構成される。二部構成となっており,前半では地方自治と都市の行財政システムについて,地方自治の概念,関連制度,制度の運用等を政治学,行政学,法学,財政学の専門家が解説している。後半は都市の動態と都市政策,現在の都市が抱える状況を工学,経済学,社会学等の専門家が議論している。それぞれの論文を読みながら他の論文も参照することで,都市の諸課題への対処について思考を深化させることができる。都市について深く考える機会を与えてくれる良書である。

紹介:企画調査委員長 村上暁信

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

都市の変容と自治の展望:公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 創立100周年記念論文集

後藤・安田記念東京都市研究所 編/後藤・安田記念東京都市研究所/2022年3月

 中堅・若手の地理学者による都市百選(第一集)。それぞれの著者が各都市について地理学的な見方・考え方を用いて,その魅力や特徴を掘り下げている。取り上げられている都市や内容について,著者間で共有されているコンセプトはほとんど無い。必ずしも学術的ではないが,押し並べて,酒造などの産業や景観,商店街や消費文化など,人々の営みから都市の成り立ちや魅力が語られており,行ったことのない都市でも特色や雰囲気を感じ取ることができる。テーマの掘り下げ方によっては,地方都市の活性化を考えるうえでのヒントがあると思う。一読を薦める。

紹介:企画調査担当理事 田中敏行

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

日本の都市百選 第1集

牛垣雄矢・稲垣稜・小原丈明・駒木伸比古・西山弘泰・山口晋/古今書院/2023年11月

 武蔵野市の環境・緑の歴史を読み解くことのできる一冊である。戦後,都心部や地方から多くの人々が居住地を求めて,武蔵野市(特に吉祥寺界隈)に移動してきたことから,話は始まる。今では,当たり前ともいえる,長期計画を中心とした市民参加型の計画的市政運営に関するシステム「武蔵野市方式」による吉祥寺駅・三鷹駅北口・武蔵境駅の再開発,玉川上水など武蔵野市内の水と緑と公園の歴史と,著者による「美味しい水を求め,きれいな緑環境を守り,災害などに強い公的空間の管理」の取り組みが整理されており,環境・緑のまちづくりの副読本として手元に置きたい一冊になっている。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

第2のふるさと 武蔵野のエコランドスケープ70年:美しい緑と美味しい水の保全

田畑貞壽/ぶんしん出版/2023年08月

 本書は,都市内交通手段としての自転車活用について,海外事例の紹介と,日本国内の状況把握や提案から構成される。まず,自転車利用が日常に溶け込んだデンマークやオランダ,自動車産業が盛んで車社会のドイツ,公共交通の利便性が必ずしも高くない米国ニューヨークなどが紹介され,国・都市ごとに異なる事情や経緯を概観する。次に,日本は世界的に高水準の自転車分担率を持つことを紹介しつつ,占有化された自転車レーンがないままの車道走行推奨など走行環境の貧弱さを指摘する。熱心な市民活動とビジョンを持った行政が連携し,環境を整えることが自転車まちづくりに重要だと述べられている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

世界に学ぶ自転車都市のつくりかた:人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン

宮田浩介 編著/学芸出版社/2023年11月

 2020 年に始動した「岡山・空き家を生まないプロジェクト」で提案・実践された,「空き家を生まないコミュニケーションアプローチ」。モビリティ・マネジメントの手法を援用した本アプローチのノウハウが本書では示される。アプローチの詳細を示した2章では,一般的な方法論が見開き左ページに,岡山で実践した具体的な方法が見開き右ページに配されており,読み手の理解を助けてくれる。なぜ空き家になる前の対策が必要かをエビデンスと共に示した
1 章,全国の先進事例を示した3 章と併せて読むことで,具体の対策を実践するうえで必要なより幅広い情報も得ることができる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

空き家になる前の空き家対策: 所有者とともにまちを変える方法

氏原岳人・石田信治・織田恭平/学芸出版社/2023年08月

 食品生産では乾燥や熟成などの過程が必要であり,生産者は気候や地形を利用して行ってきた。本書はその生産過程における乾燥場や熟成小屋などの建築に着目している。国内外の16 の生産地の栽培から加工までの建築が詳細なアイソメやバレーセクションを利用した図解と豊富なカラー写真によって紹介されている。図の中には乾燥のために必要な風や水,熱の流れが書き込まれており,風土と建築の関係性がわかりやすく説明される。地域の風土がその土地の食に結びついていること,そして,食が地域の風景をつくっていることを再認識する一冊である。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

Foodscape フードスケープ: 図解 食がつくる建築と風景

正田智樹/学芸出版社/2023年10月

 本書の帯には「なぜ中山間地の人たちばかりがんばらなくてはならないのか?」と書かれている。本書は農村のみならず,背景にある都市と農村の間の社会システムに着目している。著者が取り組んできた石積みや農業生産などを具体例として挙げながら,制度やその背景にある都市との関係性が説明される。結論として都市と農村の幸せな関係を作るために複数の提言が行われている。例えば,環境や社会のことを考えて日々のごはんを食べる「風景をつくるごはん」の実践である。今日のご飯からはじめてみようとなる書籍である。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画368号 2024年5月15日発行)

風景をつくるごはん: 都市と農村の真に幸せな関係とは

真田純子/農山漁村文化協会/2023年10月

 本書は,日本でも注目されている「ウォーカブルシティ」提唱の第一人者であるジェフ・スペックの訳本である。タイトルに入門とあるようにウォーカビリティ(歩行可能性)の重要性から,それを実現するための考え方が10ステップで整理されている。10ステップも利便性の高い歩行,安全な歩行,快適な歩行,楽しい歩行と大きくまとめられており読みやすい。訳者解題は,わが国の流れを踏まえた解説となっており内容の理解を助けてくれており,ウォーカブルシティを考えたい方の入門書,都市計画の基礎を学習した方の副読本としてお薦めする。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

ウォーカブルシティ入門:10のステップでつくる歩きたくなるまちなか

ジェフ・スペック 著、松浦健治郎 監訳/学芸出版社 /2022年9月

 本書は都市農業の実態について,様々な統計資料や空間データからその特徴を定量的に論じているのが特徴である。例えば,農業センサスとDIDの空間データを組み合わせ,DIDからの距離別,地域の人口密度別に農業経営体の規模を整理している。ここでは,2019年に公開された農地形状を表す筆ポリゴンのデータを用いて,詳細な空間特性に基づく分析が展開されている。また,中盤では営農者へのアンケートと先の定量データを用いて,農業経営の継続性について検証するとともに,終盤では事例研究を取り上げている。都市農業の継続性やそれに関する課題を様々な視点から議論している一冊である。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

都市農業の持続可能性

八木洋憲・吉田真悟 編著/日本経済評論社/2023年7月

 一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団は,1992年設立時から市民の自発的なまちづくり活動をする団体への支援をおこない,2017年より住宅政策との連携が強化された「住まい活動助成事業」をおこなっている。本書は,これらの支援事業を対象に,住まいまちづくり活動の理論化を図り,助成を受けた15団体がおこなった市民主体の地域づくりを詳細にまとめてノウハウ共有をしている。理論化では,まちづくりの主体となる組織,活動資金の調達方法,いろいろな組織の取り組みなどが詳細にまとめられており,空き家再生などからまちづくりを試みてみたい学生や若い実務者の活動の参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

市民がまちを育む:現場に学ぶ「住まいまちづくり」

大月敏雄・ハウジングアンドコミュニティ財団 編著/建築資料研究社/2022年9月

 本書は,自動運転レベル4に関して,法学者である筆者が,主に法的な観点から論じた書籍である。無人運転も可能なレベル4を許可する道路交通法の改正は2023年4月1日から施行されている。しかしながら,無人運転車が事故を起こした際に,法的な責任を負うのは誰なのか,その所在をどのように明らかにするかなどは,未だ共通認識が形成されているとは言えない。そのような課題に対して,先行国での事例の紹介をしながら,我が国における社会的受容性を形成する方策などについても述べられている。都市計画の概念を変えかねない自動運転に関する知識を深めたい方にお薦めしたい。

紹介:前企画調査担当理事 千葉孝之

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

自動運転レベル4:どうしたら社会に受け入れられるか

樋笠尭士/学芸出版社/2023年3月

 本書は,新たなロジスティクスであるソーシャル・ロジスティクスを,身近な生活と安全安心に絞りまとめている。ソーシャル・ロジスティクスとは,「民間部門と公共部門の協調のもとで,採算性を確保しながら,社会的価値を追求するロジスティクス」であり現代社会に必要なロジスティクスである。ロジスティクスの変遷,ロジスティクスの再考,新しいロジスティクスの誕生と3部構成でわかりやすい図表と文でまとめられており,ロジスティクスの歴史やロジスティクスを体系的に学びたい人,都市計画の実務者まで多くの人にお薦めする一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

ソーシャル・ロジスティクス:社会を,創り・育み・支える物流

苦瀬博仁/白桃書房/2022年3月

 本書は,建築家である筆者による大規模開発のグランドレベルのデザインへの批評と解説である。第1部では東京の150余りの事例について,写真を豊富に使いながら批評を加えている。第2部では,大規模開発における建築と街の関係について,構成要素,観点を整理したうえで,デザインの歴史も踏まえて解説をしている。写真やスケッチにより,視覚的に理解を深めることができる。また,物理的な空間構成だけではなく,そこを訪れる人の活動などにも言及されており,建築設計,都市デザインを学ぶ方には非常に参考になる書籍として推薦したい。

紹介:前企画調査担当理事 千葉孝之

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

東京・再開発ガイド:街とつながるグラウンドレベルのデザイン

大江新/学芸出版社/2023年1月

 本書は複数の研究者による論文によって,東京を中心とした首都圏形成の空間変容の過程を明らかにしていく。各論文の対象とする自治体は異なるが,主に戦後の自治体再編や国が作成する首都圏基本計画との関係に着目がなされる。さらに本書では政治面にも言及が行われている。自治体の首長選挙や国会との関係性を取り上げ,首都圏の拡大と開発の力学を描いている。
 先日,2050 年まで人口増加が続くのは東京都のみという推計結果が出された。これからも続くであろう東京一極集中への対応策や分散策としての首都圏の整備にも触れられており,今後の都市計画及び国土計画の参考となる書籍である。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

首都圏形成の戦後史:計画・開発と自治体

松本洋幸・大西比呂志 編著/日本経済評論社/2023年3月

 文化遺産を活用することで資金を得つつ,その価値を後世に伝えまちを元気にする「文化遺産経営」について,理論と事例を整理した一冊である。冒頭では文化遺産経営とはいかなるものかについて,遺産を巡る政策展開の歴史的経緯を踏まえながら理論的に分析している。続く事例編では全国の文化遺産経営の現場を取り上げ,実践と工夫,課題,改善方法などを紹介するなかで,事業プロデュースの手法,実行組織のマネジメント,人材育成等の多角的観点から,文化遺産経営の現状と将来像を浮かびあがらせている。専門家のみならず,文化芸術を愛する市民や学生にも一読を勧めたい。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

ヘリテージマネジメント:地域を変える文化遺産の活かし方

松本茂章 編著/学芸出版社/2022年5月

 美食学や料理法とも訳されるgastronomyではあるが,ここでは文化や伝統,アイデンティティまで反映する概念として紹介されている。本書はフードツーリズムの誕生に始まり,日本・欧米におけるガストロノミーツーリズムの発展及びその意義について,国内外の最新の事例と共にまとめられている。世界で61都市が認定されているガストロノミー都市において,日本での認定は山形県鶴岡市と大分県臼杵市の2都市のみである。日本料理がもつポテンシャルに鑑みると,観光関連産業だけでなく農水産業や六次産業化も含め,これからの観光振興・地域づくりに大いに寄与することが期待され,そのヒントを与えてくれる一冊である。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画366号 2024年1月15日発行)

ガストロノミーツーリズム:食文化と観光地域づくり

尾家建生・高田剛司・杉山尚美/学芸出版社/2023年7月

 時刻表の厚みは公共交通網の充実ぶりを反映する。しかし,公共交通を取り巻く状況は近年ますます厳しさを増している。公共交通をなるべく利用しようとしている著者ですら「利用してほしくないのか」と感じるような現状を批判的に指摘すると同時に,「沿線の人口や高校生人口の減少率よりローカル線利用者の減少率が大きい」「公共交通が環境負荷の面で自動車よりも優位なのは一定規模の利用がある場合である」「公共交通に対する補助と比較すると非常に大きな予算が道路整備に使われている」「鉄道貨物のシェアは全体だと小さく見えるが拠点間の大量輸送では一定の役割を担っている」など,公共交通の現状を示すデータを提示している。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画366号 2024年1月15日発行)

時刻表が薄くなる日

上岡直見/緑風出版/2023年5月

 フランスではパリを中心に多くの都市で15分都市構想を基本とした歩行者優先の都市づくりが約10年の短期間で実現している。本書では,その具体的方法論と社会的背景や政策の違いを事例を通して丁寧に説明されている。興味深いのは,日本では民間主体の開発が多く,行政は都市計画手続きのみに関与し,市民への説明は事業者が行うことが多いのに対して,フランスでは開発には行政の構想が伴い,行政が責任を持って市民の合意形成を実施している点である。フランスのウォーカブルシティ実現は,住民と行政が価値観を共有しながら一体となって共に取り組んできた結果であることを本書は教えてくれる。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画366号 2024年1月15日発行)

フランスのウォーカブルシティ:歩きたくなる都市のデザイン

ヴァンソン 藤井 由実/学芸出版社/2023年5月

 日本建築学会の「地域文脈」に関する議論を継続してきた小委員会が執筆した本書は,従来の「地域文脈論」の論理では解けない課題を分析し,解決の糸口を見出しうる新たな論理的な枠組みを示している。第Ⅰ部では先人たちによる「地域文脈論」の再評価,第Ⅱ部と第Ⅲ部では「地域文脈」の読解と定着のための新たな論理の構築,第Ⅳ部では都市の現代的課題の戦略的地域文脈デザインの方向性を提示している。19世紀後半以降の近代における計画思想や理論から,東京2020オリンピック・新国立競技場,筑波研究学園都市,福島原発事故被災地等の事例を「地域文脈」の視点から整理し,未来を展望するための手がかりが得られる図書となっている。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画366号 2024年1月15日発行)

地域文脈デザイン:まちの過去・現在・未来をつなぐ思考と方法

日本建築学会 編/鹿島出版会/2022年11月

 本書は日本造園学会に設置された研究会の成果を取りまとめたものである。2017年のPark-PFI制度の導入をきっかけとして公園のリノベーションが注目されている。そして,リノベーションをきっかけとした周辺の賑わい増加やエリアマネジメントの取り組みにも関心が広がってきている。公園のリノベーションというと洒落た飲食店や芝生広場が頭に浮かんでくるが,本書では小規模な公園での事例紹介や制度の解説,マネジメントのコツなど多様な観点から解説がなされる。公園のリノベーションだけにとどまらず,まちづくりへのヒントを得ることができる一冊である。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画366号 2024年1月15日発行)

生まれ変わる公園:公園リノベーションの指南書

平田富士男 編著/デザインエッグ/2023年7月

 土地の値段は面積や形状だけではなく周辺の環境も含めて決定されている。本書はその土地の値段について路線価図をもとに地形や再開発に触れながら読み解いていくものである。例えば,かつての川の跡や坂道など地形の変化によって通りが一本ずれることで価格が大きく異なっていることが明快に説明されている。さらに,路線価図とスポットごとの写真と説明文からなる「紙上再現!路線価図でまち歩き」も全国15か所分が収録されている。さっそく本書を片手にまちへ出かけてみてはいかがだろうか。読後にはまちの見方が変わっているはずである。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画366号 2024年1月15日発行)

路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく

中川寛子/学芸出版社/2023年5月

 本書は,著者の「地方都市圏の交通とまちづくり」(2009年出版)にSDGs,MaaS,CASE,スマート
シティ,脱炭素化,新型コロナウイルスといった最近のテーマを盛り込んで抜本的に改訂したものである。まずは,「誰ひとり取り残さない」ためにSDGs(環境,社会,居住,経済)の観点から交通の現状を明らかにし,次に,SDGs 達成のために必要なTDM・MM,コンパクト・プラス・ネットワーク,福祉交通に加え,地方都市圏における鉄道,LRT・BRT,バスなどを取り上げ,総合的な交通まちづくりを解説している。図表や写真が多く盛り込まれており,読みやすい内容となっている。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

SDGs時代の地方都市圏の交通まちづくり

辻本勝久/学芸出版社/2023年3月

 筆者は小さく属人的で新しいアイデアが詰まった仮設・実験的な都市空間を「ポップアーバニズム」と名付け,新しい人の集まり方,カルチャーが生まれる場として,世界の事例を紹介している。そしてこの動きは,環境意識の向上や過度なグローバル資本主義の見直しといった志向が徐々に認知され,経済的実行力を伴って社会転換を促しているものが背景にあると捉えている。ポップアーバニズムは,柔軟性と仮設性により都市の様々な状況にフィットし都市の欲求を受容する,パブリックスペース・ビルディングタイプであると唱え,新しい都市のありかた,それを実現するアプローチについてまとめている。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

POP URBANISM:屋台・マーケットがつくる都市

中村航/学芸出版社/2023年4月

 本書は,ネオリベラリズム都市政策により,大都市への一極集中と大都市内部での空間格差の拡大,全般的な地方の衰退と地方圏内における発展・衰退といった二極分化が深刻化しており,新たな国土・都市・住宅政策論の構築が必要だとしている。三部構成となっており,都市と国土で進行する社会格差の実相とインクルーシブな都市への転換のあり方や,国内及び海外の政策事例の実践動向や課題・展望について論じられている。拡大する社会格差の問題に対して,新自由主義的な都市・国土政策の限界やインクルーシブな都市の実現の必要性について考える上で参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

ネオリベラリズム都市と社会格差:インクルーシブな都市への転換をめざして

城所哲夫・瀬田史彦 編著/東信堂/2023年3月

 アール・デコの建築は,1918年の第一次世界大戦の終戦を起点に,1925年のパリでのアール・デコ博の開催を経て興隆を迎え,パリから地方都市まで幅広く建設されたが,その後,モダニズム建築への傾倒が進み,第二次世界大戦の開戦とともに終焉を迎える。本書は,この戦間期中心に,フランスで建設されたアール・デコの建築について,パリ,大西洋側の都市,地中海側の都市,戦災都市他,教会堂,記念建造物という国内の地域別にそれぞれの特徴を示して,どのように地方都市で受容されたかを明らかにしている。多くの建築を収集した丹念な調査により,アール・デコの由縁がわかる一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

アール・デコ:戦間期フランスの求めた近代建築

三田村哲哉 中央公論美術出版 504 頁/A5 判/¥6800/2023年2月

 本書は主に経済学の観点から,4部構成で地域活性化のための考察が展開される。第一部では関連する経済の理論が説明され,現代社会の状況が経済の視点から読み解かれる。第二部では,海外事例(デトロイトとトリノ)で空洞化した重厚長大型産業をどのように穴埋めして地域の活力を維持・復活させたかが述べられる。第三部では,京都・西陣での景観や生活文化の価値継承,京都・大阪府境の山崎・島本での保全と開発の事例が紹介される。筆者が言うように経済状況の変化に地域がどう反応したかは,経済状況が変わっても変わらない持続可能性を探るヒントとなるだろう。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

地域経済のリデザイン:生活者視点から捉えなおす

松永桂子/学芸出版社/2023年3月

 本書では政教分離政策により公的に活用され難い状況にある「祭祀の場」に着目し,実地調査を基にした現状と課題の把握を通じて,社会における役割を考察している。第一部では,鹿児島・八重山・奄美の祭祀空間の構成や配置,住民との関わりが詳細に記述され,地域の象徴としての意義と,継承の課題が示される。第二部では都市域に目を転じ,阪神地域の社寺の変容,東京都心の狭小神社,大阪市の路傍樹が紹介される。結びの第三部では,消失の危機にある祭祀の場を継承する解決策として,防災や生物多様性等,複数の観点からの選択肢が事例形式で紹介され,今後のあり方が取りまとめられる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

神宿る隣の自然:祭祀一体の緑から地域の健全な暮らし方を探る

上甫木昭春・押田佳子・上田萌子・大平和弘 編著/PHP エディターズ・グループ/2022年12月

 多くの地域で用いられる手法でありながら,画一的で無個性な空間を生んでしまうイメージが強い土地区画整理事業。本書は,その土地区画整理事業を通して,地域らしさを継承するまちづくりは可能か,を著者らが携わった東日本大震災の復興事業である大槌町町方・吉里吉里地区での実践をもとに論じたものである。区画整理という手法を用いながら,地域らしさを継承した2地区の復興デザインの実践からその可能性を示し,コミュニティのかたちに合わせた住民参画の重要性と,そこで作り上げた計画を現実の形にするプロセスを示している。復興にとどまらず,多くの地域で地域らしさを継承するために活用可能な知見が詰まった一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

コミュニティのかたちと復興区画整理:大槌町町方・吉里吉里の地域デザイン

福島秀哉 編著/鹿島出版会/2023年2月

 本書は,全国で行われている公民連携まちづくり事例の紹介,解説と関係者へのインタビューで構成
されている。事例は,①民間主導「PPP エージェント方式」,②公共・民間「リノベーション連携」,③「ローカル指向」公園活用,④「ウォーカブル指向」道路・広場再編に分類され,図表や写真を多用して,わかりやすく解説されている。さらに関係者へのインタビューを加えることにより,各事例においてポイントとなった点,今後類似の事例に取り組む際に留意すべき点などをより深く理解することができる。公民連携についての知識を広め,理解を深めたい方にお勧めしたい。

紹介:企画調査委員会前担当理事 千葉孝之

(都市計画365号 2023年11月15日発行)

公民連携まちづくり事例&解説:エリア再生のためのPPP

日経アーキテクチュア 編/日経BP/2022年11月

 内田秀五郎は,戦前に井荻町長(現在の東京都杉並区の一部),その後,東京府・都議会議員,都議会議長を務め,東京都の農業協同組合にも貢献した人物である。内田は町長時代に,888ha の全町におよぶ東京最大の「井荻土地区画整理事業」の実施や「善福寺風致地区」の保全に尽くした人物であり,東京都市計画物語(越沢明著)でも「東京の都市計画史上,特筆しなればならい」と評されている。本書は,内田秀五郎の農業組合,区画整理や政治での活動をまとめたものである。区画整理では,先行研究をもとに内田の井荻区画整理を構想した背景を探っており,当時の状況を知るのに参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

評伝内田秀五郎

寺下浩二/はこだて町並み資料館/2022年04月

 本書は,地域づくりの一環としての「観光まちづくり」の調査法入門書である。従来の調査法の解説書は,地域を見つめる手法について述べることを主眼としている。しかし,本書は,観光まちづくりにつながる地域の個性を明らかにするための調査法の概要を示す「地域を見つめる」に加え,明らかになった情報を地域に還流し,そうした情報を活かして,災害への備えも含む多様な視点による「地域を動かす」ための手段や方法も例示している。15 名の執筆者がそれぞれの経験をもとに,図表を多用し,具体的な事例を盛り込んでおり,初学者にも容易に理解できるような内容となっている。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

「観光まちづくり」のための地域の見方・調べ 方・考え方

國學院大學地域マネジメント研究センター 編/朝倉書店/2023年3月

 北欧諸国は,環境も経済もサステイナブルな都市を志向しており,様々な活動を行う市民とサービスを提供する行政,持続可能な成長を目指す企業,それぞれが共に理想の生活実現に向けた取組みを行っており,本書ではこれら北欧におけるスマートシティの社会的背景や特徴と,スマートシティの実装を支えるステークホルダーたちが共創する社会システムについて紹介されている。本書を通して北欧のスマートシティは,テクノロジー主導ではなく人々が望む都市の実現に向けてテクノロジーを活用しているのであり,人間中心の哲学が根付いていることが特徴となっている事が分かる。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

北欧のスマートシティ:テクノロジーを活用し たウェルビーイングな都市づくり

安岡美佳・ユリアン森江原ニールセン/学芸出版社/2022年12月

 本書は,1923 年の関東大震災の経験から,軍官民が一体になって空襲に備える「国民防空」への展開に至る経過を,300 点に及ぶ当時の防空書や資料をふまえ明らかにしたものである。関東大震災から軍や当局は何を学び,その経験をどう使ったかを考察し,国民防空の目的や適切な災害教訓の受け止め方を提起している。災害の原因や結果を社会が適切に把握して,次の施策に活かすために留意すべき事項が提示されており,過去の災害活用する側が恣意的に解釈する事態を防ぎ,被害や活動の実際や要因,そこからの教訓等を社会で共有認識にする重要性が示されている。今後,災害を学び検証を行う際には心がけたい内容が提示されている一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

資料にみる「関東大震災から国民防空への展 開」:災害教訓の使われ方を再考する

吉川仁/三省堂書店、創英社/2023年2月

 アーバンガーデニング・農的活用の場となる都市型農園について,「まちの隙間活用」と「コミュニティの課題解決」の二つの観点から整理,分析している。筆者自身による現地取材と寄稿を含め,国内外の豊富な事例が写真付きで掲載されており,各事例における都市型農園の多義的な機能が詳らかに紹介されている。どの例も魅力的で,都市に農を取り入れ,よりよいまちづくりへとつなげるための示唆に富む。都市型農園とは何か,そのなりたちから実際までコンサイスにまとまっており,文体も読みやすく,初学者にもお勧めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

まちを変える都市型農園: コミュニティを育む空き地活用

新保奈穂美/学芸出版社/2022年9月

 アメリカ国内の様々な具体事例を基に,都市が抱える社会課題を技術主導で解決しようとする態度(筆者はそうした態度を「テック・ゴーグル」と呼ぶ)が孕む危険性を指摘している。失敗事例だけでなく成功事例も多数紹介されており,巻末ではより住みやすく,民主的で,公正で,責任感があり,革新的な都市を創造するための5 つの重要な原則がまとめられている。効率が偏重される時代において,“意義ある非効率” についてその必要性が示唆されており,目を開かれる思いがした。知らず知らずのうちに「テック・ゴーグル」をかけていないか,自分自身を見つめなおすきっかけになる一冊である。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

スマート・イナフ・シティ: テクノロジーは都市の未来を取り戻すために

ベン・グリーン 著、中村健太郎・酒井康史 訳/人文書院/2022年8月

 本書はニューヨークのセントラルパークの設計を手掛けたフレデリック・ロー・オームステッドの生涯を描いた伝記である。オームステッドは農場主からキャリアをスタートしたものの,ヨーロッパ旅行記の執筆業や南北戦争中には公衆衛生にも携わっており多才な人物である。その後は数多くの自然公園や大学キャンパスのランドスケープ設計を行っている。時系列に彼の設計思想の背景となる教育や国外への旅行,戦争体験などが膨大な手紙や著作と共に読み解かれる。オームステッドの設計思想の一つである“ピープルズ・パーク(すべての人のための公園)” は現代においても通じるものであり,その由縁を知ることができる一冊である。

紹介:企画調査委員 土屋泰樹

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

オームステッド セントラルパークをつくった男: 時を経て明らかになる公共空間の価値

ヴィートールド・リブチンスキー 著、平松宏城 訳/学芸出版社/2022年12月

 受け身の貸舘運営ではなく,「コミュニケートする劇場」を目指すために公立文化施設(公共ホール)についての研究が体系的にまとめられている。本書は3 部に分かれている。歴史編では,戦前からの公立文化施設の変遷について図面や写真とともに詳細な説明がなされている。続く分析編では,これまで数多くの計画,建設,運営に関わった経験から,公立文化施設における費用等の課題について整理されている。以上を踏まえた未来創造編では,プログラム提供型機関「コミュニケートする劇場」を目指した提言がまとめられている。公立文化施設の運営者だけでなく,あらゆる施設や空間を運営・管理・設計をする人たちにとっても示唆に富む,読み応えのある書である。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画364号 2023年9月15日発行)

公立文化施設の未来を描く: 受動の場から提供主体への変貌に向けて

清水裕之/水曜社/2022年3月

 ウェルビーイングとモビリティサービスとは密接に関わっており,移動の工夫の取組みにより地域の課題が解決し,人々をウェルビーイングに導くことができる。本書では,モビリティサービスで地域課題に挑む先進事例を紹介するとともに,モビリティサービスの活用にあたって直面すると考えられる課題を示し,課題解決の取り組みの考え方や活用の際の8つのポイントを多くの具体的な事例を示しながら説明をしており,わかりやすい。さらに,それらをより活用しやすくなるような法制度等の改善の提案をしている。地域が抱える課題に対してモビリティサービスの活用を考えている方々が,取り組みを進める上で参考となる一冊といえる。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

ウェルビーイングを実現するスマートモビリ ティ:事例で読みとく地域課題の解決策

石田東生・宿利正史 編著/学芸出版社/2022年9月

 “万国博覧会のさまざまな側面に着眼し,掘り下げたその先に,19 世紀から今日に至る人類世界の歩みを捉えること” を目的とした万博学。その最新の研究成果を毎年発信する媒体として創刊された本書では,特集として『植民地なき世界の万博』が取り上げられ,戦後の万博と植民地との関係が考察されている。多様な人と人との間の幸せ(Well-being)がより希求される現在においては,これまでの歴史に学ぶ意義も,より深まっている。多様な領域の研究者により執筆されており,普段生活をしていくうえで薄れがちな側面に意識を向けさせてくれる一冊である。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

万博学 創刊号

佐野真由子 他 著・万博学研究会 編/思文閣出版/2022年12月

 本書では,「住まい・暮らし」の「あこがれ」について,10名の著者がそれぞれの分野の切り口から論じている。あこがれの形成要因は様々であるが,基本的には,発信者がおり,流行になる要因があり,様式・文化として残るにはさらなる要因があり,この繰り返しの積み重ねが,現在の「住まい・暮らし」に対する評価であることを多角的な視点から学ぶことができる。過去の経緯や他文化での変遷を知ることで,未来の「住まい・暮らし」を考えるきっかけ
になる。コロナ禍を経て急激に変化するイマだからこそ,特に重要な一冊であると感じたため,広く皆さんに推薦する。

紹介:企画調査委員 田井栄次郎

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

あこがれの住まいとカタチ

住総研「あこがれの住まいと暮らし」研究委員会 編/建築資料研究社/2022年12月

 本書では,都市について「集積の利益」すなわち「群れ」としての性質で語るだけでなく,匿名性や住居など「個」の要素にも着眼する。そして「個」を確かなものとするために「境界線」という概念が生じる。グローバリズムも同様で,世界全体が「群れ」としての利点を享受しながら,それぞれの地域や都市がアイデンティティという「個」を大切にいくための論点として,現在につながる歴史的な系譜を読み解くこと,他文化との比較を通じた自文化の特徴を理解することの重要性を説いていると理解できる。具体例では東京を取り上げ,江戸からのつながりやパリとの比較が紹介されるほか,中国大陸・朝鮮半島や南洋と日本文化との関連も考察されている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

共生の都市学

團紀彦/鹿島出版会/2022年12月

 車社会の負の側面を指摘した著名な論説であり,本誌名著探訪にも紹介された宇沢弘文著「自動車の社会的費用」が1974年に刊行されてから半世紀が経過したいま,改めて宇沢ほか先人の指摘を振り返るとともに,車に依存した社会の転換について現状を考察している。自動車と道路の推移状況,人々の住み方・動き方との関係,直接的かつ深刻に被害をもたらす交通事故の現状に加え,最近注目されている自動運転,電気自動車,MaaSなどの新しい技術が自動車の社会的費用の緩和・軽減に貢献しうるか,新型コロナが今後の交通や車社会にどのような影響を与えるかを考察しており,今後の交通を考える上で参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

自動車の社会的費用・再考

上岡直見/緑風出版/2022年5月

 本書は,東日本大震災発生後,陸前高田での復興事業を進めた当事者らが記述している。「ゼロからのまちづくり」とあるように,発災直後の混乱する中での復興計画の立案,復興計画の実現に向けた各種事業と大規模工事と前半は基盤整備の内容が続く。後半は,視点を商業再生に移し,基盤整備と商業再生の連携,将来に向けた魅力的な「まちなか」づくり,「面」で賑わいづくりを実現する姿を紹介している。全国各地で想定される様々な自然災害の復旧・復興の初期段階から主体的にまちづくりに参加してくことは,これからの災害からの復興では大切な視点である。復興まちづくりはもちろん,発災前からの課題解決の一助となる書籍である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

復興・陸前高田:ゼロからのまちづくり

中井検裕・長坂泰之・阿部勝・永山悟 編著/鹿島出版会/2022年3月

 本書は,進士五十八氏が福井県立大学長時代に,曹洞宗大本山永平寺の機関誌「傘松」に連載した「園林家十話」を改題,再編集したものである。福井,禅宗を主な舞台にしながら,「美しい風景の地域創造のための10の基本的視点」について述べている。その内容は,造園とは何かという原点から,歴史的な変遷,世界各国における造園の意味,農との関係,景観~風景~風土の関係性から人間の生死まで,幅広い視点から構成され,専門家ではない読者を対象とした分かりやすい文章となっている。造園に興味を持つ方が,広い視点から学ぶことができ,深い理解が得られる図書として推薦したい。

紹介:企画調査委員会担当理事 千葉孝之

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

進士五十八の風景美学

進士五十八 編著/マルモ出版/2019年9月

 自治体庁舎は,地方自治の要となる事務所として様々な行政サービスを提供するとともに,多様な政策が立案され,首長と議会が自治のあり方の議論を積み重ねていく大変重要な場である。一方で,日常ある意味目立たない存在であるが,改修・移転・新設等の際には,シンボルあるいはラドマークという面でたびたび物議を呼ぶ施設でもある。本書は,庁舎について,制度・政策・管理・財政等の面から様々な事例が整理されており,時代の変化とともに,シンボルやオフィスという存在以上に重層的な意味合いをもつものであると再認識することができる。行政関係者だけでなく広く住民を交えたこれからの庁舎のあり方を考える際に,参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

自治体庁舎の行政学

田村秀/溪水社/2022年10月

 本書は,福井県内の都市整備の経緯を明らかにしたものである。著者は福井県庁での勤務の経験も踏まえ,戦前の都市計画の創成期から,戦災復興事業,バイパス整備,鉄道高架事業,臨海工業地帯整備から,都市再開発,下水道,公園,駐車場に至るまでの多くの分野について,様々な計画案が議論され,複雑な調整を経て,整備されてきた事実を丹念に整理している。東京等の大都市ではこれらの記録は多いものの,地方都市ではまだ不十分な状況にあり,今後のまちづくりを考える上で,その地域の整備の歴史を認識することは極めて重要である。単なる事業の記録に留まらない,今後の地域づくりへの貴重な示唆があふれている一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

戦後福井県都市計画の軌跡

児玉忠/晃洋書房/2022年5月

 本書は福島長期復興政策研究会による原発避難12市町村の市町村長へのヒアリング調査を取りまとめたものである。最初に避難指示の状況,人口や帰還,避難の概要が紹介され,その後は各市町村長へのヒアリングが紹介されている。話し言葉がそのまま文字にされ,また資料も多く提示されていることから各発言の意図を汲み取りやすくなっている。論点は避難者の生活や市街地復興だけでなく,産業誘致や農業再生,森林整備に及んでおり,自治体経営の難しさを浮き彫りにしている。研究者の指摘,意見は今後の復興政策についての議論を深化させている。本書は原発事故後の貴重な証言集であるとともに,自治体経営について考えさせられる良書である。

紹介:企画調査委員長 村上暁信

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

福島原発事故と避難自治体:原発避難12市町村長が語る復興の過去と未来

川﨑興太 編集代表/東信堂/2022年7月

 本書はタイトルこそ造園であるが,その関連分野である都市計画に関する内容も豊富に網羅されている事典である。各項目は見開き 1 ページから 2 ページで解説され,白黒ながら図表も豊富である。都市計画関連では,都市計画の概説から始まり,関連制度の解説,様々な土地利用の造園視点からの読み解き,景観保全などの項目がある。最終章が調査・分析手法に割かれているのも特徴で,アンケートやインタビューのほか,費用便益分析や地理情報システムも網羅されている。項目ごとに参考文献が示され,索引も豊富であるため,都市計画の初学者向け単元別教材として,また研究の幅を広げるときに関連分野の用語を調べたいときに有用であろう。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

造園大百科事典

亀山章 総編集/朝倉書店/2022年7月

 無償で使えるオープンソースの GIS ソフトであるQGIS の初学者向け解説書。基本的な操作方法を示した 5 章と,具体の活用方法を示した 8 章から構成される。詳細な手順と共に QGIS の操作画面が豊富に示されており,初めて GIS ソフトに触れる人にとってもわかりやすい説明がなされている。2022 年度より高等学校で地理総合が必履修科目となったこともあり,地理情報システムは今後,多くの人にとって身近なものになっていくであろう。基礎的な知識・技術をベースとし,地域の問題解決に資する人材を増やすためにも,読み手の知識に応じた解説書が増えることが望ましい。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

まちの課題・資源を可視化するQGIS活用ガイ ドブック:基本操作から実践例まで

半井真明/学芸出版社/2022年5月

 近年高層化や過密化住宅地による都市化と共に,都市熱が問題となっている。以前から高層ビル群ではビル風対策が施されてきたが,今後住宅地においても都市計画をする上で風環境対策が求められる。このような中,本書では,風に関する基礎知識と問題に直面したときの拠り所がまとめられており,開発や都市計画時には必要な情報が示されている。後半では,風環境の調査方法や予測ツールの紹介,評価指標の説明もあり,実務者にも読み応えのある内容である。都市計画や地域計画を学ぶ学生を始め,自治体や実務者も風環境問題に直面したときには,ぜひ一読して欲しい。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

都市の風環境ガイドブック:調査・予測から評価・対策まで

日本風工学会 編/森北出版/2022年7月

 土木学会デザイン賞の20 周年を契機とし,現在も継続して行われているトークセッションズ「土木発・デザイン実践の現場から」。そのシーズン1 の全 8 回を解体・再構成し,23 の問いに対する答えとしてとりまとめた本書。17 の魅力的な事例と,そのプロジェクトにまつわる技術者やデザイナーの言葉を知れば,本書にある“地域の価値向上は受動的な景観への配慮では得られず,主体的な土木デザインによって得られる” という言葉が自然に理解できる。そもそも何を達成すべきか,を問い直す作業が含まれた土木デザインは,だからこそ手ごわく,そして魅力的な仕事だと感じた。分野を限らず,多くの人に推奨したい一冊である。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

土木デザイン:ひと・まち・自然をつなぐ仕事

福井恒明 他/学芸出版社/2022年12月

 著者は地理学の要点として「違いへの敬意」を指摘すると同時に,その研究は他者への蔑視や戦争につながった記憶から,記述に特化する傾向があるとも述べる。書名にある地誌学は地理学の一分野で,特定地域の気候や産業の記述に特化する傾向にあるが,都市を対象にする場合,その背景には多分に社会制度や政治問題が絡んでくる。本書は,東京を舞台に,銭湯の減少,都内で消費される電力の発電所が都外に偏在する立地傾向,都心近くの谷戸の再開発などを取り上げる。著者らは豊富なデータや資料を示しながら,これらの現象の背景にどのようなことが読み取れるか読者に問いかける。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

東京の批判地誌学

荒又美陽・明治大学地理学教室 編/ナカニシヤ出版/2022年12月

 本書では“パーパス” を“より良い社会を実現するための行動原理” と定義しており,複雑な課題に対し,複数の関係者が協同して新たな価値創出(共創)する場合の目的設定の設計図を“パーパスモデル” と称している。モデルには図の外側に関係者の名称・役割・目的を記載して「誰がどんな思いでどう関わるか」を明確にし,図の中心に複数主体が共感する「共通目的」を書くことで,プロジェクトにおけるパーパスを視覚化している。このモデルを用いて実際にプロジェクトを推進する上で,モデルをどの様に活用して関係者を巻き込んで行くかを示しており,様々な関係者と共有するコミュニケーションツールとして示唆に富んだ内容と思われる。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

パーパスモデル:人を巻き込む共創のつくりかた

吉備友理恵・近藤哲朗/学芸出版社/2022年8月

 本書は,東京大都市圏を対象に,新線が開通し新駅が開業することにより,地域にどのような変化が,どのようなメカニズムで,どのようなプロセスを経て引き起こされるのかを実証したものである。調査対象地である埼京線が開通した埼玉県戸田市,つくばエクスプレスが開通した埼玉県八潮市において,社会学的効果に関する第1次~第10次調査によるデータの実証的分析を通して考察を行っている。さらに,東京の構造変動のプロセスとメカニズムの解明を,国勢調査等既存統計データの分析により取り組んでいる。社会学の視点から地域の社会構造の変化を分析した結果が提示されている一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

鉄道交通と巨大都市化の社会学:「東京」の構造変動

後藤範章/日本評論社/2022年9月

 本書は,地域自治のしくみづくりについて丁寧に書かれている。地域自治の現状と課題について考え,新しい地域社会をどう実現するのか。住民が自らまちのために行動できることが一番の理想であり,その理想を実現するために必要なことがまとめられている。「あくまでも担い手は住民自身であり,その手助けをするのが自治協である」ということが深く分かる内容である。人口減少や高齢化が進む今,自治会や自治協が最も大切にしなければいけないことは何か,理想と現実に向き合い,目的を見失わない姿勢が大切である。各地の事例が収録されており,まちづくりや地域活動に興味がある人には参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

地域自治のしくみづくり:実践ハンドブック

中川幾郎 編著/学芸出版社/2022年8月

 自分以外の誰かと物事を進めたり,目標を成し遂げたりする際に「協力」することは,子供の頃から当たり前のことではあるものの,まったく同じ立場や考えの相手であることはほぼなく,話し合ったり,想像したり,試行錯誤しながら「協力」してきた。今では「協力」する対象は広がり,多様化し,最初から仲間意識があるとは言い難い利害関係者も多くなってきた。本書は「協力のテクノロジー」の入門書として,そもそも「協力」とは何か,「違う」を前提にするといった基本的な考え方から,具体的にどのように協力すれば良いのかまで体系的に説明がなされている。自身と他者との関係性を俯瞰して客観的に捉えることができる実践的な書籍である。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

協力のテクノロジー:関係者の相利をはかるマネジメント

松原明・大社充/学芸出版社/2022年4月

 本書は,兵庫県立淡路景観園芸学校が開催したセミナーにおいて,国内外の第一線で活躍する専門家の経験,知見をまとめたものである。章立ては「新たなコミュニティ・デザインの広がり」,「公園マネジメントの展開」,「オープンスペースの創造的活用」に分けられる。いずれも地域性の植物を活用したオープンスペースの計画設計から管理運営といったあり方,農業に着目した都市部の暮らしと環境改善の取り組み,再開発に伴う自然再生やまちづくりが題材となっている。現代社会における人々の暮らしや自然と人との関係性について,社会的課題と結びつけながらその解決方法を紹介しており,当該分野の副読本としてお勧めする一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

オープンスペースから都市を創る:コロナ後に向けた世界のパイオニア・プロジェクト

林まゆみ 編著/マルモ出版/2022年3月

 本書は,地理学の視点から都市をとらえる教科書である。前半の基礎では,都市の構造に関する様々なモデルが紹介され,実際の都市空間をモデルに基づき解釈していく。モデルの概念図や地図上のデータが多用されている。著者はその狙いを地理学の初学者が都市に関する多様なデータに触れるためだと説明する。後半の実践編では,東京や大阪,地方都市を取り上げ,その中の様々な地区がどのような背景で成立し,現在の姿になったのかが考察される。著者は読者層の一つにまち歩きを楽しむ人を挙げ,地形や歴史を取り上げた書籍は多い一方で商店街などを取り上げた書籍は少ないと指摘しているが,本書は社会経済活動から都市を読み解く視点を教えてくれる。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

まちの地理学:まちの見方・考え方

牛垣雄矢/古今書院/2022年10月

 1986年に刊行された「造園学」を,学術の深化と分野の広がりに合わせて,新たな「造園学概論」として刊行したものである。本書では,第1章において,これまでを踏まえた造園学の方法と対象を紹介し,第2章以降から,歴史,各種(都市,農村,国土,公園緑地,風景・景観)計画,生態系,緑化・植栽,造園設計・施工,造園管理・運営を紹介し,第10章を「造園学の展望」とまとめている。SDGsやグリーンインフラといった近年話題となる分野における造園学の役割,巻末には造園樹木と庭石の特性一覧が掲載されており,造園学の入門者はもちろん,資格試験において自ら得てきた知識や技術を体系化するのに役立つ一冊にもなっている。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

造園学概論

亀山章 監修、小野良平・一ノ瀬友博 編/朝倉書店/2021年9月

 本書では,子どもの視点から川のインフラのあり方を研究した成果を取りまとめている。現代の子どもの置かれている状況や,戦後日本の川づくりを概観したうえで,子どもの発達にとっての遊びの意味と意義が考察されている。また実際に水辺で遊ぶ子どもたちの丹念な発話記録調査を基にして,水辺では陸上よりも“創造力” や“課題解決力” に関する発話が多いことが示される等,調査手法も含め興味深い結果が示されている。インフラストラクチャーに,子どもたちが楽しく遊びワクワク・ドキドキを感じられる要素を加えたものを“プレイフルインフラ” と名付け,最終的に子どもたちのための自然豊かな水辺空間を守るための5 つの提案がなされている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画360号 2023年1月15日発行)

子どもが遊びを通じて自ら学ぶ 水辺のプレイフルインフラ

子どもの水辺研究会/技報堂出版/2022年6月

 スポーツ,空き家,インフラ,環境再生,農業,美しい村等など様々な分野を切り口にして,サステイナブルな地域をデザインする国内外の事例を紹介している文献である。人口規模は大都市から村レベルまで幅広く,その町に造られたダムや河川などのインフラ,歴史的建造物,廃墟など象徴的な資源やリゾート地による観光地だけでなく,スポーツ,農業の営み,活動など潜在的な地域力を活用した交流まちづくりの重要性が述べられることが特徴的である。研究のテーマ探しをしている学生やまちづくりに携わる自治体関係者にも是非参考にして欲しい一冊である。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画360号 2023年1月15日発行)

交流まちづくり:サステイナブルな地域をつくる新しい観光

国土総合研究機構観光まちづくり研究会 編/学芸出版社/2022年5月

 本書は,シモキタという街を舞台に,コミュニティシップ醸成の舞台裏について,多面的に整理している。第1・2章では,事業者視点から「アセット型開発」から「支援型開発」に至った経緯を整理し,地域の視点から,街に楽しみながら関わっている人たちの考え方や街に対する姿勢を整理している。第3章では5名の有識者(Well-being 論,都市空間学,都市社会学,都市論)がそれそれの立場でコミニティシップに関する考察を加えている。さらに,第4章ではコミュニティシップ醸成のためのアプローチを「5つのレシピ」という形でまとめている。街に関わる誰もが最後まで読みやすく整理された一冊であるため,学生をはじめとした皆さんに広く推薦する。

紹介:企画調査委員 田井栄次郎

(都市計画360号 2023年1月15日発行)

コミュニティシップ:下北線路街プロジェクト。挑戦する地域,応援する鉄道会社

橋本崇・向井隆昭 編著/学芸出版社/2022年5月

 本書は,地域融合型のゲストハウス事業を展開する渡邊氏と,ゲストハウス情報マガジンの代表者である前田氏の共同執筆により,経営者の視点からゲストハウス経営のノウハウがまとめられた一冊。ゲストハウス経営の実態やプロセスについて,開業時のエリア選定の段階から,運営や事業展開のノウハウまで,実践経験を元に詳細に記述されており,地域に根差したゲストハウス経営を目指す経営者には必読書である。更に,特に地域の人々との関係性の構築の姿勢や方法については,まちづくりの観点からも示唆に富む内容となっているほか,観光政策の観点からもゲストハウス経営への法制度や社会背景などの影響を具体的に知ることができる。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画360号 2023年1月15日発行)

ゲストハウスがまちを変える:エリアの価値を高めるローカルビジネス

渡邊崇志・前田有佳利/学芸出版社/2022年4月

 都市と農村の関係について,その空間的特徴,歴史的な変遷,今後の望ましい関係性構築の可能性を議論した書籍である。最初に歴史的経緯を関連法制度を含めて解説した後に,現在の都市と農村の関係を,海外との比較から詳細に説明している。その上で「都市の農村化」を提案し,市民のライフスタイルや,都市の農村化を支える主体といった切り口からその効果と可能性を議論している。環境問題,人口減少,国土保全への対応といった点から,これまで以上に都市と農村の一体的計画の必要性が指摘されている。そのような議論の背景を理解する上で,またこれからの都市のあり方を考える上で,新たな視座を与えてくれる良書である。

紹介:企画調査委員長 村上暁信

(都市計画360号 2023年1月15日発行)

「都市の農村化」と協同主義:近代都市像の再構築

斎藤義則/有志舎/2022年4月

 本書は福井県立大学による公開講座の内容がもとになっており,市街地中心部に位置する福井城址を地域資源としてどのように活用するかが議論されている。初めに福井城址の価値を再認識するため,城郭の立地や城下町・福井の成立などが解説される。写真が多用され,語彙が平易なので,大変わかりやすい。現状福井城址は公共施設の建物が立地し,景観要素としては十分に機能していないが,これらの移転も含め,福井城址を空間としてどのように活用できるかの検討が紹介されている。新幹線駅を出てすぐに城郭跡の存在を感じる都市は珍しく,北陸新幹線延伸を前に本書はそのポテンシャルを市民に気づかせ,ともに将来構想を練るものだと理解される。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画360号 2023年1月15日発行)

福井城址と風景まちづくり:お城が見える中心市街地

進士五十八・福井ランドスケープ研究会 編著/福井県立大学出版部/2022年3月

 自治体職員をターゲットとした,都市計画実務に関する基本的な解説書。都市計画の基本として全体像をざっと概観しつつ,土地利用・都市施設・市街地開発事業・景観形成の4テーマごとに留意すべきポイントが示されている。慣れていないと理解が難しい法律・政令(施行令)・省令(施行規則)の構造が,具体のテーマを基にわかりやすく解説されるなど,初めて都市計画を担う実務者にとってのハードルを下げてくれている。その他,都市計画担当の心得や仕事術の章では,事務職・技術職を問わず役に立つノウハウが述べられている。伊勢崎市での二十年間の実務を基にした記述は,説得力がある。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

自治体の都市計画担当になったら読む本

橋本隆/学陽書房/2022年4月

 本書は概ね最近20 年以内に路面電車が開通した欧米の都市を取り上げ,主として中心市街地の景観にアクセントを与えるもの,賑わいを創出するものという視点で概観していく。歴史的建造物や自然景観などとの調和,トランジットモール化,沿線の景観整備などの事例が,著者が現地調査で撮りためた豊富な写真とともに紹介される。最後には都市の交通行政担当者らへのインタビュー結果がまとめられており,自動車中心の交通体系からの脱却にとどまらず,沿線開発に向けたインフラ整備の側面や移民が多い地域を都心とつなぐ社会的孤立の解消の側面があることが述べられている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

路面電車とまちの風景:LRTデザインパレット

ペリー史子・塚本直幸/技報堂出版/2022年3月

 本書は,横浜市洋光台団地におけるエリアマネジ メントの約10年間の活動記録である。同団地は,昭和40年代に現UR賃貸住宅を中心に整備され,約207.5haの区域に約1.2万世帯,約2.4万人が暮らしているが,郊外住宅地共通の少子高齢化という課題を抱えている。この課題に対して,エリアマネジメントによる解決を目指し,コアメンバーによる課題共有に始まり,拠点づくり,活動拡大,住民の巻き込みなどを戦略的かつ丁寧に進めている点は,非常に参考になる。さらに関係者,識者の生の声を取り入れ,新型コロナ対応にも触れるなど,同様の活動を志す方には,得るものが多い書籍である。

紹介:企画調査委員会担当理事 千葉孝之

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

郊外住宅地の再生とエリアマネジメント:団地をタネにまちをつなぐ 横浜・洋光台の実践

洋光台エリア会議 編著/学芸出版社/2022年4月

 本書は,日本における市民まちづくり支援組織の可 能性と今後について「まちセン的研究会」(後に「まちづくりプラットフォーム研究会」と改称)の研究成果を取りまとめたものである。地域課題は,常に複雑・拡大化する傾向にあり,行政や企業など従来の社会的枠組みでは解決することができない。組織でなく,地域の中で信頼されている人が,「ヒト」と「カネ」と「バショ」の3 つの要素を満たす多様な主体間で課題を共有し,「プラットフォーム」を適切に運営することによって,課題解決が可能となるとしている。地域における様々な課題に悩み,少しでも改善したいと考えている方に,お勧めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画

まちづくりプラットフォーム:ヒト・カネ・バショのデザイン

まちづくりプラットフォーム研究会 編/萌文社/2022年3月

 コロナをきっかけに日常生活スタイルが大きく変わり,パブリックスペースの重要性が再認識され,都市公園を中心とした活気ある住み心地の良いまちづくりの関心が高まっている。一方で,多くの自治体や民間事業者は,公的空間利活用の検討プロセスのノウハウが不足しており,入札不調や,事業化されても立ち行かなくなる案件も見受けられる。本書では,官民連携の事業化プロセスの全体像や各検討項目の留意点を取り上げ,実例をもとに,わかりやすく解説している。また,環境エネルギー,ウォーカブル,エリアマネジメントや運営ノウハウなど,幅広い取り組みが紹介されており,関係者にとって有益な情報源となっている。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

公園が主役のまちづくり:パブリックスペースのつくり方・活かし方

小川貴裕/工作舎/2022年3月

 本書は,米国の人文地理学の牽引者であったロバート・デヴィッド・サック名誉教授の著書の翻訳である。領域性の研究は動物行動学に起源を持ち,人間の社会空間的行動として研究が進展し,本書は,英語圏の人文地理学において領域性を最も体系的に理論化した成果である。人間がさまざまな目的のために空間を制御し,組織を形成し,権力を行使する多様な形態が書かれている。理論的体系部分は,かなり抽象的で難解であるが,理論的体系の基礎となる豊富で具体的な領域性の歴史的事例を通して,領域性の意味と用法の歴史的,地理的な変化がわかりやすく書かれている。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

人間の領域性:空間を管理する戦略の理論と歴史

ロバート・デヴィット・サック 著、山﨑孝史 監訳/明石書店/2022年2月

 本書では,それまで注目されていなかった古い橋や炭鉱,工場跡,町並みや歴史的環境も近代化遺産としてその価値が見直されるようになり,ここ30年の間に,遺産の概念がまちおこしや地域おこしのキーワードへと変わってきた経緯が明らかにされている。現在,近代化遺産は,文化財保護行政の主要施策になっているが,この近代化遺産の誕生と歴史遺産の系譜,産業遺産の登場と展開,保存と利活用,世界遺産・産業遺産の新しい動向等について,筆者の個人的な関りを通して,解釈・整理がされている。これからの近代化遺産を考える上での示唆があふれている一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

「近代化遺産」の誕生と展開:新しい文化財保護のために

伊東孝/岩波書店/2021年7月

 首都圏などでは大学キャンパスの都心回帰が進んでいるが,本書の九州大学は,分散したキャンパスを統合するために,都心中心部から都市郊外の自然に近い丘陵地を切り開いて新しいキャンパスを建設し,約2万人が移転した。単一のキャンパスとして日本最大の伊都キャンパスは,丘陵地の自然豊かな里山を残すため,生物多様性保存や水循環,古墳など歴史遺産活用,キャンパス周辺を含む学術都市構想など様々な取り組みが行われ,それらの経緯や内容が書かれている。キャンパスは,創造性豊かな人材育成や高度な学術研究を推進するための拠点であり,地域活性化への貢献の場であり,これらからのキャンパスを考える上で参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画359号 2022年11月15日発行)

都市と大学のデザイン:伊都キャンパスを科学する

九州大学キャンパス計画室 編/花書院/2019年8月

 マンションという居住形態が定着して一定の年数が経過したことにより,建て替えや空き家などの今日的課題がマンションでも顕在化してくると考えられる。しかし,区分所有されるマンションの場合は条件が複雑化する傾向が強く,法体系の整備が追い付いていないことが懸念される。本書は,欧米諸国のマンションに関わる法制度の特徴を紹介する内容であるが,前半に諸国の制度の共通点や差異に関する解説があるとともに,後半には各国法制の和訳が付されている。諸外国の法制度を研究して自国の制度改善に役立てる際に大きな障壁となるのが言語の違いであるものの,本書は解説と和訳が付けられており,これらの障壁が大きく取り払われている点が特徴である。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

マンション区分所有法制の国際比較

鎌野邦樹 編著/大成出版/2022年5月

 本書は,図説わかるシリーズの最新本である。都市計画の理念・歴史・体系,都市計画の仕組み,課題に対応した都市計画についてまとめられている。図版が多く内容が薄くなるわけではなく,都市計画の教科書として基本を押さえられている。そして,SDGs,新型コロナウイルスを経たニューノーマル,スマートシティと押さえておかなければならない内容も盛り込まれている。本書は,2色刷りで見やすく,各章には演習問題と計画事例が設定されアクティブラーニングにも対応している。本書は,大学や高専での都市計画の教科書として,今一度,都市計画を体系的に学び直す際のテキストとしてお勧めする一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

図解 わかる都市計画

森田哲夫・森本章倫 編著/学芸出版社/2021年12月

 「まちづくり」という多様でとらえどころのない課題と,データを数理的に加工し分析する統計学は一見相容れない側面を持つと感じるが,昨今の技術革新・大量のデータ蓄積により,従来は難しかった事象が,ある程度統計的に把握できるようになったこと,更には「まちづくり」の政策づくりにエビデンスが求められる中,統計が一つの拠り所になってきていることを踏まえ,本書では「まちづくり」に係わる統計の基礎と学び方について整理されている。問いの立て方・統計データ集め方・分析方法等を解説すると共に,政策テーマ別に統計データの活用例を示されており,これから統計を学ぶ人が統計で何が出来るのかを知る機会になるかと思う。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

まちづくりの統計学:政策づくりのためのデータの見方・使い方

宇都宮浄人・多田実 編著/学芸出版社/2022年2月

 本書では,都市成長期の「インナーシティ問題」に対して,脱成長期における都心周縁の空洞化地域を「インナーコミュニティ問題」と捉え,コミュニティによる再生手法を提唱している。高齢化等により社会の構成員が固定化する「社会的停滞」を問題の鍵として,リノベーション,小単位の建物共同化,オープンスペース創造・活用といった小規模な事業が積み重なり面的広がりを持つ事で,緩やかな都市更新を促し,市街地の物理的・社会的環境を再生させることを推奨している。これまでの「大規模開発」だけではなく,「小規模連鎖型」の取組は,これからの都市再生を考えていくための重要な視点や価値観を示唆してくれているのではないだろうか。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

都心周縁コミュニティの再生術:既成市街地への臨床学的アプローチ

(一社)日本建築学会 編/学芸出版社/2021年12月

 本書は,長年にわたりゼネコンで働いた筆者が,その経験をもとに昨今のゼネコン業界の変化と課題について記したものである。携わってきた工事現場において,「ただ一つ」を生み出してきたと筆者が言うように,建築物,土木構造物は「現地一品生産」であり,ゼネコンの高い技術と経験に支えられている。一方,人手不足をはじめ,その事業継続の見通しは決して明るくない。都市計画の実現を最終段階で担う工事現場が,将来も持続可能でなければ,計画も画餅に帰してしまう。その工事現場で,現在どのような変化が起きており,その課題と解決策は何なのかを知ることは,都市計画に携わる者にとっても軽視できず,本書はそれらを知る一助となる。

紹介:企画調査委員会担当理事 千葉孝之

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

「ただ一つ」を生み出す仕事

東條洋/幻冬舎/2022年1月

 本書は名前が示す通り,地図に関する様々な事項について,豊富な図表を交えながら解説している。全体は大きく「地図を知る」「地図を作る」「地図を使う」の3 部に分かれており,解説されているトピックは200 を数える。都市計画では多分に空間に関する要素を扱うため,現状把握や課題抽出のための表現法として,現地調査の記録用の台帳として,関係者の合意形成のためのツールとして,など様々な場面で地図が利活用される。その際,地図に載せる情報の取捨選択法,正しい地図の表現手法の選び方などは,重要性がますます増大している。本書はそのような知識を得る上で重要なキーワードを把握するために役立つと思われる。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

地図の事典

日本地図学会 監修/朝倉書店/2021年11月

 ≪霞が関ビルディング≫竣工から50 年余りで,東京都心部の都市空間が超高層建築により急変してきた中,巨大建築群の社会的役割や設計思想はどのように変化してきたのか。本書は,その理念的な理解の端緒として「東京都区部にあり,時代の公益的な思潮を切り拓く建築」を「都市建築」として定義し,その史的かつ体系的な整理に加えて,各実例の事業内容や図面などの資料,主に日本設計で「都市建築」の実務に携わってきた関係者らの声,といった記録と情報が詰め込まれている。編集委員会が学識者らと民間事業者らの設計思想や事業のノウハウが融合する形で構成される点も,まさに都市建築の「グループダイナミクス」を体現した1 冊である。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

都市建築TOKYO:超高層のあけぼのから都市再生前夜まで

都市建築TOKYO 編集委員会 編著/鹿島出版会/2021年9月

 千葉大学松浦健治郎研究室のゼミ活動の一環で翻訳された,全米都市交通担当者協会による「歩行者中心の街路設計マニュアル」である。歩行者のためにどのように「ストリート」をデザインすれば良いのか,そのポイントが明瞭な図とともに分かりやすく説明され,わが国でも大いに参考になる。特に並列して掲載された図は,形態の差異やビフォー(既存)・アフター(再構築後)が一目でわかるように工夫されている。先進事例の写真も豊富であり,それらを眺めているだけでも全米各地を訪ねたような高揚感が得られる。巻末に多数掲載されている引用文献・参考文献の原文に極力当たってから,本書を携えてじっくり現地を訪れたい。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

アーバンストリート・デザインガイド:歩行者中心の街路設計マニュアル

全米都市交通担当者協会 著、松浦健治郎+千葉大学都市計画松浦研究室 訳/学芸出版社/2021年9月

 公務員は,事務分掌規程に定められた職務をこなしていれば,失業することなく定年を迎えることができると思っている方もいると思うが,今では,地域活動や社会貢献活動だけでなく,公務で培ったスキルを活かして様々な所に飛び出して行っている人が増えている。本書は,全国で活躍している98人の「地域を飛び出す公務員」となったきっかけ,活動内容,体験談などが紹介されている。これから地域と共に歩んでいこうとする公務員たちの道標となるとともに,素晴らしい公務員もいるということを広めていきたいとしている。現役の公務員や公務員という仕事に興味を持っている方をはじめ,多くの皆さんにお勧めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

飛び出す!公務員:時代を切り拓く98人の実践

椎川忍 他 編著/学芸出版社/2021年11月

 本書はヤン・ゲールの弟子である著者による,「人間の街」の理念の実践書である。生き生きと暮らしやすい街を実現している世界中の事例が,カラー写真と共に B5 を縦に少し縮めた程よいサイズ感に配置されている。メインとなる3 つの章は,中層の中庭型街区の有用性を示す「街区をつくる」,つながりを生みだすモビリティを論じた「街に出る,人と交わる」,自然との共存がもたらすコミュニティへの恩恵を描いた「天候と共生する」。表紙にもある“人” を配置した断面図が本文中でも多く活用されており,人を中心に考えることの重要性を訴えかけてくる。日本の事例が世界の事例と並べて語られることで,その位置づけや輪郭がより明確に理解できる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

ソフトシティ:人間の街をつくる

ディビッド・シム 著、北原理雄 訳/鹿島出版会/2021年10月

 スケッチを通して,まちの見方や歩き方を紹介した書籍である。実際にまちを歩くと感じ,味わうなどの体験は重要であるが,現地の記憶においても画像の残し方で大きく異なると述べている。スケッチでは一つの場所に留まる時間の長さや対象をじっくり見続けることで得られる情報や記憶にも違いがある。本書では,多くの著者のスケッチと都市が紹介されており,海外調査再開とともに,本書の勧める街の歩き方を参考に調査してみたいと思える魅力的な一冊となっている。海外都市の観光本よりも都市計画や建築について的確な情報とイラストが散りばめられており,都市計画に興味関心がある学生にとっても読みやすく,街歩きの視点を学ぶことができる。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

建築・まちづくり学のスケッチ:新しい建築・地域デザインの時代に

志村秀明/花伝社/2021年11月

 本書は,大阪市内の旧神路村界隈とその周辺について,地域まちづくり史という切り口から3 部構成で整理している。
 第 1 部では,「まちづくり前史」として,対象地域が「まち」に移行する大正期以前までを紹介している。本編である第 2 部では,「地域まちづくり史」として,1910 年代後半から 2010 年代までのおよそ 100年余りのまちづくりについて,4 つの時期に分け,順を追って記述している。第3 部では,「まちの記憶」として,いくつかのエピソードを紹介している。
 本書は対象地域及び大阪全体のまちの成り立ちを学ぶ上での良書であるとともに,都市/地域における歴史の紐解き方を学ぶ上でも参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 田井栄次郎

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

場所の記憶 大阪東部下町/旧神路村界隈とその周辺まちづくり史

竹内陸男/南風舎/2021年8月

 本書は,土地利用と交通を持続的に統合するための戦略を概説し,今後の目指すべき新たな都市モデルを言及している。一般的に広く認知された理論だけではなく,萌芽的なものや新しい考え方についても挑戦的に記述されており,都市計画,交通計画を学ぶ初学者にむけた教科書と実務家に向けた指南書の側面を持つ。また,留学生にとっては,都市計画,交通計画をより詳しく理解するためのテキストとして基礎的な知識習得とその考え方を学ぶことができる。初学者から実務家,留学生に都市計画や,交通計画を教える教員にお勧めする一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

City and Transportation Planning:An Integrated Approach

Akinori Morimoto/Routledge/2021年8月

 安全で人と環境にやさしい公共交通や歩行者・自転車などを中心とした持続可能なまちづくりを進めることが世界的な潮流となっている。その様な中で,本書は,富山市で公共交通が持っている人とまちを元気にする力の大きさを実証的かつ定量的な調査結果から明らかにし,まちづくりにおける公共交通の役割を読み解いている。特に,筆者らが開発した専用端末での高齢者の交通行動や外出行動の調査,医療保険データや公共交通の利用履歴の統計結果はおもしろい。図版も多く読みやすくまとめられており都市計画の初学者にお勧めする一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

公共交通が人とまちを元気にする:数字で読みとく!富山市のコンパクトシティ戦略

松中亮治 編著/学芸出版社/2021年6月

 本書は「メルカテッロ」というイタリアの人口約1400 人の小さな基礎自治体をめぐる生活史であり,イタリア都市政策の解説書でもある。此の地において自身も旧市街の中の町家を入手し,名誉市民として年の半分は生活の拠点を置く著者が,日常生活における住民との文化的な交流や,聞き語りを通じて,複雑な町の仕組みの中で醸成されているイタリアの社会や風景の「豊かさ」を説く。豊富で色彩豊かな写真や具体的で個性溢れる生活描写により,まるで実際に訪れたかのようにメルカテッロの町の虜になる一方で,その社会的な特徴が日本社会との対比により語られ,日本における「豊かさ」とは何かを節々で考えさせられる。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

イタリアの小さな町 暮らしと風景:地方が元気になるまちづくり

井口勝文/水曜社/2021年3月

 本書は,都市計画や交通計画の視点で物資流動調査に関わってきた一般財団法人計量計画研究所「都市と物流」研究会の研究成果をまとめた書籍である。都市と物流の考え方,都市の市街地と物流,都市の新たな課題と物流の3 部構成からなる。都市と物流の考え方では,江戸から平成までの都市計画と物流の関係,都市物流計画がまとめられている。都市の市街地と物流では,産業を育む物流,環境にやさしい物流,生活を支える物流,活力を生む物流を副題に市街地の物流が整理されている。そして,都市の新たな課題と物流では,少子高齢化,防災のための物流がまとめられ読み応えがある。都市計画の初学者から実務者にお勧めする一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

物流と都市地域計画:ロジスティクスが創る新たな社会

IBS「都市と物流」研究会 編著/大成出版社/2020年4月

 人々が生活する住まいの器である建築については,「土地(陸地)に定着するもの」という固定観念である一方で,世界中には信仰の観点から海の上に祀られる神社などの建築物や,その土地固有の風土に沿った水上居住など人間の生活文化を具現化した建築物を見ることができる。海と関わる建築が「なぜ,どうつくられてきたのか」を,歴史的・技術的・思想的な経緯を振り返りながら紹介されており,海上都市に未来を夢見た建築家などによる海上都市計画などは今後の気候変動への対応や空間活用の観点からも参考になる一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

海の建築:なぜつくる?どうつくられてきたか

畔柳昭雄/水曜社/2021年12月

 本書は,人々の日常的な移動を担保する機能を包括的に「地域モビリティ」とまず位置づけ,この「地域モビリティ」という観点から見た地域公共交通の課題をふまえ,再構築に向けての処方箋を論じている。コロナ禍によって地域公共交通が瀕死の状態にあるのは,すでに抱えていた課題や問題がより加速されて,より強調されて顕在化した結果であることが分かる。他地域での成功例やシーズ発想に基づいた施策の安易な導入ではなく,地域のニーズをきめ細かくとらえた新しいライフスタイルの提案が現場で求められている。地域公共交通の理解にも,また狭い意味での交通の枠組みを超えた総合的な地域まちづくりの助けにもなる良書である。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

地域モビリティの再構築

家田仁・小嶋光信 監修/薫風社/2021年8月

 日本の大都市圏は密度の高い鉄道網が都心から広がり,その沿線に住宅地が開発された結果,「郊外住宅地」と呼ばれる都市空間が広く展開したことが大きな特徴で,郊外と鉄道とは密接な関係性を有する。本書はタイトル通り両者の関係性に着目して現状整理と未来像提案を行っている。冒頭に都市郊外の変遷や現状がデータなどにより整理される。「郊外」は入居開始時こそ居住者属性やライフスタイルが均質だったかもしれないが,現状もそうなのか,いくつかのデータや調査結果から考察が行われ,また実際の空間的な変遷の事例も紹介される。コンパクトシティ構想では郊外の位置付けは重要であり,そのための基礎知識と様々な視座を与えてくれる一冊である。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

鉄道と郊外:駅と沿線からの郊外再生

角野幸博 編著/鹿島出版会/2021年8月

 緑空間の創出に多くの優れた実績を持つ著者が,「造景」という言葉にこだわって自然現象を活かす造景,「現象のデザイン」の発想と方法を多角的に論じた書籍である。多くの魅力的な写真とともに事例が解説されており,造景の意図がわかりやすく示されている。光,雲,風,水,土,雨,雪といった身近な自然現象を切り出して小さな空間に導くことで,現象をより明確に出現させる繊細な技法には驚かされる。切り出された小さな自然現象を通して,より大きな自然,地球の営みを感知させる,そのような庭,空間の作り方を学べるだけでなく,都市において自然現象を読み解く感性を読者に身に付けさせる良書である。

紹介:企画調査副委員長 村上暁信

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

現象のデザイン:自然美が出現する庭をつくる

埴生雅章/萌文社/2020年10月

 農山村移住への関心が社会的広がりを見せる中,「田園回帰」が,単に都市部から農山村への人口移動という意味を越えた新たな生活像や価値観の模索を含む概念として,重要性を高めている。本書は,人口動態,移住支援,移住者受入における住まいとなりわいといった多様な観点から,田園回帰による農山村地域の変容実態を把握するとともに,そこで生まれつつある新たな考え方やアプローチ等を整理したものである。加えて,コモンの再創造,社会連帯経済,ネオ内発的発展論などの概念を導入し,田園回帰を理解するための理論的枠組みを整理している。地域づくりの今後を見通す視座を与えてくれる一冊である。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

田園回帰がひらく新しい都市農山村関係:現場から理論まで

筒井一伸 編/ナカニシヤ出版/2021年3月

 都市緑化の機能についての科学的評価と都市緑化の実践を長年にわたり先導した著者が,門下生とともにこれまでの知見を取りまとめた書籍である。造園技術,都市緑化技術の歴史的な展開,関連技術との関係,近年の緑化事例の解説,科学的評価を通して,緑の技法を多面的に論じている。都市における緑の技法を論じつつも,緑に求められる社会的要請に注目することでこれからの自然との共生,持続的な都市社会の姿まで議論を展開している。植物を都市で扱う際の基礎的理論についても体系的に示されており都市緑化を学ぶ上で大きな助けとなるが,都市そのもののこれからの姿を考える上でも多様な視座を与えてくれる一冊である。

紹介:企画調査副委員長 村上暁信

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

緑の技法:自然と共生する持続型都市社会に向けて

輿水肇+明治大学緑地工学研究室 編著/彰国社/2019年7月

 本書は日本住宅公団や建設コンサルタントの実務経験者が,東京都市圏におけるUR の団地やニュータウンについて,市街地の形成プロセス,住宅地の計画理論,近年の団地再生といった実績をまとめるとともに,団地再編のあり方を論じたものである。団地の再編に今後取り組む市民や若い技術者に向けた解説書を意図したとのことであり,ヨーロッパの団地事情についても触れるなど,団地再生の論点を網羅的にカバーしている。また都区内/東京多摩の丘陵地/神奈川丘陵地/千葉の台地や埋立地/埼玉低地といったセクターごとの住宅地開発の変遷についての記述は,戦後の東京都市圏の住宅地形成を理解するうえでも役立つ。私家版であるが紹介したい。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

市民と次の世代のための団地・ニュータウン読本

/副読本 持続する多様なまちへ 団地・ニュータウンの再編

計画住宅地研究会(浅井義泰 他)/2021年11月

 日本の交通事業評価では,将来にわたる国民経済価値を集計する費用便益分析が導入され,定着した。しかし,社会ニーズは「経済成長から個人の幸福へ」と転換し,交通事業評価も国や地域全体ではなく,個人の幸福度(QOL)で計測,評価が必要である。本書は,筆者とその研究チームが20 年来開発してきた費用便益分析の問題点を克服する「QOL アクセシビリティ法」によるQOL 評価とその適用例をまとめている。また,QOL 主流化をテーマに掲げた国際シンポジウムの内容がまとめている。コンパクト・プラス・ネットワーク,自然災害への対応,脱炭素社会実現,感染症対策など様々な政策の評価を検討するには,参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画356号 2022年5月15日発行)

交通・都市計画のQOL 主流化:経済成長から個人の幸福へ

林良嗣 他 編/明石書店/2021年8月

 ラウンドアバウトを導入する際に必要な基本的事項の全体を俯瞰した国内初めての技術指針である「ラウンドアバウトマニュアル」が発行されてから約5年が経過した。その間,日本のラウンドアバウトは堅調に整備が進められ,令和三年三月時点で126箇所にまで増加している。本書はそれら最新の事例から得られた新たな知見を盛り込み,特に幾何構造設計について大幅な改訂がなされている。環状交差点の導入による事故発生件数の減少も確認されており,環境負荷の低減・災害時の自律的な交通運用の観点からも各地での導入検討が引き続き行われるであろう。今後も本書を活用したラウンドアバウトの適切な整備と運用が期待される。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

ラウンドアバウトマニュアル2021

交通工学研究会 発行/丸善出版/2021年8月

 人口減少,少子高齢化に加え,防災対策などの様々な地域課題に対応する主体として地域自治組織への期待が高まっている。本書は,家族構成や社会経済状況の変化や外国人などによって多様化する地域をどう再編し,安定的・開放的な地域自治組織をつくっていくかを世界の12か国の地域自治活動の事例から,地方制度,文化的な価値・理念や抱える課題の相違に注意しながら,日本における地域コミュニティづくりのヒントと可能性を探るものである。町内会・自治会・NPO関係者・自治体コミュニティ政策担当者などの方々にお勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

世界に学ぶ地域自治:コミュニティ再生の仕組みと実践

大内田鶴子・鯵坂学・玉野和志 編著/学芸出版社/2021年8月

 本書は,中山間地の鳥取市西部の鹿野町で2001年にまちづくり協議会を設立され,その20周年を記念して,出版されたものである。タイトルには空き家活用とあるが,景観演出,賑わいづくり,フォーラム開催,耕作放棄地対策などの活動も述べられている。まずは,20年間の活動を関係者の方々がそれぞれの立場,時期のエピソードを語っている。また,空き家活用では,専門家による現状や取り組みの状況をまとめ,行政や民間への活用の提案を述べている。最後に地域外の方や子供たちにこれからの鹿野の意見を聞いている。本書にある「時には望んでいたものとは違うこともあるが,やらないよりやったほうが面白いということを体験した」は印象的である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

地域の未来を変える空き家活用:鹿野のまちづくり20年の挑戦

いんしゅう鹿野まちづくり協議会 編/ナカニシヤ出版/2021年2月

 人口減少や高齢化に伴い地域交流の場が失われつつある中,人のつながりを再構築するための「場づくり」に大切なポイントが紹介されている。
 筆者は,効果的な「場」には,誰でも出入りしやすい「可視性」,誰もが参加しやすいプログラムの「対等性」,参加者の「主体性」を持つ事が重要であり,これら空間・コンテンツ・マネジメントが相互補完的に関わる事が必要と説いている。さらに,「地域づくり」に広がるためには,「活動の核となるコアメンバーがいる事」,それらが固定化せずに「あらたな人々とのつながりが生まれる事」,「集まった人たちの持ち寄りやシェアしながら相互活用する中で,新しい活動が生まれる」プロセスがポイントであり,そのためには,地域づくりの担い手の確保,育成が喫緊の課題としている。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

場づくりから始める地域づくり:創発を生むプラットフォームのつくり方

飯盛義徳 編著/学芸出版社/2021年7月

 本書は,SDGsのゴール11「インクルーシブ,安全,レジリエントで持続可能な都市づくり」に代表される街づくりに関する世界の都市戦略,日本の街づくりとデジタル活用の事例を紹介している。①共創とガバナンス,②経済のトランスフォーメーション,③ウェルビーイングとコミュニティ,④気候変動・自然災害・人口減少,⑤デジタル活用の観点から都市の戦略を紹介している。これら戦略を読み込むことにより,各都市が強調する課題や重視する解決策の特色が一度に比較できる。課題解決の実践的な事例,アイデア例が掲載されており,SDGs実現をサポートするフレームワークや戦略・デザインの参考書,副読本として活用できる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

世界のSDGs 都市戦略:デジタル活用による価値創造

櫻井美穂子/学芸出版社/2021年7月

 戦後約30年間にわたって,広島市街を流れる太田川河岸にまちが存在していた。
 当時は1000戸近いバラックが占拠により建て込めており,当然計画的な敷地割りがないため,家が建て込み密集していたが,家と家とのすき間空間は「みち」や「たまり場」として公共空間的な使われ方をされており,住民同士のコミュニティが生まれていた。そこには様々な問題を抱えながらも,たくましく優しい人々の営みがあった。
 戦後復興計画の中でそのまちは姿を消すことになるが,貴重な調査記録からはネガティブなまちの呼び名のイメージとは程遠く,活気にあふれたまちであったことが示されており,歴史的に貴重な一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

原爆スラムと呼ばれたまち:ひろしま・基町相生通り

石丸紀興 他/あけび書房/2021年7月

 本書は土木の仕事をよりリアルに知ってもらうことを意図して編まれたものであり,19分野の35人が自らの仕事について語っている。公務員,ゼネコン,メーカー,鉄道会社,コンサル,不動産デベ,都市再生機構,調査会社,測量会社,設計事務所,高速道路会社,電力会社,研究職,等々,羅列するだけでも多様な職種が紹介されている(珍しいところでは石積み職人)。仕事の内容だけでなく,その仕事を選んだ経緯や仕事のやりがい・不満についても示されており,パーソナルな部分を知ることが出来る点が面白い。土木が持つ無名性を脱却するための一歩として,顔写真と名前を載せる意義は大きい。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

土木の仕事ガイドブック:日常をつくるプロフェッショナル

柴田久/学芸出版社/2021年6月

 本書は国内初のタクティカル・アーバニズムの本であり,その定義や考え方,読み解く視点を身に着けることができる。個人からできる小さなアクション,プレイスメイキングによって,まちなかが居心地の良い滞留空間と変わっていく様子が海外,国内の事例により紹介され,社会に定着する戦術的なアプローチとしてのポイントが分かり易く解説されている。また,日本のタクティカル・アーバニズムを体系的にまとめてあり,その課題と可能性が書かれており,それは「人が中心のまちづくり」を行う上でのヒントとして,まちづくり実践者や学生の方々にも参考となる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

タクティカル・アーバニズム:小さなアクションから都市を大きく変える

泉山塁威 他/学芸出版社/2021年6月

 高齢化による種々の問題が顕在化した大牟田市において,「住まい」と「福祉」の連携が如何にして達成されたのか。自治体内部における住宅部局と福祉部局の連携体制の構築のみならず,福祉拠点と地域拠点の併設化を実現した事業スキーム,市営住宅や空き家問題などハードの住まい整備とソフトな居住支援の協働など,実践経験の系譜と蓄積が記録されている。本書は市職員として現場で住民の声を聴き,問題解決に奔走した牧嶋氏がその実践を記述した,自叙伝としての性格も持つ。「住宅」や「福祉」の枠組みを超え必要な支援をつなぐ協働体制を構築してきた筆者の経験談は,まちづくりや都市計画においても重要な観点を我々に提示してくれる。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

福祉と住宅をつなぐ:課題先進都市・大牟田市職員の実践

牧嶋誠吾/学芸出版社 /2021年6月

 コロナ禍で公共空間やそのマネジメントのあり方がますます問われる中,先達のイギリスとアメリカの取組みを体系的に整理している。両国の事情を知り尽くした著者による,多数のインタビュー調査を踏まえた丁寧な解説から,それぞれの制度や事例の特徴や差異がよく理解できる。写真・地図をはじめとした図版が充実しており,特に公民連携のスキームは非常に分かりやすく整理されている。事例紹介として3 章にロンドン等で5 事例,6 章にニューヨーク等で5 事例が挙げられているが,他の章でも多数の事例が紹介されている。我が国でどのように参考にすれば良いのか。終章にそのポイントがまとめられており,最後まで読み応えのある一冊である。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

イギリスとアメリカの公共空間マネジメント:公民連携の手法と事例

坂井文/学芸出版社/2021年4月

 近年,シェアハウスなど住まいをシェアすることで,所有することでは手に入らない豊かさを体験でき,また,家族の在り方や人口構造の変化による空家活用などシェアへの期待が集まっている。
 本書は具体的な実践からシェアを「手段」「媒介」「基盤」と捉え,実例と共にそのヒントが示されている。先進国におけるシェアがさらなる豊かな暮らしをつくる手段として利用されている一方で,途上国インフォーマル地区での,シェアは生きていくためには不可欠な社会基盤となっており,住まいを起点に生きる基盤とするための知恵に満ちている。インフォーマル地区でのシェアの在り方に豊かな未来と新たな考え方を感じる一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

住まいから問うシェアの未来:所有しえないもののシェアが、社会を変える

岡部朋子 他 著、住総研「シェアが描く住まいの未来」研究委員会 編/学芸出版社/2021年8月

 2冊の都市形成史図集と1冊の都市計画史図集からなる本セットは,熊本の都市を考えるうえで,欠かせない資料である。都市形成史図集では,熊本市政発足から終戦直後(昭和22年)までと,終戦直後から平成26年までの都市形成の変遷が,それぞれ16葉・15葉の地図と解説文で概観される。都市計画史図集では,加藤清正による城下町の治水と整地にはじまり,戦災復興,市街地拡大を経て,中心市街地の活性化と街の再デザインまで続く都市の変遷が,43葉の主題図と解説文で概観される。実現しなかった都市計画も含め,過去になされた都市計画が歴史の軸の中に位置付けられており,未来に向けて議論するための貴重な素材が提供されている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

熊本都市史図解 ー都市形成と都市計画

/①熊本都市 形成史図集 ②熊本都市形成史図集─戦後編─ ③熊本都市計画史図集

熊本市都市政策研究所 編/熊本市都市政策研究所/2021年3月

 近未来の社会に求められる方向性とキーワードを鑑みながら,社会がどのようなインフラを備えるべきか,その実現のためにどのような取り組みが必要なのかを解説している。本書でのインフラは,土木構造物に限らず,エネルギーや水の供給システム,電信通信網,さらには人材育成を含め,社会が成立するために欠かせない要素を広く包含する。第一部は前提知識となる用語の定義,社会制度の解説,定量的分析法の説明に充てられる。第二部は都市計画を含む様々な分野の事例を紹介しながら,国際開発と地方創生の2 つの観点から今後の方向性や課題を指摘する。第三部ではこれらのインフラを開発し運用するために必要な人材育成と資金調達の課題が述べられる。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

これからのインフラ開発

徳永達己・武田晋一/弘文堂/2021年8月

 近年全国的に進められている市区町村庁舎の建替えや改修について,計画プロセスの実際を市民参加の観点からとりまとめた一冊。庁舎計画にまつわる歴史的経緯,検討に求められる視点,ライフサイクルコストの考え方,基本構想・計画の策定ポイントなどについて専門知識を持たない一般市民にも読みやすく解説されている。市民参加の実例として,筆者が関わった下野市新市庁舎の基本設計ワークショップによる検討経緯と成果が詳しく示されているほか,栃木県内の具体事例について,各地の諸事情,制約を踏まえた計画推進の説明や問題提起がされており,公共施設として重要な位置づけである庁舎のプランニングに必要な市民参加のあり方を深く理解することができる。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画355号 2022年3月15日発行)

市民参加の庁舎計画:栃木県を中心に

三橋伸夫/農林統計出版/2020年8月

 本書は,防災公園の効果的な整備促進を目的に,計画・設計についての基本的な考え方を示した技術的指針の,約20年ぶりの改訂版である。近年の災害の激甚化,防災に対する要求の高まりや防災意識の向上といった観点からも,防災公園の設計は今後ますます必要となってくると考える。手に取った人が必要な部分を適宜参照するといった使われ方がなされると思われるが,図版も多く,読みやすくまとめられている。付録として付けられている防災力アップカルテは,市民向け,小中学生向け,管理者向けと3種類用意されているなど,地域における防災力向上の取組みにも使うことができる一冊となっている。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

[改訂版]防災公園技術ハンドブック

公益財団法人都市緑化機構 防災公園とまちづくり共同研究会 編著/鹿島出版会/2021年5月

 本書は,建築・都市計画制度を研究するうえで,これまであまり明示的に意識されてこなかった「政府はなぜ,どのように決定を正当化するか」という問いに正面から焦点を当て,精緻な議論を積み上げている。都市計画における住民参加に関して,日本においては地区計画制度,フランスにおいてはコンセルタシオン創設やPLUを対象に,事例をベースに詳細に検討を行っている。「正当化技術」の5類型の提案や,それにもとづく「正当化技術」の分析は,都市計画制度の研究において,新たな枠組みを示すという点からも高く評価できる。都市計画における意思決定を論じる上で,読むべき文献である。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

決定の正当化技術:日仏都市計画における参加形態と基底価値

内海麻利/法律文化社/2021年5月

 本書は,2部構成になっており,第1 部が事例解説,第2 部はエリアマネジメントのすすめかた,事業,組織,人材それぞれに関する独立した論考である。事例解説では,商店街や地方都市等,最も暮らしに身近でありながらこれまで取り上げられなかった地域に焦点を当て,その地域とエリアマネジメント組織や事業の概要,エリアマネジメントが生まれたストーリーなどが紹介されている。各事例の最後には,注目してほしい論点が提示されていることから,自学に使うだけでなく,研究会,授業や研究などでも活用できる。1部と2部を使い分けることで,エリアマネジメントについて,自ら考え,動くことのできる人材の育成が期待される1 冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

エリアマネジメント・ケースメソッド:官民連携による地域経営の教科書

保井美樹・泉山塁威・日本都市計画学会エリアマネジメント人材育成研究会 編著/学芸出版社/2021年5月

 本書では,人口減少,産業衰退,地価高騰,施設老朽化,地権者等の問題を抱える中心市街地において,「空き不動産」を戦略的に活用する事が重要として,地方都市再生を論じている。経済成長期の「都市化社会」においては,利便性・効率性を追求し標準化されたシステムで都市が計画されたのに対して,人口減少に転じた「都市型社会」においては,持続可能性や地域性が重視され多様な価値観が求められる一般解のない社会であり,地方都市の文脈を踏まえて,生産や消費の在り方を模索した取組の連鎖が重要と唱えており,空き不動産を利活用した「地域経済再生」事例や,新しいコミュニティが形成されている「コミュニティ再生」事例,そして行政による新しい都市政策の取組を紹介して,これからのまちづくりを理解する手がかりを提示している。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

空き不動産問題から考える地方都市再生

箸本健二・武者忠彦 編/ナカニシヤ出版/2021年3月

 本書では,公道走行が可能な低速電動車であるグリーンスローモビリティ(グリスロ)を取り上げる。冒頭には導入各地の豊富なカラー写真が並び,続く第1部でグリスロの定義や導入の経緯が説明される。最も分量が割かれるのが第2部の,各地の事例紹介で,通常車両の走行が困難な狭隘道路を持つ集落や離島,高齢化の進む郊外丘陵部の住宅地,都心部でブランディングツールとしての導入事例が並ぶ。導入に関わった自治体関係者や運行に関わる地元住民などの声が豊富に収録され,高齢者など交通弱者の外出機会の創出,運転手と利用者や利用者同士の交流の場としての機能が強調される。第3部は持続可能な運行やスキームについて考察している。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

グリーンスローモビリティ:小さな低速電動車が公共交通と地域を変える

三重野真代,交通エコロジー・モビリティ財団 編著/学芸出版社/2021年5月

 本書は,全総計画に代表される,国土計画のプランナーとして戦後日本の国土開発に多大な影響を与えた下河辺淳の評伝であるが,意外にもこれまでこういった評伝や下河辺論が執筆されていない。それは,多様で膨大な業績にもかかわらず下河辺自身が著作を残していないこと,そして下河辺に接した人それぞれに多様な印象を与える,単純ではない複雑な人間性を持っていたことなどが理由であったと思う。そのようななかで下河辺に長年仕えた著者による本書は,多岐にわたる業績を可能な限り網羅しながら読みやすく,かつ密度高くまとめている。過去を知るだけでなく,今後の日本や世界のあり方を考えるうえでも示唆に富む良書である。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

下河辺淳小伝 21世紀の人と国土

塩谷隆英/商事法務/2021年3月

 本書は国家としての総合的な政策と交通の関係から,北海道の港湾及び港町の歴史を概説している。特に函館・小樽・釧路・室蘭・網走・苫小牧の6港の発展史が,災害を含む自然環境,社会環境,産業動向,政策的背景と共に多面的に詳述されている。釧路港の修築計画において,周到な事前調査を怠った結果数度の計画変更を強いられ,事業の効果を発現するまでに長い年月と建設費を費やすこととなった事例からは,社会基盤整備における長期の展望の必要性を再確認させられる。北海道というフィールドで,先人たちが厳しい自然を安全・快適に作り替えてきた歴史を知ることは,新たな社会を創っていくうえでのヒントとなる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

北海道みなとまちの歴史:廣井勇が育んだ北の日本近代築港

関口信一郎/亜璃西社/2021年2月

 世界都市のコリドー化と都市のコンパクト化が世界中で進められている。グローバルな経済で相互につながった都市と地域には,課題とそれに対応した解決法が生まれている。本書では,空間的,社会的,文化的な視点で,各分野の研究者が都市を分析しており,都市の変遷,データに基づいた分析結果,参考文献も充実しており非常に読み応えがある。また,日本の都市の事例は無いが,コンパクト・プラス・ネットワーク,コンパクトシティやスマートシティが進められている我が国においても,日本型ポストアーバン世界論を展開していくうえで重要なヒントを与えてくれる一冊である。都市・地域を体系的に学ぶ者にとって有益な一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

ポストアーバン都市・地域論

ハンス・ウェストルンド 他 編著、小林潔司 監訳/ウェッジ /2019年11月

 鉄道の開通が都市の発展や土地利用,人々の生活圏に与える影響については古くから研究蓄積があるものの,その変化は数年や数十年という長期的なものであり,検証にたえうる十分なデータが得られにくいという限界がある。本書は通勤新線3路線,整備新幹線2路線の沿線を対象に,人口実数や住民の居住歴のほか,生活における行動歴や鉄道利用頻度などを調査している。複数対象地間で極力調査項目をそろえ,比較や一般化を目指した点が特徴である。開通後30年経過した地域では一定の傾向がつかめたものの,10年20年ではその後の変化をパターン化しきれず,都市の長期的な変化をモニタリングする難しさとデータ蓄積の大切さを痛感する。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

鉄道は都市をどう変えるのか:交通インパクトの社会学

後藤範章 編著/ミネルヴァ書房/2021年3月

 本書は,インドネシア第2の都市であるスラバヤの歴史について,内陸部の一港町から現在の大都市となるまでをまとめている。ヒンドゥー王国の港市としての「起源」にはじまり,東南アジアのイスラム化,オランダ植民地時代,日本占領そして独立戦争さらには戦後復興の過程において,時代とともに変化してきた都市の変遷を知ることができる。「都市は無数の物語を含み込んだ巨大な書物」と例え,街のあらゆる場所に,様々な出来事や活動の記憶が歴史とともに刻まれているとしている。
 著者の長年にわたるアジア都市研究の集大成としており,東南アジアの都市づくりの歴史や居住環境の変遷に興味のある方にお勧めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

スラバヤ 東南アジア都市の起源・形成・変容・転成:コスモスとしてのカンポン

布野修司/京都大学学術出版会/2021年2月

 本書は,コロナ禍による人々の働き方,暮らし方の大きな変化や影響などからアフターコロナ時代の都市構造の変化について,画一的な計画ではない柔軟なまちづくりの必要性を伝えている。
 現行の都市計画制度における今後のアフターコロナ時代のニーズへの迅速な対応の困難性や,国レベルの都市計画制度見直しの動き,市町村独自の新しい都市計画制度構築の試みなどが整理され紹介されており,アフターコロナに向けた都市計画制度改革がもたらす変化への期待や,可能性,ヒントが整理されており,実務者はもちろん,学生の方々にも参考となる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

アフターコロナの都市計画:変化に対応するための地域主導型改革

石井良一/学芸出版社/2021年3月

 本書は,一般財団法人土地総合研究所内の研究会の成果をまとめたものである。都市計画制度の現行法の抜本的改正をも展望しつつ,都市計画法の「枠組み法化」と「管理型」都市計画の検討を目的として,縮退の時代における「管理型」都市計画制度のあり方を提示している。専門や職域の異なる法律及び都市工学の多くの研究者及び実務者が協働して,執筆していて幅広い。「枠組み法化」と「管理型」の意味や必要性に加え,現行法上の「管理型」制度の仕組みと問題点,縮退の解決のための取り組み状況,これからの都市計画法制の考え方など,縮退に対応した今後の都市計画制度の改正を考えるうえで,お勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

縮退の時代の「管理型」都市計画:自然とひとに配慮した抑制とコントロールのまちづくり

藤田宇靖 監修、亘理格 他 編著/第一法規/2021年2月

 MaaSをシェアリングサービスやアプリ連携といった表面的な事ではなく,交通課題解決と合わせ都市そのものを変えるというMaaSの本質を理解し,持続可能な社会を作り上げていく大切さを伝えている。交通格差拡大や,駐車場や街路空間の役割・機能変容といった諸問題について,海外含めた最先端の事例を通して学ばせてくれると共に,日本においてどのようにMaaSを実装すれば良いかを筆者なりの見解を示してくれている。更には,コロナ禍において従来の公共交通単体での機能低下したなかで,柔軟かつ強靭なモビリティーサービスとしてMaaSの価値が一層高まり,官民挙げて移動回復の取組について紹介されており,withコロナ時代のMaaSの在り方を示唆してくれている。

紹介:企画調査委員 舩橋秀暢

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

MaaSが都市を変える:移動×都市DX の最前線

牧村和彦/学芸出版社/2021年3月

 本書は,公共空間利活用のための工夫とアイデアを,道具という視点から整理したものである。道具についての知を共有することは,まちに対して愛着や関心を持つ市民が,公共空間の利活用に関わることのハードルを下げることにつながるのではないかとの考えのもと,座る(イス),潤い(芝生),かこみまもる(パラソル),コンテンツ(屋台),インフラ(電気,水道),設営と撤収など,公共空間の利活用をする人なら誰もが使うこれらの道具について,実践してみてわかった知恵やノウハウを共有することができる。さらに,公共空間利活用の理論や原則,ルール等についての専門書も紹介されており,入門書としても有用な一冊となっている。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

PPR the GEARs:公共空間利活用のための道具考

西尾京介 他/日建設計総合研究所/2020年3月

 本書は,横浜国立大学都市科学部が2017年に開設されたことを契機に,同学部の教員を中心に編集された事典である。都市の知として設定された10の領域(「歴史」/ 「空間と場所」など)が5つ前後の中項目に分かれ,さらにその下に置かれた項目が見開き2pでコンパクトに解説されるというスタイルである。都市科学という概念は確立の途上にあると考えるが,目次として16ページにわたりまとめられている全476項目のタイトルを眺めることでも,現代の都市を理解するための多領域にわたるキーワードと,都市をフィールドとしてこれまで何が議論されてきたのか,そのトピックをつかむことができるだろう。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

都市科学事典

横浜国立大学都市科学部 編/春風社/2021年2月

 COVID-19 のパンデミックによって,都市はどのようにその「かたち」を変えつつあるのか。本書では日本とイタリアの五名の研究者が,コロナ禍の先に見える,都市とそこでの生活のすがたに関する欧米の調査・研究動向をいち早く紹介し,議論の潮流を読み解いて考察を加えている。学術誌,調査報告,各種メディア記事などの資料調査をもとに,政府による対応の迅速性や,(密度ではなく)「接触」,社会経済的な格差が,感染拡大と死亡率に重要な影響を及ぼすことなどを指摘しており,示唆に富む。海外事例を幅広に眺めることで,現在進行形の危機に対して,一歩引いて冷静に捉える視座を獲得できる一冊。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画353号 2021年11月15日発行)

コロナで都市は変わるか:欧米からの報告

矢作弘 他/学芸出版社/2020年12月

 高校の社会科では2022年度から新科目「地理総合」が必修となる。本書では,この授業づくりのポイントを,前半では「地理総合でどのような人材を育成しようとするのか」,後半では「地理総合の趣旨を活かす授業モデル」という構成で,徹底解説をしている。授業のモデルでは,都市計画図や都市計画マスタープランの活用,まちづくりに向けての構想力の育成も取り上げられている。課題解決ができる能力を育成し,子どもたちが生きていく上で様々な課題に向き合った際に,合理的な判断や意思決定をできるようにするのが「地理総合」の使命であるとされており,未来のまちの創り手を育くむという観点から,都市計画関係者にも,ぜひ本書を一読することをお勧めしたい。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

高校社会「地理総合」の授業を創る

井田仁康 編著/明治図書出版/2021年2月

 近年,災害の激甚化と頻発化が進んでいる。従来はグレーインフラ(堤防など)が防災の中心であった。しかし,本書が指摘するように,グレーインフラは想定内規模の災害では被害を食い止めうるものの,想定外の規模では一気に抵抗力を失う。これに対してグリーンインフラを用いた生態系減災はグレーインフラによる防災性を代替するものではないが,防災性と生物多様性による生態系サービスの双方が期待できると指摘する。本書では,都市的土地利用の拡大で災害リスクがいかに増大したか,グリーンインフラがどのような減災性能を持つのかなどがデータや実験をもとに述べられる。また,復興過程でグリーンインフラによる減災が導入されにくい状況も考察される。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

生態系減災Eco-DRR:自然を賢く活かした防災・減災

一ノ瀬友博 編著/慶應義塾大学出版会/2021年1月

 生きた景観とは「いまも生き生きとある都市やまち,場所を物語る景観」である。日本建築学会都市計画委員会生きた景観マネジメント小委員会が,2017年度から積み上げてきた成果として,本書には1章にその視座,2章に実践,3章に提案がなされている。研究者だけでなく,現場で実践している方々も執筆し,全国30以上の事例が写真とともに掲載されている。年表やプロセス,組織図といった図版も充実しており,表層にばかり目が行きがちな景観ではあるが,本書ではその内情が垣間見える。時代によって,地域によって,人によって,景観の価値や評価は異なるが,本書でこれからの景観のあり方や手法を考えるきっかけが得られるだろう。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

生きた景観マネジメント

日本建築学会 編/鹿島出版会/2021年2月

 本書は中部支部創設30 周年を記念し「新しい都市像を描こう」とした意欲作である。「事例等は中部地方が中心に紹介されることになるが,考え方や方法などは全国の各地方公共団体に当てはまる」とするその意図は,全体構成に反映されている。すなわち第Ⅰ部前半の基本論は「新しい都市像」を形象していく都市機能に対する「集約」の実情とそこからの都市像への展開を,後半の特論は事例も含めたまちづくりの展開が考察されている。そして第II 部は「実践編」として各都市の取り組みが紹介されるが,第Ⅰ部の各論と連携する内容となっており,かつ各都市のセールスポイントを読み解くことが可能となっている。「コンパクト・プラス・ネットワーク」の計画論を体系的に提示した一冊と言えよう。

紹介:企画調査委員会元担当理事 市古太郎

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

変革社会に対応する新しい都市計画像

(公社)日本都市計画学会中部支部/中日出版/2020年9月

 筆者が五十年に渡り実践し,追求してきた環境デザインという領域の研究に基づくデザインと,その成果としての遊環構造デザインについて記された本書。膨大な実践的研究の蓄積から得られたエッセンスが,十二の章に小気味よく落とし込まれており,一読しただけで付箋だらけになってしまった。「こどものあそび環境」「都市の廊空間」「回遊性とイベント性」「距離と景観」「生きるための安全安心基地」と,幅広い対象を取り扱いつつ,最終章の「創造都市のための遊環構造」では,人間らしく生きられる空間がどのようにつくられるべきか,という永遠の問いに対し,現時点における一つの回答が示されている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

遊環構造デザイン円い空間が未来をひらく:

仙田満/左右社/2021年1月

 本書は,都市計画学のメンバーに加えて,生態学,財政学,メディア学,地域政策,環境政策の研究者による福島復興政策10 年間に関する検証であり,原子力災害からの復興,すなわち,広域避難からの除染・帰還に関する知見の大成である。フクシマに身を置いて,時に被災者といっしょに地域回復の営みに汗をかきながら,また,まちづくりワークショップ手法によって「自然(じねん)」の促進に貢献した経験から,説得力ある知見が引き出されている。そしてそうであるからこそ,特殊解としての理解ではなく,「災害」からの回復のあり方について,多くの示唆を引き出し得るように思われる。

紹介:企画調査委員会元担当理事 市古太郎

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

福島復興10 年間の検証:原子力災害からの復興に向けた長期的な課題

川﨑興太 編著/丸善出版/2021年1月

 明治神宮内苑および外苑は,約100 年前に作られた人工の森であることはよく知られている。本書はその設計図である「林苑計画書」を読み解きながら,明治神宮の森の見所や楽しみ方を紹介しているガイドブックである。オールカラーで図版や写真を豊富に掲載するとともに,造園的手法によって作られた苑内の風景の具体的な読み取り方を示すなど,大変わかりやすく,かつコンパクトにまとまっている。明治神宮の森だけではなく,ランドスケープ学への入門書としての役割も果たせるだろう良書である。苑内の見どころをスマートフォンなどを使って現地で確認できるようにGoogle My Map で示す,といった取り組みも面白い。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

『林苑計画書』から読み解く 明治神宮100 年の森

明治神宮とランドスケープ研究会/東京都公園協会/2020年11月

 路面電車がどのようにまちの魅力を高めているか,路面電車が消えてしまったまちで路面電車を復活させるべきか,新たな装いであるLRT をどのようにまちへ導入するのか,事例をもとにまとめている。前半では,国内外の都市の路面電車について豊富な写真とともに紹介されており見ているだけでも旅行をしている気分となり楽しい。後半では,LRTがもたらすまちの変化,LRT を導入するためのポイントを整理しており,サブタイトルである“住みやすいまちとLRT” を考えるための入門書としてお勧めする一冊である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画352号 2021年9月15日発行)

路面電車レ・シ・ピ

塚本直幸 編、塚本直幸 他 著/技報堂出版/2019年3月

 本書は,ウィズ・コロナ,アフター・コロナでの観光政策をイタリアと京都の事例から考え,今後の地方都市の観光再生の戦略が書かれている。新型コロナウイルスの影響により,海外からの観光客がほとんどいなくなり,その経済的損失は大きく,早急なインバウンドの再生が求められている。ただ,経済回復だけにとらわれず,観光は異文化との交流を通じて,多様な文化を受け容れながらわれわれ自身も変わっていきながら,お互いの文化を発展させるものであり,このような観光の姿をインバウンドに求めたいとある。コロナ後の観光まちづくりを考えるうえで参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

インバウンド再生:コロナ後への観光政策をイタリアと京都から考える

宗田好史/学芸出版社/2020年11月

 アメリカの都市再生の事例紹介をよく目にする。その多くは成功事例として注目されているものであるが,実は都市のごく一部で起きていることである。現実の都市の問題は多様で複雑であろうと思われるが,負の部分を含めた全体像を知ることはなかなかできない。本書では,アメリカの都市の現状と都市政策が示され,大部分の地域は衰退し苦闘している実態を明らかにしている。そして,取り残された地域を再生するための方策を提言しているが,それは,難しく,長く,辛い仕事を続けることにほかならない。日本での想像を超える分断されたアメリカの都市の今の状況がわかり,アメリカの都市政策を理解するためにも,一読していただきたい一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

分断された都市:再生するアメリカ都市の光と影

アラン・マラック 著、山納洋 訳/学芸出版社/2020年11月

 コンパクトなまちづくりの都市政策に着目している。LRT だけでない,コンパクトなまちづくりの原点から現在に至る展開の拡がりまでの全体像を歴史的に把握し,まちを歩き,GPS 調査などを重ね,実態を把握し,市民生活の観点からの評価を行いながら,また,富山のまちづくり関係者へのインタビューなどから,富山の都市政策の成果がまとめられている。OECD のコンパクトシティのモデル都市として取り上げられるなど世界的にも評価されている富山市の「コンパクトシティ政策」は日本の都市づくりにおいて極めて重要な取り組みであり,お勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

コンパクトシティのアーバニズム:コンパクトなまちづくり,富山の経験

富山アーバニズム研究会 著、中島直人 他 編/東京大学出版会/2020年10月

 アーバニズムの過去と現在を,建築家・アーバニストである著者自身の足跡とともに振り返った一冊である。1 章では主にアーバニズムの創生期について,2 章では今日の都市がおかれた状況とアーバニズムの現在について,3 章ではアーバニズムの観点からみた東京とその将来像について論が展開される。また,それらを踏まえた4 章では,モダニズムに続く建築とアーバニズムの新たなうねりとして「ニューヒューマニズム」の重要性を説く。全書を通して,著者自ら見聞きしたことや自作に基づいて記述されており,特にキーパーソンたちの詳細な人物描写からは,教科書的整理では見えてこない創生期のダイナミズムを感じ取ることができる。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

アーバニズムのいま

槇文彦/鹿島出版会/2020年5月

 余暇活動の増加や所得中間層の世界的な増大,LCC の台頭等による移動コストの低減など,様々な要因により引き起こされたオーバーツーリズムを主題とした本書。日本の観光政策の振り返りの後,海外5 都市(ヴェネツィア,バルセロナ,ベルリン,アムステルダム,サントリーニ島)と国内3 都市(京都,湯布院,倶知安)におけるオーバーツーリズムの状況と取組が詳細に示される。特に国内事例については,事例紹介にとどまらず各取組に対する著者らの批判や提案もなされており参考になる。新型コロナウィルスにより観光客がいなくなった今だからこそ,ビフォーコロナ時代の観光における課題を十分に把握し,今後の地域のあり方を検討することが求められる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

ポスト・オーバーツーリズム:界隈を再生する観光戦略

阿部大輔 編著/学芸出版社/2020年12月

 筆者は,森ビル創始者である森泰吉郎氏,後継者の森稔氏の下で世界的な大規模再開発に携わってきた。本書は,直接当事者として関わった新橋・虎ノ門地区のナンバービル,六本木ヒルズ,GINZA SIX等のプロジェクトについて,開発の考え方や事業のプロセス等を紹介している。
 近年,東京は様々な大規模開発プロジェクトによって,質の高いオフィスビルが大量に提供されたが,世界を動かすような企業が生まれていない。これからの大規模開発は,時代の変化に対応するとともに,開発敷地だけでない周辺の地域価値の向上について意識する必要があるとしている。
 都市開発に携わる方や興味を持っている皆さんにぜひお薦めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

地域価値を上げる都市開発:東京のイノベーション

山本和彦/学芸出版社/2020年11月

 本書は,広場や遊歩道などをはじめとした公共空間活用による都市再生について,店舗軒先活用等の身近な個人のアイデアにより,できることから始めることで専門家でなくとも居心地の良い空間を創造できることを教えてくれる。
 仮設建築による社会実験など国内外の事例が,小さな移動家具からエリア規模の都市に至るまでのスケールごとに分かり易く分類されて照会されており,公共空間を活用する際の制度やルール,イラストを使ったアイデア等空間活用の可能性やヒントが掲載されおり,学生の方々にも読みやすく,分かり易い一冊となっている。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

テンポラリーアーキテクチャー:仮設建築と社会実験

馬場正尊 他/学芸出版社/2020年12月

 ドイツのライプツィヒを対象とした著者の活動記録である。東西ドイツ統一後の人口大量流出により発生した空き家や空き地だった場所から,近年急激な若者や外国人による人口増加し,家賃が上昇したことにより元からいた住民が追い出されるというジェントリフィケーションが起きている状況や中東からの移民の流入による社会情勢の変化をデータや活動実態から詳細に説明している。東西ドイツ統一,経済崩壊,移民や難民流入と短期間で起きた社会変化の状況下で,外国人である著者だからこそできた隙間での活動であり,この隙間での活動内容は,人口減少が激しい日本の地方都市において,参考になる内容といえる。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

都市の<隙間>からまちをつくろう

大谷悠/学芸出版社/2020年11月

 地理情報システム(GIS)では,一般に空間上の地物の位置は座標で管理される。領域の場合も外周線は幾何学図形で与えられ,明確な境界が定義できることが前提とされる。しかし,都市解析では,小地域や用途地域のように領域が確定しているもののほか,「東京駅の近く」のような近傍表現や「秋葉原」のように町名ではない通称など,明確な領域の定義が難しいケースを扱うこともある。本書は,「2000年頃」のような時間軸の場合も含めた時空間データの曖昧性を整理し,それを解析する方法論を提案する。後半では,古地図,地形,ビッグデータ,敷地形状など,秘匿処理や精度の問題から曖昧性を有するデータを実際に活用した解析事例が紹介される。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

あいまいな時空間情報の分析

浅見泰司 他 編著/古今書院/2020年12月

 本書は,日本建築学会に設置された「日本建築和室の世界遺産的価値特別調査委員会」等の活動を元にまとめられており,「和室」を無形文化遺産とする大きな目標を掲げている。「和室」という当たり前のフレーズであるが,その定義について考えはじめると奥が深い。和室の価値について世代を超える共通項や優れた特徴,歴史,空間,習慣,著名建築家が試みた作品,現代生活に関する調査分析等,10名の専門家による多角的視点で構成される。末尾には,和室に関係する100 作品リスト(建築,その他学術,文学,漫画,映画)も掲載されている。日本人の生活文化や精神文化と和室の深い関わりについて学べる本であり,和室の新たな価値を再考させられる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松尾真子

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

和室学:世界で日本にしかない空間

松村秀一 他/平凡社/2020年10月

 「仮住まい」から「定住」へと直線状のライフコースが標準化されてきた戦後日本の住宅政策において,社会の「動的」な持続を支える「仮住まい」の役割を見直し,再評価の必要性を説く。「仮住まい」をキーワードに,著者がこれまで発表してきた論稿を元に各章が再構成されており,持ち家取得政策と住宅資産の分析に続き,「実家住まい」,「賃貸住まい」,「仮設住まい」という枠組みから「仮住まい」が捉えられ,種々の調査データからそれらの実態が可視化されている。成長後社会の住宅政策において重要な観点が提供されるとともに,誰しもが逃れられない,自身の「住まい」というテーマについても考えさせられる,読み応えのある一冊である。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

「仮住まい」と戦後日本

平山洋介/青土社/2020年10月

 本書は,交通工学研究会が発行する「平面交差の計画と設計─基礎編─」をベースとした自転車交通の処理方法に特化して解説した書籍である。自転車交通をめぐる動きは,近年目まぐるしく変化しており,2015 年の初版発行から,あらたな研究でえられた自転車の走行特性のデータなどの反映,自転車用信号現示を含む信号制御方法,左折車線のある交差点での設計例,自転車ガイドラインの改訂,国内各地での路面標示設置事例,交通規制方法,道路構造令改正への対応などの記載が充実しており,自転車通行を考慮した交差点を設計するための基本書であるといえる。

紹介:企画調査委員 梶田佳

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

自転車通行を考慮した交差点設計の手引き

(一社)交通工学研究会/丸善出版/2020年10月

 本書は人の感覚から空間デザインを考えることについて,具体的実験例も触れられており,専門的な知識だけでなく,なぜそのようなデザインとなるかというデザインの必然性という観点からも分かり易く読み解くことができ,注意喚起等過剰な足し算による「プラスのデザイン」から,情報ノイズを除いて整理された「マイナスのデザイン」とすることで,健常者にもより分かり易く,より多様性のとれた空間づくりへとつながって行くことが分かる。 公共空間等の設計実務者はもちろんのこと,ユニバーサルデザインに関する分野を学ぶ学生の方々にも分かり易い一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

ユニバーサルデザインの基礎と実践

原利明 他 著、(一社)日本福祉のまちづくり学会 身体と空間特別研究委員会 編/鹿島出版社/2020年10月

 立地適正化計画が制度化されたこともあって,コンパクトシティ計画の中での拠点への注目度は高まっている。本書の前半は事例集と位置付けられ,都市中心部,コミュニティの中心,中山間部という立地による整理がなされる。後半は考え方編とされ,計画の根拠となるデータの分析,立地適正化計画における拠点の位置づけ方,市民や民間との連携,実際の空間設計,運営体制と,拠点の立地の選定から整備後の運営までの時系列に沿った解説がなされる。後半も基本的な構成は事例集であり,豊富な事例が図表や写真とともに体系的に眺められる構成になっている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

コンパクトシティの拠点づくり

野嶋慎二 他 編著/学芸出版社/2020年10月

 本書は,人との長年のかかわり合いの中で形成されてきた都市を対象に,その成り立ちと変遷,現状の課題,課題解決のための取り組みと展望を論じている。第1 章では,都市の定義を整理し,第2 章から第4 章では,生物多様性,人と自然との関わり合い,自然の恵みの3 つの観点から,最新の研究を交えて紹介している。都市づくりに都市生態系の視点や知見を還元した本書は,純粋な自然科学でも社会科学でもない,分野横断的な読み物と言える。生態学や環境学に関わる研究者,学生はもちろん,農林水産業,土木,都市計画に関わる行政,企業,ナチュラリストなど広範な読者のための教科書,副読本としてお勧めできる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

人と生態系のダイナミクス:3.都市生態系の歴史と未来

飯田明子 他/朝倉書店/2020年10月

 本書はブルームバーグニューヨーク市長の下,2007 年から2013 年にかけて市交通局長を務めたサディク=カーン氏自身による,人間のための街路を取り戻す「闘い」の記録である。タイムズスクエアの歩行者空間化に代表されるニューヨークの交通や関連する公共空間を劇的に変革したことで広く知られるが,冷静で論理的,エネルギッシュで楽天的な彼女自身がプロジェクトを実現させる推進力であったことが良く分かる。正しいアプローチをとれば都市は必ず良くなること,それを他ならぬ市民自身が支持してくれることを改めて示した本書は,日本におけるこれからの交通空間や公共空間の変革にも大きな示唆を与えている。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

ストリートファイト:人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い

ジャネット・サディク=カーン 他 著、中島直人 他 訳/学芸出版社/2020年9月

 2016 年に出版された「人間の居る場所」の続編である本書は,著者のインタビューや対談をまとめたものである。「愛される街」「街を動かす女性」「シェアとケアの場所」と題した3 部構成は,どれも鋭い視点で問題提起されている。ヒューマンスケールとは人間の悲しみを受け止めるスケールであるという言葉に示されるように,我々の凝り固まった考えに一石を投じ,現代の都市を考えるための新たな視点が得られる。西荻窪の魅力から語られる本書にはいくつもの街が登場し,それぞれに著者の街への思いが溢れている。小気味良い文章で読みやすく,何度も手に取る一冊である。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

愛される街:人間の居る場所 続

三浦展/而立書房/2020年5月

 “こくりつ” ではなく“くにたち”。東京都国立市が出版する本書は,自治体としては異例の新書としてのシリーズもの。分厚くお堅い冊子ではなく,誰もが手に取りやすいサイズでわかりやすくまとめられており,人を重視し,対話と参加を大切にする市の姿勢がしっかりと伝わってくる。ソーシャル・インクルージョンや地域包括ケアシステム等,今後取り上げる予定の施策の取材記としての第一部。知っておきたい場所や理念が整理され,まちを形成する要素の成り立ちや歴史を知ることができる第二部。行政理念の根幹となる基本構想と歴代市長の施政方針を記した第三部をみれば,市に連綿と受け継がれるものを再確認することもできよう。続編の発刊を期待したい。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

国立を知る

国立新書編集委員会/国立市役所政策経営部/2020年3月

内容,寄稿などで構成されている。1章から3章では,これまでの住宅研究の流れを体系的に学習することができる。また,4 章から6 章で,健康な住宅と健康な都市のありよう,都市への権利として居住地の考え方や,住宅の所有と社会変化などの視点で,とりまとめられており,今後,住宅のみならず都市を考えるうえでの手掛かりとなる。また,参考文献も充実しており,都市計画を学ぶ院生や,実務者にお勧めする書籍である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

未来の住まい:住宅研究のフロンティアはどこにあるのか

野城智也 他/柏書房/2019年3月

 本書は,おとなが主体的な住まい手として住生活を営むために必要とする力を「住まい力」とし,住まい力がなぜ必要なのか,住まいの学びとは何かについて問題提起をするものである。日本の「住教育」はかつて家庭科教育の一部として捉えられがちであったが,現在では街や地域社会へ関心を向けさせる,社会性のある学習に変化していること,また,自然災害の多発やコロナ禍において,「住まい力」は今後再考されるべきテーマであり,都市計画の観点でも注目したい。

紹介:企画調査委員 松尾真子

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

おとなのための住まい力:知識・経験・リテラシー

(一財)住総研「おとなのための住まい学」研究委員会 編著/ドメス出版/2020年8月

 “模造紙と付箋だけがワークショップじゃない。” という帯の言葉通り,様々なタイプのワークショップ事例が紹介される。アートや介護,福祉分野での事例も含めて俯瞰することで,都市計画分野におけるワークショップの立ち位置が再確認できる。戸惑いも含めて多義的な議論を生み出すことが出来るアート分野においては,合意形成や一義的な目的をもって行われることが多い都市計画分野のワークショップではあまり見られない工夫や発見がある。80 歳以上を対象としたアイスブレイクの実例等からは,その場の対象や目的に応じた導入の重要性が示される。ワークショップという共通言語を通じた学際的な検討を通じた発見の数々は,一読の価値がある。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

素が出るワークショップ

饗庭伸 他 編著/学芸出版社/2020年9月

 本書は公共空間活用のための指南書であり,空間を楽しくするための手順やコツがレシピとして紹介される。11 の国内事例を対象としているが,各事例は6 つの「型」に分類されている。屋外劇場型,社会実験型,参加体験型,持続発展型,機能再編型,そして期間限定型。準備のための詳細な年間スケジュールやプロジェクトの収支も示されており,具体の検討がしやすいように工夫されている。COVID-19の流行により,公園などの公共空間の持つ価値が再評価されているが,公共空間の活用が地域の未来をより良くできるという著者の信念が伝わってくる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

楽しい公共空間をつくるレシピ

平賀達也 他 編著/ユウブックス/2020年7月

 まず超高齢社会の到来という現状を整理したうえで,それをチャンスととらえるため,観光行動の地方型コト消費への変化,自然環境豊かな日本のポテンシャルなどが述べられる。このことがスポーツツーリズムやスポーツによる地域マネジメントの視点へと読者を導く。行政でも国民の健康増進を目的とした体育から,余暇活動としてのスポーツへと政策の視点が移りつつある。さらに自治体等が管理するスポーツ施設の運営方法の改善やプロスポーツチームによる地域貢献活動などに言及しながら,人口減少に伴う都市の諸問題に,スポーツの力を借りていかに挑んでいくかが考察されている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

スポーツ地域マネジメント

原田宗彦/学芸出版社/2020年8月

 本書は,東京湾岸地域を生活者目線から身体的なスケールでとらえ,建物,道路,橋梁,まちづくりなど様々な「証」から,その土地の歴史や文化を読み解いている。東京湾岸地域の情報紙で掲載された計41 本のコラムを11 地区ごとに紹介しており,地区ごとの成り立ち,地名由来があり,興味のある地区から気軽に読める。東京湾岸地域づくり学(鹿島出版会,2018 年出版)の姉妹本である。本書の対象地域は,2021 年に延期予定とされた東京2020 オリンピック・パラリンピック大会の選手村と14 の競技会場があり,この地域を見つめるにはお勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

ぐるっと湾岸再発見

志村秀明/花伝社/2020年7月

 気候変動による自然災害が近年多発しており,グリーンインフラを取り込んだ治水対策が大きく扱われるようになったことに加え,昨今では新型コロナウィルスによる行動制限やテレワークなど,心身ともに疲労した健康対策としてグリーンインフラの重要性が意識的にも大きくなってきた今だからこそ価値のある一冊だといえる。総520 頁と読み応えのある内容だが,グリーンインフラを巡る動向や取り組みなどの知見や方策が網羅されており,土木,建築,都市計画など幅広い分野の必要な情報がカバーされている。実務者だけでなく,都市に関わる分野を学ぶ学生にも是非一読して欲しい。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

実践版!グリーンインフラ

グリーンインフラ研究会 他 編/日経BP/2020年7月

 多くのエリアマネジメント組織が,財源に関する課題を抱えている。そうしたなか本書は,わが国において海外に比べて立ち後れているエリアマネジメントの財源確保について体系的に整理したものである。前半ではエリアマネジメント制度の仕組みと財源について,後半では関係者が資金負担をする根拠となる「効果」の示し方について,それぞれ整理している。国内外の先進事例が豊富に紹介されており,持続的なエリアマネジメントを模索するうえで多くの示唆を授けてくれるだろう。エリアマネジメントに携わる実務家や研究者に広く一読を勧めたい。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

エリアマネジメント 効果と財源

小林重敬 他 編著/学芸出版社/2020年3月

 東京都立大学及び首都大学東京の地理学教室において蓄積されてきた,世界都市・東京に関する地域研究の知見が集約された一冊。地形・気候や動植物,歴史文化や経済・観光など,自然地理学と人文地理学に基づく各論で独立した章構成を取り,全体を通して読むことで総論的に東京の都市形成の背景や現況の都市構造が理解できる構成となっている。東京という都市を論じる上で,押さえておきたい都市形成の背景や現況に関する基礎的な項目が概括的に整理されており,まちあるきの際の手引き書としての利用や,高校地理からの応用的な学習,学生の研究テーマの検討などにお薦めしたい。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

東京地理入門

菊地俊夫・松山洋 編/朝倉書店/2020年4月

 本書ではまちづくりを「地域課題の解決や生活の質の向上のための活動を住民らが主体的に行うこと」と定義し,まちづくりプロジェクトを「定常的なルーチンワークとは異なるテーマ型の活動」と定義しており,プロジェクトの始まりから終わりまでに検討・留意すべき内容が流れの中でまとめられている。また,広報に用いるメディアの特徴と用途別の向き・不向きの一覧表や,まちづくりプロジェクトの担い手組織の特徴(根拠法や設立の方法,税制上の特例など)の細やかな情報整理もなされている。筆者が携わった具体事例の紹介や,助成金コンペの企画書を審査する例題等の工夫により,まちづくりプロジェクト未経験者でも理解しやすい一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

まちづくりプロジェクトの教科書

小地沢将之/森北出版/2020年5月

 アメリカにおける空き地・空き家問題の解決にむけた取り組みを紹介し,日本の現状と比較しつつ分析した一冊である。筆者自身の調査にもとづく豊富な事例紹介は,行政当局の現場感覚を垣間見ることができる詳細なものであり,その参照価値は高い。本書の端々からは,周辺に不利益をもたらす空き地・空き家への対応には私権制限も辞さないという,当事者自治体のシビアな姿勢が伝わってくる。それゆえに紹介されている解決方策の多くは本邦の現状に照らすとかなり大胆に見えるが,本書の最後には日本が参考とすべき点が簡潔に整理されており,多くの示唆に富む。空き家問題に取り組む研究者,実務者に一読を勧めたい。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

アメリカの空き家対策とエリア再生:人口減少都市の公民連携

平修久/学芸出版社/2020年3月

 都市公園に関わる際に直面する課題や疑問に対し,その理解の助けとなる「都市公園法」と関連する法令の規定や考え方を市民・民間事業者・行政の3 者の対話形式により紹介している。都市公園の基礎知識だけではなく,民間事業者による整備・管理運営,行政の課題とその対応方策など,公園に関わる主体の問題意識やその関わり方が理解しやすくまとめられている。それぞれの話題の最後には,法令を読み解く際のヒントとなる「条・項・号の違い」や最新の事例が示されており,公園専門の職員でなくても,都市公園の法律の理解やその運用ノウハウとして活用しやすい。まさに,都市公園を使いこなすための取扱説明書となる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

都市公園のトリセツ

平塚勇司/学芸出版社/2020年7月

日本建築学会「まちの居場所」研究ワーキンググループの研究成果として,各研究者によって活き活きとした研究・調査・実践事例を紹介している。誰かの居場所をどのように「作る」のか,その難しさとともに,誰かの居場所であり続けるためには,誰かが「支えて守って育てて繋ぐ」ことも大切な視点であると改めて考えさせられた。また,その人自身で作り,支えて守って育てて繋ぐような「まちの居場所」に対して,専門家は気配を消しながらどのように関与していくのか,今後より考えていく必要性を痛感した。巻末にある豊富なアイデアと多彩な書籍の紹介は,それらの課題の解決策を導く援けになるだろう。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

まちの居場所 ささえる/まもる/そだてる/つなぐ

日本建築学会 編/鹿島出版会/2019年9月

 本書は,「人」に焦点にあて,ヤン・ゲールが目指す「人間の街」を実現するために力を尽くした仲間たちの物語を通して,人間重視の街づくりの理念と実践が書かれている。都市のデザインは,移動の負担を最小限に抑え,人びとが公共空間での生活を楽しむことを可能にし,人びとが偶然に出会う機会をつくりだし,常に人びとを第一に考えることで,社会的交流の多様性を最大限に高めるものでなければならない。本書では,ヤン・ゲールが「人びとを可視化」しながら,コペンハーゲンでの実験による理論の開発・検証,世界各国で出版された著書,世界各地で
のプロジェクトが書かれており,公共空間を人間の場所にすることを考えるにはお勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

People Cities 人間の街をめざして:ヤン・ゲールの軌跡

アニー・マタン 他 著、北原理雄 訳/鹿島出版会/2020年7月

 本書は,交通計画の基本からMaaS や自動運転などの新しい交通技術などの幅広い内容に触れながら,学ぶ人に最も基礎的な内容を伝え,また,図表を多く用いてわかりやすく解説している,さらに,授業と社会のかかわりを理解してもらうため実際の交通計画事例を紹介しているのが特徴である。事例を多く掲載しながら,平易かつ丁寧に記述しており,学生が容易に予習することも可能な内容に配慮しており,また,アクティブラーニングの反転授業にも用いるように配慮しており,交通計画の基礎とは何かを理解するのには,よいテキストであると言える。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

わかる交通計画

森田哲夫 他 編著/学芸出版社/2020年4月

 国際的な観光客増加を背景に観光地間の競争が激化しており,国や地域はブランドを構築,強化し,世界に向けて発信していくことが求められている。本書では文化,芸術,伝統への共感,住民の魅力の創出,環境への配慮,社会への貢献といった様々な視点からプレイス・ブランディングの意義と可能性を論じている。まずプレイス・ブランディングを実践するための手法を10 のステップで解説し,さらに国内外の先進事例を紹介している。歴史的な経緯や展開が丁寧に解説されており,観光やまちづくりを専門としない人にも読みやすい内容となっている。これからの観光業を考える上で重要となる知識やノウハウがまとめられている良書といえるだろう。

紹介:企画調査副委員長 村上暁信

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

DMO のプレイス・ブランディング

宮崎裕二 他 編著/学芸出版社/2020年6月

 この物語は著者が,観光施設としての活用に向けて空き家となっている飯坂町の名門・堀切家の屋敷を訪れるところから始まる。屋敷の母屋の取り壊しが既定方針となっていたが,その理由の一つは部屋の造りも庭の造りも質素だからであった。福島県筆頭の豪農・豪商の母屋とは思えず著者は不思議に思う。その後,案内された蔵で目を奪われたのは,至る所に外国の荷札や旅行標識が貼り付けられた古い大型の旅行鞄。家屋敷より世界を歩き外交や政治・経済・行政に関わり,国を開き地域に尽くすことこそ堀切家の精神であり,こうした人物を誇ることが国の光を観せるという本来の観光であると気づかされる。関東大震災・戦災からの復興に携わり,住民主権の制度構築を求めた堀切善次郎の生涯をぜひ知ってほしい。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

堀切善次郎伝

紺野浩/まちづくり技術士事務所/2020年4月

 約一年前に出版された前作から後の世界中でのスピード感をもった様々な動きを踏まえつつ,MaaSの深め方・広げ方(とその意義)を考察している。具体プレイヤーへのインタビュー記事も多数掲載されており,MaaSは “生活者にとっても都市にとってもメリットがあるように行動を変えることまでできるのが本当の価値”と語るスタートアップ企業Trafiマネージングディレクターのクリストフ・シュミンケの言葉が印象深い。こうした記事を通じてMaaSの考え方や理論を腑に落としつつ,交通を出発点として新たなものの見方を獲得できる良書。MaaSを単なるバズワードに終わらせたくない,という筆者たちの思いが伝わる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

Beyond MaaS

日高洋祐 他/日経BP/2020年3月

 建築設計,環境設計,都市計画という少しずつずれた専門を持つ3名が,40年を超えて一つの町に携わり続けるとどうなるか。本書にはその結果の一端が示されている。主に建築と土木の設計について紹介がなされており,数多くの図面と写真を通して町の姿を知ることが出来る。目を引くような印象的な公共施設,町全体の風景に馴染み,時間経過によってさらに調和が深まる住居・道路・公園。住宅建築コンクールと景観条例の制度を通じて,少しずつ変わってきた町に対する筆者の思いを知ると,まちづくりにおいて長期展望を持つことの重要性を再確認させられる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

金山町-中心地区-街並みづくり100年計画

林寛治 他/求龍堂/2020年3月

 本書では,筆者らが考案した建物のペンキ層の「こすり出し」により現れる「時層色環」を用いた建物の実体及び住み手を対象とする町並み色彩調査の手法を軸として,活動のきっかけとなった函館市西部地区に加え,比較対象である神戸やボストンにおいて実施された町並み色彩形成の仕組み調査が記録される。併せて,函館においてそれらの調査から派生的に繋がっていった色彩まちづくりのムーブメントへの展開も記述されており,町並み色彩計画において,動的に変化する「生活環境色彩」という地域の歴史・文化やコミュニティ・生活意識に基づく観点の重要性など,記号・数値化された色彩論とは異なる町並みと色彩の新たな関係性が提案されている。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

色を使って街をとりもどす

柳田良造 他/学芸出版社/2020年3月

 都市を構成する色の選び方と設計手法について,見方や考え方が取りまとめられた一冊。建築・土木のデザイナーや景観まちづくりの実務を担う行政職員が,自身で色を選択し,組み合わせを考える手助けとなるよう意識されている。前半は「色を知り/色を考えるための50のヒント」として環境色彩デザインの考え方や配色の効果,自然界の色彩構造,まちなかでの色の方法論が綴られている。後半には色彩を使いこなすための最低限の基礎知識と,実際の建築・土木構造物から彩色した目安が紹介されており,色彩計画の実践ノウハウも充実している。色彩を説く書籍よろしくオールカラーで,見開き2頁に1つのヒントが簡潔に説明されており楽しく軽やかに読み進められる。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

色彩の手帳:建築・都市の色を考える100のヒント

加藤 幸枝/学芸出版社/2019年9月

 都心部における駐車場に関する課題に柔軟に対応するための,附置義務駐車スペースの減免を核とした「地域ルール」について,約15年運用されてきた大丸有(大手町・丸の内・有楽町)地区の先進事例を軸に詳説された書である。日本の駐車政策の変遷をたどりながら,地域ルールの誕生に至る背景や効果が述べられており,まちづくりへの展開の考え方も理解しやすい。ルール適用申請,計画審査,需要推計といった実務事項のほか,住民参画の実現のための組織運営についてもまとめられている。今後新たな地域ルールを検討する際に,その思想・本質を理解し,まちづくり計画の中で地域実情に見合った駐車施策の解を模索するには大いに参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

駐車施策からみたまちづくり

大手町・丸の内・有楽町地区駐車環境対策協議会 編著/成山堂書店/2019年11月

 戦後住宅不足解消のための住宅政策により,経済成長・人口増加の時代において特に中間所得層による借家から持ち家へと住まいの「はしご」を登るライフコースが標準化され,「マイホーム」を手にする人々が増えていった。しかし,バブル経済崩壊後,高齢化,若年層の雇用不安定化などにより住まいの「はしご」を登ることが困難となる人々が増え,「マイホーム」を手にするというライフコースが揺らぎ始めている。本書は日本における住宅政策と諸外国との比較や,戦後から経済成長,高齢化,経済政策など多面的な要素から住宅政策の重要性と困難性を問題提起しており,成長後社会においてのこれからの住宅政策の重要性を伝える一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

マイホームの彼方に

平山洋介/筑摩書房/2020年3月

 世界の自然災害の中で,発生件数が最も多く,大きな人的・経済被害を出しているのは台風やハリケーンなどの降雨や強風による水害である。2005年8月末にアメリカ南東部を襲った大型ハリケーン・カトリーナの災害の全貌と,被災地ニューオリンズ市の住宅復興政策,復興戦略・計画技術を論じた本書は,丹念なフィールド調査により,州政府の住宅復興政策と市当局のプログラムの実態を明らかにしている。ボランティア労働力を活用した住宅修繕や,居住環境の再生に向けた地域住民による総合的な復興まちづくりといった内容は,防災・減災,建築・都市計画に従事する行政職員はもちろん,これら分野を学ぶ学生にも参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

米国の巨大水害と住宅復興

近藤民代/日本経済評論社/2020年2月

 公共空間のマネジメントについて,理論的考察に加えて,実証的研究プロジェクトの分析を通して課題を描出するとともに,改善のための解決策を提示した一冊である。本書は二部から構成される。第一部では,多岐にわたる文献に基づいて,概念の整理,議論の潮流の整理などを通して,実証的研究のための土台が用意される。第二部では,三つの実証的研究の成果に基づいて,理論・実践両面での幅広い議論が展開され,課題と解決策が示される。分析対象とする事例は世界各国に及び,公共空間マネジメントの課題と解決の方向性に関して,国際的視座から俯瞰する視点を授けてくれる。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

パブリックスペース:公共空間のデザインとマネジメント

マシュー・カーモナ 他 著/鹿島出版会/2020年1月

 銀座通連合会の100年史。A4版・224頁のボリュームで,銀座の様々な場面を切り取った写真を含む“いま”につながる歴史と,100周年座談会・歴代会長理事長インタビューを収録。多くの歴史的記録が取りまとめられており,“欧米大都市においてはむしろ歩道の広さを競うの風あり”として車道拡幅への抗議を示した大正十年の東京市への請願書等,現代でも通じる半世紀以上前の議論・提案の数々。シンボルである柳の撤去と復活,歩行者天国誕生や銀座ルール条例化の経緯をみて,地元と行政の関わり合い方に思いを巡らせるのも面白い。オリンピックやオイルショック,モボ・モガなど,社会的・文化的な動きも幅広く整理されており,当該地域を知るにあたり知っておきたい歴史背景が一つにまとまっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

次の,100年へ。次の,憧れへ。

銀座通連合会/銀座通連合会/2019年12月

 本書では関心が高まるデンマークの社会モデルの日本における応用を念頭に置き,横断的な切り口からその社会システムが紹介される。前半は格差の少ない社会システムが形成されてきた背景,都市デザインにおけるサステイナビリティの実装,北欧型民主主義に基づく行政システム,クリエイティブな産業活動の特徴など,デンマークのスマートシティの特徴である広範な領域を取り巻く論点からの整理が展開される。後半は上記をベースに形成されてきた「人間中心」の思想に基づくスマートシティなどの社会プラットフォームのフレームワークや,日本へのローカライズに関する考察がなされている。文化・歴史的背景を含めた他国の社会モデルを相対的に捉えることで,日本の文化風土を生かした社会システムの導入・検討に資する一冊である。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

デンマークのスマートシティ

中島健祐/学芸出版社/2019年12月

 本書はドイツのエアランゲン市を拠点として活動する著者がドイツの地方都市について様々な視点から述べるシリーズである。エアランゲンは人口10万人程度の地方都市だが,人々の活気の高さ,深い愛着,高いGDPを誇る経済力に対し,疑問を生活者視点で丁寧に解説していて,とても読みやすい。今回はスポーツに着目しているが,ドイツではサッカーをはじめ,サイクリング,ウォーキングなどスポーツが政治や都市構造を動かす原動力になっていることがよくわかる。平地が多い地形や国民性の違いから,日本の都市ですべてを取り入れることは難しいが,本書をもとに日本に合う方法を考えるきっかけになるだろう。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

ドイツのスポーツ都市

高松平藏/学芸出版社/2020年3月

 外国人観光客の増加によるオーバーツーリズムにより,地域資源の破壊,交通渋滞,地価高騰など,様々な地域で社会問題となっている。また,映画やSNSなどソーシャルメディアが生み出す新たな問題にも触れている。本書では,有名観光地として,バルセロナ,ハワイ,ヒマラヤ山脈,京都,沖縄など有名観光地の問題をデータに基づき丁寧に解説されており,観光やまちづくりを専門としない人にも読みやすい。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により観光にも大きな影響を与えたが,公共交通や衛生面でも
人々の意識が大きく変化した今だからこそ,今後の観光を考えるための重要な位置づけとなる一冊といえるだろう。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

オーバーツーリズム

高坂晶子/学芸出版社/2020年3月

 本書は,アートを通じたクリエイティブな活動がもたらす地域の活性化とそこに至るまでのプロセスや,担い手が育ちまちづくりへとつながる可能性を既存の公共施設を活用した事例等アートを実践する側の目線として紹介している。クリエイティビティは,芸術家や一部の専門家だけが持っているものではなく,人々の日々の営みの中で,より良い環境を求めて生きる知恵として発揮さて行くということが,実践に基づき示されており,近年のアートによる地域活性化やまちおこしについてヒントをくれる。また,住民主体によるクリエイティブな活動は地域との様々な化学反応により,アートに留まることなく,様々な文化活動へと裾野を広げていく。地域の魅力発見や地方創生,地域資源の活用による地域活性化やまちづくりへの有益な知見となる一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

アートがひらく地域のこれから

野田邦弘 他 編著/ミネルヴァ書房/2020年3月

 都市の骨格を構成するストリートについて,通行空間以外の滞留や交流といった多様なアクティビティを実現し,地域の象徴的空間や賑わいを演出するための方法論について体系化されたものである。ハード整備のためのデザインと,活用・管理を含むマネジメントを一体的に捉えた概念として「デザイン・マネジメント」を定義し,ストリート空間を歩行者にひらくための手法について,国内外の豊富な事例に触れながら実運用におけるヒントが示唆されている。歩行者中心の道路空間の構築に向けて創設された,歩行者利便増進道路と滞在快適性等向上区域の両制度を活用・実践するにあたり,求められる知識やノウハウについてエッセンスがまとめられているといえる。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

ストリートデザイン・マネジメント:公共空間を活用する制度・組織・プロセス

出口敦 他 編著/学芸出版社/2019年3月

 富士山は世界自然遺産ではなく世界文化遺産として登録されたことはよく知られている。本書は富士山の世界登録遺産に向けての実務や舞台裏が書かれている。世界遺産登録のためには,それまで漠然と認識されていた当該遺産の価値を所与の基準に沿って客観的に説明する必要が生じる。文化遺産では文化的背景も説明できなければならない。さらに遺産としての範囲を明確に定義したうえでその中の保護政策を明確化すること,その保護政策によって私権が制限される地権者などの同意を得ることなどが必要となる。これらの観点は価値判断の客観化や範囲の明確化など,まちなみ保全の政策にも共通するものではないだろうか。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

富士山世界遺産登録へのみちのり

田畑貞壽 編著/ぶんしん出版/2020年2月

 サイクルツーリズムの実践方法を丁寧に解説した一冊である。コースやマップの作り方からルール・マナーの考え方まで余すことなくカバーしており,サイクルツーリズムの全容を掴むことができる。筆者らが10年にわたって実践してきた琵琶湖一周サイクリング「ビワイチ」を中心として,国内外の豊富な事例にもふれつつ,サイクルツーリズムの進め方が詳細に説明されている。具体的なノウハウやアドバイスも豊富で,本書を読めばすぐにでも第一歩が踏み出せる内容となっている。自転車を活用した地域振興に関心を持つ実務家に一読を勧めたい。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

サイクルツーリズムの進め方

藤本芳一・輪の国びわ湖推進協議会/学芸出版社/2019年10月

 「公共デザイン」とは何か。1章,2章でそれぞれの立場から専門家がその考え方について論じている。景観,都市計画,ランドスケープといった専門の違い,設計や行政といった職種の違いのある専門家である。それだけ公共デザインに関わる専門家は多岐に渡り,それぞれの見方があるのだと公共デザインについて改めて考えさせられる。3章では実際に携わった専門家が,多彩な図を交えて長期に渡る公共デザインの事例について解説している。「公共デザイン」とは何か。一言では表し難い,広汎で奥深いデザインについて,読者それぞれの立場から本書を通して考えてみてはいかがだろうか。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

まちを再生する公共デザイン

山口敬太 他 編著/学芸出版社/2019年6月

 文化施策,観光振興,産業振興,多文化共生・国際交流,まちづくり,教育の6章構成となっており,地域に関わる活動や人に着目した地方都市の事例を紹介した一冊となっている。商店街活性化や廃校活用など,既存の施設や自然などを活用できる場として捉え,経緯や主体,運営費,利用料などのその仕組みや営みが丁寧に説明されている。行政や企業など計画や施策を考える際に多種の事例から学べる内容が多く,参考になる一冊となる。また,学生でまちづくり演習や観光,都市計画を学ぶ際にも,さらに一歩先の提案を見込める原動となり得るほど実際の細かな事例が充実しており,是非一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

文化で地域をデザインする

松本茂章 編著/学芸出版社/2020年3月

 生物文化多様性とは,生態系の生物多様性と,人間社会の文化の多様性を合わせ,その相互作用を包含する概念である。両者は一般的に別々の研究対象とされるが,実際には地域の人間生活様態である文化は周辺の生態系に影響され,一方で人間の手が入ることで維持される生態系もある。前者の例では言語別の語彙の分化,後者では里山環境が挙がる。日本では都市計画の範疇は都市や通勤圏たる郊外までであり,農漁村や山林,さらには生態系はカバーしない。しかし本書は,農村から都市への人口流出で里山の維持が困難化したり,カラスなど都市に適応した生物がいたりと,都市は決してこれらと切り離せるクローズドなシステムではないと再認識させてくれる。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

はじめて学ぶ生物文化多様性

敷田麻実 他 編著/講談社/2020年2月

 本書は一般財団法人不動産適正取引推進機構の中に設置された「不動産政策研究会」における議論・研究の内容をまとめたものであり,総論および4つの各論(専門分野)の計5冊からなる。本研究会は不動産政策に関わる諸分野の専門家から構成され,学際的な視点から不動産市場の現状と課題の整理,今後の政策のあり方について検討している。不動産政策は社会の成熟や人口減少等を背景に,土地の所有権の整理や放棄地の発生,災害への対応など多様な問題を抱えており,また分野横断的な解決策が求められている。各論考では,人々の重要な資産であるとともに外部性が高いという不動産の特質をふまえ,今後の不動産政策のあり方を詳細に検討しており,今後の都市計画分野における対応策についても示唆に富むものである。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

不動産政策研究

不動産政策研究会編/東洋経済新報社/2018年7月

 2015年9月に国連が,持続可能な世界を実現するための国際目標としてSDGsを採択してから約4年が経過し,日本国内においても内閣府の「SDGs未来都市」など自治体や民間企業にもこの取組が広がりつつある。一方,ドイツのフライブルグ市は2016 年5月にいち早くSDGsに対応した「持続可能性目標」の修正案を議会で決議した都市であり,その取り組みは「SDGs先進都市」と呼ぶに相応しい。本書は,フライブルグ市におけるSDGsに関わる22の取り組みについて,自治体や市民,企業の活動等を具体的に紹介している。同市がこれほどまでのSDGsの先進的な都市と成り得た要因についての考察に加え,日本の持続可能な地域づくりにおける課題整理から,SDGs実現に向けた日本流の取り組みのアイデアを導いており,SDGsの実現に向けて入門から実践まで幅広いヒントをくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

SDGs先進都市フライブルク

中口毅博 他/学芸出版社/2019年9月

 「公共施設」というと「ハコモノ」,また「しまう」というフレーズは「終了・縮小する」ということを想起させるかもしれない。しかし,本書では「ハコモノ」以外にも道路等の「インフラ」,広義な意味での「まち」を公共資産と捉え,新しい公共資産を生み出す方向性や手法を提示し具体的な事例を紹介している。また,「しまう」とは質の高い公共サービスを提供できる状態にすることを目指した活動を意図しており,その成果を実際の公共施設の整備や運用に結び付ける活動として「公共施設マネジメント」を解説している。そのプロセスでは,自治体全体での整備計画の視点が語られる一方で,ステークホルダーとしての住民や民間企業等との「協働・共有」という視点も語られており,双方向での持続的な運用方法が検討されている。本書は自治体等での公共施設運営に関して参考となる一方,シュリンクしていく日本の社会構造を考える上で,都市計画や地域づくりに関わる学生にも参考となる教科書的一冊である。

紹介:総務・企画委員 松尾真子

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

公共施設のしまいかた

堤洋樹 他/学芸出版社/2019年11月

 本書では,既存のフレームの外で発生するという性質を持つイノベーションを政策に組み込むために,その変化速度に対応できる新しいルールメイキングの方法論を論じる。その実践の叩き台として,筆者自身が策定プロセスに携わった風営法の改正ならびにナイトタイムエコノミー政策立案における,署名運動を通じたボトムアップ型の多様なステークホルダーの合意形成に基づくアジェンダ・セッティングの経験が言語化・概念化されている。音楽活動を始めとする多様な価値観やライフスタイルに対する主観的な理解と,法律家としての社会における客観的な位置づけや実践戦略の記述が,バンドマンと弁護士という経歴を持つ筆者独自の視点から語られる。

紹介:総務・企画委員 濵田愛

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論

齋藤貴弘/学芸出版社/2019年5月

 7つの海外先進都市におけるコンパクトシティ政策が,個性豊かな7名の著者により各専門の観点から紹介される。基礎的なサービスや施設へのアクセスを平等に確保するという政策目標・計画思想が古くから重視されているドイツ・ベルリンや,一連の都市交通政策の継続により弛まぬ努力を続けるフランス・ストラスブールなど,各都市の特徴が理解しやすくとりまとめられている。また,各章末には取組みから何を学ぶべきかが“日本への示唆”として示されており,実務を進めるうえでの留意点としても活用しやすい。カラー写真・図面・パース図等も豊富で,資料的価値も高い一冊となっている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

世界のコンパクトシティ

谷口守 他/学芸出版社/2019年12月

 著者らが提案する逃げ地図とは,集落周辺にいくつかの避難完了地点を設定し,そこまでの徒歩所要分数を道路上に色分けしたもので,避難経路や避難場所の充実による避難時間の短縮も明確に可視化できる。歩行速度は高齢者を基準とする。本書は,逃げ地図着想の経緯,様々な地域での実践例,関係者の鼎談で構成される。評者は当初,避難時間の可視化ならGISで計算できるとの印象を持ったが,読み進めるうち,逃げ地図の目的は避難時間の可視化ではなく,その作成過程を通じて地域の災害リスクや避難の改善策を住民から聞き出して共有し,避難困難者による避難の難しさを実感し,防災意識を向上,維持することだという著者らの狙いに強く賛同した。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

災害から命を守る「逃げ地図」づくり

逃げ地図づくりプロジェクトチーム 編著/ぎょうせい/2019年11月

 本書は現場の地理教員による「おすすめの授業集」である。高校の社会科では2022年度から新学習指導要領により新科目「地理総合」が必修となる。本書は,執筆者たちがこれまでに実践してきた授業の蓄積を地理総合に当てはめたものであり,受け身で暗記中心の学習を変えるための「主体的・対話的で深い学び」を追求する授業の実践事例となっている。「地理総合」の教育内容には,「持続可能な地域づくりと私たち」があり,都市計画学会においても2020年度から,ワーキンググループを設置し,高校の教育現場への具体的な支援に向けた取り組みを本格化することとしている。本書は,このような今後の高校地理教育を考える上での貴重な示唆があふれている一冊である。

紹介:総務・企画副委員長 菊池雅彦

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

新しい地理の授業

千葉県高等学校教育研究会地理部会 編/二宮書店/2019年11月

 地域の魅力を再発見し,分かりやすく伝える「手描き地図ワークショップ」。本書は,その具体的な作例に基づいて,ワークショップの手順やコツ,活用アイデアなどを解説したものである。著者らは,手描き地図に大切なのは,作り手の良い意味で「偏った視点(“偏愛”)」であり,網羅的でなく偏っているほど,説得力があり面白くなると説く。事例に関しては,地図そのものだけでなく,制作時のプロセスや苦労話などが詳細に紹介される。地図を作る過程で,参加者が地域の魅力を再発見し,巻き込まれていく様子が伝わってくる。著者らの“偏愛”に満ちたユーモラスな文体で,楽しく読み進められる。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

手書き地図のつくり方

手書き地図推進委員会 編著/学芸出版社/2019年8月

 平成20年出版の手引きを改訂した本書。近年の技術進展に伴う調査手法の変化に対応し,交通容量調査における「ラウンドアバウトの交通容量の算出方法」や,事故調査・事故分析における「プローブカーデータの活用」等の追記がなされている。その他にも,調査日として避けるべきとされていた五・十日に関して,近年では際立って特異日でない場合もあることが数値データと併せて示されるなど,社会変化に応じた細やかな修正もなされている。実際に交通調査現場で発生しがちなトラブル事例の紹介と対処方法を整理した10章の追加と,全編を通じた章構成の再整理により,これから実務を行う人にとっては以前にも増してありがたい参考書となっている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

交通調査実務の手引

(一社)交通工学研究会 交通技術研究小委員会 編著/交通工学研究会/2019年10月

 本書は予定調和で大人しい公共空間ばかりにさせないための処方箋である。書名となっているPUBLIC HACKについて著者は,『公共空間において,個人それぞれが生活行為として自然体で自分の好きなように過ごせる状態であること』と定義する。PUBLIC HACKを体現する実践者が紹介され,自由闊達に公共空間を使う人々の楽しそうな姿が示される。また,著者自身の経験をふまえた持続するためのコツがまとめられており,“ ルールは私たちの手で更新できる”と言い切る姿には経験者ならではの力強さを感じる。自分ごととしてまちの面倒を見る人は誰か, 「間接的」なマネジメントの重要性,これ以上のことはやってはいけないだろうという思い込みからの脱却,等々,自らの生活をも見直す言葉が散りばめられている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

PUBLIC HACK

笹尾和宏/学芸出版社/2019年9月

 コンパクトシティについては,人口減少・少子高齢社会に備えて,行政サービスの効率化や財政負担を軽減する点で機能的・合理的な考え方である反面,住民の居住移転を促し既住地の居住継続を阻害しかねないことなど,各論者の立ち位置によって様々な意見があり,賛否両論が併存している。本書では,都市計画・住宅・経済・不動産・福祉・緑農地・交通の各分野の学識経験者,研究者,実務家,行政経験者10名が,コンパクトシティに対する考え方をはじめ,各政策分野や関連諸制度の課題や改善点について提言している。コンパクトシティ及び立地適正化計画を所管する行政担当部署,都市コンサルタントや開発事業者,都市・まちづくりに関心のある皆さんに一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

「コンパクトシティ」を問う

山口幹幸 編著/プログレス/2019年5月

 近年にぎわい創出やまちの魅力醸成する効果があるとして,対面形式で商品や農作物を購入するマルシェが注目されている。しかし,東京で出店すれば売れる,新鮮であれば売れるという単純な発想で始めると失敗すると本書が教えてくれる。筆者が長年培った「運営」と「出店」ノウハウをまとめており,出店者側から知識を得られるだけでなく,利用者は見て,選んで,会話する対面式で楽しんで買い物ができる場としての価値についても述べられており,さらにマルシェを中心とした人と人の繋がり,地域に根付いたコミュニティ形成を理解できる一冊となっている。まちづくりに関わる人に是非読んでいただきたい。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

マルシェのつくり方,使い方

脇坂真吏/学芸出版社/2019年9月

 本書は,タイトルこそ地形と銘打っているが,その興味の根本は都市や集落と水との関係にある。生活用水,農業用水や工業用水の確保,防衛手段や交通路としての水の利用など,人間生活と水との関わり方は多様である。都市や集落がその水とどのように付き合っていくかを強く規定するのがタイトルに出てくる地形である。本書では6章に分けて,都市の成立背景の類型ごとに,対象地域の詳細な解説がなされる。概ね古いほうから時代が進むように構成される。また,古代や港町の項を中心に,集落の地図にかつての海岸線が描き入れられており,現地に立っただけでは想像の及ばない,「まちを読み解くヒント」が得られるのも,本書の魅力である。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

地形で読みとく都市デザイン

岡本哲志/学芸出版社/2019年9月

 本書は,岩手県大船渡市の綾里という一つの村の,明治,昭和,東日本大震災の3つの津波の間の村の変化を明らかにしたものである。著者らの専門は,都市計画,建築,防災,建築都市史,文化人類学,歴史地理学等多岐にわたり,分析の視点も複眼的で厚みがある。行政やコミュニティの視点に偏るわけではなく,静かに客観的に地域を見守りながら,どのように空間が形成されたのか,生業や経済,地域社会の記録を丹念に調べ,村の仕組みや制度に動かされて津波の間を過ごした人の歴史を明らかにしている。地域の人への継続的で丹念なヒアリングがそれを裏付ける。復興後や復興事前準備では,災害の間の地域づくりが求められる。単なる地域の記録に留まらず,それらへの貴重な示唆があふれている一冊である。

紹介:総務・企画副委員長 菊池雅彦

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

津波のあいだ,生きられた村

饗庭伸 他/鹿島出版会/2019年9月

 Place Making。現代都市計画の重要なキーワードである。本書は,日本で初めて,その誕生の背景を理論的に整理し,都市デザインないしは都市計画手法としての可能性を探求をしつつ,方法論を体系的に整理し,ケースの紹介を行った良著である。都市社会学者のWilliam Whyteの研究成果を発展させるために1975年に設立されたProject for Public Spaces(PPS)によるThe Power of 10なども含めつつPlace Makingのプロセスと方法を10のフェーズと10のメソッドとして整理し,この枠組に沿って内外の事例を整理し直した。読者は,「結果」だけでなはく,「どのように進めるべきか(プロセスや具体手法)」を理解できる。学部生,大学院生はもちろん,各地で実践に取り組む若手実務家にとっても必読の書といえるだろう。

紹介:総務・企画委員会担当理事 小泉秀樹

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

プレイスメイキング

園田聡/学芸出版社/2019年6月

 2018年9月にフィンランドを訪れ,行政担当者やMaaSオペレータと議論した著者が抱く,日本の様々な媒体によるMaaS報道に対する懸念。MaaSが単なる新規ビジネスのネタではないことを伝えるため,ヘルシンキの交通政策やこの地でMaaSが生まれた背景を丁寧に記述している。続いて世界と日本のMaaS代表例の概観や,都市型MaaSと地方型MaaSの違いの考察が,ビッグデータ・ニュータウン・貨客混載・自動運転等の多様なキーワードと共に述べられる。最終章ではロードサイドの大型商業施設の撤退,水道事業の民営化への懸念,単なる連接バスをBRTと称すること等の事象にも触れつつ,MaaSが日本に根付くために求められることをまとめている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

MaaS入門:まちづくりのためのスマートモビリティ戦略

森口将之/学芸出版社/2019年8月

 「風景」は身近な言葉でありながら,学問として捉えたときには,文化,歴史,価値観,時代や社会状況を通して見えるものであり,なにより,「人」と「環境」との関係において成り立っているものと気づかされる。本書では,風景とは何かという「風景計画の理念」が論じられた後,風景計画の策定,その実現や管理に至るまでの作業過程を体系化し,具体的取り組み事例を示しまとめている。風景計画における目標像の共有はすなわち地域の目標像となることであり,これを実現するのが地域づくりであるということを,各章を読み進めることで理解できる構成となっている。本書は風景計画学の基礎から実践までを学ぶ教科書的一冊であり,地域,まちづくり分野においても参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 松尾真子

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

実践風景計画学

日本造園学会・風景計画研究推進委員会 監修/朝倉書店/2019年3月

 何も知らないまちを初めて歩く時,どのくらいの情報を読み解き,どのように感じることができるだろうか。現在我々が知覚しているまちは,様々な歴史的背景や構成要素が複層的に重なり合うことで成立している。本書では,それらの情報を主体的に体感し,構想する能力を“まちのリテラシー”と表現し,まちのリテラシーを高めるために筆者らが実施してきた Walkin’ About というまちあるき企画を通じて得た知見が集約されている。農業,製造・物流業,サービス業,住まい,駅前,都市計画,災害,愛着という切り口で各事例を読み解く構成を取り,豊富なビジュアル表現と共に親しみやすい語り口で紡がれた多様なストーリーは,初学者にも分かり易い,まちあるきの入門に最適な一冊と言える。

紹介:総務・企画委員 濵田愛

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

歩いて読みとく地域デザイン

山納洋/学芸出版社/2019年6月

 本書は,科学研究費助成事業「人口減少・経済縮小社会での空間利活用の整序政策における合意形成システムの研究」に基づき「合意形成研究会」のメンバーにより実施された共同研究の成果であり,戦後日本の人口増加・経済成長社会とは異なる現在の日本の趨勢を反映した,縮退社会における空間制御をめぐる合意形成を問うている。第1部では合意形成に関する定義や理論的探求が実施され,第2部・第3部では,合意と合意形成を枠づける法の作用,自治体の政策決定の実態,という枠組みで個別事例に基づいた具体論が展開されている。空き家問題など縮退社会で顕在化しつつある具体的な空間利活用の課題を想定した合意形成の議論は,実践・理論の双方の観点から,示唆に富む一冊である。

紹介:総務・企画委員 濵田愛

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

縮減社会の合意形成:人口減少時代の空間制御と自治

金井利之 編著/第一法規/2019年1月

 本書は,東日本大震災で被災した岩手県上閉伊郡大槌町の東端に位置する赤浜地区の復興の現場に焦点をあて,プランナーの側から見た復興に至るまでの過程における様々な現場の実情や住民や町役場職員と共に模索した復興計画立案の記録である。復興計画策定のプロセスで,事業用地確保の問題や被災者の望む復興のあり方の変化などの要因により何度も計画が見直されたことから,めまぐるしく変化する事象の中でどう対応すべきだったのか,今後どう対応できるかを当事者の反省を踏まえて考察している。住民からの評価や復興に関与した行政職員,建設コンサルタントなどの回顧も掲載されており,津波被災などの災害からの復興に関する有益な知見を伝える一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

津波被災集落の復興検証:プランナーが振り返る大槌町赤浜の復興

窪田亜矢 他/萌文社/2018年11月

 本書では自動運転など次世代モビリティの実現が都市空間に与える影響について考察する。自動運転でカーシェアの自動配車が実現すれば,各々が自動車を持ち駐車スペースを確保する必要がなくなるため,駐車場用地を生活の質向上のため他用途に転用できる。従来の交通工学は効率良く「運ぶ」ことを追求してきたが,今後は人生で一定の割合を占める移動時間を豊かにすることが重要である。いずれも「空飛ぶクルマ」や「どこでもドア」のようなSFの世界ではなく,現実味のある近未来への提案である。筆者が指摘するように都市インフラはすぐには変更できないからこそ,都市計画でもその前提条件,制約条件の変化の兆しを見逃してはならない。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

近未来モビリティとまちづくり

安藤章/工作舎/2019年8月

 本書はシカゴを舞台としたフィールドワークを軸に,現代社会におけるコミュニティプラクティスの実態と役割を考察したものである。分析対象は,人口減少,犯罪,貧困,人種差別等の問題が重層的に生じている3地域のコミュニティ活動。人口減少により市場が機能不全となった地域での非営利主体による介入の実態や,移民女性が底辺労働や差別で傷ついた尊厳を回復していくエンパワメントの過程などが,当事者への丹念な聞取り調査によって鮮やかに描き出される。世界随一の高齢化・人口減少に直面するだけでなく,外国人受け入れ拡大に舵を切ったことで,コミュニティの役割にますます大きな期待がかかる日本社会に対して,多くの示唆に富む一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

人口減少社会のコミュニティ・プラクティス:実践から課題解決の方策を探る

仁科伸子/御茶の水書房/2019年3月

 近世江戸が明治東京へと変貌していく過程について,とくに「都市インフラ整備に皇居造営が果たした役割」という視点から解き明かしていく。本書では新たに公開された宮内庁資料などに基づいて,天皇を「東京」にお迎えするために明治宮殿の御造営に投入されたさまざまな新技術が,その後の明治東京の道路,水道など,土木・都市インフラ整備の根幹を形成していく過程が描かれる。都市計画では計画図書図面や現出・現存する都市の姿,その重層から都市を実感することが多いが,都市計画専門ではない歴史研究者らが施工技術,材料と物流から計画を実現する創意工夫を読み解くプロセスは,都市計画を学ぶものとしても興味深い。

紹介:総務・企画委員長 篠沢健太

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

明治がつくった東京

伊藤一美 他 編/同成社/2019年4月

 お金=豊かさ,の時代から,つながりやほどよい居心地を豊かさと感じる時代への変化。そんな時代の変化をとらえ,新しい生き方を選んだ人たちの事例。Farmer,Builder,Maker,Sports Business,Urban Permaculture,Area Developer の6つの立ち位置,それらは時に交じり合い,時に重なり合いつつ魅力的な生活を形成する。見やすく配置された写真がその魅力をダイレクトに伝え,従来のやり方と新しいやり化を対比した模式図が各事例の理解を助けてくれる。ある程度の人口密度もあり,郊外の自然にも近接した神戸というミッドサイズシティの持つポテンシャルを再発見しつつ,他の都市のポテンシャルを考えるきっかけとなる。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

ローカルエコノミーのつくり方

神戸から顔の見える経済をつくる会 著/学芸出版社/2019年6月

 「都市空間のつくり方研究会」の約6年間にわたる議論の成果をまとめた本書。第1章では日本各地の16の空間を取り上げ,その空間の魅力がどこにあるか,その空間がいかにつくられたか,が述べられる。
続く第2章では,“小さな空間”と“大きな都市”との関係が示される。計画単位としてどの程度のスケールを想定するべきか?,そもそも将来の目標を立てることは可能か?あるいは有効か?等,従来の都市計画に対して抱く疑問点を提示したうえで,第3章では本のタイトルともなっている著者らの結論を実現するための10の方法がまとめられる。これからの都市計画を考える,専門家に限らない全ての方々に読んでほしい一冊。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

小さな空間から都市をプランニングする

武田重昭 他 編著/学芸出版社/2019年5月

 本書は,法政大学「江戸東京研究センター」設立記念国際シンポジウム「新・江戸東京研究―近代を相対化する都市の未来」の成果をまとめたものである。第1部には,建築家の槇文彦氏,文化人類学者の川田順造氏の基調講演がまとめられている。それぞれの幼少期からの生活体験を通じ,東京の「山の手」と「下町」双方の空間感覚や特質が描き出され,東京の多様性や魅力を,講演会の臨場感をもって理解できる構成となっている。第2部では海外の専門家を交えた,3つのセッションが収録されている。海外からの視点を通して東京の歴史や文化,その資質についてプレゼンテーションや議論が展開され,未来へのビジョンが示されている。東京を再考する書籍として,お勧めの一冊である。

紹介:総務・企画委員 松尾真子

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

新・江戸東京研究:近代を相対化する都市の未来

陣内秀信 監修/法政大学出版局/2019年3月

 本書は,故石田頼房先生の都市計画の詳細な「講義メモ」を骨格として,石田先生の都市計画の思想すなわち市民の立場に立ち,その上で,公・共・私の協働による都市計画や街づくりに求められるもの,留意されるべきものを述べている。内容はパリと東京の都市計画,都市近郊地域における土地利用計画,土地利用制限,地区交通計画,公園緑地,土地区画整理事業,市街地再開発,防災など幅広い内容で,歴史的な経緯なども含めて,市民の立場から述べており,教科書的で,都市計画の基礎とは何かを理解するのには,よい一冊であると言える。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

市民が出会う都市計画

岩田俊二/農林統計出版/2019年6月

 区分所有法の施行から50年を経過し,すでにマンションは主要な居住形態の一つとして定着した。建物は老朽化するため,将来的なマンション建替えも想定した法改正も行われてきた。しかし,都心の一部以外では建替えによる住民負担額は大きいと考えられ,居住者の多様化や高齢化もあいまって建替えが困難化していると言われる。本書は区分所有法の限界を問うシンポジウムの論考をまとめたもので,区分所有成立の背景,建替えやリノベーションによる賃貸化の費用試算,独自の取り組みでマンションを「経営」する管理組合の事例などが紹介される。区分所有を否定するのではなく,より柔軟なマンションの将来を実現するための制度整備を訴えている。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

壊さないマンションの未来を考える

住総研「マンションの持続可能性を問う」研究委員会 編/プログレス/2019年6月

 本書の特徴は,著者が撮りためてきた多くの都市風景のカラー写真。読み手に優しく語りかける「はじめに」に続き読み進めると,本文と写真が交互に現れる構成となっており,お互いが緩やかに関連づけられている。テーマごとに整理された写真群を見て,訪れたことのある街に対する自らの感覚と筆者の視点を比較するもよし,行ったことのない魅力的な街に思いを馳せるもよし。都市と向き合う,とはどういうことかを考える上での金言の数々が,その裏付けとなる丁寧な説明によって自然に理解でき,また深く心に残る。“堂々たる日常を過ごせ”の言葉に,ハッとさせられる。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

都市から学んだ10のこと:まちづくりの若き仲間たちへ

西村幸夫/学芸出版社/2019年4月

 「“かわす”まちづくり」,「再生エネルギー」,「水上機」という三つの柱を据えた挑戦を,復興支援の中に続ける著者らの研究グループ。その7年間に及ぶ活動とともに,それらの発想の原点となる「建築」と「土木」の融合による活動が,多くの融合の阻害要件も含めて紹介される。多くの写真やパース図によりイメージしやすいように配慮されており,また海外視察の結果やコンペでの各提案の比較などの興味深い周辺情報も多く示されている。震災復興について再考する際の一助となる書籍である。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

3・11復興プロジェクトの挑戦とその射程

伊澤岬 他/彰国社/2018年12月

 本書は,芝浦工業大学が実施した文部科学省の「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」の実践成果を3部構成でとりまとめている。第Ⅰ部では大学と地域の関わり方の経緯や大学COC事業の要点が整理され,第Ⅱ部では実施したプロジェクトの一部をそれぞれの担当教員が解説している。第Ⅲ部では,学内コーディネーターが全てのプロジェクトの内容を俯瞰的に分析している。本書では,大学の教員による多様な地域連携活動が,地域さらには海外と交わることで,教育,研究,社会貢献の量質がいかに高まるか,また産学官民連携による「地域共創」の実践に寄与するか等が整理されており,大学と地域の連携を志向している様々な立場の皆さんに一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

大学とまちづくり・ものづくり:産学官民連携による地域共創

芝浦工業大学 地域共創センター 編著/三樹書房/2019年3月

 本書は,冒頭で,風景・景観の概念と用語,既往研究を整理したうえで,風景計画の実現から管理まで章にわけて,考え方や具体的な作業手法を論じている。事例紹介では,国立公園,自然公園から中山間地域,温泉地という地域の個性を活かした計画事例だけではなく,計画の階層性や技術指針まで,対象を広げて説明している。また,コラムでは,最近の取組や考え方を紹介しており,読者が飽きることない工夫がされている。よって,計画の策定からその実現,管理までを体系的に示した書籍として,院生等向け教科書,副読本としてお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 菊池佐智子

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

実践 風景計画学

古谷勝則 他 編/朝倉書店/2019年3月

 エクスカーションとは,現地を実際に訪れ,地質や気候,それに影響された生活文化や産業立地を直接見聞する教育プログラムである。海外での実施には,教育目標に応じた対象地の選定と旅程の組み立て,引率する学生分を含めた宿泊や交通手段の手配,安全衛生面での配慮など,多様なノウハウが求められる。本書は筆者らによる実施例を,目的,旅程,留意事項,事前事後学習などを交えて紹介する,いわばカタログと言える。分野も地質などの自然系,産業や市民生活など社会系など多岐にわたる。行き先も距離的に近い東南アジアのほか,欧米の比較的有名な観光地や自治州などが含まれる。旅行ガイドブックでは得られない知識と視点を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

地理を学ぼう 海外エクスカーション

島津弘 他 編/朝倉書店/2019年3月

 本書は,高齢化と人口減少のもとで空き家が増加するなか,良質な住宅ストックを若い世代が利活用できるように既存住宅流通の活性化や世代間循環システムに関する論考が収められている。まず,「団塊世代が形成した郊外住宅ストックの世代間移転とその可能性」としてまちの魅力の創造に関する方策等が示されたのちに,「住宅の使用価値を実体化の可能性」に関する市場の創造,評価手法,金融システム等の具体的な方策が示されている。現在,各地で取り組みが進みある事例を豊富に紹介し,このいま起こりつつある社会経済システムの変化の慣性を活用することで住宅の世代間移転という流れを生み出すという考え方の提示は,今後の都市政策を考える上での貴重な提言である。

紹介:総務・企画副委員長 菊池雅彦

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

住宅の世代間循環システム:明日の社会経済への提言

住総研 住まい手からみた住宅の使用価値研究委員会 編/萌文社/2019年4月

 著者は,政治学の専門家であり,とりわけ地方政府の民主主義について研究を行ってきた。しかし,本書では,新築の持ち家が好まれる日本の住宅事情を取り上げて,そのことが政治的制度的な大きな問題を孕んでいることを指摘している。本書以外にも同様の切り口の図書の出版が続いており,政治学や行政学者にとっても,人口減少下にも拘らず過剰に住宅が供給される状況は,取り上げるべき重要テーマとなりつつある,ということだろう。本書では,住宅を取り巻く現在の状況が,政府による制度的介入,それは住宅政策と都市計画の双方から行われてきたが,がもたらした結果であることを,諸種の統計情報や既存研究の知見をもとに検討を加えている良書である。

紹介:総務・企画委員会担当理事 小泉秀樹

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

新築がお好きですか?:日本における住宅と政治

砂原庸介/ミネルヴァ書房/2018年7月

 1970年代以降に生まれた都市計画学の専門家による「次世代教科書」として,成長時代・低成長時代・成熟時代という「変化に対応するプランニング」の学問として都市計画学を再構築した書である。過去,現在,未来の視点を持って各章がまとめられており,入門書という位置付けではあるものの,それぞれの分野は精緻を極め,都市計画の広さと奥深さに改めて魅了される。読み継がれている名著や話題の近著が10章「都市計画を学ぶための72冊」のほか,参考文献として各章末に列記されており,初学者の向学心をさらに高めることにつながるだろう。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

都市計画学:変化に対応するプランニング

中島直人 他/学芸出版社/2018年9月

 本書は,著者がここ10年で書き溜めてきた日本近現代都市計画史に関する論考を収めている。都市計画の「技術」ではなく,それを支え,規定する「思想」に着目し,人々の存在と経験が生み出す固有の「場所」を扱っている。「思想」では,高名な都市計画家,石川栄耀と高山英華に着目し,都市との関係の仕方を論じ,また,まちづくりと都市デザインの思潮・運動から都市計画の建設的批判の系譜を見出している。「場所」では,東京の地域,場所の履歴を議論し,都市計画遺産という概念の可能性を実際の事例で議論するなど多様な内容で,400ページあり,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

都市計画の思想と場所:日本近現代都市計画史ノート

中島直人/東京大学出版会/2018年8月

 2020年のオリンピック・パラリンピック競技会場の整備が進んでいる東京湾岸地域を対象に,その歴史的文脈や魅力,面白さをフィールド・ストリートでの観察を通じて読み解き,体系的に提示している。東京湾岸地域は,著者が勤務する大学があり,そのまちづくり活動に加え,自宅もあるため,ホームタウンのまちづくりも一体として,学生と共に15年にわたる研究の成果をまとめたものである。歴史的文脈の解読,地域デザインの解読と仕組みの解明,まちづくりの提案と実践など多岐にわたる内容があり,東京湾岸地域の魅力やまちづくりの活動がよくわかり,発見のある一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

東京湾岸地域づくり学:日本橋,月島,豊洲,湾岸地域の解読とデザイン

志村秀明/鹿島出版会/2018年10月

 本書は,地域やまちを良くするためのアイデアをどのように具体化していけば良いか,その基礎を事例に基づいて豊富な図表をもとに解説している。課題設定から,現状把握の方法,そしてそれに基づいた議論の進め方など細かく説明してくれている。また,読み方を示してくれており,第1章地域・まちづくりワークの意義と課題を読んだ後に,レベルに応じて読むべき章が示されており,住民,時間の取れない実務者から大学での実習までを効率よく学習できるようになっている。初学者は,体系立てて学ぶことができ,地域・まちづくりで悩んでいる人は,地域・まちづくりの流れを再認識することができ,多くの人におすすめする一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

実践 地域・まちづくりワーク:成功に導く進め方と技法

谷口守/森北出版/2018年10月

 道路交通の実務者が習得すべき技術的知識について,大学研究者,行政,警察,コンサルタント等の各界における第一人者が集結し取りまとめられた一冊。交通調査,交通流理論,道路設計,交通管理・制御,交通安全,道路計画・管理といった,道路交通関連の現場において求められる基礎事項が体系化されている。今般の改訂では,自転車通行空間,ラウンドアバウト,生活道路ゾーン対策,平面交差の計画と設計等の,技術基準や整備マニュアルの更新にも対応している。本書は交通工学研究会の認定TOP(交通技術資格者)資格試験の出題対象として指定されており,道路交通分野のエッセンスについて網羅的にマスターするには必読の書と言える。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

道路交通技術必携2018

一般社団法人交通工学研究会/丸善出版/2018年5月

 我が国の道路交通に係る各種法令の改正や社会情勢の変化に合わせながら,半世紀にわたり増刷,改訂が繰り返されてきた本書は,設計の実務に携わってきた先人達の知識の集大成と言えよう。今般の改訂では,既刊の「改訂平面交差の計画と設計-基礎編」と「改訂交通信号の手引」が合流し,道路管理者,交通管理者のそれぞれが主体的に関与する技術事項が一つにまとめられた。平面交差の原理・原則をおさえつつ「実地適用」に執筆の重点が置かれており,個別の計画設計はさることながら,交通まちづくりの実際における多様な場面で即地的なリファレンスとなる。コラムや附録がより充実され,交通工学の初学者にとっても身近な一冊となるだろう。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

平面交差の計画と設計 基礎編:計画・設計・交通信号制御の手引

一般社団法人交通工学研究会/交通工学研究会/2018年11月

 本書は多数の造園実務者が,実務の現場からその専門について記述したものである。造園分野の全貌を広く知ろうとする人にとっては都市計画と造園との重なりが広範囲に網羅されており「造園実務」の全体像を俯瞰できるだろう。しかし造園実務を行う場合,本書はそのノウハウを示すマニュアルとして機能するわけではない。実務に関わる膨大な情報の入口でしかない。ただし本書が本当の意味で「必携」な理由は,この入口のしつらえにある。実務経験を通じて多くの選択肢から何をどう選択したか?本書はその経過や理由を実務での“生き様”に基づいて切り取っている。都市計画分野の人が造園分野と向き合い,悩んだ時にときに手にしてほしい1冊である。

紹介:総務・企画委員長 篠沢健太

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

造園 実務必携

藤井英二郎 他 編/朝倉書店/2018年12月

 なぜ空き家は発生するのかから始まり,空き家のかかえている問題や危険性など丁寧に解説さている。特に,都心30-40kmのベッドタウンなど,需要の低い地域ほど真剣に考えなければいけない時期と述べている。その対応策として例えば,人口が減少が深刻なデトロイトでは,空き家解体のための補助金が約187億円も注ぎ込まれ,その隣地の住民に空き地を優先的に譲渡する,または菜園やコミュニティガーデンへ土地利用が転換されているという取り組みが紹介されている。相続によって相続放棄など知らぬ間に自分が空き家を相続している可能性も示しており,誰しもが身近な問題として捉えなければいけないと改めて考えさせられる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

老いた家 衰えぬ街:住まいを終活する

野澤千絵/講談社/2018年12月

 筆者は,モータウンを「自動車の存在とその交通システムによって創り出された環境」と定義し,今後もサステナブルな存在である自動車と,その自動車を巡って生み出された20世紀の建築・都市の関係性を論じている。特に本書では「生産」「居住」「移動」「消費」という4つの側面から我が国におけるモータウンの展開を分析することで,建築・都市をアノニマス(匿名)な環境として捉え,今後の環境デザインの可能性を問い直している。もはや現代の建築・都市環境整備の前提となり,人々の生活とは切り離せないほど深い関わりを持った自動車の存在を今一度捉え直し,今後の環境デザインのあり方を再考する上で最適な一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

<モータウン>のデザイン

堀田典裕/名古屋大学出版会/2018年6月

 本書は,空き家対策に関する国際比較を行ったものである。全体は六章で構成されており,一章で日本と海外の空き家対策について俯瞰したのち,二章以降ではアメリカ,ドイツ,フランス,イギリス,韓国を対象として,空き家状況と対策を詳細に紹介している。各章の末には,各国から日本がまなぶべき点が端的にまとめられており示唆に富む。筆者は,従来の空き家対策は,個別の空家に対する「点としての対応」が中心だったが,まちづくり全体の中で空き家問題に対処していくという「面としての対応」を進める必要があると説く。空き家問題に関する国際比較分析については類書が少なく,貴重な視座を提供してくれる一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

世界の空き家対策:公民連携による不動産活用とエリア再生

米山秀隆 編著/学芸出版社/2018年9月

 本書は,生活インフラストラクチャーの代表である公園について,著者である研究チームのメンバーが,一般的に得た知見だけでなく,彼らの活動や体験,仕事や研究から得られた10年間の成果を紹介している。本書では,「みんなに使われる公園」とするため,ユニバーサルデザインの重要性について紹介するとともに,グッドプラクティスとして,先進的な取組を行っている事例や公園ごとの特性等を活かし整備・改修した事例などが整理されている。公園については,管理・運営から経営する時代となり,モノの管理から人のための運営を意識する必要性も述べられており,公園設計等に携わる専門家や専門家を目指す学生の皆さんに一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

公園のグッドプラクティス:新しい公園経営に向けて

公園のユニバーサルデザイン研究チーム/鹿島出版会/2018年11月

 既存建物の福祉転用は,空き家,空きビルの活用し,地域に求められる福祉サービスが提供されることによって,利用者のみならず地域にとっても様々なメリットをもたらすが,建物転用の実現には,制度や習慣などにもとづく特有の壁がいくつも存在している。本書は,福祉転用に関連する法律と制度や,福祉転用実現に向けた企画・設計・運営に至るプロセスやステップを示すとともに,福祉転用の成功事例として,20の事例ごとに動機・経緯・課題・地域への効果・予算などを聞き取ってまとめている。そこからは,福祉転用は単なる既存建物の転用にとどまらず,地域そのもののリノベーションにつながる可能性も示されており,福祉転用の実践的なアドバイスだけでなく,地域の魅力を向上させるヒントをくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

福祉転用による建築・地域のリノベーション:成功事例で読みとく企画・設計・運営

森一彦 他 編著/学芸出版社/2018年3月

 本書は題名のとおり地図帖である。ページをめくるごとに様々なテーマのカラフルな地図とその解説が現れる。しかし高校で使う地図帖以上に空間的な分布やデータの可視化方法,取り上げられているテーマは多様である。ポートランドという一つの都市を非常に多角的に眺めて並べた本書は,都市計画の第一歩である現状把握に使える多様な視点,そしてその特徴を関係者で共有し理解する表現方法の図鑑とも言える。自然条件や社会背景が異なる海外都市の事例とは言え,評者のような空間データ,GISの専門家ではなくても楽しめる。お気に入りの表現方法を見つけるために本書を手に取りページをめくってみてはいかがだろうか。

紹介:総務・企画委員長 相尚寿

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

ポートランド地図帖:地域の「らしさ」の描き方

デービッド・バニス 他/鹿島出版会/2018年11月

 IT企業のサテライトオフィス開設が相次ぎ,都会から若者が次々と移り住んでくる徳島県神山町。本書は,そんな「不思議な田舎町」の実像を,100人以上に対する取材をもとに描き出す。神山の魅力が,多様な関係者の実感のこもった言葉を通して,鮮やかに浮かび上がる。神山町では,地方創生の総合戦略づくりをきっかけに,行政と民間,旧来住民と新規住民が一体となって,さまざまなプロジェクトが同時並行で進み,世代交代も進んで,ここ数年でまちづくりが新たなステージへと入ったという。進化し続ける神山町の今を伝える一冊であり,地方創生に関心のある研究者・実務家のほか,新たな生活像に関心を持つ幅広い層に一読を勧めたい。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

神山進化論:人口減少を可能性に変えるまちづくり

神田誠司/学芸出版社/2018年10月

 生き物を規範としてそこから何かを学ぶ学問,バイオミメティクス。本書はバイオミメティクスを活用し,都市を生き物として捉えることで日本がどのような病理に侵されているかを示し,そこから都市の未来を模索するチャレンジングな一冊である。多くのイラストや写真が使われており読みやすい一方で,アート・防災・交通ネットワーク・多様性・機能配置・シビックプライド等々,まちづくりを考えるにあたっての観点が幅広く散りばめられている。都市計画の初学者にはもちろん,既に都市計画を学んだ人にとっても新たな視点をもたらしてくれる。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

生き物から学ぶまちづくり:バイオミメティクスによる都市の生活習慣病対策

谷口守/コロナ社/2018年10月

 日本の住宅は8割が土地の価格で,年数が経つほど建物の価値はほとんどなくなるといわれている。しかし,ヨーロッパ先進国の都市では,中世から大きな富を得た者は都市に投資していたことで建物自体の価値は継続していること,米国では建物の外観規制の受け入れは資産価値の維持向上のためであり,結果的に住宅が高く売れるという実績が残されていることなど,住宅の価値の違いを欧米と比較しつつ,丁寧に解説がされている。都市形成の歴史的視点,空き家問題,住宅ローンなど金融政策,都市政策など様々な切り口で解説されており,これから都市計画や住環境など学ぶ学生や政策に関わる行政の方にも是非読んでもらいたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

住宅が資産になる日

村林正次/プラチナ出版/2018年8月

 本書はこどもを取り巻く環境において,筆者のこども時代の体験や携わってきたこどもとあそび場の設計などをもとに25年間の研究の成果をまとめた内容となっている。こどものあそび場の環境変化は1965年前後で,こどもが道というあそび空間を失った影響やテレビの普及で外遊びから室内遊びへと変化したことで,大きく変化したと示している。道におけるこどものあそびと自動車交通の共存や公園など場が求められる一方,防犯のために地域の目が必要なことと近隣住民との繋がりがこどもに安全な場をもたらすことができるなど,こどものあそび場は建築単体だけではなく地域として考えるべき課題だと改めて気づかせてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

こどもを育む環境 蝕む環境

仙田満/朝日新聞出版/2018年4月

 中心市街地衰退の新たな解決策として,ライフスタイルのブランド化とまちなか再生の組み合わせにより,地域の風土に根ざした内発的産業を発展させる「クリエイティブ・タウン」の理論的背景と実行方法が取りまとめられている。クリエイティブ・タウンの創出に不可欠なポイントとされる,「デザイン」「ビジネス」「スキーム」の3つの柱それぞれについて,川越市の一番街商店街,長浜市のまちなか,高松市の丸亀町商店街,石巻市の震災復興といった事例を織り交ぜながら手法の具体化を行っており理解が進みやすい。地域の資源や特性を最大限に活かしながら,個性的で自律的・持続可能なまちなかを創るためのヒントが多く与えられる一冊である。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

<まちなか>から始まる地方創生:クリエイティブ・タウンの理論と実践

福川裕一 他/岩波書店/2018年3月

 Society5.0は日本が提唱する,狩猟,農耕,工業,情報に続く第5段階の社会像である。サーバー空間上にフィジカル空間の高精細なモデルを構築し,モニタリングやシミュレーションに活用する。この概念提唱と同時期に日立製作所と東京大学によって産学連携を深度化したモデルとして日立東大ラボが立ち上げられた。本書はその参画者によるSociety5.0の概念の理解に関する議論が中心である。読み進めると,近年耳にする機会の多いIoTやAIがSociety5.0の形成にどう関わるのか,それらがいかに人間生活を豊かにしうるのかが解説されている。都市空間のあり方も大いに変わりうるので,特に次世代を担う若手の皆様にご一読いただきたい。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

Society 5.0:人間中心の超スマート社会

日立東大ラボ/日本経済新聞出版社/2018年10月

 1枚の地図と1枚の写真から始まる本書は除染が終了し,避難指示が解除されつつある福島の現状を詳細に示す。除染は「放射性物質の…人の健康及び生活環境に及ぼす影響を速やかに低減すること」を目的として,生活圏の放射線量が一定水準を下回れば終了となるが,隣接する山林などの土壌落葉や,水に遮蔽されたため池の底には放射性物質は残る。除染された土もまだ集落奥に存在し続けている。本当の意味で復興には多くの課題が残り,「再除染」など継続的な検討が必要だと筆者は述べる。巻頭の図・写真の意味は終章で明らかにされている。福島に関わる者はもちろん,福島から恩恵を受けてきた私たちが,これから背負う未来に向けて必読すべき内容である。

紹介:総務・企画委員長 篠沢健太

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

福島の除染と復興

川﨑興太/丸善出版/2018年8月

 本書は1970年代後半以降の米国のブラウンフィールド(BF)の再生をめぐる制度や政策の展開と,都市および地区の具体的な再生手法を詳細に明らかにしている。第Ⅰ部ではBFの再生政策について,その枠組と変遷を踏まえた上で,政策目標の変化や連邦政府と州政府の連携について丹念に分析を行っている。第Ⅱ部の米国北東部の3都市のケーススタディでは,都市全体のBF再生戦略,公的支援,空間計画と計画技法の観点からBFを抱える都市の再生手法が整理されている。BF再生における環境保護行政と都市計画行政の連携状況を明らかにすることで,複数の政策分野の統合に向けたツールとしての「都市計画」がもつ可能性と,土地が持つ「リスク」への対応に向けた示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

米国のブラウンフィールド再生:工場跡地から都市を再生する

黒瀬武史/九州大学出版会/2018年3月

 本書は,長年日本各地の地域づくりや世界遺産の評価に携わってきた筆者の2000年代後半からの約10年間における講演・対談をまとめたものである。前半部では地域の物語の読解と固有性の追究,多様な価値を認めることの重要性など,筆者が景観や伝統的町並み,世界遺産それぞれに関わりながらその「地域から得た学び」が語られており,そうした規範意識は今後の都市プランナーの大きな拠り所に成るものと考えられる。また後半部では,まちづくりのトップランナー達と筆者の対話と,筆者自身がまちづくりの道へ進んだ経緯が扱われており,その言葉の一つ一つがまちづくりの現場で奮闘する実務家やまちづくりを志す学生を大いに鼓舞してくれる。「まち」や「地域」に関わる多くの人に読んで頂きたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

西村幸夫 講演・対談集 まちを想う

西村幸夫/鹿島出版会/2018年2月

 地方都市活性化のための公共空間のデザイン・マネジメント手法について,著者が実際に関わってきた具体事例の成果を交えながら,基本理念や課題解決の考え方がとりまとめられている。既存公共空間の利活用と再生計画や,世界遺産・文化財のようなブランドを活かす取組みに加え,我が国の事例の良し悪しを相対的に検証するために米国のデザイン手法についても考察している。合意形成,住民参加のワークショップ技法や,景観設計・施工における新技術についても詳細に解説されており,地方都市のまちづくりに関心を持つ学生のみならず,現場で活躍する実務者に対しても深い気づきが与えられる一冊となろう。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

地方都市を公共空間から再生する:日常のにぎわいをデザインとマネジメント

柴田久/学芸出版社/2017年11月

 本書は,建築系・土木系のいずれの初学者にも有益となり得る都市計画の入門テキストである。今版の改訂では,従来からの基本的な都市計画の考え方や課題を踏まえつつ,集約型都市構造への転換といった,地方分権が進んだ近年において時事的に押さえておくべき視点にも言及されている。豊富な図表や写真とともに事例が丁寧に紹介される中で,我が国での計画検討の際にしばしば参考とされるフランスの都市計画について詳細に取り上げられているほか,立地適正化計画をはじめとした最新の都市計画制度にも触れられており,幅広い知識を俯瞰的に習得できる必読書といえる。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

都市計画 第3版

川上光彦/森北出版/2017年10月

 本書は,東日本大震災及び福島第一原発事故の被災地を対象に,10人の執筆者が「環境」という観点から,復興の実態及びそれらから得られる知見を踏まえつつ,今後の課題を整理したものである。被災した環境を回復する取組の「環境回復編」と,被災後の環境を新たに創造する取組の「環境創造編」から構成されている。対象としている被災地は,国内でも人口減少,高齢化,経済停滞が深刻であった地域であり,被災者が早期に安定的な日常生活を取り戻すとともに,環境,経済,社会の面でのレジリエンスを高め,持続可能かつ総合的な見地から環境面での復興を実現する必要があるとしている。被災地の復興について再考する機会を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

環境復興:東日本大震災・福島原発事故の被災地から

川﨑興太/八朔社/2018年5月

 2011年の福島第一原発事故や2018年北海道胆振東部地震におけるブラックアウトなどにより,エネルギー政策に関して,様々な議論がなされている。本書は,日本の「エネルギー源の転換」と「地域社会の持続性」という2つの課題を別々にとらえずに,エネルギーに関する政策や事業を地域社会の持続性を実現するツールとして活用することで,地域社会の課題に包括的に取り組む方策を検討している。ドイツやオーストリアなどの国外の地域エネルギーの事例をあげるとともに,地方自治体の役割,エネルギーを推進する制度や中間支援組織のあり方を述べており,今後の地域の持続可能性を考える上で参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

エネルギー・ガバナンス:地域の政策・事業を支える社会的基盤

的場信敬 他/学芸出版社/2018年2月

 本書は,森記念財団が2016年以来進めている『エリアマネジメント調査研究』の中から,エリアマネジメント活動に着目してとりまとめたものである。エリアマネジメントは,2018年に地域再生エリアマネジメント負担金制度が創設されるなど全国各地で取組みやすくなっている。本書では,エリアマネジメントの事例を体系的に整理するとともに,仕組みなどが整理されており,エリアマネジメントの手引きとして非常に有益である。地域再生や都心部再生を考える行政の担当者ならびにこれからのまちづくりを考える若手実務者や大学院生にお薦めする一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

まちの価値を高めるエリアマネジメント

小林重敬+森記念財団 編著/学芸出版社/2018年6月

 多様な人々の想いとアクションによって「空間」を「場所」に変えることを「まち育て」と定義し,様々な角度から現場で培った知見が語られるように認められている。意志を持って「空間」と「場所」を使い分けていてもなかなかうまく相手に伝わらないもどかしさの中で,本書に救われる思いがした。まちで出会った子どもからふと漏れた言葉や純粋無垢な目線から得た視点が丹念に描写されており,読み手もかつての自身の「場所」に思いを馳せてしまうのではないだろうか。当時とは確実に変貌したであろう地域にある空間に対して,一個人として,また専門家として「私」ができるまち育てを考えながら実践するのに最適な書である。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

「空間」を「場所」に変えるまち育て:まちの創造的編集とは

北原啓司/萌文社/2018年4月

 快適で豊かな都市空間を形成するための行為「アーバンデザイン」について,都市計画,空間形成,実践運動の三面から示した上で,その歴史と系譜,手法,実践と展開について体系的にまとめられている。都市に関わるのであれば,押さえておくべき知見や人物が網羅され,アーバンデザインの精到な教科書として他に類を見ない。広汎なアーバンデザインを一冊の中で体現しながら,近年よく耳にするようになった概念や事例も多数掲載され,丁寧に解説されている。実務者や研究者にとっても頭が整理され,索引をうまく利用して必要な頁を復読したいと思わせる書であろう。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

アーバンデザイン講座

前田英寿 他/彰国社/2018年5月

 高度成長期に整備された公的施設の多くが更新時期を迎え,民間のアイデアや資金を活用する「公民連携」による公有不動産活用に,期待が掛かっている。本書は,「公民連携」を通した公共空間の活用について,国内外の優れた事例を紹介したものである。実験的・暫定的な活用から長期的な活用の事例まで,豊富な写真とともに解説がなされている。各事例のしくみ・デザインは多様であるが,要所に挿入されるコラムで俯瞰的な解説が加わることで,鍵となる概念を的確に理解することができる構成となっている。デザイン的にも優れた事例が選りすぐられており,楽しく読み進められる一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

公共R不動産のプロジェクトスタディ:公民連携のしくみとデザイン

公共R不動産 編/学芸出版社/2018年6月

 本書の対象は,公共空間や私有地を一時使用して仮設型店舗により主に食品や日用品を売買するマーケットである。東京とロンドンの複数事例を交えるが,ロンドンは先進事例だから東京も模倣すべき,という主張ではなく,利用者,出店者,運営の視点から両者の違いが比較される。日本は道路空間利用がロンドンと比較して容易ではないものの,寺社境内という独自の空間活用事例があること,ロンドンではマーケット出店で生計を立てる者がいる一方,東京は地方の店舗経営者が東京の消費者ニーズを探る場であることなど,違いが見えてくる。一過性のイベントではなく生活に根付いた日本独自のマーケット文化が育ってほしいという筆者の想いが伝わる。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

マーケットでまちを変える:人が集まる公共空間のつくり方

鈴木美央/学芸出版社/2018年6月

 本書は,東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市広田町長洞(ながほら)集落で実践されてきた復興まちづくりをまとめたものである。「復興にはコミュニティという大きな力が不可欠」との理念から,単に被災者ごとにバラバラと仮設住宅を提供するのではなく,仮設住宅団地への移転や安全な高台への本移転を「コミュニティまるごと」で行うように努めた取り組みが紹介されている。被災地ごとに事情は異なるであろうが,コンサル等専門家の支援を受けながら被災地住民が自分たちの手で復興するという主体性,仮設住宅等の「ハコ」の提供だけでなく生きがいを生み出す「生業」(ビジネスシステム)の導入等,まちづくりへの参考点も多く大変興味深い。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

実践!復興まちづくり:陸前高田・長洞元気村復興の闘いと支援2011-2017

復興まちづくり研究所 編/合同フォレスト/2017年10月

 小樽運河の保存運動を対象に,歴史的町並み保存というテーマを社会学の視点から問い直した大著である。保存運動に関与した主体に対するヒアリング調査は,彼らのライフヒストリーにまで及び,運動の軌跡を高精細度で描き出す。運動の趣旨が,凍結保存から一定程度の改変を許容する「まちづくり」へと変化していく過程や,戦略や思想の違いから保存運動が内部崩壊し一般市民からの支持を急速に失う過程,さらには意図せざる結果として小樽が観光都市へと変貌していく様子を,鮮やかに追体験できる構成となっている。保存運動の研究者は勿論,都市計画に関わるすべての人に一読を勧めたい。著者の33年にわたる膨大な研究成果に圧倒される一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

町並み保存運動の論理と帰結:小樽運河問題の社会学的分析

堀川三郎/東京大学出版会/2018年2月

 本書は,著者が40年に渡り各地の民家を訪れた記録や茅屋根集落の支援にかかわった経験,茅屋根家屋の保存活動の事例を紹介している。著者は,かつて民家は,そこに住む人たちの生活,風土,歴史,時代などを反映して,多様な生活の総括的な意味合いを包含していた。また,古民家を転用・再生している例は全国で見られるが,これらは,民家の空き家化と住まいとしての終焉を暗示するとともに,注目される活用事例は一部で,たまの機縁に恵まれたものが多く,成功例が他に影響を及ぼす要素は少ないとしている。社会・経済情勢の変化が激しい今日,長い時間をかけて培われた人と家と地域との関わりを見直すきっかけを与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

民家:最後の声を聞く

藤木良明/学芸出版社/2018年4月

 2008年歴史まちづくり法が制定され,それ以降に歴史・観光まちづくりについて著者が各所で行った講演や雑誌などをもとにまとめたものである。内容は,文化遺産と歴史まちづくり法,景観整備と都市計画,観光とまちづくりと3部構成にまとめられおり,随所に都市計画に対する問題提起がされている。特に,歴史を活かしたまちづくり,景観まちづくり,観光とまちづくりは,いずれもこの10-15年程度で世論が大きく旋回した考え方で,だからこそこの数年の内容は価値観が変化していく未来に向けてもとても貴重な一冊である。研究者,行政,都市計画を学ぶ学生にも是非読んで欲しい。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

西村幸夫 文化・観光論ノート:歴史まちづくり・景観整備

西村幸夫/鹿島出版会/2018年2月

 長年にわたり産業景観(テクノスケープ)を研究してきた筆者が,最も身近な都市基盤の材料といえるセメントやコンクリートの原料であり,日本における唯一自給可能な地下資源である石灰石に着目し,石灰・セメント工業都市―「砿都」―の景観を様々な切り口で論じた一冊。沖縄・秩父・秋吉台周辺の三大砿都のほか,全国25地区の砿都について,地形や気候といった自然的要素,工場や橋梁,輸送施設などの人工的要素に加え,山岳や石灰石に対する信仰,祭礼や民謡,食に至る文化的要素が石灰石という基底を共有しながら共存する景観の個性が明らかにされていく。画一的な近代文明の所産と捉えられがちな工業都市の景観に対する新たな視座を与えてくれる。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

日本の砿都:石灰石が生んだ産業景観

岡田昌彰/創元社/2017年2月

 筆者独自の「モビリティ・デザイン」という概念をテーマに,持続可能な都市の発展に向けて交通の観点で捉えるべき移動環境の諸課題を解くための基礎知識やアイデアが解説されたものである。都市交通のデザインにおける戦略の考え方と,中心市街地や郊外でのモビリティの現状・課題について,ウォーカビリティ,自転車政策,公共交通計画,都市駐車管理,パークアンドライド,モータリゼーションといった多様な切り口からまとめられている。特に公共交通政策については海外の先進的事例が丁寧に解説されており,交通まちづくりに関する実務的な課題を包括的に理解するための文献として是非お勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

都市交通のモビリティ・デザイン

中村文彦/サン・ネット/2017年8月

 本書は著者の長年のイタリア都市研究をまとめたもので,書名のとおり,水との関係に注意が払われる。水は飲料水・農業用水・工業用水など都市の営みに不可欠で,さらに外敵の侵入を阻む防壁,洪水や高潮など災害の原因として畏怖の対象という側面も持つ。このため都市ごとに水との独自の関係性が生まれる。著者があとがきで「エッセイ集」と記したとおり,決して都市と水との関係が体系的に整理されているわけではない。しかし,現地調査での発見や驚きが生々しく読者にも伝わり,あたかも調査に同行したかのような感覚を味わえる。日本も水が豊かな国であり,都市と水の間に多様な関係がある。日本の都市研究のヒントも得られる一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

イタリア水都の再発見

陣内秀信/秋田印刷工房出版部/2018年2月

 「地域づくり」という明確な目的をもって調査がなされた全国29地域における実践事例について,それぞれに関わった研究者が背景を含めて丁寧に解説している。本書は,現場主義の立場で調査法を解説した「まちの見方・調べ方-地域づくりのための調査法入門(朝倉書店,2010年)」の続編として位置づけられている。「いかに対象地域の実態を実感を込めて理解しえるか」と地域に対向して得た貴重な調査結果について,いかに地域に効果的に伝えて具体的な地域づくりにつなげていくのか。限られた事例の中で模索しているのならば,実際に行われた工夫や克服した課題は多岐に渡り,大いに参考になるに違いない。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

まちを読み解く:景観・歴史・地域づくり

西村幸夫 他 編/朝倉書店/2017年10月

 「まちづくり図解」とは,まちづくりへの問いに対して図を描きながら視覚的な表現により解くことである。早稲田大学佐藤滋教授のグループによる150点を超す図版が掲載され,どれも非常に分かりやすくまちづくりの拡がりや流れが描かれている。本書は,先に出版された理論編「まちづくり教書(鹿島出版会,2017年)」に対する図説編として位置づけられている。ますます主体の価値観が多様化する中,それぞれから忌憚のない意見を得るためにも,これまでの経緯やこれからの提案を分かりやすく示すことは専門家の使命である。「まちづくりの主体に対してつくり手の意志をもって情報を効果的に共有するもの」として,具現化した本書を大いに活用すべきである。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

まちづくり図解

佐藤滋 他/鹿島出版会/2017年6月

 本書は,“少子高齢化が進む住宅地”の側面ばかりが過大に語られる団地について,改めて図解・読解したものである。住棟の全体配置や間取り等の部分だけでなく,斜面の造成や景観への配慮など,「地形→造成→配置→住棟→間取り」の≪つながり≫という「団地ならではの魅力」が,当時の過程や意図で裏付けられている。スケールの大きい団地でそれらの魅力を的確に伝える写真を数多く撮るには苦労があったと思われるが,自分が歩いている気分で読み進められる工夫がされている。当時の図版等も折り込みで収録されており,貴重な資料である。団地を「ネガティブな住空間,都市計画である」と教えられた世代にこそ手にとっていただきたい。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

団地図解:地形・造成・ランドスケープ・住棟・間取りから読み解く設計思考

篠沢健太 他/学芸出版社/2017年10月

 研究者と映画監督である筆者らによる丹念なインタビュー記録をもとに,昭和30年代に興業街として立ち現れる「歌舞伎町」に台湾人たちが登場する経緯を明らかにしたオーラルヒストリー。戦後統制品を取り扱える特権をいかし,「解放区」であった西口マーケットで財を築いた台湾人たちが,新開地としての歌舞伎町へ流入し,“じゅく文化”と呼ばれる喫茶店文化や社交・娯楽文化を華開かせてゆく過程が,当事者や関係者らの言葉によって仔細に語られていく。それは,“道義的繁華街”の建設を目指して民間主導の土地区画整理を牽引した鈴木喜兵衛や石川栄耀らを通じて編まれた事業史や日本人による復興の物語では語られることのなかった,「もうひとつの」新宿戦後史である。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

台湾人の歌舞伎町:新宿,もうひとつの戦後史

稲葉佳子 他/紀伊国屋書店/2017年9月

 本書は,弁護士として多くの都市開発に関わる経験も持つ著者が,まちづくりに関わる法律を体系的に整理し,解説したものである。序文では,自分の敷地に家を建てるときに初めて都市計画を学ぶ人も多いと述べているように,初学者にも読みやすい形で,多くの図表を用いてまとめられている。解説の中には,しばしば海外の都市計画との比較に関する言及や,先進的な自治体に関する簡単な紹介もされており,興味を持った読者に更なる学びを促すような内容となっている。著者が,本書ではコンパクトな本で論点を整理することを目的とすると述べているように,本書からの膨大な知識とともに,これを基点とした学びを大きく助けてくれる書である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

まちづくりの法律がわかる本

坂和章平/学芸出版社/2017年6月

 本書では,URが取り組んできた密集市街地事業について,15の事例の詳細な紹介とともに,実践方法の一般化が試みられている。各事業の解説は,図面や写真を多く用いた紹介がされるとともに,取り組みの中で起こったこと,例えば反対署名の経緯やその後の対応なども説明され,読者が追体験できるような内容となっており,最後には考察もなされている。カラーの口絵も充実しており,事業実施前後のまちの変化の様子が分かりやすく紹介されている。巻末には著者らによる座談会の内容が収録されており,これからの密集市街地整備に向けた展望が述べられている。まちづくりについて,多くの事例をもとに学ぶことのできる書である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

密集市街地の防災と住環境整備:実践にみる15の処方箋

UR密集市街地整備検討会 編著/学芸出版社/2017年11月

 本書は,縮小都市研究会の研究成果として,地域のデザインの新たな考え方,めざすべき姿,地域空間と仕組みを変える変革のあり方などを整理している。また,本書は,同研究会が2015年に出版した「地方創生への挑戦 ?住み続ける地域づくりの処方箋?」に続く書籍である。社会的空間,物理的空間,なりわい空間の3つから構成される空間を地域空間としてとらえ,それぞれの空間のめざす姿,具体的な試みなどを整理している。そして,地域空間を持続させるための都市と広域の戦略デザインについても述べている。地域の存続・崩壊の危機が叫ばれている中で,空間のめざす姿と行政のあり方を述べており,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

「縮小社会」再構築:安心して幸せにくらせる地域社会づくりのために

長瀬光市 監修・著/公人の友社/2017年10月

 フェノロジーカレンダー(生活季節暦)は,その地域の気候や生態系などの自然環境の季節変化と,それに適応する形で営まれる地域の生活風土やその季節リズムを1枚にまとめたものである。その作成過程において,地域特有の「宝」を発見し,複数の宝をつなぐテーマを議論することで,宝を生み出した気候風土を理解する。このことで地域の魅力に気づくとともに,それを地域で共有し,対外的には観光資源として紹介する媒体を手にすることができる。本書ではフェノロジーカレンダーの作成ノウハウについて,ワークショップや取材など豊富な事例を交えて解説している。全てのフェノロジーカレンダーがカラーで例示されており,眺めるだけでも楽しい。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

みんなでつくるフェノロジーカレンダー

日本エコツーリズム協会フェノロジーカレンダー研究会/旬報社/2018年1月

 本書は,横浜市のみなとみらい(MM)地区におけるまちづくりの軌跡をまとめている。市の都心部機能強化のため,幕末の開港以来重要な役割を担ってきた港湾機能の質的転換や,都市の発展のためのビジョン,都市と海(生活と水辺)の関わり方など,まちのあるべき将来像を見据えて歩み続けてきた歴史が綴られている。また,将来像の実現に向けて,多くの関係者がその時代に応じてまちのあり方・コンセプトを継続的に議論し創り上げてきた経過や,最先端の環境技術やエリアマネジメントの導入経過等も紹介されており,これからのまちづくりに大いに参考になる内容となっている。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

情熱都市YMM21:まちづくりの美学と力学

情熱都市YMM21編集委員会/鹿島出版会/2017年2月

 今後の社会や都市を考える上で,「持続性」が極めて重要な主題であることは論を俟たないが,2015年に国連が定めた「持続可能な開発目標(SGDs)」に関しては,「ゴール」「ターゲット」が乱立し全体像が見えにくいと感じている人も少なくないだろう。本書は,SGDsに関わる実践的な国際貢献の取り組みを広範に紹介している。1章ではSDGsの成立経緯や課題がコンパクトに整理され,2章以降では経済開発,ソーシャルビジネス,都市化,環境,防災,社会保障など多岐にわたる取り組みが具体的に紹介されたうえで,「ゴール」及び「ターゲット」との関係が示されている。SDGsの成り立ちから現状まで,全体像をつかむのにちょうどよく,テキストにも適した一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

持続可能な開発目標と国際貢献:フィールドから見たSDGs

北脇秀敏 他 編/朝倉書店/2017年9月

 本書は,一般社団法人国際文化都市整備機構(FIAC S)の異なる専門分野のメンバーが事例研究から,ポスト2020を見据え,創造都市や協働まちづくりなどの都市にもとめられる考え方を整理している。また,都市の創造力を高めるためにポップカルチャーや,IoTやAIなどのIT技術の実装についても述べている。加えて,アートプロジェクトの視点から計画者に求めること,街のブランディングとソフトインフラ,エリアマネジメントなど計画者が知っておくべき考え方が体系的に紹介されている。今のまちづくりに,そしてポスト2020に向けたまちづくりに求められることを知ることができ,学生とともに実務者にもお勧めする一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

ポスト2020の都市づくり

井口典夫 他/学芸出版社/2017年7月

 本書は,建築や私有地の庭園あるいは工場などを地域ぐるみで期間限定で一斉公開するオープンシティ・プログラムについてまとめている。筆者らは,職住分離や公共空間と私的空間の分離という都市構造や居住形態の変化の中で,これらのイベントを公開される資源の価値への気づきと地域全体での共有,資源所有者と訪問者の対話や保全活動・運営活動への主体的参加への契機と位置付けている。筆者らが直接関与しているイベントも取り上げしつつ,国内外の幅広い事例が紹介され,データとして整理されている。公開する対象物や運営手法などは非常に多様であり,入門書としてもカタログとしても活用できる一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

まちをひらく技術: -建物・暮らし・なりわい-地域資源の一斉公開

オープンシティ研究会/学芸出版社/2017年9月

 大都市の都心周辺部に多数存在する木造賃貸アパート(“モクチン”)を扱うソーシャルスタートアップである「モクチン企画」の活動とその方法論を解説した一冊。本書では,非計画的に建設されながら日本の高度成長期を支えた木賃アパートの建設の背景や特徴,課題を整理した上で,ネガティブに捉えられがちな木賃アパートを資源として活かすための見立て方やそのデザイン,望ましい組織体制などが提示されている。また,筆者らは本書を通して木賃アパートという凡庸なストックへの最小単位の空間介入の持つ,社会的な変革へとつながる可能性を,事例を交えながら雄弁に伝えてくれる。従来の既成市街地の計画とデザインにはなかった新たな視点を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

モクチンメソッド:都市を変える木賃アパート改修戦略

モクチン企画/学芸出版社/2017年7月

 本書は,住民参加型のインフラ整備手法であるLBT(Labour Based Technology)工法について,著者の発展途上国で携わってきた数々のプロジェクト事例を紹介するとともに,途上国で抱えている資金や人材不足といった開発課題と我が国の税収不足で財源および働く世代の減少に悩む地方が抱える課題の構図を重ね合わせ,LBTが我が国の地方創生の切り札になるとしている。LBTは,現場や関係者・参加者の条件により多彩な運用が図れるインフラ整備の方策であることから,地方創生に活かすためには柔軟かつその地域に適した形として導入してほしいとしている。地方創生に携わる皆さんの参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

地方創生の切り札LBT:アフリカから学ぶまちづくり工法

徳永達己/大空出版/2017年4月

 隣接する建物の繋がりや街区のまとまり感など空間的要素に着目した建物の外観のデザインや形状など建物を建てる際の注意点をまとめたものである。歴史的町並みの事例やイギリスの街並み保存システムなど説明があり,近隣との建物外観と街並みの表現を空間的要素で把握すること,コミュニティのための空間を設けることの重要性を述べている。新築のみならず,今後増えてくる歴史的な町屋の保存や建替えなどのガイドラインとして参考にもなる。建物の設計を勉強している建築学生をはじめ,デザインガイドラインや景観ガイドラインなど策定業務に関わる者にも参考になる1冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

建築とデザイン:住まいと街並のためのデザイン技術

佐藤圭二/ぐんBOOKS/2017年8月

 昨年出版した「ポートランド-世界で一番住みたい街をつくる」では都市再生や公共交通などハード整備の内容が中心だったが,本書は「ポートランド・メイカーズ」のタイトル通り,起業した人に対し人との繋がりやコミュニティ形成などソフト面をまとめた内容となっている。対話形式やカラー写真が多く載せられておりポートランドの様子が伝わる。ポートランドは人口60万人強の小さな都市だが,なぜ世界を代表する人たちが集まってくるのか,公共交通の発達や手ごろな地価など都市基盤だけではない,街のクリエイティビティを生み出す人の存在ありきということが理解できる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

ポートランド・メイカーズ:クリエイティブコミュニティのつくり方

山崎満広 編著/学芸出版社/2017年5月

 本書は「安全・安心な都市環境へ」,「健康・健全な都市環境へ」,「効率的で低炭素な都市環境へ」,「快適な都市環境へ」の4章,各4節で構成される。前半では震災等の経験から回復力や自然のポテンシャルの活かし方について,後半ではエネルギーシステムや環境配慮型建築,まちの「らしさ」の保全・継承,住環境の改善について,都市環境に関わる日本の事例が幅広く紹介されている。施設レベルから街区,エリア,都市,さらにはネットワーク空間を考慮した圏域まで,単位も広い。全体として,歴史や近年の動向を抑えながらも,現状や今後を長期的かつ客観的に捉えている。巻末には索引もあるため,キーワードから読み解くこともできるだろう。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

都市環境から考えるこれからのまちづくり

都市環境学教材編集委員会 編/森北出版/2017年7月

 早稲田大学後藤春彦研究室による二十余年にわたる分厚い研究と地域に深く根を下ろして展開されてきた実践の軌跡が,それらを下支えする思考のよってたつ5つの「視座」と5つの方法論をもとに,卒業生と現役学生の協働によりとりまとめられた一冊。編著者の師である吉阪隆正が唱えた「有形学」への返歌であるとする「無形学」は,「つくること」から「なすこと」へと重点が移動し,「無形」のしくみのリデザインが希求される今日の社会にあって,物理的空間論と社会的空間論をむすぶ基礎的な理論として構想される。社会と密接に関係する実学である都市計画のテーマを問い直す作業でもあり,研究室という学術組織による理論と実践の体系化の軌跡でもある無形学への旅を,ぜひ多くの会員におすすめしたい。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

無形学へ:かたちになる前の思考

後藤春彦 編著/水曜社/2017年4月

 本書は,四日市臨港道路霞4号幹線調査検討委員会の座長を務めてきた筆者を中心にまとめられた16年間に及ぶ道路づくりの事業記録である。検討委員会が始まった平成12年は,環境影響評価法の全面施行の翌年で,事業地や周辺住民の環境保全に対する関心が高まっている時代でもあった。そのような背景の中,干潟の生態系や生活環境への負荷を懸念する多くのステークホルダーを巻き込み,合意形成を図りながら事業を進めるプロセスは,地域に根差した公共事業の1つのモデルとも言える。計画~建設段階に至る検討委員会の取組や工夫などが具体的に紹介されており,公共事業に携わる技術者の一助になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

道路建設とステークホルダー:合意形成の記録

林良嗣 他/明石書店/2017年3月

 日本の大都市圏は鉄道網が発達しており,その沿線に主要な市街地が展開する特徴を持つ。その成立過程において,基本的に独立採算であり旅客増のために沿線を開発した私鉄各社の影響は大きい。本書は大都市圏を主に大手私鉄沿線を単位として眺め,その都市空間の成立過程を紐解いていく。また,後半では,近代における都市近郊開発において,電気鉄道,電灯電力,不動産という3つの主要なプレーヤーを挙げ,各大手私鉄関連で3つのプレーヤー間でいかなる関係性があったのかを整理する。都市郊外を取り巻く状況が大きく変化する現在,その成立背景について,都心からの距離や地形的要因などとは異なった視点からの観察を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

私鉄郊外の誕生

片木篤/柏書房/2017年8月

 本書は,「辺境」こそ新たなビジネスが生まれる最先端であると捉え,「先進的木造建築」「村ぐるみの宿」「ガストロノミー」「アートビジネス」などバラエティ豊かなキーワードに基づく地方創生の取り組みを世界中の「辺境」に見いだして詳細に紹介している。事例を体系化して一般的知見を提示するというよりは,固有性に富んだ地域と担い手の組み合わせを,ありのままに鮮やかに描き出しており,それぞれの取り組みの魅力が十分に伝わってくる。いずれの事例も,小規模ながら地域密着型のビジネスモデルを確立することで地域内経済循環を作り出すことに成功しており,わが国の地方創生を考える上でも大いに参考になる。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

世界の地方再生:辺境のスタートアップたち

松永安光 他 編著/学芸出版社/2017年6月

 日本近代における空間編成をめぐる過程を,制度や政治,地域共同体との関係性のなかで考究し,個別の事業史ではなく近代化過程という歴史全体への位置づけに挑んだ,建築史・都市計画史・土木史・造園史・歴史学などの研究者らによる14編の論考集。都市空間の統治の仕組みや,集権化・合理化されていく各種事業における土木技師らの存在に着目しながら,旧来の非公共的秩序をも巧みに回収してゆく統治技術としての事業遂行システムの姿を浮き彫りにする。さらに,こうしたシステムが完成をみる1930年代と現代との繋がりへの示唆は,戦後日本における空間や土地の統治のあり方への再考をも促すものであり,歴史研究に対する新たな方法論を提示する一冊である。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

近代日本の空間編成史

中川理/思文閣出版/2017年4月

 本書は,著者の長年に渡るヴェネチア研究の集大成として,学術論文,論考が整理されたものである。今なお車の通行を許さないヴェネチアの街は,中世の早い段階から馬の通行を禁止し,歩く人の視点から都市が発展してきたという。それゆえ都市空間が人間を主役とする劇場のような空間になり,独特の文化を育んできた経緯など,本書では,ハード面,ソフト面の様々な視点からヴェネチアの歴史と現状が述べられている。様々な年代の都市の古地図や鳥瞰図,建築物の図面,市民の暮らしを表す絵画など,ちりばめられた多くの図版が,遠い時代,遠い場所の都市計画の学びを助けてくれる。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

水都ヴェネツィア:その持続的発展の歴史

陣内秀信/法政大学出版局/2017年4月

 本書は,全国各地にある公園・庭園のうち,約340事例を厳選し,地域固有の自然・風景・歴史・文化・景観の魅力とその楽しみ方を紹介している。はじめに,基礎知識として,公園・庭園の定義に加え,自然公園,都市公園,庭園の歴史を紐解き,現状の動向をコンパクトにまとめており,わかりやすい。都道府県別公園・庭園の事例では,地域を代表した公園,国指定史跡・名勝の庭園や知名度の高い場所などが紹介されており,地形,植生,湖沼などの自然を通して,風土性や地域らしさがよくわかり,その物語を読んで,各地を訪れてみたくなる一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

47都道府県・公園/庭園百科

西田正憲 編著/丸善出版/2017年8月

 アルスエレクトロニカは,オーストリア・リンツ市で毎年開催される,芸術と科学技術を融合させた新しい生活スタイルや社会のあり方を提案するイベントである。本書は,重工業の都市であったリンツ市が主要産業の斜陽を乗り越え,新たなアイデンティティを獲得し,停滞したムードから市民の意識が変革していく様子が描かれる。リンツ市はアルスエレクトロニカ社も立ち上げており,イベント運営のほか市内でイノベーションが起こりやすい環境を整備している。国や都市によって産業や人口の状況,さらには制度や社会システムも異なるものの,都市のブランディングという観点から示唆に富む一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

アルスエレクトロニカの挑戦

鷲尾和彦/学芸出版社/2017年5月

 本書では,今後一層の人口減少や高齢化が進む我が国において大きな課題の一つとなる緑地等の空間管理のための作業量を計算するための「景域管理作業量」という概念が提案されている。これまでの都市政策の展開や将来的な人口動態を踏まえながら,名古屋市や中部圏を対象とした豊富な事例研究の中で,市街地,田園,里山,森林,沿岸部など我が国を構成する多様な景域それぞれの景域管理作業量を計算することで,今後必要となる作業量や景域の特徴,望ましい施策等を詳細に分析している。また,景域管理と生態系等との関係性についても焦点を当てることで,管理の効率性だけなく地域空間の総体的な価値や持続的経営に向けたマネジメントのあり方も論じられており,昨今の人口減少都市論へ新たな視座を与えてくれる一冊である。是非一読して欲しい。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

Labor Forces and Landscape Manegement

Hiroyuki Shimizu 他/Springer Nature/2017年1月

 本書は人口減少局面など,歴史的転換期を迎えた我が国の状況をふまえ,今後の「ポスト都市化時代」の都市計画のあり方を問う一冊である。Ⅰ部では都市計画の中核にあるマスタープランについて,その制度成立の背景や時代とともに変容した計画の「型」を整理し,近年策定が進む立地適正化計画まで含めて,それぞれの課題を鋭く指摘している。Ⅱ部では,開発や計画の型,それを担う主体や部分と全体の関係性の変化といった,ポスト都市化時代の都市計画のあり方を捉える上での諸条件を提示している。最後に,Ⅲ部において筆者はこれまでの議論を踏まえた上で,1つの可能性としての今後の都市計画像のラフスケッチを試みている。日本のマスタープラン制度及びその計画手法が抱える本質的課題について,論理的な考察が展開されており,立場を問わず都市計画に関わる者の理解を深める一助となるだろう。広く読まれるべき一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

都市計画変革論:ポスト都市化時代の始まり

小林敬一/鹿島出版会/2017年2月

 本書は,東大まちづくり大学院での研究と教育の成果をまちづくりのテーマごとにまとめた第5弾。これまでの途上国の発展は,外国資本投資が重要な役割を果たしてきたことを踏まえつつも,目先の利益のみに囚われた開発が進められ,将来に禍根を残すような都市開発が進む可能性も憂慮されることから,サステイナブルな都市輸出の重要性とWin-Winの関係を築いていく必要性が述べられている。それぞれのテーマについて,第一線の政策担当者等が執筆しており,幅広い分野の具体的な事例が紹介されている。インフラ輸出や海外における都市開発等,都市輸出の実務に携わっている方や,本テーマに関心のある研究者や学生の方に一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

サステイナブル都市の輸出:戦略と展望

原田昇 監修/学芸出版社/2017年3月

 景観法施行10年が経過し,運用の課題と今後の活用についてまとめた1冊である。特に特徴的な27の自治体の取り組みを細かく紹介しており,読むだけで全国の景観の枠組みを把握でき,基礎知識を習得できる。また,建築,土木,都市デザイン,実務者の多方面からの専門家からの意見まとめられており,広域を扱う景観分野の特徴が出ている。この景観法10年の運用を踏まえた反省点,法制度の限界から他制度との連携の必要性など実効性に重点を置いた提案として,これからの景観まちづくりの新しい展開を示しており,これから景観を学ぼうとする学生をはじめ,景観に関わる行政にも是非一読をお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

景観計画の実践:事例から見た効果的な運用のポイント

日本建築学会 編/森北出版/2017年3月

 ドイツ在住のジャーナリスト,環境コンサルタントである著者が,ドイツと日本を比較しつつ,ドイツのさまざまな政策を紹介し,人口減少下の都市計画について論じている。ドイツは「コンパクトシティ」に当たる言葉はなく,中心市街地のまとまった集合住宅に人口を誘導する「ショートウェイシティ(移動距離の短いまち)」に取り組んでおり,自動車利用の不便さと生活の質のバランスが議論されている。ドイツのまちなかの自動車がいない,にぎやかな市街地の歩行者天国も,自然に存在したわけではなく,1970年前後に反対を受けながら社会実験を実施して実現されたというのも興味深い。様々な政策やデータからドイツのまちづくりを学べる1冊である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか:近距離移動が地方都市を活性化する

村上敦/学芸出版社/2017年3月

 編著者である東京大学西村教授の研究室のグループにより,先進的な日本の都市,そしてアメリカ,ヨーロッパ,アジアの都市の取り組みが紹介されている。先進的な政策や都市空間のみならず,第3部ではリーダーシップと合意形成に焦点を当てているように,どのようにそれらが成されたのかについても知ることができる。口絵にはカラーでゾーニング図など各都市の都市計画に関わる図版や写真がふんだんに掲載されており,1904年のミュンヘン市の旧市街地の都市計画図など貴重な資料が提供されている。もちろん,本文中にも多くの図表が用いられ,分かりやすく説明がなされている。この本を読んで,紹介されている都市を歩きたくなる書である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

都市経営時代のアーバンデザイン

西村幸夫 編/学芸出版社/2017年3月

 本書は,ローカルな商店街の一角や山あいの村で営まれるゲストハウスの運営者により綴られた9つのエピソードや,空き家活用や小さな経済圏・社会資本の創出拠点としての可能性をさぐる論考がまとめられている。ゲストハウスの開業のきっかけや運営者の考え方,日常の様子などが写真やイラストを交えて紹介されており,とても読みやすい。宿業をはるかに超え,移住の窓口的な役割を担い,地域と旅行者をつなぐ媒介者であり,地域コミュニティを支える担い手として,多くの人を惹きつけるまちのゲストハウスの魅力と地域活性化の手がかりが詰まった一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

まちのゲストハウス考

真野洋介 他 編著/学芸出版社/2017年3月

 地理情報システム(GIS)を取り巻く環境は近年急速に変化している。特に,位置情報取得やインターネット接続の可能なスマートフォンの普及,オープンデータやフリーGISソフトの増加により,空間データの解析や地図による可視化が専門家の特殊技能から,誰でも簡単に取り組める作業へと変貌しつつある。本書はそのような参加型GIS,ウェブGISの最新動向を多様な事例とともに解説している。市民参加,地域の理解と課題抽出,防災・防犯,子育てや福祉,祭礼空間の復元や観光振興など,都市計画と関連するキーワードも豊富に盛り込まれている。最近GISという言葉はよく聞くけれど…という方にもぜひご一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

参加型GISの理論と応用:みんなで作り・使う地理情報

若林芳樹 他 編著/古今書院/2017年3月

 本書は,生活空間に関わる建築的,土木的な内容とともに,都市と切り離せない農山漁村,山地などの自然系の内容も含めた,本来の意味での都市計画とその背景を網羅した新しい教科書である。さらに,人口増加を前提に発展・成長型の社会をつくる都市計画の考え方を見直すべきこれからの時代に向けて,「共生の都市」,「近隣とのコミュニケーションのとれる居住地」,「生活者主体の社会」という視点で全体が貫かれている。図版を多用し基礎的知識を押さえつつ,歴史から最新の政策まで,バランスのよい構成である。都市計画を学ぶ学生は勿論のこと,仕事で都市計画に関わる者にとっても,新たな広い視点で見直すために是非ご一読いただきたい。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

生活の視点でとく都市計画

薬袋奈美子 他/彰国社/2016年8月

 本書は,近代日本社会において学校教育,明治神宮造営,都市美運動など様々な場面で実施された「記念植樹」,すなわち「記念に樹を植える」という行為の背景にある歴史事象を紐解いている。また,その活動を主導し,記念事業の一環として営まれた記念植栽という行為に係る理念と方法論を構築し,日比谷公園設計や植民地を含む全国70カ所以上の公園の整備に携わり,公園の父と称され,近代日本の景観を形成した林学者・本多静六に焦点をあて,彼の生家の富士山信仰・不二道の思想的影響やドイツ留学の経験等による本多の思想と事績を論じながら,近代日本の形成過程に記念植樹を位置付けており,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

記念植樹と日本近代:林学者本多静六の思想と事績

岡本貴久子/思文閣出版/2016年3月

 本書は,終戦により遊休国有地となった広大な旧軍用地が都市にどのように組み込まれてきたのかを時系列的にまとめた論文集である。本書は,2部構成となっており,第1部では,旧軍用地を立地,規模,集積状況,地形,建物における特性から整理するとともに,都市計画における位置付けや転用方針について終戦直後,戦災復興期,高度経済成長期と時系列的にまとめている。第2部では,各都市における旧軍用地の具体的な転用プロセスについて,東京,名古屋,横須賀,佐世保などを取り上げまとめている。本書を通して,わが国の都市において,旧軍用地がどのように位置付けられ都市が形成されてきたのか知ることができる読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

旧軍用地と戦後復興

今村洋一/中央公論美術出版/2017年1月

 本書は早稲田大学佐藤研究室の関係者ほか約20名が分担執筆している。シンポジウムでの議論がもとに編集されていることもあり,多様な視点からまちづくりに関する議論が展開される。まちづくりは,その適用地域における歴史風土,周辺環境,克服すべき課題,関与する住民や主体などにより多様な展開を見せている。分担執筆であることもあり,本書ではそれらを無理に集約することなく,多様なまちづくりの概念,実践法や計画論などが述べられ,豊富な事例とともに紹介される。リレー講義がそうであるように,読者自身なりの定義や着眼点と合致する一面では知識を深め,一方で新鮮な視点も与えてくれる貴重な資料である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

まちづくり教書

佐藤滋 他/鹿島出版会/2017年2月

 本書は,京都のまちづくり組織である,「六原まちづくり委員会」が,自ら悩まされた空き家の問題に取り組む中で製作された冊子である。空き家活用方法を事例とともに紹介し,相続に当たっての諸問題への対処法を示すなど,空き家解消,予防のための知見をコンパクトにまとめている。当初は地域の住民への配布のために作成されたものとあって,多くのイラストや写真を用いた説明は,誰にも読みやすいものとなっている。空き家に関わる問題やそれらの問題への取組み方について,はじめの一歩を教えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画327号 2017年7月15日発行)

空き家の手帖:放っておかないための考え方・使い方

六原まちづくり委員会+ぽむ企画 著/学芸出版社/2016年10月

 本書は,写真編,解説編,データ編の3編構成となっている。写真編では,世界の橋のカラー写真を同種の橋別に掲載しており,橋の形状や色,装飾,背景の建物などじっくり見ているだけでも見ごたえがあり,見た人が個々にその橋の違いを堪能できる。その後の解説編では,世界の25地域を取り上げ,橋の構造的な内容ではなく,歴史や文化,その橋が現在に至るまでの経緯をわかりやすく解説していて,とても読みやすい。地域景観をつくる橋というサブタイトル通り,橋は地域のシンボルとして親しまれている存在であり,橋のデザインを考えるのみならず,橋を活かした地域計画をする際にも参考になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画327号 2017年7月15日発行)

世界の橋並み:地域景観をつくる橋

松村博/鹿島出版会/2017年3月

 本書には,著者が暮らすバイエルン州北部のまち,人口約10万人のエアランゲン市について,その活き活きとした様子が多様な側面から描写されており,その要因について著者の考察がなされている。視点は市民活動,企業活動,市民のマインド等さまざまであり,それらの文脈の中で,元来のコンパクトシティの性格,歩行者が楽しむ中心市街地の形成,環境問題のみならず,移動の公平性を念頭においた自転車道の整備等,都市計画の側面についても述べられている。平易な文章と多くの写真により,一読することで,ドイツの地方都市を訪問して体験した気分になれるような一冊である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか:質を高めるメカニズム

高松平蔵/学芸出版社/2016年9 月

 本書は,都市とスポーツとの多様な関わりを取り上げ,スポーツを都市経営にどのように活用するかをテーマとしている。都市とスポーツとの関わりは,2020年東京五輪のようなメガイベントの運営に限らず,市民マラソン等の身近なイベントの運営や,例えば体育館やサイクリングコースといった施設やインフラの整備等,想像以上に幅広い。スポーツ都市経営には,必ずしも立派なイベントやハコモノだけが必要なのではなく,住民にスポーツに親しむ機会を提供し地域への愛着心を育み,地域外からのスポーツツーリストを受け入れ,そして経済効果を上げるという,一つのビジネス体系として捉える視点が必要と感じた。大都市に限らず地方都市や中小都市においても参考になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

スポーツ都市戦略:2020年後を見すえたまちづくり

原田宗彦/学芸出版社/2016年3月

 本書は,都市の人口が減少へと向かう中でなお大量の住宅が作りつづけられる現状に警鐘を鳴らし,それによって引き起こされる諸問題の実態と要因を明らかにしている。またその上で「住宅過剰社会」から脱却するための方策をまとめている。著者は,都市計画が焼畑的な住宅供給を止められずフリーズしてしまっている状況に対して,時に行政への厳しい批判を交えつつ,制度・枠組み上の課題を含めて問題の構造を明快に描き出す。読み応えのある内容であるが文章はとても読みやすく,研究者・実務家のみならず初学者や一般市民を含めて,縮退社会における都市計画に関心をもつ全ての人に一読を勧めたい。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

老いる家 崩れる街:住宅過剰社会の末路

野澤千絵/講談社/2016年11月

 本書は,芝浦工業大学の様々なバックグランドを持つ専門家が,専門領域の内容を掘り下げるのではなく,関連領域を盛り込みながら,システム思考という一本の糸で結ぶという点に着目して編集されている。複雑化する都市の問題は,建築・都市あるいは土木などの確定した従来型の専門領域や一つの完結した概念で語り得ぬものであり,専門性をつなぐしくみを考えることの重要性が整理されている。都市を知り,都市を考えることは,専門家に限った問題ではなく,広く一般の人々にとっても共通の問題であることを考えさせられる。今後の社会を担っていく学生やこれからまちづくりに関わろうとする市民など,幅広い方にお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

都市をつくりかえるしくみ

専門性をつなぐ参画のしくみ研究会 編著/彰国社/2016年12月

 本書は多彩な研究者が参加するメガシティ研究の成果を取りまとめた6部作の第3巻,分析編である。東京都市圏に次ぐ,巨大なジャカルタ首都圏を取り上げ,国際的契機と自然環境を検討し,気鋭の歴史学者たちが,ジャカルタがメガシティとなったプロセスについて16世紀から20世紀までの500年間の膨大な史料をもとに分析している。国際的契機と自然環境の上で形成されたジャカルタの歴史的な発展の経緯を読み解いており,過去から現在,そして未来の都市のあるべき姿への教訓などがまとめられている。ジャカルタの歴史的な発展の経緯を理解することができ,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

メガシティ3 歴史に刻印されたメガシティ

村松伸 他/東京大学出版会/2016年8月

 伝統的な住まいや生活文化を受け継ぐことの意味や重要性,具体的な継承の方法などについて,一般社団法人住総研の研究会による3年にわたる研究成果をまとめたものが本書である。建築学,社会学,まちづくりなど多様な分野の専門家や実務家が,建築計画,文化財保護,生産技術,社会システムなど多様な側面から「住まいを受け継ぐ」ということについて幅広に論じており,住居や歴史的建造物の保存について考えるうえで示唆に富んでいる。また住まいの継承のさまざまな事例が図面と写真付きで詳細に紹介されており,具体的な空間性をイメージできるように配慮されている。当該分野に関心のある学生や実務者に一読をお薦めする。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

住総研住まい読本 受け継がれる住まい:住居の保存と再生法

住総研「受け継がれる住まい」調査研究委員会 編著/柏書房/2016年9月

 本書は,三重短期大学都市計画ゼミの景観研究を冊子にしたものである。内容は,伊賀市の農村集落に対して,都市出身者,農村出身者別や地域住民の評価などを分析するなど,パタン・ランゲージをツールとして用いており,表現の難しい農村地域の景観の特徴を知ることができる。また,アンケート調査のデータが中心の報告書のような内容となっているため,読み手が一緒に考えながら理解する必要があるが,住民が住んでいる農村景観をどのように評価しているかを表現している貴重なデータであり,景観計画策定の関係者やこれから景観を学ぼうとする学生にもお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

農村景観のパタン・ランゲージ:伊賀市での景観基準づくり研究

岩田俊二/農林統計出版/2016年11月

 本書では,ポートランド市開発局に勤務する著者によって,市の歴史と最新の取り組みが紹介されている。著者は都市計画の専門家ではなく,アメリカでの居住歴が長いため,日本の専門的知識についてはやや不十分な記述もあるものの,市のまちづくりの根底にある考え方,住民を含む利害関係者によるデザイン・ワークショップの実際の事例,資金調達の仕組みなど,職員として働く著者ならではの情報が豊富に含まれている。何より,専門家でないからこその住民視点での魅力も伝わってくる。さらに,環境都市開発のブランディングとそのノウハウの輸出の動きと,柏の葉スマートシティでの最新の事例なども紹介されており,実務者にも参考になるだろう。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

ポートランド:世界で一番住みたい街をつくる

山崎満広/学芸出版社/2016年5月

 「よいまちとは何か」「どうすればよいまちは作れるのか」「なぜよいまちを求めるのか」。このシンプルな問いを受けて,当代を代表する両知性による濃密な対談を記録した本書は,〈安心・安全・便利・快適〉の効率的な調達を優先する都市計画ではなく,「ノイジーな不完全性」を有する世界において,時間と結びついた「全体が生き物であるような場所」を掴むことの重要性を説く。中間層の分解による〈感情の劣化〉が進行する時代にあって,顔の見えるスモールユニットにおける熟議と,共同体のソーシャルスタイルに関わる価値にコミットする「我々」の包摂こそが,未来に対し企て構想する「計画」という行為を後押しする。研究者,実務者を問わず,都市計画に携わる全ての人に一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

まちづくりの哲学:都市計画が語らなかった「場所」と「世界」

蓑原敬 他/ミネルヴァ書房/2016年6月

 本書は,都市計画分野では言わずと知れたジャーナリスト・市民活動家ジェーン・ジェイコブスの生誕百年,没後十年を期に,様々な分野の専門家の寄稿や座談会をとりまとめた一冊である。代表作「アメリカ大都市の死と生」の中で多様性を重視した彼女の主張は,当時の都市計画,経済学,倫理学,環境学等の専門家へ大きな影響を与えた。「アマチュア」が故の総合的視座に加え,卓越な洞察力を持った彼女の主張は,当時の時代背景も相まって,その価値はいまだに衰えることを知らない。過度に専門分化し,専門外に対して排他的になりがちな現代において,今一度広い視野にたって都市計画と向き合うひとつの機会として,本書を手にしてみてはいかがだろうか。

紹介:総務・企画委員 大門創

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

ジェイン・ジェイコブズの世界:1916-2006 別冊環22

塩沢由典 他 編集/藤原書店/2016年6月

 本書には,一般社団法人エコまちフォーラムが企画・運営する「エコまち塾」において開催された,講義録がおさめられている。講義のテーマは,都市,建築,環境,エネルギー,経済,社会といったさまざまな分野にわたっており,それぞれについて,国内の先進事例から世界的な流れまで幅広い内容の紹介がなされている。巻末には,2020年以降の東京の未来をテーマにした座談会も掲載されており,現在の制度上の問題点も指摘しつつ,さまざまな示唆を与えている。各ページには,講義内容に出てくる用語の説明も丁寧に注釈がついており,このような分野に興味を持った学生にもやさしいつくりになっている。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

エコまち塾

エコまちフォーラム/鹿島出版会/2016年5月

 本書は多彩な研究者が参画するメガシティ研究の成果を取りまとめた6部作の第1巻,導入編である。メガシティとは何かという定義に始まり,世界の大都市を統一した指標で概観してメガシティを抽出する。各都市がメガシティに発展する経過が整理されるほか,都市圏の広がりも比較される。気候風土などにより都市を生態系圏域に分類して議論するという視点,地域の特性を読み解きながらジャカルタで実践された地域改善の取り組み紹介など,導入編でありながら理論面でもデータ面でもケーススタディの記録としても読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

メガシティ1 メガシティとサステイナビリティ

村松伸 他/東京大学出版会/2016年8月

 建築家・大野秀敏氏及び東京大学大野研究室による研究活動の成果であるとともに,大野氏らが2000年代半ばから発表し続けてきた「ファイバーシティ」理論の集大成である。第Ⅰ部で人口増加時代を経た現代の我が国の置かれている社会状況を分析した上で,第Ⅱ部では既存の都市において線状要素(=ファイバー)を操作することにより「場所」と「流れ」を制御するという計画理論と東京首都圏及び長岡という実際の都市を対象とした都市戦略群が提案されている。人口減少社会における新たな都市システムの提案を含めた具体的な都市空間像が描写されている点が貴重であり,今後の都市計画理論のあり方を考える上で示唆に富む一冊である。ぜひ一読いただきたい。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

Fibercity:縮小時代の都市像

大野秀敏+MPF/東京大学出版会/2016年8月

 地球温暖化対策という大きなテーマを住宅,地域,健康など総合的な解決についてまとめた内容である。住宅内の省エネ計画が,その集合体の都市として実施された時大きな効果として表れる。しかし,個々のエネルギーの需要に関連する用途を決めているのは都市計画であるにも関わらずエネルギー計画が組み込まれることはなかった。2000年以降,太陽光発電導入をきっかけにようやく都市計画分野にも扱われるようになったがまた未熟であり,今後は電気・ガス・熱などのエネルギーを考えた都市計画があるべきだと指摘している。本書は,環境工学の枠を超え,医学,建築学の視点を踏まえ温暖化対策を考えられる一冊となっている。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

住環境再考:スマートから健康まで

住総研「住環境を再考する」研究委員会 編著/萌文社/2016年4月

 建築家として多様な建築の設計に携わった筆者が,人を惹きつけ,利用される建築とはどのようなものかについて考察する。筆者はそのキーワードとして「遊環構造」を提案する。循環型で回遊性を持ち,安全で変化に富みつつ短絡路があり,シンボル性の高い空間や広場があることなどを条件とする「遊環構造」を実践した事例が豊富に紹介される。紹介されるものは大半が建築スケールの事例ではあるものの,周辺環境との関連性を読み解き,人々から利用される空間を構想する発想は都市スケールへの応用も可能であり,空間を構想する際の視点とアイディアを与えてくれる一冊と言えるのではないだろうか。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

人が集まる建築:環境×デザイン×こどもの研究

仙田満/講談社/2016年4月

 都市計画等制度に則らず形成されたインフォーマルな市街地は,居住環境上の問題を抱える一方,市街地固有の文化を反映した空間やコミュニティ等がバランスした社会空間としての魅力がある。本書は,アジア,アフリカの9つのインフォーマルな市街地を対象とし,フォーマルなプロセスに依らない「手づくり」による居住環境改善の取組みの特徴を,精緻な調査により浮き彫りにしている。一見では知り得ない現地の取組みを知ることが出来るとともに,試行錯誤しつつも市街地の状況に応じたコミュニティ・ガバナンスを展開することの重要性について,改めて認識させられる。既成市街地のまちづくりに関わる実務者,学生に一読をお薦めする。

紹介:総務・企画委員 川田浩史

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

アジア・アフリカの都市コミュニティ:「手づくりのまち」の形成論理とエンパワメントの実践

城所哲夫 他 編著/学芸出版社/2015年12月

 近年は日本でもBRTという言葉を耳にするが,その定義は曖昧である。著者もそのことを指摘しつつ,独自の定義に基づき,世界各地のBRT事例を紹介する。バス停や走行路などのハード面,運賃体系や支線区間への直通などのソフト面,ICTの活用や都市計画・交通計画との連携など,多面的に紹介されており,著者のBRTの定義に含まれる「従来の路線バスの(負の)イメージを一新する」という部分に着眼しながら読み進むと示唆に富む。本書による論点の整理は,BRTとは何かという基準や定義を与えようとする視点から,都市戦略や公共交通体系の中で,なぜBRTなのか,どんなBRTであるべきかという議論へ視点が移る契機となる。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

バスがまちを変えていく:BRTの導入計画作法

中村文彦 他/計量計画研究所/2016年6月

 逗子の事例を基に,持続的な原風景を創る住民参加参画の必要性をまとめたものである。逗子の住民は,都市から近距離にある土地であるため,歴史や自然と共存しながらつくられた風土として開発され損なわれていく姿を身近に見ているからこそ,環境問題に大いに関心があり敏感であるとしている。この原風景の消失と開発に対しては,人口減少時代に法定容積率とその達成率とのギャップは開く一方であり,土地利用計画を抜本的に見直さなければならないと指摘している。これは逗子に焦点をあてることで都市部近郊に起きた問題に対しても読み解くことができ,今後日本で起きうる新しいまちづくりへの取り組みにおいて非常に参考になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

風土と市民とまちづくり:ちいさなマチ逗子のものがたり

長島孝一/鹿島出版会/2016年2月

 特に旧東ドイツの都市は,社会流出による人口減少を経験してきた。本書は,日本とドイツの人口減少の背景・要因を冷静に分析した上で,都市のアイデンティティを強化しつつ,人口減少に真正面から向き合い縮小戦略を検討してきたドイツの事例を丁寧に紹介し,今後の示唆を与える。それは,空き家率の増加に対し主に減築で対応した都市,さらに社会インフラ維持管理費削減のため撤去も行った都市,撤去後のイメージ刷新を図った都市,あえて新開発地区から撤去した都市など,様々である。州都だけでなく小都市も,そして成功事例だけでなく問題を抱える都市も取り上げており,日本の都市にとって学ぶ点が多い。是非一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

ドイツ・縮小時代の都市デザイン

服部圭郎/学芸出版社/2016年3月

 2013年の交通政策基本法の制定は,幅広い関係者の参加と協働による,人間を基礎にした「緑の交通政策」の時代の到来を物語っている。人口減少・超高齢化社会においては,モビリティ格差の是正や社会的ユーザビリティの視点に立った速度マネジメントと空間の再編・再配分といった都市機能と交通機能を統合した政策に,人々の生活や社会への「根づき」を促すための市民の横断的な視点を反映していく努力が不可欠である。法学,交通工学,経済学等の多角的な観点から日本における緑の交通政策の到達点と課題,またフランスをはじめ諸外国との比較による今後の展望を最新の動向を交えて紹介した本書は,新たな交通価値の実現への一つの道標を与えてくれる。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

緑の交通政策と市民参加:新たな交通価値の実現に向けて

大久保規子/大阪大学出版会/2016年3月

 オランダで1996年から2015年にかけて構想・実施された,大規模河川拡幅事業「ルーム・フォー・ザ・リバー」について,都市デザイン,自然環境の保全・創成,そして治水という3つの分野の統合の過程を詳細に描きながら紹介する。ゆっくりとしたプロセスのデザインを可能としたのは,地域の「空間の質」の向上を水害対策と同等の目的に設定した「目的の複合化」と,ボトムアップ型の協議の受け皿にもなった政策決定方法にあると指摘する。気候変動という予測し難い長期的課題を見据えなければならない今日,河川事業という枠を超えて,自然との対話による地域デザイン,国土計画のあり方に大きな視座をあたえてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

自然と対話する都市へ:オランダの河川改修に学ぶ

武田史朗/昭和堂/2016年3月

 本書は,島崎藤村の「夜明け前」にも登場する,中山道中津川宿における,住民,行政,大学関係者らによる景観まちづくりの取り組みを,豊富な写真や図面とともに丁寧に記録した書である。歴史的景観や水路といったまちの資源について,歴史的背景をひもときつつ,国内外の多様な事例も紹介しながら,その方針についての提言がなされており,教科書としての役割も期待される。ワークショップの進め方やアンケート調査の手法など,多様な主体との合意形成の進め方についても分かりやすくまとめられた貴重な資料となっている。各章には英語の要約が付されており,留学生や国外の研究者にも貴重な資料となるはずだ。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

景観まちづくりの軌跡:中山道中津川宿における実践

松本直司 編著/理工図書/2016年3月

 本書は,日本においてラウンドアバウトを導入する際に必要となる,計画,設計,交通運用に関わる基本的事項の全体を俯瞰した国内初めての技術指針である。幾何構造の設計手法が丁寧に解説され,また,その適用条件,交通安全施設に基づく運用手法が述べられている。随所に関連するコラムがあり,多くの海外の事例等が示されている。図や写真による説明も多く,理解しやすい。平成25年6月に道路交通法の一部改正によりラウンドアバウトが「環状交差点」として規定され,今後の普及が大いに期待されている。本書を参考にして,適切な設計と運用がなされたラウンドアバウトの整備が期待される。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

ラウンドアバウトマニュアル

交通工学研究会/丸善出版/2016年4月

 本書では現役市長である著者が飯田市での地域づくりの取り組みを紹介する。最初に,著者がドイツ駐在で感じた,仕事・家庭・地域の3つに価値を置くドイツ人の生き方,飯田と同程度の10万人規模の都市が持つ個性や自立性に触れる。また,飯田の特徴として,関係者が職業や肩書きによらず,当事者意識を持って議論しあう環境の存在を挙げる。その存立背景には大都市圏からの時間距離という地勢的な要因も挙げられようが,上位・広域の組織に依存しない自発的な活動が営まれる姿が詳細に描かれる本書は,人口が減少する右肩下がり時代において,いかに豊かな地域社会を形成するか,その最適な規模は何かという問いに,一つの案を示している。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

円卓の地域主義:共創の場づくりから生まれる善い地域とは

牧野光朗 編著/事業構想大学院大学出版部/2016年2月

 世界の都市を水の視点から取り上げ,水都の価値を学問の枠組みの中で見出そうという『水都学』シリーズの最終巻。歴史学,建築学,環境工学,政策学など学際的な観点からまとめられた各論文により,現時点での水都研究の到達点を明示するとともに,その確立と理想の実現に向けた今後への展望を描く。近代以降,「水都」の空間を近視眼的に失うことの多かった東京において,水辺の復権による都市再生が叫ばれているように,新たな時代のニーズに見合ったソフトインフラとしての骨格を再構築することは,これからの都市・地域づくりにとって最も確実で夢のある戦略であるとする。本書は,その道筋への手がかりを与えてくれるだろう。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

水都論V:特集 水都研究

陣内秀信 他 編/法政大学出版局/2016年3月

 本書は,「都市計画制度」というものを,単に土地利用規制や施設・事業等強制力を持った手法を内容とする「都市計画法」に限定せず,現在の都市が抱える問題(都市問題)を解決するための「手法・制度全体」として捉え,問題への対応・解決策をまとめたものである。現在まちづくり政策として,都市計画法以外に都市再生や低炭素化等の様々な政策が打ち出されているが,法律や制度毎の縦割りではなく,都市問題毎に横断的に整理することで,都市問題への具体的対応策の全体像を把握できるよう実務的に整理されている。都市問題として,安全,経済,生活,環境の4つを取り上げ,法規制等の整理のみならず,支援誘導策や財源確保に至る幅広い分野の施策について様々な提案がなされている点は大変興味深い。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

政策課題別:都市計画制度徹底活用法

佐々木晶二/ぎょうせい/2015年12月

 本書は,パトリック・ゲデス著「CITIESI NEVOLUTION(1915年初版)」の翻訳書の改訂版である。原書の初版が発行されたのは100年も前になるが,科学的な実証の必要性,都市のエネルギー問題,市民主体の計画論など,現在のまちづくりに通じる数多くの問題を示唆している。また,真の設計や計画とは,その地域の有する条件を十分利用し,地域の個性を表現すべきとし,まさに他の都市を真似るのではなく,その土地の歴史や地理的条件等を踏まえた都市計画の必要性が語られている。偉大な先人に思いをはせるとともに,これから都市計画に携わっていく皆さんに,ぜひお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

進化する都市:都市計画運動と市政学への入門

パトリック・ゲデス 著、西村一朗 訳/鹿島出版会/2015年11月

 5期20年間金沢市長だった山出保さんと金沢まち・ひと会議を中心とするまちづくり勉強会の成果及び座談会をまとめたものである。座談会そのものの内容を示しており,文章にすると表現しにくいような細かな内容を読むことができ,まさしく「金沢らしさ」という曖昧な表現をまとめた一冊といえよう。金沢の街は当たり前のように形成されたわけではなく,市長はじめ金沢を愛する人たちの努力よって培われた表れともいえる。そのまちづくりに関わっていた金沢をよく知る人だからこそ説得力があり,「金沢らしさ」を「ほんもの」「コミュニティ」「新しさと調和」の3点に絞り議論しており,同時に原点を振り返る思考にしてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

金沢らしさとは何か:まちの個性を磨くためのトークセッション

山出保+金沢まち・ひと会議/北國新聞社/2015年12月

 本書では,経済理論,都市計画制度,ガバナンス,市民社会,都市形成史,環境,交通,居住政策,防災,ファイナンス,国際協力など様々な立場から,アジアの開発途上国,新興国の都市の課題と処方策が集められている。現状だけでなく,制度や社会的状況,文化の違いからアジア都市の特性の由来が述べられており,人口移動・増加,都市化,経済成長,都市空間,都市交通問題,インフラ整備,所得格差,インフォーマル居住地,地方分権などが共通するキーワードとして挙げられている。自分の専門分野だけでなく,複雑に絡み合うそれらの様々な観点からアジア都市の形成過程を理解した上で,その都市づくりを考えていく際に参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

グローバル時代のアジア都市論:持続可能な都市をどうつくるか

松行美帆子 他 編/丸善出版/2016年1月

 本書は,長年新興国のインフラ開発支援の実務を経験してきた国際協力機構(JICA)職員の筆者による,戦略的なODAの解説と事例紹介である。都市鉄道や空港,都市開発などのセクター別の支援状況や,国別の動向を幅広く紹介しており,新興国におけるインフラ開発を概観することができる。アジア全体のインフラ需要と比較すると,円借款などの政府予算では少なく,民間企業の持つ資金やノウハウを結集することの必要性を述べている。日本の持つ技術力や長年の都市開発,および都市経営の経験が,新興国の発展に寄与できる可能性を感じることができる一冊である。

紹介:総務・企画委員 小林乙哉

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

新興国のインフラを切り拓く:戦略的なODAの活用

山田順一 編著/日本建設工業新聞社/2015年11月

 著者は,ソーシャルメディアとWeb-GISを統合し,利用者間のコミュニケーション機能を持つ「ソーシャルメディアGIS」を提案しており,本書では豊富な事例とともにこれまでの研究成果を紹介している。これらの事例については,地域コミュニティ形成の活性化など,平常時の活用方法から,防災・減災を目指した例など,システム設計から運用方法まで詳しく知ることができる。また,集められた膨大な情報の提供方法の違いによる利用しやすさの評価など,今後GISを活用したシステムの運用にあたっての様々な知見を与えてくれる。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

情報共有・地域活動支援のための:ソーシャルメディアGIS

山本佳世子/古今書院/2015年10月

 戦後の人口増加のもとで進行した都市のスプロール的拡大期から人口減少社会における都市縮小期に移行した先に,都市空間はどう変化するか,あるべき都市計画の姿とは何かを明快に述べ,いわゆる「スポンジ化」した都市のたたみ方について新しい都市論を展開する。読み進めるうちに,都市や都市計画の役割を再考することや,周辺部から中心に向かって徐々にコンパクト化するという思考から脱却し現実的な都市縮小のプロセスを模索することの必要性について改めて気づかされるだろう。人口減少を前提とするこれからの都市計画に対し,都市のスポンジ化を前向きに捉え,スポンジ化の構造を生かした都市空間の形成について提言した貴重な一冊。

紹介:総務・企画委員 木梨真知子

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

都市をたたむ:人口減少時代をデザインする都市計画

饗庭伸/共栄書房/2015年12月

 本書では光のまちづくり推進委員会メンバーが大阪での取り組み内容を中心に紹介している。大阪の都心部には水辺空間と重厚な歴史建造物が豊富に存在し,その魅力を高めるライトアップ,照明計画の重要性が説かれる。都市での電灯の普及と照明手法の変遷,シンガポールを中心とした海外事例の紹介のほか,実際に計画を立案して実現するにあたっての取り組み内容が詳細に述べられる。光の色合いを示す色温度,過度に明るい眩しさを表すグレアなどの重要な概念が説明されるほか,指標の数値ではなく照明は必ず現地で確認すべきこと,照明を増やすだけでなく「光の引き算」が重要なことなど,取り組みの実体験に基づく留意点が述べられている。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

光のまちをつくる:水都大阪の実践

橋爪紳也+光のまちづくり推進委員会 編著/創元社/2015年12月

 本書は,世界12カ国・15都市で,建築・都市・ランドスケープのデザインに取り組んでいる(あるいは取り組んだ経験を持つ)日本人16名について,なぜ都市やランドスケープに興味を持ち,なぜ日本ではなく海外を選び,日本と海外での業務上の違いをどう感じ,どう工夫・克服してきたのか等々,16通りのリアルな経験や思いが語られている。経験の違いはあるものの,共通して浮かび上がるのは,都市やランドスケープという「多くの人に関わるもの」をデザインする上では,異国の人々のものの考え方や生活スタイルを十分理解し許容していこうという姿勢が重要であるということ。デザインスキルのみならず,人間力や行動力の大切さを改めて教えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 米沢秀明

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

海外で建築を仕事にする2:都市・ランドスケープ編

福岡孝則 編著/学芸出版社/2015年10月

 京都近代化の歴史は,「千年の都」という歴史都市のイメージを「演出」するための努力の積み重ねであったことがさまざまなエピソードとして語られ,さらに客観的価値に裏付けられた歴史だけではなく,都市に内在する住民が持ち得てきたリアルな歴史という両面性への視座を促す。近代化との積極的な折り合いにより街に寄り添う様式を実現したモダニズム建築,京都市の都市改造事業と京都府の伝統的風致保存論といった切り口から描かれる近代京都の足跡は,ファサード保存やレプリカの新築など,近代建築の保存・活用をめぐる今日的議論にも一石を投じている。二紙に掲載された連載が並列的に収録された小さな物語集である本書は,さながら京町家の間口のように,さらに奥深い各テーマへの窓として読者を誘う。

紹介:情報委員 土井祥子

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

京都 近代の記憶:場所・人・建築

中川理/思文閣出版/2015年9月

 「水都大阪」の復活をライフワークとする監修者の熱い想いの下,水辺からの都市の再生に携わる実践者が,海外事例も含む各地の取り組みとその成果や課題を取りまとめ,これから取り組む実践者に向けて,都市を分断する水辺から多様な交わりを紡ぎ出す場所へと転化していく要諦を「見つける」「伝える」「設える」「育てる」「広げる」の5つのアプローチとこれに対応した15のアクションとして事例と紐づけて体系化し,豊富な写真とともに分かりやすく紹介する。これからのまちづくりには,地域資源を活かした多様な主体の協働によるまちづくりが不可欠であり,その実践にあたり,本書から単なるノウハウだけでない刺激を得て,まちに出て実践に移すきっかけとしてほしい。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

都市を変える水辺アクション:実践ガイド

泉英明 他 編著、橋爪紳也 監修/学芸出版社/2015年10月

 本書は,モビリティ・マネジメント(MM)を進めるためのプロセス(課題の認識,目標・シナリオの共有)を説いた上で,MMに係る様々な実践事例を整理した書である。取組み内容をはじめ,実現に至るまでの経緯等が目的別にまとめられているため,状況に応じ必要な知識を短時間で得ることが出来る。一方,本書を読破することで,MMにおける普遍的な要点,すなわちコミュニケーションの重要性を強く認識させられる。モビリティのあり方は,都市の構造に大きな影響を与え,人々の生活を左右する。都市をマネジメントする上で,都市に関わる様々な実務者が必読すべき一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

モビリティをマネジメントする:コミュニケーションによる交通政策

藤井聡 他 編著 学芸出版社/2015年8月

 300mを超える超超高層建築物からアプローチするドバイの都市観について語られている本書は,高さを競いそして世界一を護持する文化観について,改めて気付かせてくれる。冒頭では,100mを超える超高層建築物の都市別本数が整理分析されており,世界の超高層建築物の位置づけが手に取るようにわかる。ドバイでは,300mを超える超超高層建築物が18本あり,2位のニューヨーク,香港,シカゴの6本を大きく引き離していることからも,ドバイで超超高層建築物が論じられる理由がよくわかる。また,本書はドバイの建築物についても幅広く言及されており,「建築版地球の歩き方」としても活用できる。超超高層建築物が示す都市観とは何かを改めて考える機会を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

ドバイ〈超〉超高層都市:21世紀の建築論

松葉一清 他/鹿島出版会/2015年9月

 本書は水利用の視点から明治期の京都を取り上げる。前半では琵琶湖疏水開鑿の前後における水利用や水利権の実態を明らかにし,京都は地下水が豊富ながら表流水は乏しく,琵琶湖疏水は特定の産業の水資源確保というより表流水確保という意義が大きいと考察する。後半では京都市と伏見市の合併を取り上げ,水面の埋め立て開発計画の失敗という点で水と絡めた考察が展開される。京都というと歴史文化や観光という側面に焦点があたりがちながら,本書では工業化や上水道といった近代都市化に不可欠な表流水という観点から,豊富な関連文献や歴史資料を引用しつつ,「京の都」が「京都市」に変容していく時代がわかりやすく描かれている。

紹介:情報委員 相尚寿

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

水系都市京都:水インフラと都市拡張

小野芳朗 編著/思文閣出版/2015年9月

を育み,まちを豊かで魅力的にする方法が整理されている。前半の事例紹介では,市民を巻き込み伝えてもらい,他者からの評価が誇りに繋がる点,市民やまちとともに徐々に変化し,将来のビジョンを共有して継続する点が共通している。どれも物,建築,交通などの垣根を超えており,手段や成果物に正解があるのではなく,まちをより良い場所にしたいという想いが大切であることがわかる。シビックプライドに関わらず,専門分野の枠に囚われない自由な発想のヒントが得られる。後半では,実践手法や考え方,評価チェックリストまで示されており,研究者・実務者を問わずバランスのとれた一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

都市と市民のかかわりをデザインする 国内編:シビックプライド2

伊藤香織 他 監修/宣伝会議/2015年9月

 姫路駅は,連続立体交差事業を契機として,我国では事例の少ないトランジットモール化を含めた,駅前広場の大規模なリニューアルに着手し,平成27年より供用を開始した。公共空間デザインの合意形成にあたっては,大掛かりな市民参加のプロセスを導入している。本書は,その過程と意図を1冊の書籍に凝縮したものであり,計画編,設計プロセス編,デザイン編,エリアマネジメント編で構成されている。本書を読むと,計画から竣工まで,行政・市民・専門家が苦悩しながら協働した様子が克明に刻まれている。また,度重なる議論で成熟した共通認識が,物の見事に設計図に反映されているのは驚くべきことである。是非一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

市民が関わるパブリックスペースのデザイン:姫路市における市民・行政・専門家の創造的連携

小林正美 編著/エクスナレッジ/2015年3月

 この本では,住宅は金融や税制と大きく関連しているとわかっていながらも十分に理解できていなかったことが,丁寧に解説されている。それは難しい内容ではなく,そもそも住宅ローンや税金とは,といった今さら質問しづらい基本的なことやその成り立ちから始まり,最近よく聞く用語などの最新の事情まで,幅広く網羅されている。各章は身近な話題や経験を含む問題提起から始まり,質疑応答形式で話が進んでいき,最後に素朴な感想が書かれているため,金融や税制に苦手意識を持つ人も安心しながら読み進めていくことができる。建築女子だけでなく,都市計画に携わる学生や若手にとって広く参考になるだろう。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

建築女子が聞く住まいの金融と税制

大垣尚 他/学芸出版社/2015年7月

 本書は,人口減少に伴う大都市圏と地方それぞれの問題やマクロ経済への影響を整理するとともに,過去の政策を検証した上で,今後の取るべき対応策を提示している。本書の特徴は状況整理や課題認識だけでなく,その対応策に紙面を割いている点である。一般的に議論されている財政や経済対策,少子化対策,移民政策,コンパクトシティ,地方自治のあり方などに加えて,民間企業によるビジネスを通したイノベーションが人口減少問題に対して重要な役割を担うと述べている。国家の重要課題に対して,産学官あらゆる主体が共通のビジョンに向かって対策することの重要性を感じることのできる一冊である。

紹介:情報委員 小林乙哉

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃:人口問題民間臨調 調査・報告書

日本再建イニシアティブ/新潮社/2015年6月

 本書は,交通工学研究会から従来より発行されている平面交差の計画と設計の自転車編である。平成24年11月に国土交通省・警察庁から発表された「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」の活用と普及を目指した手引きである。車道を中心とした自転車ネットワークを形成する方針の下,走行特性や交差点での交通事故の状況等の基本特性から設計の基本的な考え方,海外の状況,様々な交差点の設計事例,案内表示の方法など,わかりやすく解説している。自転車の利用は,今後も増加傾向であり,本書を参考にして,快適な自転車の走行環境が整備されることを期待したい。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

自転車通行を考慮した交差点設計の手引

交通工学研究会/交通工学研究会/2015年7月

 本書は,冒頭で社会基盤とは何かの解説がなされ,社会基盤と他の工業製品などとの対比からその特殊性を述べることから始まる。次に社会基盤の建設に関わる建設業界の特色や動向が紹介される。以降は,プロジェクト・資金,設計・施工・工程管理,調達・契約などの視点で,マネジメントの考え方や留意点が解説される。日本国内の慣習と世界標準の違いや海外事例で考慮すべき事項の紹介も充実している。都市計画を具現化するのは個々の建設事業であり,その背景や実情を初学者にも平易に解説し,また国際化の時代での留意点や戦略を考える基礎的情報を提供する本書は,特に実務への就職を目指す学生の方々には,ぜひご一読いただきたい。

紹介:情報委員 相尚寿

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

社会基盤マネジメント

堀田昌英 他/技報堂出版/2015年8月

 本書は,地域福祉の視座から,東日本大震災の被災状況,支援,地域復興,生活実態,ニーズ等を記録化・検証したものである。時代背景や被災状況の異なる阪神・淡路大震災等との対比から,被災以前の居住状況や被災後の避難者分散化,世帯分離の現状が述べられている。自らも被災した中で活動を続けた自治体の社会福祉協議会の役割の重要性,N POや当事者組織等による避難者支援活動の記録が集められている。そして,仮設住宅から復興住宅への移行に伴う新たなコミュニティ形成,そのまちづくりとの関わりへの発展,人材の必要性を問いかけている。今後の災害や人口減少・超高齢者社会における地域福祉のあり方を考える上で参考になる。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

東日本大震災と地域福祉:次代への継承を探る

日本地域福祉学会東日本大震災復興支援・研究会 編/中央法規出版/2015年7月

 本書では,環境を器としながら経済,そして社会の持続可能性を保つために,日本で環境アセスメントから持続可能性アセスメントへ展開する課題と示唆が述べられている。欧米での事例では,各国の歴史の上で形成された代替案比較,定性・定量的評価の併用などの評価方法が紹介され,一部を切り取って導入しても実効性がないことが理解できる。その本質は,充分な情報公開のもと,人々の懸念する事項に正面から答える「意味ある応答」を実現することで,総論段階での合意形成を充分に行い,各論段階でも合意を得ることである。日本で立ち遅れている持続可能性を高める合意形成を問い直す,行政・実務者・研究者に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

都市・地域の持続可能性アセスメント:人口減少時代のプランニングシステム

原科幸彦 他 編著/学芸出版社/2015年7月

 公共投資は,これまでは生産・雇用・消費を派生的に創出し経済全体を拡大させる「フロー効果」としての側面が強調されてきた。しかし,社会資本ストックとして定着した後に長期間効果を発揮する「ストック効果」があり,これこそが公共投資の本来的な効果としている。本書では,ストック効果の側面から,財政健全化等の社会的背景との整合性を図りつつ,真に必要な社会資本の集約・再編を提言している。都市計画の研究者・技術者からすれば,費用便益分析に代表されるように,ストック効果に着目することは至極当然のことではあるが,今一度携わっているプロジェクトの効果を見直すきっかけとして一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

インフラ・ストック効果:新時代の社会資本整備の指針

インフラ政策研究会/中央公論新社/2015年8月

 本書は,市民生活行動学を,市民生活とそれに関わる諸事象を人間行動の視点から研究する学問と定義している。定義に示された思想に基づき,学際的かつ多面的に市民の生活行動について述べられており,本書の最大の特徴は,市民の生活行動について可能な限り網羅し学術的に述べている点である。さらに,海外の状況も豊富に盛り込まれ,それぞれの生活行動に関するデータの存在の有無や既存研究についても深く言及されており,市民生活行動学を考える基礎が備わっている。インフラを整備する側だけでなく,インフラを利用する側についても,市民行動学として扱っている点も斬新である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

市民生活行動学

土木学会土木計画学研究委員会/土木学会/2015年3月

 本書は,建築基準法四十二条二項の規定による,いわゆる「二項道路」あるいは「みなし道路」と呼ばれる道路について,その抱える問題,及びそれらの問題に関わる人々の助けとなる取組みが紹介されている。「二項道路」は,個々の道路それぞれが指定されたのではなく,条件によって一括指定され,また指定された基準時から相当の年月が経過している。そのため判定が難しく,また判定によってそれぞれの土地所有者に利害が生じること等,関係者の悩みの大きさが伝わる。法律面の整理,判例,行政の新しい取組みによる二項道路の解消取組み事例の紹介など,狭隘道路を抱えるまちづくりで行政,市民が協働するための多くの情報を与えてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

見えない道路:建築基準法二項道路

土岐悦康/創英社/2015年5月

 本書は,日本的な「集客都市」の構想の具体化に参考となる事例を,著者が世界各都市で調査した成果の一部である。都市型の観光に焦点を当て,韓国,フランス,ドイツ,イギリス,といった各国の都市における,観光振興における取り組みを紹介している。オリンピックを終えたロンドンの観光,建築物の再利用をアート活動に役立てるパリ,リヨンの夜の景観デザイン,ル・アーブルにおける戦後復興都市の観光資源化など,各地の観光に対する仕掛けが紹介される。著者は,外部からの流入・滞在を意識することにより市民もおのずと地域の価値に思い至るとしており,著者の提案するツーリズムによる好循環をはかるアイデアが多く詰まった一冊である。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

ツーリズムの都市デザイン:非日常と日常の仕掛け

橋爪紳也/鹿島出版会/2015年5月

 政府開発援助60周年記念事業の一環としてまとめられた橋梁建設写真史。日本の技術貢献によって開発途上国に建設された橋は約2,000基にものぼるという。その中の厳選した50基について,美しい写真と共に建設に至った歴史的背景が,橋渡しの概念である「つなぐ」を基本に「大陸をつなぐ」橋,「地域をつなぐ」橋,「発展をつなぐ」橋,の3部構成で綴られている。それぞれの橋が現地の交通や物流のみならず,経済,文化,生活などの発展に深く関わってきた様子を垣間見ると,当時の技術者たちの熱意と努力に思いを馳せずにはいられない。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

世界をつなぐ架け橋:Bridges connecting the world

国際開発ジャーナル社/丸善出版/2015年4月

 本書では,北イタリア山村地帯の村落をフィールドとした丹念な調査と深い洞察から,そこで暮らす人々の多様で洗練された生存の技術と生活の知を,ふんだんな写真と図説によって紹介している。地形に沿った空間構成の住居,気候や資材を活かした木造・石造或いはその組み合わせによる建築技法,食料・燃料の自給自足のテクノロジー…自然が有する「脅威と恵み」と,人間の側の「知的な取組」との関係性を示す数々の事例は,読み物としても面白い。地域の自立,地域資源の活用といったキーワードがあふれる昨今,地域固有の条件と人々の暮らしとの関わり方を改めて考えさせてくれる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

石造りのように柔軟な:北イタリア山村地帯の建築技術と生活戦略

アンドレア ボッコ 他/鹿島出版会/2015年4月

 本書は,著者らが提唱する水都学を確立するために研究に取り組んできた研究者たちの成果を取りまとめたシリーズ第四段である。日本・欧米・アジアの各都市の港湾などの歴史的変遷を比較しながら,各都市の特徴を見出している。工学的,機能的な面でなく,信仰や祭祀など水辺に対する精神性や根源を考察するなど幅広い視点から人と都市,水の関係の本質を知ろうとしている。また,水車の立地や利用に焦点をあて,河川や運河が担ってきた様々な機能を知ることで中世~近代初期における水系や周辺地域の形成の歴史を探ろうとしている点は興味深い。地域の資源である水辺の再生・新たな利用を模索する上で多くの示唆を与えている。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

水都学Ⅳ 水都学の方法を探って

陣内秀信 他/法政大学出版局/2015年6月

 「TSUKUBA」というと,今では世界的に知られている都市の1つであるが,その発端となった筑波研究学園都市の形成について,計画の必要性から市街化熟成まで詳細に述べられている。本書の最大の特徴は,明治期から現在に至るまでの都市計画法制度との関連性を踏まえ,筑波研究学園都市の設計思想が述べられているという,今までにない視点での展開である。この観点は非常に斬新であり,筑波研究学園都市が日本の都市計画の発展とともに形成されていったと読み取ることができる。つくば万博といった国際博覧会の誘致やつくばエクスプレスの計画・実現など,つくばの市街化熟成におけるあっと驚くような史実も収録されており,是非とも一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

筑波研究学園都市論

三井康壽/鹿島出版会/2015年5月

 本書は,東京の現状や進行中の開発プロジェクトを紹介している。第1章では,世界主要都市との比較を通じて東京の特徴を指摘する。第2章では,地区ごとの開発事例を紹介しつつ,将来構想や実現に向けた制度の解説を加える。第3章は,東京圏広域計画,主要インフラの概要,開発実現のための諸制度を解説する。第4章は,開発に関わる多様な企業からの寄稿で構成される。いずれの部分も図表や写真が多用され,視覚的にもわかりやすい。各記事が短くまとめられており軽快に読み進められるほか,東京の現状や将来構想を収録する資料集としても価値ある構成となっている。

紹介:情報委員 相尚寿

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

東京150プロジェクト:多様な都市マネジメント

新建築社/新建築社/2015年5月

 九州大学大学院人間環境学府のアーバンデザイン学コースで開講されている講義「アーバンデザインセミナー」の取り組みをまとめた一冊。この講義は,地域の歴史・現況を読み解き,問題点や課題を分析し,将来像を検討する一連の作業を通じて,まちづくりに必要とされるスキルを養うことを目的としている。現地調査や文献調査に基づきテーマ設定を行い,現地に足を運んだり議論したりしながら論文形式の成果をまとめるのが講義の流れである。本書の前半は各教員の論説であり,後半は学生の成果事例が紹介されている。まちづくり教育の現場で役立つ実践書として,あるいは学生向け参考書として活用してほしい。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

都市理解のワークショップ:商店街から都市を読む

九州大学大学院アーバンデザイン学コース 編/九州大学出版会/2015年4月

 本書では,高度消費社会の巨大市場システムに埋没してしまった住まいや暮らしについて,再度「住まいの主体性」に焦点をあて,生きる場所としての住まいを取り戻そうとする多くの事例等を交えてわかりやすく解説されている。また,「家族」単位をとりまく社会的変化について,所有形態の変化,家族形態の変化等に対して,現在の住み手相互の関係の変化に対応しきれていない制度についても触れている。「住まい」をとりまく育児や教育,防犯,防災,孤独死など現在の地域で抱える課題について,多面的な視点から問題提起する一冊となっている。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

住まいの冒険:生きる場所をつくるということ

住総研主体性のある住まいづくり実態調査委員会 編著/萌文社/2015年4月

 本書の書名の「ドボク」には,社会基盤,都市,景観など広範な範囲に及び,学科名も異なるすべての学科を含むという意味が込められている。「ようこそ」という言葉が入っているため高校生向けの本かと思われるかもしれないが,さらにドボク学科へ入った後の講義の受け方,日常生活で役立つ視点,体験すべきこと,そして就職までを網羅している。大学関係者だけでなく行政,実務とさまざまな立場の人たちが経験を基にわかりやすく語っている。ドボクに関わる学生には是非傍らに置いて悩んだときに手にとっていただきたい一冊である。先生方や実際に働いている方にとっても,学生の興味を刺激する視点が再発見できるかもしれない。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

ようこそドボク学科へ!:都市・環境・デザイン・まちづくりと土木の学び方

佐々木葉 監修/学芸出版社/2015年4月

 本書は,著者のハリケーン・カトリーナのおける被災体験を動機として,研究を開始した成果である。「災害復興」,「レジリエンス」,「ソーシャル・キャピタル」,「ソーシャル・ネットワーク」の概念や理論的背景を丁寧に整理している。また,ハリケーン・カトリーナ,関東大震災,阪神・淡路大震災,インド洋大津波の巨大災害を事例として,インタビューによる定性的評価と時系列などの定量的評価により,被災地での災害復興過程を検証しながら,災害復興においてソーシャル・キャピタルが果たす役割とは何かを検討している。今後の災害に対して地域コミュニティでどのように復興をしていくかを考える上で役に立つ一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

災害復興におけるソーシャル・キャピタルの役割とは何か:地域再建とレジリエンスの構築

D.P.アルドリッチ 著、石田祐 他 訳/ミネルヴァ書房/2015年4月

 この本では,外国,特にヨーロッパと比較した際に感じる日本の都市景観に対する違和感の理由が,法律や裁判事例から論理的に述べられている。そして,日本の用途地域制とその建蔽率,容積率の数値設定の課題が実例を交えて紹介された上で,本来の住民参加の意味が語られている。そこには,街づくりにより「住民がそこで生活することに満足した結果として,街の美しさが形成される」こと,その前提として「自分がされたら迷惑だということを他人にはしないという,最低限の規律」があるべきだという一貫した主張がなされている。ドイツに長く住む著者ならではの視点に触れることで,日本の都市計画を見直す機会を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

ドイツ流街づくり読本 完(ドイツのランドシャフトから日本の景観が学ぶこと)

水島信/鹿島出版会/2015年4月

 近世大坂における蔵屋敷について,建築史的立場からその成立と変遷,接客・居住・役所といった空間構成,御殿の機能や住居の階層性等を,初出を含む豊富な指図や絵画資料をもとに詳述している。各国許から勧請された鎮守社の祭礼時には庶民に開放され大きな賑わいをみせた蔵屋敷は,自己完結した「物堅い藩候の邸」ではなく,都市における社会的装置として機能するとともに,人・モノ・情報の交差点として「天下の台所」の繁栄を支えたことを物語る。惣年寄らによる跡地運営とその後の職人町形成や,旅館業・貸倉庫業等の端緒となった事例からは,才覚に長けた大坂商人らの舞台としての蔵屋敷の姿が浮かび上がり,建築史から都市文化史への展開を期待できる一冊である。

紹介:情報委員 土井祥子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

大坂蔵屋敷の建築史的研究

植松清志 編著/思文閣出版/2015年3月

 本書は「タイ大洪水,フィリピン台風,カンボジア紛争などの災禍からの復興過程をたどり,アジアの一員としてのわれわれの役割,国際協力のあり方を考える。」と銘打ち,災害対応の地域研究シリーズの一環で刊行された。自然災害に加えて人為災害である紛争も取り上げ,地域の共助による対応から組織的な対応,日本との関係などを含め,現地の活動状況やその裏付けとなる制度などが詳述されている。災害が頻発するアジアにおいて,災害と如何に向き合うか,被害抑止・軽減から復興に至るまで,日本の蓄積が貢献できる領域は多い。アジアの経済成長で日本との関係も一層深まる中,防災分野においても日本の国際協力のあるべき姿が問われている。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

国際協力と防災:つくる・よりそう・きたえる

牧紀男 他 編著/京都大学学術出版会/2015年3月

 本書は,建築・都市のプロジェクトマネジメントに係る業務の流れや組織体系,企画段階から実行段階において必要となる考え方を,実務経験の浅い者にも解りやすい構成で整理した書である。要点の整理に留まらない,実例に基づく事業収支の組み立てやプロセス毎のスケジュール,課題解決のエピソード等を交えた臨場感溢れる内容は,国内外を問わず多くのプロジェクトを経験してきた筆者ならでは。建築・都市開発の実務に興味がある者,既に実務に携わっている者が,今後質の高いプロジェクトの実現を目指す上で,参考とすべき一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

建築・都市のプロジェクトマネジメント:クリエイティブな企画と運営

山根格/学芸出版社//2015年3月

 1995年に発生した阪神・淡路大震災の復興事業において,神戸市を中心に制度改革をしながら住民主権型の復興事業に至った経緯,「住民主権型」の「減災」のまちづくりが実現できる方向性について提示したものである。バブル崩壊後の時代に「成長神話」「土地神話」の発想がまだ行政にも根付いている上,阪神・淡路大震災により「安全神話」も崩壊した状況から始まったが,中央集権から地方分権,さらに被災地では地域の主権者である住民自身により災害に備える安全なまちづくりをするという発想の転換がされた様子が記されている。住民主権型のまちづくりが減災に繋がることが改めて実感できる一冊となっている。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

住民主権型減災のまちづくり:阪神・淡路大震災に学び,南海トラフ地震に備える

中山久憲/ミネルヴァ書房/2015年3月

 本書は,公益財団法人国際交通安全学会の創立40周年記念事業の一環として,最近10年の取り組みの中で培ってきた知見を,国内外に向けた成果としてまとめたもので,日本語版と英語版が刊行されている。交通社会を取り巻く諸問題を広く捉え,各分野の専門家が交通安全を支えている技術体系や社会システムについて解説している。理論編と実践編で構成されており,国内外の交通社会の現状を精緻に捉え,その改善に向けた実践知を要約するとともに,交通社会の多様性を重視したアプローチの重要性を示唆している。技術や手段を作る皆さんの交通社会に関する知識や意識を横断的に共有することも重要だとしており,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

TRAFFIC AND SAFETY SCIENCES:INTERDISCIPLINARY WISDOM OF IATSS

International Association of Traffic and Safty Sciences/IATSS/¥2015年3月

 小学生と「エコピース」という都市空間の地図をつくるという活動記録である。高層化した児童の居住空間は,まわりの景観に対して開放的だが,代償として足元の工事現場も眼にとまらず地域社会から孤立する。エレベータや自動車など現代の人間は「歩くこと」に対する喜びを知らずうちに喪失していることを問題とし,「歩くこと」のできる人・もの・空間の仕掛けに問いかけている。教育現場において都市空間の学習は,教員の力量に対して依存が大きいが,未知なる感性を持つこどもたちと都市の再生につないでいくための実践の書として是非活用,取り入れてほしい。教育関係者,建築やまちづくりを実践している方にお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

歩くこどもの感性空間

千代章一郎/鹿島出版会/2015年2月

 成長都市から成熟都市へ,人口増加から人口減少へ。都市づくりも「社会資本整備」から「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」へ価値基準が移行する中,地区単位でのエリアマネジメントが脚光を浴びている。我国では,依然としてその枠組みが十分に整備されていない中でも,実際にエリアマネジメントを担うまちづくり団体等が試行錯誤しながら取り組んできた事例が数多く盛り込まれている。本書は単に事例整理には留まらない。基礎概念から現行法制度,更には今後の展望まで体系的に整理されている。エリアマネジメントの全国的な普及の促進には,国民的な認知度の向上が不可欠であり,本書がそのきっかけとなることを望む。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

最新エリアマネジメント:街を運営する民間組織と活動財源

小林重敬 編著/学芸出版社/2015年2月

 「『絵本の力』によって現代に生きる大人の疲弊した精神を徐々に回復し,自分らしい生き方と暮らし・まちづくりに向けての自らの思考の地平を取り戻すこと」─これをねらいとして,絵本に登場する数々のシーンをまちづくりの観点から読み解いた書籍。絵本の持つ自由で豊かな世界は私たちの凝り固まった頭や心をほぐし,「こんなまちに住みたいナ」という素直な想いを呼び覚ます力があるのを実感できる内容となっている。豊富なイラスト付きの解説が嬉しい。絵本は子どもが読むものという固定観念を見事に覆し,生き生きとしたまちや暮らしを維持するための貴重な示唆を与えてくれる一冊。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

こんなまちに住みたいナ:絵本が育む暮らし・まちづくりの発想

延藤安弘/晶文社/2015年3月

 本書は,著者の約15年間にわたる研究記録を1冊に書き下ろしたものである。丹念なフィールドワークと緻密な整理によって農村空間の利用と管理の実態を明らかにし,地域再生ついて説得力のある考察と提言を示している。「地方創生」が叫ばれる昨今,農村地域の再生に対する期待は高まってきているが,本書を通読すると,農村地域の再生は,その足下の空間で営まれる日常生活や生産の実態と課題を丁寧に解明することが原点であり本質であることに改めて気づかされる。農村計画やアーバンフリンジを学ぶ学生の教科書としてはもちろんのこと,農村地域の再生に携わる実務者にとっても,多くのヒントを得ることができる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

農山村の荒廃と空間管理:計画学の立場から地域再生を考える

齋藤雪彦/世界思想社/2015年2月

 本書は,1974年に刊行された復刻版である。ブランコ,すべり台,砂場といった定番の遊具が置かれ,遊び方に関して禁止事項が多い公園。これに対して,何もない場所に自由に子供たちがわくわくしながら秘密基地をつくるように自らの創意工夫で様々なものをつくりだせる空間が新しい(冒険)遊び場である。子供の主体性を重んじるデンマークで始まった。スウェーデンにおいて公園の体系の中にこの遊び場を位置づけた著者が,各国での展開状況やその効果・課題などを紹介している。訳者は日本版の冒険遊び場の生みの親である故大村虔一・璋子御夫妻。本書の最後部分では「遊びとは生きることである 大人にとっても。」は印象的であり,遊びの重要性を再認識する一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

新しい遊び場:Adventure playgrounds

アービッド ベンソン 著、大村虔一 他 訳/鹿島出版会/2015年1月

 本書は,明治神宮を中心に,近代化において神社という空間が,人々や都市に与えた影響を多面的に論じているものである。特に,タイトルにある明治神宮については,その成り立ちから計画・設計思想にまつわる議論まで詳細に収録されている。また神社という空間における内苑と外苑の考え方やその創出,土地の取扱い,祭礼との関係についての記載にも興味がそそられる。さらに,内務省神社局や明治神宮造営局といった神社に関する行政組織やそこに関与していた内務官僚について述べられており,新たな知見を得ることができる。我々の生活に身近であり神聖な空間でもある神社について,学際的に考える機会を与えてくれる一冊と言えよう。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

明治神宮以前・以後:近代神社をめぐる環境形成の構造転換

藤田大誠 他 編/鹿島出版会/2015年2月

 本書は,京都市の近郊に1972年に開発された向島ニュータウンにおける,地元大学と地域住民との協働のまちづくりの過程を克明に記したものである。高齢化,異文化対立,育児不安などの社会問題の解決に地元大学と地域住民が協力しながら取り組み,新しい「夢」を描いていこうとする姿は,ニュータウンの再生や,大学と地域との協働のモデルを探す読者にとって大いに参考になる。ニュータウンに関する類書の出版が近年相次いでいるが,著者らの専門は社会学であり,都市計画とは異なる視点からのニュータウン論として興味深く読める一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

京都発!ニュータウンの「夢」建てなおします:向島からの挑戦

杉本星子 他/昭和堂/2015年3月

 本書は,編著者の馬場氏が,さまざまな形でパブリックデザインに関わってきた6名の人物に,インタビューする形で構成されている。民間の資金を集めて活動するまちづくり会社を設立し,まちの再生にとりくむ,個人が投資する形で社会参画する,という新しい仕組みづくりに取り組む,といった,様々な実践が,当時の思いとともに綴られており,編著者によるコメントも付されている。別の事業での挫折や失敗の経験を踏まえて,よりよい成功を生み出していった事例も少なくなく,このような「物語」は単一のプロジェクトを記述した資料からは得られない,貴重な情報であろう。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

PUBLIC DESIGN:新しい公共空間のつくりかた

馬場正尊+OpenA/学芸出版社/2015年4月

 地域科学研究会主催の研修会における,空き家問題と対策についての講演資料をもとに加筆・修正して書籍化した一冊。様々な統計データや報告書,事例,条例等を示しつつ丁寧な解説が加えられているため,半日もあれば我が国の空き家問題の現状が把握できる内容となっている。さらに,空き家というと,つい戸建住宅をイメージしてしまうものであるが,本書では将来的に深刻化するであろう分譲マンションの空き家問題にも多くのページを割いている。人口減少と高齢化が急速に進む我が国では,空き家の増加は避けられない社会問題となっている。都市計画を志す学生や,自治体職員の方々には特に一読の価値がある。

紹介:情報委員 木梨真知

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

空き家(マンション)対策の自治体政策体系化:人口減少社会のまちづくり処方箋

米山秀隆/地域科学研究会/2015年2月

 我が国は人口減少期に突入し,これまでの人口増加に対応した公共施設整備を見直し,既存施設の有効活用方策や効率的な維持管理手法について,自治体経営といった大きな視点から議論することが求められている。本書は,国や自治体が保有する施設ストックについて,民間企業や地域住民の知恵,技術,資金,ネットワークなどを最大限に活用する仕組みづくりの必要性を述べるとともに,建築物を対象とした公共施設について,先行自治体の再編計画や既存の再編手法が整理されている。公共サービスの質の維持と施設総量削減との両立を目指した公共施設の再編計画を検討している行政担当者の参考となる一冊である。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

公共施設の再編:計画と実践の手引き

日本建築学会 編/森北出版/2015年2月

 縮小・衰退していく都市に残される空間ストックをネガティブに捉えるのではなくポジティブに捉え,コストをかけずに確保できる空間ストックをリノベーションすることによりまちを再生する,というのが本書のテーマである。歴史がもたらした都市の遺産である「レガシー」をまちと人々にインパクトを与える宝物にするリノベーションは,その場所にまつわる伝説「レジェンド」をキーとした「ストーリー」があるという。本書は,こういったまちづくりスケールのリノベーションの海外事例を豊富に掲載している。読後は,そのストーリーを肌で感じたく,世界各地に誘われる感覚になった。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

リノベーションの新潮流:レガシーレジェンドストーリー

松永安光 他/学芸出版社/2015年5月

 企業に対する詳細かつ緻密なアンケート調査から,生業に関する東日本大震災からの復興実態が導き出され,産業別の復興段階や業況感などの分析結果が収録されている。また,時系列に状況変化(震災直前及びその後)に関する質問を行っているため,企業の震災の影響が直に反映されており,データとしての価値も極めて高いと言える。個別の経済再生や被災地における起業活動と起業家も紹介されており,阪神・淡路大震災との経済復興の比較も興味深い。さらに,被災都市の経済復興状況の地域性を読み取ることもでき,住まいや基盤の復興だけでなく,生業としての復興の重要性をあらためて気付かせてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

新しいフェーズを迎える東北復興への提言:「創造的復興」は果たせるか,4年目のレビュー

東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト 編/南北社/2015年3月

 社会基盤分野の見えない壁を取り払い,学際的に論じている本書は,東日本大震災などの実例を踏まえ,成熟期の国土のあり方をレジリエンスの観点から示している。最近多用されているレジリエンスとは,そもそも何かを学際的にわかりやすく示した上で本書は展開されており,災害アセスメントの提案などこれからの国土・地域・都市づくりに必要なキーワードが随所に散りばめられており,魅力高いものとなっている。災害アセスメントの提案とそれを踏まえた土地利用規制,さらにそれを実行可能とするスマートシュリンク誘導策は非常に興味深く,日本の特性を踏まえ国土の成熟期において何をすべきかをあらためて真剣に考えなければならないことを示唆している。是非とも一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

レジリエンスと地域創生:伝統知とビッグデータから探る国土デザイン

林良嗣 他 編著/明石書店/2015年3月

 本書は,首都大学東京の自然・文化ツーリズムコースで実施された,3年間の観光科学PBL(Project Based Learning)の取り組みがまとめられたものである。PBLでは,受講生が問題解決に取り組むこととなるが,その取り組みを促す授業の要素として,第2部のPBLの「メソッド」の部分では,(1)リサーチ,(2)プランニング,(3)プレゼンテーションに分けて詳しく語られる。第3部では,生徒が実際に完成させた成果についても,作成スケジュールを含め,ふんだんに紹介されており,新たに広がっている学びの方法について,教員,学生のどちらにとっても,貴重な資料となっている。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

観光を科学するPBL 2012-2014

首都大学東京観光科学PBL運営委員会/首都大学東京大学院観光科学域/2015年3月

 本書は,2004年に発生した新潟県中越地震の約10年間の復興の現状やプロセスを,被災地と向き合ってきた研究者が取りまとめたものである。阪神淡路大震災や台湾大地震からの多くの教訓で展開されたこと,協働の復興中山間地づくりを支えた中間支援組織の存在,中越大震災復興基金が果たした役割,復興支援員はどのような役割を担ったのか,復興の熟度の評価などがまとめられている。文中の“災害対応にも災害復興の先人の教訓に学び,自ら工夫することが不可欠である。しかし,先人の教訓に学ぶべきは,取り組みの「かたち」ではなく「こころ」でなければならい。”は印象的である。被災地の復興に取り組む上で,お勧めの一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

中越地震から3800日:復興しない被災地はない

中越防災安全推進機構・復興プロセス研究会 編/ぎょうせい/2015年3月

 老朽危険家屋は,防災,衛生,景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることから,今や地方のみならず,全国的な課題となっている。また,「空屋等対策の推進に関する特別措置法」も施行され,国・自治体では様々な取組を実施しているところであるが,多くの自治体ではこれらの対策に苦慮している。本書は,専門家や実務者等によるシンポジウムの概要をとりまとめたものであり,事例報告等をはじめ有益な情報提供がなされていることから,今後の老朽危険家屋対策のひとつとして,行政代執行という手法を検討される行政担当者の参考となる一冊である。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

行政代執行の手法と政策法務

北村喜宣 他/地域科学研究会/2015年2月

 本書は,2002年に出版された同名書籍を,GISの活用や現地調査を通じて,図面を加え加筆した新版である。その理由は,地形や気象条件への対応だけでなく,周辺の山や寺社への見通し線が,街路や掘削の軸線として考慮され,その風景が都市デザインの中に取り込まれているからである。後の解説を読みながら各都市の図版を振り返ると,江戸時代の絵図を正確な地図に落とし,丁寧な検証を行った本書ならではの発見が味わえる。さらに鉄道駅・道路整備による都市構造の変化や取り組みも紹介されている。見過ごされている城下町の都市デザインの意味を知り,現代のまちづくりに活かすとともに,本来の土木の意義を見直す際に役立つ一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

図説 城下町都市

佐藤滋+城下町都市研究体/鹿島出版会/2015年2月

 世田谷区太子堂地区を対象に,現場で住民として奮闘してきたまちづくりへの熱い思いや悩みを綴っている。時代とともに行政側と住民側の姿勢が変化に至るまで,初めての試みの葛藤から定着に至るまでの試行錯誤を続けてきた過程が示されている。現在,都市計画では当たり前のように行われているワークショップ手法やまちづくりのキーワードなどにも変化が見られ,原点に触れることができる。「時代の変化につれて,暮らしを見直し,まちを改革していくのがまちづくりだと考えて活動してきた」と著者の姿勢を受け継ぎ,都市計画に携わる事業者,行政,住民はじめ,これから学ぶ学生にも是非一読していただきたい一冊である。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

太子堂・住民参加のまちづくり 暮らしがあるからまちなのだ!

梅津政之輔/学芸出版社/2015年2月

 本書は,戦間期から高度成長期までの時期において,都市郊外の村落がどのように市街地へと変容したのかの過程を土地区画整理事業が実施された前後の地区内に居住する人々の土地所有や労働,水利の維持管理に着目して,明らかにしている。公文書だけでなく,土地区画整理関係の地主資料(地主の手記,小作農民に関する資料,経営帳簿)が多く残っている兵庫県尼崎市郊外を事例とし,これらの豊富で貴重なデータやヒヤリングをもとに,市街地形成での自治体,地主,小作農民の役割や対立など,市街地形成の論理を民衆の側からとらえ直したものである。当時の人びとの意識を知ることのできる,一読の価値のある一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

村落からみた市街地形成:人と土地・水の関係史 尼崎1925-73年

沼尻晃伸/日本経済評論社/2015年1月

 本書は,企業主催の先端工場見学や町場の工房体験,工場夜景見学をはじめ,世界遺産となった石見銀山・富岡製糸場をはじめとした近代化遺産や廃屋探訪を対象として,利用者に対する意識調査や企業側の活用事例を踏まえ,その実態を明らかにするとともに,産業観光という手法を通じて,地域の資源を活用し,市民やN POがどのようにまちの資産を活かすか(まちづかい)など活性化に繋げる企画・運営の考え方をまとめたものである。昨今,国際記念物遺跡会議(ICOMOS)から世界文化遺産への登録をユネスコに勧告され,多くの観光客が殺到している軍艦島などの明治日本の産業革命遺産についての記述もあり,この時期にタイムリーな一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

産業観光の手法:企業と地域をどう活性化するか

産業観光推進会議/学芸出版社/2014年11月

 本書は,業種別の就業者数,床面積等の基礎データを踏まえ,都心・中心市街地における大街区化の必要性を説き,都心・中心市街地整備のプロセス,関連法,具体的手法を簡潔に整理した書である。とりわけ,手法については,土地区画整理事業,再開発事業といった法定事業のみならず,事業を実現するための定期借地,不動産信託等の土地活用制度についても示されており,実務上活用しうるメニューが,実例と合わせて体系的に整理されている。筆者が指摘する課題に直面している実務者の実用書として,また,ディベロッパーを目指す学生の参考書として,お薦めしたい一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

都心・中心市街地の再構築

蔵敷明秀/大成出版社/2014年10月

 本書は,観光による地域づくりをテーマとしている。観光資源を抱える「地域(行政・住民)」,ホテルや物産品販売等の「産業」,そして「観光客」,その三者のいずれかが一人勝ちするのではなく,いずれもがメリット(価値)を享受できるWin-Winの関係構築の重要性を説き,その共通価値の創造(C S V=Creating Shared Value)に三位一体で知恵を絞り汗を流した13の事例を紹介している。特に,「産業」が地域づくりに関与するのに欠かせない「儲かる仕組み(ビジネスモデ)」を組み込むことで,一過性の観光振興ではなく継続的な地域づくりを実践している点は大変興味深い。今後のまちづくり・地域活性化への数多くのヒントが詰まった一冊である。

紹介:情報委員 米沢秀明

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

CSV観光ビジネス:地域とともに価値をつくる

藤野公孝 他/学芸出版社/2014年10月

 本書は,東洋大学国際共生社会研究センターが2010年から行っているアジア開発途上国地域における内発的発展支援手法の開発という研究課題に関してまとめた2冊名の書籍である。災害を中心に,エネルギー問題,社会福祉,移民,ICカードに着目した地域交通から,BOPビジネス,ソーシャルビジネスまで,テーマは多岐にわたる。その歴史や概念を説明した上で,最新の動向や事例が失敗例も含めて紹介されている。特に,適正技術,Win-Winの関係であることの重要性とともに,その根本として人材育成が鍵となることが様々な視点から述べられている。国際協力に関わる学生や研究者,実務者の参考となる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

国際開発と内発的発展:フィールドから見たアジアの発展のために

北脇秀敏 他 編/朝倉書店/2014年9月

 本書は,自転車の交通事故に関する詳細な分析からはじまり,その後自転車をまちづくりに活かすための様々な方策を紹介している。そこでは,2012年に出た国交省・警察庁の自転車ガイドラインの活用方法を,写真つきの事例とともに示し,駐輪対策から高齢者対策,観光まちづくり,ネットワーク計画,海外の最新事例まで網羅している。車道上の自転車通行空間に関する多様な知見も得られ,今後,自転車を考えたまちづくりを進めていく上で,必読の書である。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

実践する自転車まちづくり:役立つ具体策

古倉宗治/学芸出版社/2014年8月

 バリアフリー,ユニバーサルデザインの考え方について,法制度の変遷も紹介しながら,社会の様々な要素とのつながりについて示したのち,まちづくりにおける具体的な方策について紹介している。その中には,東日本大震災の経験も踏まえた,災害時の課題も含んでいる。多くの写真や図例を用いた説明が,紹介される事例の理解を助けてくれる。各章の始まりには,それぞれの内容の要点をまとめた「学修目標」が記載されており,ユニバーサルデザインについて初めて学ぶ学生にもやさしいつくりとなっている。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

建築・交通・まちづくりをつなぐ 共生のユニバーサルデザイン

三星昭宏 他/学芸出版社/2014年9月

 都市と農村のあり方は都市計画の永遠の課題であるが,本書は元カルビー(株)社長である松尾氏が実際の経験をもとに,元気で美しい農村のあり方を語っており,美しい農村を持続的に維持していくためには,生業として農業の重要性が述べられている。また,日本の農業が実はまだ大きな発展の可能性を秘めていることを食糧自給率から述べ,負の思考から正の思考へと転換を促している。例えば,本文中で「自給率すなわち国内産39%,海外産61%ということは,日本での需要に応えられる生産の余地が残っている」と述べている。こうした観点は,目から鱗であり,「そうか,なるほど」と思う農村を元気にするキーワードが本書には散りばめられており,是非とも一読をお薦めしたい一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

スマート・テロワール:農村消滅論からの大転換

松尾雅彦/学芸出版社/2014年12月

 2014年7月,わが国の今後目指すべき国土像を描いた国土のグランドデザイン2050(以下,グランドデザイン)が公表された。本書は,国土交通省有志により執筆された,その平易な解説書である。グランドデザインで提示された時代の潮流,「コンパクト+ネットワーク」,「対流促進型国土」といったキーワード,それらに付随する基本戦略が,グランドデザイン本文には書かれていない,記述の根拠となったデータや事例とともに解説されている。グランドデザイン構築に関わった有識者からの寄稿も掲載され,現在改定が予定されている新たな国土形成計画に向けた潮流や最新のキーワードを知るうえで有用な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

「国土のグランドデザイン2050」が描くこの国の未来

国土交通省国土政策研究会 編著/大成出版社/2014年12月

 本書では,新しい産業を創造する技術進歩の条件として,「独創性(Originality)」,「多様性(Diversity),「市場性(Marketability)」の挙げ,それらから「オリバーケット(Oriverket)」という新しい名称を提案し,これらの要素を持ち合わせている都市を「オリバーケット・シティ」と名付けている。東京は,これらの要素があり技術を生む環境で,かつ交通インフラ,情報・通信インフラ,法制度,人的ネットワークという4つの社会資本が技術の進歩を支え,人口が多い分起業家も多く存在し,技術が起業に結びつき,新たな産業として成立し,都市の成長に結びつくとしている。江戸時代からの変遷を示しながら,東京という都市と経済の優位性に関する構造についてわかりやすくまとめられた一冊である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

先端産業を創りつづける知恵と技

杉山雅洋 他/成文堂/2014年10月

 本書では,都市のなりたちから現在の都市が抱える問題,そしてこれからの都市づくりに至るまでが網羅されており,その本質的な理論や事例を交えながら,わかりやすく解説されている。その一方で都市計画に関連する制度の説明は最小限に抑えられている。まえがきに書かれている「現在の制度を最初に頭に入れてしまうと,人間というのは不思議なもので,その制度が正しいという前提のもとで,その制度を守るための行動を取るようになります」という言葉が印象深い。タイトルこそ「入門」となっているが,教科書としてだけでなく,実務者も含め,都市計画に携わるすべての人に是非読んでいただきたい一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画313号 2015年2月25日発行)

入門都市計画:都市の機能とまちづくりの考え方

谷口守/森北出版/2014年10月

 本書は,我国の都市交通計画の系譜が体系的に整理されるとともに,成熟社会における今後の交通計画の方向性に一定の示唆を与えてくれる。またその視点は交通一辺倒ではなく,常に「交通と土地利用」という都市計画の原理原則が意識されて論じられているのは興味深い。後半では,高速道路,鉄道,街路といった具体の交通施設の更新について,新しい価値観や計画理念を含んだ海外事例等を交えてわかりやすく解説されている。著者の略歴が,学術的にも実務的にも特徴を与えており,学生・行政関係者だけでなく専門家にとっても今一度頭の整理ができる一冊となっている。是非一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画313号 2015年2月25日発行)

成熟都市の交通空間:その使い方と更新の新たな方向

浅野光行/技報堂出版/2014年2月

 本書では,「越境地域政策」について,行政境界を跨いだ越境地域を対象とする地域政策であると定義するとともに,境界を接する地域が抱える様々な課題を取り上げ,現行の枠組みにとらわれない政策連携等の可能性について,国内外の事例を中心に紹介している。これまでの我が国の地域政策は,国・県・市町村の階層構造からなる広域行政の枠組みの中で行われてきた。東日本大震災では,従来の枠組みを越えた地方自治体の独自の判断による行政支援の実例も出てきたことから,広域行政に対する新しい形態の必要性についても提起している。地域間連携の新たな発想を模索する第一歩として,実務者や実務に携わる研究者に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

越境地域政策への視点

戸田敏行 他 編著/愛知大学三遠南信地域連携研究センター/2014年6月

 本書は,長い歴史をもった都市全体を,河川等水辺空間から総合的に考察し,アジアの「水都」の特徴を整理した書である。アジアの各都市を,文献,フィールドワークに基づき分析した各論稿は,河川等による都市構成,建築様式等への影響を丁寧に論じており,アジアにおける水都の多様性を認識出来る。一方,舟運や用水といった機能的な面だけでなく,水辺に思想的な拠り所を求めたアジアならではの水都の特徴を指摘した点は,長年水都を研究してきた編者ならではの視点。近年,経済発展のめざましいアジア諸国において質の高い都市開発を目指すにあたり,本書による指摘は大いに参考になるものであり,是非一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

水都学Ⅱ:特集 アジアの水辺

陣内秀信 他/法政大学出版局/2014年3月

 本書は,平成24年度から実施している被災地企業アンケート調査等,継続的に収集した調査結果等を中心に,企業活動と経済財政動向,産業別の動向から復興過程を分析し,加えて,被災地での今後の産業創出に向けて国内外の事例を収集し,整理した書である。とりわけ,継続的に実施している企業アンケート調査等は,被災地企業の状況の変遷を確認出来る点において非常に有益であり,また,産業別の復興過程についても多角的かつ網羅的に整理されている。震災復興において,ますます雇用面,産業面の取組みが重要視される中,現況を把握する上で,貴重な資料となる一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

震災復興政策の検証と新産業創出への提言:広域的かつ多用な課題を見据えながら「新たな地域モデル」を目指す

東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト 編/河北新報出版センター/2014年3月

 2000年にオランダで発生した花火工場の爆発事故によってまちの一地区が消失し,約1,000人もの人々が家を失った。復興プロジェクトオフィスと住民は将来のビジョンを形にするパートナーを求めて設計者選定のコンペを行ったのだが,建築家ペーター・ヒューブナーの応募案には一本の線も描かれていなかった。形式だけの住民参加ではない,住民と建築家との徹底した対話に基づくまちづくり。本書はその協同による地区再生の過程を詳細に記した一冊である。住民同士が対話し主体的に計画を提案していく工夫や,その吟味・調整を担う建築家の役割などの具体例が紹介され,復興プロジェクトの全容も多くの写真のおかげで非常にイメージしやすい。そして何より,被災者自らがまちの復興に取り組むことで人々の絆が深まり,地域への愛着を活性化させた様子が伝わってくる。日本においても,この協同の工夫の活用を検討する意義は十分にあると思われる。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

まちを育てる建築:オランダ・ルームピークの災害復興と住民参加

鄭弼溶/鹿島出版会/2014年3月

 植民地において,建築,文化や言語などがその地域独自の要素と融合し,新しい要素へと成長するなど,植民地時代およびその後の影響の広がりを理解することは重要である。本書は,アジア諸国における植民地化の影響を,単に軍事的あるは政治的な関与だけではなく,多様な視点で解説している点に特徴がある。本書に登場する著者らは,西洋の手法を取り入れた日本の植民地建築や,外国人たちに順応しようとした大上海計画,あるいは中国遺産における日本の教育的影響,台湾における日本的要素の存在,マカオにおけるポルトガルと中国人,植民地化の影響を受けた韓国の都市計画問題などについて広く言及している。互いの文化が連携し相互影響したことが,いくつかの文脈の中で注意深く表現されているのは興味深い。アジア諸国で起きた植民地化について,多様な視点を理解するのに適した良書であり,植民地化による幅広い影響を再認したい。

紹介:情報委員長 森本章倫、Adilah Shamsul

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

Constructing the Colonized Land:Entwined Perspectives of East Asia around WWII

Izumi Kuroishi/ASHGATE/2014年3月

 本書は,昭和年代までの道路交通政策をまとめた「道路交通政策史概観」の続編というべきもので,平成以降の道路交通政策に加え,特に進展著しいITSとの関係が述べられている。道路,鉄道の整備状況やバスの現状,高齢者運転等の交通安全,TDM推進やバリアフリー等の都市交通対策,排ガス等の環境対策,防災,国際化,規制緩和等,内容が多岐にわたる。さらに,資料編として,道路関連法の改正経緯や行政組織の変遷,交通事故死者数・道路実延長等の交通関係指標の年間推移があり,統計資料も充実している。平成からの道路交通政策全般を概観するには,お勧めの一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

道路交通政策とITS

道路交通問題研究会/大成出版社/2014年3月

 本書は,英国の都市デザイン行政を支援してきた外郭団体,CABEの取り組みを概説すると同時に,我が国の景観づくりの現状を批判的に考察し,今後の方向性を示した提言の書でもある。本書前半では,デザインやBuiltEnvironmentといったCABEの活動の根幹にある概念を説明しつつ,CABEの位置づけや役割,デザインレビュー・イネーブル・啓発・教育活動といった具体的な活動の内容が,豊富な事例とともに解説される。後半では,日本の景観協議やデザインレビューの現状が報告されるとともに,それに対する批判的考察が加えられ,最終的に将来に向けた10の提言が述べられる。英国CABEに関心のある読者のみならず,日本の景観づくりに問題意識を持つ研究者や実務担当者にとっても有益な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

英国CABEと建築デザイン・都市景観

坂井文 他 編著/鹿島出版会/2014年2月

 本書は,神奈川県藤沢市にある,辻堂駅前の広大な工場跡地での再開発事業を紹介している。筆者は各々事業に深く携わった,行政の長瀬氏と都市プランナーの菅氏である。市長から陣頭を任された長瀬氏は,通常の開発を進めれば大規模マンション団地ができ,何十年か後には,各地の団地やニュータウン開発で経験したのと同じ,高齢化や児童の減少による市への負担がのしかかることに思いを巡らせる。そこで,市が主導権を発揮して,地域のブランド力を高める開発構想を示し,地権者や開発事業者とのパートナーシップのもと,計画を進めていくことを市長に進言した。その結果としての,9年に渡る協働の詳細な経緯には,学ぶことが多く綴られている。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

湘南C-X物語:新しいまちづくりの試み

菅孝能 他/有隣堂/2014年6月

 近代都市東京が形成された過程,特に過大に流入する人口に対して鉄道が果たした役割について,これほどまで深く掘り下げて論じているものは他に見たことがなく,後世まで残るであろう名著である。巨大過密都市東京と言われながらも,活発な都市活動が持続的に続けられているのは,鉄道というツールを使ってうまく克服し未来を築いてきたからであるということを,手に取るように理解することができる。都市と鉄道に関するデータが本文上段に示されており理解しやすい。また,鉄道会社別の都市に対する考え方の違い,具体には最後まで貨物を扱っていたことによる違いなど,目から鱗が落ちるようなことも述べられており,文句なく面白い。鉄道だけでなく首都圏計画や土地利用計画の観点からも述べられており,学際的な要素も含まれ是非とも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

鉄道が創りあげた世界都市・東京

矢島隆 他 編著/計量計画研究所/2014年3月

 1930年代生まれの都市プランナーと1970年代生まれの都市計画,建築,造園系の若手7名による討議の記録である。東日本大震災によって物理的空間が破壊され,更地の空間の上に未来の都市をどのように構築するか,近代都市計画の歴史やその課題を根本から考え直す。人口増,経済成長を前提とした戦後の都市計画から,人口減,少子高齢化,成熟した経済政策に転換した現在,その過去の歴史と文化を踏まえ,現在の都市計画の位置づけと,都市の規模について考えるきっかけを与えてくれる。また,現在の都市が抱えている問題や課題解決のためのヒントが散りばめられており,都市計画を学ばれている方に是非一読をお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

これからの日本に都市計画は必要ですか

蓑原敬 他/学芸出版社/2014年6月

 本書を読み終え,アートと都市の関係について体系的に学ぶことができる良書だ,と強い印象を抱いた。文化政策について時間軸をもって具体的な事例を交えながら展開し,また基本的な言葉も先行研究を示しながら定義している。文化政策の概論書として執筆されており,初学者にとってわかりやすい。文化政策,アーツ・マネジメント,創造都市といったキーワードの変遷が,時代を経るにつれ文化・アートの存在感が増しており,期待されていることを示している。本書には「なぜアートなのか」「アートは社会に役に立たないのか」といった批判的なトピックスに対する見解も示されている。価値観の多様化が進むまちづくりにおいて,文化・アートが担う役割・機能は大きい。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

文化政策の展開:アーツ・マネジメントと創造都市

野田邦弘/学芸出版社/2014年4月

 本書は,西洋の伝統的な都市デザイン理論とは異なる,日本の都市構造,建物パターン,視覚的特徴等を探求したものである。文字のテクストから建物,都市,街路,都市形態に至るまで様々なスケールで,その背景や歴史,そして文化的な諸要素も加味しながらまとめられている。本書は第2版であり,大きな変更点として,第6章では前章までで個別に提示された要素について,名古屋を例にとって具体的に述べている。日本人も西洋の都市計画を学び,それが実際に排他的な支配力を振るってきたが,少し立ち止まって,日本人も気づいていない日本の都市のよさについて考え直す機会を与えてくれるだろう。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

日本の都市から学ぶこと:西洋から見た日本の都市デザイン

バリー・シェルトン 著、片木篤 訳/鹿島出版会/2014年4月

 30年間東京に住むフランス人建築家,マニュエル・タルディッツによって書かれた東京に関する断章85編を収めたものである。複雑微妙な東京の諸相を歴史分析し,随所でヨーロッパの都市と比較しながら,建築のみならず都市形態,生活様態,メンタリティなどを独特の観点から紐解いている。日本の駅ビルを「シロアリの巣」と例え,東京を「さまざまな構造とインフラストラクチャー,断片,借用,実験」の一大コラージュと呼ぶ著者の視点は日本人のそれとは決して同化しない。文章は時に皮肉で辛辣だが,ユーモアのある言い回し,美しいイラストや装丁も相まって,まるで長編の物語を読んでいるような気持ちになる。日本人から見た東京とは全く異なる東京の姿を教えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 木梨真知

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

東京断想

マニュアル・タルディッツ 著、石井朱美 訳/鹿島出版会/2014年4月

 本書は,独立行政法人都市再生機構の前身,日本住宅公団の初代総裁である加納久朗の生涯が述べられている。タイトルにもあるように「国際人」であった加納が,公団総裁に就任するまでの仕事に対する姿勢や住宅都市への思いが記載されている。初期の日本住宅公団について記している各種書物においても,直面する課題に対して加納が全面支援して事業が進んだなど,その評価は高く,また本書の中でも,加納の住宅都市づくりに関する思想が示されており,目標に向かって突進した息遣いを感じることができる。読了後には,もし初代総裁が加納久朗でなかったら,公団の先進的かつ独創的な住宅都市づくりがここまで進まなかったとも思える。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

国際人・加納久朗の生涯

高崎哲郎/鹿島出版会/2014年4月

 まちづくりの本質は,自分たちの手で,自分たちが納得することである-本書では,こうしたDIY(Do It Yourself)の心がまちづくりの原点であるとした上で,(1)愉しく元気に(2)美しく美味しく(3)工夫を重ねる(4)ビジネスから(5)未来に向けて の5つの視点から,各視点ごとに3~4事例,計18の事例を紹介している。いずれも課題から活動内容,参考とすべきコツまでがわかりやすくまとめられている。これからまちづくりの活動に取り組もうとする幅広い方々に手に取っていただきたいが,特にこれからまちづくりを実践的に学ぼうとする学生のはじめの一歩としてもお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

まちづくりDIY:愉しく!続ける!コツ

土井勉 他/学芸出版社/2014年2月

 同著者の「人間都市クリチバ」から10年。長年クリチバ市長や州知事を務めたレルネル氏,その懐刀の中村ひとし氏が離れた後,彼らの魔法が消えつつある。レルネル氏のまちは人が集まってつくる,人を大切にする,という言葉の意味を痛感させられる事実だ。しかし,都市は変わっても人は変わらない。その想いから,中村氏の生き様が描かれた本である。あまり知られていない中村氏の功績の裏には,人生を貫く意志がある。それを誇示しない謙虚さ,愛情,情熱といった中村氏の人柄と,その才能を引き出したレルネル氏や周辺の人物像に触れながら,都市計画,緑地計画,環境教育の本質を根本から見つめ直すために,熟読していただきたい一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

ブラジルの環境都市を創った日本人:中村ひとし物語

服部圭郎/未来社/2014年3月

 景観計画やまちづくりの検討に際し,高さ制限を考える上ではまず本書を読むべきであるという一冊である。本書は高さ制限の歴史的変遷や高さ制限の実態と課題が体系的にまとめられ大変参考になる。特に戦前・戦後からバブル経済崩壊以降の高さ制限まで歴史的変遷から見た高さ制限の特徴は大変興味深い。また,高さ制限を活用したまちづくりとして,古都の景観保全をはじめ,山の眺望,水辺,都心の景観保全に至るまで様々な視点からの事例が詳しくまとめられている。景観計画を学ばれている方やまちづくりの実務に携わる方にとって大変参考になる。ぜひ一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

高さ制限とまちづくり

大澤昭彦/学芸出版社/2014年2月

 「近居」とは,明確な定義があるわけではないが,ふとした時に駆けつけられる概ね30分以内の距離に居住していることを指す。近居は本来,子育てや介護・福祉など,生活上の課題を解決するための自助手段であり,我国の都市政策や住宅政策にはこれまで必ずしも組み込まれてこなかったが,近年住生活基本計画の中に位置づけられた。都心部高層マンション群や郊外ニュータウン,地方集落においても,同居とは異なる近居ニーズがあり,既に近居促進に向けた補助や助成を行っている事例も紹介されている。近居を切り口として,住宅問題のみならず,地域再生や少子
高齢化問題解決のためのヒントが多様に散りばめられており,是非一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

近居:少子高齢社会の住まい・地域再生にどう活かすか

大月敏雄+住総研 編著/学芸出版社/2014年3月

 ヤン・ゲール氏が,長年の研究をベースに,人々が心地よく歩き,自転車を利用するための,公共空間の在り方について論じている。人間のスケールに立脚した,時速5キロの速度で感じる空間のデザインが重要であるとし,目の高さの街の質の高さを,基本的人権とまで述べる。歩行者が心地良く歩ける環境という観点からは,近年欧州で広がるシェアドスペースの考え方に,歩行者に緊張を強いる点で警鐘を鳴らす場面も見られる。コペンハーゲンの徹底した自転車政策を中心に,自転車利用に適した街の計画についても論じられており,多くの事例写真と共に,生き生きした街の計画に向けて学ばせてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

人間の街:公共空間のデザイン

ヤン・ゲール 著、北原理雄 訳/鹿島出版会/2014年3月

 タイトルとなっている,Medicine-Based Town(MBT)という言葉を軸に,都市計画と医学の協働について,医学の専門家と都市計画の専門家それぞれの立場から,事例と展望が述べられている。家庭と病院をつなぐ医療拠点を,まちの空き家対策の一つとして取り込む案や,公共交通を,通院等への手段としてだけではなく,医療・福祉等をつなぐさまざまなサービスを結び,新たな需要を得るためのツールとして再編する案など,様々な観点で医療と都市計画の連携が語られる。緊急時から予防まで,人々の健康について多様な場面で都市と医療が連携できる可能性があることを,本書は教えてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

医学を基礎とするまちづくり:Medicine Based Town

細井裕司 他/水曜社/2014年1月

 本書は,都市地理学の基礎的な理論や考え方を解説した入門書である。社会,自然環境,防災や歴史的景観などへの地理学的アプローチ,都市空間形成メカニズム,グローバル化や人口減少問題への対応,今後の都市ビジョンなどの71のテーマをとりあげ,それぞれのテーマに関して,各分野の専門家総勢46名が,最新の研究成果を取り入れながら,タイトルにもあるように「わかりやすい」を心掛けた解説をおこなっている。また,都市地理学にゆかりのある研究者や重要なキーワードを簡潔に解説した25のコラム欄があり,面白く幅広い知識がえられる。学生など都市地理学を初めて学ぶ方にはお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

よくわかる都市地理学

藤井正 他 編著/ミネルヴァ書房/2014年3月

 ヨーロッパの風景画家であるベルナルド・ベロットが,18世紀に描いた欧州の風景画を,現在の実景と比較している。特に,ベロットが描いた風景画からは視点場や視対象といった景観構造を認識することができ,18世紀と現在をつなぐ新たなものの見方が示されている。また,ドレスデンなど,戦乱によって破壊された都市の建築物を復元する上で,意匠や色についてもベロットの風景画を参考にしたことが述べられており,古に書かれた風景画の現在への活用方策も示されている。18世紀の視点場と視対象が,現在と同じ視点場と視対象で示されていることで,過去と現在を融合させることができ,読了後には,本書を携えて欧州の街を旅したい気持ちになる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

複眼の景観:ベルナルド・ベロット 構図を読む

萩島哲/九州大学出版会/2014年3月

 コミュニティデザインの最先端の現場に立つ著者らによる,11の実践の記録である。少子高齢化,人口減少,貿易の自由化の農業への影響,経済の衰退,若者の雇用といった深刻な問題に直面しつつも,地域の資源を活かし,人をつなぎ,仕組みをまわすことによって,地域を明るくしようとする取り組みを,現場の熱意そのままに読み手に伝える良書である。書き手が,まちづくりを主導してきたベテラン研究者から,自治体担当者,NPOメンバー,さらには外国で実践に取り組む大学教員など,バラエティに富んでいることによって,コミュニティデザインの幅の広さ,奥行きの深さを,複眼的に知ることができる内容になっている。各地の事例を幅広く知りたいだけでなく,これからコミュニティデザインの現場に関わりたいと考えている研究者,学生や実務者におすすめできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

地域を元気にする 実践!コミュニティデザイン

林まゆみ 編/彰国社/2013年10月

 本書は,冒頭で都市計画と交通計画が人を中心に発展し,物流が経済分野を含むことから後回しにされてきたことが述べられている。人々の生活を支える物流の観点からのアプローチがいかに少なかったことなど,物流を踏まえなければ都市問題を解決することができないことが語られており,是非とも一読をお薦めしたい。ここまで徹底的に物流の観点から都市や交通のあり方を述べているものは他にはない。また,物流について道路構造令や駐車場法など各種技術基準と連動させながら述べられており,東日本大震災を踏まえた災害と物流との関係といった最新の対策も収録されており,非常に親しみ易く読める名著である。読了後は,目から鱗が落ちる。人々が外出もせずにインターネットにより注文や宅配が可能となった社会経済状況において,これまで以上に物流について真剣に考えなくてはならない現在,本書は非常にタイムリーである。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

物流からみた道路交通計画:物流を,分ける・減らす・換える

苦瀬博仁 監修/大成出版社/2014年2月

 2010年にその生涯を閉じた建築家大髙正人のまちづくり,建築とその思想背景について,作品と当時の執筆文やインタビューを元に丹念にたどる。ユルバニズムの探求,再開発のモデルである坂出人工土地,超高密度開発の広島基町住宅の計画から,建築の工業化の追及,都市デザイン,故郷福島県三春町でのまちづくりの実践に至るまで,大髙が切り開いてきた建築,都市,農村の姿とその思想が仔細に示されている。「彼がもっていた倫理がひとつの倫理(エシックス)が一つの美(エスタティックス)に還元されていったと思う」とは槇文彦の弁である。作品集を出すことを拒んできたという大家の足跡を関係者の努力の結集により記録した貴重な一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

建築家 大高正人の仕事

蓑原敬 他/エクスナレッジ/2014年2月

 戦災,火災,地震など,様々な災害により破壊された都市に焦点を当てて,それらの都市が破壊からどのような経過を経たのか,各章ごとに異なる著者による論が述べられている。アメリカで起きた複数の大火を取り上げた事例では,「物語」が果たした役割を分析し,ピカソの絵画で有名なゲルニカの事例では,「物理的回復」と「感情的回復」という言葉をキーワードに,都市の回復を分析している。またベルリンの事例では,一部ではそれまでの歴史を拒否する態度とともに,都市を回復させるという難しさを解く。それぞれの事例から得られる知見は,異なる場面でも重要な示唆を与えるものだと思われる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

リジリエント・シティ:現代都市はいかに災害から回復するのか?

ローレンス・J・ベイル 他 編著/クリエイツかもがわ/2014年1月

 本書は,復興の現場で欠落してしまっている被災者の「住まいや暮らし」を再建することの重要性を謳っている。執筆者は学識経験者,弁護士,都市計画プランナー,行政職員など多岐にわたっており,東日本大震災の復興を通じて,主に政策・制度の枠組み,津波被災地,原発被災地の3つの視点から,様々な問題提起や提案を行っている。また所々で阪神・淡路大震災における筆者らの経験や実態が散りばめられており,その対比が興味深くもあり分かりやすい。現在災害復興に携わっている方だけでなく,これから携わるであろう,まちづくりの関係者にも一読いただきたい一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

住まいを再生する:東北復興の政策・制度論

平山洋介 他 編/岩波書店/2013年11月

 「建った時の一瞬の美しさとともに,時間のみが創り出すことができる持続的な価値に目を向けよう。」これが,歴史的建造物の保存・活用の根底に流れる思想だと感じた。長い時間を経た建物は記憶の容器であり,現在と過去を結びつけるという直接の機能とは違った重要な側面をもつことへの気づきを本書は与えてくれる。第二部からは,中国地域の建築遺産が語られる。明治期の工場がホテルや文化施設となった「倉敷アイビースクエア」,製錬所が美術館になった「犬島製錬所美術館」,旅館が飲食,観光,文化交流施設となった「恋しき」など,いかに新たな生命が吹き込まれてきたのか知ることができる。是非一読してほしい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

中国地域のよみがえる建築遺産

中国地方総合研究センター 編/中国地方総合研究センター/2013年5月

 スペインのアンダルシア地方は,ヨーロッパの中でもイスラム文化の影響を色濃く残す地域である。本書は,この地域での民族や宗教の支配の移り変わりが,都市空間や建築にどのように投影されてきたか,そして都市と周辺の田園との関係をどう結び付けてきたか,丁寧な歴史の説明と豊富な写真そして精緻な図面を通じて伝えている。歴史的に異色の都市文化を有する地域ではあるが,それでも近年では,工業化の影響や過疎化の進展,グリーン・ツーリズムの発展など,欧州の他地域や我が国と共通する部分が見られてきている点も面白い。編者の実直かつ継続的なフィールドワークによって,読み物としても,記録資料としても興味深い一冊となっている。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

アンダルシアの都市と田園

陣内秀信+法政大学陣内研究室 編/鹿島出版会/2013年2月

 本書は,2011年12月に実施された東北大学東北アジア研究センター公開講演会の記録で,4つの講演と会場からの質疑を収録している。シベリアの村,沖縄の離島,東日本大震災時の途絶を題材とし,物流や交通が途絶した地域の実態を具体的にわかりやすく述べられている。ソ連では国の政策と負担によりどんな僻地でも都市部と同じ物価であったが,ソ連崩壊により物流コストが大きくなり,これまでと同じ生活ができなくなった。一方,沖縄の離島では,孤立していたが故に島独自の生活ルールがあったが,橋がかかり孤立が解消されるとそのルールは失われる。途絶により利便性が失われる事例と,孤立解消により独自性を失うという事例があり,都市や人との「つながり」を考えさせられる非常に興味深いテーマである。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

途絶する交通,孤立する地域

奥村誠 他/東北大学出版会/2013年10月

 ピーター・ライスは,オペラハウスの設計に参画したのを皮切りにポンピドーセンターの設計に携わり,関西国際空港や牛深ハイヤ橋の設計に参加した世界的な構造エンジニアで知られているが,1992年57歳の若さでこの世を去った。ピーター・ライスの建築への思い,構造設計に対する考え方,生き方,人となり,仕事の仕方について,レンゾ・ピアノ,リチャード・ロジャーズら11名によって語られている。世界中に多くの著名な建築物を創造した,ピーター・ライスの息遣いを感じることができ,また生前述べていたエンジニアの役割について引用しながら,建築家とエンジニアの相互連携性,チームワークの重要性が語られているのも非常に興味深い。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

ピーター・ライスの足跡

ケヴィン・バリー 編、三輪直美 訳/鹿島出版会/2013年12月

 空間やモノ,情報をシェアすることで,新たな価値を生み出そうとする考え方が,様々な分野で現れている。この考え方は,今や,単なるブームを超えて,所有や消費の概念の根底を問い直す,大きな時代の潮流となりつつある。本書は,ワーキングスペース,公共空間から,ネット上の情報空間まで,様々な分野を取り上げつつ,分野横断的に,空間,モノ,情報をシェアすることの意義や,それを,無理なく,しかし効果的に生み出すための場の創出のあり方を論じている。本書の特徴は,シェアの場を設計する側に焦点を当てたことにある。都市という,まさに,人々によってシェアされる場の創出に関わる都市計画関係者にとって,本書は,示唆を与える一冊といえよう。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

シェアをデザインする:変わるコミュニティ,ビジネス,クリエイションの現場

猪熊純 他 編著/学芸出版社/2013年12月

 銀座の地域コミュニティーに深く関わる著者が,地域の歴史的経緯を踏まえながら,超高層ビル建設計画に対するまちづくりの取組みを紹介している。本書の中で著者は,銀座らしい街並みが自然と成立するように,神の見えざる手として働いてきたという,「銀座フィルター」の存在に言及している。しかしながら,時代の変遷と共にその力を頼れなくなっていることを示唆し,その中でどのように「銀座らしさ」を守っていくのか,地元の人々の姿勢,専門家の姿勢,行政の姿勢をそれぞれを描いている。めでたしめでたし,と完了した事業を振り返っているものではないので,本書とともに,その後の銀座のまちづくりを引き続き学びたい。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

銀座にはなぜ超高層ビルがないのか:まちがつくった地域のルール

竹沢えり子/平凡社/2013年11月

 本書は,文化遺産を自然災害などの災害から防御して,後世に継承していく取り組みに関して,立命館大学が2003年度からのCOEプログラムに採択され,得られた膨大な研究成果を分かりやすく,一般社会に広く知ってもらうために刊行したものである。内容は,災害の歴史をはじめ,文化遺産を守る土木などの減災技術,市民を主体とした防災まちづくり,災害時交通などの計画とデザインと多岐の分野にわたっており,東日本大震災に関する記述もある。文化遺産防災学を体系的に示していることから,教科書的であるとともに,研究成果のエッセンスも示しており,興味深い内容となっている。文化遺産防災とは何かを知るにはお勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

テキスト 文化遺産防災学

立命館大学「テキスト文化遺産防災学」刊行委員会 編/学芸出版社/2013年3月

 政治的,制度的な共通点が多いにも関わらず,英国の中心市街地の商店街が発展しているのに対し,なぜわが国では衰退しているのか。本書では,この問いが,英国の都市政策,財源,組織の各面からの実証的データによって多角的に検証されている。英国では,中心市街地に市民が誇りを持ち,郊外とは異なる魅力を育てようとしている点は,郊外型ショッピングセンターと中心市街地が競合する構図となっているわが国の状況に対しても示唆的である。本書の最後では,英国から得られる知見に基づきながら,日本の中心市街地の衰退に対する具体的な処方箋が提示されている。研究者や学生だけでなく,中心市街地活性化に取り組む実務者にもおすすめできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

イギリスに学ぶ 商店街再生計画:「シャッター通り」を変えるためのヒント

足立基浩/ミネルヴァ書房/2013年10月

 富山市中心市街地活性化基本計画で整備された,公共の広場である「富山市まちなか賑わい広場(愛称:グランドプラザ)」について,管理運営に携わる著者が,その整備プロセスや運営手法について述べている。再開発事業の当初,その敷地は百貨店のバックヤード的な道路となる予定だった。行政職員からの,まちなかの最も人通りの多い場所は広場にするべき,という提案から,再開発ビルのセットバックの協力も得て,現在休日のイベント実施率がほぼ100%の広場となったという。中心市街地の賑わいづくりのために,施設の利活用に向けた「攻め」の運営をしている著者らの活動は,多くの知見を与えてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

にぎわいの場 富山グランドプラザ:稼働率100%の公共空間のつくり方

山下裕子/学芸出版社/2013年10月

 本書は,日本建築学会・都市計画委員会・景観小委員会で2009年度から2012年度までに議論された内容を取りまとめたものである。景観法以降,「景観」の概念が矮小化されてゆく状況を危惧し,原点に立ち戻って「景観」とはなにか,今日的な意義を再考している。その上で,ポスト都市化時代と呼ぶこれからの人口減少の時代に,どのように景観とわたしたちが向き合っていくべきなのか,人間と環境のよりよい関わり方を現場による様々なアプローチを通じて示唆している。景観が置かれている“いま”を切り取っており,今後を担う学生はもちろん,都市デザインに携わる人に読んでもらいたい一冊である。

紹介:情報委員 加瀬靖子

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

景観再考:景観からゆたかな人間環境づくり宣言

日本建築学会 編/鹿島出版会/2013年8月

 本書では,「環境演出」を,既存の都市や地域がもつ資源を活かしながら,建築などハードだけでなく人間の心理や行為などカタチのないものまでを含んだ横断的・包括的なデザインであると定義している。誰もが共有できるコミュニティの創出と実践・継続するプロデュース,価値観を生み出すブランディングの視点をもつデザインを提唱し,具体例を13のキーワードに分類して筆者の経験を中心に紹介する。その内容は家具から建築,都市計画,環境問題など多岐にわたり,現在の生活や都市構造には曖昧な価値観や多様なライフスタイルが存在し,分野横断的な視点が必要であることを再認識させる。実務者や実務に携わる研究者に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

まちを演出する:仕掛けとしてのデザイン

伊藤考紀/鹿島出版会/2013年2月

 本書は,東日本大震災の現状や過去の国内外の復興の例を挙げながら,日本でも成熟した国として,時間をかけて都市を変革していく復興モデルに移行することが必要と問題提起し,復興・防災対策とは何か,被害想定や総合計画との関係など理論的説明を加え,総合的なまちづくりビジョンなしに復興はなく,納得ゆくプロセスが重要と指摘する。また,防災計画・復興計画の変遷,小千谷市での復興計画の策定とその評価等の実践面,南海トラフや首都直下の地震に備えた事前復興の重要性と方法についても解説されている。復興・防災計画の歴史,理論から実践までの全体像を理解できる一冊であり,都市計画に携わる方,学生などにぜひ一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

復興の防災計画:巨大災害に向けて

牧紀男/鹿島出版会/2013年6月

 どなたも,行きたい場所になかなか辿り着けず,「案内表示を,もっときちんとしてくれればよかったのに」とお思いになったことがあるのではないだろうか。本書では,地下鉄駅の計画をはじめとして,著者が関わった事例を中心に,公共空間のサインシステムについて体系的に述べられている。前半は歴史編として,具体事例の改善経緯等を含む詳細な計画プロセスが述べられている。後半は理論編となっており,心理学,人間工学等をふまえたサインの計画プロセス,表現原則のための理論が展開されている。サイン計画そのものはもちろんのこと,それらを考慮した空間設計に向けて,今後のプロジェクトへの大きな助けとなるものと思われる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

サインシステム計画学:公共空間と記号の体系

赤瀬達三/鹿島出版会/2013年9月

 東日本大震災における避難者の数は最大で45万人を超えた。避難所は被災者であふれかえり,劣悪な環境から被災者を解放すべく,仮設住宅を早急に提供することが大きな課題となった。本書は,東日本大震災における仮設住宅建設の実情の記録であると同時に,大規模災害時における課題と今後のあり方を現場の視点から率直に語った一冊である。震災直後の混乱の中,仮設住宅の着工準備から完成後の対応に至るまで,試行錯誤を繰り返しながら奮闘する様子のほか,仮設住宅の種類や費用,関連制度の運用と手続き,苦情やトラブルへの対応策まで詳細に記されている。今後の災害対応のためにも,防災関係に携わる方にはぜひ一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

実証・仮設住宅:東日本大震災の現場から

大水敏弘/学芸出版社/2013年9月

 本書は,2004年出版された「土木人物事典」に新たに20名追加し,日本の社会基盤施設を築いてきた520名の実務者たちの記録が克明に記載されている。また,明治以降の国土を築いた人物史が随想風に52のエピソードとして新たに書き加えられ,さらには前書とは異なり,都市・道路・河川など分野毎に人物が収録され,日本の近代化を読み解く上で非常にわかりやすい。文中にもあるが,社会基盤施設(土木分野)では個人名を積極的に表に出さないなか,活躍した実務者について,経歴から携わったプロジェクトまで事細かに記載されている書物はこれ以外にはなく,是非とも一読をお薦めしたい。身近な社会基盤施設を築いた人物を再発見できる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

近代日本土木人物事典:国土を築いた人々

高橋裕 他/鹿島出版会/2013年6月

 本書は,京都を中心に都市の近代化や象徴性,拠点性が明治期を中心に語られている。都市の多様性を考えるキーワードが随所に散りばめられており,読了後あらためて都市を取り巻く思考の奥深さを痛感した。京都の風致地区指定の思想とプロセスについて,関与した人物や職種から展開されている部分が非常に興味深い。また,都市の領域や区分について,行政地域の変遷や,東京・京都・大阪といった三府,六大都市の成立過程から述べられている。高等中学校制度と教育拠点の観点からも述べられ,高等中学校立地による都市の拠点性について,各都市の思惑が述べられている点や,修学旅行先の観点から都市について語られている点にも興味がそそられる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

近代日本の歴史都市:古都と城下町

高木博志/思文閣/2013年7月

 「公共空間を楽しくしたい」という気持ちを強く感じる一冊である。日本の多くの公共空間は「オフィシャル」の位置づけで,公平性が重んじられてきた。しかし公共空間は「オープン」や「コモン」であるべきで,「この空間は誰のものか」ではなく「誰のためにあるものなのか」という視点が大事だと述べている。公園,役所,水辺,学校など公共空間のリノベーション事例を実現手法を交え紹介。著者の実践やアイデアを,多くの写真やイラストを用いて紹介しており,読みやすさも工夫されている。読後は公共空間を見る目が変わる。既成概念に縛られず,変えることや新しいことにチャレンジする勇気をもらえる本である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

RePUBLIC:公共空間のリノベーション

馬場正尊+OpenA/学芸出版社/2013年9月

 丹下健三の建築と都市デザインの背景,舞台裏を対談形式でまとめた書である。紹介者である私は,本書に登場する者に師事し,また本書に登場する組織で仕事をしてきたから,特に都市デザインの部分ではこれまで断片的にしか知らなかった事柄がつなぎ合わされ,体系化された思いがする。建築の部分にも同様な感想はあるものの,その時期に共に仕事をされていた方々による対談はやや懐古的に受け取れる。別の若い世代による対談は建築家独特の認識論の展開に十分には付いていけない感慨も残った。その他,関連する美術家,写真家などとの関係にも言及されており,丹下健三の作品,その背景を詳しく知りたい者には格好の書であることは間違いない。

紹介:担当理事 高見公雄

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

丹下健三を語る:初期から1970年代までの軌跡

槇文彦 他 編著/鹿島出版会/2013年7月

 本書は,東京大学アジア生物資源環境研究センターが,経済成長が著しく人口密集地域であるアジアを対象に,生物資源の持続的利用という観点から,研究活動の成果をその活動方針の紹介も交えてとりまとめたものである。各メンバーは,樹木学,生態学,材料学,地域資源計画学,生態遺伝学,沿岸海洋環境学などのそれぞれの立場から,これまでの高エネルギー・資材投入,高収量の技術適用によってもたらされた問題と,それを見直す方策について,理論と事例の両面から述べている。生物資源環境の側から,これまでの都市や人為的影響を多面的に見直す際のヒントを与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

アジアの生物資源環境学:持続可能な社会をめざして

東京大学アジア生物資源環境研究センター 編/東京大学出版会/2013年7月

 本書では,大地震に見舞われたむら,そして過疎化と高齢化に悩むむらという,2つの側面から,新潟県古志郡山古志村が語られている。東洋大学ライフデザイン学科を中心とした多くの研究者により,復興に向けた取組みについて,公営住宅の計画,健康づくり,景観,新たな営農方式といった様々な視点から,詳細な活動記録が綴られる。本書の中では,復興後のむらの持続可能な発展に向けた外部との様々な交流を「社会的支援」と呼び,そのあり方について検討している。むらの歴史や住民の主体性を尊重した交流の重要性,無理のない地域資源の活用による観光客の増加について具体的な事例が示されており,他地域への一助となることが期待される。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

山あいの小さなむらの未来:山古志を生きる人々

東洋大学福祉社会開発研究センター 編/博進堂/2013年7月

 本書は,交通弱者に対してシビルミニマムの視点が先行しがちな我が国の交通政策に対して,経済的非効率性も含んでいることを読者に再認識させつつも,シニア層の交通政策の必要性に多面的側面から言及しているのが興味深い。シニア層の交通政策は地域によって多種多様であり,シニア層の基本的な交通特性から,様々な施策メニューや事例,その組み合わせまで幅広く提示している。特に事例は多様な研究データや成果に基づいており,実務的にも参考にすべきものは多い。学生を含めた若手研究者から行政担当者まで,それぞれの立場からシニア層の交通問題について読み解くことができる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

シニア社会の交通政策:高齢化時代のモビリティを考える

高田邦道/成山堂書店/2013年5月

 7代目小川治兵衛は,明治から昭和初期にかけて,京都で活躍した庭師である。彼が手がけた庭園は,琵琶湖疏水の水を引き込み,周辺の山を借景するなど,自然主義の庭園であり,それまでの象徴主義的な庭園とは異なる新しい庭園文化を生み出した。本書は,単なる彼の伝記でも作品集でもない。琵琶湖疏水開発の歴史や,彼が庭園を手掛けた当時の有力者たちの人物像あるいは建築物も丹念にたどりながら,彼が表現しようとした庭園の世界を解説している。読後,都市空間は単なる機能論,意匠論だけではなく,時の文化,技術的潮流や権力構造などが絡み合う中で形づくられていくということに改めて気づかされる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

庭師小川治兵衛とその時代

鈴木博之/東京大学出版会/2013年5月

 本書では,自然を活かす,農と食を活かす,都市を活かす,歴史とアイデアを活かす,人を活かすという5つの視点から,20か所に及ぶまちづくりの事例が紹介される。食,農,医療福祉など,まちづくりで扱うフィールドが広がりつつある昨今,他分野の知見や他分野の方々との連携はますます重要となっている。本書で紹介される長野市の「風を活かしたまちづくり」,伊豆大島の「ジオパークを核とした地域づくり」といった取り組みは,地理学ならではの視点が活かされた例といえる。地域資源の発掘において,新たな気づきをもたらしてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

地域資源とまちづくり:地理学の視点から

片柳勉 他 編著/古今書院/2013年5月

 本書は,全国に支部をもつ建築技術者組織である『新建築家技術者集団(新建)』の結成40周年を記念して出版された活動報告である。全国各地の会員各々が実際に取組んできた事例紹介に多くの紙面が割かれており,取り上げられているテーマも地元木材の活用や伝統工法を取り入れた住宅供給の取組み,保育・教育施設や福祉施設の設計プロセスの紹介,震災復興の取組みなど多岐にわたっていて興味深い。また,すべての事例において新建の理念とする「住む人使う人と協同して,地域に根ざした建築とまちづくり」が実践されていることが実によく分かる。まだ現場経験の浅い若手建築技術者や大学院生などに一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

社会派建築宣言:誰もが人間らしく生きる生活空間の創造

新建築家技術者集団 編著/東洋書店/2013年4月

 東日本大震災からの地域産業の復興の現状を明らかにする被災地企業実態調査,地域産業の復興の現状分析,さらに再生可能エネルギーやスマートコミュニティの復興への貢献可能性検討の3部構成となっている。企業実態調査では,被災地に本社をもつ企業7千社からアンケート回答を得て,資金調達・投資・雇用等の側面から,被災企業への影響を客観的事実として提示していることが特筆される。今後の詳細分析の成果が待たれる。また,地域産業復興の現状分析についても,農業,漁業,水産加工業,商業,観光,地域金融など,事例や統計データ等を活用して分野網羅的に整理されており,今後の復興を考える上で貴重な資料となる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

東北地域の産業・社会の復興と再生への提言:復興過程の現実に向き合い,地域の可能性を探る

東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト 編/河北新報出版センター/2013年3月

 本書は,都市計画分野の研究者のみならず,バイオマス,自然環境,水文,河川,土砂,コミュニティーといった幅広い研究者により執筆されている。都市および地域を取り巻く自然や広域性に視点をおき,持続可能な社会の構築に向けたあり方が学際的に示されている。広域連携についても,流域圏や定住自立圏など多様な観点から言及されており,さらに実際の三遠南信地域の連携についても論じられ,実際の連携空間をイメージすることができ,非常にわかりやすい。1つの視点では問題を解決することができず,多面的な視点を持って,都市および地域の問題を解決する必要性を改めて気付かせてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

都市・地域・環境概論:持続可能な社会の創造に向けて

大貝彰 他/朝倉書店/2013年4月

 地方の中心市街地を舞台に汗を流す9人が,自らの取り組みや各々の考えるタウンマネージャー像を描く。仕事の内容はイベント開催から起業,ハード整備まで幅広いが,様々な人々と知り合い,つなげて組織化したり,起業家を発掘したりすることがベースである。企画立案から広報・準備・実行・定着に至るまでのプロセスを,リーダーとしてではなく裏方,世話人として支える。制度的な安定性は担保されていない仕事だが,やり甲斐もあって彼らはそれを引き受けている。本書を読むと,タウンマネージャーとは職業を超え,まちにコミットする生き方そのものであることを痛感する。まちづくりの最前線で同じ様に生きる人々を勇気づけてくれる書である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

タウンマネージャー:「まちの経営」を支える人と仕事

石原武政 編著/学芸出版社/2013年6月

 本書は,神楽坂の歴史,まちなみ,まちづくりが体系的にまとめられた一冊である。現存する街並みは戦後に形成されているにも関わらず,来街者が歴史的情緒を感じる理由について,「まちの遺伝子」をキーワードに,多様な視点から考察されている。江戸期からの武家屋敷の賃借用の敷地割りが,現代の比較的小さな区画割と路地に引き継がれているといった歴史的経緯の解説,それらの街並みの風情を残すためのまちづくりの活動の詳細な記録,そして活動の成果としての地区計画やまちづくりのルールなど,今後のまちづくりへの様々な示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

粋なまち神楽坂の遺伝子

粋なまちづくり倶楽部/東洋書店/2013年4月

 本書は,サブタイトルに~ブームに流されず,地域の実情に合った生活交通とするために~とあるように,近年導入事例が増えてきているデマンド交通について,その特性・適性のみならず,実際に地域で導入しようとする際に陥りやすい「落とし穴」やチェックポイントをわかりやすく紹介している。著者が行ったセミナーの講演録をベースに構成されていることもあり,体系的な整理と数多くの事例資料,コラムによって,交通政策に不慣れな地方自治体職員や地域関係者にとっても読みやすいものとなっている。地域公共交通の研究者はもとより,デマンド交通の導入を検討している自治体職員にも是非手に取っていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

デマンド交通とタクシー活用:その計画策定と運用評価

鈴木文彦/地域科学研究会/2013年3月

 本書は,1980年代の新社会都市学や都市論ブームのインパクトの後に展開した新たな都市社会学の諸領域から,建築学・文学・政策科学など隣接分野の都市研究の幅広い領域をカバーしている。内容は,都市社会の理論を解説する項目に加え,世界各地の主要都市を社会学的視点から捉える項目,都市再生と地域活性化に関する項目,メディアと都市との関係の項目,都市社会調査法の項目,隣接領域を含めた都市社会学に影響を与えた人物の項目など様々な視点から構成されている。また,1項目の解説が見開き2ページに収められ,用語の補注,参考文献も充実しており,読みやすい。最新の都市社会学の入門テキストとして,お勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

よくわかる都市社会学

中筋直哉 他 編著/ミネルヴァ書房/2013年4月

 本書は,著者が多くの都市で実際に携わった「まちづくり」の事例を交えながら,商店街の再生を中心とする「まちづくり」の処方箋を提示している。商店街が社会インフラとして生き残ることの必要性に加え,「まちづくり」の本質は「ひとづくり」であること,今流行りの6次産業の活用の可能性など活性化の方策について述べている。また,まちづくりの実践には地道な議論が必要であること,その議論には身近にある地域データの統計分析が重要であることも指摘している。「主張し,実行することが革命的な成果を生み出してくれる」とあり,まちづくりを実践されている方には参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

まちづくりのスマート革命:主張する”まち”だけが生き残る

細野助博/時事通信社/2013年4月

 地域のまちづくりの実践の場での各主体の行動や社会変化を明らかにすることを意図し,国内外の豊富な事例紹介を通じて,地域レベルの相互学習のプロセスと経験蓄積の場の形成の重要性を示し,実験の普遍化に向けた場づくりの構造分析等を行っている。具体的には,スリランカやタイのアジアの草の根生活保障,高知県での中山間地域での集落支援,韓国の行政・住民・専門家の協力体制づくり,大阪府箕面市北芝地区のコレクティブタウン,北海道釧路市での地域生活支援ネットワークサロン等の取り組みが紹介され,高齢化社会に向けた組織,場,財源,制度など,今後の各地でのまちづくりの実践に参考となる示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

福祉社会の開発:場の形成と支援ワーク

穂坂光彦 他/ミネルヴァ書房/2013年3月

 本書は,コミュニティ交通に関して,地方都市,過疎化地域の様々なタイプの成功した事例をとりあげ,住民,市民団体,事業者,民間企業,行政が協働しながら,どんな取り組みや活動をし,活性化できたのか,そのしくみやプロセスを報告している。コミュニティ交通は,各地域でとりまく環境条件が異なるため,そのままマネをすることができないことが多く,インフラや交通手段だけではなく,住民などを活性化させるプロセスがより参考になるといえる。また,コミュニティ交通づくりは地域づくり・まちづくりにも通ずるものであり,住民自治のマネージメント力の向上を目指す上でも参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

コミュニティ交通のつくりかた:現場が教える成功のしくみ

森栗茂一 編著/学芸出版社/2013年3月

 本書は景観まちづくりを考える最初の一歩のガイドとしてのみならず,景観まちづくりを実践している方々にとっては指南書となる一冊である。著者の20年あまりの景観の専門家としての活動により得られたノウハウが体系的にまとめられており,景観をめぐるさまざまな考え方を整理しながら,良い景観を共有するための指標を示している。また,小布施をはじめとする日本各地の景観まちづくりの紹介については,人々の景観まちづくりの活動にスポットをあて,いかにその街の景観が形成されてきたか分かる。「景観まちづくりはまず,行動です」との著者の信念が 本書全体を通して伝わってくる。一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

市民のための景観まちづくりガイド

藤本英子/学芸出版社/2012年9月

 ジェイコブズ後のニューヨークの変容を"オーセンティシティ”をキー概念に克明に読み解いた大著。フロンティア達により形成されたオーセンティシティは,メディアを通じて普及・拡散して消費の対象となり,企業や行政による資本投入や開発が促され,当初の住民,空間,文化が小綺麗で高級化したまちに置き換わる姿等が描かれる。そして,生活し働き続けることを可能にし,暮らしに蓄えられた文化が保たれることにより都市は魂を宿すものだと提唱される。訳者による解説とあとがきは,ニューヨークで生起していることが我々のものでもあることを再認識させてくれる。まちづくりや都市計画に関与する全ての人々が手に取るべき好著である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

都市はなぜ魂を失ったか:ジェイコブズ後のニューヨーク論

シャロン・ズーキン 著、内田奈芳美 他 訳/講談社/2013年1月

 本書は,著者が学生時代から現在に至るまで過ごした「新宿」という街の「場所の力」について,自分史と重ねつつも客観的に論じている。江戸時代の宿場として内藤新宿の起源から現代に到るまで,新宿の都市空間や文化の形成過程や地域関係者の苦悩が如実に描かれている。江戸四宿の遊里としての新宿,大名屋敷跡地の土地利用の変遷,玉川上水と淀橋浄水場,五街道と鉄道網の変遷,新宿老舗店舗,歌舞伎町の成り立ち,新宿駅西口の超高層都市計画など,新宿の歴史をあらゆる面から辿り,加えて新宿の未来図を提言している。本書を片手に携えて,改めて新宿という街を歩きたくなる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

新宿学

戸沼幸市 編著/紀伊國屋書店/2013年2月

 既に人口減少期に差しかかった我が国において,維持管理も含めた今後のインフラ整備に大きな課題を抱えていることは周知のことである。本書はその整備の方向性について,計画論,主体論,リスク分担論,ファイナンス論,技術論など様々な視点から述べられている。特に財政難や人手不足に陥っている行政にとって,持続可能性の観点から民間事業者との連携は不可欠であり,各視点における連携方策が示されている。補論として,東日本大震災の復興におけるインフラ整備の考え方にも触れられており,学生をはじめ,インフラ整備に携わる実務者にとっても多くを学べる一冊となっている。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

人口減少下のインフラ整備

宇都正哲 他 編/東京大学出版会/2013年1月

 本書は,東洋大学国際共生社会研究センターのメンバーがアジアの発展途上国地域の内発的発展に関する理論,方法,事例,今後の展望について総合的に分析,紹介を行っている解説書である。各メンバーは,社会学,経済学,環境工学,行政学,観光学などのそれぞれの領域から内発的発展論を検討・検証するとともに,具体的な事例を各章にコラムとして収録しており,理論と実例の両面から「内発的発展論」を学んだり,その考え方の視座を提起するものとなっている。自立・共生による地域づくりについて,理論的背景や事例を通じて多角的,体系的に学ぼうとするときのテキストとなる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

国際開発と環境:アジアの内発的発展のために

北脇秀敏 他/朝倉書店/2012年8月

 研究者や実務者が実際に直面した地方都市の問題と解決策について,多くの実例を用いて語られている。各章のはじめには,著者から地方が直面している問題に対する問いかけがあり非常に親しみやすく,地方都市の再生に取り組んでいる著者たちの息づかいを感じ取ることができ,奮闘している姿や熱い気持ちが伝わってくる。石川県の事例が多く収録されており,独自事例が掲載されている交通まちづくり,駐車場,景観,高齢者の居住福祉施策は興味深い。新たに整備されてきた郊外市街地がなぜ問題を抱えているのかの提起と,それに対応する戦略も掲載されており,地方都市の再生を検討する上でのヒントが多数隠されている。一読をお奨めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

地方都市の再生戦略

川上光彦/学芸出版社/2013年3月

 地域独自の食文化は,地域独自の生業と分かちがたく結びついている。そして,地域独自の生業から生み出されるのが文化的景観である。本書は,各地での事例をベースにしながら,食と文化的景観を一体のものと捉え,小スケールでの市場創出を足がかりとして地域振興を図ろうとする提案の書である。長く国家公務員として景観行政に当たってきた著者らによる,地域での創意工夫を凝らした小さな活動への評価と中央行政への鋭い批判は,現在の景観行政の課題を考えるうえで大いに示唆を与えてくれる。TPP論議の中,地域固有の食文化と,それを支える農業と文化的景観をいかなる方法によって保全していくべきかを考えさせてくれる意味でも,有用な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

食と景観の地域づくり:小さな活動からネットワークへ

井上典子 他/学芸出版社/2013年3月

 本書は,戦後広島の復興過程を,これまでほとんど焦点が当てられてこなかった地元建築家の活動を通して明らかにしたものである。地元建築家の人物像や復興にかける想いを描き出し,彼らが手掛けた復興建築一つひとつを丹念に記している。さらに,戦災復興都市計画と丹下健三の関わりや,広島平和記念聖堂のコンペに関する考察,広島闇市の形成過程に至るまで,そのテーマは多岐に渡っており,昭和20年代の広島における復興過程が立体的に理解できる。都市計画史に関心をもつ方のみならず,現在東日本大震災の復興に携わっている方にもぜひ一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

被爆都市 ヒロシマの復興を支えた建築家たち

石丸紀興 監修・李明 著/宮帯出版/2012年8月

 20年前に編者らが行ったマスシティ研究―日本の都市は西欧型都市とは異なる大衆的文化都市(経済活動や文化活動の集まるオアシス状の集住空間)であるという考え方から,生まれた書である。マスシティの特徴を凝縮した都市空間として「路地」を取りあげ,都市における路地の本質的な意味や役割を論じている。路地は,人の住まう都市の必須の要素であること,歴史や文化のなかで生成されてきた核心的都市装置であることを,上海,北京,ソウル,オールドデリー,イジョグジャカルタ,鹿港(ルーガン),プラハ,ベルリン,ニューヨーク,そして京都・大阪と,生き生きとした人間の生活空間として描きながら,証明している。路地から各都市の歴史的文脈,空間の原理をたどることのできる好書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

路地研究:もうひとつの都市の広場

上田篤 他 編/鹿島出版会/2013年2月

 題名の通り,復興まちづくりの最前線の状況が収録され,現場の息づかいが伝わって来る。被災から2年が経過した時点での復興課題についても言及されており,次に来るべき大規模災害の復興における教訓も示されている。都市計画法制度に関する復興のみならず,災害廃棄物の処理,生業の復興,仮設まちづくり,地域コミュニティについても詳細に記されている。また,被災地の5自治体の市長が寄せる文章からは,復興に対する熱い思いを感じ取ることができ,どの市長もまち再建への夢を語っている。陸前高田市長の「細く長くご支援を」「忘れないでください」という言葉には,復興の長い道のりと被災地の強い思いが凝縮されている。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

東日本大震災 復興まちづくり最前線

大西隆 他 編著/学芸出版社/2013年3月

 「さるく」は,長崎県の方言で,「ぶらぶらとそぞろ歩く」の意味である。本書は,長崎を「さるく」ためのガイドブックである。長崎のガイドブックと言うと,幕末の遺構の紹介や,原爆の歴史を解説したものであると思われるかもしれないが,本書は,それとは異なる。本書のタイトルには,「もうひとつの」の言葉が冠せられている。すなわち,本書は,これまで語られることの少なかった時代の,長崎の歴史や文化,風土や暮らしに焦点をあて,それを丁寧に記述することを通して,新しい「さるき方」を提唱したものである。歴史的に脚光を浴びた時代の狭間に存在した何気ない人の暮らしに焦点をあて,その価値を掘り起こした本書は,長崎のさるく本であるとともに,全国の地方都市における地域資源の発見方法にヒントを与えてくれるものでもある。地方都市のまちづくりや観光振興に興味を持つ方に一読をお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

もうひとつの長崎さるく:豊かな景観と育んだ歴史的個性

谷村賢治 他/晃洋書房/2012年11月

 昨年放映されたドラマでも話題となった「地域おこし協力隊」の各地での取り組みを紹介する一冊である。茨城県常陸太田市,高知県本山町,新潟県十日町市,秋田県鹿角市,長崎県対馬市の例を中心に,協力隊の方々が現地に入る経緯から活動の悩み,自らの経験や能力を活かした活動の状況などが生き生きと描き出されている。受け入れ側の自治体担当者のコメントも付与され,双方の視点から見られる構成となっている。都市から地方への移住者がよそ者の視点で地域おこしを担う姿は,地域づくりの一つの形態となりつつある。本書はこうした地域活性化のあり方とともに,今後のまちづくりを担う若者のライフスタイルを考える上でも参考になるであろう。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

僕ら地域おこし協力隊:未来と社会に夢をもつ

矢崎栄司/学芸出版社/2012年12月

 本書は,明治大学がドイツの都市計画家を招いた国際セミナーを軸に,わが国のサステナブル社会実現に向けた提言をまとめている。具体的には,市民意識,私益・公益のバランス,都市計画の法的フレーム,税制,まちづくりの担い手などの面において,日本とドイツを中心とするEU諸国との違いを論説したうえで,ドイツのまちづくりから日本のまちづくりや震災復興に活かせることを提言している。著者のドイツにおける経験やセミナーにおける知見が本書内に散りばめられており,学生・研究者だけでなく実務者にも広く手にとっていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

サステイナブル社会のまちづくり:ドイツ・EUの実務に学ぶ

澤田誠二 編著/明治大学出版会/2012年11月

 都市計画の定義から基本理念,都市計画法の3本柱である土地利用,都市施設,市街地開発事業について体系的に述べられている。さら環境アセスや防災,ユニバーサルデザイン,景観についても章立てられ,歴まち法など最新の法制度にも対応しており,都市計画に関することが全てコンパクトに集積されている。特に,土地利用では国土利用計画法との関係や地区計画,都市施設では交通計画,公園計画,供給処理計画が詳しく述べられており,実務本としても活用できる。都市計画を理解する上で非常に分かりやすく書かれていることから,入門本として,学生のみならず都市計画行政に初めて携わる方にも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

都市計画 第3版

樗木武/森北出版/2012年12月

 コモンズ=里山等の入会地と考える人はタイトルに面食らうかも知れない。本書は,地域コミュニティに存在する「住民が共同で利用し,便益を受ける資源」を都市のコモンズと位置づけ,児童公園,マンション,景観等の具体調査を通じて,そのガバナンスのあり方を提言する。提言の中には,まちづくりの現場で市民・専門家・自治体職員らに既に実践されているものも少なくないが,権利義務関係法,住民自治組織のルール,政策の三相を法概念として設定し,その相互関係を動態的に捉える理論枠組みは,今後の都市空間の利用・管理を考える上で示唆に富む。読み手を選ばない丁寧な論旨展開,コモンズ研究のレビューが充実しているのもうれしい。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

コモンズからの都市再生

高村学人/ミネルヴァ書房/2012年11月

 2年前の東日本大震災ではハード整備による防災対策の限界が明らかとなったが,これまでの防災対策の徹底的反省と,今後の防災対策のあり方をめぐる議論が必要とされている。本書は,国内外の様々な防災対策に精通した筆者が,東日本大震災を機に改めて「減災」をキーワードに著したものである。多くの先進事例が紹介されているが,そこに通底している姿勢は,「市民ネットワーク」というソフト面を重視している点である。ネットワークという言葉はともすれば抽象論に陥りやすいが,民間事業者による災害支援活動などの先駆的事例,自治体による震災時の土地利用計画策定など,様々な事例が詳述,整理されている。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

減災と市民ネットワーク

三舩康道/学芸出版社/2012年9月

 昨今,農山村再生において,スローフード,スローライフといったコンセプトをしばしば耳にするようになってきているが,本書は,こうした「スロー志向」の農村観光を確立しているイタリアのアグリツーリズモ(グリーンツーリズム)の成功の理由をわかりやすく説き明かしている。
 農家,市民,自治体,政府など,関係する様々な主体が,それぞれ自発的かつ創造的に活動を展開しながらも,互いに連携しながら紡がれていく成功への物語は,我が国の農山村再生にも大いに示唆を与える内容となっている。地域の価値を活かした地域づくりに関わる,多くの方々に是非読んでいただきたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

なぜイタリアの村は美しく元気なのか:市民のスロー志向に応えた農村の選択

宗田好史/学芸出版社/2012年8月

 本書は,鳥取県を事例に,過疎地域の現状と課題解決の戦略について論じたものである。過疎地域の現象を人口減少,高齢化,過疎化に分けて,連携,個別対応,集約化,広域化などの戦略を提示した上で,福祉,林業,エコツーリズム,公共交通,医療,地域マーケティング,土地情報管理など幅広い分野における仕組みづくりとその有効性を検証する。そして戦略の展開に向けた自治体経営や体制づくりの方向を示している。全体として過疎地域の問題や戦略が体系的に整理されており,鳥取大学の研究者による調査と実践に基づく議論は説得力がある。都市計画も過疎地域との関係を抜きにしては語れない。一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

過疎地域の戦略:新たな地域社会づくりの仕組みと技術

谷本圭志 他/学芸出版社/2012年11月

 本書は,著者のアメリカでの経験を踏まえた日本における真のランドスケープアーキテクチャーの育成を目指している。そのことを根底にして書かれていることから,本書を読めば,ランドスケープの計画設計思想から,実際の基本構想,基本計画,基本設計,実施設計,維持管理までの全てが理解できる。特に,各設計段階で必要とされる設計レベルや造成計画,供給処理計画,事業費の算出,契約内容までもが詳細に収録されており,さらに事例も多数紹介されていることから,ランドスケープの実務に初めて携わる技術者でも手に取るように分かる。一読をお奨めしたい。また,日本での技術者育成の実態を踏まえた次世代教育のあり方の示唆も含まれている。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

ランドスケープ計画・設計論

丸田頼一 他 編著/技報堂出版/2012年8月

 本書は,多摩ニュータウンの開発から現在までをわかりやすくまとめている。現在の多摩ニュータウンは高齢者団地というイメージがある。本書は住民アンケート調査にもとづいて居住実態を明らかにしており,入居開始年が異なる団地ごとに特性を示している。そして居住者への訪問ヒアリングにより,日常生活を深堀りし,居住している部屋の間取りとその使い方をパターン化し,住戸の改善点を指摘しているところが興味深い。子どもの屋外活動,市民活動,商店街に関する調査もまとめられている。最後には,住戸のリフォーム,住棟のリモデル,学校校舎のコンバージョンの提案がなされている。副題に「オールドタウンとは呼ばせない」とあるとおり,これからの多摩ニュータウンが楽しみと感じた一冊である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

多摩ニュータウン物語:オールドタウンと呼ばせない

上野淳 他/鹿島出版会/2012年9月

 本書は我々が生きる環境について検討・認識する新しい視座として独自の思想である「レーベアム空間」を定義し,環境建築・都市を深く掘り下げている。世界最先端の環境建築の実例としてドイツ環境省やベルリン自由大学図書館などを取り上げ,新たな環境革命の潮流を読み取っている。また,環境重視時代における環境都市・地域づくりの典型例を3つの基本パターンに整理し,環境化へのアプローチのヒントを与えている。本書の後段では,環境建築の試行モデルとして具体的なプロジェクト提案を行っており興味深い。気持ち良い空間イメージが想起され,大いに触発される。一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

環境建築・都市への道:感性と環境技術を結ぶレーベアム思想

山崎哲哉/鹿島出版会/2012年5月

 本書は,コミュニティデザインで話題の山崎氏の住民参加型デザインに対する考えを建築家の視点から往復書簡形式で探る。思想背景やそれに関連する文献,事例への言及等を交えながらも,軽快な文体で一気に読み進められる。これらの文献等も含めてたどれば,氏の考え方への理解が一層深まるであろう。なお,二人の著者は,ある駅周辺整備で共に仕事をする建築家とコミュニティデザイナーであり,その関係性ゆえに,つくるデザイン,つくらないデザインをめぐる意識,これらの関係に対する率直な議論が展開されている。住民参加型のまちづくりが広がるなか,参加のデザインの本質に対する気づきをもたらしてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

まちへのラブレター:参加のデザインをめぐる往復書簡

乾久美子 他/学芸出版社/2012年9月

 「アーバンデザインセンター(UDC)」とは,全国5都市に存在する,公・民・学が構成するまちづくりの場であり,「連携による空間計画」,「専門家の主導」,「拠点と見える化」の3つの資質を持つ点に特徴がある。本書では,UDCに期待される役割,機能の解説から始まり,その運営手法,海外を含む各地での実践例の解説がなされている。本書には,理論と実践に関する知識が,バランスよく体系的にまとめられており,まちづくりの理論を知るうえでも,まちづくり,コミュニティデザイン,エリアマネジメントなどの各地の最新の動向を知るうえでも有用である。協働によるまちづくりのかたちを模索する研究者や実務家にお勧めできる一冊。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

アーバンデザインセンター

アーバンデザイン研究会 編著/理工図書/2012年9月

 著者自身の長崎と大阪における10年間の実績と経験に基づき,コミュニティ・ツーリズムとしての「まち歩き」の基本的考え方と具体的作法をまとめた書。本書で言う「まち歩き」は,単なる歴史講釈やウォーキングではない,生きたまちの空間体験であり,まちに生き,まちの一部である,熱意を持ったガイド=市民の存在が不可欠である。事務局サイドはその様な人材を発掘・養成しつつ,運営をサポートする。市民の主体性を引き出し,まちへの関与を強める点で,観光の一手法というレベルを超えた奥深さもあり,まちづくりの様々な場面で応用可能である。プロデュース側の視点から書かれており,自治体やまちづくりNPO関係者に薦めたい。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

「まち歩き」をしかける:コミュニティ・ツーリズムの手ほどき

茶谷幸治/学芸出版社/2012年8月

 各所で活躍するエコノミストの藻谷氏とコミュニティデザイナー・山崎氏の対談本である。まちづくりはお金が儲からなければだめなのか?経済指標と実態とがずれていないか?といった問いに対して,一定の水準まで成長を遂げたいまの日本では,経済指標では表せないストックが重要であり,従来の大都市優位の価値観にとらわれない多様な生活の選択肢があることが国の豊かさにもなるという。こうした考え方が,藻谷氏の示す様々なデータと山崎氏の豊富な現場経験に裏打ちされて語られる。とにかく二人は日本の将来に前向きである。これからまちづくりや地域政策を学ぶ学生に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

藻谷浩介さん,経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?

藻谷浩介 他/学芸出版社/2012年7月

 ワールド・トレード・センター(WTC)を襲った惨劇からの復興を,被災直後から克明に記載している。復興計画プロセスについては,事業論,経営論,政治論などから多面的に述べられており,復興に関する全てが収録されていると言っても過言ではない。特に,復興着手前の遺体の捜索と瓦礫処理の記述は実に生々しく痛々しい。また,崩壊による粉塵が,WTC近辺のビルの空調に溜まり,その空調を利用した多くの人々が二次被害を受けたというショッキングな事例も収録されている。読了後に,改めて感じたことは,テロや戦争は,人間が引き起こすものであって,止めることができる。このような人的災害の復興が二度と起こらないよう祈り続けたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

復興の創造:9/11からのニューヨークの価値観とアプローチ

デヴィット・マメン 著、林春男 訳/富士技術出版/2012年7月

 都市には,いつの時代も華やかに彩られる「光」と端に追いやられる「影」の部分が存在する。著者は歴史都市京都において,町家や祇園祭で注目される都心部を「光」,古くからの被差別部落を「影」とし,町家建築の意匠性や場所性を影の部分のまちづくりに取り込むことにより価値転換を図ることをニューヨークでの事例を挙げながら提案している。その中で過去都心部のまちづくりを担った町衆のように,今日における地元住民組織の重要性についても言及している。また,区域を細分化して評価する「モザイク模様の都市計画」にも説得力があり,まちづくりについて新たな示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

歴史都市京都の超再生:町屋が蠢く,環境・人権・平和のための都市政策

リムボン/日本評論社/2012年8月

 郊外とは何かという原点に立ち戻り,その空間の定義,形成過程を国内外の思想や事例等を交えて整理するとともに,郊外緑地の機能や関連する法制度を網羅的に解説している。参考文献の紹介も含め,都市・緑地・環境等に携わる学生や研究者にとって,基礎的な知識を整理する上で有用な一冊である。また,これら知識の整理に留まらず,郊外が抱える人口減少,高齢化による空閑地の増加等の課題に対し,住民による緑地管理の広がり等の意識の変化を捉え,農を排除してきた郊外計画住宅開発から「農ある郊外」への転換と,PDCAサイクルによる動的な制御を可能とする計画論の必要性を提言する意欲作である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

郊外の緑地環境学

横張真 他 編/朝倉書店/2012年6月

 本書は,商品分類論などの商業立地論の基礎から,ハフモデル・グラビティモデル・空間的相互作用モデルといった所謂定数効用モデルの批判,それと対比されるランダム効用モデルの妥当性に至るまで,統計学・工学・人文地理学・経済学などの国内外の立地モデルを,やや過激ではあるが体系的に整理している。これだけであれば類似図書も見受けられるが,本書は近年の情報処理技術の飛躍的向上も相まって,ランダム効用理論を援用したGIS集計型ロジット商圏モデルの構築と検証について説明している。立地論の基礎・体系化から実務化ツールまで幅広にカバーしている点においては,大学院生から流通業界の実務者まで,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

GISロジット商圏モデルと立地論・業態論・商圏論

長塚四史郎/開文社出版/2012年7月

 本書は,日本各地で地方の鉄道とバスが衰退している厳しい状況下で,「地域の足(公共交通)を確保するために地域でどのように支えるか」について,様々な取り組みを紹介している。まず,鉄道・路線バスの廃止などの規制緩和の影響やそれに対する政策とその問題点を整理している。次に,沿線住民・NPO主体,交通事業者の自主努力,行政のサポート及び主導と活性化には欠かせないキープレーヤー別に全国各地の先進的な活性化の事例をレポートし,最後に今後の交通政策の方向性を述べている。最新の取り組みや政策などは刻々と変化しているが,現時点での鉄道とバスの地域公共交通活性化の全般的な状況を理解するうえで参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

地域で守ろう!鉄道・バス

堀内重人/学芸出版社/2012年1月

 本書は,現代の都市は,<抽象的普遍的個人>を対象とし,諸機能の合理的体系として人間の<理性>によって生み出された都市となっていて,日々のくらしの中での住民による都市への能動的働きかけが都市計画の原理から追放されている,という批判の下に,著わされた書である。筆者の「「場所」と「場」のまちづくりを歩く」(2004)の理論編であり,現代都市計画と相容れない「場のまちづくり」について,「主体と社会・空間の相互作用を媒介する,ミッシング・リンクを<意味>に求め,実体と意味の二重的存在(記号)としての<場>の概念を導入する」という方法論で,語られている。内容はやや難解であるが,筆者自身がこの方法論の是非は読者の判断に委ねたい,具体的制度手法についての言及が不十分,というように,多くの読者にまず触れていただきたい。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

場のまちづくりの理論:現代都市計画批判

岩見良太郎/日本経済評論社/2012年6月

 本書は,飯田橋から四谷を経て赤坂までのびる,旧江戸城の<外濠>にフォーカスしたもので,従来注目されてこなかった,その価値を広く知ってもらうことを企図して戦略的に編まれている。歴史,気象,地理,都市計画,土木,建築,造園などの諸学のアプローチを通じて外濠の歴史とエコロジーを描き出した上で,まち歩きガイド,イベントの記録,住民インタビュー記事なども掲載し,最後は将来の計画提案で結ばれている。各トピックを2頁に収め,写真・イラスト・地図を豊富に用いており,読みやすさにも配慮されている。外濠の魅力だけではなく,ひとつの場所の意味や価値を表現するのに様々な可能性があることも教えてくれる,そんな書である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

外濠:江戸東京の水回廊

法政大学エコ地域デザイン研究所 編/鹿島出版会/2012年4月

 単身高齢者の増加,低所得層の拡大,買物難民の発生,地域コミュニティの崩壊など,住まいを取り巻く課題は山積している。こうした状況下にあって,多世代で構成されるコミュニティによる共助は課題解決の一つの手法として期待される。本書では,戸建住宅,集合住宅に次ぐ第3の住まい方として「コレクティブハウジング」を位置づけ,食事を中心とした多世代の居住者間のつながりを生む仕掛けを,先行事例での多数の居住者の生の声,空間構成・事業方式等から多面的に紹介する。専門家の対談集からは今後の課題も伺えるなど,今後の住まい・コミュニティを考える上での貴重な示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

第3の住まい:コレクティブハウジングのすべて

小谷部育子+住総研コレクティブハウジング研究委員会 編著/エクスナレッジ/2012年6月

 本書は,2010年3月に佐賀県唐津市で開催された国際建築都市デザインワークショップ(主催:社団法人日本建築学会)の内容をまとめたものである。このワークショップでは,世界16カ国から集まった43名の学生が,唐津市を題材とした地域課題の分析と新たなビジョンの提案を行っているが,本書で紹介されている学生グループからの提案の数々やそれを構成する複数のプラン,スケッチなどは,唐津市以外の地方都市の空間の再生・再編の検討にも大きなヒントとなるものも多い。都市デザインを学ぶ学生はもちろんのこと,具体的な都市再生のアイデアを模索しているプランナーや自治体職員にも,是非手に取っていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

唐津・都市の再編:歩きたくなる魅力ある街へ

日本建築学会 編/鹿島出版会/2012年5月

 本書は,財団法人都市化研究公室で2007年より開催した「超高齢社会問題研究会」の成果であり,高齢者にとって住みやすい社会の実現のための今後の方向性を示している。統計データを利用しながら高齢者社会の現状を時系列で理解することができ,行政や民間等による政策・地域ケア・医療・住宅等の幅広い分野の具体的な取組みを見渡すことができる。また,超高齢社会に対応した社会インフラのあり方等が述べられており,高齢者対策財政支出は効果が小さいといわれているのに対して,「高齢者対策への財政支出は日本再生のカギとなる」との異なる意見を問題提起しているのが興味深い。今後の高齢化問題を考えるうえで参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

超高齢社会

高橋元 監修、光多長温 編/中央経済社/2012年6月

 災害と災害の狭間に立っている我々は,過去に起こった地震災害から何を学ぶべきか,そして将来発生する災害を如何に予想するのかを本書は示している。地震災害に対して,災害の発生前の対策,発生時の避難,発生後の復旧・復興の流れで書かれており,時系列で理解することができる。都市計画と建築規制によるハード面の整備だけでなく,自助・共助・公助の役割,消防活動などのソフト面の施策,そして予測については,火災延焼や避難のシミュレーションが体系的に示されており,非常にわかりやすい。また,過去の災害事例や新潟中越地震の復興や生活支援活動が収録され,東日本大震災についてのコメントもあり,時宜を得ており読み易い。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

都市防災学:地震対策の理論と実践

梶秀樹 他/学芸出版社/2012年4月

 本書は著者の長年に亘るまちづくりの実践活動から生まれた都市環境デザイン論の良著である。近代都市計画の歴史から居住機能とまち再生,環境,歩行者空間,水辺,緑,歴史を生かしたまちづくり,さらには都市環境の演出に至るまで体系的にまとめられており,人間中心のまちづくりの視点で貫かれている。そして,人々を惹きつけるまちの「魅力」を実現する方法論の一つとして都市環境デザインを位置付けている。事例写真の充実ぶりは,実践活動を中心に活躍されている著者ならではのメッセージが感じられる。都市環境デザインやまちづくりを学びたい方はもちろん,実務として携わる人にとっても多くを学べる一冊である。ぜひ読んでいただきたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

都市環境デザインのすすめ:人間中心の都市・まちづくりへ

中野恒明/学芸出版社/2012年5月

 「風景」は,人間が,景観からある種の情報を切り取り,そこに意味付けをすることで成立する。この理解に立つならば,「風景づくり」に対して,我々はどのような態度で臨むべきか,本書は,哲学から土木デザインまでの多様な専門分野における,風景論の第一人者13名による,「風景」を共通項とした論説集である。本書では,これまで日本人がどのように風景を生み出してきたか,また,将来,風景を生み出す思想や方法はいかにあるべきかが,多方面から論じられている。本書を通読することで,読者は,多様な専門分野からの論説の中に浮かび上がるかたちで,風景づくりの基礎になる考え方-風景の思想-を知ることができる。風景づくりに関心を持つすべての方に一読をお勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

風景の思想

西村幸夫 他 編著/学芸出版社/2012年6月

『アメリカ大都市の死と生』に触発された著者らが,ジェイン・ジェイコブズの仕事を若い人たちに紹介することを意図して書かれた最初のものである。ジェイン自身が図書館に寄贈した資料,記事,未公開の写真,手紙等,おおよそ100点の図版,情報源から,彼女の仕事の背景となった自身の生活や人生と,これに根差した深い洞察力と行動力をリアルに感じ取ることができる。とくに,後半の章では,アメリカの多くの都市で古い近隣住区の大規模都市更新の終焉をもたらすに至るジェイコブスの闘いの歴史が,「死と生」「都市の原理」「都市の経済学」「市場の倫理・統治の倫理」等の著作や映画における多くの言説や理論とともに,彼女の世界に引き込まれながらその背景に触れることができ,都市の計画に関心を寄せる学生や市民にお薦めの書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

常識の天才 ジェイン・ジェイコブズ

G.ラング 他 著、玉川英則 他 訳/鹿島出版会/2012年6月

 ○○とまちづくり。これまでまちづくりの中で特定テーマが多々議論されてきたが,駐車場に着目して体系的に整理されたものは見当たらない。中心市街地では,駐車場が土地利用に占める割合が最も高い都市も多く,まちづくりを進めるうえでも関わりがあることは多い。駐車場法が公布されてから50年余り,当初の目標であった駐車場の量的充足は概ね達成された現在,駐車場政策は質的なコントロールへと転換すべき時期に来ている。本書は,駐車場に関する歴史的経緯や国内外の事例を俯瞰し,まちづくりにおける駐車場の問題課題を整理した上で,今後の駐車場政策を提言している。交通関係者のみならずまちづくりに関わる方に広く一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

駐車場からのまちづくり:都市再生のために

公益財団法人国際交通安全学会 編/学芸出版社/2012年4月

 これまで都市の復興計画史をテーマに多くの仕事をしてきた著者が,東日本大震災を機に改めて著した書籍である。前半は既刊『復興計画』の圧縮版,後半は東日本大震災を踏まえた著者の書き下ろしである。着目すべきは後者で,昭和三陸津波における内務省復興計画とその後の事業や,東日本大震災の発生直後から現在までの国や地方自治体の対応が解説されている。また,これらに対する著者の見解や今後の復興計画に向けたアイデア(例えば,あとがきの中の「まちづくり履歴診断マップ」)などがコンパクトにまとめられ,示唆に富んだ内容になっている。復興が緒についたばかりの三陸地方のみならず,地震に対する備えが全国的課題であることを踏まえ,広くお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

大震災と復旧・復興計画

越澤明/岩波書店/2012年3月

 本書は,日本計画行政学会の計画理論研究専門部会における議論を踏まえた上で,各専門分野の専門家がそれぞれの知識と経験をもとに,東日本大震災の復旧・復興について提言したものをまとめたものである。提言されている分野は多岐に渡る。行政のBCP(業務継続計画)対応のあり方にはじまり,不用地・不明地問題,健康都市づくりによる地域再生,コミュニティの再構築,水産業のあり方,サプライチェーンの復興,原発事故による風評被害の現況と対策など,幅広いテーマを見渡すことができる。現在進行中といえる,東日本大震災の復旧・復興への取り組みについて,その多面性を理解し,それぞれの状況を把握するのに適した一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

東日本大震災の復旧・復興への提言

梶秀樹 他 編/技報堂出版/2012年3月

 持続可能な都市再開発のために,アイデンティティはどう重要であるのか。著者らはこの問いに対して,都市論者の主張,スイスおよび日本の産業施設跡地の再開発事例,開発担当者へのインタビューを通じて,答えを見出そうとする。そして,ミックストユース,パブリック・オープンスペース,都市の自然,歩行者路のネットワークといった空間的要素,歴史の継承やアート,参加・協働,エリアマネジメントの仕組みによってアイデンティティが生まれ,経済,社会,環境的持続可能性に繋がるという共通性を指摘している。都市開発において何を考えるべきなのかを知る上で有用な一冊であり,特に都市計画を学ぶ学生に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

アイデンティティと持続可能性:「縮小」時代の都市再開発の方向

木下勇 他/萌文社/2012年2月

 本書は,都市の魅力を高めるため,道路からのまちづくりのあり方をドイツの交通政策から示している。ボンの中心市街地活性化やハンブルクの道路空間のデザインガイドライン,自転車の広域的ネットワークとその楽しみ方も収録され,ドイツを熟知している著者でなければつぶさに把握することのできない事例や成功プロセスが多数収録されており,ドイツの事情が手に取るようにわかる。道路は誰のものか,道路空間のあり方や過ごし方をドイツの経験をもとに我々に語りかけている。是非一読をお薦めしたい。実際に,私がドイツに行く際に,視察地の参考とした本書は,ドイツの都市交通版「地球の歩き方」とも言える。ドイツに行きたくなる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

シェアする道路:ドイツの活力ある地域づくり戦略

エルファディング スザンネ 他/技報堂出版/2012年4月

 本書は,全国主要都市の防災上の課題を統計データ等をもとに把握し,防災性向上に向けた整備の方向性を示すとともに,整備の具体的な手法の1つとして土地区画整理事業を挙げている。東日本大震災による甚大な被害を経験して以降,首都直下型地震に対する備えに社会的関心が集まっているところだが,首都圏の老朽化した低層木造住宅が密集する市街地でスピーディに防災性の向上を図るためには,著者の提案する最低限の避難路(幅員8m)整備と現道拡幅を主体とした区画道路(幅員4m)整備の実現を目指す『修復型区画整理』は有効であろう。事業の実現化に向けて,土地区画整理事業の計画技術についても事例を交えた解説がなされているので,市街地整備に関わる実務者や学生に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

老朽化した住宅系市街地の再生:居住環境整備と震災対策のために

蔵敷明秀/大成出版社/2012年4月

 「公的企て(パブリックエンデバー)としてのアメリカ合衆国の都市計画について,その起源を南北戦争前後からのいくつかの先駆要素に求め,これらが都市計画に合流していく過程」(訳者「あとがき」)を,丁寧な筆致で著している。シカゴ世界博や都市美運動,マクミラン計画等といったトピックについて個々の事象を知識とするだけでなく読者に,それらの相関を著者に続いて俯瞰的に考察する視座を与えてくれる好著である。黎明期のアメリカ都市計画について,初学の研究者らが個別のトピックを掘り下げる前に手に取っておくに相応しい文献であろう。巻末に一次資料(図書)のリストが付置される等,資料性も高い訳書である。

紹介:情報委員 鹿野陽子

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

アメリカ都市計画の誕生

ジョン A. ピーターソン 著、兼田敏之 訳/鹿島出版会/2011年12月

 法律の全訳と聞くと,読むのに抵抗を感じる人もいるかもしれないが,本書はその心配はない。オランダの都市計画法制である空間整序法について,2006年制定の新法の全訳と共に,オランダの都市計画思想,1965年制定の旧法の制度疲労と改正の必要性,議会の審議過程が記載されている。また日本の都市計画関連法と対比していることから,読みやすい。オランダでは,建築と都市・地域計画分野の間に都市デザインという分野があり,その職種が官民の現場に存在し,そこで提案された空間像が法定都市計画になることもある,というような新たな知見を得ることができ,実務者にも一読をお奨めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

オランダの都市計画法制:全訳・オランダ空間整序法

(財)日本都市センター/(財)日本都市センター/2012年1月

 本書は,竣工後25年が経過した「コーポラティブ住宅ユーコート」の成り立ちや住まい方を通じて,今後の集合住宅の管理・運営方法や地域コミュニティのあり方,住民合意形成プロセスについて言及している。著者等が行った入居者に対するアンケート結果や,親世代,子世代それぞれが語るユーコートに対する思いから,「共同」し「ともに住まう」ことの本質は何かを知ることができ,そこからまちづくりの本来のあり方についても窺い知ることができる。本書で紹介されている事例は決して特殊解ではないので,専門家や実務者のみならず,まちづくりに関わる学生にもお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

マンションをふるさとにしたユーコート物語

乾亨 他/昭和堂/2012年1月

 日本人は自国の優れた点を軽視しがちであり,外国人の新たな視点による指摘に驚かされることがしばしばある。本書もそのような書籍として注目に値する。著者は,日本の優れた特質とは「ママチャリ」「自転車町内」「公共交通」の三点であり,それらの連携による自動車不要の生活こそ,日本の偉大な財産であると指摘する。“ママチャリは世界に誇る日本の発明品!”“自動車以外の選択肢を持つ日本人の幸福”などの指摘はまさに「目から鱗」であり,一考に価すべき新たな気づきを与えてくれる。都市部の放置自転車対策や道路空間における自転車対応等,実務に携わる行政担当者にとって,今後の施策検討に向けたヒントが詰まった一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

世界が賞賛した日本の町の秘密

チェスター・リーブス 著、服部圭郎 訳/洋泉社/2011年12月

 著者は,経済統合が進む東南アジアの6つの大都市圏と東京圏・大阪圏を取り上げ,都市圏拡大と都市整備・地域計画の経緯,企業立地や就労の変化,最近の都市問題等について,植民地支配の歴史,資本主義と社会主義,民間主導と公共主導の相違などに着目しながら詳しく描き比較する。そして,アジアの地域統合を展望し,多様な連携関係の構築や,大都市圏と地方圏の格差を是正する地域政策の必要性を指摘している。日本でも大都市圏戦略基本法(仮称)を制定する方針が示されているが,成長戦略を考える上でも,また日本の経験を活かす意味でも,日本の大都市圏をアジアの中で位置づけて考えることの重要性を再認識させる。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

東南アジアの大都市圏:拡大する地域統合

生田真人/古今書院/2011年11月

 本書は,風景を言説化し,芸術文化面から広く風景について論じている。日本人と欧米人が描いた古典文学,美術作品における風景論について,学際的に触れられており,風景の奥深さを感じることができる。日本のみならず,欧米の風景論を文学作品や旅行記,画集から言葉や表現を豊かに汲み取り,本文中に展開している。また,国立公園の誕生と展開については,政治面からの風景の見方を歴史的に教示してくれる。さらに,風景を定数化し,百景・百選からの風景のあり方を論じている点も興味深い。あまりにも身近なゆえに,何も考えずとも心の中で自然な存在となっている風景であるが,本書を読み終えると,風景の見方が変わるであろう。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

自然の風景論:自然をめぐるまなざしと表象

西田正憲/清水弘文堂書房/2011年12月

 現代社会は,「個人の確立」を基調に,市場経済,国民国家,市民社会から構成される社会であるが,明確な行き詰まりを見せている。本書は,こうした時代認識のもと,新しい社会のデザインに向けて,日本におけるコミュニティ,自然,風土といった概念への丁寧な考察をベースにしつつ,「ローカルな関係性」を基調とした社会を提示する。本書は,現代社会への考察,提案の書であるが,東日本大震災からの復興論でもある。地域や社会を読み解き,それを通じて復興すべきことの本質を提示した本書には,ともすれば近視眼的になりがちな復興論のなかにあって,一読の価値がある。復興の基盤となる思想を改めて問い直したいと思う読者にとって,本書は多くの示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

ローカリズム原論:新しい共同体をデザインする

内山節+21世紀社会デザインセンター/農山漁村文化協会/2012年2月

 未曽有の巨大災害となった東日本大震災を,地球環境,社会経済,エネルギー,近代主義の見直し等の歴史的転換点と捉え,その特徴と意味を理解し,復興まちづくりにどう立ち向かうべきか,基本的考え方について検討,共有しようという書である。大震災直後から第一線で奮闘している専門家により,原発災害,仮設市街地,漁村集落や住まいの再生,そして,地域再生のための市民事業,風景,エコロジカル,ネットワーク等の提案が,現状に即した復興へのビジョンとして示されている。編者らが,長年培ってきた地域を主体とした協働のまちづくりという方法論が,被災地の地域の復元力と復興に何よりも必要とされていることにあらためて気づかされる。復興支援に関わる実務家や院生はもとより,被災地に心を寄せる市民にも広くお薦めしたい書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

東日本大震災からの復興まちづくり

佐藤滋 編/大月書店/2011年12月

 都市の拡大成長を前提とした法制度のしくみが,今や人口減少・市街地の縮退の中で多くの歪を生み出し,制度疲労を起こしている。本書は,雑誌「新都市」で約2年にわたり掲載された「都市計画法制90周年記念特別企画」を集大成したものである。旧法から90年,新法から40年の歴史を踏まえ,有識者の論考による制度設計の時代背景,現実の都市計画及び都市形成の検証,種々の問題提起が興味深い。土地利用(地域地区,集団規定,地区計画,開発許可,生産緑地),都市施設(街路事業,公園緑地計画),市街地開発事業(区画整理事業,再開発事業等)などが取り上げられ,巻末の図版・年表とともに,都市計画制度史を俯瞰することができる。都市計画制度の抜本的な方向転換が迫られる中で,傍らに置いておきたい書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

近代都市計画制度90年記念論集:日本の都市計画を振り返る

(財)都市計画協会/(財)都市計画協会/2011年11月

 文化財は,地域資源として地域の活性化に寄与するなどの期待がある一方で,教育的な価値など,定量的,客観的な評価がしにくく,価値を維持し高めていく施策をとるには,その数字的根拠は曖昧である。本書は,具体的事例を通して,CVM(仮想評価法)による文化財の定量的な分析を試みる。そして同時に文化財と地域の関係性から,公的支援だけでなく,関連する市民グループや事業者など多様な関係者の協働が求められていることを述べている。編著者は「チケットを売り切る劇場」という書籍も編しており,同書籍でも成功事例の分析を通し「文化」の地域における役割を提示している。「文化」は地域において必要なもので,維持していかなくてはならないという編著者の思いを感じる。まちづくりにおける「文化」を考えるうえで参考となる書籍である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

文化財の価値を評価する:景観・観光・まちづくり

垣内恵美子 編著/水曜社/2011年10月

 本書は日本や世界の災害調査をもとに,災害後のすまいの実態が事例とともに深く掘り下げられている。災害に見舞われると人々は何らかの「すまいの移動」を余儀なくされることに着目し,地震活動期の日本で生きる上でのすまい方の再構築を提案している。また,災害からどのように立ち直ってゆくのか,今後の発生が予想される東海・東南海・南海地震へどのように備えるかが語られ,人口減少・少子高齢化社会のもとで,これまでの人口増・経済発展を前提とした災害復興の枠組みを再構成する必要性を訴える。本書は,今後のすまいの考え方の新しい視点として参考になると思われる。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

災害の住宅誌:人々の移動とすまい

牧紀男/鹿島出版会/2011年6月

 行政が維持管理し,禁止事項に溢れ,誰にも愛されない,そんな公園のあり方が変化しつつある。少子高齢化や財政難などの時代情勢の変化,エコロジー運動やこどもの遊び場づくりなどの市民活動の拡がりにより,様々な主体の協働の下で,管理運営方法を柔軟に考え,人々に獲得された場所が生み出されつつある。「パークマネジメント」とはこの移行を実現する諸行為を管理する技法であり,突き詰めれば地域の環境管理や公共空間のマネジメントへと接続される。本書は,パークマネジメントの概念,歴史,関連制度,機能・方法などを国内外の事例を交えつつ整理・紹介したものであり,より統合的視野を持ちたい方々にとって一読の価値がある。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

パークマネジメント:地域で活かされる公園づくり

田代順孝 他/学芸出版社/2011年9月

 本書は内務大臣として今日の大都市東京の骨格を形成した帝都復興計画の策定者として有名な後藤新平の生涯について,その生い立ちから台湾総督府,満鉄経営,大連や長春の都市計画,東京市政要綱,帝都復興計画等の数々の偉業と苦悩について,人間関係を交えつつ詳細に記述している。財政難や合意形成の複雑さといった課題から,大規模な都市計画が事業化される場面に遭遇することが少なくなった昨今ではあるが,それらは時代の潮流ではなく歴史的にみても変わらずに直面していた都市計画上の大きな壁であり,都市計画の苦難と重要性を若者に認識させてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

後藤新平:大震災と帝都復興

越澤明/筑摩書房/2011年11月

 都市の条件とは何か?この古典的な問いを前に著者は,都市を多様な人生の軌跡,すなわち「ライフスケープ(生き方の景観)」として捉える。成熟の段階に達した巨大都市(首都圏)を対象に,住まいとライフコースの関係の変化について,豊富なデータを基に実証的に明らかにしている。戦後都市住民の標準ライフコースである「中間層」の「家族」が「持家」を取得することに支援を集中する住宅システムの機能不全を指摘し,若者や女性など,多様なライフコースから眺めた都市のあり方,成熟の時代における都市の条件について考察している。都市の本質をめぐる論考であり,広く一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

都市の条件:住まい,人生,社会持続

平山洋介/NTT出版/2011年10月

 1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災。建築制限の期限である3月17日までの苦悩や,その後の事業実施と合意形成の苦労の息遣いが聞こえてくる一冊である。2段階都市計画が誕生した背景,まちづくり協議会の進め方,土地区画整理事業を推進するための減歩緩和などの工夫も詳細に記載されている。震災発生から事業の収束まで,現場にて直接復興事業に携わった著者でなければ克明に書くことはできない内容である。東日本大震災の復興が計画策定から事業段階に移行する現在,是非とも一読をお奨めしたい一冊である。なお,この復興土地区画整理事業は,2011年3月28日に換地処分をむかえたばかりであり,運命を感じずにはいられない。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

神戸の震災復興事業:2段階都市計画とまちづくり提案

中山久憲/学芸出版社/2011年9月

 資格と称号について,これほど真剣かつ詳細に記載されているものは見たことがない。名著である。明治期から建築士の必要性が議論されていたにもかかわらず,昭和25年の建築士法公布まで待たなければならなかった,苦悩と迷いと利害関係が克明に記載されている。さらに,建築士誕生に深く関与していた内藤亮一の生涯が,建築士法成立を軸に書かれている。「大改正をやれば誰かが倒れる」と言われ,内藤自身も大怪我をし,横浜の自宅から指令した事実も収録されおり,建築士誕生前夜の生々しさを感じることができる。読了後,都市計画士という資格はなぜ存在しないのか,都市計画家とは何か?新たな疑問が沸いてしまった。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

建築家と建築士:法と住宅をめぐる百年

速水清孝/東京大学出版会/2011年8月

 過疎化や高齢化による地域の活力低下が叫ばれるなか,その再生に向けた万能薬は,いまだ見出されているとは言い難い。本書は,そうした地域の再生に向けて,対処療法的な一過性の取組みを講ずるのではなく,地域が足元を見つめなおし,知恵を絞り,地場の資源や人材といった地域の強みを活かして,一歩一歩着実に力をつけていくことが大切であると説く。本書では,地域を取り巻く近年の環境の変化を整理したうえで,事例分析に基づく地域再生の方策,地域再生の実践者のインタビュー,さらに,これからの地域再生に向けたポイントを取りまとめている。地域再生のヒントがちりばめられた本書は,再生に向けた取組みを講ずる際に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

地域の力が日本を変える:コミュニティ再生と地域内循環型経済へ

井上健二/学芸出版社/2011年7月

 本書は建築・都市を「地」と「図」に基づく「アーバン・ポシェ」の概念で読み解き,都市居住とアーバニズムの関係を検証しながら,21世紀の都市の向かうベクトルを「余白」という切り口で踏み込む。ボストンの高架高速道路を道路に埋設し「グリーンウェイ」という都市の「余白」を創出した事例などを示しつつ,21世紀の「余白」は20世紀のコモンズに匹敵するという著者の確信がしっかりと伝わってくる。本書のもう一つの魅力は,具体例が多く内容の濃い一冊であることだ。本全体の構成も「余白」のコンセプトを体現しているかのようだ。脚注の図版の充実はすばらしい。ぜひ,お勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

「ポシェ」から「余白」へ:都市居住とアーバニズムの諸相を追って

小沢明/鹿島出版会/2011年4月

 戦後日本の都市と建築が織り成す都市空間の形成過程と苦悩が手に取るようにわかる。戦災復興,都市不燃化,再開発といった変遷から戦後の都市空間形成の息づかいが伝わって来て,文句なく面白い。それが本書を読み終えた感想である。普段何気なく使っている再開発を,日本におけるその用語の誕生から変容過程をつぶさに調査しており,学際的にも示唆に富んでいる。また計画論のみならず事業論が生々しく語られ,さらに事業推進プロセスが収録されている。再開発を推進させるヒントも隠されているため,再開発の現場で戦っている実務者にも,一読をお薦めしたい。既成市街地の再構築のあり方の重要性を今一度,気づかせてくれる一冊でもある。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

都市の戦後:雑踏のなかの都市計画と建築

初田香成/東京大学出版会/2011年5月

 本書は,かつて大気汚染と交通渋滞に悩まされていたフランスの地方都市ストラスブールが,環境先進都市として変身を遂げるまでの物語である。筆者は同市に長く生活し,通訳として日本から訪れる専門家たちの調査や行政訪問等の場に数多く立ち会った経験や,歴代市長や行政担当者への直接のインタビューにより聞き出したまちづくり過程の生の声などを踏まえて同市のまちづくりを紹介している。地方の中小都市が「住みやすさ」を追求しながら,「交通権」を保証し,「格差社会化」に対応しようと努力した結果,「環境にやさしいコンパクトシティ」へと変貌を遂げる「物語」としてまとめられ,読めば誰もが同市に行ってみたいと思わせる一冊となっている。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

ストラスブールのまちづくり:トラムとにぎわいの地方都市

ヴァイソン藤井由実/学芸出版社/2011年9月

 本書は,群集の恐ろしさを物語っている。花火大会,初詣,コンサート,スポーツ大会などのイベント時に発生する特異的な群集,通勤通学のピーク時や事故発生時に集中する群集が引き起こした事故を過去から現在までつぶさに調査し,事故発生原因と事故に至るまでの過程が収録されている。都市空間の中で発生する群集を侮ってはならないことを本書は改めて気づかせてくれる。今回の震災でも駅を中心に多くの人が集中しパニック寸前であった。群集事故を発生させないための広場や通路の設計思想のみならず,誘導などマネジメントのあり方が示されており,施設の計画設計者はもちろんのこと,都市イベントにかかわる担当者にも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

群集安全工学

岡田光正/鹿島出版会/2011年5月

 本書は,地域固有の利益を示す「地区集合利益」という概念を導入し,当該地域の安全・景観などの居住環境を良好に確保するための法的な枠組み,手続き,効果を論じている。現在の都市計画・建築基準法制度による土地利用・建築規制の根底には「違法なものでなければ建築は自由」という認識がある。著者はその認識を,個人の利益よりも広く,一般の公益よりも狭い概念である「地区集合利益」を法解釈上の理念として提唱することで,理論的に制約できる可能性があるとする。博士論文をもとにした著作であり,書籍名からも,一見読みにくい印象を受ける。しかし,建築協定締結,地区計画策定手続き,建築紛争時の事業者・近隣住民・自治体による調整会などの事例を読みやすくまとめており,住民参加の街づくり手続きを興味深く読むことができる。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

都市環境行政法論:地区集合利益と法システム

岩橋浩文/法律文化社/2010年12月

 本書は学術書ではなく「読み物」の書籍である。市街地再開発の分野の書籍であるが,専門書には書かれていない,経験談をまとめたものである。著者は再開発プランナーなど,再開発に携わる7名で,現場の合意形成の苦労を紹介している。専門書では「合意形成」と一言で記述されるところを,再開発事業のステップごとに,著者らが体験したケースが複数まとめられており,合意形成に奔走する著者らの苦労が感じ取れる。再開発のステップごとにケースがまとめられているため,各ケースのその後について詳細な記述がなく,再開発事業の顛末が気になってしまうのが残念である。しかしながら,本書は,合意形成の大変さ,再開発事業に必須のコミュニケーションの重要性を伝えるには十分な内容と感じる。気軽に読める本で,特に現場経験がない方に薦めたい。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

まちづくりびと:再開発合意ものがたり

石原當市 他/日刊建設通信新聞社/2011年5月

 『アメリカ大都市の死と生』による都市論で有名なジェイン・ジェイコブズと,ニューヨーク州の公共事業を仕切る都市行政官ロバート・モーゼスとの1950年代から60年代にかけて,ニューヨークの下町改造をめぐり展開された闘いの物語である。ジェイコブズは当時大学も出ていない一介の主婦。彼女が愛するワシントンスクエアパークの貫通道路計画,グリニッジ・ビレッジの都市再生計画に対し,無秩序な都心近隣地域の多様で複雑な機能が連帯感のあるコミュニティを生みだしていると説き,ジャーナリズムを巻き込む市民活動から撤回に追い込み,先の名著を生み出す。最後の対立,ローワーマンハッタン・エクスプレスウェイ建設問題も市民側の勝利に終わる。二人の闘争の歴史と双方の見方を学ぶことは,今日の成熟都市の将来を計画する上できわめて重要である。

紹介:情報委員 加藤仁美

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

ジェイコブズ対モーゼス:ニューヨーク都市計画をめぐる闘い

アンソニー・フリント 編、渡邉泰彦 訳/鹿島出版会/2011年3 月

 半世紀前の「交通工学」は,自動車がより高速で安全に走れる道路建設およびその運用技術に主眼が置かれていたが,その後,現在に至る過剰な自動車需要への対処や,様々な政策立案や施策実施など幅広い交通処理技術が必要になってきており,その定義や対象範囲も多様化している。本書は,筆者が半世紀にわたる「交通工学」の研究・教育活動や自らが関わったプロジェクトの実践を通じて得た自身の経験をもとに,その概要や理念を様々な事例を交えながら網羅的にまとめ,解説したものである。各章には,筆者の次世代の研究者や交通政策に取組む行政担当者への期待が記されており,筆者の強いメッセージを感じ取ることができる一冊となっている。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

交通工学総論

高田邦道/成山堂/2011年3月

 本書は,都市思想家ジェイン・ジェイコブズによる都市計画論,都市経済論など都市論と総称すべき内容について,著作などを通じて,都市の本質とそのゆくえを考えていくものである。ジェイコブズの主要著作を彼女の足跡と共に「計画論」「経済論」「都市・社会の本質論」から解説した上で,都市論や日本の都市問題,次世代への期待に触れる彼女とのインタビュー部分は,彼女の人柄も垣間見え,特に興味深い。彼女が何を伝えていきたかったのか,都市問題に係る行政関係者や実務者など彼女の実践的な思想に是非触れて頂きたく,お勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 東孝

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

都市の本質とゆくえ:J.ジェイコブズと考える

宮崎洋司 他/鹿島出版会/2011年5月

 本書では,地域社会に立脚した市民協働の組織により地域資源・需要を顕在化させて進められる自律したまちづくり(ハードな空間と何らかの関係を持つ)事業の総体を「まちづくり市民事業」と呼ぶ。冒頭では,同様な事業の現出した背景,ミッション等を整理して理論的枠組を与えた上で,新しい都市・地域のガバナンスや空間をもたらす「まちづくり市民事業」の可能性が記される。つづいて,豊富な事例紹介を通じてその方法・内容の輪郭が描かれ,その更なる推進に必要な制度の在り方について検討が加えられている。今後のまちづくりの展望を持ちたい,新しい社会システム実現に寄与したいと考えている方々にお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

まちづくり市民事業:新しい公共による地域再生

佐藤滋 編著/学芸出版社/2011年3月

 都市が拡大する時には,都市計画の役割は明確であった。しかし,都市の人口が減るようになれば,都市計画の役割も変わる。我が国の都市計画はこうした転機に立っている。本書は,東京大学まちづくり大学院の講義と演習に関わった7 名により執筆されており,日本の都市計画法制の歴史にはじまり,土地利用計画や都市施設計画,市街地再開発事業や民間都市開発,更には市民参加やまちづくり条例など,さまざまな視点から総合的に,都市計画・まちづくりについて理解を深めることが出来る。これまでの都市計画の流れをつかみとり,さらに現在進行中の論点を把握するのに適しており,これからの都市計画のあり方について,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

人口減少時代の都市計画:まちづくりの制度と戦略

大西隆 編著/学芸出版社/2011年3月

 なぜ中心市街地は元気がなくなってしまったのか,再び元気になった中心市街地の成功要因とプロセスは何か,全国事例を基に述べられている。ただし,「成功事例をそのまま適用しようとしてもダメ」と書かれており,まずは自分たちの街を見直し,隠れていた資源を再発見した上で知恵を使うことが必要であるとのメッセージが付されている。また,活性化した街でも観光客のための商店街となってしまい,住民のための商店街ではなくなってしまったなど,活性化の難しさも生々しく語られている。本書のタイトル「活性化のツボ」の通り,活性化の糸口をつかむキーワードが本書の中にちりばめられており,一読を是非ともお奨めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

中心市街地活性化のツボ:今,私たちができること

長坂泰之/学芸出版社/2011年4月

 本書は,著者が2009年度に日本建築学会賞を受賞した論文テーマである「住環境マネジメント」の著作である。住環境マネジメントとは,住宅地を対象としたエリアマネジメントのことで,地域が主体となった住環境の開発・維持・向上を目的とする継続的な活動である。既存の都市計画やまちづくりではカバーできない住環境の維持・向上の必要性,そのための手法,組織形態,方式などについて,アメリカのHOA(Homeowners Association)や横浜緑園都市など,国内外の事例を分析し,日本における展望について述べている。本書は,都市計画・まちづくりに関わる実務者・研究者だけでなく,住宅デベロッパーや,良好な住環境を保ちたいと考えている一住民にとっても参考となる書籍である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

住環境マネジメント:住宅地の価値をつくる

齊藤広子/学芸出版社/2011年3月

 本書で扱う「コミュニティデザイン」という概念は,コミュニティを促すような広場や住宅配置という物理的空間をデザインするということではなく,人のつながりのデザインのことであり,筆者が建築やランドスケープのデザインに関わる中で解決できない課題や限界に直面したことにより,生みだされたテーマである。「つくらないデザインとの出会い」「つくるのをやめると人が見えてきた」等の章立てに象徴されるように,まず,人と人をつなげること,そして人とまちとの関係づくりの中で,まちの担い手となるコミュニティのしくみや地域の力を育てていった各地での実践的活動が,大変楽しくわかりやすく紹介されている。とくに,まちづくりに関わる学生に,お薦めの書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

コミュニティデザイン:人がつながるしくみをつくる

山崎亮/学芸出版社/2011年5月

 本書は,イギリスの歴史に関する最新の研究成果に基づき,16世紀から現代に至るイギリス史を通観したものである。16章立ての2部構成で,第1部では時系列的に16世紀以降のイギリス史を追い,第2部では重要なテーマごとに,それぞれの切り口からイギリスの近現代史を論じている。このうち,第2部において,「都市建設のビジョンとシステム」と題して,19世紀以降のイギリスで展開した,ハワードの田園都市をはじめとする都市建設のビジョンと,そうしたビジョンの実現に向けたシステムについて論じている。19世紀以降,国際社会の覇権を握り,日本の近代化にも大きな影響を及ぼしたイギリスにおいて,社会の要請を受けて都市計画がどのように展開していったのかを概観するうえで,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

近代イギリスの歴史:16世紀から現代まで

木畑洋一 他/ミネルヴァ書房/2011年3月

 社会経済の急激な変化や地球規模での環境問題,あるいは少子高齢化の進展やライフスタイルの多様化などを背景として,交通サービスに対するニーズも大きく変化している。一方で,情報通信技術の高度化等により,交通計画や解析のための技術も飛躍的に向上し,多方面で新技術を活用した都市交通計画が求められている。本書では,このような背景の下,交通流動を解析する基本的な方法論から,個別交通ニーズの多様性を踏まえ,都市機能との関係を重視した交通計画に関する新しい考え方や分析技術を論じている。都市交通計画の専門家のみならず,これから研究活動を行う学生にとっても有用な一冊である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

情報化時代の都市交通計画

飯田恭敬 監修/コロナ社/2010年10月

 平成22年4月に施行された土壌汚染対策法の改正法を受け,「自然由来重金属類」の取り扱いと「リスクコミュニケーション」の方法という2つの大きなテーマに的を絞った実務書である。本書は,土壌汚染問題と自然由来重金属類の基礎的知識を理解するにあたり,詳細かつ体系的にまとめられ非常に分かりやすい。また土壌汚染リスクの問題についてリスクコミュニケーションの必要性を示しながら,その具体的方法と解説を行なっており,実践のためのノウハウがつまった実務担当者にはありがたい一冊である。土壌汚染問題に携わる事業者や実務担当者にとってはもちろんリスクコミュニケーションの方法・実践の参考として,とても参考になりお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

土壌汚染リスクと土地取引:リスクコミュニケーションの考え方と実務対応

丸茂克美 他/プログレス/2011年1月

 本書は,交通権を提唱し,交通基本法の制定を呼びかけてきた交通権学会が,学会としての基本的な考え方や交通基本法に関わる諸課題を提示するとともに,施策や方向性について提言したものである。新しい人権としての交通権について述べるとともに,公共交通の維持や安全,環境などの,現在日本の交通問題について整理している。さらに,交通の制度改革として,地方分権化の必要性とその課題,会計,財政制度の改革課題,地方自治体の交通計画のあり方などについて論じている。地域交通の問題などに取り組む行政関係者や研究者などにお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

交通基本法を考える:人と環境にやさしい交通体系をめざして

交通権学会 編/かもがわ出版/2011年1月

 地道で持続的なまちづくりを進めていく上で,地域ブランドの構築は有効であり,すでに多くの自治体においてその試みが実践されている。本書は,そのような全国の150余の実践例を取り上げ,その経緯や取り組みの特徴などを丁寧に説明している。冒頭でも述べられているように,従来の地域ブランドの概念は論者によって異なり一義的ではなかったのだが,筆者は豊富な事例をもとに,多様な地域ブランドを包括的かつ体系的に整理している。地域ブランドの構築の肝は地道な営為の蓄積であることが再認識されるとともに,本書末尾にある自治体の安易な地名変更に対する筆者の危惧は重く響く。観光まちづくりに関わる方に広くお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

地域ブランドと魅力あるまちづくり:産業振興・地域おこしの新しいかたち

佐々木一成/学芸出版社/2011年2月

 「日野市に対するイメージが180度変わる!」「日野へ行ってみたい!」本書を読み終えた後の感想である。今まで日野市というと,単なる郊外ベッドタウンであり,途中下車することもなく通過都市というイメージであったが,こんなに都市と水とが密接で,奥深いとは。多摩川や浅川といった河川だけでなく,市街地や農地に用水路が縦横無尽に張り巡らされ,都市に個性と潤いを与えていることが伝わってくる。また,日野市民が過去から現在まで水と農とどのように共存してきたかが詳細に述べられている。都市と水と農が融合した理想的な都市像のエッセンスが多数収録されており,郊外の都市生活を豊かにするヒントが隠されている。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

水の郷日野:農ある風景の価値とその継承

法政大学エコ地域デザイン研究所 編/鹿島出版会/2010年11月

 本書は,観光振興策を考える上での入門書として執筆されたものである。著者は,県から委嘱された業務で観光振興策を検討することになった際に入門書がないことに気づき,自らの経験などをもとに執筆している。第1部では,著者の関わりが深い九州の事例を中心に成功例を紹介している。第2部では,観光振興を仕掛けるにあたり知っておくべき項目を提示している。第3部では,実践面での各論について論じている。各論では,行政が観光振興を進める際に組成する委員会,審議会,協議会などのあり方について具体的に論じている点などは興味深い。九州の事例やデータに偏っている部分はやや気になるが,観光振興策を検討するにあたってのヒントとなる書籍であろう。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

観光まちおこしに成功する秘訣:成果を上げるための処方箋

渡辺千賀恵/ぎょうせい/2011年1月

 本書は,八ツ場ダム建設事業中止問題を背景に,行政計画が変更または撤回された場合の事後措置として,地元の地権者等はどのような行政措置や生活保障を求めることができるのか,行政は如何に対応すべきかについて,論じたものである。内容は,国の行政計画の担保責任を基本として,ダム事業のあり方,これを取り巻く立法,住民の生活権等を検討し,ダム建設中止に伴いどのような措置が必要かを示す,という構成となっているが,これに関連する情報として,計画担保責任に関わる判例や行政計画の中止・変更等に伴う措置の事例が,簡潔に紹介されている。東日本大震災以降,エネルギー問題等の方向転換が議論される中,公共事業の計画変更とその後の措置方策に関して,参考となる書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

公共事業の中止:八ツ場ダム・住民の生活再建

田辺愛壹/プログレス/2010年11月

 本書は,タイトルどおり「よくわかる都市計画法」として明快に解説されており,都市計画を学び始める人,都市計画の概要を把握したい人,都市計画の知識を再整理したい人など,それぞれの読み方・使い方に対応できる良著である。本書とあわせて,都市計画法の条文を見返すとその主旨がよく見えてくる。都市計画の考えの基礎知識をしっかり身につけることができる本書は,都市計画を学ぶ人の裾野を広げる一助となると思われる。現在の都市計画法の内容の理解および実務・研究を行なうにあたり,まず初めに本書を手に取ることをお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

よくわかる 都市計画法

都市計画法制研究会 編著/ぎょうせい/2010年12月

 本書は,自動車産業が海外展開を図る上での部品調達システムを,手にとるように理解することができる。急速に整備される交通インフラを踏まえた部品調達や重慶-上海間の長江の利活用,大メコン地域のインターモーダル輸送など,効率化を図った新しい取り組みがハードとソフトの両面から多数収録されており,実例をつぶさに調査しまとめ上げた力作といえる。SWOT分析を用いた長江の強みと弱みなど海外での事業展開を成立するための示唆も富んでおり,是非とも一読をお薦めしたい。なお巻末に用語解説が収録されており,専門家でなくても苦労なく読むことができる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画290号 2011年4月25日発行)

自動車部品調達システムの中国・ASEAN展開

根本敏則・橋本雅隆/中央経済社/2010年12月

 二十一世紀に入ってもなお,世界各地で武力紛争が絶えず繰り返され,人類の貴重な文化遺産が,いわば人為的災害による被害を受けている。そうした文化遺産の保護に向けて,日本の貢献に対する期待は大きい。本書では,ユネスコの文化担当官である著者が,「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」通称ハーグ条約を中心として,ユネスコの諸条約の採択に至る背景や理念,制度の内容等を実務者の立場から詳しく解説している。さらに,第二次大戦で大きな被害を受けた文化遺産の復興に取組んできた,沖縄,広島,長崎の経験を踏まえ,ハーグ条約の効果的な運用に向けた日本の役割を提言している。紛争地における文化遺産保護の現状と課題を理解するとともに,文化遺産保護の意義や国際社会における日本の果たすべき役割を考えるうえでも,たいへん有益な一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画290号 2011年4月25日発行)

世界遺産を平和の砦に:武力紛争から文化を守るハーグ条約

高橋暁/すずさわ書店/2010年12月

 本書は,観光まちづくりにおける,マーケティング,ブランディング,プロモーション,MICE戦略,ホスピタリティについて,地域を主体とした視点で論じている。「SWOT分析」やマーケティング・ミックスの「4P」などの経営学的手法や,「MICE」や「ホスピタリティ」の意味など,基本的な事項からわかりやすく論じており,初学者にはありがたい。「観光」は,交流,個性,快適性など多種多様な意味合いを代表・統合している言葉であり,「観光」地を目指せば,まちづくりの「目標」と重なり合う,と編著者は論じている。まさに本書は「観光」だけでなく,まちづくりに関わる実務者や研究者にとっても参考になる書籍である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画290号 2011年4月25日発行)

観光まちづくりのマーケティング

十代田朗 編著/学芸出版社/2010年11月

 環境問題や中心市街地の衰退など,現前の都市をめぐる課題に対し,自転車によるまちづくりはその解決に向けた一つの足掛かりとなり得よう。本書では独自の調査や豊富な統計資料を用いて,自転車まちづくりの有効性が説得力をもって記されている。海外の豊富な事例に加え,自転車利用者の意識調査や国内先進自治体の自転車政策,さらには健康増進やレクリエーションとしての自転車の役割など,多様な観点から具体的に記述され,実務的な内容となっている。今後のまちづくりに対する示唆に富んでおり,特に,自転車まちづくりを推進しようとする自治体にとっては必読の書であろう。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画290号 2011年4月25日発行)

成功する自転車まちづくり:政策と計画のポイント

古倉宗治/学芸出版社/2010年10月

 犯罪予防がまちづくりのテーマとなって久しい。しかし,その実態は,依然として旧来型の対策,すなわち,防犯設備の設置や地域住民によるパトロール活動にとどまっているとの指摘もある。本書は,環境と犯罪とのつながりを説明する「環境犯罪学」に関する書籍であり,著者はいずれも犯罪学の第一線の研究者たちである。本書では,日常活動理論,環境デザインによる犯罪予防,犯罪パターン理論など,著名な理論がわかりやすく解説されている。本書により環境犯罪学の理解を深めることで,日本の防犯まちづくりにも新たな展望が開かれることが期待される。防犯まちづくりについて,基礎理論を知りたいと考える方々にお勧めする一冊である。なお,本書は一般書店では取り扱われていないため,興味をお持ちの方は出版元に問い合わせられたい。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画290号 2011年4月25日発行)

環境犯罪学と犯罪分析

リチャード・ウォートレイ, ロレイン・メイズロール 編、島田貴仁・渡辺昭一 監訳/社会安全研究財団/2010年8月

 本書は,20年以上にわたりフランスの都市計画に関する研究を続けてきた著者が,フランスの首都パリを代表する18の景観を取り上げ,都市計画の立場から,その成り立ちと意味を読み解いた書である。エッフェル塔に始まる18の景観について,建造物だけでなく,街路,橋梁,広場,都市構造といった都市空間を構成する様々な要素に着目し,社会背景を交えつつ,デザイン,技術,材料,制度,人物などの幅広い視点から都市空間の建設経緯をたどり,景観に表れた歴史の蓄積を丹念に読み解いている。パリにとどまらず,都市における景観の成り立ちを読み解くうえで示唆に富む一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画289号 2011年2月25日発行)

美観都市パリ:18の景観を読み解く

和田幸信/鹿島出版会/2010年9月

 フィンランドで活躍される著者が,フィンランドの建築・都市・プロダクトデザインについて,歴史的背景から現在までまとめあげた良著である。特に2000年に発行されたフィンランドにおける都市計画と建築の指針である「土地利用と建築法」の紹介は大変に参考になると思われる。フィンランド近代建築の父であるアルバ・アールトの建築・都市計画の紹介など興味深い内容もぎっしり詰まっており,フィンランドにおけるデザインガイドブックとしても楽しめ,手元においておきたい一冊である。是非一読してほしい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画289号 2011年2月25日発行)

クリエイティブ・フィンランド:建築・都市・プロダクトのデザイン

大久保慈/学芸出版社/2010年11月

 本書は,財政が逼迫する人口減少社会における国土利用再編戦略のひとつとして,過疎集落の「積極的撤退」を提唱するものである。現在過疎地域では,若年世帯の移住や定年帰農,二地域居住などの人口維持施策が脚光を浴び,成功事例もある一方で,背後には消滅に向かう多数の集落が存在する。本書では,同様な集落の生活・共同体を守るための自主的移転,移転により残された森林・田畑の管理,山あいの文化を維持するための拠点集落の設定など「積極的撤退」の理論・方法が包括的に示され,その実行を支援する「集落診断士」制度も提案されている。平明な文章で綴られており,専門家だけでなく集落に暮らす人々にも読んでいただきたい一冊である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画289号 2011年2月25日発行)

撤退の農村計画:過疎地域からはじめる戦略的再編

林直樹・齋藤晋 編著/学芸出版社/2010年8月

 本書は,阪神淡路大震災の復興プロセスから何を学び,そして今後直面する大規模災害の復興に対し,何をすべきかを示しているものである。復興都市計画のみならず,コミュニティ,政策論,財政論など幅広い視野から復興について述べ,また事業に対する評価を行っている。阪神淡路大震災の復興課題も鮮明に述べられており,被災直後に取り組むべきもの,時間が経過するなかで取り組むべきものなどの示唆が多々含まれている。既に発生から15年の時が経過し,阪神淡路大震災の記憶が薄れつつあることは否めない。災害と復興プロセスを風化させないためにも,さらには復興の経験を後世に伝承させるためにも本書は有用な文献である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画289号 2011年2月25日発行)

大震災15年と復興の備え

塩崎賢明・西川榮一・出口俊一・兵庫県震災復興研究センター/クリエイツかもがわ/2010年4月

 「まちづくり」という言葉が近年多用され,日常生活にも浸透している。その一方で,語感の良さから乱用されている傾向もある。本書は,普段何気なく使っている「まちづくり」を都市計画,地域経済,流通,地方財政,景観,安全といった切り口から多面的にそして学際的に述べているものである。「まちづくり」について,その語源から変遷,枠組み,都市計画との違いなどが具体に示され,高知県馬路村の地域ブランド化などの地域活性化の実例も加えられている。本文中にも触れられているが,他の国にはない日本独自の用語である「まちづくり」の本質を理解する上で非常にわかりやすく,是非とも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画289号 2011年2月25日発行)

まちづくりを学ぶ:地域再生の見取り図

石原武政・西村幸夫/有斐閣/2010年9月

 本書は,まちを調査する方法を親切にわかりやすく紹介しており,まちの捉え方を学ぶことができる。第1部では,まちの歴史,地形,土地利用,統計調査などの調べ方を紹介している。第2部では, まちの現場をどのように見て歩くか,どのように人に聞くかという視点などを紹介している。またワークショップの方法や,地域資源・課題を抽出する方法も紹介している。第3部では,統計分析などの分析の方法を紹介している。本書はまちに関する研究の手引きとなる入門書で,もっと早くに出会いたかったと思わせる内容である。初めてまちと関わろうとする研究者・実務者には一読を薦めたい。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画289号 2011年2月25日発行)

まちの見方・調べ方:地域づくりのための調査法入門

西村幸夫・野澤康 編/朝倉書店/2010年10月

 コミュニティサイクルは,借りた場所と異なる場所に返却してもよいレンタサイクルシステムであり,近年,欧州などを中心に導入が進められている。本書は,環境対策等の観点から,コミュニティサイクルの導入をいかに進めていくべきか論じている。欧州とアジアにおけるコミュニティサイクルについて失敗事例を含めた歴史的経緯を明らかにした後,日本の自転車利用に関する制度等の課題を整理するとともに,日本におけるコミュニティサイクルの社会実験の事例を取り上げ,日本において定着させる方法について多面的に論じている。行政関係者,研究者,企業関係者など幅広い方々にお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

コミュニティサイクル:公共交通を補完する新自転車システム

都市型コミュニティサイクル研究会 編/化学工業日報社/2010年6月

 人口減少時代の土地利用計画は,都市周辺部において都市の縮小や利用管理などに対し,今後より現実的な対応が求められている。本書は,都市周辺部の実態や各種の現行制度と条例を活用した対応等について,事例を交えつつ,行政担当者や計画系コンサルタントなど22名の執筆者が実務経験から,運営管理も含めた「持続可能なアーバンフォーム」への転換と展望などを多角的にとりまとめている。特に,開発管理と利用管理の面で紹介している各取り組みは,現実的で有用である。行政関係者のみならず,実務者や研究者などまちづくりに携わる多くの方々にお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 東孝

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

人口減少時代における土地利用計画:都市周辺部の持続可能性を探る

川上光彦・浦山益郎・飯田直彦+土地利用研究会 編著/学芸出版社/2010年8月

 「豊かな生物多様性のあるところには,豊かな景観も存在する。」本書での強いメッセージが記憶に残る。まちづくりの中で,新たな独自のアイデンティティを模索するニュージーランドの環境緑化がどのように実践されているのか分かりやすく語られている。自生種による緑化が広く推奨されていることや,60余の環境関連の法律を統合した「資源管理法」という新しい法律,公園の管理運営計画(パークマネジメントプラン)の策定などニュージーランドの取組みは驚かされる。生物多様性という旬な話題について,先行するニュージーランドの数多くの実例が参考になり,まちづくりの考えに新たな視点を与える。是非一読してほしい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

生物多様性をめざすまちづくり:ニュージーランドの環境緑化

林まゆみ/学芸出版社/2010年7月

 現在の日本の都市景観に対するチグハグ感や憂いを感じる中,現代日本の都市空間デザインをどのように考えるか著者の熱い思いが伝わる。パリの中庭型共同住宅,ロンドンのテラスハウス,京都の町家を代表事例として,敷地形状と敷地利用の方法,建築物の形態が緊密に繋がっていることを丁寧に論じている。本書のキーワードは,町家に代表される敷地の「小規模間口性」である。それにより創り出される都市空間は,ヒューマンスケールを基盤に形成される独自の様相を生み,街並みの魅力となっているということを示している。「小規模間口性」という考え方の切り口の新規性や,研究成果を取り纏めた内容は,考え方を広げる参考になり,一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

「和」の都市デザインはありうるか:文化としてのヒューマンスケール

田端修/学芸出版社/2010年5月

 本書は,欧米等の自転車先進諸国における自転車施策の取組み状況や,その発展過程,最近の新たなる展開等を各国の資料に基づいて整理し,そのポイント等を紹介している。自転車のメリットに基づいて,道路空間等において自転車を優先的に扱う施策や,走行空間の情報提供等のソフト施策,自転車利用による健康面での効果を検証した報告等,自転車利用を促進するための取組みが,我が国における適用可能性についての考察とともに,数多く紹介されており,参考となる。行政関係者や研究者等,自転車利用の促進に関心のある方々にお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

欧米先進国にみる自転車政策の高度な取組み:欧米の自転車政策の形成過程

/自転車先進国における自転車政策の新たな展開:先進国自転車政策の発展経過

古倉宗治/サイカパーキング/2010年7月

 本書は,平成12~15年度に行われた「農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究」の報告書において,今後の課題として把握の必要性を指摘していた「都市及び鉱工業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究」を実施し,その保存・活用手法を明らかにしたものである。本書では,2032件の文化的景観を有する地域から,重要地域66件を選定しているが,なかには,商店街・工場をはじめとした日常生活が営まれているため,重要性に気付きにくく,現状に埋もれやすい地域もあり,その意義を類型化し,体系的にまとめている本書は,まちづくりへの示唆に富んでいる。まちづくり関係者・行政担当者に一読頂きたい一冊である。

紹介:情報委員 加瀬靖子

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

都市の文化と景観

採掘・製造,流通・往来及び居住に関連する文化的景観の保護に関する調査研究会 編/同成社/2010年4月

 本書は「こどものまち」を紹介している書籍である。「こどものまち」とは,子供が社会を擬似体験するイベントである。イベントでは,子供が仕事をし,稼ぎ,「こどものまち」内のみで通用するお金で食事や買い物をしたり遊んだりできる。役所もあり,議員や市長の選挙も行われ,子供が運営し,子供が立候補する。子供が市民となり,子供だけで「まち」を運営する。ドイツ・ミュンヘンで行われたイベントが始まりで,オーストリア,イタリア,インド,日本などに広がっている。こういった「こどものまち」は,子供が社会や政治に関心を持ち主体的に考える仕掛けとして,面白い取り組みである。本書は29の事例,体験談,課題などを通して,大人や社会へ影響を与える子供参画の魅力を紹介している。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

こどもがまちをつくる:「遊びの都市-ミニ・ミュンヘン」からのひろがり

木下勇・卯月盛夫・みえけんぞう 編著/萌文社/2010年4月

 日本の郊外住宅地は,これまで,社会からの様々な要請に対し,設計を工夫することで応えてきた。本書は,そうした郊外住宅地の事例を体系的にまとめたものである。本書は,郊外住宅地の系譜と展望に関する2本の論考,177箇所に及ぶ全国の郊外住宅地のデザイン事例,「景観」「安全・安心」などテーマを絞った10本の事例解題,スケールごとに整理されたまちなみ設計のマニュアル,用語集,年表で構成され,理論から実践例までが幅広く解説されている。郊外住宅地は,今日,人口減少など社会環境の変化に伴う新たな問題に直面している。本書は,郊外住宅地のこれまでを事例に則して具体的に知り,地に足をつけて将来のイメージを考えるために最適な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

住まいのまちなみを創る:工夫された住宅地・設計事例集

(財)住宅生産振興財団 編/建築資料研究社/2010年8月

 2008年3月末の道路特定財源の一般財源化に関わる国会審議は,戦後から続く交通社会資本整備に大きな転換を迫るものであり,持続可能な社会を支える資本としての施設整備方法の工夫や既存ストックの運用に着目したサービス向上の必要性が強く指摘された。本書はこのような認識を踏まえ,鉄道,空港,港湾,道路,都市交通施設(街路,新交通システム・バス,駐車場)の5種類を取り上げ,それぞれの事業制度の種類と目的,歴史的背景,適用対象と条件,並びに制度上の課題と課題解決に向けての議論等をとりまとめたものである。交通社会資本整備に携わる実務者のみならず,政策研究を行なう研究者にとっても非常に有用な参考図書になるであろう。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

交通社会資本制度:仕組と課題

土木学会 編/土木学会/2010年6月

 戦後都市計画の権威としてその名前が広く知られている高山英華ではあるが,実際に何をしたのか,どのような人物であったのか,意外に知られていないのではないか。本書は,そうした疑問に応え得る,高山英華の本格的な伝記であるとともに,戦後東京の都市計画史,都市計画学史としても読める。これまで著された論文や報告書などからは,叙情を排した冷徹な人物像が浮かんでくるが,筆者の100名近くに上る関係者ヒアリングの甲斐もあって,共感を誘う温かな高山英華を描くことに成功している。それ故に,高山自身の熱い思いとリーダーとしての理性が相克するとき,高山の深い葛藤を感じることができて,味わいのあるドラマが現出するのである。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

東京の都市計画家 高山英華

東秀紀/鹿島出版会/2010年6月

 人口減少時代を迎え,ドイツの都市政策が注目される中,本書はコミュニティ再生プログラム「社会都市」におけるコミュニティ・マネージメントについて詳しく紹介するものである。第1編でコミュニティ再生の社会的背景やEU,ドイツの都市再生政策の流れ,第2編でコミュニティ・マネージメントの推進体制,活動分野,推進方法,評価,第3編でドルトムント市,ハンブルク市の事例,結章で日本への示唆と段階的に理解できる。多様なプロジェクトや関係者の「統合型アプローチ」の重要性が強調されているが,日本で進展する可能性は大いにあるという著者の言葉は心強い。学会員のみならず,まちづくりに関わる行政や住民の方にもお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

コミュニティ・マネージメント:ドイツの地域再生戦略

室田昌子/学芸出版社/2010年6月

 現代に暮らす私たちは,はたしてほんとうに風景を楽しむことができているのだろうか。本書の根底には,こうした現代の風景観に対する問い掛けがある。筆者はまず,近世から近代にかけて出版された名所本の記述を頼りに,江戸・東京の庶民が,どのような風景をどのように楽しんでいたのか,庶民の風景観の変遷を丹念に紐解いていく。その上で,そうした近世来の風景観を持ち合わせていたであろう明治・大正期の技師たちが,都市の近代化が急がれる中で,いわば外来の近代的な風景観をどのように受け止め,眼前の空間といかに向き合ったのか,東京の近代化に係わるプロジェクトを通して,当時の技師たちの葛藤や創意工夫の過程を浮き彫りにしている。こうした作業を通して,筆者は,現代の私たちが風景と向き合う手掛かりを導き出している。都市に携わる者にとって,風景を考えるうえで示唆に富む一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

技師たちがみた江戸・東京の風景

笠原知子/学芸出版社/2010年4月

 本書は,交通についてこれから学ぶ人々のための入門書である。交通に関わる学問分野である交通工学,交通計画,都市計画のそれぞれについて取り上げ,それらの関係性を重視して記述するとともに,専門的内容を読んで学べるよう,ストーリー性のある文章で分かりやすく説明している。最近注目されている交通まちづくりなど,交通整備によるまちづくりへの貢献についても一章を割いて記述しているのが特徴である。具体的な事例も多く紹介されており,実務的な適用にも参考になる。学生のみならず,交通の問題に取り組む行政,まちづくり関係者にもお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

読んで学ぶ 交通工学・交通計画

久保田尚・大口敬・高橋勝美/理工図書/2010年4月

 編著者は冒頭で,開発行政における政府の役割の低下を認めつつも,現在なおも残る地域間格差の是正やアジアとの協調関係構築に向けたプラグマティックな広域計画の必要性を謳っており,それに続く本編では最新の広域計画をめぐる幅広い議論がうまく集約されている。ガバナンスや成長戦略を含めた広域計画のあり方から,国内外の様々な事例,計画の立案手法に至るまで,体系的かつ丁寧に整理されており,都市計画のみならず周辺諸分野を含めた幅広い層の読者に一読をすすめると同時に,広域計画をめぐる国民的議論が喚起されることを期待したい。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

広域計画と地域の持続可能性

大西隆 編著/学芸出版社/2010年3月

 著者は,「スプロールとは何か」「土地利用規制はなぜ必要か」など,都市計画行政において当たり前のように実施されてきた政策の意味や効果を問い直す。そして,法と経済学に基づく第二の意見を提示する。通底するのは,基礎自治体の役割が増す中で政策の責任を明確にすべきであり,そのためには政策介入の客観的根拠と政策の総合的評価が求められるという主張である。また,基礎自治体の行政区域と政策が影響を及ぼす範囲(Area)に着目し,広域調整の必要性を指摘する。都市計画の古くて新しい問題に関する見解が事例も交えつつ整理されており,地方自治体職員だけでなく都市計画を学んでいる学生にとっても有用な一冊である。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

地域政策アセスメント

梶原文男/日本評論社/2010年3月

 世界遺産観光ブームに象徴されるように,文化遺産を資源とした観光開発が,地域振興のいわば切り札として期待を集めている。しかし,文化遺産保護と観光開発との間には,様々なジレンマが潜んでいることは言うまでもない。はたして,両者の共生をどのように導くか,まさに地域振興の現場が直面する課題となっている。こうした認識のもと,本書は,文化遺産保護と観光開発の両面に取組んできた国内外の11事例を取り上げ,“リビングヘリテージ”をキーワードとして,観光開発と文化遺産保護をめぐる試行錯誤の過程を丹念に読み解き,成功の秘訣や失敗の要因を浮き彫りにするとともに,現状の課題と今後の展望について報告している。文化遺産保護と観光開発の共生への道を探る上で,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

生きている文化遺産と観光:住民によるリビングヘリテージの継承

藤木庸介 編著/学芸出版社/2010年3月

 本書は,第1部でまちづくり条例の変遷,第2部でまちづくり条例の実態をまとめたうえで,第3部で自治の観点からまちづくり条例の理論化を試みている。第2部のまちづくり条例の実態では,筆者が関係してきた事例が多数紹介されており,詳細で専門的な内容ながらも事例がコンパクトにまとめられている。また第3部では,「住民の自治に支えられた自治立法権の行使」というまちづくり条例の意義を再確認するとともに,自治の観点からみたまちづくり条例の課題を示している。まちづくり条例のみならず,より広く都市計画やまちづくりに携わる専門家,実務者にとって参考になる一冊である。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

まちづくり条例の実態と理論:都市計画法制の補完から自治の手だてへ

内海麻利/第一法規/2010年3月

 全国の地方都市で観光まちづくりへの関心が高まっているが,観光振興の意味の変化に気づいていない人が少なくない。このような問題意識の中で,著者は,ポスト・マスツーリズムの観光まちづくりについて,創造都市というコンセプトをもとに多面的に論じている。創造都市と言っても,都市経済学的な難解さはなく,あくまで現場の視点から平易に描かれており,わかりやすい。必ずしも新しい事例が紹介されているわけではないが,理論と国内外の実例がバランス良く配置されている。「時代遅れの観光事業者」に対する強烈なメッセージであり,観光まちづくりの可能性が伝わってくる一冊である。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

創造都市のための観光振興:小さなビジネスを育てるまちづくり

宗田好史/学芸出版社/2009年12月

 本書は,人々の生活領域をハビタット(生息域)として捉え,これまでの都市計画と現行の都市計画法の問題点の指摘をおこなっている。また,都市計画とは違う次元で議論される「まちづくり」についても「都市計画」との二重構造の危険性を指摘している。今後,わが国が直面していく人口減少と少子高齢化に対応していくためには,地方自治体が主体となった都市計画が必要であり,そのなかに「まちづくり」や「都市計画」を土台とした総合的かつ自立的な行政運営が強く求められている。本書は,都市計画に少しでも関わることのある実務者・研究者・学生などの全ての方に一読をおすすめする一冊である。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

地域主権で始まる本当の都市計画・まちづくり

蓑原敬/学芸出版社/2009年12月

 地球温暖化防止という国際的な広がりを持つテーマに応じて,低炭素都市の実現という新たな取組みが求められている。あらゆる都市活動に伴う温室効果ガスの排出量を現状より減少させる低炭素都市の実現には,人々の生活の仕方だけでなく,まちの構成,都市基盤から移動の仕方に至るまで,様々な政策を転換させ低炭素都市の思想と実践を貫く必要がある。本書は,地球環境,都市計画の行政専門家及び研究者が,建築,交通,暮らし,都市計画,都市政策についての最新情報及び内外の取組み事例を交え,省エネ,省資源及び快適な空間づくりのための程よい関係を模索する。低炭素化に向けたまちづくりの参考書となる一冊。

紹介:情報委員長 五十嵐誠

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

低炭素都市 これからのまちづくり

大西隆・小林光 編著/学芸出版社/2010年1月

 本州の太平洋沿岸地域を中心として,今後30年間に非常に高い確率で大規模地震の発生が予測されるなど,いわゆる大地震の時代を迎え,まちづくりの分野においてもこうした大地震に対する備えを進めることは,きわめて重要かつ喫緊の課題である。「復興まちづくり」と題する本書は,今後起こりうる大地震に備えて,震災が起きてからではなく,事前に震災後の復興を視野に入れたまちづくりに取組むことの必要性を問いかけている。本書では,まず明治以来の復興まちづくりの歴史をレビューしたうえで,特に阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,復興まちづくりの実態と課題を取りまとめるとともに,東京都内各地の実践事例等を紹介しつつ,復興まちづくりの手法やプロセスについて解説している。専門家や市民,行政関係者等にとって,震災への備えを考える際に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

日本建築学会叢書8 大震災に備えるシリーズⅡ 復興まちづくり

日本建築学会 編/日本建築学会/2009年12月

 これからの人口減少を考えた時,既に自動車がないと生活が成り立たなくなっている都市では,今後の多数派である高齢者はどうやって移動手段を確保するのか。また「官から民」への掛け声とともに,「公」がやるべきことまで葬り去られる風潮はいかがなものか。本書はこのような視点でまとめられている。内容は,地方都市再生に欠かせない現状把握や将来見通しのポイント,土地利用誘導,中心市街地再生,公共交通の活性化,観光まちづくりなどが事例豊かに示され,そのための財源のつくり方や人材活用,コンセンサスのつくり方などにまで及んでいる。地域・都市のあり方に強い関心を持つ,様々な立場にいる人に,ぜひ一読して欲しい一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

まちづくり政策実現ガイド:その鉄則とワザ

今井晴彦・上田紘士・小浪博英・司波寛/ぎょうせい/2010年2月

 本書は,横浜で開催された「横浜クリエイティブシティ国際会議2009」のテーマをタイトルとしており,会議参加者を中心とする論者らによって,会議での議論を踏まえた「創造都市論」や「創造都市」の取組みを論じたものである。芸術文化のもとである「創造性」は,人々に感動を与えるだけでなく,都市にも影響を与える。その「創造性」を活かしたまちづくり,「創造都市」の取組みが,欧州の都市をはじめとして,世界各地で行われている。本書は,横浜だけでなく,国内外の「創造都市」の事例を数多く紹介している。芸術文化が持つ創造的なパワーを活かし,生活の質を高めようとする都市は「創造都市」といえる。本書は,市民,行政,研究者らに,「創造都市」に取り組む方向性について示唆している。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画286号 2010年8月25日発行)

創造性が都市を変える:クリエイティブシティ横浜からの発信

横浜市・鈴木伸治 編著/学芸出版社/2010年3月

 本書は,「観光」や「まちづくり」に関わる技術者の立場から,持続可能な観光まちづくりの手法をまとめたものである。この中で,筆者らは,観光振興において「環境容量」を越えない配慮の必要性を述べており,経済効果を重視するがあまり地域環境の悪化を招いたそれまでの「観光」のあり方ではなく,地域環境を保全し,旅行者にとって快適な環境と地域住民の生活環境の向上につながるための技術的知識として,交通他計画やゴミ・トイレ対策,水環境保全,景観整備といった,インフラ整備の在り方から解説している。観光まちづくりに関わる人々はもちろんのこと,都市整備に関わる人々に是非とも手に取ってほしい一冊である。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

観光まちづくりのエンジニアリング:観光振興と環境保全の両立

国土総合研究機構観光まちづくり研究会 著/学芸出版社/2009年11月

 本書はタイトルに「学校」とあるように教育分野と思われる書籍である。子供(親)を対象とした,まちを舞台とする環境体験学習の事例が数多く報告されている。教育論として読んでしまうと,都市計画分野に携わる者には関係の無いように思うかもしれない。しかし,学校や子供と連携してまちづくり活動を行っている者や研究している者にとっては,学校や子供側がどのようにまちづくりに関わればメリットがあるのかというヒントを得ることができる。学校や子供らと連携したまちづくりを継続するには,WINWINの関係を築かないと難しい。本書は,学校や子供をどのように巻き込めばWIN-WINの関係を築けるか,参考となる書籍である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

屋根のない学校:対話共生型住まい・まち学習のすすめ

住宅総合研究財団住教育委員会 編著/萌文社/2009年12月

 地域の力を高め,働く場を創出することで持続可能な社会を築く。本書は,コミュニティに密着した社会貢献的な活動を事業化する取り組みである「コミュニティビジネス」に関する理論と実践を整理した教科書であり,その魅力や可能性が判りやすく整理されている。コミュニティビジネスとは何か,これまでの発展過程を俯瞰しながら,非営利活動主体や社会起業家の活動,経営課題,協同組合や中間支援組織の役割,補助金に依存しない新たなる事業的まちづくりなどを解説する。豊富な事例,設問,推薦図書などが各講に盛り込まれ,初めて学ぶ方にもコミュニティビジネスの基本的な知識や具体的なビジネスモデルが理解され,また,実務者にも新たな領域への発展性を示す一冊となろう。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

コミュニティビジネス入門:地域市民の社会的事業

風見正三・山口浩平 編著/学芸出版社/2009年10月

 為政者が変わるたびに都市づくりの作法まで変えてきたソウルでは,都市において何を遺し,何を消し去るか,歴史の取捨選択が繰り返し行われてきた。こうした取捨選択の繰り返しが,まさにソウルの歴史として重層的に都市に蓄積され,その歴史の重層こそが,ソウルの魅力であると著者は指摘する。本書は,朝鮮王朝時代の国都漢城の造営に始まり,日本植民地時代の京城の都市計画・都市整備,さらに大韓民国の首都ソウルの発展に至るまで,ソウルの都市や建築に焦点を当て,豊富な写真と図版を用いながら,「重なりきらないほどに重層した歴史のひだ」を丹念にわかりやすく読み解いている。隣国の首都の歴史を学ぶ上で,大変参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

図説ソウルの歴史:漢城・京城・ソウル都市と建築の600年

砂本文彦/河出書房/2009年11月

 本書は,NPO法施行後10年間の市民活動と市民社会を振り返り,「参加と協働のデザイン」のあり方の体系化を試みた書である。まず,参加協働型社会を構築していく上で必要な参加と協働のデザインの理論を再整理し,筆者主催の「協働コーディネーター養成講座」の参加者とともに取り組んできた実践報告,さらに,横浜及び英国の事例から,NPOの行政の下請け化等が懸念される中,協働のあり方を変革していく具体論を紹介している。「参加と協働のデザイン」は手段ではなく,市民社会構築の前提であり,これを支えるのはNPO公共哲学であるとし,市場経済原理主義を規制する役割としての市民社会実現の必要性を提示した書籍である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

参加と協働のデザイン:NPO・行政・企業の役割を再考する

世古一穂/学芸出版社/2009年10月

 本書は,長きに亘り河川行政に携わってきた筆者が,これからの時代の河川管理と河川利用のあり方をまとめたものである。河川の法的基準や専門的な解説のみならず,河川管理と河川利用の実態や考え方の変遷について整理するとともに,国内外の先進事例を多くの写真を用いて紹介しており,幅広い視点から河川管理・利用について学べる内容となっている。人口減少,少子・高齢化,財政縮小といった課題の中で,これからの河川は誰が管理するのか,そしてどのように利用するのかという基本的な問いに対する解決へのヒントが示されており,河川に携わる行政関係者,実務者,大学生などにお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

河川の管理と空間利用:川はだれのものか,どうつき合うか

吉川勝秀/鹿島出版会/2009年9月

 本書では,アメリカ・メリーランド州のスマートグロース政策について,その背景,運用,評価に至るまで詳しく紹介されている。同州では,成長管理,自然環境・農地保全,経済疲弊地域の再生が関連づけられながら行われており,著者は「スマートさ」(clever,sharp,intelligent,wise)という視点から各政策を評価する。広域計画で課題となる関係者間の調整に関しても,水平方向におけるトップのリーダーシップや統括組織設置,垂直方向における財政的インセンティブ手法などの効果と限界が,事例を通して述べられている。スマートグロースの発想から,日本が直面するスマートシュリンクに向けた示唆を得ようとする試みは興味深い。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

もう一つのスマートグロース:スマートさから学ぶもの

平修久/三恵社/2009年10月

 ストック重視の住宅政策への転換が進む中,住宅の長寿命化を目指した取り組みが活発に行われている。住宅の長寿命化にむけて住まい手に求められることは,住宅に対する適切な手入れと近隣との良好な関係構築を行いながら,「ずっと,この家で暮らす」ことである。本書は,住居から近隣までの環境を対象に,住居の設計,清掃・換気といった生活習慣,近隣との交流,生き甲斐や健康などの多様な論点を設定しながら,持続可能な生活を行うための暮らしの知恵を提案したものである。生活者の立場から,現代の住宅・住環境・住生活を問い直した本書は,私たちの暮らしに引きつけてストックを重視した社会のあり方を考えるのに有用な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

ずっと,この家で暮らす。

疋田洋子 編著/圓津喜屋/2009年11月

 本書は,過去の商店街の復活ではなく,地域や市民側からの発想に立ち,ハードもソフトも含めて自分たちのまちをトータルに捉え,より良くする活動,すなわち,まちづくりの取組として,地域の拠点としての商店街の再生を論じている。第一部では,商店街をめぐる歴史,政策等を顧みながら,NPOで活動する著者らが実践している商店街の再生ステップを紹介している。第二部では,数多くの元気な商店街の中から賑わい再生力の源泉を,人間力,地域運営力,地元密着力,観光力,創造力に求め,それに秀でた12の商店街の事例を紹介している。商店街をベースとしたまちづくりに取り組む方々にお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画284号 2010年4月25日発行)

よみがえる商店街:5つの賑わい再生力

三橋重昭/学芸出版社/2009年10月

 本著は1998年に端を発する宮崎県日向市駅をめぐるプロジェクトの経緯について,実際に関わった土木エンジニア,建築家,デザイナーをはじめとする専門家や行政,JRといった様々な立場にある人々が語った葛藤の軌跡である。約10年にも及ぶ連続立体交差事業や駅舎新設,土地区画整理事業といったプロジェクトを,時間の流れに沿って関係者が当時を語る構成をとっており,良いデザイン・良い街を追求しようとする理想と現実とのギャップから生じる具体的問題や,度々苦労しながらも困難を乗り越える詳細な過程が臨場感を持って語られている。同様のまちづくりを進めている専門家にとって大いに参考となり,また勇気づけられる一冊であろう。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画284号 2010年4月25日発行)

新・日向市駅:関係者が熱く語るプロジェクトの全貌

篠原修 他 編著/彰国社/2009年5月

 本書は,京都市景観まちづくりセンターの職員らによって書かれた,「まちづくりコーディネーターたちの奮闘状況の紹介」である。まちづくりを成功に導くためには,地域が直面している問題を冷静に調査,分析し,解決に向けた道筋を描くことのできる「コーディネーター」が必要であるとの本書の主張は,まちづくりの最前線に立つ多くの人々の賛同するところであろう。本書は豊富な事例を通じて,そうしたコーディネーターがまちづくりにいかにして関わり,行政や市民と協働しながら問題を解決していったのかが克明に記されている。専門家の立場としてこれからまちづくりに関与したいと考える学生の方や各地で活動するコーディネーターの方にとくにお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画284号 2010年4月25日発行)

まちづくりコーディネーター

リムボン+まちづくり研究会 編著/学芸出版社/2009年9月

 多くの人々が通行や遊びに利用する道路や広場などのいわゆる「ミチ的な空間」を,本書の著者は「自由空間」と呼ぶ。さらに,この自由空間こそが,まさに都市の魅力を表現する場であると主張する。本書では,長きにわたり都市に携わってきた著者ならではの幅広い見識のもと,都市計画や土木・建築の分野にとどまらず,歴史学や人類学等の周辺分野の知見も交えながら,国内外の豊富な事例とともに,道路・街路・空地・広場・盛り場・公園など,古代から現代に至る都市の自由空間のあり様が論じられている。魅力的な都市空間の創出に対する著者の深い思いがこめられた本書は,都市に携わる者にとって一読の価値ある書であると言えよう。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画284号 2010年4月25日発行)

都市の自由空間:街路から広がるまちづくり

鳴海邦碩/学芸出版社/2009年10月

 昨年より長崎の端島(軍艦島)の一部が公開されるなど,近年わが国の近代化遺産に関する動きが活発になってきた。本書は,企業城下町という特殊な素材を扱うことによって,わが国の近代都市計画の特質を浮き彫りにするとともに,近代化遺産の意味を問うた労作である。
 在来産業の企業城下町として野田を,近代産業(軽工業)として倉敷,近代産業(重工業)として日立を対象とし,地方都市を対象とした都市計画史研究に立ちはだかる史料的制約を乗り越え,豊富な史料や図面を用いた丹念な記述の上で,各々の近代化遺産を単純に「点」として保存するのではなく,全体的な「生産システム」という文脈の下で考えられるべき,という筆者の主張には説得力がある。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

企業城下町の都市計画:野田・倉敷・日立の企業戦略

中野茂夫/筑波大学出版会/2009年7月

 本書は現地調査した米国の都市再生事例を体系的にまとめたものである。衰退し再び活気を取り戻したダウンタウンに「個性的なエリア」が誕生していることに着目し,「個性的なエリア」を形成している地区を,構成している施設や再開発動向の特徴から「テーマ地区」として類型化している。またエリアを個性化している「街づくり組織」の存在を指摘し,「街づくり組織」の形態,役割,課題などを,多くの事例をもとにまとめている。本書は米国のダウンタウン研究であるが,法規制や風土が違う日本においても,中心市街地活性化,地域再生に取り組む者にとって参考となる一冊であろう。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

米国の中心市街地再生:エリアを個性化するまちづくり

遠藤新/学芸出版社/2009年8月

 拡大・成長志向の時代から縮小傾向の時代へ,人口減少という社会構造の変化を背景として,地域経営の戦略は大きな転換を迫られている。こうしたなか,空き家や空き店舗,廃校といったいわゆる“負の資産”は,着実に地域に累積されつつある。本書では,そうした負の資産に,アートや文化をキーワードとしたクリエーティブな仕掛けを組み込むことで,負の資産を正の資源へと転じ,再生の契機となる新たな価値を創出しようとする種々の試みが取り上げられている。東京都墨田区京島地区の「アーティスト・イン・空き家」プロジェクトをはじめ,著者が実際に携わった国内外の様々な事例が紹介されており,地域再生を考える際に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

負の資産で街がよみがえる:縮小都市のクリエイティブ戦

三宅理一/学芸出版社/2009年8月

 「世界は神が創ったが,オランダはオランダ人が創った」と言われるように,干拓によって国土を広げ,プランニング主導による地域づくりが展開されてきたオランダ。本書は,住宅から国土計画に至るまで幅広い空間計画を対象とし,その歴史的経緯を中心にオランダにおける空間計画の神髄を,具体的な事例をもって紹介している。本書が説得力を持つのは,ただ徒にそのオランダモデルを賞賛せず,その「失敗」を含めて,平明な視点でその過程が描かれている点にある。大都市郊外の団地再生の取り組みなど,「失敗」からの再生を描く具体的な事例は,地勢や土地所有の観念といったわが国との違いを超えて,与える示唆は大きい。参考書として手元に置いておきたい一冊。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

オランダの持続可能な国土・都市づくり:空間計画の歴史と現在

角橋徹也/学芸出版社/2009年10月

 人口減少・少子高齢化と経済成熟・衰退が進行する中,現在のような無秩序な土地利用が,都市における生活の質を著しく劣化させるのではないかという問題意識から,筆者らは,21世紀の都市の存続基盤を,建物群・緑地・交通システムが一体となったクオリティ・ストックと名づけ,その上で,建物群が一体的景観を形成するクオリティ街区および緑と公共交通のコリドーを骨格として,市街地の撤退・再集結を計る都市像を提示している。これからの都市のあるべき姿を明快に示している他,参考にすべき諸外国の事例や現在の都市計画が抱える問題点等を概観できる内容となっており,都市計画の入門書としてもおすすめの一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

都市のクオリティ・ストック:土地利用・緑地・交通の総合戦略

林良嗣 他 編著/鹿島出版会/2009年9月

 本書は,著者が大学で行っている建築計画に関する講義科目の中での演習課題とその回答例をもとに発想法についての考え方をまとめたものである。その内容は,計画を行っている技術者や専門家が陥りやすい失敗や危険を具体的な事例を挙げて紹介した後に,発想力を鍛えるためのいくつかのポイントが指摘されている。また,随所に4コマ漫画がちりばめられているなど,読者の興味をひくような工夫がなされている。ただし,著者も指摘しているように本書の内容はだれにでも役立つ技法というわけではなく,本書を参考に自分にあった発想法を探ることが重要とされている。考えに煮詰まったときや,よいアイディアが浮かばないときに,気軽に手に取って読める一冊である。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

青木義次の計画発想法

青木義次/彰国社/2009年9月

 本書では,地域特性と共生する環境を適切に保全・創生することを目的として,緑地環境を健全にマネジメントするための視点とした「共生環境のマネジメント」を掲げ,地域の自立・安定・循環に,「緑地」を手がかりとしてどのように貢献できるかを,筆者の近年の研究成果を事例に挙げて紹介している。さらに,「地域生態学」を地域環境の保全・再生のための計画・整備・管理に繋がる学問とし,研究から実践へと展開した事例を紹介して,この領域で展開できる共生マネジメントの可能性の一端を示している。実際に地域の環境活動に携わっている方々や研究活動に励んでいる学生に今後の活動の参考書として手にとっていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

地域生態学からのまちづくり:共生環境のマネジメント

上甫木昭春/学芸出版社/2009年9月

 厳しい財政状況の下,如何に効率よく都市経営をしていくのか。本書は,警察・消防・教育・福祉を除く行政サービスを民間企業に委託した米都市の誕生とその後の運営実績を紹介するもの。官・民連携のPPPによる市の運営を提案し,「自分達のための公共サービスの供給形態を市民が決める」という全く異なる手法への転換を主導した著者自らによる実体験として,新生都市誕生へのシナリオを詳述する。受益者である市民が参加し,参加者としての市民が主権者にもなった先進事例として,市民と行政の在り方を深く問いかけてくるものであり,日本への応用の可能性についても翻訳者らにより論点を明確にする。地域課題解決において多くの示唆を得ることのできる一冊。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

自治体を民間が運営する都市:米国サンディ・スプリングスの衝撃

オリバー・W・ポーター 著、東洋大学PPP研究センター 訳・解説、根本祐二・サム田渕 監修/時事通信社/2009年9月

 低炭素社会の実現に向けた運輸部門のアプローチとして,環境的に持続可能な交通(EST)の取り組みが期待されている。しかし,その普及定着に向けた知見やモデル事業の蓄積は,いまだ充分とはいえない。本書は,ESTの基本概念の説明から始まり,ESTの各施策やその効果の測り方,モデル事業地域を対象とした計算例に至るまで,国内外の豊富な事例を基に整理されている。ESTは,分野横断的な課題であり,その実現には交通だけでなく,土地利用,環境など幅広い分野に渡る取り組みが不可欠である。ESTの基本を理解するための入門書として,また,ESTを実際に事業化する際に参考となる事例集として,おすすめの一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

地球温暖化防止に向けた都市交通:対策効果算出法とESTの先進都市に学ぶ

交通工学研究会EST普及グループ 編著/交通工学研究会/2009年6月

 本書は,明治神宮創建50年(1970)の際に企画発行されたものを著者・上原啓二氏の生誕120周年と明治神宮創建90年を迎えるにあたり,改定新版を出版したものである。旧版同様,明治神宮の森という公園でも庭園でもない「日本独特の神社境内」を作り出すに至ったエピソードやその理念の記述に加え,新版では新たに多くの図や写真が加えられたことにより,描写に一層のリアリティを感じることができる。本書は,「永遠の杜・明治神宮の森」の真髄を知ることができるばかりか日本の造園学の礎を垣間見れる名著といえ,是非とも多くの人に手に取ってほしい一冊といえる。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

人のつくった森:明治神宮の森[永遠の杜]造成の記録

上原敬二/東京農大出版会/2009年5月

 「道を子どもたちに返そう」‐冒頭の一文から本書は始まる。そして,続く文章で編者はこう言い切る。「道が子どものものにならなければ,都市は復活できない。」「地域の再生は道の再生に他ならない。」・・・この問題提起に対し,本書は,交通工学などの専門家の立場,学校などの実践の現場,また保護者の視点から,問題の諸相と回答へのヒントを提示する。そして,多様な視点からなされた個々の主張は,最終的に「子どもの参画」と「アクションプラン」へと収れんする。本書は平易な記述ながらも,その主張は専門家にも示唆するところが大きい。子どもの「安全・安心」に関心を持つすべての方々にお勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

子どもが道草でできるまちづくり:通学路の交通問題を考える

仙田満 他 編/学芸出版社/2009年7月

 地球温暖化や交通安全,街の活性化や健康指向など様々な背景から,都市内の交通手段としての自転車が大きく注目を集めている。本書は,その自転車をどう使うのか,どう走らせるのかという課題を中心に,「走」と「駐」というタイトルでシンポジウムや研修会で議論された記録としてまとめたものである。この中で,過去10年間に実施された自転車走行環境に関するモデル地区での取り組み事例等に基づく課題整理を行うと共に,自転車道や自転車レーンのネットワーク化や他の交通手段との共存・連携の必要性等,これからの10年の整備方針についての提言を行っており,自転車を活用したまちづくりに関わる際は,一読しておくことをお勧めしたい。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

自転車交通の計画とデザイン

自転車まちづくりフォーラム実行委員会/地域科学研究会/2009年7月

 本書は,企業が育んだ住宅地=社宅街の成立過程と変容を丹念に描くことで,大都市の郊外住宅地に偏重してきた近代日本の住宅地研究の新たな地平を拓くものである。社宅街を類型化し,その類型に沿って北海道から九州さらにかつての海外植民地を含め12の事例が体系的にまとめられている。一方で,社宅街を読み解く様々な視点を提供し,「鉱山実習報文」という新たな資料群を発掘することにより,それまで無機質に描かれざるを得なかった社宅街を,生きられた空間として浮かびあげることに成功している。それは取りも直さず,当時の社宅街では,「女工哀史」のイメージとは全く異なった,楽しみと安らぎに満ちた文化的生活が営まれていたからに他ならない。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

社宅街:企業が育んだ住宅地

社宅研究会 編著/学芸出版社/2009年5月

 本書は,東京都中央区を事例として,まちづくり施策の歴史的展開を概観したうえで,ローカルルールの運用実績を実証的に明らかにした一冊である。中央区は,法律上は「選択科目」にとどまる地区計画を陸地面積の約9割に導入し,実質的に「必修科目」化しているなど,「ローカルルールの宝庫」とも言える自治体である。都市再生が求められている現在,地方分権により,市区町村は自治事務である都市計画・建築行政の仕組みを自ら構築する権限と責任を負っている。市区町村が主体的に進めるまちづくりを考える上で,現実の自治体における経験,問題の背景と対策を詳細に知ることができる本書は,他の自治体においても大いに参考になることだろう。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

ローカルルールによる都市再生:東京都中央区のまちづくりの展開と諸相

川崎興太/鹿島出版会/2009年5月

 サブプライムローン問題以降の激動する不動産事業の現場の実情を伝える。学識,行政,建設,開発,銀行,証券,鉄道,研究の第一線で活躍する当事者が一堂に会し,5年前に不動産開発事業の教科書本を発行。今回はその続編として,様々な角度から現状分析を試み,これからの不動産開発ビジネスの指針を探った勉強会の報告書として綴ったものであり,都市計画如何に係らずディベロッパー担当者には参考になる実務書か。内容は,計31回もの個別テーマ毎の講演資料を寄せ集めた故か,章立も強引な構成となっている。行政担当の執筆による景観保全の事例紹介はされているものの,タイトルから想像される通り,不動産事業におけるファイナンス,リスクマネジメント,大型プロジェクト開発事例が過半を占め,都市計画文献紹介としては馴染まない。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

都市づくり戦略とプロジェクト・マネジメント:横浜みなとみらい21の挑戦

岸田比呂志 他/学芸出版社/2009年6月

 本書は「公正性」の観点から,廃棄物処理場などの「嫌悪施設」の立地問題を論じた学術書である。本書前半部では,嫌悪施設の立地は土地利用と資産価値の両面で「分配的な公正性」を損なわせることが実証的に示され,後半部では,「手続き的公正性」を担保するための合意形成のあり方が詳細な各地の事例分析をもとに述べられる。そして,リスクの受容にむけては,地域住民のリスク管理主体に対する信頼が必要であり,立地主体には,信頼の醸成を促す積極的な情報公開が不可欠との結論が示される。本書は専門的な内容を含むが,後半部では各地の事例も豊富に紹介されている。研究者だけでなく,実務者にとっても参考となる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画282号 2009年12月25日発行)

嫌悪施設の立地問題:環境リスクと公正性

籠義樹/麗澤大学出版会/2009年5月

 急速な高齢化が進む一方で,地方都市や都市の郊外においてバス路線がなくなりつつあり,地域の足をいかに効率的に確保していくかが課題となっている。本書は,市民生活における移動を支援するために不可欠な交通手段のうち,民間による自律的な供給が困難なものを「生活支援交通」と定義し,その計画の考え方や,コミュニティバス,デマンド型交通等の様々な交通システムの特性を豊富な事例をもとに紹介している。特に,地域特性や需要に応じた適切なシステムの選択や既存のバス路線ネットワークの再構築の必要性を述べている。生活支援交通の全体像を理解できる一冊であり,地域の足の確保に取り組む自治体担当者にお勧めである。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

生活支援の地域公共交通

秋山哲男 他 編著/学芸出版社/2009年4月

 本書はコミュニティ・デザインの研究者と地域でのまちづくり実践者が,産・学・地域協働で取り組んできた活動を具体的に報告したもの。内容は,大阪中心部を南北に貫く上町台地境隅をフィールドに,長屋,コリアタウン,寺院を拠点にした取り組みから,震災対応やツーリズム,それらを繋ぐネットワーク・ツールや手法まで,先進的な実践例を理論とともに紹介する。都市コミュニティを描くには,対等なパートナーシップ関係のもと,物事・出来事・人々とのつながりこそ注目すべきであり,これより持続的地域コミュニティ形成が可能になると提案する。既存の地域資源を活かしたコミュニティ育成のあり方を解り易く解説しており,都市コミュニティを担うべく人にとってお勧めの入門書である。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

地域を活かすつながりのデザイン:大阪・上町台地の現場から

上町台地コミュニティ・デザイン研究会 編/創元社/2009年4月

 筆者は,わが国の地方都市圏は自動車依存シンドロームとでも言うべき「やまい」に冒されていると指摘し,このような地方都市圏を持続可能な社会へと転換するための処方箋を,交通政策や交通計画の面から提示している。地方都市圏が抱える現状の課題については,写真や図など多く活用し,詳細かつ分かりやすく紹介し,問題解決の方向性を具体的に示している。また,持続可能なまちづくりに向けて,コンパクトシティや交通需要マネジメント,モビリティ・マネジメント等によって,都市構造の転換や需要追随型交通システムからの脱却などを提案している。地方都市圏のみならず,交通まちづくりの考え方を学ぶ際にはぜひ読んでおきたい一冊である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

地方都市圏の交通とまちづくり

辻本勝久/学芸出版社/2009年4月

 本書は,スイスに長く暮らしている著者の経験と取材をもとにスイスにおける「環境も社会も経済も長持ちする国づくり」が紹介されている。その内容は,①炭素税等の導入からソーラー発電やバイオマスなどの各自治体におけるエネルギー政策,②省エネ建築,エコ建材,伝統的建築物のエコ改修といったサスティナブルな建築づくり,③自動車の省エネ政策から公共交通やカーシェアリングといったモビリティマネジメント,の大きな3つの視点から整理されている。本書は,あまり紹介されることの少ないスイスにおけるさまざまな取り組みが具体的かつ網羅的にまとめられおり,欧州の環境政策に関心のある多くの人にとって参考になるものである。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

サステイナブル・スイス:未来志向のエネルギー,建築,交通

滝川薫/学芸出版社/2009年5月

 本書では,バルセロナにおける旧市街再生の試みを公共空間回復への試みとし,密集した古い市街地において,街区や建築物を選択的な取り壊しによって公共空間を新たに生み出す「歴史的市街地の多孔質化」という手法を重要なテーマとして掲げている。この「部分から全体へ」構築する戦略のもと,官民パートナーシップによるまちづくりが進められ,事業の持続的展開が可能となった30年分の経緯が詳細に述べられている。本書は,我が国でスペインの都市計画について初めて専門的に述べたものであり,海外の事例ではあるが,歴史的市街地の存続意義や住民参加の在り方を考える上で,専門家や学生にとって重要な参考文献となるだろう。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

バルセロナ旧市街地の再生戦略:公共空間の創出による界隈の回復

阿部大輔/学芸出版社/2009年2月

 日本初のニュータウン(NT),千里NTに関する調査研究に長く携わった筆者による,成熟期を迎えたNTの住環境マネジメント論である。本書では,まず,千里NTの住環境マネジメントの軌跡が,現地の地域情報誌や住環境保全ルール,開発ガイドラインなどの詳細な資料をもとに紹介される。その後,「多様性」,「持続性・柔軟性」,「参画性」をキーワードとする「新しい公」によるNTの住環境マネジメントのあり方が展望される。NTのオールドタウン化が指摘されて久しいが,本書は,その再生に向けた道筋を,データと実践経験の両面から説得力を持って示している。NTの将来に関心を持つ方々にとって有益な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

ニュータウン再生:住環境マネジメントの課題と展望

山本茂/学芸出版社/2009年5月

 日本の景観が世界に誇れる美しさを取り戻すためには,歴史的街並みなどのいわゆる一級品の景観だけではなく,景観の地模様として,日常の暮らしの営みを反映した生活に根ざした景観,すなわち「生活景」を整えていかなければならない。本書は,生活景に向き合う必要性をこう提起し,景観研究の第一線で活躍する17名の専門家が,生活景の再発見・再評価に向けて,生活景の概念,生活景の観点から見た地域の景観価値,生活景を育む手法,そして生活景の向上に関わるまちづくりの先進事例について論じている。都市景観の研究者や実務者のみならず,まちづくり・景観づくりに携わる市民や行政職員にとっても参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

生活景:身近な景観価値の発見とまちづくり

日本建築学会 編/学芸出版社/2009年3月

 本書の著者らは,環境社会学の立場から,景観を“地域の人々の生活がにじみ出てきたもの”と捉える。その上で,景観を地域資本として位置付け,この資本の増減を担う主体が,地域コミュニティであるとする。本書は,こうした視点から,沖縄県の竹富島,石垣島白保地区,恩納村,熊本県の阿蘇地区,宮崎県諸塚村,茨城県霞ヶ浦の潮来地区,そして中国の白洋淀,イギリスの湖水地方といった,国内外の幅広い事例を対象として,景観形成のプロセスと地域コミュニティの活動との関係を紐解き,景観法をはじめとしたこれまでの景観政策における課題を指摘しつつ,「景観」という地域資本を増大させる地域コミュニティのあり方について論じている。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画281号 2009年10月25日発行)

景観形成と地域コミュニティ:地域資本を増やす景観政策

鳥越皓之 他/農山漁村文化協会/2009年2月

 「着地型観光」とは,地域住民が主体となって地域の観光資源を発掘,プログラム化し,旅行商品としてマーケットへ発信・集客を行う観光事業への一連の取組である。このような地域仕立ての観光事業の多くは,現地集合,現地解散という旅行パターンを取り,近年,さまざまな地域で展開されつつある。本書は,「着地型観光」の全容を概論編と事例編に分け,17もの豊富な事例に基づいて,分かりやすく実践的に解説している。地域資源を活用した観光交流による地域活性化に取り組みたいと考えているまちづくり関係者にお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

これでわかる!着地型観光:地域が主役のツーリズム

尾家建生・金井萬造/学芸出版社/2008年11月

 「コンパクトシティ」という言葉において,そもそもコンパクトとはどういうことか,その論理はどう組み立てられるか等については,多様な意見があり共通理解が広まっているとは言い難い。本書はコンパクトシティについて,その理論から実践例までの再検討を行っている。全体は8章で構成され,10人の執筆者が,システム思考を都市現象に適用しつつ,空間の論理を計量的に扱う手法を駆使しながら,さまざまな考究が展開されている。内容は,そもそもの理念・原則論から,具体的に,交通,省エネルギー,防災,市町村合併など,実践の場面における検証にまで及ぶ。コンパクトシティという言葉を使う人に,ぜひ一読していただきたい一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

コンパクトシティ再考:理論的検証から都市像の探求へ

玉川英則 編著/学芸出版社/2008年11月

 少子高齢化による18歳人口の減少や国立大学の法人化など,大学を取り巻く環境は大きな変革期を迎えている。これまでの大学は地域社会と密接な関係を積極的に取ってこなかったが,地域とまちづくりに協働していく事例が増え始めている。しかし,その単位は,教員個人,研究室,学科,学部,センター,そして大学全体とさまざまな形態がある。本書は,大学が持っている財産を,学生や教員などの「人」,キャンパスなどの「物・空間」,基礎から先端までの「知」によって整理し,これらの財産をもとに地域と連携しようとしている事例を「都市や地域の空間再生」「環境保全・再生」「地域経済の再生」の3つの視点から紹介している。大学関係者のみならず,行政や地域住民にとって,まちづくりの参考書となる一冊である。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

地域と大学の共創まちづくり

小林英嗣+地域・大学連携まちづくり研究会 編著/学芸出版社/2008年11月

 本書は,観光からまちづくりへと広がって行った「観光まちづくり」の動きに着目しており,環境まちづくりそのものを言及した「総論編」,歴史的ストックの活用やまちが持つ多様な可能性の追求,温泉地の再生など10事例を紹介した「実践編」,まちづくりの担い手やマネジメントのあり方,今後の観光まちづくり推進のための課題についてまとめた「課題と展望編」の3部構成よりなる。2008年9月の「観光庁」発足により,今後は今まで以上の「観光まちづくり」が推進,展開されることが予想される中で,都市計画やまちづくりの専門家はもちろんのこと,行政関係者や観光産業に携わる人々にも手にとって欲しい一冊である。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

観光まちづくり:まち自慢からはじまる地域マネジメント

西村幸夫 編著/学芸出版社/2009年2月

 成長・拡大路線から持続可能な環境形成への転換などの社会潮流を踏まえ,これまでの都市デザイン,景観まちづくり自治体の取り組みを後押しする形で制定された景観法に基づき,世論の関心の高まりのなか新たな景観政策が進められている。わがまちの生活環境の実情にあった景観施策を,どう計画し,実現させていくのか。そのためのヒント集或いは道具箱となるよう,都市のタイプ毎に先進的な景観計画・景観地区の25の事例を背景やプロセスのライブ感を交え行政担当者自身が紹介する。さらに,実践的に活用できる景観計画のつくり方,一歩進んだ景観まちづくりの進め方を実務家・研究者が指南する。景観まちづくりを担う人にとって参考書となるお薦めの一冊である。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

景観まちづくり最前線

自治体景観政策研究会 編/学芸出版社/2009年1月

 本書は「まちづくりのなかで住民が主体的に都市計画を“使う”」という意味で「住民主体の都市計画」を定義し,そうした段階に達している26の事例を住環境の維持保全,景観の保全育成など目的別に9つの章に分けて紹介している。更に,これらの事例から得た知見を,主体,計画,規制,事業,時間という論点で横断的に整理している。26の事例はまさに「今」という時代の息吹を感じさせる多種多様な現在進行形の取り組みである。筆者らはそれらを包括する概念の提示や理論化は未熟であると自省的に書く。とはいえ,まちづくりや都市計画の「今」をシャープに解説してみせた本書は,「これから」を構想するための論点整理の任を十分に果たしている。

紹介:情報委員 中島直人

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

住民主体の都市計画:まちづくりへの役立て方

米野史健 他 編著/学芸出版社/2009年3月

 本書は,日本の住宅事情をとりあげ,これと社会がどのように関連しているかを解説したものである。まず,日本の社会が持家社会であることを述べ,その上で,そこへ至った経緯,そこに生じた問題,そして未来について述べている。具体的には,住宅履歴の世代間比較,若年層の住まいの状況,女性と住宅所有との関係,住宅・土地資産の形成,といったテーマを掲げて住宅を論じている。これまで,住宅を扱った図書の多くが,物的環境や家賃に焦点をあて,住宅政策や住宅市場を論じてきた。これに対して本書は,社会的要素に着目して住宅問題を論じており,住宅論を学ぶ者に新鮮な印象を与えるであろう。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

住宅政策のどこが問題か <持家社会>の次を展望する

平山洋介/光文社/2009年3月

 本書は,NPO法人京町家再生研究会のメンバーでもある筆者が,京町家再生から学んだことや京町家再生の過程で得られた知見等を,地域社会再生の手がかりとなる「町家再生の論理」としてまとめたものである。構成は3部からなり,第1部では町家の実態を捉える「診察」として,町家の数・規模・保存状態,アンケートによる住民意識等の調査結果から全体像を整理し,第2部では「診断」として,「診察」結果から町家が残らない原因を見極め,借家・大工・建築基準法・都市計画等の問題を取り上げている。第3部では「治療と治癒」として,「診断」で得られた問題を克服しながら進められたさまざまな町家再生の事例を紹介している。

紹介:情報委員 土谷龍矢

(都市計画280号 2009年8月25日発行)

町家再生の論理:創造的まちづくりへの方途

宗田好史/学芸出版社/2009年2月

 高度経済成長期から現在まで一貫して,主に行政官,コンサルタントとして都市計画実務を担ってきた先達による強いメッセージ性を持った書籍である。都市計画の展開と時代背景の整理,地球環境問題への対応や新しい公共の認識,歴史・文化が息づくまちづくりなどの今日的課題,マスタープランのつくり方や海外事例紹介など,内容は多岐にわたる。本書が掲げる「実学」を裏付けているのはコラムなどに垣間見られる執筆者たちの「経験」である。巻末の座談会からも見て取れるように,論旨の多様性は本書の特徴の一つであるが,それ以上に「都市計画の本来的な姿」なるものに対する信頼と危機感が全体に通底している点が本書の大きな特徴である。

紹介:情報委員 中島直人

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

実学としての都市計画

実学としての都市計画編集委員会/ぎょうせい/2008年10月

 中心市街地衰退の原因,衰退プロセス,再生への取り組みが,わが国と類似性が高いとして,英国における取り組みを解説した一冊である。わが国における先進的な事例も,あわせて紹介している。本書は,わが国は英国の中心市街地衰退プロセスを10年遅れで経験し,さらに規制強化と中心市街地振興を十数年遅れで追いかけているとし,その経験を謙虚に学ぶことで,時間的遅れを短縮することが可能だとしている。集客施設の郊外立地規制と中心市街地への誘導について,詳細に紹介しているのが興味深い。また,市民の本音としてしばしば耳にする,中心市街地活性化に対する疑問,無関心に対して,明快な理由をもって否定している点は,印象的である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

失敗に学ぶ中心市街地活性化:英国のコンパクトなまちづくりと日本の先進事例

横森豊雄 他/学芸出版社/2008年8月

 元横浜市職員の著者が,自らが関わってきた同市の文化行政,創造都市政策を紹介している。表題にある創造都市に関しては,歴史的建造物を文化・芸術活動の拠点として活用するBankART1929,アーティストインレジデンス・プログラム,国際美術展・横浜トリエンナーレなどが取り上げられている。創造都市が各所で注目されているなか,具体的な政策を知るだけでなく,その経験を踏まえた成果と課題が検証されている点も参考になる。これらの政策は総合的であることから,飛鳥田市長,中田市長のリーダーシップが大きかったこと,文化政策担当部局の権限強化など行政内の体制の成果が強調されており,特に地方自治体関係者にお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

創造都市:横浜の戦略

野田邦弘/学芸出版社/2008年8月

 著者は,大久保が歌舞伎町のベッドタウンからエスニックタウン,さらに日本人を巻き込んだオオクボタウンへと変遷してきた過程を,沿道の建物用途やエスニック施設の分布の変化など詳細な調査に基づいて明らかにしている。江戸時代から続く都市空間と他者を受容する特質の上に,日本語学校・専門学校の存在と留学生の増加,ニューカマーのスモールビジネス,バブル崩壊と日本人地主や経営者の意識変化が絡み合って,地域社会と外国人との関係性が築かれてきた大久保こそ都市本来の多様性を有するとし,最近の都市開発の対極に捉える。そこに行政や地元の取り組みはあまり見えてこないが,多文化共生都市が目指す姿を示す一事例であると言えよう。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

オオクボ都市の力:多文化空間のダイナミズム

稲葉佳子/学芸出版社/2008年10月

 本書は,1930年代に鉄道省のもとで実施された国際観光政策に着目し,まずその政策の立案過程や体制について論述され,次に国際観光ホテルの建築意匠と国際リゾート地開発の計画について,山岳地(上高地,雲仙,志賀高原,赤倉,阿蘇),臨海地(蒲郡,唐津,松島),その他(琵琶湖,富士,川奈,日光)を,具体的に紹介されている。特に自然保護か観光開発かのリゾート計画や景観に配慮したホテルの建築意匠が詳細にわかりやすく記述されており,観光地計画,建築計画を専門とする研究者のみならず,関心のある市民の方々に実際に訪れる前に読んでもらいたいお薦めの一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

近代日本の国際リゾート:1930年代の国際観光ホテルを中心に

砂本文彦/青弓社/2008年10月

 歴史的な町並みや特定のテーマをもって開発された地区ではない,いわゆるふつうのまちの景観をどのようにとらえ,どのように語ればよいか?景観のまとまりに着目してこの問いに答えようというのが,本書のねらいである。景観のまとまりとは,ひとつの景観として認識される空間や環境のまとまりをさす。本書では,景観を計画する際の基本単位として景観のまとまりを位置付け,景観のまとまりのとらえ方,景観のまとまりを構成する要素間の関係性のデザイン,景観の変化として表れる都市の変化を調整する手法,そして景観のまとまりを支える担い手やしくみについて,京阪神の豊富な事例とともに,景観法の限界や可能性に言及しながら提示している。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

まとまりの景観デザイン:形の規制誘導から関係性の作法へ

小浦久子/学芸出版社/2008年9月

 「ミニ戸建」あるいは「ミニ開発」というキーワードを聞いて,マイナスイメージを抱く人は多く,戦後の都市計画や住宅計画あるいは建築計画においては,都心ならびにその近傍では高層・高密化を推し進め,郊外部では計画的な戸建住宅団地を供給し,めりはりのきいた都市住宅地を計画していくことが望ましいと考えられていた。そして社会制度的にもそれを支え,推進する仕組みが用意されていたが,実態としては評価できる都市住宅地は少なく,「ミニ開発」による「ミニ戸建」が新築供給に占める割合は今も高い。本書ではこうした現状から「ミニ戸建」の存在を是として受け止め,諸問題を解決した「ミニ戸建」を「まちなか戸建」と定義し,「まちなか戸建」を性能,ビルダー,まちなみ形成等の視点から検討することで,新しい低中層の都市型住宅地像を模索し,提案している。

紹介:情報委員 呉東建

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

まちなか戸建:持家化社会のまちづくり

森本信明・前田享宏/学芸出版社/2008年10月

 本書は,これからは川や運河,堀などの水辺からの都市を再生する時代であるとの認識から,日本,欧米,アジアの河川からの都市再生事例が紹介されている。東京・隅田川,北九州・紫川,大阪・道頓堀川,大川,名古屋・堀川,徳島・新町川,恵庭・茂漁川,漁川,ボストン・チャールズ川,マンチャスター・マージ川,テキサス・サンアントニオ川,ロンドン・テームズ川,パリ・セーヌ川,ケルン,デュッセルドルフ・ライン川,シンガポール川,ソウル・清渓川,高雄・愛河,上海・黄浦江,北京・転河,バンコク・チャオプラヤ川の18事例は写真,図面を多く取り入れビジュアル的にも読みやすく,わが国のこれからの都市再生について学識経験者だけでなく学生や市民にも参考になる1冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

都市と河川:世界の「川からの都市再生」

吉川勝秀 編著/技報堂出版/2008年10月

 本書は,土木計画学が果たすべき役割の変化に対応して,これまでの数理・経済学的側面から論じる技術論に加え,都市や環境,社会全体の諸問題を包括的に捉える土木計画学の基礎理論を提示している。はじめに,「土木」「土木計画」「土木計画学」とは何かについて論じ,従来型の「数理的計画論」を簡潔にとりまとめた上で,市民参加と合意形成,PI,景観・風土論,災害リスク,モビリティ・マネジメントなど,政治・社会・心理学的側面までを包含した「社会的計画論」について論じている。本書は,学部学生の教科書を意図して構成されているが,横断的な様々な視点から計画論の要点を論じており,土木計画学についての理解を深めようとする大学院生や実務者にとっても価値ある一冊といえる。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

土木計画学:公共選択の社会科学

藤井聡/学芸出版社/2008年6月

 本書はコロンビア大学の全米初の歴史保存コース創設者であるジェームズ・マーストン・フィッチ(1909~2000)の評論を集めたアンソロジーである。序文で,ジェーン・ジェイコブスが,厳選主義であった建築保存を民主化したと評価しているように,建築保存を近隣や地域という文脈から捉える今日的視点を理論と行動の両面から提供した人物であり,各評論にはそうした思想が強く込められている。米国における建築保存,都市保全の展開,成果を知らないと読み進めにくい点もあるが,フィッチの視線は地域や時代を超えた普遍的な事柄を捉まえている。歴史まちづくり法も制定された現代日本の都市計画関係者は,この分野の芳醇な蓄積に触れておきたい。

紹介:情報委員 中島直人

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

ジェームズ・マーストン・フィッチ論評選集:建築・保存・環境

ジェームズ・マーストン・フィッチ 著、金出ミチル 訳/鹿島出版会/2008年7月

 本書は,首都圏で近年開業し,まちづくりと特徴的な連携が図られた,りんかい線,みなとみらい線,つくばエクスプレスの3線の鉄道整備を事例として,開業後の実績を含めて鉄道整備と沿線都市の発展について実証的に評価・分析している。特に,鉄道整備への受益者負担について,アンケート調査や交通計画支援システム等により事後評価を行い,駅周辺の土地価格の推移と合わせて,同制度の妥当性について論じている点が特徴的である。鉄道駅を中心としたコンパクトなまちづくりが求められている中,今後の公共交通整備とまちづくりの連携を考える上で参考となる一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

鉄道整備と沿線都市の発展:りんかい線・みなとみらい線・つくばエクスプレスの事例

高津俊司/成山堂書店/2008年6月

 本書は,長きに亘り都市計画の仕組みづくりに関わってきた筆者が,これまで執筆してきた論考を再構成しまとめたものである。ここ十年で誕生してきた都市再生・地域再生を中心とした都市計画制度の内容のみならず,審議会での議論など制度が成立した背景も含めて紹介されており,多くの制度創設や改正に関わってきた筆者ならではの語り口となっている。読者は,現行の都市計画制度への理解を深めるとともに,経済社会のグローバル化に対応する都市地域,それに対抗するコミュニティ単位のエリア,持続可能性と創造性といった概念から21世紀の都市づくりへの示唆を読み取ることになろう。都市計画を専門とする学生や専門家に薦めたい一冊である。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

都市計画はどう変わるか:マーケットとコミュニティの葛藤を超えて

小林重敬/学芸出版社/2008年6月

 本書は,日本建築学会都市計画委員会「まちづくり・建築ガイドラインワークグループ」が中心となって執筆した,景観法および景観まちづくりに関する実践的な手引書である。本編は,第1章 景観法の可能性,第2章 景観法の内容,第3章 景観法を活用した総合的景観形成方策,第4章 景観法を活用したアイデア,に資料編を加えた構成となっている。景観法の基本的な考え方はもちろん,同法に基づく個別手法やその活かし方を具体的に解説しており,地域の生活文化の表出である景観をどのように創出していくのかを考える上で大変参考になる一冊である。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

景観法活用ガイド:市民と自治体による実践的景観づくりのために

(社)日本建築学会 編/ぎょうせい/2008年7月

 本書は,イギリス,アメリカ,ドイツ,フランスの4カ国におけるキャピタルゲイン課税の制度について,その背後にある理論を含めて解説したものである。アメリカのTaxpayer Relief Act of 1997やドイツの居住用建物・不動産の譲渡益課税などに触れながら,4つの章にわたって各国の制度を論じている。終章では,上記4カ国に日本を加え,包括的所得概念に依拠した日米の制度と制限的所得概念に依拠した英米仏の制度とに分けて制度比較した上で,さらに日米間の制度比較を試みている。不動産に関わる課税制度を学びたい読者には大いに役立つ一冊であろう。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

欧米4か国におけるキャピタルゲイン課税制度の現状と評価

海外住宅・不動産税制研究会/日本住宅総合センター/2008年6月

 産業革命後の都市人口の急増と,それに伴う衛生状態や住環境の悪化。近代化の過程において,こうした都市や建築を取り巻く諸問題に,ヨーロッパの各都市はどのように対処したのか。本書は,フランス革命勃発(1789)から第一次大戦終結(1918)に至る“プレ・モダニズムの時代”に焦点をあて,パリ,ウィーン,ベルリン,ロンドン,そして東京を対象として,近代化がもたらした都市に対する社会・経済的な要求の変化と,その変化を受けた都市改造のプロセスを概観している。豊富な図版により構成された本書は,都市や建築に携わる人々の参考書や資料集としてだけではなく,一般向けの教養書としても親しみやすい内容となっている。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

都市と建築の近代:プレ・モダニズムの都市改造

永松栄/学芸出版社/2008年6月

 著者らは,都市の形成に関った建築や都市計画,造園の技術者である。日本の都市は,人口減少と高齢化が進む時代に合わせて再編する必要があり,その実現方法として,都市ストックを踏まえた,市民主体のまちづくりを提唱している。本書は,これからまちづくりに取り組む人にとって,認識や戦略の基本となることを目的としている。交通,都市居住,中心商店街,近郊農業,景観などの8つのテーマでも,都市ストックの成り立ちと現状の問題を明らかにすると共に,市民が主体となって,都市のストックを活用する提案を行っている。一例として,都市居住というテーマにおいては,住宅地形成の経緯と現状の課題を整理し,空き地・空き家などのストック活用,コーポラティブ住宅,リノベーション住宅などの具体的な提案をしている。

紹介:情報委員 呉東建

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

現代都市のリデザイン:これからのまちづくり心得

リデザイン研究会 編著/東洋書店/2008年7月

 本書は,早稲田大学メディア文化研究所「地域ネットワーク資源プロデュース研究会」の研究成果の一部として,行政・マスコミ・シンクタンク等,広範な分野の専門家10名による地域再生・活性化のための提言をとりまとめたものである。各章では,例えば,コンパクトシティを越えた「スマート・シュリンク」の考え方に基づく抜本的なまちの再改造,自治体による「地域のブランド化」が果たす役割,地域再生に必要不可欠な「人づくり」など,具体的な事例を交えながら,地域の再生・活性化のためのヒントを提案する。今後,これらが大きな政策課題となっていく中で,各自治体はどのように地域づくりを進めていけばよいのか,非常に参考となる。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

地域づくり新戦略:自治体格差時代を切り抜く

片木淳・藤井浩司・森治郎/一藝社/2008年4月

 本書は,公共の利益である「公益」を対象とした学問,すなわち「公益学」についての入門書として,様々な研究分野の専門家によりまとめられている。同時に,公益学の体系化を企図しており,まず公益の思想(公益と公共の違いは何か,等)について論じた上で,企業活動や科学技術,あるいは社会活動や国際社会と公益との関係についての視点から,公益学の全体像を示そうと試みている。本書を通して,我々の生活に密接した様々な場面において,公益という概念を考慮することの意義と重要性を指摘しており,公益学を
学ぶ学生のみならず,まちづくりや公共投資などに関わる実務者にとっても有用な一冊である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

公益学を学ぶ人のために

間瀬啓允/世界思想社/2008年5月

 著者はドイツ在住のジャーナリストであり,人口10万人の地方都市エアランゲン市を中心に,フェライン(非営利法人)の活動,企業による地元支援やイベント,産官学による医療都市政策,郷土紙の役割など様々な地域活動を紹介している。「地方の都市とはどうあるべきか」という問いに対して,自由・平等・博愛の理念のもと生活の質を求め,文化・芸術も生活インフラと考える「市民社会」のあり方や,文化と企業,行政とインフラなど複数の「循環系」が関わり合い都市の維持システムが形成されていることを見出している。本書は新聞連載が元であるため読みやすく,賑わいの背景にあるドイツの風土や市民意識,制度や
原理を知る上でも参考になる。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

ドイツの地方都市はなぜ元気なのか:小さな街の輝くクオリティ

高松平藏/学芸出版社/2008年5月

 用地買収に伴う移転の過程で生じる損失補償に着目し,実際の現場におけるさまざまな事例を取り上げながら,適切な補償についての考え方について解説した一冊である。本書は,前半と後半で著者が異なる。前半は,単なる財産権補償にとどまらない生活補償,さらにはその考え方を発展させた基本的生活権について,詳細に論証している。後半は,生活補償の具体的な適用について,著者が現実に体験した多くの事例をもとに,適切な補償の考え方を論じている。スムーズな事業推進において補償は避けて通れないものであるが,実際にどのような問題があるかについて触れることは少ない。本書は,街づくりの現実を垣間見ることができる一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

用地買収と生活補償:基本的生活権の構成と具体的補償事例

田辺愛壹・海老原彰/プログレス/2008年4月

 著者は,ボランタリー組織が経営し都市再生事業を展開する「まちづくり事業体」の活動を,イギリスの伝統的な「ガバメント型都市計画」とは異なる「ガバナンス型まちづくり」という枠組みで論じている。イギリス都市計画史の中でガバナンス型まちづくりの展開を位置づけた上で,ロンドンの貧困地区など6つの事例を通じ,市民セクターが政府・市場セクターとの対抗的相補関係を保ちながらアセット・マネジメントにより財政的な自立を図るプロセスや,組織間の連携について詳細に明らかにしている。まちづくり事業体には田園都市の地域自主管理の思想が受け継がれているという見方は興味深い。研究者だけでなく都市再生に携わる方にも有用な一冊。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

イギリスのガバナンス型まちづくり:社会的企業による都市再生

西山康雄・西山八重子/学芸出版社/2008年4月

 本書は,筆者らが阪神・淡路大震災復興の現場に立ち会い,10年間にわたり調査研究を行ってきた結果に基づき,かつて人々が営んできた生活文化や風景が,復興過程における町の変化の中でどのようにして取り戻せるのかを考察したものである。考察には,ボロブドゥールやバリ島,ヨルダンなどの遺跡化した都市や江戸時代の町といった,過去に人々の手によって滅ぼされ,失われた風景についての事例も取り入れられている。さらに,能登半島沖地震の復興計画において,人間と風景のかかわりを「おもむき」として町並みに継承した事例についても触れており,復興計画はもちろんのこと,今後の景観まちづくりを考える上でも参考となる一冊といえる。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

失われた風景を求めて:災害と復興,そして景観

鳴海邦碩・小浦久子/大阪大学出版会/2008年5月

 本書は,色彩からみた景観計画の方法論について整理されたものである。まず地域の気候風土からの地域色の発見方法,色彩ガイドラインや規準の策定や運用のしかたについて整理されている。さらに建築やまちづくり等の色彩計画の実務,実例を踏まえ,配色のテクニックなどの手法について解説されている。写真や研究事例の図表も多く,手法上の用語解説ページもあり,わかりやすく書かれているため,専門家に限らず市民にとっても読みやすく,色彩を考慮した景観計画づくりには多くのヒントを与えてくれる参考となる一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

地域イメージを活かす 景観色彩計画

日本カラーデザイン研究所/学芸出版社/2008年4月

 本書が提唱する「日本版スローシティ」は,イタリアのスローフードに端を発したスローシティ運動をもとに,日本の地域事情をふまえた新しいまちづくりである。「食文化」だけでなく地域が誇れるものは何でもよく,地域に眠った資源を市民自ら掘り起こして市民のライフスタイルにあったまちづくりを考える。日本の「ファストシティ」に足りないものは,住居でも職場でもない第三の場所,サードプレイスの創造であり,それが都市の魅力を高めると訴える。地域市民が考案して,地域市民が幸福と利益を得るまちづくりの仕組,例えば中心市街地活性化,地域再生などに取り組む方にお勧めの一冊。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画277号 2009年2月25日発行)

日本版スローシティ:地域固有の文化・風土を活かすまちづくり

久繁哲之介/学陽書房/2008年4月

 中心市街地の衰退や地球温暖化等,我々の生活や環境とともに都市問題も変化している。筆者は,これまで行政職員,鉄道事業者,大学教授としてまちづくりに携わってきた自身の経験から,これらを解決するための具体的な事例を紹介し,公共交通を活かした魅力あるまちづくりを提案する。また,都市問題への対応は,行政だけでも,住民だけでも,企業だけでもなく,関係する人々が集まり力を合わせることが重要であると指摘し,住民が主体的にまちづくりに参加する手法や,行政のインターネットを活用した情報提供手法などを紹介している。本書は,都市政策の専門家のみならず,まちづくりに興味のある市民にとっても読みやすい一冊となっている。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

ビジョンとドリームのまちづくり:まちと交通再生のための都市政策

土井勉/神戸新聞総合出版センター/2008年4月

 市制50周年を記念して,市制施行以来のまちづくりの歩みをまとめた書籍であり,一般に有料頒布されている。東京郊外の中核都市として,高度経済成長期以降の急激・多量な宅地化の要請に対して,どのような制御手法で対応してきたのか,国鉄と私鉄が交差する古くからの中心商業地の再開発をいかなるプロセスで実現してきたのかなどの事柄が,町田市のまちづくりに研究,実践の両面で深く関わってきた編集アドバイザーのもとで,学術的な見解も含めて記述されている。自治体単位でまとめられた本格的な都市計画の通史は少ない。本書は,町田市の市民にとっては勿論のこと,他市の都市計画担当者や学生にとって,臨場感に溢れた教科書となるだろう。

紹介:情報委員 中島直人

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

町田市まちづくり50年史:市制50周年を迎えて

町田市都市計画部都市計画課/町田市/2008年3月

 本書は,いわゆる交通バリアフリー法が施行された2000年から現在までに取り組みが行われてきた交通バリアフリー整備の具体的な事例を,多数の図と写真によりビジュアルでわかりやすくまとめた一冊である。鉄道駅や道路,交通結節点といったさまざまな場面において,歩行者,自転車,視覚障がい者などに対して行われてきた「“優れている”と評価できる事例(グッドプラクティス)」を取り上げ,その事業目的や概要および整備内容等をわかりやすくまとめている。本書は,交通バリアフリー化やユニバーサルデザイン化を行っていく実務者にとっては,先進事例を学ぶためのよい参考書となる一冊といえる。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

日本の交通バリアフリー

(社)土木学会土木計画学研究委員会 他/学芸出版社/2008年3月

 本書は,筑波大学のリスク工学専攻での教育がもとに執筆されたものである。リスク工学は新しい学問分野であり,これを学ぶのがはじめてという人も少なくないはずである。そういう初学者にとって,身近な話題を入り口にしてこの分野全般を平易に紹介した本書はたいへん有用な一冊となろう。ベイズ推定,リスク認知,情報リスク,といった内容をはじめ,災害時の建物倒壊リスクの話,地球温暖化に関する排出量取引とライフサイクル評価の話,といった一般的な問題まで幅広く扱われている。最終章では,各章の話題を踏まえて,そもそもリスク工学とは何か,といった議論が展開されている。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

リスク工学との出会い

遠藤靖典・村尾修・伊藤誠・掛谷英紀・岡島敬一・宮本定明/コロナ社/2008年4月

 本書は,近代に発展を遂げた港町が,都市空間を変貌させてきた手法,発展のプロセスを,魅力的な都市空間が形成されている四つの近代港町を取り上げ,実測調査をもとに,読み解いたものである。門司と小樽では,近世以前の作られ方,発展の経緯を辿りながら,港と街を一体として都市づくりを展開したプロセスが示される。横浜と函館は,開港場から出発する近代港町の発展の中で,近世以前の歴史がどのように意味を持ち続けたか,歴史的な基層を活かした都市空間の再構築プロセスが明かされる。近代港町の都市空間の変貌プロセスを知ることによって,港町への理解を深め,都市空間の遺伝子を活かす都市づくりの手がかりを学び取ることができる。

紹介:情報委員長 原田昇

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

港町の近代:門司・小樽・横浜・函館を読む

岡本哲志・日本の港町研究会/学芸出版社/2008年4月

 現在のわが国の都市は,少子高齢化や中心市街地の衰退,さらには地球温暖化をはじめとする環境問題など様々な問題を抱えている。このような状況下で,今後のわが国の交通戦略は,大きな見直しを迫られているといえる。本書は,英国における地域交通戦略のアプローチを分析することで,わが国における組織運営や交通施策への示唆を導き出すことを目的としている。特に,英国の地域交通政策や計画制度を,独立した3つの軸を設定して分析を行っている。さらに,ケンブリッジやヨークといった地方自治体における地域交通活性化の具体的事例を取り上げ,その計画・制度や成果についても整理を行うことで,今後の交通戦略のあり方の検討を行っている。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

地域交通戦略のフロンティア:英国のダイナミズムに学ぶ

中野宏幸/運輸政策研究機構/2008年3月

 本書は,広く複眼的視野で河川そのものを含め流域圏と都市の再生計画について述べられたものである。河川からの都市再生について日本のみならず欧米やアジアの先進事例が多く紹介され,とりわけ日本をはじめソウル,バンコク,上海などのアジアモンスーン地域の特有の河川からの都市再生には,筆者が実際に取り組んでいたプロジェクトもあり,ボリュームがあるにも関わらず興味深く読むことができる。地球環境時代のこれからの河川再生,都市再生,地域再生,国土再生計画などに多くの示唆を与え,研究者をはじめこれからの研究をはじめようとする大学院生達にとって書棚に置きたくなるお薦めの一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画276号 2008年12月25日発行)

流域都市論:自然と共生する流域圏・都市の再生

吉川勝秀/鹿島出版会/2008年3月

 本書は,モビリティ・マネジメントの具体的な実施例をモビリティ・マネジメントの第一人者である筆者らが詳細な解説を加えて紹介しているものである。導入部においては,近年注目されているモビリティ・マネジメント施策の基本的な考え方が解説されている。その後,パースやロンドンといった海外での事例紹介から始まり,福岡や龍ヶ崎といった国内での事例紹介をもとにモビリティ・マネジメントの取り組みがどのように展開されているのかを知るための重要な情報が提示されている。2005年に出版されている「モビリティ・マネジメントの手引き」と合わせて読むことで,モビリティ・マネジメントという交通戦略をより深く理解することのできる一冊といえる。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

モビリティ・マネジメント入門:「人と社会」を中心に据えた新しい交通戦略

藤井聡・谷口綾子/学芸出版社/2008年3月

 2005年の景観法全面施行以降,各地で様々な景観施策の試みがなされている。本書は,景観法制定前後から今日に至る景観施策論をまとめたものであり,景観によるまちづくりをテーマにした「第1部 都市風景の恢復と景観まちづくり」,町並み保全によるまちづくりを扱った「第2部 地域資産の顕在化と町並み保全型まちづくり」,都市再生の潮流や方向性に着目した「第3部 都市の再生とコモンズの復権」よりなる。各部において,事例の問題点の整理,解決への提案が示されており,特に「コモンズ」がまちづくりの鍵となり社会へと動き始めていることを裏付ける事例紹介は,まちづくりに携わる多くの人々に希望をもたらすと言えよう。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

西村幸夫 風景論ノート:景観法・町並み・再生

西村幸夫/鹿島出版会/2008年3月

 本書はタイトルから感じられるよりも多くの事柄を扱っている。2部「四合院と都市空間の現況」,3部「四合院街区の保存とその未来」が中核となるが,加えて,北京の都市形成史や戦時下の都市計画史,土地利用変遷の実証的研究を収めた1部「北京の都市形成と四合院」,日本の都市部の歴史的建造物保存,ソウル,京都の都市保存を北京との比較の観点から論じる4部「東アジアの中の北京」が本書の関心領域を広げ,問題意識を深めている。10年に及ぶ日中の共同研究の成果であり,都市史と都市計画を架橋する分野での堅実な研究の成果でもある。本書からは北京の都市保存に関する新たな知見とともに,都市保存研究の方法に関する示唆を読み取りたい。

紹介:情報委員 中島直人

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

北京の四合院:過去・現在・未来

北京四合院研究会/中央公論美術出版/2008年2月

 本著は,モロッコの歴史都市フェスの近代に焦点を当て,フランス保護領以来約百年にわたる近代都市計画の展開と都市の変容プロセスを描いている。保全の対象としての旧市街,西欧化・近代化の受け皿としての新市街,そして都市拡張時の旧市街的な空間の再現・継承としての郊外地という明確な役割を持った3地区の形成と,その後の重層化のプロセスが,マクロな都市プランやミクロな都市空間の変容,ハブス(ワクフ)制度による実施事業といった側面から詳細に記述されている。部分の個性化と全体の統合,保全と近代化という一見対立する概念が共時的に都市に現れる様を描いた都市論として興味深い一冊である。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

モロッコの歴史都市フェスの保全と近代化

松原康介/学芸出版社/2008年2月

 近年,社会は急速に変化し,都市の問題や課題も増え,都市計画として対応すべき諸問題も多くなってきた。災害に強い環境づくり,地球環境問題などが重要なテーマとなっているが,都市計画では,そうした動向を踏まえつつ,近代的な都市計画制度の確立に向けて新しい取組みを行う必要がある。本書では,計画の理論と制度の基礎から実務的な内容まで,総合的に扱っており,都市計画の歴史的流れ,諸外国などの理論や事例,都市基本計画や各分野における計画のための調査や計画の立案方法などをわかりやすく説明している。これからまちづくりに携わっていく人に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 佐藤祥彦

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

都市計画

川上光彦/森北出版/2008年1月

 大学の建築系あるいは工業高等専門学校の建築系の学生を主な対象とした都市計画を初めて学ぶ学生向けの入門書である。「現況と展望編」と「制度と技術編」の2編構成となっており,前編では都市計画についての基礎知識を幅広く紹介しながら21世紀に向けての課題と展望についても述べている,後編では土地利用,交通,防災,景観等の様々な都市計画制度の仕組みについて紹介している。本書は幅広い範囲で,簡潔に都市計画全般について紹介しているので,建築を専門としない,まちづくりについて関心のある社会人にもお薦めしたい一冊である。

紹介:情報委員 呉東建

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

初めて学ぶ都市計画

饗庭伸 他/市谷出版社/2008年3月

 古代エジプト,メソポタミヤの都市から現代の巨大都市に至るまで,都市計画史の分野で話題にのぼる世界各地の計画都市,理想都市,計画論,都市計画制度などを広範に取り上げ,わかりやすく解説している。都市計画の講義や教科書では,時間や紙面の制約から,近代都市計画の幾つかの計画論を紹介する程度が一般的であるが,本書は,その不足分を補う入門書として意図され,新書版で扱いやすく,大学等の都市計画の副読本として最適である。

紹介:情報委員会担当理事 根上彰生

(都市計画275号 2008年10月25日発行)

都市計画の世界史

日端康雄/講談社/2008年3月

 2006年のまちづくり三法の改正以降,中心市街地活性化や公共投資の抑制のために,日本各地でコンパクトシティやまちなか居住を政策として掲げる自治体が増えてきている。本書はコンパクトシティについて,その基本原則や歴史,欧米の最新動向や問題点,日本の課題に即した今後の展開の可能性など,総合的に解説したものである。特に,欧米におけるコンパクトシティの導入背景や具体的なプロセス,あるいは政策上の成功例のみならず失敗例も含めた解説は,わが国でコンパクトシティを実現していく上で,大変参考となる。さまざまな既存ストックを活かしながら,量から質に転換する時代のまちづくりの実践に向けて,ぜひ参考としたい書籍である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

コンパクトシティの計画とデザイン

海道清信/学芸出版社/2007年12月

 本書は,デンマークのまちづくりを,市民同士のつながりのある生活空間という観点から捉え,デンマークの生活の豊かさの実態を探った本である。デンマークへの留学経験を持つ都市計画の専門家と,西洋思想史の専門家の2名により書かれており,彼らは,デンマークの現代的な生活のあり方として「共同市民性」を考えることが重要であると説く。これは,個人の競争的なつながりや,伝統的な運命共同体ではなく,個人の独自性を平等に認め,支援しあう新たな生活空間の創造を指し,生活の豊かさに直結するものであるという。市民の現在の生活意識を,歴史的な分析と,現地での聞取り調査から,鋭く捉えた書として評価でき,一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 園田康貴

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

福祉国家デンマークのまちづくり:共同市民の生活空間

小池直人・西英子/かもがわ出版/2007年12月

 優れた都市政策により新たな価値を創出させ質の高い生活環境を実現した人口5~15万人程度の中小都市,デービス,チャールストン,バーリントン,ボルダー,チャタヌーガを紹介する。農地の喪失,歴史資産の危機,郊外型SCの進出,自然喪失の危機,基幹産業の衰退や公害問題など,各都市の環境の違いこそあれ我が国同様の都市問題に直面しながらも取組み続け,解決してきたプロセスをわかりやすく解説する。画一化,脆弱化が進み大きな岐路に立たされていると言われる国内の中小都市において,主体的な市民活動の促し方,それぞれの地域性を活かした個性溢れる都市政策を検討する上で参考となる一冊。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり

服部圭郎/学芸出版社/2007年12月

 かつて内陸舟運は鉄道と並び輸送・交通の代表的な手段であったが,モータリゼーションと都市化の進展に伴い,その役割は自動車へと移行した。しかしながら近年,河川や運河といった水辺空間は都市の環境インフラとして再び注目を集めている。こうした背景を踏まえ,本書では,舟運を歴史的視点からだけでなく,今後行われる持続可能な都市再生を行う上で,河川や運河等の水辺を生かすことが,都市の文化の再興,景観や風格,観光等の経済活動面における重要な資源となると考察している。さらに,世界各国の事例を交通,河川,建築,都市計画といった多角的な視点から捉えており,今後の都市計画における水辺空間のあり方を考える上で参考となる一冊である。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

舟運都市:水辺からの都市再生

三浦裕二・陣内秀信・吉川勝秀/鹿島出版会/2008年2月

 都市・地域開発論の巨匠,ジョン・フリードマンによる,仮説にもとづいた近い将来の中国ではなく現存する中国の都市物語。めざましい都市への変貌に関わる複雑な力学や背景をひも解き,独特な考究スタイルにより,日常生活に焦点を合わせその社会変動がいかに人々の暮らしの最も個人的な領域にまで及んでいるかを明らかにしていく。この国の経済発展は単にグローバル資本によるだけでなく,内からの社会学的な力学によって推し進められており,持続可能な都市開発は,中国みずからの歴史,価値観,制度との関係から論考されなければならない。中国はもとより,他国・地域における都市論に関心のある方に有益となる一冊。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

中国 都市への変貌:悠久の歴史から読み解く持続可能な未

ジョン・フリードマン 著、谷村光浩 訳/鹿島出版会/2008年2月

 道路特定財源の取り扱いが大きな政治的課題となっている中,本書は,「限られた財源のもとでの道路整備は本当に有効なのか」という根本的な視点から,渋滞緩和・環境改善・交通事故防止など,道路整備をとりまく論点に対し,様々な客観的データをもとに分かりやすく解説している。また筆者は本書を通して,道路という「物体」が必要なのではなく「移動の自由」を保障することが本来の道路の目的である点を強調するとともに,市民が道路政策に主体的に参加するための手がかりを提供する。道路を「造る時代」から「使う時代」への転換期に際し,一般市民のみならず,実務者にとっても市民とどう向き合うべきかを再認識させられる一冊である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

脱・道路の時代

上岡直見/コモンズ/2007年10月

 昨今の高度情報化社会において,市民と自治体が主体となって行う都市経営のあり方についてまとめられた本である。本書は,タイトルの一部である「独創」を都市経営のキーワードに,経営学,経済学,美学,建築学,都市計画など幅広い分野にわたり本文が展開されている。序章で,産業集積を都市機能の観点から捉え,1章以降において,個人が生み出す創造的な自己表現(アートおよびデザイン能力)が大きな力となり,新しい文化や産業を生み出すと説く。さらに,このような自己表現が,市町村レベルの地域共同体ネットワークの中でうまく機能することによって独創都市が作られるという。草の根レベルの地道で創造性溢れる市民活動こそが,都市を持続・発展させるという考え方が読み手によく伝わる内容の濃い一冊と言える。

紹介:情報委員 園田康貴

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

独創都市の形成とマネジメント

山本壽夫/東京リーガルマインド/2007年10月

 20世紀後半,人口増加社会の中で多くの大都市が誕生し,住宅,商業施設のほか,道路・鉄道ネットワークや水・エネルギー・情報ネットワーク,公園などの生活基盤がつくられてきた。これらのインフラストラクチャーとそれが形成する街並みや景観を総称して,本書ではアーバンストックと呼んでいる。20世紀はインフラストラクチャーの建設が中心だったが,21世紀は,今あるアーバンストックをいかに保全し活用するか,そして,新しい時代に向け,新たなインフラストラクチャーをいかに整備するかが課題となる。歴史的建造物および街並みの保存,住宅・ビル・公共建造物・道路・鉄道などの耐震性・耐久性の向上,ならびにハードウェアを構成する資源の循環などをテーマにアーバンストックの問題およびその解決の糸口について紹介されており,都市再生を学ぶ上で参考となる一冊である。

紹介:情報委員 佐藤祥彦

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

アーバンストックの持続再生

藤野陽三・野口貴文/技報堂出版/2007年11月

 本書は,著者の学位論文を土台に執筆されたものであるが,その内容をわかりやすく整理し読みやすくまとめられた一冊である。地球環境にやさしい乗り物として注目されている自転車ではあるが,自転車の利用促進を図ろうとすると放置駐輪問題や危険走行による安全性の問題が取り上げられ,自転車利用の本来のメリットから離れた議論が行われているとの問題意識が著者にある。このような自転車に関するさまざまな課題に対して,道路管理者,交通管理者そして利用者の立場から自転車の利用促進をどのように考えていけばよいかを都市計画の視点から解説されている。また,欧米での事例を多く取り入れなら,わが国における自転車の利用を促進させるための施策とそのメリットについて解説されている。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

自転車利用促進のためのソフト施策:欧米先進諸国に学ぶ環境・健康の街づくり

古倉宗治/ぎょうせい/2007年12月

 フライブルク市は,公共交通・自転車交通政策,緑の保護条例などに代表される,ドイツが誇る環境保護最先端の都市である。本書では,フライブルク市の新興住宅地「ヴォーバン」において展開された,「持続可能なまちづくり」の軌跡を紹介している。住民たちによって立ち上げられた「ソーシャル・エコロジーコンセプト」は,徹底した省エネ,自然エネルギーの利用に伴うCO2排出の削減,画期的なマイカー抑制策での車のないまちの実現,など数多くの取組みを成功に導いており,サステナブル・コミュニティの理想的なあり方が示されている。ドイツの人口20万人の都市の事例ではあるが,今後の日本における持続可能なまちづくりのあり方を考える上で有用な資料となるといえる。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

フライブルクのまちづくり:ソーシャル・エコロジー住宅地ヴォーバン

村上敦/学芸出版社/2007年12月

 本書は,人口密度,人口規模,社会資本,所得,人的資本蓄積,就業機会,治安,公害といった都市の環境に関わる要素を社会的環境要素と呼び,その上でこれら要素の経済評価分析を行って都市政策への示唆を得ようとしたものである。実際に,賃金・地代の一般均衡モデルによる都市のアメニティ評価(2章),人口移動関数の推定による大都市圏人口移動動向分析(3章),生産関数の推定による集積の経済の生産性評価(4・5章),などを通じて都市政策への示唆をまとめている。生産性評価にあたっては,ウェブで入手できる大都市雇用圏(MEA)データを活用しており,データ利用例のひとつとして参考になるであろう。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

都市の環境評価と都市政策

大城純男/大学教育出版/2007年10月

 著者は,都市それぞれが持つ歴史や風土といった受け継がれていく地域性を「地域遺伝子」と呼び,それ自体と,それが具体化された建物の集合体としての可視的な町並みを一体として「景観」と定義している。それ故に,著者が本書で説く「景観まちづくり」は,都市の可視的な美観に限定されず,その都市が持つ「地域遺伝子」の再発見(あるいは創造)と共有化によって進められるものであるとし,その手法はコミュニティ内部による動きと外部影響との融合である「共発的」なものであるべきとしている。後半では著者が携わったまちづくりの事例も取り上げられており,まちづくり全体に関する書であるといえる。

紹介:情報委員 臼井郁雄

(都市計画274号 2008年8月25日発行)

景観まちづくり論

後藤春彦/学芸出版社/2007年10月

 広く低密な市街地と,自動車交通に高く依存している富山市に,日本初の本格的LRTとして富山ライトレール(愛称:ポートラム)が開業した。本書は,まちが抱える問題に対し,公共交通の活性化とその沿線に様々な機能を集積させる「コンパクトなまちづくり」を基本方針に据えた富山市の,ライトレールによる都市再生手法をビジュアル中心にまとめた参考書である。また,ライトレール整備事業の経緯や概要の紹介にとどまらず,トータルデザインによる新たなまちづくりの力,市民や企業から理解や支援を得るための工夫,さらにはライトレールに続く公共交通活性化のための全市的展開等を紹介しており,今後のまちづくりの参考としたい一冊である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

富山ライトレールの誕生:日本初本格的LRTによるコンパクトなまちづくり

富山ライトレール記録誌編集委員会/富山市/2007年8月

 阪神・淡路大震災により多くの住宅が倒壊し,多くの市民が犠牲となったが,倒壊した建築物には違反建築や施工不良によるものが多数存在していた。これを機に,国,特定行政庁及び関係団体が協力し,建築物の安全性を的確に確保するシステムの再構築が求められた。本書は,神戸市の建築関係部局が取り組んだ「違反建築ゼロ」への挑戦を紹介し,大震災に見舞われてこそ見えてきた課題を,違反建築・耐震性・既存ビルの火災対策・まちづくりなどをテーマに,安全安心という課題は神戸だけではないことを訴えている。日本の建築・住宅行政を学ぶ上で参考となる一冊である。

紹介:情報委員 佐藤祥彦

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

違反建築ゼロ:住まいの安全・神戸の挑戦

増渕昌利/学芸出版社/2007年9月

 本書は,これまでバリアフリーやユニバーサルデザインに関する本を書き続けてきた著者が,「ユニバーサル・デザインを定着させるためには,継続的な改善の検討が必要である」との考えに基づき記されたものである。前半部は,「バリアフリー」,「ユニバーサル・デザイン」,「ノーマリゼーション」といった言葉が生まれてきた背景や定義について解説されている。後半部は,「継続的な改善のためのスパイラルアップ」という考え方による社会モデルの解説とユニバーサル・デザインの仕組みをつくるための具体的な取り組みの提案が行われている。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

ユニバーサル・デザインの仕組みをつくる:スパイラルアップを実現するために

川内美彦/学芸出版社/2007年8月

 今や日本を代表する貿易港となった「横浜港」であるが,安政六年(1859年)の開港より35年は貿易船が直接岸壁に横付けできず,沖に停泊した大型船と陸との間を艀(ハシケ)がひっきりなしに往来するような港であったという。本書は,横浜港の開港に関わる不思議を,象の鼻,横浜新港,大桟橋,メリケン波止場,石造ドック,新港埠頭,横浜市歌の「七不思議」とし,様々な資料を用いて明らかにしたものである。鉄桟橋建設のため何故アメリカから下関戦争の賠償金が返還されたのか,新港埠頭建設をめぐる内務省と大蔵省の争いなど,馴染みある場所の「不思議」がわかりやすくまとめられており,横浜開港150周年を目前に,横浜港の歴史を改めて知る有益な資料となるといえよう。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

横浜港の七不思議:象の鼻・大桟橋・新港埠頭

田中祥夫/有隣堂/2007年9月

 都市部への人口の集中により,周辺の小都市や集落の人口が減少する。人口減少下の「コンパクトシティ」という政策においても,その周辺部のコミュニティの維持が課題となる。著者は,このような視点から,小都市や都市周辺部においては都市部と異なった価値観によるまちづくりを行い,都市部との共存を図ることが必要であると説く。その具体例として,スローフード運動から派生した「スローシティ」や,農業を旅行に採り入れる「アグリツーリズモ」をはじめとして,ヨーロッパを中心とした特色ある事例を挙げている。多様な事例がそれぞれ数ページにまとめられており,まちづくりのカタログとして読むことができるだろう。

紹介:情報委員 臼井郁雄

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

地域づくりの新潮流:スローシティ/アグリツーリズモ/ネットワーク

松永安光・徳田光弘/彰国社/2007年9月

 本書は,「西村幸夫町並み塾」におけるゲストと著者によるインタビュー記録をまとめたものである。「町並み塾」とは2004年からスタートし,全国各地で活躍されている町並み保存運動のリーダー達から保存運動がどのようにして生まれ育まれてきたかについて勉強できるゼミを開催している。本書からは小樽,函館,角館,妻籠,足助,石見銀山,内子,竹富島といった北から南まで各地の町並み保存運動を知ることができ,同時に8人のリーダー達の町並み保存に対する熱い思いとともに町並み保存運動の原動力やその地域特性の生かし方,日常の営みを観光に結びつけるまでのノウハウを学ぶことができ,地域再生を進めようとする地方都市に多くの示唆を与えてくれるお薦めの一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

証言・町並み保存

西村幸夫・埒正浩/学芸出版社/2007年9月

 社会環境変化のもと,地域自治組織・地域における公共的な意思決定のあり方が問われているなか,本書は,地域づくり・まちづくりという視点からローカルガバナンスのあり方を考察している。第1部は理論編として,コミュニティ政策の転換,自治体内分権制度の仕組み,財政面からの社会統治システム,住民自立型組織の形成について考察し,第2部は現場編として,NPO活動,都市計画審議会,まちづくり条例等について事例を織り交ぜた論考がなされている。汎用モデルの無いなか,どのような理念を基礎とし,いかなる仕組やルールを整えていくのか。新たな「住民参加型自治の実践」にあたり大いに参考になるであろう。

紹介:情報委員 五十嵐誠

(都市計画273号 2008年6月25日発行)

自治と参加・協働:ローカルガバナンスの再構築

羽貝正美 編著/学芸出版社/2007年8月

 著者らが創成に向けて活動している「サステイナビリティ学」,本書で言うところの「地球持続学」を学ぶ若者が増えるようにとの願いを込めて執筆された本である。著者が子供の頃から現在まで,自然環境の分野を志すに至った背景や,研究者として環境の問題にどう向き合ってきたかを軸に,持続可能性,地球温暖化,循環型社会といったテーマを平易な言葉で論じている。中高生を主なターゲットとする“岩波ジュニア新書”のシリーズではあるが,環境研究が環境への国際的取り組みにどのように関わっているかなど,最近の動向までが自身の経験に基づいて解説されているのは有用であり,かつ興味深くもある。

紹介:情報委員 高見淳史

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

地球持続学のすすめ

武内和彦/岩波書店/2007年6月

 本著は1984年に出版された「鎮守の森」の復刊書である。滋賀県内32の詳細な事例調査にもとづきながら,鎮守の森を舞台に長い歴史の中で育まれてきた自然,文化,コミュニティの分かちがたい関係が示される。社会状況や開発の影響により容易く消滅してしまう鎮守の森に対し,環境や文化など様々な視点から価値を提示し,最後には保存への提言を行っている。復刊にあたり新たに加えられた序説では,鎮守の森の現代的意義として環境面が強調されているが,鎮守の森を守り育てることは自然保護だけでなく文化やコミュニティの維持にも影響を与えるものであり,初版から20余年経た現代にも通ずる本質的なテーマを語った奥深い1冊と言えよう。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

鎮守の森

上田篤/鹿島出版会/2007年5月

 本書は,EU諸国が環境問題への意識が高く,日本よりも環境対応が進んでいることを,各地域社会の実例を取り上げて示すものである。筆者は,環境保全のためにどのような仕組や活動が必要かを考える上で,「ハードウェア(国の政策・骨組)」「ソフトウェア(法制度・社会システム)」「ヒューマンウェア(自らの思いや意思で,環境保全活動を具体化していく知恵)」に分けて考えており,スウェーデン,デンマーク,ドイツにおける環境保全型社会での市民・生活者の思い,ビジョン,実行力などのヒューマンウェアが具体的に,成果を挙げている地域社会として紹介している。環境問題で世界をリードするヨーロッパの実情から,日本はなぜCO2が増え続けるのかを示しており,今後のまちづくりにおいて是非参考にしたい一冊である。

紹介:情報委員 佐藤祥彦

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

ヨーロッパ環境都市のヒューマンウェア:持続可能な社会を創造する知恵

大橋照枝/学芸出版社/2007年7月

 地球温暖化の影響は,さまざまな場所で現れてきており,その対策は急務となってきている。しかし,各自治体においては,その対策を具体的にどのように実施していけばよいのか暗中模索の状態である。本書は,地域レベルでできる地球温暖化対策を市民参加やコミュニティネットワークを中心にどのように実施していけばよいかが書かれている。学校でのエコスクール事業,風力や太陽光発電による市民共同発電所,廃食油回収によるバイオディーゼル,ミニ水力発電による地域おこしなど多数の事例が紹介されており,「Think Globally, Act Locally」の教科書的な本といえる。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

市民地域が進める地域温暖化防止

和田武・田浦健朗/学芸出版社/2007年6月

 本書は,西山夘三の業績をその門下生が中心となって整理・研究したものであり,住宅・都市論を学ぶ上で大いに参考になるであろう。6人の執筆者がそれぞれの専攻領域・専門分野から西山理論を検証し,その独創性はどこにあるのか,どこに限界があったのかを吟味しつつ,これを超克すべき課題とは何かを明らかにしようと試みている。冒頭で西山住宅学の論考がなされた上で,西山の農家研究,「持家主義批判」,構想計画,景観論・景観計画論,大阪万博との関わり,のそれぞれをテーマとした章が続く。大阪万博に関する記述では,計画立案の過程が詳しく紹介されており,日本の建築・都市計画史を学ぶ上でも貴重な一冊となろう。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

西山夘三の住宅・都市論:その現代的検証

住田昌二・西山文庫/日本経済評論社/2007年5月

 本書は,筆者が長年研究をしてきたフランスの景観や歴史的環境に関する書である。特にパリやディジョンなどを事例に歴史的建造物の周囲500mのバッファによる景観保全,空間および広告の規制について豊富な写真とともに深く解説され,フランスの景観の様々な保全制度についてわかりやすく知ることができる。フランスと日本との比較し,写真による解説を通して専門家のみならず学生や一般市民にとっても理解しやすく,なぜフランスの都市や町並み,田園風景は美しいのか,日本との違いは何かに気づかされ,日本の美しい国づくりへのヒントを与えてくれる,お薦めの一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

フランスの景観を読む:保存と規制の現代都市企画

和田幸信/鹿島出版会/2007年5月

 本書は,PI外環沿線協議会に挑んだ市民の記録である。構想段階に立ち戻り,外環の必要性から議論するという前例のない取り組みに,市民委員の一人として参加した江崎氏(喜多見ポンポコ会議・代表)が,素朴な疑問にこだわり,自分たちの足と目で調べて,検討した記録がまとめられている。PIとは何かを悩むのではなく,検討プロセスはこうあってほしいと思うことを実践している。現地を歩き,ODデータを収集し,疑問に思う点を資料にまとめて,協議会に提出している。協議会への不満や提案も指摘する。市民の目でみた道路行政の記録として,市民と行政の距離を示すとともに,行政担当者が耳を傾けるべき示唆を含むものとなっている。

紹介:情報委員長 原田昇

(都市計画272号 2008年4月25日発行)

公共事業と市民参加:東京外郭環状道路のPIを検証する

江崎美枝子・喜多見ポンポコ会議/学芸出版社/2007年6月

 (財)国際交通安全学会の研究プロジェクトの成果をとりまとめたシリーズの3冊目にあたる。交通空間を中心とする公共的空間やそれをとりまく社会を関心の対象として,現代日本のそれらから失われた美しさや潤いを取り戻すためのデザインのあり方が,国土や都市から建築,さらには車両や標識といったスケールまで幅広く論じられている。前2冊と同様にプロジェクトメンバーへのインタビューとパネルディスカッションから成るスタイルゆえ,語り口は平易で,専門家でなくても読みやすい。タイトルには「交通社会」とあるが内容は交通だけにとどまらず,「デザイン」も表面的なものに限られることなく,多くの人が興味を持てるであろう一冊である。

紹介:情報委員 高見淳史

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

デザインが「交通社会」を変える:美しい国土,魅力ある交通

(財)国際交通安全学会編/技報堂出版/2007年2月

 本書は,ドイツ南西部のバーデン=ヴュルデンベルグ州の人口28万人の都市,カールスルーエ市の市民活動とまちづくりの現場を描いたものである。当市に在住する日本人ジャーナリストが,まちづくりに関係する市民や団体に綿密かつ豊富なインタビューを行い,老若男女を問わす主体的に活動する市民の姿を描いたもので,現場の生の声が読者によく伝わってくる内容となっている。また,随所に読者の理解を深める写真も挿入され,非常に読みやすい。ドイツと日本とは,制度,生活習慣,文化などの違いがあり,ドイツの考え方を単純に受け入れられない部分もあるが,日本人が「まちと人との上手な関わり方」を考えるうえでは,参考になる一冊と言える。

紹介:情報委員 園田康貴

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

ドイツ人が主役のまちづくり:ボランティア大国を支える市民活動

松田雅央/学芸出版社/2007年4月

 本書は,近年都市中心部で実践され始めた,公共空間活用によるまちの賑わい創出の意義や方法,課題等について整理したものである。公共空間における様々な取り組みには交通混雑の防止,管理責任問題,食品衛生上の危惧等から,多くの制約が設けられている。本書の前半では,これらの制約をクリアするための関連法制度の説明と配慮事項への対応が整理されている。後半では,国内26の実践事例が紹介されており,事例ごとに取り組みの経緯や実施体制,必要となる許可事項,課題等が見やすく整理されている。中心市街地や地域の再生の手法として公共空間活用を考えている実務者にとって大いに参考となる書である。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

公共空間の活用と賑わいまちづくり:オープンカフェ/朝市/屋台/イベント

篠原修・北原理雄・加籐源 他/学芸出版社/2007年5月

 本書は,日本ナショナルトラストの事務局長まで勤めた著者が,名勝庭園,古民家や鉄道車両の保存といった文化的遺産を地域住民とともに保存・活用していこうとする中,多くの軋轢や問題をひとつひとつ自らの手により解決していく奮闘記である。難しい言葉を多用した学術的な本とは異なり,それぞれがひとつの物語として楽しく読んでいける。しかし,それが単なる物語で終わることなく,ナショナルトラストとはどういう考え方で運営されているのか,また,実際の保存活動の際にはどのようなことに気をつけて実施していけばよいのかといった重要なエッセンスも詰め込まれている。そして何より,トラスト活動には,物を保存するだけでなく,多くの人々との連携なくしては実現できないことを痛感させられる一冊である。

紹介:情報委員 小早川悟

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

「地域遺産」みんなと奮戦記:プライド・オブ・ジャパンを求めて

米山淳一/学芸出版社/2007年5月

 20世紀後半から浸透してきた多自然型川づくり(近自然河川工法)は,従来の治水重視型の人工的な川づくりを見直し,環境意識が高揚した時代の要請に対応した自然環境との調和を目指したものであるが,実践においてまだまだ多くの問題や課題がある。本書では筆者の実践から得られた知見として,川づくりとそれに伴う河川管理を生態系・空間・都市・地域という幅広い領域で捉えており,これまでに取り組まれてきた川づくりのあり方,自然河川工学や空間デザインからの川づくりへのアプローチを述べたのち,今後の川づくりの展望を都市・地域,流域圏からの展開としてまとめている。これから川づくりに取り組む方はもちろんのこと,川について学ぶ上でも大いに参考となる一冊であろう。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

多自然型川づくりを越えて

妹尾優二・吉村伸一/学芸出版社/2007年4月

 本書は,住民のまちづくりへの参加を進めてきた東京都世田谷区と,震災を機に住民がまちづくりに関わってきた神戸市の例を中心として紹介しつつ,一般的な「まちづくり」に共通する目的意識と,それに向けてのプロセスを提示したものである。まちづくりの枠組み,住民参加への仕組みづくり,行政や専門家の関与のあり方,まちづくりを支援する基盤,といった幅広い視点から,まちづくりを立ち上げ,軌道に乗せ,続けていくために各主体が何をしていくべきかを示している。プロセスの中で起こる障害についての記述もあり,これからまちづくりに携わっていく人への教科書となるだろう。

紹介:情報委員 臼井郁雄

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

まちづくり学:アイディアから実現までのプロセス

西村幸夫 編/朝倉書店/2007年4月

 ニュージーランドの美しいガーデンシティの謎解きのため,実際に各植民都市でのフィールド調査を通じ研究を続けてきた著者は,日本におけるオーストラリア,ニュージーランドの公園緑地研究の第一人者である。本書からオーストラリア,ニュージーランドの植民都市の公園緑地の歴史,特徴はもちろんのこと,特に美しいガーデンシティを建設するために活躍した人々の献身的な生き様,市民の活動をも知ることができる。一方,今,わが国の都市に求められている美しい景観,環境都市への再生に多くの示唆を与えてくれる。公園緑地研究に興味をもつ研究者をはじめ,これから研究論文をまとめていこうとする大学院生達
にお薦めの一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画271号 2008年2月25日発行)

景観都市の創出:英国植民地オーストラリア,ニュージーランドの公園緑地帯の成立史

杉尾邦江/ビオシティ/2007年5月

 本書は, 1978年に発足し、 今日まで継続して都市問題に取り組んできた「日本都市問題会議」編集による都市づくりに関する本である。執筆は, 当会議の発足以来, およそ30年の間に, 日本の都市の再生のために奮闘し, 成果を上げてきた当会議の会員23名による。全部で5つの章に分かれており, 内容は,都市の問題に真摯な姿勢で立ち向かう首長の姿, 都市の魅力, 都市と国土のあり方, 当会議の軌跡などが,様々な視点で具体的に描かれている。地方中小都市の再生に取り組む人たち, 都市計画に関わる研究者にとって, 多くのヒントを与えてくれる味わい深い本と言える。

紹介:情報委員 園田康貴

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

都市は誰のものか:都市の主体者を問う

日本都市問題会議/清文社/2007年2月

 本書は東京緑地計画がどのような考えや価値観のもとに計画されたのかを明らかにするため, 計画の理念を計画の経緯や計画策定者発言, 計画図面などから多角的に分析したものである。 従来の回顧録とは異なり, リアルタイムに書かれた言説を用いながらも、 当時の「緑地」の概念から東京緑地計画を読み解く視点が整理されているのが特徴的である。 実現を成しえなかった「東京緑地計画」の考察において, 緑の価値はその存在のみにあるのではなく,その自然や行楽, 風景という側面から捉えることの重要さが論考されており, 都市の緑がどうあるべきかを改めて考えさせられる1冊である。

紹介 : 情報委員 押田佳子

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

都市の緑はどうあるべきか:東京緑地計画の考察から

真田純子/技報堂/2007年2月

 本書は, 地方分権の大きな流れの中にある地方自治体が, 都市計画・まちづくりの分野において新しい試みをどのように進めてきているのか,その事例を多く集めて紹介したものである。それぞれの事例はその現場をよく知る著者たちによって個別に紹介されているものの, (1) 田園居住へのニーズ, (2) 自治体による線引き制度の採否, (3) 景観形成, (4) 自治体によるオーダーメイドの制限(集団規定), (5) 都市計画の変更, (6)条例, といったポイントに視点をおいた一つの枠組みに従って見通しよく並べられており, 全体によくまとまっている。最終章に付された重要判例のまとめも有用であろう。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

自治体都市計画の最前線

柳沢厚・野口和雄・日置雅晴/学芸出版社/2007年2月

 景観法の制定以来, 多くの分野で景観創造に関する図書が出版され, シンポジウムが開催されるなどして, 議論が重ねられている。そうした中で,ランドスケープアーキテクトはこれまで何を考え, どのような景観をつくり上げてきたかを示したものが本書である。 景観法運用指針をより分かりやすく理解して実践していくために、参考となる具体的な景観計画や景観整備の良好事例を体系的に整理しており, 行政担当者やコンサルタントなどの専門家・技術者は勿論, 景観形成に関心をお持ちの一般の方にも役立つ一冊である。

紹介:情報委員 呉東建

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

美しい景観・まちづくりに役立つ景観55事例

社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会/環境コミュニケーションズ/2007年2月

 本書は都市防災の専門家として大学で学生を指導している筆者達が,都市防災分野を総合的に解説した教科書という位置づけで執筆している。本書では都市防災の中でも筆者達の専門分野である地震防災に限定し,都市防災の定義から始まり,歴史,対策の目標と評価,都市防災のメカニズム,群集避難論,防災情報システム,地域防災(自助,共助による防災),復旧と復興,国際防災協力など幅広い範囲で体系的に地震防災についてまとめている。まさに防災の研究を志す者への入門的な教科書であるとともに、日々都市の防災に苦闘している実務家への指針の書でもある。

紹介:情報委員 呉東建

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

都市防災学:地震対策の理論と実践

梶秀樹・塚越功/学芸出版社/2007年3月

 本書は, 滋賀県立大学環境科学部で1995年の創設以来10数年余りの間で行われてきた「環境フィールドワーク」の教育実践の記録と成果である。 大学での環境教育の柱に「環境フィールドワーク (1,2年生必修, 3年生選択)」を位置づけており,複合的な性格を持つ環境を教育するには, 現場教育を重視し, 問題発見・課題解決する能力を養うための学科横断的な始点が欠かせないとしている。「環境フィールドワーク」で実際に取り組んでいる事例が紹介され, 教育方法や学生成果などを写真や図面から詳細に知ることができ, 大学で環境教育やフィールドワークに実際に関わっている実務者にとって参考となる一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

琵琶湖発環境フィールドワークのすすめ

滋賀県立大学環境フィールドワーク研究会/昭和堂/2007年3月

 景観法制定を受け, 今後の魅力ある地域景観形成に資する土木のデザインとマネジメントのあり方を, 土木計画学の各分野の専門家が共著した。価値観の多様化、地域コミュニティの弱体化が指摘される今日, 豊かな地域景観の基盤となるインフラストラクチャーは,いかにして地域の人びとに愛着を持たれる存在となりえるのか。そのために必要なデザイン, 規模, 機能,管理運営のルールとは何かを問う。地域コミュニティの暮らしぶりがリアリティを伴ったかたちとなり地域資産としての景観を形成する。風景づくりに求められる時間と地域協働のかたちを模索するなかで, まちづくりが担う社会的役割を問い直させる一冊。

紹介 : 情報委員 五十嵐誠

(都市計画270号 2007年12月25日発行)

土木と景観:風景のためのデザインとマネジメント

藤井聡・秀島栄三/学芸出版社/2007年4月

 本書は, 景観工学の第一人者である中村良夫氏が長年関わってきた茨城県古河市の御所沼の再生プロジェクトについてのドキュメンタリーである。疎開少年として古河のまちで幼少時代を過ごした著者自身の体験に基く故郷の風景の描写に始まり, その故郷の風景が喪失していったさま, 古河公方に由来する御所沼を中心とした関東平野の歴史に関する論述を経て, 一度は埋め立てられてしまった御所沼が古河総合公園計画の中で再生されるに至る経緯、そして古河総合公園のデザインの思想の解説までの豊富な内容が, 情緒溢れる筆致で描き出されている。 読者は, 人間をとりまく環境のあるべき姿を根源的に問う, 風景の恢復に関する実践的思想を深く知ることになる。

紹介:情報委員 中島直人

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

湿地転生の記:風景学の挑戦

中村良夫/岩波書店/2007年2月

 アメリカの都市計画・地域経営において, 業績(performance)基準や業績測定がどのように取り入れられてきたのかというテーマに, 理論と実証の両面から迫った大著である。成長管理あるいはスマートグロースの考え方が登場する中, よりアウトカムを指向し, アカウンタブルな計画のしくみが要請されたことを発端として, オレゴン州やフロリダ州といった先進的な州から業績測定が適用され, 深化してきたことが, 州レベルや地方政府レベルの事例を挙げながら詳説されている。人口減少局面を迎えたわが国とは状況が異なる面もあるが, 人々がビジョンを共有し, 成果を確認しながら地域経営を進める手法には学ぶところが多いと感じさせられる。

紹介:情報委員 高見淳史

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

業績測定による地域経営戦略

吉川富夫/渓水社/2007年1月

 現在のまちづくりでは、まちの居住者を集めた「ワークショップ」形式による話し合いが頻繁に行われるようになった。この現状に対して著者は, ワークショップが目的化し住民参加の免罪符となってしまう危険性を指摘し, ワークショップの適切な利用方法を示している。 本書の特徴は、 ワークショップの事例紹介のみならず, その本質を説明している点にある。 「なぜ, まちづくりの現場でワークショップという手法が用いられるのか」といった,つい見落としがちなワークショップの考え方を示している。ワークショップの意義やその使い方を改めて考えさせられる書であり,すでにワークショップ手法を現場で実践している専門家に, ぜひ一読を勧めたい。

紹介:情報委員 杉田早苗

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

ワークショップ:住民主体のまちづくりへの方法論

木下勇/学芸出版社/2007年1月

 本書は2年間にわたって実施した「生物多様性モニタリング-未来を切り開く協働調査」の研究成果の一部をまとめたものである。 研究プロジェクトにおいて市民と研究者やそれ以外の主体の参加によるモニタリングを広く取り上げており,自らの実践, 現場での情報交換, さらには世界に広く目を向けての事例分析など, 多様なアプローチより取り組んでいる。 特に注目すべきは, 生態系に人間社会が含まれるという前提のもと, 生物多様性モニタリングを生態学と社会学の両視点から捉えるという, 従来の生態学にはなかった新たな視点を取り入れており, 文理融合的な協働を試みることで, 地域に密着した新しい生物多様性モニタリングの可能性を示しているといえる。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

自然再生のための生物多様性モニタリング

鷲谷いづみ・鬼頭秀一/東京大学出版会/2007年2月

 本書は, 科学研究費補助金による研究「平安京-京都の都市図・都市構造に関する比較統合研究とデジタルデータベースの構築」の成果を基に出版されたものである。全体は2部構成になっており, 第1部で都市図を, 第2部で都市構造の議論が展開される。平安京-京都に関する既存研究の蓄積が膨大である中, 本書の特徴として, 日本最古の現存刊行都市図である「都記」をはじめとする京都図の最大コレクション 「大塚京都図コレクション」の研究編としての意義がアピールされている。古地図を積極的に活用する本書のような研究は(とくに海外で) Historical GIS研究として盛んになっており, 本書は, そうした動きが益々活発になることを期待させる一冊である。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

平安京―京都:都市図と都市構造

金田章裕/学芸出版社/2007年2月

 本書は, わが国における固有の問題と関わらせながら, コンパクトシティの考え方を示しつつ, 関連する事例やその背景にある経緯を紹介したものである。わが国の中心市街地の現状と課題, まちづくり三法, といった関連事項の紹介にも紙面を割いており,その上で, 福島などにおけるいくつかの試みを紹介している。 海外の事情や事例についての記述を他の文献に任せ, 日本の実情に合ったコンパクトシティとは何かを論じているのが特徴である。コンパクトシティやサスティナブルシティについてその実践を視野に入れながら効率的に学びたいといったニーズに応える一冊であろう。

紹介:情報委員 奥貫圭一

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

日本版コンパクトシティ

鈴木浩/学陽書房/2007年2月

 原科研究室の研究成果を踏まえて, 環境計画・政策研究のあり方, 進め方を取りまとめた一冊である。 環境計画・政策研究とは,人々が安心し健康でより豊かな生活が出来る環境を創造するために, 問題解決の処方箋を求められる明確な目的研究である。人々の環境意識と行動変化が予測困難な中で,多様な利害関係者を含んだ市民参加による合意形成を実現するための方法論を論じる。市民参加による計画づくり, 環境資産づくり, 迷惑施設立地, 環境アセスメントなど, 現場主義を貫き通した個別実証的な事例研究の成果とともに, 科学性と民主性を両輪とし, 効率性ではなく公平性を重視する, 環境計画・政策研究の理論的枠組みを提示し解説している。

紹介:情報委員長 原田昇

(都市計画269号 2007年10月25日発行)

環境計画・政策研究の展開:持続可能な社会づくりへの合意形成

原科幸彦/岩波書店/2007年1月

 本書は故岡崎文彬氏の企画によるもので, 逝去後に追悼論文集として出版されたものである。 岡崎氏の遺稿をはじめ, 我が国の造園史において著名な研究者の論述が展開されており, 内容も我が国の庭園史に関する「古代の園池と流れ」「庭石にみる江戸時代初期の素材と表現」 「江戸幕府の庭園担当者」, 公園・緑地計画に関する「物見遊山から公園へ」「東京緑地計画」, ハプスブルグの造園文化史を扱った「シェーンブルン宮苑」, 史跡名勝に関する「文化遺産としての名勝」, と幅広い。我が国の造園史研究の中核を担った研究者達により編集された貴重な資料であり, 造園史を知る上で一度は目を通しておくべき一冊といえる。

紹介:情報委員 押田佳子

(都市計画268号 2007年8月25日発行)

造園史論集

白幡洋三郎・尼崎博正/養賢堂/2006年11月

 本書は, みなとみらいやベイブリッジなどの都市プロジェクト, 宅地開発指導要綱をはじめとする都市開発のコントロール, 公害問題への対応など, 飛鳥田市政下の横浜市が行った都市問題への対応を, 市職員として現場に当たった著者が自伝として振り返ったものである。 当時強い開発圧力がかかっていた横浜市を単なる東京のベッドタウンでなく、個性のある自立した都市にするため, まだ重視されていなかった景観への配慮などの先進的な取り組みや, 法令の枠にとらわれない「市民の政府」としての市の活動によって, 現在の横浜の骨格を作り上げていった様子が綴られている。 都市開発における「思想」の重要性を伝える書である。

紹介:情報委員 臼井郁雄

(都市計画268号 2007年8月25日発行)

都市プランナー田村明の闘い:横浜<市民の政府>をめざして

田村明/学芸出版社/2006年12月

 本書は, 2005年10月24日から2006年10月30日まで 「建設通信新聞」に連載した「美し国-首長に聞く」における首長50人のインタビュー内容と, 都市計画,建築,土木, 造園, 観光などの専門家20人による美し国づくりに対する提言をまとめたものである。自然, 文化, 歴史, 緑, 田園などの地域風土と地域住民の重要性を多くの首長, 専門家が指摘している。とりわけ倉敷市長の「今日の倉敷の歴史や景観は住民の生きざまであり, まちづくりそのものだった」とのコメントが印象的である。シャッター商店街, 田園風景の荒廃など地域再生に悩む日本の地方都市のこれからに多くの示唆を与えてくれるお薦めの一冊である。

紹介:情報委員 入江彰昭

(都市計画268号 2007年8月25日発行)

私の美しい国づくり:地域から

美しい国づくり協会/日刊建設通信新聞社/2