委員会委員会

寄贈図書レビュー

 本書は,ウィズ・コロナ,アフター・コロナでの観光政策をイタリアと京都の事例から考え,今後の地方都市の観光再生の戦略が書かれている。新型コロナウイルスの影響により,海外からの観光客がほとんどいなくなり,その経済的損失は大きく,早急なインバウンドの再生が求められている。ただ,経済回復だけにとらわれず,観光は異文化との交流を通じて,多様な文化を受け容れながらわれわれ自身も変わっていきながら,お互いの文化を発展させるものであり,このような観光の姿をインバウンドに求めたいとある。コロナ後の観光まちづくりを考えるうえで参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

インバウンド再生

-コロナ後への観光政策をイタリアと京都から考える

宗田好史/学芸出版社/2020年11月

 アメリカの都市再生の事例紹介をよく目にする。その多くは成功事例として注目されているものであるが,実は都市のごく一部で起きていることである。現実の都市の問題は多様で複雑であろうと思われるが,負の部分を含めた全体像を知ることはなかなかできない。本書では,アメリカの都市の現状と都市政策が示され,大部分の地域は衰退し苦闘している実態を明らかにしている。そして,取り残された地域を再生するための方策を提言しているが,それは,難しく,長く,辛い仕事を続けることにほかならない。日本での想像を超える分断されたアメリカの都市の今の状況がわかり,アメリカの都市政策を理解するためにも,一読していただきたい一冊である。

紹介:企画調査副委員長 菊池雅彦

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

分断された都市

-再生するアメリカ都市の光と影

アラン・マラック 著、山納洋 訳/学芸出版社/2020年11月

 コンパクトなまちづくりの都市政策に着目している。LRT だけでない,コンパクトなまちづくりの原点から現在に至る展開の拡がりまでの全体像を歴史的に把握し,まちを歩き,GPS 調査などを重ね,実態を把握し,市民生活の観点からの評価を行いながら,また,富山のまちづくり関係者へのインタビューなどから,富山の都市政策の成果がまとめられている。OECD のコンパクトシティのモデル都市として取り上げられるなど世界的にも評価されている富山市の「コンパクトシティ政策」は日本の都市づくりにおいて極めて重要な取り組みであり,お勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

コンパクトシティのアーバニズム

-コンパクトなまちづくり,富山の経験

富山アーバニズム研究会 著・中島直人 他 編/東京大学出版会/2020年10月

 アーバニズムの過去と現在を,建築家・アーバニストである著者自身の足跡とともに振り返った一冊である。1 章では主にアーバニズムの創生期について,2 章では今日の都市がおかれた状況とアーバニズムの現在について,3 章ではアーバニズムの観点からみた東京とその将来像について論が展開される。また,それらを踏まえた4 章では,モダニズムに続く建築とアーバニズムの新たなうねりとして「ニューヒューマニズム」の重要性を説く。全書を通して,著者自ら見聞きしたことや自作に基づいて記述されており,特にキーパーソンたちの詳細な人物描写からは,教科書的整理では見えてこない創生期のダイナミズムを感じ取ることができる。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画351号 2021年7月15日発行)

アーバニズムのいま

槇文彦/鹿島出版会/2020年5月

 余暇活動の増加や所得中間層の世界的な増大,LCC の台頭等による移動コストの低減など,様々な要因により引き起こされたオーバーツーリズムを主題とした本書。日本の観光政策の振り返りの後,海外5 都市(ヴェネツィア,バルセロナ,ベルリン,アムステルダム,サントリーニ島)と国内3 都市(京都,湯布院,倶知安)におけるオーバーツーリズムの状況と取組が詳細に示される。特に国内事例については,事例紹介にとどまらず各取組に対する著者らの批判や提案もなされており参考になる。新型コロナウィルスにより観光客がいなくなった今だからこそ,ビフォーコロナ時代の観光における課題を十分に把握し,今後の地域のあり方を検討することが求められる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

ポスト・オーバーツーリズム

-界隈を再生する観光戦略

阿部大輔 編著/学芸出版社/2020年12月

 筆者は,森ビル創始者である森泰吉郎氏,後継者の森稔氏の下で世界的な大規模再開発に携わってきた。本書は,直接当事者として関わった新橋・虎ノ門地区のナンバービル,六本木ヒルズ,GINZA SIX等のプロジェクトについて,開発の考え方や事業のプロセス等を紹介している。
 近年,東京は様々な大規模開発プロジェクトによって,質の高いオフィスビルが大量に提供されたが,世界を動かすような企業が生まれていない。これからの大規模開発は,時代の変化に対応するとともに,開発敷地だけでない周辺の地域価値の向上について意識する必要があるとしている。
 都市開発に携わる方や興味を持っている皆さんにぜひお薦めしたい一冊である。

紹介:企画調査委員 肥田利弘

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

地域価値を上げる都市開発

-東京のイノベーション

山本和彦/学芸出版社/2020年11月

 本書は,広場や遊歩道などをはじめとした公共空間活用による都市再生について,店舗軒先活用等の身近な個人のアイデアにより,できることから始めることで専門家でなくとも居心地の良い空間を創造できることを教えてくれる。
 仮設建築による社会実験など国内外の事例が,小さな移動家具からエリア規模の都市に至るまでのスケールごとに分かり易く分類されて照会されており,公共空間を活用する際の制度やルール,イラストを使ったアイデア等空間活用の可能性やヒントが掲載されおり,学生の方々にも読みやすく,分かり易い一冊となっている。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

テンポラリーアーキテクチャー

-仮設建築と社会実験

馬場正尊 他/学芸出版社/2020年12月

 ドイツのライプツィヒを対象とした著者の活動記録である。東西ドイツ統一後の人口大量流出により発生した空き家や空き地だった場所から,近年急激な若者や外国人による人口増加し,家賃が上昇したことにより元からいた住民が追い出されるというジェントリフィケーションが起きている状況や中東からの移民の流入による社会情勢の変化をデータや活動実態から詳細に説明している。東西ドイツ統一,経済崩壊,移民や難民流入と短期間で起きた社会変化の状況下で,外国人である著者だからこそできた隙間での活動であり,この隙間での活動内容は,人口減少が激しい日本の地方都市において,参考になる内容といえる。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

都市の<隙間>からまちをつくろう

大谷悠/学芸出版社/2020年11月

 地理情報システム(GIS)では,一般に空間上の地物の位置は座標で管理される。領域の場合も外周線は幾何学図形で与えられ,明確な境界が定義できることが前提とされる。しかし,都市解析では,小地域や用途地域のように領域が確定しているもののほか,「東京駅の近く」のような近傍表現や「秋葉原」のように町名ではない通称など,明確な領域の定義が難しいケースを扱うこともある。本書は,「2000年頃」のような時間軸の場合も含めた時空間データの曖昧性を整理し,それを解析する方法論を提案する。後半では,古地図,地形,ビッグデータ,敷地形状など,秘匿処理や精度の問題から曖昧性を有するデータを実際に活用した解析事例が紹介される。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

あいまいな時空間情報の分析

浅見泰司 他 編著/古今書院/2020年12月

 本書は,日本建築学会に設置された「日本建築和室の世界遺産的価値特別調査委員会」等の活動を元にまとめられており,「和室」を無形文化遺産とする大きな目標を掲げている。「和室」という当たり前のフレーズであるが,その定義について考えはじめると奥が深い。和室の価値について世代を超える共通項や優れた特徴,歴史,空間,習慣,著名建築家が試みた作品,現代生活に関する調査分析等,10名の専門家による多角的視点で構成される。末尾には,和室に関係する100 作品リスト(建築,その他学術,文学,漫画,映画)も掲載されている。日本人の生活文化や精神文化と和室の深い関わりについて学べる本であり,和室の新たな価値を再考させられる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松尾真子

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

和室学

-世界で日本にしかない空間

松村秀一 他/平凡社/2020年10月

 「仮住まい」から「定住」へと直線状のライフコースが標準化されてきた戦後日本の住宅政策において,社会の「動的」な持続を支える「仮住まい」の役割を見直し,再評価の必要性を説く。「仮住まい」をキーワードに,著者がこれまで発表してきた論稿を元に各章が再構成されており,持ち家取得政策と住宅資産の分析に続き,「実家住まい」,「賃貸住まい」,「仮設住まい」という枠組みから「仮住まい」が捉えられ,種々の調査データからそれらの実態が可視化されている。成長後社会の住宅政策において重要な観点が提供されるとともに,誰しもが逃れられない,自身の「住まい」というテーマについても考えさせられる,読み応えのある一冊である。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

「仮住まい」と戦後日本

平山洋介/青土社/2020年10月

 本書は,交通工学研究会が発行する「平面交差の計画と設計─基礎編─」をベースとした自転車交通の処理方法に特化して解説した書籍である。自転車交通をめぐる動きは,近年目まぐるしく変化しており,2015 年の初版発行から,あらたな研究でえられた自転車の走行特性のデータなどの反映,自転車用信号現示を含む信号制御方法,左折車線のある交差点での設計例,自転車ガイドラインの改訂,国内各地での路面標示設置事例,交通規制方法,道路構造令改正への対応などの記載が充実しており,自転車通行を考慮した交差点を設計するための基本書であるといえる。

紹介:企画調査委員 梶田佳

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

自転車通行を考慮した交差点設計の手引き

(一社)交通工学研究会/丸善出版/2020年10月

 本書は人の感覚から空間デザインを考えることについて,具体的実験例も触れられており,専門的な知識だけでなく,なぜそのようなデザインとなるかというデザインの必然性という観点からも分かり易く読み解くことができ,注意喚起等過剰な足し算による「プラスのデザイン」から,情報ノイズを除いて整理された「マイナスのデザイン」とすることで,健常者にもより分かり易く,より多様性のとれた空間づくりへとつながって行くことが分かる。 公共空間等の設計実務者はもちろんのこと,ユニバーサルデザインに関する分野を学ぶ学生の方々にも分かり易い一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

ユニバーサルデザインの基礎と実践

原利明 他 著、(一社)日本福祉のまちづくり学会 身体と空間特別研究委員会 編/鹿島出版社/2020年10月

 立地適正化計画が制度化されたこともあって,コンパクトシティ計画の中での拠点への注目度は高まっている。本書の前半は事例集と位置付けられ,都市中心部,コミュニティの中心,中山間部という立地による整理がなされる。後半は考え方編とされ,計画の根拠となるデータの分析,立地適正化計画における拠点の位置づけ方,市民や民間との連携,実際の空間設計,運営体制と,拠点の立地の選定から整備後の運営までの時系列に沿った解説がなされる。後半も基本的な構成は事例集であり,豊富な事例が図表や写真とともに体系的に眺められる構成になっている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

コンパクトシティの拠点づくり

野嶋慎二 他 編著/学芸出版社/2020年10月

 本書は,人との長年のかかわり合いの中で形成されてきた都市を対象に,その成り立ちと変遷,現状の課題,課題解決のための取り組みと展望を論じている。第1 章では,都市の定義を整理し,第2 章から第4 章では,生物多様性,人と自然との関わり合い,自然の恵みの3 つの観点から,最新の研究を交えて紹介している。都市づくりに都市生態系の視点や知見を還元した本書は,純粋な自然科学でも社会科学でもない,分野横断的な読み物と言える。生態学や環境学に関わる研究者,学生はもちろん,農林水産業,土木,都市計画に関わる行政,企業,ナチュラリストなど広範な読者のための教科書,副読本としてお勧めできる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

人と生態系のダイナミクス

-3.都市生態系の歴史と未来

飯田明子 他/朝倉書店/2020年10月

 本書はブルームバーグニューヨーク市長の下,2007 年から2013 年にかけて市交通局長を務めたサディク=カーン氏自身による,人間のための街路を取り戻す「闘い」の記録である。タイムズスクエアの歩行者空間化に代表されるニューヨークの交通や関連する公共空間を劇的に変革したことで広く知られるが,冷静で論理的,エネルギッシュで楽天的な彼女自身がプロジェクトを実現させる推進力であったことが良く分かる。正しいアプローチをとれば都市は必ず良くなること,それを他ならぬ市民自身が支持してくれることを改めて示した本書は,日本におけるこれからの交通空間や公共空間の変革にも大きな示唆を与えている。

紹介:企画調査委員長 桑田仁

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

ストリートファイト

-人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い

ジャネット サディク=カーン 他 著、中島直人 他 訳/学芸出版社/2020年9月

 2016 年に出版された「人間の居る場所」の続編である本書は,著者のインタビューや対談をまとめたものである。「愛される街」「街を動かす女性」「シェアとケアの場所」と題した3 部構成は,どれも鋭い視点で問題提起されている。ヒューマンスケールとは人間の悲しみを受け止めるスケールであるという言葉に示されるように,我々の凝り固まった考えに一石を投じ,現代の都市を考えるための新たな視点が得られる。西荻窪の魅力から語られる本書にはいくつもの街が登場し,それぞれに著者の街への思いが溢れている。小気味良い文章で読みやすく,何度も手に取る一冊である。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

愛される街-続・人間の居る場所

三浦展/而立書房/2020年5月

 “こくりつ” ではなく“くにたち”。東京都国立市が出版する本書は,自治体としては異例の新書としてのシリーズもの。分厚くお堅い冊子ではなく,誰もが手に取りやすいサイズでわかりやすくまとめられており,人を重視し,対話と参加を大切にする市の姿勢がしっかりと伝わってくる。ソーシャル・インクルージョンや地域包括ケアシステム等,今後取り上げる予定の施策の取材記としての第一部。知っておきたい場所や理念が整理され,まちを形成する要素の成り立ちや歴史を知ることができる第二部。行政理念の根幹となる基本構想と歴代市長の施政方針を記した第三部をみれば,市に連綿と受け継がれるものを再確認することもできよう。続編の発刊を期待したい。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

国立を知る

国立新書編集委員会/国立市役所政策経営部/2020年3月

内容,寄稿などで構成されている。1章から3章では,これまでの住宅研究の流れを体系的に学習することができる。また,4 章から6 章で,健康な住宅と健康な都市のありよう,都市への権利として居住地の考え方や,住宅の所有と社会変化などの視点で,とりまとめられており,今後,住宅のみならず都市を考えるうえでの手掛かりとなる。また,参考文献も充実しており,都市計画を学ぶ院生や,実務者にお勧めする書籍である。

紹介:企画調査委員 長田哲平

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

未来の住まい

-住宅研究のフロンティアはどこにあるのか

野城智也 他/柏書房/2019年3月

 本書は,おとなが主体的な住まい手として住生活を営むために必要とする力を「住まい力」とし,住まい力がなぜ必要なのか,住まいの学びとは何かについて問題提起をするものである。日本の「住教育」はかつて家庭科教育の一部として捉えられがちであったが,現在では街や地域社会へ関心を向けさせる,社会性のある学習に変化していること,また,自然災害の多発やコロナ禍において,「住まい力」は今後再考されるべきテーマであり,都市計画の観点でも注目したい。

紹介:企画調査委員 松尾真子

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

おとなのための住まい力

-知識・経験・リテラシー

(一財)住総研「おとなのための住まい学」研究委員会 編著/ドメス出版/2020年8月

 “模造紙と付箋だけがワークショップじゃない。” という帯の言葉通り,様々なタイプのワークショップ事例が紹介される。アートや介護,福祉分野での事例も含めて俯瞰することで,都市計画分野におけるワークショップの立ち位置が再確認できる。戸惑いも含めて多義的な議論を生み出すことが出来るアート分野においては,合意形成や一義的な目的をもって行われることが多い都市計画分野のワークショップではあまり見られない工夫や発見がある。80 歳以上を対象としたアイスブレイクの実例等からは,その場の対象や目的に応じた導入の重要性が示される。ワークショップという共通言語を通じた学際的な検討を通じた発見の数々は,一読の価値がある。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

素が出るワークショップ

饗庭伸 他 編著/学芸出版社/2020年9月

 本書は公共空間活用のための指南書であり,空間を楽しくするための手順やコツがレシピとして紹介される。11 の国内事例を対象としているが,各事例は6 つの「型」に分類されている。屋外劇場型,社会実験型,参加体験型,持続発展型,機能再編型,そして期間限定型。準備のための詳細な年間スケジュールやプロジェクトの収支も示されており,具体の検討がしやすいように工夫されている。COVID-19の流行により,公園などの公共空間の持つ価値が再評価されているが,公共空間の活用が地域の未来をより良くできるという著者の信念が伝わってくる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

楽しい公共空間をつくるレシピ

平賀達也 他 編著/ユウブックス/2020年7月

 まず超高齢社会の到来という現状を整理したうえで,それをチャンスととらえるため,観光行動の地方型コト消費への変化,自然環境豊かな日本のポテンシャルなどが述べられる。このことがスポーツツーリズムやスポーツによる地域マネジメントの視点へと読者を導く。行政でも国民の健康増進を目的とした体育から,余暇活動としてのスポーツへと政策の視点が移りつつある。さらに自治体等が管理するスポーツ施設の運営方法の改善やプロスポーツチームによる地域貢献活動などに言及しながら,人口減少に伴う都市の諸問題に,スポーツの力を借りていかに挑んでいくかが考察されている。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

スポーツ地域マネジメント

原田宗彦/学芸出版社/2020年8月

 本書は,東京湾岸地域を生活者目線から身体的なスケールでとらえ,建物,道路,橋梁,まちづくりなど様々な「証」から,その土地の歴史や文化を読み解いている。東京湾岸地域の情報紙で掲載された計41 本のコラムを11 地区ごとに紹介しており,地区ごとの成り立ち,地名由来があり,興味のある地区から気軽に読める。東京湾岸地域づくり学(鹿島出版会,2018 年出版)の姉妹本である。本書の対象地域は,2021 年に延期予定とされた東京2020 オリンピック・パラリンピック大会の選手村と14 の競技会場があり,この地域を見つめるにはお勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

ぐるっと湾岸再発見

志村秀明/花伝社/2020年7月

 気候変動による自然災害が近年多発しており,グリーンインフラを取り込んだ治水対策が大きく扱われるようになったことに加え,昨今では新型コロナウィルスによる行動制限やテレワークなど,心身ともに疲労した健康対策としてグリーンインフラの重要性が意識的にも大きくなってきた今だからこそ価値のある一冊だといえる。総520 頁と読み応えのある内容だが,グリーンインフラを巡る動向や取り組みなどの知見や方策が網羅されており,土木,建築,都市計画など幅広い分野の必要な情報がカバーされている。実務者だけでなく,都市に関わる分野を学ぶ学生にも是非一読して欲しい。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

実践版!グリーンインフラ

グリーンインフラ研究会 他 編/日経BP/2020年7月

 多くのエリアマネジメント組織が,財源に関する課題を抱えている。そうしたなか本書は,わが国において海外に比べて立ち後れているエリアマネジメントの財源確保について体系的に整理したものである。前半ではエリアマネジメント制度の仕組みと財源について,後半では関係者が資金負担をする根拠となる「効果」の示し方について,それぞれ整理している。国内外の先進事例が豊富に紹介されており,持続的なエリアマネジメントを模索するうえで多くの示唆を授けてくれるだろう。エリアマネジメントに携わる実務家や研究者に広く一読を勧めたい。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画349号 2021年3月15日発行)

エリアマネジメント 効果と財源

小林重敬 他 編著/学芸出版社/2020年3月

 東京都立大学及び首都大学東京の地理学教室において蓄積されてきた,世界都市・東京に関する地域研究の知見が集約された一冊。地形・気候や動植物,歴史文化や経済・観光など,自然地理学と人文地理学に基づく各論で独立した章構成を取り,全体を通して読むことで総論的に東京の都市形成の背景や現況の都市構造が理解できる構成となっている。東京という都市を論じる上で,押さえておきたい都市形成の背景や現況に関する基礎的な項目が概括的に整理されており,まちあるきの際の手引き書としての利用や,高校地理からの応用的な学習,学生の研究テーマの検討などにお薦めしたい。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

東京地理入門

菊地俊夫・松山洋 編/朝倉書店/2020年4月

 本書ではまちづくりを「地域課題の解決や生活の質の向上のための活動を住民らが主体的に行うこと」と定義し,まちづくりプロジェクトを「定常的なルーチンワークとは異なるテーマ型の活動」と定義しており,プロジェクトの始まりから終わりまでに検討・留意すべき内容が流れの中でまとめられている。また,広報に用いるメディアの特徴と用途別の向き・不向きの一覧表や,まちづくりプロジェクトの担い手組織の特徴(根拠法や設立の方法,税制上の特例など)の細やかな情報整理もなされている。筆者が携わった具体事例の紹介や,助成金コンペの企画書を審査する例題等の工夫により,まちづくりプロジェクト未経験者でも理解しやすい一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

まちづくりプロジェクトの教科書

小地沢将之/森北出版/2020年5月

 アメリカにおける空き地・空き家問題の解決にむけた取り組みを紹介し,日本の現状と比較しつつ分析した一冊である。筆者自身の調査にもとづく豊富な事例紹介は,行政当局の現場感覚を垣間見ることができる詳細なものであり,その参照価値は高い。本書の端々からは,周辺に不利益をもたらす空き地・空き家への対応には私権制限も辞さないという,当事者自治体のシビアな姿勢が伝わってくる。それゆえに紹介されている解決方策の多くは本邦の現状に照らすとかなり大胆に見えるが,本書の最後には日本が参考とすべき点が簡潔に整理されており,多くの示唆に富む。空き家問題に取り組む研究者,実務者に一読を勧めたい。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

アメリカの空き家対策とエリア再生

-人口減少都市の公民連携

平修久/学芸出版社/2020年3月

 都市公園に関わる際に直面する課題や疑問に対し,その理解の助けとなる「都市公園法」と関連する法令の規定や考え方を市民・民間事業者・行政の3 者の対話形式により紹介している。都市公園の基礎知識だけではなく,民間事業者による整備・管理運営,行政の課題とその対応方策など,公園に関わる主体の問題意識やその関わり方が理解しやすくまとめられている。それぞれの話題の最後には,法令を読み解く際のヒントとなる「条・項・号の違い」や最新の事例が示されており,公園専門の職員でなくても,都市公園の法律の理解やその運用ノウハウとして活用しやすい。まさに,都市公園を使いこなすための取扱説明書となる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

都市公園のトリセツ

平塚勇司/学芸出版社/2020年7月

日本建築学会「まちの居場所」研究ワーキンググループの研究成果として,各研究者によって活き活きとした研究・調査・実践事例を紹介している。誰かの居場所をどのように「作る」のか,その難しさとともに,誰かの居場所であり続けるためには,誰かが「支えて守って育てて繋ぐ」ことも大切な視点であると改めて考えさせられた。また,その人自身で作り,支えて守って育てて繋ぐような「まちの居場所」に対して,専門家は気配を消しながらどのように関与していくのか,今後より考えていく必要性を痛感した。巻末にある豊富なアイデアと多彩な書籍の紹介は,それらの課題の解決策を導く援けになるだろう。

紹介:企画調査委員 三友奈々

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

まちの居場所 ささえる/まもる/そだてる/つなぐ

日本建築学会 編/鹿島出版会/2019年9月

 本書は,「人」に焦点にあて,ヤン・ゲールが目指す「人間の街」を実現するために力を尽くした仲間たちの物語を通して,人間重視の街づくりの理念と実践が書かれている。都市のデザインは,移動の負担を最小限に抑え,人びとが公共空間での生活を楽しむことを可能にし,人びとが偶然に出会う機会をつくりだし,常に人びとを第一に考えることで,社会的交流の多様性を最大限に高めるものでなければならない。本書では,ヤン・ゲールが「人びとを可視化」しながら,コペンハーゲンでの実験による理論の開発・検証,世界各国で出版された著書,世界各地で
のプロジェクトが書かれており,公共空間を人間の場所にすることを考えるにはお勧めの一冊である。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

People Cities 人間の街をめざして

-ヤン・ゲールの軌跡

アニー・マタン 他 著、北原理雄 訳/鹿島出版会/2020年7月

 本書は,交通計画の基本からMaaS や自動運転などの新しい交通技術などの幅広い内容に触れながら,学ぶ人に最も基礎的な内容を伝え,また,図表を多く用いてわかりやすく解説している,さらに,授業と社会のかかわりを理解してもらうため実際の交通計画事例を紹介しているのが特徴である。事例を多く掲載しながら,平易かつ丁寧に記述しており,学生が容易に予習することも可能な内容に配慮しており,また,アクティブラーニングの反転授業にも用いるように配慮しており,交通計画の基礎とは何かを理解するのには,よいテキストであると言える。

紹介:企画調査委員 梶田佳孝

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

わかる交通計画

森田哲夫 他 編著/学芸出版社/2020年4月

 国際的な観光客増加を背景に観光地間の競争が激化しており,国や地域はブランドを構築,強化し,世界に向けて発信していくことが求められている。本書では文化,芸術,伝統への共感,住民の魅力の創出,環境への配慮,社会への貢献といった様々な視点からプレイス・ブランディングの意義と可能性を論じている。まずプレイス・ブランディングを実践するための手法を10 のステップで解説し,さらに国内外の先進事例を紹介している。歴史的な経緯や展開が丁寧に解説されており,観光やまちづくりを専門としない人にも読みやすい内容となっている。これからの観光業を考える上で重要となる知識やノウハウがまとめられている良書といえるだろう。

紹介:企画調査副委員長 村上暁信

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

DMO のプレイス・ブランディング

宮崎裕二 他 編著/学芸出版社/2020年6月

 この物語は著者が,観光施設としての活用に向けて空き家となっている飯坂町の名門・堀切家の屋敷を訪れるところから始まる。屋敷の母屋の取り壊しが既定方針となっていたが,その理由の一つは部屋の造りも庭の造りも質素だからであった。福島県筆頭の豪農・豪商の母屋とは思えず著者は不思議に思う。その後,案内された蔵で目を奪われたのは,至る所に外国の荷札や旅行標識が貼り付けられた古い大型の旅行鞄。家屋敷より世界を歩き外交や政治・経済・行政に関わり,国を開き地域に尽くすことこそ堀切家の精神であり,こうした人物を誇ることが国の光を観せるという本来の観光であると気づかされる。関東大震災・戦災からの復興に携わり,住民主権の制度構築を求めた堀切善次郎の生涯をぜひ知ってほしい。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

堀切善次郎伝

紺野浩/まちづくり技術士事務所/2020年4月

 約一年前に出版された前作から後の世界中でのスピード感をもった様々な動きを踏まえつつ,MaaSの深め方・広げ方(とその意義)を考察している。具体プレイヤーへのインタビュー記事も多数掲載されており,MaaSは “生活者にとっても都市にとってもメリットがあるように行動を変えることまでできるのが本当の価値”と語るスタートアップ企業Trafiマネージングディレクターのクリストフ・シュミンケの言葉が印象深い。こうした記事を通じてMaaSの考え方や理論を腑に落としつつ,交通を出発点として新たなものの見方を獲得できる良書。MaaSを単なるバズワードに終わらせたくない,という筆者たちの思いが伝わる一冊となっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

Beyond MaaS

日高洋祐 他/日経BP/2020年3月

 建築設計,環境設計,都市計画という少しずつずれた専門を持つ3名が,40年を超えて一つの町に携わり続けるとどうなるか。本書にはその結果の一端が示されている。主に建築と土木の設計について紹介がなされており,数多くの図面と写真を通して町の姿を知ることが出来る。目を引くような印象的な公共施設,町全体の風景に馴染み,時間経過によってさらに調和が深まる住居・道路・公園。住宅建築コンクールと景観条例の制度を通じて,少しずつ変わってきた町に対する筆者の思いを知ると,まちづくりにおいて長期展望を持つことの重要性を再確認させられる。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

金山町-中心地区-街並みづくり100年計画

林寛治 他/求龍堂/2020年3月

 本書では,筆者らが考案した建物のペンキ層の「こすり出し」により現れる「時層色環」を用いた建物の実体及び住み手を対象とする町並み色彩調査の手法を軸として,活動のきっかけとなった函館市西部地区に加え,比較対象である神戸やボストンにおいて実施された町並み色彩形成の仕組み調査が記録される。併せて,函館においてそれらの調査から派生的に繋がっていった色彩まちづくりのムーブメントへの展開も記述されており,町並み色彩計画において,動的に変化する「生活環境色彩」という地域の歴史・文化やコミュニティ・生活意識に基づく観点の重要性など,記号・数値化された色彩論とは異なる町並みと色彩の新たな関係性が提案されている。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

色を使って街をとりもどす

柳田良造 他/学芸出版社/2020年3月

 都市を構成する色の選び方と設計手法について,見方や考え方が取りまとめられた一冊。建築・土木のデザイナーや景観まちづくりの実務を担う行政職員が,自身で色を選択し,組み合わせを考える手助けとなるよう意識されている。前半は「色を知り/色を考えるための50のヒント」として環境色彩デザインの考え方や配色の効果,自然界の色彩構造,まちなかでの色の方法論が綴られている。後半には色彩を使いこなすための最低限の基礎知識と,実際の建築・土木構造物から彩色した目安が紹介されており,色彩計画の実践ノウハウも充実している。色彩を説く書籍よろしくオールカラーで,見開き2頁に1つのヒントが簡潔に説明されており楽しく軽やかに読み進められる。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

色彩の手帳

-建築・都市の色を考える100のヒント

加藤 幸枝/学芸出版社/2019年9月

 都心部における駐車場に関する課題に柔軟に対応するための,附置義務駐車スペースの減免を核とした「地域ルール」について,約15年運用されてきた大丸有(大手町・丸の内・有楽町)地区の先進事例を軸に詳説された書である。日本の駐車政策の変遷をたどりながら,地域ルールの誕生に至る背景や効果が述べられており,まちづくりへの展開の考え方も理解しやすい。ルール適用申請,計画審査,需要推計といった実務事項のほか,住民参画の実現のための組織運営についてもまとめられている。今後新たな地域ルールを検討する際に,その思想・本質を理解し,まちづくり計画の中で地域実情に見合った駐車施策の解を模索するには大いに参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

駐車施策からみたまちづくり

大手町・丸の内・有楽町地区駐車環境対策協議会 編著/成山堂書店/2019年11月

 戦後住宅不足解消のための住宅政策により,経済成長・人口増加の時代において特に中間所得層による借家から持ち家へと住まいの「はしご」を登るライフコースが標準化され,「マイホーム」を手にする人々が増えていった。しかし,バブル経済崩壊後,高齢化,若年層の雇用不安定化などにより住まいの「はしご」を登ることが困難となる人々が増え,「マイホーム」を手にするというライフコースが揺らぎ始めている。本書は日本における住宅政策と諸外国との比較や,戦後から経済成長,高齢化,経済政策など多面的な要素から住宅政策の重要性と困難性を問題提起しており,成長後社会においてのこれからの住宅政策の重要性を伝える一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

マイホームの彼方に

平山洋介/筑摩書房/2020年3月

 世界の自然災害の中で,発生件数が最も多く,大きな人的・経済被害を出しているのは台風やハリケーンなどの降雨や強風による水害である。2005年8月末にアメリカ南東部を襲った大型ハリケーン・カトリーナの災害の全貌と,被災地ニューオリンズ市の住宅復興政策,復興戦略・計画技術を論じた本書は,丹念なフィールド調査により,州政府の住宅復興政策と市当局のプログラムの実態を明らかにしている。ボランティア労働力を活用した住宅修繕や,居住環境の再生に向けた地域住民による総合的な復興まちづくりといった内容は,防災・減災,建築・都市計画に従事する行政職員はもちろん,これら分野を学ぶ学生にも参考となる一冊である。

紹介:企画調査委員 菊池佐智子

(都市計画347号 2020年11月15日発行)

米国の巨大水害と住宅復興

近藤民代/日本経済評論社/2020年2月

 公共空間のマネジメントについて,理論的考察に加えて,実証的研究プロジェクトの分析を通して課題を描出するとともに,改善のための解決策を提示した一冊である。本書は二部から構成される。第一部では,多岐にわたる文献に基づいて,概念の整理,議論の潮流の整理などを通して,実証的研究のための土台が用意される。第二部では,三つの実証的研究の成果に基づいて,理論・実践両面での幅広い議論が展開され,課題と解決策が示される。分析対象とする事例は世界各国に及び,公共空間マネジメントの課題と解決の方向性に関して,国際的視座から俯瞰する視点を授けてくれる。

紹介:企画調査委員 山村崇

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

パブリックスペース

-公共空間のデザインとマネジメント

マシュー・カーモナ 他 著/鹿島出版会/2020年1月

 銀座通連合会の100年史。A4版・224頁のボリュームで,銀座の様々な場面を切り取った写真を含む“いま”につながる歴史と,100周年座談会・歴代会長理事長インタビューを収録。多くの歴史的記録が取りまとめられており,“欧米大都市においてはむしろ歩道の広さを競うの風あり”として車道拡幅への抗議を示した大正十年の東京市への請願書等,現代でも通じる半世紀以上前の議論・提案の数々。シンボルである柳の撤去と復活,歩行者天国誕生や銀座ルール条例化の経緯をみて,地元と行政の関わり合い方に思いを巡らせるのも面白い。オリンピックやオイルショック,モボ・モガなど,社会的・文化的な動きも幅広く整理されており,当該地域を知るにあたり知っておきたい歴史背景が一つにまとまっている。

紹介:企画調査委員 松本浩和

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

次の,100年へ。次の,憧れへ。

銀座通連合会/銀座通連合会/2019年12月

 本書では関心が高まるデンマークの社会モデルの日本における応用を念頭に置き,横断的な切り口からその社会システムが紹介される。前半は格差の少ない社会システムが形成されてきた背景,都市デザインにおけるサステイナビリティの実装,北欧型民主主義に基づく行政システム,クリエイティブな産業活動の特徴など,デンマークのスマートシティの特徴である広範な領域を取り巻く論点からの整理が展開される。後半は上記をベースに形成されてきた「人間中心」の思想に基づくスマートシティなどの社会プラットフォームのフレームワークや,日本へのローカライズに関する考察がなされている。文化・歴史的背景を含めた他国の社会モデルを相対的に捉えることで,日本の文化風土を生かした社会システムの導入・検討に資する一冊である。

紹介:企画調査委員 濵田愛

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

デンマークのスマートシティ

中島健祐/学芸出版社/2019年12月

 本書はドイツのエアランゲン市を拠点として活動する著者がドイツの地方都市について様々な視点から述べるシリーズである。エアランゲンは人口10万人程度の地方都市だが,人々の活気の高さ,深い愛着,高いGDPを誇る経済力に対し,疑問を生活者視点で丁寧に解説していて,とても読みやすい。今回はスポーツに着目しているが,ドイツではサッカーをはじめ,サイクリング,ウォーキングなどスポーツが政治や都市構造を動かす原動力になっていることがよくわかる。平地が多い地形や国民性の違いから,日本の都市ですべてを取り入れることは難しいが,本書をもとに日本に合う方法を考えるきっかけになるだろう。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

ドイツのスポーツ都市

高松平藏/学芸出版社/2020年3月

 外国人観光客の増加によるオーバーツーリズムにより,地域資源の破壊,交通渋滞,地価高騰など,様々な地域で社会問題となっている。また,映画やSNSなどソーシャルメディアが生み出す新たな問題にも触れている。本書では,有名観光地として,バルセロナ,ハワイ,ヒマラヤ山脈,京都,沖縄など有名観光地の問題をデータに基づき丁寧に解説されており,観光やまちづくりを専門としない人にも読みやすい。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により観光にも大きな影響を与えたが,公共交通や衛生面でも
人々の意識が大きく変化した今だからこそ,今後の観光を考えるための重要な位置づけとなる一冊といえるだろう。

紹介:企画調査委員 沼田麻美子

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

オーバーツーリズム

高坂晶子/学芸出版社/2020年3月

 本書は,アートを通じたクリエイティブな活動がもたらす地域の活性化とそこに至るまでのプロセスや,担い手が育ちまちづくりへとつながる可能性を既存の公共施設を活用した事例等アートを実践する側の目線として紹介している。クリエイティビティは,芸術家や一部の専門家だけが持っているものではなく,人々の日々の営みの中で,より良い環境を求めて生きる知恵として発揮さて行くということが,実践に基づき示されており,近年のアートによる地域活性化やまちおこしについてヒントをくれる。また,住民主体によるクリエイティブな活動は地域との様々な化学反応により,アートに留まることなく,様々な文化活動へと裾野を広げていく。地域の魅力発見や地方創生,地域資源の活用による地域活性化やまちづくりへの有益な知見となる一冊である。

紹介:企画調査委員 田口大泰

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

アートがひらく地域のこれから

野田邦弘 他 編著/ミネルヴァ書房/2020年3月

 都市の骨格を構成するストリートについて,通行空間以外の滞留や交流といった多様なアクティビティを実現し,地域の象徴的空間や賑わいを演出するための方法論について体系化されたものである。ハード整備のためのデザインと,活用・管理を含むマネジメントを一体的に捉えた概念として「デザイン・マネジメント」を定義し,ストリート空間を歩行者にひらくための手法について,国内外の豊富な事例に触れながら実運用におけるヒントが示唆されている。歩行者中心の道路空間の構築に向けて創設された,歩行者利便増進道路と滞在快適性等向上区域の両制度を活用・実践するにあたり,求められる知識やノウハウについてエッセンスがまとめられているといえる。

紹介:企画調査委員 稲垣具志

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

ストリートデザイン・マネジメント 

-公共空間を活用する制度・組織・プロセス

出口敦 他 編著/学芸出版社/2019年3月

 富士山は世界自然遺産ではなく世界文化遺産として登録されたことはよく知られている。本書は富士山の世界登録遺産に向けての実務や舞台裏が書かれている。世界遺産登録のためには,それまで漠然と認識されていた当該遺産の価値を所与の基準に沿って客観的に説明する必要が生じる。文化遺産では文化的背景も説明できなければならない。さらに遺産としての範囲を明確に定義したうえでその中の保護政策を明確化すること,その保護政策によって私権が制限される地権者などの同意を得ることなどが必要となる。これらの観点は価値判断の客観化や範囲の明確化など,まちなみ保全の政策にも共通するものではないだろうか。

紹介:企画調査副委員長 相尚寿

(都市計画346号 2020年9月15日発行)

富士山世界遺産登録へのみちのり

田畑貞壽 編著/ぶんしん出版/2020年2月

 サイクルツーリズムの実践方法を丁寧に解説した一冊である。コースやマップの作り方からルール・マナーの考え方まで余すことなくカバーしており,サイクルツーリズムの全容を掴むことができる。筆者らが10年にわたって実践してきた琵琶湖一周サイクリング「ビワイチ」を中心として,国内外の豊富な事例にもふれつつ,サイクルツーリズムの進め方が詳細に説明されている。具体的なノウハウやアドバイスも豊富で,本書を読めばすぐにでも第一歩が踏み出せる内容となっている。自転車を活用した地域振興に関心を持つ実務家に一読を勧めたい。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

サイクルツーリズムの進め方

藤本芳一・輪の国びわ湖推進協議会/学芸出版社/2019年10月

 「公共デザイン」とは何か。1章,2章でそれぞれの立場から専門家がその考え方について論じている。景観,都市計画,ランドスケープといった専門の違い,設計や行政といった職種の違いのある専門家である。それだけ公共デザインに関わる専門家は多岐に渡り,それぞれの見方があるのだと公共デザインについて改めて考えさせられる。3章では実際に携わった専門家が,多彩な図を交えて長期に渡る公共デザインの事例について解説している。「公共デザイン」とは何か。一言では表し難い,広汎で奥深いデザインについて,読者それぞれの立場から本書を通して考えてみてはいかがだろうか。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

まちを再生する公共デザイン

山口敬太 他 編著/学芸出版社/2019年6月

 文化施策,観光振興,産業振興,多文化共生・国際交流,まちづくり,教育の6章構成となっており,地域に関わる活動や人に着目した地方都市の事例を紹介した一冊となっている。商店街活性化や廃校活用など,既存の施設や自然などを活用できる場として捉え,経緯や主体,運営費,利用料などのその仕組みや営みが丁寧に説明されている。行政や企業など計画や施策を考える際に多種の事例から学べる内容が多く,参考になる一冊となる。また,学生でまちづくり演習や観光,都市計画を学ぶ際にも,さらに一歩先の提案を見込める原動となり得るほど実際の細かな事例が充実しており,是非一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

文化で地域をデザインする

松本茂章 編著/学芸出版社/2020年3月

 生物文化多様性とは,生態系の生物多様性と,人間社会の文化の多様性を合わせ,その相互作用を包含する概念である。両者は一般的に別々の研究対象とされるが,実際には地域の人間生活様態である文化は周辺の生態系に影響され,一方で人間の手が入ることで維持される生態系もある。前者の例では言語別の語彙の分化,後者では里山環境が挙がる。日本では都市計画の範疇は都市や通勤圏たる郊外までであり,農漁村や山林,さらには生態系はカバーしない。しかし本書は,農村から都市への人口流出で里山の維持が困難化したり,カラスなど都市に適応した生物がいたりと,都市は決してこれらと切り離せるクローズドなシステムではないと再認識させてくれる。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

はじめて学ぶ生物文化多様性

敷田麻実 他 編著/講談社/2020年2月

 本書は一般財団法人不動産適正取引推進機構の中に設置された「不動産政策研究会」における議論・研究の内容をまとめたものであり,総論および4つの各論(専門分野)の計5冊からなる。本研究会は不動産政策に関わる諸分野の専門家から構成され,学際的な視点から不動産市場の現状と課題の整理,今後の政策のあり方について検討している。不動産政策は社会の成熟や人口減少等を背景に,土地の所有権の整理や放棄地の発生,災害への対応など多様な問題を抱えており,また分野横断的な解決策が求められている。各論考では,人々の重要な資産であるとともに外部性が高いという不動産の特質をふまえ,今後の不動産政策のあり方を詳細に検討しており,今後の都市計画分野における対応策についても示唆に富むものである。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画345号 2020年7月15日発行)

不動産政策研究

不動産政策研究会編/東洋経済新報社/2018年7月

 2015年9月に国連が,持続可能な世界を実現するための国際目標としてSDGsを採択してから約4年が経過し,日本国内においても内閣府の「SDGs未来都市」など自治体や民間企業にもこの取組が広がりつつある。一方,ドイツのフライブルグ市は2016 年5月にいち早くSDGsに対応した「持続可能性目標」の修正案を議会で決議した都市であり,その取り組みは「SDGs先進都市」と呼ぶに相応しい。本書は,フライブルグ市におけるSDGsに関わる22の取り組みについて,自治体や市民,企業の活動等を具体的に紹介している。同市がこれほどまでのSDGsの先進的な都市と成り得た要因についての考察に加え,日本の持続可能な地域づくりにおける課題整理から,SDGs実現に向けた日本流の取り組みのアイデアを導いており,SDGsの実現に向けて入門から実践まで幅広いヒントをくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

SDGs先進都市フライブルク

中口毅博 他/学芸出版社/2019年9月

 「公共施設」というと「ハコモノ」,また「しまう」というフレーズは「終了・縮小する」ということを想起させるかもしれない。しかし,本書では「ハコモノ」以外にも道路等の「インフラ」,広義な意味での「まち」を公共資産と捉え,新しい公共資産を生み出す方向性や手法を提示し具体的な事例を紹介している。また,「しまう」とは質の高い公共サービスを提供できる状態にすることを目指した活動を意図しており,その成果を実際の公共施設の整備や運用に結び付ける活動として「公共施設マネジメント」を解説している。そのプロセスでは,自治体全体での整備計画の視点が語られる一方で,ステークホルダーとしての住民や民間企業等との「協働・共有」という視点も語られており,双方向での持続的な運用方法が検討されている。本書は自治体等での公共施設運営に関して参考となる一方,シュリンクしていく日本の社会構造を考える上で,都市計画や地域づくりに関わる学生にも参考となる教科書的一冊である。

紹介:総務・企画委員 松尾真子

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

公共施設のしまいかた

堤洋樹 他/学芸出版社/2019年11月

 本書では,既存のフレームの外で発生するという性質を持つイノベーションを政策に組み込むために,その変化速度に対応できる新しいルールメイキングの方法論を論じる。その実践の叩き台として,筆者自身が策定プロセスに携わった風営法の改正ならびにナイトタイムエコノミー政策立案における,署名運動を通じたボトムアップ型の多様なステークホルダーの合意形成に基づくアジェンダ・セッティングの経験が言語化・概念化されている。音楽活動を始めとする多様な価値観やライフスタイルに対する主観的な理解と,法律家としての社会における客観的な位置づけや実践戦略の記述が,バンドマンと弁護士という経歴を持つ筆者独自の視点から語られる。

紹介:総務・企画委員 濵田愛

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

ルールメイキング

-ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論

齋藤貴弘/学芸出版社/2019年5月

 7つの海外先進都市におけるコンパクトシティ政策が,個性豊かな7名の著者により各専門の観点から紹介される。基礎的なサービスや施設へのアクセスを平等に確保するという政策目標・計画思想が古くから重視されているドイツ・ベルリンや,一連の都市交通政策の継続により弛まぬ努力を続けるフランス・ストラスブールなど,各都市の特徴が理解しやすくとりまとめられている。また,各章末には取組みから何を学ぶべきかが“日本への示唆”として示されており,実務を進めるうえでの留意点としても活用しやすい。カラー写真・図面・パース図等も豊富で,資料的価値も高い一冊となっている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

世界のコンパクトシティ

谷口守 他/学芸出版社/2019年12月

 著者らが提案する逃げ地図とは,集落周辺にいくつかの避難完了地点を設定し,そこまでの徒歩所要分数を道路上に色分けしたもので,避難経路や避難場所の充実による避難時間の短縮も明確に可視化できる。歩行速度は高齢者を基準とする。本書は,逃げ地図着想の経緯,様々な地域での実践例,関係者の鼎談で構成される。評者は当初,避難時間の可視化ならGISで計算できるとの印象を持ったが,読み進めるうち,逃げ地図の目的は避難時間の可視化ではなく,その作成過程を通じて地域の災害リスクや避難の改善策を住民から聞き出して共有し,避難困難者による避難の難しさを実感し,防災意識を向上,維持することだという著者らの狙いに強く賛同した。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

災害から命を守る「逃げ地図」づくり

逃げ地図づくりプロジェクトチーム 編著/ぎょうせい/2019年11月

 本書は現場の地理教員による「おすすめの授業集」である。高校の社会科では2022年度から新学習指導要領により新科目「地理総合」が必修となる。本書は,執筆者たちがこれまでに実践してきた授業の蓄積を地理総合に当てはめたものであり,受け身で暗記中心の学習を変えるための「主体的・対話的で深い学び」を追求する授業の実践事例となっている。「地理総合」の教育内容には,「持続可能な地域づくりと私たち」があり,都市計画学会においても2020年度から,ワーキンググループを設置し,高校の教育現場への具体的な支援に向けた取り組みを本格化することとしている。本書は,このような今後の高校地理教育を考える上での貴重な示唆があふれている一冊である。

紹介:総務・企画副委員長 菊池雅彦

(都市計画344号 2020年5月15日発行)

新しい地理の授業

千葉県高等学校教育研究会地理部会 編/二宮書店/2019年11月

 地域の魅力を再発見し,分かりやすく伝える「手描き地図ワークショップ」。本書は,その具体的な作例に基づいて,ワークショップの手順やコツ,活用アイデアなどを解説したものである。著者らは,手描き地図に大切なのは,作り手の良い意味で「偏った視点(“偏愛”)」であり,網羅的でなく偏っているほど,説得力があり面白くなると説く。事例に関しては,地図そのものだけでなく,制作時のプロセスや苦労話などが詳細に紹介される。地図を作る過程で,参加者が地域の魅力を再発見し,巻き込まれていく様子が伝わってくる。著者らの“偏愛”に満ちたユーモラスな文体で,楽しく読み進められる。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

手書き地図のつくり方

手書き地図推進委員会 編著/学芸出版社/2019年8月

 平成20年出版の手引きを改訂した本書。近年の技術進展に伴う調査手法の変化に対応し,交通容量調査における「ラウンドアバウトの交通容量の算出方法」や,事故調査・事故分析における「プローブカーデータの活用」等の追記がなされている。その他にも,調査日として避けるべきとされていた五・十日に関して,近年では際立って特異日でない場合もあることが数値データと併せて示されるなど,社会変化に応じた細やかな修正もなされている。実際に交通調査現場で発生しがちなトラブル事例の紹介と対処方法を整理した10章の追加と,全編を通じた章構成の再整理により,これから実務を行う人にとっては以前にも増してありがたい参考書となっている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

交通調査実務の手引

(一社)交通工学研究会 交通技術研究小委員会 編著/交通工学研究会/2019年10月

 本書は予定調和で大人しい公共空間ばかりにさせないための処方箋である。書名となっているPUBLIC HACKについて著者は,『公共空間において,個人それぞれが生活行為として自然体で自分の好きなように過ごせる状態であること』と定義する。PUBLIC HACKを体現する実践者が紹介され,自由闊達に公共空間を使う人々の楽しそうな姿が示される。また,著者自身の経験をふまえた持続するためのコツがまとめられており,“ ルールは私たちの手で更新できる”と言い切る姿には経験者ならではの力強さを感じる。自分ごととしてまちの面倒を見る人は誰か, 「間接的」なマネジメントの重要性,これ以上のことはやってはいけないだろうという思い込みからの脱却,等々,自らの生活をも見直す言葉が散りばめられている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

PUBLIC HACK

笹尾和宏/学芸出版社/2019年9月

 コンパクトシティについては,人口減少・少子高齢社会に備えて,行政サービスの効率化や財政負担を軽減する点で機能的・合理的な考え方である反面,住民の居住移転を促し既住地の居住継続を阻害しかねないことなど,各論者の立ち位置によって様々な意見があり,賛否両論が併存している。本書では,都市計画・住宅・経済・不動産・福祉・緑農地・交通の各分野の学識経験者,研究者,実務家,行政経験者10名が,コンパクトシティに対する考え方をはじめ,各政策分野や関連諸制度の課題や改善点について提言している。コンパクトシティ及び立地適正化計画を所管する行政担当部署,都市コンサルタントや開発事業者,都市・まちづくりに関心のある皆さんに一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

「コンパクトシティ」を問う

山口幹幸 編著/プログレス/2019年5月

 近年にぎわい創出やまちの魅力醸成する効果があるとして,対面形式で商品や農作物を購入するマルシェが注目されている。しかし,東京で出店すれば売れる,新鮮であれば売れるという単純な発想で始めると失敗すると本書が教えてくれる。筆者が長年培った「運営」と「出店」ノウハウをまとめており,出店者側から知識を得られるだけでなく,利用者は見て,選んで,会話する対面式で楽しんで買い物ができる場としての価値についても述べられており,さらにマルシェを中心とした人と人の繋がり,地域に根付いたコミュニティ形成を理解できる一冊となっている。まちづくりに関わる人に是非読んでいただきたい。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

マルシェのつくり方,使い方

脇坂真吏/学芸出版社/2019年9月

 本書は,タイトルこそ地形と銘打っているが,その興味の根本は都市や集落と水との関係にある。生活用水,農業用水や工業用水の確保,防衛手段や交通路としての水の利用など,人間生活と水との関わり方は多様である。都市や集落がその水とどのように付き合っていくかを強く規定するのがタイトルに出てくる地形である。本書では6章に分けて,都市の成立背景の類型ごとに,対象地域の詳細な解説がなされる。概ね古いほうから時代が進むように構成される。また,古代や港町の項を中心に,集落の地図にかつての海岸線が描き入れられており,現地に立っただけでは想像の及ばない,「まちを読み解くヒント」が得られるのも,本書の魅力である。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

地形で読みとく都市デザイン

岡本哲志/学芸出版社/2019年9月

 本書は,岩手県大船渡市の綾里という一つの村の,明治,昭和,東日本大震災の3つの津波の間の村の変化を明らかにしたものである。著者らの専門は,都市計画,建築,防災,建築都市史,文化人類学,歴史地理学等多岐にわたり,分析の視点も複眼的で厚みがある。行政やコミュニティの視点に偏るわけではなく,静かに客観的に地域を見守りながら,どのように空間が形成されたのか,生業や経済,地域社会の記録を丹念に調べ,村の仕組みや制度に動かされて津波の間を過ごした人の歴史を明らかにしている。地域の人への継続的で丹念なヒアリングがそれを裏付ける。復興後や復興事前準備では,災害の間の地域づくりが求められる。単なる地域の記録に留まらず,それらへの貴重な示唆があふれている一冊である。

紹介:総務・企画副委員長 菊池雅彦

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

津波のあいだ,生きられた村

饗庭伸 他/鹿島出版会/2019年9月

 Place Making。現代都市計画の重要なキーワードである。本書は,日本で初めて,その誕生の背景を理論的に整理し,都市デザインないしは都市計画手法としての可能性を探求をしつつ,方法論を体系的に整理し,ケースの紹介を行った良著である。都市社会学者のWilliam Whyteの研究成果を発展させるために1975年に設立されたProject for Public Spaces(PPS)によるThe Power of 10なども含めつつPlace Makingのプロセスと方法を10のフェーズと10のメソッドとして整理し,この枠組に沿って内外の事例を整理し直した。読者は,「結果」だけでなはく,「どのように進めるべきか(プロセスや具体手法)」を理解できる。学部生,大学院生はもちろん,各地で実践に取り組む若手実務家にとっても必読の書といえるだろう。

紹介:総務・企画委員会担当理事 小泉秀樹

(都市計画343号 2020年3月15日発行)

プレイスメイキング

園田聡/学芸出版社/2019年6月

 2018年9月にフィンランドを訪れ,行政担当者やMaaSオペレータと議論した著者が抱く,日本の様々な媒体によるMaaS報道に対する懸念。MaaSが単なる新規ビジネスのネタではないことを伝えるため,ヘルシンキの交通政策やこの地でMaaSが生まれた背景を丁寧に記述している。続いて世界と日本のMaaS代表例の概観や,都市型MaaSと地方型MaaSの違いの考察が,ビッグデータ・ニュータウン・貨客混載・自動運転等の多様なキーワードと共に述べられる。最終章ではロードサイドの大型商業施設の撤退,水道事業の民営化への懸念,単なる連接バスをBRTと称すること等の事象にも触れつつ,MaaSが日本に根付くために求められることをまとめている。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

MaaS入門

-まちづくりのためのスマートモビリティ戦略

森口将之/学芸出版社/2019年8月

 「風景」は身近な言葉でありながら,学問として捉えたときには,文化,歴史,価値観,時代や社会状況を通して見えるものであり,なにより,「人」と「環境」との関係において成り立っているものと気づかされる。本書では,風景とは何かという「風景計画の理念」が論じられた後,風景計画の策定,その実現や管理に至るまでの作業過程を体系化し,具体的取り組み事例を示しまとめている。風景計画における目標像の共有はすなわち地域の目標像となることであり,これを実現するのが地域づくりであるということを,各章を読み進めることで理解できる構成となっている。本書は風景計画学の基礎から実践までを学ぶ教科書的一冊であり,地域,まちづくり分野においても参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 松尾真子

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

実践風景計画学

日本造園学会・風景計画研究推進委員会 監修/朝倉書店/2019年3月

 何も知らないまちを初めて歩く時,どのくらいの情報を読み解き,どのように感じることができるだろうか。現在我々が知覚しているまちは,様々な歴史的背景や構成要素が複層的に重なり合うことで成立している。本書では,それらの情報を主体的に体感し,構想する能力を“まちのリテラシー”と表現し,まちのリテラシーを高めるために筆者らが実施してきた Walkin’ About というまちあるき企画を通じて得た知見が集約されている。農業,製造・物流業,サービス業,住まい,駅前,都市計画,災害,愛着という切り口で各事例を読み解く構成を取り,豊富なビジュアル表現と共に親しみやすい語り口で紡がれた多様なストーリーは,初学者にも分かり易い,まちあるきの入門に最適な一冊と言える。

紹介:総務・企画委員 濵田愛

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

歩いて読みとく地域デザイン

山納洋/学芸出版社/2019年6月

 本書は,科学研究費助成事業「人口減少・経済縮小社会での空間利活用の整序政策における合意形成システムの研究」に基づき「合意形成研究会」のメンバーにより実施された共同研究の成果であり,戦後日本の人口増加・経済成長社会とは異なる現在の日本の趨勢を反映した,縮退社会における空間制御をめぐる合意形成を問うている。第1部では合意形成に関する定義や理論的探求が実施され,第2部・第3部では,合意と合意形成を枠づける法の作用,自治体の政策決定の実態,という枠組みで個別事例に基づいた具体論が展開されている。空き家問題など縮退社会で顕在化しつつある具体的な空間利活用の課題を想定した合意形成の議論は,実践・理論の双方の観点から,示唆に富む一冊である。

紹介:総務・企画委員 濵田愛

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

縮減社会の合意形成

-人口減少時代の空間制御と自治

金井利之 編著/第一法規/2019年1月

 本書は,東日本大震災で被災した岩手県上閉伊郡大槌町の東端に位置する赤浜地区の復興の現場に焦点をあて,プランナーの側から見た復興に至るまでの過程における様々な現場の実情や住民や町役場職員と共に模索した復興計画立案の記録である。復興計画策定のプロセスで,事業用地確保の問題や被災者の望む復興のあり方の変化などの要因により何度も計画が見直されたことから,めまぐるしく変化する事象の中でどう対応すべきだったのか,今後どう対応できるかを当事者の反省を踏まえて考察している。住民からの評価や復興に関与した行政職員,建設コンサルタントなどの回顧も掲載されており,津波被災などの災害からの復興に関する有益な知見を伝える一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

津波被災集落の復興検証

-プランナーが振り返る大槌町赤浜の復興

窪田亜矢 他/萌文社/2018年11月

 本書では自動運転など次世代モビリティの実現が都市空間に与える影響について考察する。自動運転でカーシェアの自動配車が実現すれば,各々が自動車を持ち駐車スペースを確保する必要がなくなるため,駐車場用地を生活の質向上のため他用途に転用できる。従来の交通工学は効率良く「運ぶ」ことを追求してきたが,今後は人生で一定の割合を占める移動時間を豊かにすることが重要である。いずれも「空飛ぶクルマ」や「どこでもドア」のようなSFの世界ではなく,現実味のある近未来への提案である。筆者が指摘するように都市インフラはすぐには変更できないからこそ,都市計画でもその前提条件,制約条件の変化の兆しを見逃してはならない。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

近未来モビリティとまちづくり

安藤章/工作舎/2019年8月

 本書はシカゴを舞台としたフィールドワークを軸に,現代社会におけるコミュニティプラクティスの実態と役割を考察したものである。分析対象は,人口減少,犯罪,貧困,人種差別等の問題が重層的に生じている3地域のコミュニティ活動。人口減少により市場が機能不全となった地域での非営利主体による介入の実態や,移民女性が底辺労働や差別で傷ついた尊厳を回復していくエンパワメントの過程などが,当事者への丹念な聞取り調査によって鮮やかに描き出される。世界随一の高齢化・人口減少に直面するだけでなく,外国人受け入れ拡大に舵を切ったことで,コミュニティの役割にますます大きな期待がかかる日本社会に対して,多くの示唆に富む一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

人口減少社会のコミュニティ・プラクティス

-実践から課題解決の方策を探る

仁科伸子/御茶の水書房/2019年3月

 近世江戸が明治東京へと変貌していく過程について,とくに「都市インフラ整備に皇居造営が果たした役割」という視点から解き明かしていく。本書では新たに公開された宮内庁資料などに基づいて,天皇を「東京」にお迎えするために明治宮殿の御造営に投入されたさまざまな新技術が,その後の明治東京の道路,水道など,土木・都市インフラ整備の根幹を形成していく過程が描かれる。都市計画では計画図書図面や現出・現存する都市の姿,その重層から都市を実感することが多いが,都市計画専門ではない歴史研究者らが施工技術,材料と物流から計画を実現する創意工夫を読み解くプロセスは,都市計画を学ぶものとしても興味深い。

紹介:総務・企画委員長 篠沢健太

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

明治がつくった東京

伊藤一美 他 編/同成社/2019年4月

 お金=豊かさ,の時代から,つながりやほどよい居心地を豊かさと感じる時代への変化。そんな時代の変化をとらえ,新しい生き方を選んだ人たちの事例。Farmer,Builder,Maker,Sports Business,Urban Permaculture,Area Developer の6つの立ち位置,それらは時に交じり合い,時に重なり合いつつ魅力的な生活を形成する。見やすく配置された写真がその魅力をダイレクトに伝え,従来のやり方と新しいやり化を対比した模式図が各事例の理解を助けてくれる。ある程度の人口密度もあり,郊外の自然にも近接した神戸というミッドサイズシティの持つポテンシャルを再発見しつつ,他の都市のポテンシャルを考えるきっかけとなる。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

ローカルエコノミーのつくり方

神戸から顔の見える経済をつくる会 著/学芸出版社/2019年6月

 「都市空間のつくり方研究会」の約6年間にわたる議論の成果をまとめた本書。第1章では日本各地の16の空間を取り上げ,その空間の魅力がどこにあるか,その空間がいかにつくられたか,が述べられる。
続く第2章では,“小さな空間”と“大きな都市”との関係が示される。計画単位としてどの程度のスケールを想定するべきか?,そもそも将来の目標を立てることは可能か?あるいは有効か?等,従来の都市計画に対して抱く疑問点を提示したうえで,第3章では本のタイトルともなっている著者らの結論を実現するための10の方法がまとめられる。これからの都市計画を考える,専門家に限らない全ての方々に読んでほしい一冊。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

小さな空間から都市をプランニングする

武田重昭 他 編著/学芸出版社/2019年5月

 本書は,法政大学「江戸東京研究センター」設立記念国際シンポジウム「新・江戸東京研究―近代を相対化する都市の未来」の成果をまとめたものである。第1部には,建築家の槇文彦氏,文化人類学者の川田順造氏の基調講演がまとめられている。それぞれの幼少期からの生活体験を通じ,東京の「山の手」と「下町」双方の空間感覚や特質が描き出され,東京の多様性や魅力を,講演会の臨場感をもって理解できる構成となっている。第2部では海外の専門家を交えた,3つのセッションが収録されている。海外からの視点を通して東京の歴史や文化,その資質についてプレゼンテーションや議論が展開され,未来へのビジョンが示されている。東京を再考する書籍として,お勧めの一冊である。

紹介:総務・企画委員 松尾真子

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

新・江戸東京研究

-近代を相対化する都市の未来

陣内秀信 監修/法政大学出版局/2019年3月

 本書は,故石田頼房先生の都市計画の詳細な「講義メモ」を骨格として,石田先生の都市計画の思想すなわち市民の立場に立ち,その上で,公・共・私の協働による都市計画や街づくりに求められるもの,留意されるべきものを述べている。内容はパリと東京の都市計画,都市近郊地域における土地利用計画,土地利用制限,地区交通計画,公園緑地,土地区画整理事業,市街地再開発,防災など幅広い内容で,歴史的な経緯なども含めて,市民の立場から述べており,教科書的で,都市計画の基礎とは何かを理解するのには,よい一冊であると言える。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

市民が出会う都市計画

岩田俊二/農林統計出版/2019年6月

 区分所有法の施行から50年を経過し,すでにマンションは主要な居住形態の一つとして定着した。建物は老朽化するため,将来的なマンション建替えも想定した法改正も行われてきた。しかし,都心の一部以外では建替えによる住民負担額は大きいと考えられ,居住者の多様化や高齢化もあいまって建替えが困難化していると言われる。本書は区分所有法の限界を問うシンポジウムの論考をまとめたもので,区分所有成立の背景,建替えやリノベーションによる賃貸化の費用試算,独自の取り組みでマンションを「経営」する管理組合の事例などが紹介される。区分所有を否定するのではなく,より柔軟なマンションの将来を実現するための制度整備を訴えている。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画341号 2019年11月15日発行)

壊さないマンションの未来を考える

住総研「マンションの持続可能性を問う」研究委員会 編/プログレス/2019年6月

 本書の特徴は,著者が撮りためてきた多くの都市風景のカラー写真。読み手に優しく語りかける「はじめに」に続き読み進めると,本文と写真が交互に現れる構成となっており,お互いが緩やかに関連づけられている。テーマごとに整理された写真群を見て,訪れたことのある街に対する自らの感覚と筆者の視点を比較するもよし,行ったことのない魅力的な街に思いを馳せるもよし。都市と向き合う,とはどういうことかを考える上での金言の数々が,その裏付けとなる丁寧な説明によって自然に理解でき,また深く心に残る。“堂々たる日常を過ごせ”の言葉に,ハッとさせられる。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

都市から学んだ10のこと

-まちづくりの若き仲間たちへ

西村幸夫/学芸出版社/2019年4月

 「“かわす”まちづくり」,「再生エネルギー」,「水上機」という三つの柱を据えた挑戦を,復興支援の中に続ける著者らの研究グループ。その7年間に及ぶ活動とともに,それらの発想の原点となる「建築」と「土木」の融合による活動が,多くの融合の阻害要件も含めて紹介される。多くの写真やパース図によりイメージしやすいように配慮されており,また海外視察の結果やコンペでの各提案の比較などの興味深い周辺情報も多く示されている。震災復興について再考する際の一助となる書籍である。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

3・11復興プロジェクトの挑戦とその射程

伊澤岬 他/彰国社/2018年12月

 本書は,芝浦工業大学が実施した文部科学省の「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」の実践成果を3部構成でとりまとめている。第Ⅰ部では大学と地域の関わり方の経緯や大学COC事業の要点が整理され,第Ⅱ部では実施したプロジェクトの一部をそれぞれの担当教員が解説している。第Ⅲ部では,学内コーディネーターが全てのプロジェクトの内容を俯瞰的に分析している。本書では,大学の教員による多様な地域連携活動が,地域さらには海外と交わることで,教育,研究,社会貢献の量質がいかに高まるか,また産学官民連携による「地域共創」の実践に寄与するか等が整理されており,大学と地域の連携を志向している様々な立場の皆さんに一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

大学とまちづくり・ものづくり

-産学官民連携による地域共創

芝浦工業大学 地域共創センター 編著/三樹書房/2019年3月

 本書は,冒頭で,風景・景観の概念と用語,既往研究を整理したうえで,風景計画の実現から管理まで章にわけて,考え方や具体的な作業手法を論じている。事例紹介では,国立公園,自然公園から中山間地域,温泉地という地域の個性を活かした計画事例だけではなく,計画の階層性や技術指針まで,対象を広げて説明している。また,コラムでは,最近の取組や考え方を紹介しており,読者が飽きることない工夫がされている。よって,計画の策定からその実現,管理までを体系的に示した書籍として,院生等向け教科書,副読本としてお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 菊池佐智子

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

実践 風景計画学

古谷勝則 他 編/朝倉書店/2019年3月

 エクスカーションとは,現地を実際に訪れ,地質や気候,それに影響された生活文化や産業立地を直接見聞する教育プログラムである。海外での実施には,教育目標に応じた対象地の選定と旅程の組み立て,引率する学生分を含めた宿泊や交通手段の手配,安全衛生面での配慮など,多様なノウハウが求められる。本書は筆者らによる実施例を,目的,旅程,留意事項,事前事後学習などを交えて紹介する,いわばカタログと言える。分野も地質などの自然系,産業や市民生活など社会系など多岐にわたる。行き先も距離的に近い東南アジアのほか,欧米の比較的有名な観光地や自治州などが含まれる。旅行ガイドブックでは得られない知識と視点を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画副委員長 相尚寿

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

地理を学ぼう 海外エクスカーション

島津弘 他 編/朝倉書店/2019年3月

 本書は,高齢化と人口減少のもとで空き家が増加するなか,良質な住宅ストックを若い世代が利活用できるように既存住宅流通の活性化や世代間循環システムに関する論考が収められている。まず,「団塊世代が形成した郊外住宅ストックの世代間移転とその可能性」としてまちの魅力の創造に関する方策等が示されたのちに,「住宅の使用価値を実体化の可能性」に関する市場の創造,評価手法,金融システム等の具体的な方策が示されている。現在,各地で取り組みが進みある事例を豊富に紹介し,このいま起こりつつある社会経済システムの変化の慣性を活用することで住宅の世代間移転という流れを生み出すという考え方の提示は,今後の都市政策を考える上での貴重な提言である。

紹介:総務・企画副委員長 菊池雅彦

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

住宅の世代間循環システム

-明日の社会経済への提言

住総研 住まい手からみた住宅の使用価値研究委員会 編/萌文社/2019年4月

 著者は,政治学の専門家であり,とりわけ地方政府の民主主義について研究を行ってきた。しかし,本書では,新築の持ち家が好まれる日本の住宅事情を取り上げて,そのことが政治的制度的な大きな問題を孕んでいることを指摘している。本書以外にも同様の切り口の図書の出版が続いており,政治学や行政学者にとっても,人口減少下にも拘らず過剰に住宅が供給される状況は,取り上げるべき重要テーマとなりつつある,ということだろう。本書では,住宅を取り巻く現在の状況が,政府による制度的介入,それは住宅政策と都市計画の双方から行われてきたが,がもたらした結果であることを,諸種の統計情報や既存研究の知見をもとに検討を加えている良書である。

紹介:総務・企画委員会担当理事 小泉秀樹

(都市計画340号 2019年9月15日発行)

新築がお好きですか?

-日本における住宅と政治

砂原庸介/ミネルヴァ書房/2018年7月

 1970年代以降に生まれた都市計画学の専門家による「次世代教科書」として,成長時代・低成長時代・成熟時代という「変化に対応するプランニング」の学問として都市計画学を再構築した書である。過去,現在,未来の視点を持って各章がまとめられており,入門書という位置付けではあるものの,それぞれの分野は精緻を極め,都市計画の広さと奥深さに改めて魅了される。読み継がれている名著や話題の近著が10章「都市計画を学ぶための72冊」のほか,参考文献として各章末に列記されており,初学者の向学心をさらに高めることにつながるだろう。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

都市計画学

-変化に対応するプランニング

中島直人 他/学芸出版社/2018年9月

 本書は,著者がここ10年で書き溜めてきた日本近現代都市計画史に関する論考を収めている。都市計画の「技術」ではなく,それを支え,規定する「思想」に着目し,人々の存在と経験が生み出す固有の「場所」を扱っている。「思想」では,高名な都市計画家,石川栄耀と高山英華に着目し,都市との関係の仕方を論じ,また,まちづくりと都市デザインの思潮・運動から都市計画の建設的批判の系譜を見出している。「場所」では,東京の地域,場所の履歴を議論し,都市計画遺産という概念の可能性を実際の事例で議論するなど多様な内容で,400ページあり,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

都市計画の思想と場所

-日本近現代都市計画史ノート

中島直人/東京大学出版会/2018年8月

 2020年のオリンピック・パラリンピック競技会場の整備が進んでいる東京湾岸地域を対象に,その歴史的文脈や魅力,面白さをフィールド・ストリートでの観察を通じて読み解き,体系的に提示している。東京湾岸地域は,著者が勤務する大学があり,そのまちづくり活動に加え,自宅もあるため,ホームタウンのまちづくりも一体として,学生と共に15年にわたる研究の成果をまとめたものである。歴史的文脈の解読,地域デザインの解読と仕組みの解明,まちづくりの提案と実践など多岐にわたる内容があり,東京湾岸地域の魅力やまちづくりの活動がよくわかり,発見のある一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

東京湾岸地域づくり学

-日本橋,月島,豊洲,湾岸地域の解読とデザイン

志村秀明/鹿島出版会/2018年10月

 本書は,地域やまちを良くするためのアイデアをどのように具体化していけば良いか,その基礎を事例に基づいて豊富な図表をもとに解説している。課題設定から,現状把握の方法,そしてそれに基づいた議論の進め方など細かく説明してくれている。また,読み方を示してくれており,第1章地域・まちづくりワークの意義と課題を読んだ後に,レベルに応じて読むべき章が示されており,住民,時間の取れない実務者から大学での実習までを効率よく学習できるようになっている。初学者は,体系立てて学ぶことができ,地域・まちづくりで悩んでいる人は,地域・まちづくりの流れを再認識することができ,多くの人におすすめする一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

実践 地域・まちづくりワーク

-成功に導く進め方と技法

谷口守/森北出版/2018年10月

 道路交通の実務者が習得すべき技術的知識について,大学研究者,行政,警察,コンサルタント等の各界における第一人者が集結し取りまとめられた一冊。交通調査,交通流理論,道路設計,交通管理・制御,交通安全,道路計画・管理といった,道路交通関連の現場において求められる基礎事項が体系化されている。今般の改訂では,自転車通行空間,ラウンドアバウト,生活道路ゾーン対策,平面交差の計画と設計等の,技術基準や整備マニュアルの更新にも対応している。本書は交通工学研究会の認定TOP(交通技術資格者)資格試験の出題対象として指定されており,道路交通分野のエッセンスについて網羅的にマスターするには必読の書と言える。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

道路交通技術必携2018

一般社団法人交通工学研究会/丸善出版/2018年5月

 我が国の道路交通に係る各種法令の改正や社会情勢の変化に合わせながら,半世紀にわたり増刷,改訂が繰り返されてきた本書は,設計の実務に携わってきた先人達の知識の集大成と言えよう。今般の改訂では,既刊の「改訂平面交差の計画と設計-基礎編」と「改訂交通信号の手引」が合流し,道路管理者,交通管理者のそれぞれが主体的に関与する技術事項が一つにまとめられた。平面交差の原理・原則をおさえつつ「実地適用」に執筆の重点が置かれており,個別の計画設計はさることながら,交通まちづくりの実際における多様な場面で即地的なリファレンスとなる。コラムや附録がより充実され,交通工学の初学者にとっても身近な一冊となるだろう。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

平面交差の計画と設計 基礎編

-計画・設計・交通信号制御の手引

一般社団法人交通工学研究会/交通工学研究会/2018年11月

 本書は多数の造園実務者が,実務の現場からその専門について記述したものである。造園分野の全貌を広く知ろうとする人にとっては都市計画と造園との重なりが広範囲に網羅されており「造園実務」の全体像を俯瞰できるだろう。しかし造園実務を行う場合,本書はそのノウハウを示すマニュアルとして機能するわけではない。実務に関わる膨大な情報の入口でしかない。ただし本書が本当の意味で「必携」な理由は,この入口のしつらえにある。実務経験を通じて多くの選択肢から何をどう選択したか?本書はその経過や理由を実務での“生き様”に基づいて切り取っている。都市計画分野の人が造園分野と向き合い,悩んだ時にときに手にしてほしい1冊である。

紹介:総務・企画委員長 篠沢健太

(都市計画339号 2019年7月15日発行)

造園 実務必携

藤井英二郎 他 編/朝倉書店/2018年12月

 なぜ空き家は発生するのかから始まり,空き家のかかえている問題や危険性など丁寧に解説さている。特に,都心30-40kmのベッドタウンなど,需要の低い地域ほど真剣に考えなければいけない時期と述べている。その対応策として例えば,人口が減少が深刻なデトロイトでは,空き家解体のための補助金が約187億円も注ぎ込まれ,その隣地の住民に空き地を優先的に譲渡する,または菜園やコミュニティガーデンへ土地利用が転換されているという取り組みが紹介されている。相続によって相続放棄など知らぬ間に自分が空き家を相続している可能性も示しており,誰しもが身近な問題として捉えなければいけないと改めて考えさせられる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

老いた家 衰えぬ街

-住まいを終活する

野澤千絵/講談社/2018年12月

 筆者は,モータウンを「自動車の存在とその交通システムによって創り出された環境」と定義し,今後もサステナブルな存在である自動車と,その自動車を巡って生み出された20世紀の建築・都市の関係性を論じている。特に本書では「生産」「居住」「移動」「消費」という4つの側面から我が国におけるモータウンの展開を分析することで,建築・都市をアノニマス(匿名)な環境として捉え,今後の環境デザインの可能性を問い直している。もはや現代の建築・都市環境整備の前提となり,人々の生活とは切り離せないほど深い関わりを持った自動車の存在を今一度捉え直し,今後の環境デザインのあり方を再考する上で最適な一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

<モータウン>のデザイン

堀田典裕/名古屋大学出版会/2018年6月

 本書は,空き家対策に関する国際比較を行ったものである。全体は六章で構成されており,一章で日本と海外の空き家対策について俯瞰したのち,二章以降ではアメリカ,ドイツ,フランス,イギリス,韓国を対象として,空き家状況と対策を詳細に紹介している。各章の末には,各国から日本がまなぶべき点が端的にまとめられており示唆に富む。筆者は,従来の空き家対策は,個別の空家に対する「点としての対応」が中心だったが,まちづくり全体の中で空き家問題に対処していくという「面としての対応」を進める必要があると説く。空き家問題に関する国際比較分析については類書が少なく,貴重な視座を提供してくれる一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

世界の空き家対策

-公民連携による不動産活用とエリア再生

米山秀隆 編著/学芸出版社/2018年9月

 本書は,生活インフラストラクチャーの代表である公園について,著者である研究チームのメンバーが,一般的に得た知見だけでなく,彼らの活動や体験,仕事や研究から得られた10年間の成果を紹介している。本書では,「みんなに使われる公園」とするため,ユニバーサルデザインの重要性について紹介するとともに,グッドプラクティスとして,先進的な取組を行っている事例や公園ごとの特性等を活かし整備・改修した事例などが整理されている。公園については,管理・運営から経営する時代となり,モノの管理から人のための運営を意識する必要性も述べられており,公園設計等に携わる専門家や専門家を目指す学生の皆さんに一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

公園のグッドプラクティス

-新しい公園経営に向けて

公園のユニバーサルデザイン研究チーム/鹿島出版会/2018年11月

 既存建物の福祉転用は,空き家,空きビルの活用し,地域に求められる福祉サービスが提供されることによって,利用者のみならず地域にとっても様々なメリットをもたらすが,建物転用の実現には,制度や習慣などにもとづく特有の壁がいくつも存在している。本書は,福祉転用に関連する法律と制度や,福祉転用実現に向けた企画・設計・運営に至るプロセスやステップを示すとともに,福祉転用の成功事例として,20の事例ごとに動機・経緯・課題・地域への効果・予算などを聞き取ってまとめている。そこからは,福祉転用は単なる既存建物の転用にとどまらず,地域そのもののリノベーションにつながる可能性も示されており,福祉転用の実践的なアドバイスだけでなく,地域の魅力を向上させるヒントをくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

福祉転用による建築・地域のリノベーション

-成功事例で読みとく企画・設計・運営

森一彦 他 編著/学芸出版社/2018年3月

 本書は題名のとおり地図帖である。ページをめくるごとに様々なテーマのカラフルな地図とその解説が現れる。しかし高校で使う地図帖以上に空間的な分布やデータの可視化方法,取り上げられているテーマは多様である。ポートランドという一つの都市を非常に多角的に眺めて並べた本書は,都市計画の第一歩である現状把握に使える多様な視点,そしてその特徴を関係者で共有し理解する表現方法の図鑑とも言える。自然条件や社会背景が異なる海外都市の事例とは言え,評者のような空間データ,GISの専門家ではなくても楽しめる。お気に入りの表現方法を見つけるために本書を手に取りページをめくってみてはいかがだろうか。

紹介:総務・企画委員長 相尚寿

(都市計画338号 2019年5月15日発行)

ポートランド地図帖

-地域の「らしさ」の描き方

デービッド・バニス 他/鹿島出版会/2018年11月

 IT企業のサテライトオフィス開設が相次ぎ,都会から若者が次々と移り住んでくる徳島県神山町。本書は,そんな「不思議な田舎町」の実像を,100人以上に対する取材をもとに描き出す。神山の魅力が,多様な関係者の実感のこもった言葉を通して,鮮やかに浮かび上がる。神山町では,地方創生の総合戦略づくりをきっかけに,行政と民間,旧来住民と新規住民が一体となって,さまざまなプロジェクトが同時並行で進み,世代交代も進んで,ここ数年でまちづくりが新たなステージへと入ったという。進化し続ける神山町の今を伝える一冊であり,地方創生に関心のある研究者・実務家のほか,新たな生活像に関心を持つ幅広い層に一読を勧めたい。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

神山進化論

-人口減少を可能性に変えるまちづくり

神田誠司/学芸出版社/2018年10月

 生き物を規範としてそこから何かを学ぶ学問,バイオミメティクス。本書はバイオミメティクスを活用し,都市を生き物として捉えることで日本がどのような病理に侵されているかを示し,そこから都市の未来を模索するチャレンジングな一冊である。多くのイラストや写真が使われており読みやすい一方で,アート・防災・交通ネットワーク・多様性・機能配置・シビックプライド等々,まちづくりを考えるにあたっての観点が幅広く散りばめられている。都市計画の初学者にはもちろん,既に都市計画を学んだ人にとっても新たな視点をもたらしてくれる。

紹介:総務・企画委員 松本浩和

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

生き物から学ぶまちづくり

-バイオミメティクスによる都市の生活習慣病対策

谷口守/コロナ社/2018年10月

 日本の住宅は8割が土地の価格で,年数が経つほど建物の価値はほとんどなくなるといわれている。しかし,ヨーロッパ先進国の都市では,中世から大きな富を得た者は都市に投資していたことで建物自体の価値は継続していること,米国では建物の外観規制の受け入れは資産価値の維持向上のためであり,結果的に住宅が高く売れるという実績が残されていることなど,住宅の価値の違いを欧米と比較しつつ,丁寧に解説がされている。都市形成の歴史的視点,空き家問題,住宅ローンなど金融政策,都市政策など様々な切り口で解説されており,これから都市計画や住環境など学ぶ学生や政策に関わる行政の方にも是非読んでもらいたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

住宅が資産になる日

村林正次/プラチナ出版/2018年8月

 本書はこどもを取り巻く環境において,筆者のこども時代の体験や携わってきたこどもとあそび場の設計などをもとに25年間の研究の成果をまとめた内容となっている。こどものあそび場の環境変化は1965年前後で,こどもが道というあそび空間を失った影響やテレビの普及で外遊びから室内遊びへと変化したことで,大きく変化したと示している。道におけるこどものあそびと自動車交通の共存や公園など場が求められる一方,防犯のために地域の目が必要なことと近隣住民との繋がりがこどもに安全な場をもたらすことができるなど,こどものあそび場は建築単体だけではなく地域として考えるべき課題だと改めて気づかせてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

こどもを育む環境 蝕む環境

仙田満/朝日新聞出版/2018年4月

 中心市街地衰退の新たな解決策として,ライフスタイルのブランド化とまちなか再生の組み合わせにより,地域の風土に根ざした内発的産業を発展させる「クリエイティブ・タウン」の理論的背景と実行方法が取りまとめられている。クリエイティブ・タウンの創出に不可欠なポイントとされる,「デザイン」「ビジネス」「スキーム」の3つの柱それぞれについて,川越市の一番街商店街,長浜市のまちなか,高松市の丸亀町商店街,石巻市の震災復興といった事例を織り交ぜながら手法の具体化を行っており理解が進みやすい。地域の資源や特性を最大限に活かしながら,個性的で自律的・持続可能なまちなかを創るためのヒントが多く与えられる一冊である。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

<まちなか>から始まる地方創生

-クリエイティブ・タウンの理論と実践

福川裕一 他/岩波書店/2018年3月

 Society5.0は日本が提唱する,狩猟,農耕,工業,情報に続く第5段階の社会像である。サーバー空間上にフィジカル空間の高精細なモデルを構築し,モニタリングやシミュレーションに活用する。この概念提唱と同時期に日立製作所と東京大学によって産学連携を深度化したモデルとして日立東大ラボが立ち上げられた。本書はその参画者によるSociety5.0の概念の理解に関する議論が中心である。読み進めると,近年耳にする機会の多いIoTやAIがSociety5.0の形成にどう関わるのか,それらがいかに人間生活を豊かにしうるのかが解説されている。都市空間のあり方も大いに変わりうるので,特に次世代を担う若手の皆様にご一読いただきたい。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

Society 5.0

-人間中心の超スマート社会

日立東大ラボ/日本経済新聞出版社/2018年10月

 1枚の地図と1枚の写真から始まる本書は除染が終了し,避難指示が解除されつつある福島の現状を詳細に示す。除染は「放射性物質の…人の健康及び生活環境に及ぼす影響を速やかに低減すること」を目的として,生活圏の放射線量が一定水準を下回れば終了となるが,隣接する山林などの土壌落葉や,水に遮蔽されたため池の底には放射性物質は残る。除染された土もまだ集落奥に存在し続けている。本当の意味で復興には多くの課題が残り,「再除染」など継続的な検討が必要だと筆者は述べる。巻頭の図・写真の意味は終章で明らかにされている。福島に関わる者はもちろん,福島から恩恵を受けてきた私たちが,これから背負う未来に向けて必読すべき内容である。

紹介:総務・企画委員長 篠沢健太

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

福島の除染と復興

川﨑興太/丸善出版/2018年8月

 本書は1970年代後半以降の米国のブラウンフィールド(BF)の再生をめぐる制度や政策の展開と,都市および地区の具体的な再生手法を詳細に明らかにしている。第Ⅰ部ではBFの再生政策について,その枠組と変遷を踏まえた上で,政策目標の変化や連邦政府と州政府の連携について丹念に分析を行っている。第Ⅱ部の米国北東部の3都市のケーススタディでは,都市全体のBF再生戦略,公的支援,空間計画と計画技法の観点からBFを抱える都市の再生手法が整理されている。BF再生における環境保護行政と都市計画行政の連携状況を明らかにすることで,複数の政策分野の統合に向けたツールとしての「都市計画」がもつ可能性と,土地が持つ「リスク」への対応に向けた示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

米国のブラウンフィールド再生

-工場跡地から都市を再生する

黒瀬武史/九州大学出版会/2018年3月

 本書は,長年日本各地の地域づくりや世界遺産の評価に携わってきた筆者の2000年代後半からの約10年間における講演・対談をまとめたものである。前半部では地域の物語の読解と固有性の追究,多様な価値を認めることの重要性など,筆者が景観や伝統的町並み,世界遺産それぞれに関わりながらその「地域から得た学び」が語られており,そうした規範意識は今後の都市プランナーの大きな拠り所に成るものと考えられる。また後半部では,まちづくりのトップランナー達と筆者の対話と,筆者自身がまちづくりの道へ進んだ経緯が扱われており,その言葉の一つ一つがまちづくりの現場で奮闘する実務家やまちづくりを志す学生を大いに鼓舞してくれる。「まち」や「地域」に関わる多くの人に読んで頂きたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

西村幸夫 講演・対談集 まちを想う

西村幸夫/鹿島出版会/2018年2月

 地方都市活性化のための公共空間のデザイン・マネジメント手法について,著者が実際に関わってきた具体事例の成果を交えながら,基本理念や課題解決の考え方がとりまとめられている。既存公共空間の利活用と再生計画や,世界遺産・文化財のようなブランドを活かす取組みに加え,我が国の事例の良し悪しを相対的に検証するために米国のデザイン手法についても考察している。合意形成,住民参加のワークショップ技法や,景観設計・施工における新技術についても詳細に解説されており,地方都市のまちづくりに関心を持つ学生のみならず,現場で活躍する実務者に対しても深い気づきが与えられる一冊となろう。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

地方都市を公共空間から再生する

-日常のにぎわいをデザインとマネジメント

柴田久/学芸出版社/2017年11月

 本書は,建築系・土木系のいずれの初学者にも有益となり得る都市計画の入門テキストである。今版の改訂では,従来からの基本的な都市計画の考え方や課題を踏まえつつ,集約型都市構造への転換といった,地方分権が進んだ近年において時事的に押さえておくべき視点にも言及されている。豊富な図表や写真とともに事例が丁寧に紹介される中で,我が国での計画検討の際にしばしば参考とされるフランスの都市計画について詳細に取り上げられているほか,立地適正化計画をはじめとした最新の都市計画制度にも触れられており,幅広い知識を俯瞰的に習得できる必読書といえる。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

都市計画 第3版

川上光彦/森北出版/2017年10月

 本書は,東日本大震災及び福島第一原発事故の被災地を対象に,10人の執筆者が「環境」という観点から,復興の実態及びそれらから得られる知見を踏まえつつ,今後の課題を整理したものである。被災した環境を回復する取組の「環境回復編」と,被災後の環境を新たに創造する取組の「環境創造編」から構成されている。対象としている被災地は,国内でも人口減少,高齢化,経済停滞が深刻であった地域であり,被災者が早期に安定的な日常生活を取り戻すとともに,環境,経済,社会の面でのレジリエンスを高め,持続可能かつ総合的な見地から環境面での復興を実現する必要があるとしている。被災地の復興について再考する機会を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

環境復興

-東日本大震災・福島原発事故の被災地から

川﨑興太/八朔社/2018年5月

 2011年の福島第一原発事故や2018年北海道胆振東部地震におけるブラックアウトなどにより,エネルギー政策に関して,様々な議論がなされている。本書は,日本の「エネルギー源の転換」と「地域社会の持続性」という2つの課題を別々にとらえずに,エネルギーに関する政策や事業を地域社会の持続性を実現するツールとして活用することで,地域社会の課題に包括的に取り組む方策を検討している。ドイツやオーストリアなどの国外の地域エネルギーの事例をあげるとともに,地方自治体の役割,エネルギーを推進する制度や中間支援組織のあり方を述べており,今後の地域の持続可能性を考える上で参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

エネルギー・ガバナンス

-地域の政策・事業を支える社会的基盤

的場信敬 他/学芸出版社/2018年2月

 本書は,森記念財団が2016年以来進めている『エリアマネジメント調査研究』の中から,エリアマネジメント活動に着目してとりまとめたものである。エリアマネジメントは,2018年に地域再生エリアマネジメント負担金制度が創設されるなど全国各地で取組みやすくなっている。本書では,エリアマネジメントの事例を体系的に整理するとともに,仕組みなどが整理されており,エリアマネジメントの手引きとして非常に有益である。地域再生や都心部再生を考える行政の担当者ならびにこれからのまちづくりを考える若手実務者や大学院生にお薦めする一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画336号 2019年1月15日発行)

まちの価値を高めるエリアマネジメント

小林重敬+森記念財団 編著/学芸出版社/2018年6月

 多様な人々の想いとアクションによって「空間」を「場所」に変えることを「まち育て」と定義し,様々な角度から現場で培った知見が語られるように認められている。意志を持って「空間」と「場所」を使い分けていてもなかなかうまく相手に伝わらないもどかしさの中で,本書に救われる思いがした。まちで出会った子どもからふと漏れた言葉や純粋無垢な目線から得た視点が丹念に描写されており,読み手もかつての自身の「場所」に思いを馳せてしまうのではないだろうか。当時とは確実に変貌したであろう地域にある空間に対して,一個人として,また専門家として「私」ができるまち育てを考えながら実践するのに最適な書である。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

「空間」を「場所」に変えるまち育て

-まちの創造的編集とは

北原啓司/萌文社/2018年4月

 快適で豊かな都市空間を形成するための行為「アーバンデザイン」について,都市計画,空間形成,実践運動の三面から示した上で,その歴史と系譜,手法,実践と展開について体系的にまとめられている。都市に関わるのであれば,押さえておくべき知見や人物が網羅され,アーバンデザインの精到な教科書として他に類を見ない。広汎なアーバンデザインを一冊の中で体現しながら,近年よく耳にするようになった概念や事例も多数掲載され,丁寧に解説されている。実務者や研究者にとっても頭が整理され,索引をうまく利用して必要な頁を復読したいと思わせる書であろう。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

アーバンデザイン講座

前田英寿 他/彰国社/2018年5月

 高度成長期に整備された公的施設の多くが更新時期を迎え,民間のアイデアや資金を活用する「公民連携」による公有不動産活用に,期待が掛かっている。本書は,「公民連携」を通した公共空間の活用について,国内外の優れた事例を紹介したものである。実験的・暫定的な活用から長期的な活用の事例まで,豊富な写真とともに解説がなされている。各事例のしくみ・デザインは多様であるが,要所に挿入されるコラムで俯瞰的な解説が加わることで,鍵となる概念を的確に理解することができる構成となっている。デザイン的にも優れた事例が選りすぐられており,楽しく読み進められる一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

公共R不動産のプロジェクトスタディ

-公民連携のしくみとデザイン

公共R不動産 編/学芸出版社/2018年6月

 本書の対象は,公共空間や私有地を一時使用して仮設型店舗により主に食品や日用品を売買するマーケットである。東京とロンドンの複数事例を交えるが,ロンドンは先進事例だから東京も模倣すべき,という主張ではなく,利用者,出店者,運営の視点から両者の違いが比較される。日本は道路空間利用がロンドンと比較して容易ではないものの,寺社境内という独自の空間活用事例があること,ロンドンではマーケット出店で生計を立てる者がいる一方,東京は地方の店舗経営者が東京の消費者ニーズを探る場であることなど,違いが見えてくる。一過性のイベントではなく生活に根付いた日本独自のマーケット文化が育ってほしいという筆者の想いが伝わる。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

マーケットでまちを変える

-人が集まる公共空間のつくり方

鈴木美央/学芸出版社/2018年6月

 本書は,東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市広田町長洞(ながほら)集落で実践されてきた復興まちづくりをまとめたものである。「復興にはコミュニティという大きな力が不可欠」との理念から,単に被災者ごとにバラバラと仮設住宅を提供するのではなく,仮設住宅団地への移転や安全な高台への本移転を「コミュニティまるごと」で行うように努めた取り組みが紹介されている。被災地ごとに事情は異なるであろうが,コンサル等専門家の支援を受けながら被災地住民が自分たちの手で復興するという主体性,仮設住宅等の「ハコ」の提供だけでなく生きがいを生み出す「生業」(ビジネスシステム)の導入等,まちづくりへの参考点も多く大変興味深い。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

実践!復興まちづくり

-陸前高田・長洞元気村復興の闘いと支援2011-2017

復興まちづくり研究所 編/合同フォレスト/2017年10月

 小樽運河の保存運動を対象に,歴史的町並み保存というテーマを社会学の視点から問い直した大著である。保存運動に関与した主体に対するヒアリング調査は,彼らのライフヒストリーにまで及び,運動の軌跡を高精細度で描き出す。運動の趣旨が,凍結保存から一定程度の改変を許容する「まちづくり」へと変化していく過程や,戦略や思想の違いから保存運動が内部崩壊し一般市民からの支持を急速に失う過程,さらには意図せざる結果として小樽が観光都市へと変貌していく様子を,鮮やかに追体験できる構成となっている。保存運動の研究者は勿論,都市計画に関わるすべての人に一読を勧めたい。著者の33年にわたる膨大な研究成果に圧倒される一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

町並み保存運動の論理と帰結

-小樽運河問題の社会学的分析

堀川三郎/東京大学出版会/2018年2月

 本書は,著者が40年に渡り各地の民家を訪れた記録や茅屋根集落の支援にかかわった経験,茅屋根家屋の保存活動の事例を紹介している。著者は,かつて民家は,そこに住む人たちの生活,風土,歴史,時代などを反映して,多様な生活の総括的な意味合いを包含していた。また,古民家を転用・再生している例は全国で見られるが,これらは,民家の空き家化と住まいとしての終焉を暗示するとともに,注目される活用事例は一部で,たまの機縁に恵まれたものが多く,成功例が他に影響を及ぼす要素は少ないとしている。社会・経済情勢の変化が激しい今日,長い時間をかけて培われた人と家と地域との関わりを見直すきっかけを与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

民家 -最後の声を聞く

藤木良明/学芸出版社/2018年4月

 2008年歴史まちづくり法が制定され,それ以降に歴史・観光まちづくりについて著者が各所で行った講演や雑誌などをもとにまとめたものである。内容は,文化遺産と歴史まちづくり法,景観整備と都市計画,観光とまちづくりと3部構成にまとめられおり,随所に都市計画に対する問題提起がされている。特に,歴史を活かしたまちづくり,景観まちづくり,観光とまちづくりは,いずれもこの10-15年程度で世論が大きく旋回した考え方で,だからこそこの数年の内容は価値観が変化していく未来に向けてもとても貴重な一冊である。研究者,行政,都市計画を学ぶ学生にも是非読んで欲しい。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

西村幸夫 文化・観光論ノート

-歴史まちづくり・景観整備

西村幸夫/鹿島出版会/2018年2月

 長年にわたり産業景観(テクノスケープ)を研究してきた筆者が,最も身近な都市基盤の材料といえるセメントやコンクリートの原料であり,日本における唯一自給可能な地下資源である石灰石に着目し,石灰・セメント工業都市―「砿都」―の景観を様々な切り口で論じた一冊。沖縄・秩父・秋吉台周辺の三大砿都のほか,全国25地区の砿都について,地形や気候といった自然的要素,工場や橋梁,輸送施設などの人工的要素に加え,山岳や石灰石に対する信仰,祭礼や民謡,食に至る文化的要素が石灰石という基底を共有しながら共存する景観の個性が明らかにされていく。画一的な近代文明の所産と捉えられがちな工業都市の景観に対する新たな視座を与えてくれる。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

日本の砿都

-石灰石が生んだ産業景観

岡田昌彰/創元社/2017年2月

 筆者独自の「モビリティ・デザイン」という概念をテーマに,持続可能な都市の発展に向けて交通の観点で捉えるべき移動環境の諸課題を解くための基礎知識やアイデアが解説されたものである。都市交通のデザインにおける戦略の考え方と,中心市街地や郊外でのモビリティの現状・課題について,ウォーカビリティ,自転車政策,公共交通計画,都市駐車管理,パークアンドライド,モータリゼーションといった多様な切り口からまとめられている。特に公共交通政策については海外の先進的事例が丁寧に解説されており,交通まちづくりに関する実務的な課題を包括的に理解するための文献として是非お勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 稲垣具志

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

都市交通のモビリティ・デザイン

中村文彦/サン・ネット/2017年8月

 本書は著者の長年のイタリア都市研究をまとめたもので,書名のとおり,水との関係に注意が払われる。水は飲料水・農業用水・工業用水など都市の営みに不可欠で,さらに外敵の侵入を阻む防壁,洪水や高潮など災害の原因として畏怖の対象という側面も持つ。このため都市ごとに水との独自の関係性が生まれる。著者があとがきで「エッセイ集」と記したとおり,決して都市と水との関係が体系的に整理されているわけではない。しかし,現地調査での発見や驚きが生々しく読者にも伝わり,あたかも調査に同行したかのような感覚を味わえる。日本も水が豊かな国であり,都市と水の間に多様な関係がある。日本の都市研究のヒントも得られる一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画334号 2018年9月15日発行)

イタリア水都の再発見

陣内秀信/秋田印刷工房出版部/2018年2月

 「地域づくり」という明確な目的をもって調査がなされた全国29地域における実践事例について,それぞれに関わった研究者が背景を含めて丁寧に解説している。本書は,現場主義の立場で調査法を解説した「まちの見方・調べ方-地域づくりのための調査法入門(朝倉書店,2010年)」の続編として位置づけられている。「いかに対象地域の実態を実感を込めて理解しえるか」と地域に対向して得た貴重な調査結果について,いかに地域に効果的に伝えて具体的な地域づくりにつなげていくのか。限られた事例の中で模索しているのならば,実際に行われた工夫や克服した課題は多岐に渡り,大いに参考になるに違いない。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

まちを読み解く

-景観・歴史・地域づくり

西村幸夫 他 編/朝倉書店/2017年10月

 「まちづくり図解」とは,まちづくりへの問いに対して図を描きながら視覚的な表現により解くことである。早稲田大学佐藤滋教授のグループによる150点を超す図版が掲載され,どれも非常に分かりやすくまちづくりの拡がりや流れが描かれている。本書は,先に出版された理論編「まちづくり教書(鹿島出版会,2017年)」に対する図説編として位置づけられている。ますます主体の価値観が多様化する中,それぞれから忌憚のない意見を得るためにも,これまでの経緯やこれからの提案を分かりやすく示すことは専門家の使命である。「まちづくりの主体に対してつくり手の意志をもって情報を効果的に共有するもの」として,具現化した本書を大いに活用すべきである。

紹介:総務・企画委員 三友奈々

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

まちづくり図解

佐藤滋 他/鹿島出版会/2017年6月

 本書は,“少子高齢化が進む住宅地”の側面ばかりが過大に語られる団地について,改めて図解・読解したものである。住棟の全体配置や間取り等の部分だけでなく,斜面の造成や景観への配慮など,「地形→造成→配置→住棟→間取り」の≪つながり≫という「団地ならではの魅力」が,当時の過程や意図で裏付けられている。スケールの大きい団地でそれらの魅力を的確に伝える写真を数多く撮るには苦労があったと思われるが,自分が歩いている気分で読み進められる工夫がされている。当時の図版等も折り込みで収録されており,貴重な資料である。団地を「ネガティブな住空間,都市計画である」と教えられた世代にこそ手にとっていただきたい。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

団地図解

-地形・造成・ランドスケープ・住棟・間取りから読み解く設計思考

篠沢健太 他/学芸出版社/2017年10月

 研究者と映画監督である筆者らによる丹念なインタビュー記録をもとに,昭和30年代に興業街として立ち現れる「歌舞伎町」に台湾人たちが登場する経緯を明らかにしたオーラルヒストリー。戦後統制品を取り扱える特権をいかし,「解放区」であった西口マーケットで財を築いた台湾人たちが,新開地としての歌舞伎町へ流入し,“じゅく文化”と呼ばれる喫茶店文化や社交・娯楽文化を華開かせてゆく過程が,当事者や関係者らの言葉によって仔細に語られていく。それは,“道義的繁華街”の建設を目指して民間主導の土地区画整理を牽引した鈴木喜兵衛や石川栄耀らを通じて編まれた事業史や日本人による復興の物語では語られることのなかった,「もうひとつの」新宿戦後史である。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

台湾人の歌舞伎町

-新宿,もうひとつの戦後史

稲葉佳子 他/紀伊国屋書店/2017年9月

 本書は,弁護士として多くの都市開発に関わる経験も持つ著者が,まちづくりに関わる法律を体系的に整理し,解説したものである。序文では,自分の敷地に家を建てるときに初めて都市計画を学ぶ人も多いと述べているように,初学者にも読みやすい形で,多くの図表を用いてまとめられている。解説の中には,しばしば海外の都市計画との比較に関する言及や,先進的な自治体に関する簡単な紹介もされており,興味を持った読者に更なる学びを促すような内容となっている。著者が,本書ではコンパクトな本で論点を整理することを目的とすると述べているように,本書からの膨大な知識とともに,これを基点とした学びを大きく助けてくれる書である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

まちづくりの法律がわかる本

坂和章平/学芸出版社/2017年6月

 本書では,URが取り組んできた密集市街地事業について,15の事例の詳細な紹介とともに,実践方法の一般化が試みられている。各事業の解説は,図面や写真を多く用いた紹介がされるとともに,取り組みの中で起こったこと,例えば反対署名の経緯やその後の対応なども説明され,読者が追体験できるような内容となっており,最後には考察もなされている。カラーの口絵も充実しており,事業実施前後のまちの変化の様子が分かりやすく紹介されている。巻末には著者らによる座談会の内容が収録されており,これからの密集市街地整備に向けた展望が述べられている。まちづくりについて,多くの事例をもとに学ぶことのできる書である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

密集市街地の防災と住環境整備

-実践にみる15の処方箋

UR密集市街地整備検討会 編著/学芸出版社/2017年11月

 本書は,縮小都市研究会の研究成果として,地域のデザインの新たな考え方,めざすべき姿,地域空間と仕組みを変える変革のあり方などを整理している。また,本書は,同研究会が2015年に出版した「地方創生への挑戦 ‒住み続ける地域づくりの処方箋‒」に続く書籍である。社会的空間,物理的空間,なりわい空間の3つから構成される空間を地域空間としてとらえ,それぞれの空間のめざす姿,具体的な試みなどを整理している。そして,地域空間を持続させるための都市と広域の戦略デザインについても述べている。地域の存続・崩壊の危機が叫ばれている中で,空間のめざす姿と行政のあり方を述べており,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

「縮小社会」再構築

-安心して幸せにくらせる地域社会づくりのために

長瀬光市 監修・著/公人の友社/2017年10月

 フェノロジーカレンダー(生活季節暦)は,その地域の気候や生態系などの自然環境の季節変化と,それに適応する形で営まれる地域の生活風土やその季節リズムを1枚にまとめたものである。その作成過程において,地域特有の「宝」を発見し,複数の宝をつなぐテーマを議論することで,宝を生み出した気候風土を理解する。このことで地域の魅力に気づくとともに,それを地域で共有し,対外的には観光資源として紹介する媒体を手にすることができる。本書ではフェノロジーカレンダーの作成ノウハウについて,ワークショップや取材など豊富な事例を交えて解説している。全てのフェノロジーカレンダーがカラーで例示されており,眺めるだけでも楽しい。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画333号 2018年7月15日発行)

みんなでつくるフェノロジーカレンダー

日本エコツーリズム協会フェノロジーカレンダー研究会/旬報社/2018年1月

 本書は,横浜市のみなとみらい(MM)地区におけるまちづくりの軌跡をまとめている。市の都心部機能強化のため,幕末の開港以来重要な役割を担ってきた港湾機能の質的転換や,都市の発展のためのビジョン,都市と海(生活と水辺)の関わり方など,まちのあるべき将来像を見据えて歩み続けてきた歴史が綴られている。また,将来像の実現に向けて,多くの関係者がその時代に応じてまちのあり方・コンセプトを継続的に議論し創り上げてきた経過や,最先端の環境技術やエリアマネジメントの導入経過等も紹介されており,これからのまちづくりに大いに参考になる内容となっている。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

情熱都市YMM21

-まちづくりの美学と力学

情熱都市YMM21編集委員会/鹿島出版会/2017年2月

 今後の社会や都市を考える上で,「持続性」が極めて重要な主題であることは論を俟たないが,2015年に国連が定めた「持続可能な開発目標(SGDs)」に関しては,「ゴール」「ターゲット」が乱立し全体像が見えにくいと感じている人も少なくないだろう。本書は,SGDsに関わる実践的な国際貢献の取り組みを広範に紹介している。1章ではSDGsの成立経緯や課題がコンパクトに整理され,2章以降では経済開発,ソーシャルビジネス,都市化,環境,防災,社会保障など多岐にわたる取り組みが具体的に紹介されたうえで,「ゴール」及び「ターゲット」との関係が示されている。SDGsの成り立ちから現状まで,全体像をつかむのにちょうどよく,テキストにも適した一冊。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

持続可能な開発目標と国際貢献

-フィールドから見たSDGs

北脇秀敏 他 編/朝倉書店/2017年9月

 本書は,一般社団法人国際文化都市整備機構(FIAC S)の異なる専門分野のメンバーが事例研究から,ポスト2020を見据え,創造都市や協働まちづくりなどの都市にもとめられる考え方を整理している。また,都市の創造力を高めるためにポップカルチャーや,IoTやAIなどのIT技術の実装についても述べている。加えて,アートプロジェクトの視点から計画者に求めること,街のブランディングとソフトインフラ,エリアマネジメントなど計画者が知っておくべき考え方が体系的に紹介されている。今のまちづくりに,そしてポスト2020に向けたまちづくりに求められることを知ることができ,学生とともに実務者にもお勧めする一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

ポスト2020の都市づくり

井口典夫 他/学芸出版社/2017年7月

 本書は,建築や私有地の庭園あるいは工場などを地域ぐるみで期間限定で一斉公開するオープンシティ・プログラムについてまとめている。筆者らは,職住分離や公共空間と私的空間の分離という都市構造や居住形態の変化の中で,これらのイベントを公開される資源の価値への気づきと地域全体での共有,資源所有者と訪問者の対話や保全活動・運営活動への主体的参加への契機と位置付けている。筆者らが直接関与しているイベントも取り上げしつつ,国内外の幅広い事例が紹介され,データとして整理されている。公開する対象物や運営手法などは非常に多様であり,入門書としてもカタログとしても活用できる一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画332号 2018年5月15日発行)

まちをひらく技術

ー建物・暮らし・なりわい-地域資源の一斉公開

オープンシティ研究会/学芸出版社/2017年9月

 大都市の都心周辺部に多数存在する木造賃貸アパート(“モクチン”)を扱うソーシャルスタートアップである「モクチン企画」の活動とその方法論を解説した一冊。本書では,非計画的に建設されながら日本の高度成長期を支えた木賃アパートの建設の背景や特徴,課題を整理した上で,ネガティブに捉えられがちな木賃アパートを資源として活かすための見立て方やそのデザイン,望ましい組織体制などが提示されている。また,筆者らは本書を通して木賃アパートという凡庸なストックへの最小単位の空間介入の持つ,社会的な変革へとつながる可能性を,事例を交えながら雄弁に伝えてくれる。従来の既成市街地の計画とデザインにはなかった新たな視点を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

モクチンメソッド

-都市を変える木賃アパート改修戦略

モクチン企画/学芸出版社/2017年7月

 本書は,住民参加型のインフラ整備手法であるLBT(Labour Based Technology)工法について,著者の発展途上国で携わってきた数々のプロジェクト事例を紹介するとともに,途上国で抱えている資金や人材不足といった開発課題と我が国の税収不足で財源および働く世代の減少に悩む地方が抱える課題の構図を重ね合わせ,LBTが我が国の地方創生の切り札になるとしている。LBTは,現場や関係者・参加者の条件により多彩な運用が図れるインフラ整備の方策であることから,地方創生に活かすためには柔軟かつその地域に適した形として導入してほしいとしている。地方創生に携わる皆さんの参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

地方創生の切り札LBT

-アフリカから学ぶまちづくり工法

徳永達己/大空出版/2017年4月

 隣接する建物の繋がりや街区のまとまり感など空間的要素に着目した建物の外観のデザインや形状など建物を建てる際の注意点をまとめたものである。歴史的町並みの事例やイギリスの街並み保存システムなど説明があり,近隣との建物外観と街並みの表現を空間的要素で把握すること,コミュニティのための空間を設けることの重要性を述べている。新築のみならず,今後増えてくる歴史的な町屋の保存や建替えなどのガイドラインとして参考にもなる。建物の設計を勉強している建築学生をはじめ,デザインガイドラインや景観ガイドラインなど策定業務に関わる者にも参考になる1冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

建築とデザイン

-住まいと街並のためのデザイン技術

佐藤圭二/ぐんBOOKS/2017年8月

 昨年出版した「ポートランド-世界で一番住みたい街をつくる」では都市再生や公共交通などハード整備の内容が中心だったが,本書は「ポートランド・メイカーズ」のタイトル通り,起業した人に対し人との繋がりやコミュニティ形成などソフト面をまとめた内容となっている。対話形式やカラー写真が多く載せられておりポートランドの様子が伝わる。ポートランドは人口60万人強の小さな都市だが,なぜ世界を代表する人たちが集まってくるのか,公共交通の発達や手ごろな地価など都市基盤だけではない,街のクリエイティビティを生み出す人の存在ありきということが理解できる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

ポートランド・メイカーズ

-クリエイティブコミュニティのつくり方

山崎満広 編著/学芸出版社/2017年5月

 本書は「安全・安心な都市環境へ」,「健康・健全な都市環境へ」,「効率的で低炭素な都市環境へ」,「快適な都市環境へ」の4章,各4節で構成される。前半では震災等の経験から回復力や自然のポテンシャルの活かし方について,後半ではエネルギーシステムや環境配慮型建築,まちの「らしさ」の保全・継承,住環境の改善について,都市環境に関わる日本の事例が幅広く紹介されている。施設レベルから街区,エリア,都市,さらにはネットワーク空間を考慮した圏域まで,単位も広い。全体として,歴史や近年の動向を抑えながらも,現状や今後を長期的かつ客観的に捉えている。巻末には索引もあるため,キーワードから読み解くこともできるだろう。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

都市環境から考えるこれからのまちづくり

都市環境学教材編集委員会 編/森北出版/2017年7月

 早稲田大学後藤春彦研究室による二十余年にわたる分厚い研究と地域に深く根を下ろして展開されてきた実践の軌跡が,それらを下支えする思考のよってたつ5つの「視座」と5つの方法論をもとに,卒業生と現役学生の協働によりとりまとめられた一冊。編著者の師である吉阪隆正が唱えた「有形学」への返歌であるとする「無形学」は,「つくること」から「なすこと」へと重点が移動し,「無形」のしくみのリデザインが希求される今日の社会にあって,物理的空間論と社会的空間論をむすぶ基礎的な理論として構想される。社会と密接に関係する実学である都市計画のテーマを問い直す作業でもあり,研究室という学術組織による理論と実践の体系化の軌跡でもある無形学への旅を,ぜひ多くの会員におすすめしたい。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

無形学へ

-かたちになる前の思考

後藤春彦 編著/水曜社/2017年4月

 本書は,四日市臨港道路霞4号幹線調査検討委員会の座長を務めてきた筆者を中心にまとめられた16年間に及ぶ道路づくりの事業記録である。検討委員会が始まった平成12年は,環境影響評価法の全面施行の翌年で,事業地や周辺住民の環境保全に対する関心が高まっている時代でもあった。そのような背景の中,干潟の生態系や生活環境への負荷を懸念する多くのステークホルダーを巻き込み,合意形成を図りながら事業を進めるプロセスは,地域に根差した公共事業の1つのモデルとも言える。計画~建設段階に至る検討委員会の取組や工夫などが具体的に紹介されており,公共事業に携わる技術者の一助になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

道路建設とステークホルダー

-合意形成の記録

林良嗣 他/明石書店/2017年3月

 日本の大都市圏は鉄道網が発達しており,その沿線に主要な市街地が展開する特徴を持つ。その成立過程において,基本的に独立採算であり旅客増のために沿線を開発した私鉄各社の影響は大きい。本書は大都市圏を主に大手私鉄沿線を単位として眺め,その都市空間の成立過程を紐解いていく。また,後半では,近代における都市近郊開発において,電気鉄道,電灯電力,不動産という3つの主要なプレーヤーを挙げ,各大手私鉄関連で3つのプレーヤー間でいかなる関係性があったのかを整理する。都市郊外を取り巻く状況が大きく変化する現在,その成立背景について,都心からの距離や地形的要因などとは異なった視点からの観察を与えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画331号 2018年3月15日発行)

私鉄郊外の誕生

片木篤/柏書房/2017年8月

 本書は,「辺境」こそ新たなビジネスが生まれる最先端であると捉え,「先進的木造建築」「村ぐるみの宿」「ガストロノミー」「アートビジネス」などバラエティ豊かなキーワードに基づく地方創生の取り組みを世界中の「辺境」に見いだして詳細に紹介している。事例を体系化して一般的知見を提示するというよりは,固有性に富んだ地域と担い手の組み合わせを,ありのままに鮮やかに描き出しており,それぞれの取り組みの魅力が十分に伝わってくる。いずれの事例も,小規模ながら地域密着型のビジネスモデルを確立することで地域内経済循環を作り出すことに成功しており,わが国の地方創生を考える上でも大いに参考になる。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

世界の地方再生

-辺境のスタートアップたち

松永安光 他 編著/学芸出版社/2017年6月

 日本近代における空間編成をめぐる過程を,制度や政治,地域共同体との関係性のなかで考究し,個別の事業史ではなく近代化過程という歴史全体への位置づけに挑んだ,建築史・都市計画史・土木史・造園史・歴史学などの研究者らによる14編の論考集。都市空間の統治の仕組みや,集権化・合理化されていく各種事業における土木技師らの存在に着目しながら,旧来の非公共的秩序をも巧みに回収してゆく統治技術としての事業遂行システムの姿を浮き彫りにする。さらに,こうしたシステムが完成をみる1930年代と現代との繋がりへの示唆は,戦後日本における空間や土地の統治のあり方への再考をも促すものであり,歴史研究に対する新たな方法論を提示する一冊である。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

近代日本の空間編成史

中川理/思文閣出版/2017年4月

 本書は,著者の長年に渡るヴェネチア研究の集大成として,学術論文,論考が整理されたものである。今なお車の通行を許さないヴェネチアの街は,中世の早い段階から馬の通行を禁止し,歩く人の視点から都市が発展してきたという。それゆえ都市空間が人間を主役とする劇場のような空間になり,独特の文化を育んできた経緯など,本書では,ハード面,ソフト面の様々な視点からヴェネチアの歴史と現状が述べられている。様々な年代の都市の古地図や鳥瞰図,建築物の図面,市民の暮らしを表す絵画など,ちりばめられた多くの図版が,遠い時代,遠い場所の都市計画の学びを助けてくれる。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

水都ヴェネツィア

-その持続的発展の歴史

陣内秀信/法政大学出版局/2017年4月

 本書は,全国各地にある公園・庭園のうち,約340事例を厳選し,地域固有の自然・風景・歴史・文化・景観の魅力とその楽しみ方を紹介している。はじめに,基礎知識として,公園・庭園の定義に加え,自然公園,都市公園,庭園の歴史を紐解き,現状の動向をコンパクトにまとめており,わかりやすい。都道府県別公園・庭園の事例では,地域を代表した公園,国指定史跡・名勝の庭園や知名度の高い場所などが紹介されており,地形,植生,湖沼などの自然を通して,風土性や地域らしさがよくわかり,その物語を読んで,各地を訪れてみたくなる一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

47都道府県・公園/庭園百科

西田正憲 編著/丸善出版/2017年8月

 アルスエレクトロニカは,オーストリア・リンツ市で毎年開催される,芸術と科学技術を融合させた新しい生活スタイルや社会のあり方を提案するイベントである。本書は,重工業の都市であったリンツ市が主要産業の斜陽を乗り越え,新たなアイデンティティを獲得し,停滞したムードから市民の意識が変革していく様子が描かれる。リンツ市はアルスエレクトロニカ社も立ち上げており,イベント運営のほか市内でイノベーションが起こりやすい環境を整備している。国や都市によって産業や人口の状況,さらには制度や社会システムも異なるものの,都市のブランディングという観点から示唆に富む一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

アルスエレクトロニカの挑戦

鷲尾和彦/学芸出版社/2017年5月

 本書では,今後一層の人口減少や高齢化が進む我が国において大きな課題の一つとなる緑地等の空間管理のための作業量を計算するための「景域管理作業量」という概念が提案されている。これまでの都市政策の展開や将来的な人口動態を踏まえながら,名古屋市や中部圏を対象とした豊富な事例研究の中で,市街地,田園,里山,森林,沿岸部など我が国を構成する多様な景域それぞれの景域管理作業量を計算することで,今後必要となる作業量や景域の特徴,望ましい施策等を詳細に分析している。また,景域管理と生態系等との関係性についても焦点を当てることで,管理の効率性だけなく地域空間の総体的な価値や持続的経営に向けたマネジメントのあり方も論じられており,昨今の人口減少都市論へ新たな視座を与えてくれる一冊である。是非一読して欲しい。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

Labor Forces and Landscape Manegement

Hiroyuki Shimizu 他/Springer Nature/2017年1月

 本書は人口減少局面など,歴史的転換期を迎えた我が国の状況をふまえ,今後の「ポスト都市化時代」の都市計画のあり方を問う一冊である。Ⅰ部では都市計画の中核にあるマスタープランについて,その制度成立の背景や時代とともに変容した計画の「型」を整理し,近年策定が進む立地適正化計画まで含めて,それぞれの課題を鋭く指摘している。Ⅱ部では,開発や計画の型,それを担う主体や部分と全体の関係性の変化といった,ポスト都市化時代の都市計画のあり方を捉える上での諸条件を提示している。最後に,Ⅲ部において筆者はこれまでの議論を踏まえた上で,1つの可能性としての今後の都市計画像のラフスケッチを試みている。日本のマスタープラン制度及びその計画手法が抱える本質的課題について,論理的な考察が展開されており,立場を問わず都市計画に関わる者の理解を深める一助となるだろう。広く読まれるべき一冊である。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

都市計画変革論

-ポスト都市化時代の始まり

小林敬一/鹿島出版会/2017年2月

 本書は,東大まちづくり大学院での研究と教育の成果をまちづくりのテーマごとにまとめた第5弾。これまでの途上国の発展は,外国資本投資が重要な役割を果たしてきたことを踏まえつつも,目先の利益のみに囚われた開発が進められ,将来に禍根を残すような都市開発が進む可能性も憂慮されることから,サステイナブルな都市輸出の重要性とWin-Winの関係を築いていく必要性が述べられている。それぞれのテーマについて,第一線の政策担当者等が執筆しており,幅広い分野の具体的な事例が紹介されている。インフラ輸出や海外における都市開発等,都市輸出の実務に携わっている方や,本テーマに関心のある研究者や学生の方に一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

サステイナブル都市の輸出

-戦略と展望

原田昇 監修/学芸出版社/2017年3月

 景観法施行10年が経過し,運用の課題と今後の活用についてまとめた1冊である。特に特徴的な27の自治体の取り組みを細かく紹介しており,読むだけで全国の景観の枠組みを把握でき,基礎知識を習得できる。また,建築,土木,都市デザイン,実務者の多方面からの専門家からの意見まとめられており,広域を扱う景観分野の特徴が出ている。この景観法10年の運用を踏まえた反省点,法制度の限界から他制度との連携の必要性など実効性に重点を置いた提案として,これからの景観まちづくりの新しい展開を示しており,これから景観を学ぼうとする学生をはじめ,景観に関わる行政にも是非一読をお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

景観計画の実践

-事例から見た効果的な運用のポイント

日本建築学会 編/森北出版/2017年3月

 ドイツ在住のジャーナリスト,環境コンサルタントである著者が,ドイツと日本を比較しつつ,ドイツのさまざまな政策を紹介し,人口減少下の都市計画について論じている。ドイツは「コンパクトシティ」に当たる言葉はなく,中心市街地のまとまった集合住宅に人口を誘導する「ショートウェイシティ(移動距離の短いまち)」に取り組んでおり,自動車利用の不便さと生活の質のバランスが議論されている。ドイツのまちなかの自動車がいない,にぎやかな市街地の歩行者天国も,自然に存在したわけではなく,1970年前後に反対を受けながら社会実験を実施して実現されたというのも興味深い。様々な政策やデータからドイツのまちづくりを学べる1冊である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか

-近距離移動が地方都市を活性化する

村上敦/学芸出版社/2017年3月

 編著者である東京大学西村教授の研究室のグループにより,先進的な日本の都市,そしてアメリカ,ヨーロッパ,アジアの都市の取り組みが紹介されている。先進的な政策や都市空間のみならず,第3部ではリーダーシップと合意形成に焦点を当てているように,どのようにそれらが成されたのかについても知ることができる。口絵にはカラーでゾーニング図など各都市の都市計画に関わる図版や写真がふんだんに掲載されており,1904年のミュンヘン市の旧市街地の都市計画図など貴重な資料が提供されている。もちろん,本文中にも多くの図表が用いられ,分かりやすく説明がなされている。この本を読んで,紹介されている都市を歩きたくなる書である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

都市経営時代のアーバンデザイン

西村幸夫 編/学芸出版社/2017年3月

 本書は,ローカルな商店街の一角や山あいの村で営まれるゲストハウスの運営者により綴られた9つのエピソードや,空き家活用や小さな経済圏・社会資本の創出拠点としての可能性をさぐる論考がまとめられている。ゲストハウスの開業のきっかけや運営者の考え方,日常の様子などが写真やイラストを交えて紹介されており,とても読みやすい。宿業をはるかに超え,移住の窓口的な役割を担い,地域と旅行者をつなぐ媒介者であり,地域コミュニティを支える担い手として,多くの人を惹きつけるまちのゲストハウスの魅力と地域活性化の手がかりが詰まった一冊である。

紹介:総務・企画委員 伊比友明

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

まちのゲストハウス考

真野洋介 他 編著/学芸出版社/2017年3月

 地理情報システム(GIS)を取り巻く環境は近年急速に変化している。特に,位置情報取得やインターネット接続の可能なスマートフォンの普及,オープンデータやフリーGISソフトの増加により,空間データの解析や地図による可視化が専門家の特殊技能から,誰でも簡単に取り組める作業へと変貌しつつある。本書はそのような参加型GIS,ウェブGISの最新動向を多様な事例とともに解説している。市民参加,地域の理解と課題抽出,防災・防犯,子育てや福祉,祭礼空間の復元や観光振興など,都市計画と関連するキーワードも豊富に盛り込まれている。最近GISという言葉はよく聞くけれど…という方にもぜひご一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画329号 2017年11月15日発行)

参加型GISの理論と応用

-みんなで作り・使う地理情報

若林芳樹 他 編著/古今書院/2017年3月

 本書は,生活空間に関わる建築的,土木的な内容とともに,都市と切り離せない農山漁村,山地などの自然系の内容も含めた,本来の意味での都市計画とその背景を網羅した新しい教科書である。さらに,人口増加を前提に発展・成長型の社会をつくる都市計画の考え方を見直すべきこれからの時代に向けて,「共生の都市」,「近隣とのコミュニケーションのとれる居住地」,「生活者主体の社会」という視点で全体が貫かれている。図版を多用し基礎的知識を押さえつつ,歴史から最新の政策まで,バランスのよい構成である。都市計画を学ぶ学生は勿論のこと,仕事で都市計画に関わる者にとっても,新たな広い視点で見直すために是非ご一読いただきたい。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

生活の視点でとく都市計画

薬袋奈美子 他/彰国社/2016年8月

 本書は,近代日本社会において学校教育,明治神宮造営,都市美運動など様々な場面で実施された「記念植樹」,すなわち「記念に樹を植える」という行為の背景にある歴史事象を紐解いている。また,その活動を主導し,記念事業の一環として営まれた記念植栽という行為に係る理念と方法論を構築し,日比谷公園設計や植民地を含む全国70カ所以上の公園の整備に携わり,公園の父と称され,近代日本の景観を形成した林学者・本多静六に焦点をあて,彼の生家の富士山信仰・不二道の思想的影響やドイツ留学の経験等による本多の思想と事績を論じながら,近代日本の形成過程に記念植樹を位置付けており,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

記念植樹と日本近代

-林学者本多静六の思想と事績

岡本貴久子/思文閣出版/2016年3月

 本書は,終戦により遊休国有地となった広大な旧軍用地が都市にどのように組み込まれてきたのかを時系列的にまとめた論文集である。本書は,2部構成となっており,第1部では,旧軍用地を立地,規模,集積状況,地形,建物における特性から整理するとともに,都市計画における位置付けや転用方針について終戦直後,戦災復興期,高度経済成長期と時系列的にまとめている。第2部では,各都市における旧軍用地の具体的な転用プロセスについて,東京,名古屋,横須賀,佐世保などを取り上げまとめている。本書を通して,わが国の都市において,旧軍用地がどのように位置付けられ都市が形成されてきたのか知ることができる読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

旧軍用地と戦後復興

今村洋一/中央公論美術出版/2017年1月

 本書は早稲田大学佐藤研究室の関係者ほか約20名が分担執筆している。シンポジウムでの議論がもとに編集されていることもあり,多様な視点からまちづくりに関する議論が展開される。まちづくりは,その適用地域における歴史風土,周辺環境,克服すべき課題,関与する住民や主体などにより多様な展開を見せている。分担執筆であることもあり,本書ではそれらを無理に集約することなく,多様なまちづくりの概念,実践法や計画論などが述べられ,豊富な事例とともに紹介される。リレー講義がそうであるように,読者自身なりの定義や着眼点と合致する一面では知識を深め,一方で新鮮な視点も与えてくれる貴重な資料である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画328号 2017年9月15日発行)

まちづくり教書

佐藤滋 他/鹿島出版会/2017年2月

 本書は,京都のまちづくり組織である,「六原まちづくり委員会」が,自ら悩まされた空き家の問題に取り組む中で製作された冊子である。空き家活用方法を事例とともに紹介し,相続に当たっての諸問題への対処法を示すなど,空き家解消,予防のための知見をコンパクトにまとめている。当初は地域の住民への配布のために作成されたものとあって,多くのイラストや写真を用いた説明は,誰にも読みやすいものとなっている。空き家に関わる問題やそれらの問題への取組み方について,はじめの一歩を教えてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画327号 2017年7月15日発行)

空き家の手帖

-放っておかないための考え方・使い方

六原まちづくり委員会+ぽむ企画 著/学芸出版社/2016年10月

 本書は,写真編,解説編,データ編の3編構成となっている。写真編では,世界の橋のカラー写真を同種の橋別に掲載しており,橋の形状や色,装飾,背景の建物などじっくり見ているだけでも見ごたえがあり,見た人が個々にその橋の違いを堪能できる。その後の解説編では,世界の25地域を取り上げ,橋の構造的な内容ではなく,歴史や文化,その橋が現在に至るまでの経緯をわかりやすく解説していて,とても読みやすい。地域景観をつくる橋というサブタイトル通り,橋は地域のシンボルとして親しまれている存在であり,橋のデザインを考えるのみならず,橋を活かした地域計画をする際にも参考になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画327号 2017年7月15日発行)

世界の橋並み

-地域景観をつくる橋

松村博/鹿島出版会/2017年3月

 本書には,著者が暮らすバイエルン州北部のまち,人口約10万人のエアランゲン市について,その活き活きとした様子が多様な側面から描写されており,その要因について著者の考察がなされている。視点は市民活動,企業活動,市民のマインド等さまざまであり,それらの文脈の中で,元来のコンパクトシティの性格,歩行者が楽しむ中心市街地の形成,環境問題のみならず,移動の公平性を念頭においた自転車道の整備等,都市計画の側面についても述べられている。平易な文章と多くの写真により,一読することで,ドイツの地方都市を訪問して体験した気分になれるような一冊である。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか

-質を高めるメカニズム

高松平蔵/学芸出版社/2016年9 月

 本書は,都市とスポーツとの多様な関わりを取り上げ,スポーツを都市経営にどのように活用するかをテーマとしている。都市とスポーツとの関わりは,2020年東京五輪のようなメガイベントの運営に限らず,市民マラソン等の身近なイベントの運営や,例えば体育館やサイクリングコースといった施設やインフラの整備等,想像以上に幅広い。スポーツ都市経営には,必ずしも立派なイベントやハコモノだけが必要なのではなく,住民にスポーツに親しむ機会を提供し地域への愛着心を育み,地域外からのスポーツツーリストを受け入れ,そして経済効果を上げるという,一つのビジネス体系として捉える視点が必要と感じた。大都市に限らず地方都市や中小都市においても参考になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

スポーツ都市戦略

-2020年後を見すえたまちづくり

原田宗彦/学芸出版社/2016年3月

 本書は,都市の人口が減少へと向かう中でなお大量の住宅が作りつづけられる現状に警鐘を鳴らし,それによって引き起こされる諸問題の実態と要因を明らかにしている。またその上で「住宅過剰社会」から脱却するための方策をまとめている。著者は,都市計画が焼畑的な住宅供給を止められずフリーズしてしまっている状況に対して,時に行政への厳しい批判を交えつつ,制度・枠組み上の課題を含めて問題の構造を明快に描き出す。読み応えのある内容であるが文章はとても読みやすく,研究者・実務家のみならず初学者や一般市民を含めて,縮退社会における都市計画に関心をもつ全ての人に一読を勧めたい。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

老いる家 崩れる街

-住宅過剰社会の末-

野澤千絵/講談社/2016年11月

 本書は,芝浦工業大学の様々なバックグランドを持つ専門家が,専門領域の内容を掘り下げるのではなく,関連領域を盛り込みながら,システム思考という一本の糸で結ぶという点に着目して編集されている。複雑化する都市の問題は,建築・都市あるいは土木などの確定した従来型の専門領域や一つの完結した概念で語り得ぬものであり,専門性をつなぐしくみを考えることの重要性が整理されている。都市を知り,都市を考えることは,専門家に限った問題ではなく,広く一般の人々にとっても共通の問題であることを考えさせられる。今後の社会を担っていく学生やこれからまちづくりに関わろうとする市民など,幅広い方にお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

都市をつくりかえるしくみ

専門性をつなぐ参画のしくみ研究会 編著/彰国社/2016年12月

 本書は多彩な研究者が参加するメガシティ研究の成果を取りまとめた6部作の第3巻,分析編である。東京都市圏に次ぐ,巨大なジャカルタ首都圏を取り上げ,国際的契機と自然環境を検討し,気鋭の歴史学者たちが,ジャカルタがメガシティとなったプロセスについて16世紀から20世紀までの500年間の膨大な史料をもとに分析している。国際的契機と自然環境の上で形成されたジャカルタの歴史的な発展の経緯を読み解いており,過去から現在,そして未来の都市のあるべき姿への教訓などがまとめられている。ジャカルタの歴史的な発展の経緯を理解することができ,読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 長田哲平

(都市計画326号 2017年5月15日発行)

メガシティ3 歴史に刻印されたメガシティ

村松伸 他/東京大学出版会/2016年8月

 伝統的な住まいや生活文化を受け継ぐことの意味や重要性,具体的な継承の方法などについて,一般社団法人住総研の研究会による3年にわたる研究成果をまとめたものが本書である。建築学,社会学,まちづくりなど多様な分野の専門家や実務家が,建築計画,文化財保護,生産技術,社会システムなど多様な側面から「住まいを受け継ぐ」ということについて幅広に論じており,住居や歴史的建造物の保存について考えるうえで示唆に富んでいる。また住まいの継承のさまざまな事例が図面と写真付きで詳細に紹介されており,具体的な空間性をイメージできるように配慮されている。当該分野に関心のある学生や実務者に一読をお薦めする。

紹介:総務・企画委員 山村崇

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

住総研住まい読本 受け継がれる住まい

-住居の保存と再生法

住総研「受け継がれる住まい」調査研究委員会 編著/柏書房/2016年9月

 本書は,三重短期大学都市計画ゼミの景観研究を冊子にしたものである。内容は,伊賀市の農村集落に対して,都市出身者,農村出身者別や地域住民の評価などを分析するなど,パタン・ランゲージをツールとして用いており,表現の難しい農村地域の景観の特徴を知ることができる。また,アンケート調査のデータが中心の報告書のような内容となっているため,読み手が一緒に考えながら理解する必要があるが,住民が住んでいる農村景観をどのように評価しているかを表現している貴重なデータであり,景観計画策定の関係者やこれから景観を学ぼうとする学生にもお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

農村景観のパタン・ランゲージ

-伊賀市での景観基準づくり研-

岩田俊二/農林統計出版/2016年11月

 本書では,ポートランド市開発局に勤務する著者によって,市の歴史と最新の取り組みが紹介されている。著者は都市計画の専門家ではなく,アメリカでの居住歴が長いため,日本の専門的知識についてはやや不十分な記述もあるものの,市のまちづくりの根底にある考え方,住民を含む利害関係者によるデザイン・ワークショップの実際の事例,資金調達の仕組みなど,職員として働く著者ならではの情報が豊富に含まれている。何より,専門家でないからこその住民視点での魅力も伝わってくる。さらに,環境都市開発のブランディングとそのノウハウの輸出の動きと,柏の葉スマートシティでの最新の事例なども紹介されており,実務者にも参考になるだろう。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

ポートランド

-世界で一番住みたい街をつくる

山崎満広/学芸出版社/2016年5月

 「よいまちとは何か」「どうすればよいまちは作れるのか」「なぜよいまちを求めるのか」。このシンプルな問いを受けて,当代を代表する両知性による濃密な対談を記録した本書は,〈安心・安全・便利・快適〉の効率的な調達を優先する都市計画ではなく,「ノイジーな不完全性」を有する世界において,時間と結びついた「全体が生き物であるような場所」を掴むことの重要性を説く。中間層の分解による〈感情の劣化〉が進行する時代にあって,顔の見えるスモールユニットにおける熟議と,共同体のソーシャルスタイルに関わる価値にコミットする「我々」の包摂こそが,未来に対し企て構想する「計画」という行為を後押しする。研究者,実務者を問わず,都市計画に携わる全ての人に一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

まちづくりの哲学

-都市計画が語らなかった「場所」と「世界」

蓑原敬 他/ミネルヴァ書房/2016年6月

 本書は,都市計画分野では言わずと知れたジャーナリスト・市民活動家ジェーン・ジェイコブスの生誕百年,没後十年を期に,様々な分野の専門家の寄稿や座談会をとりまとめた一冊である。代表作「アメリカ大都市の死と生」の中で多様性を重視した彼女の主張は,当時の都市計画,経済学,倫理学,環境学等の専門家へ大きな影響を与えた。「アマチュア」が故の総合的視座に加え,卓越な洞察力を持った彼女の主張は,当時の時代背景も相まって,その価値はいまだに衰えることを知らない。過度に専門分化し,専門外に対して排他的になりがちな現代において,今一度広い視野にたって都市計画と向き合うひとつの機会として,本書を手にしてみてはいかがだろうか。

紹介:総務・企画委員 大門創

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

ジェイン・ジェイコブズの世界

-1916-2006 別冊環22

塩沢由典 他 編集/藤原書店/2016年6月

 本書には,一般社団法人エコまちフォーラムが企画・運営する「エコまち塾」において開催された,講義録がおさめられている。講義のテーマは,都市,建築,環境,エネルギー,経済,社会といったさまざまな分野にわたっており,それぞれについて,国内の先進事例から世界的な流れまで幅広い内容の紹介がなされている。巻末には,2020年以降の東京の未来をテーマにした座談会も掲載されており,現在の制度上の問題点も指摘しつつ,さまざまな示唆を与えている。各ページには,講義内容に出てくる用語の説明も丁寧に注釈がついており,このような分野に興味を持った学生にもやさしいつくりになっている。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

エコまち塾

エコまちフォーラム/鹿島出版会/2016年5月

 本書は多彩な研究者が参画するメガシティ研究の成果を取りまとめた6部作の第1巻,導入編である。メガシティとは何かという定義に始まり,世界の大都市を統一した指標で概観してメガシティを抽出する。各都市がメガシティに発展する経過が整理されるほか,都市圏の広がりも比較される。気候風土などにより都市を生態系圏域に分類して議論するという視点,地域の特性を読み解きながらジャカルタで実践された地域改善の取り組み紹介など,導入編でありながら理論面でもデータ面でもケーススタディの記録としても読み応えのある一冊である。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画325号 2017年3月15日発行)

メガシティ1 メガシティとサステイナビリティ

村松伸 他/東京大学出版会/2016年8月

 建築家・大野秀敏氏及び東京大学大野研究室による研究活動の成果であるとともに,大野氏らが2000年代半ばから発表し続けてきた「ファイバーシティ」理論の集大成である。第Ⅰ部で人口増加時代を経た現代の我が国の置かれている社会状況を分析した上で,第Ⅱ部では既存の都市において線状要素(=ファイバー)を操作することにより「場所」と「流れ」を制御するという計画理論と東京首都圏及び長岡という実際の都市を対象とした都市戦略群が提案されている。人口減少社会における新たな都市システムの提案を含めた具体的な都市空間像が描写されている点が貴重であり,今後の都市計画理論のあり方を考える上で示唆に富む一冊である。ぜひ一読いただきたい。

紹介:総務・企画委員 矢吹剣一

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

Fibercity

-縮小時代の都市像

大野秀敏+MPF/東京大学出版会/2016年8月

 地球温暖化対策という大きなテーマを住宅,地域,健康など総合的な解決についてまとめた内容である。住宅内の省エネ計画が,その集合体の都市として実施された時大きな効果として表れる。しかし,個々のエネルギーの需要に関連する用途を決めているのは都市計画であるにも関わらずエネルギー計画が組み込まれることはなかった。2000年以降,太陽光発電導入をきっかけにようやく都市計画分野にも扱われるようになったがまた未熟であり,今後は電気・ガス・熱などのエネルギーを考えた都市計画があるべきだと指摘している。本書は,環境工学の枠を超え,医学,建築学の視点を踏まえ温暖化対策を考えられる一冊となっている。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

住環境再考

-スマートから健康まで

住総研「住環境を再考する」研究委員会 編著/萌文社/2016年4月

 建築家として多様な建築の設計に携わった筆者が,人を惹きつけ,利用される建築とはどのようなものかについて考察する。筆者はそのキーワードとして「遊環構造」を提案する。循環型で回遊性を持ち,安全で変化に富みつつ短絡路があり,シンボル性の高い空間や広場があることなどを条件とする「遊環構造」を実践した事例が豊富に紹介される。紹介されるものは大半が建築スケールの事例ではあるものの,周辺環境との関連性を読み解き,人々から利用される空間を構想する発想は都市スケールへの応用も可能であり,空間を構想する際の視点とアイディアを与えてくれる一冊と言えるのではないだろうか。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

人が集まる建築

-環境×デザイン×こどもの研究

仙田満/講談社/2016年4月

 都市計画等制度に則らず形成されたインフォーマルな市街地は,居住環境上の問題を抱える一方,市街地固有の文化を反映した空間やコミュニティ等がバランスした社会空間としての魅力がある。本書は,アジア,アフリカの9つのインフォーマルな市街地を対象とし,フォーマルなプロセスに依らない「手づくり」による居住環境改善の取組みの特徴を,精緻な調査により浮き彫りにしている。一見では知り得ない現地の取組みを知ることが出来るとともに,試行錯誤しつつも市街地の状況に応じたコミュニティ・ガバナンスを展開することの重要性について,改めて認識させられる。既成市街地のまちづくりに関わる実務者,学生に一読をお薦めする。

紹介:総務・企画委員 川田浩史

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

アジア・アフリカの都市コミュニティ

-「手づくりのまち」の形成論理とエンパワメントの実践

城所哲夫 他 編著/学芸出版社/2015年12月

 近年は日本でもBRTという言葉を耳にするが,その定義は曖昧である。著者もそのことを指摘しつつ,独自の定義に基づき,世界各地のBRT事例を紹介する。バス停や走行路などのハード面,運賃体系や支線区間への直通などのソフト面,ICTの活用や都市計画・交通計画との連携など,多面的に紹介されており,著者のBRTの定義に含まれる「従来の路線バスの(負の)イメージを一新する」という部分に着眼しながら読み進むと示唆に富む。本書による論点の整理は,BRTとは何かという基準や定義を与えようとする視点から,都市戦略や公共交通体系の中で,なぜBRTなのか,どんなBRTであるべきかという議論へ視点が移る契機となる。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

バスがまちを変えていく

-BRTの導入計画作法

中村文彦 他/計量計画研究所/2016年6月

 逗子の事例を基に,持続的な原風景を創る住民参加参画の必要性をまとめたものである。逗子の住民は,都市から近距離にある土地であるため,歴史や自然と共存しながらつくられた風土として開発され損なわれていく姿を身近に見ているからこそ,環境問題に大いに関心があり敏感であるとしている。この原風景の消失と開発に対しては,人口減少時代に法定容積率とその達成率とのギャップは開く一方であり,土地利用計画を抜本的に見直さなければならないと指摘している。これは逗子に焦点をあてることで都市部近郊に起きた問題に対しても読み解くことができ,今後日本で起きうる新しいまちづくりへの取り組みにおいて非常に参考になる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

風土と市民とまちづくり

-ちいさなマチ逗子のものがたり

長島孝一/鹿島出版会/2016年2月

 特に旧東ドイツの都市は,社会流出による人口減少を経験してきた。本書は,日本とドイツの人口減少の背景・要因を冷静に分析した上で,都市のアイデンティティを強化しつつ,人口減少に真正面から向き合い縮小戦略を検討してきたドイツの事例を丁寧に紹介し,今後の示唆を与える。それは,空き家率の増加に対し主に減築で対応した都市,さらに社会インフラ維持管理費削減のため撤去も行った都市,撤去後のイメージ刷新を図った都市,あえて新開発地区から撤去した都市など,様々である。州都だけでなく小都市も,そして成功事例だけでなく問題を抱える都市も取り上げており,日本の都市にとって学ぶ点が多い。是非一読をお勧めしたい。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

ドイツ・縮小時代の都市デザイン

服部圭郎/学芸出版社/2016年3月

 2013年の交通政策基本法の制定は,幅広い関係者の参加と協働による,人間を基礎にした「緑の交通政策」の時代の到来を物語っている。人口減少・超高齢化社会においては,モビリティ格差の是正や社会的ユーザビリティの視点に立った速度マネジメントと空間の再編・再配分といった都市機能と交通機能を統合した政策に,人々の生活や社会への「根づき」を促すための市民の横断的な視点を反映していく努力が不可欠である。法学,交通工学,経済学等の多角的な観点から日本における緑の交通政策の到達点と課題,またフランスをはじめ諸外国との比較による今後の展望を最新の動向を交えて紹介した本書は,新たな交通価値の実現への一つの道標を与えてくれる。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

緑の交通政策と市民参加

-新たな交通価値の実現に向けて

大久保規子/大阪大学出版会/2016年3月

 オランダで1996年から2015年にかけて構想・実施された,大規模河川拡幅事業「ルーム・フォー・ザ・リバー」について,都市デザイン,自然環境の保全・創成,そして治水という3つの分野の統合の過程を詳細に描きながら紹介する。ゆっくりとしたプロセスのデザインを可能としたのは,地域の「空間の質」の向上を水害対策と同等の目的に設定した「目的の複合化」と,ボトムアップ型の協議の受け皿にもなった政策決定方法にあると指摘する。気候変動という予測し難い長期的課題を見据えなければならない今日,河川事業という枠を超えて,自然との対話による地域デザイン,国土計画のあり方に大きな視座をあたえてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

自然と対話する都市へ

-オランダの河川改修に学ぶ

武田史朗/昭和堂/2016年3月

 本書は,島崎藤村の「夜明け前」にも登場する,中山道中津川宿における,住民,行政,大学関係者らによる景観まちづくりの取り組みを,豊富な写真や図面とともに丁寧に記録した書である。歴史的景観や水路といったまちの資源について,歴史的背景をひもときつつ,国内外の多様な事例も紹介しながら,その方針についての提言がなされており,教科書としての役割も期待される。ワークショップの進め方やアンケート調査の手法など,多様な主体との合意形成の進め方についても分かりやすくまとめられた貴重な資料となっている。各章には英語の要約が付されており,留学生や国外の研究者にも貴重な資料となるはずだ。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

景観まちづくりの軌跡

-中山道中津川宿における実践

松本直司 編著/理工図書/2016年3月

 本書は,日本においてラウンドアバウトを導入する際に必要となる,計画,設計,交通運用に関わる基本的事項の全体を俯瞰した国内初めての技術指針である。幾何構造の設計手法が丁寧に解説され,また,その適用条件,交通安全施設に基づく運用手法が述べられている。随所に関連するコラムがあり,多くの海外の事例等が示されている。図や写真による説明も多く,理解しやすい。平成25年6月に道路交通法の一部改正によりラウンドアバウトが「環状交差点」として規定され,今後の普及が大いに期待されている。本書を参考にして,適切な設計と運用がなされたラウンドアバウトの整備が期待される。

紹介:総務・企画委員 梶田佳孝

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

ラウンドアバウトマニュアル

交通工学研究会/丸善出版/2016年4月

 本書では現役市長である著者が飯田市での地域づくりの取り組みを紹介する。最初に,著者がドイツ駐在で感じた,仕事・家庭・地域の3つに価値を置くドイツ人の生き方,飯田と同程度の10万人規模の都市が持つ個性や自立性に触れる。また,飯田の特徴として,関係者が職業や肩書きによらず,当事者意識を持って議論しあう環境の存在を挙げる。その存立背景には大都市圏からの時間距離という地勢的な要因も挙げられようが,上位・広域の組織に依存しない自発的な活動が営まれる姿が詳細に描かれる本書は,人口が減少する右肩下がり時代において,いかに豊かな地域社会を形成するか,その最適な規模は何かという問いに,一つの案を示している。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

円卓の地域主義

-共創の場づくりから生まれる善い地域とは

牧野光朗 編著/事業構想大学院大学出版部/2016年2月

 世界の都市を水の視点から取り上げ,水都の価値を学問の枠組みの中で見出そうという『水都学』シリーズの最終巻。歴史学,建築学,環境工学,政策学など学際的な観点からまとめられた各論文により,現時点での水都研究の到達点を明示するとともに,その確立と理想の実現に向けた今後への展望を描く。近代以降,「水都」の空間を近視眼的に失うことの多かった東京において,水辺の復権による都市再生が叫ばれているように,新たな時代のニーズに見合ったソフトインフラとしての骨格を再構築することは,これからの都市・地域づくりにとって最も確実で夢のある戦略であるとする。本書は,その道筋への手がかりを与えてくれるだろう。

紹介:総務・企画委員 土井祥子

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

水都論V

-特集 水都研究

陣内秀信 他 編/法政大学出版局/2016年3月

 本書は,「都市計画制度」というものを,単に土地利用規制や施設・事業等強制力を持った手法を内容とする「都市計画法」に限定せず,現在の都市が抱える問題(都市問題)を解決するための「手法・制度全体」として捉え,問題への対応・解決策をまとめたものである。現在まちづくり政策として,都市計画法以外に都市再生や低炭素化等の様々な政策が打ち出されているが,法律や制度毎の縦割りではなく,都市問題毎に横断的に整理することで,都市問題への具体的対応策の全体像を把握できるよう実務的に整理されている。都市問題として,安全,経済,生活,環境の4つを取り上げ,法規制等の整理のみならず,支援誘導策や財源確保に至る幅広い分野の施策について様々な提案がなされている点は大変興味深い。

紹介:総務・企画委員 米沢秀明

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

政策課題別

-都市計画制度徹底活用法

佐々木晶二/ぎょうせい/2015年12月

 本書は,パトリック・ゲデス著「CITIESI NEVOLUTION(1915年初版)」の翻訳書の改訂版である。原書の初版が発行されたのは100年も前になるが,科学的な実証の必要性,都市のエネルギー問題,市民主体の計画論など,現在のまちづくりに通じる数多くの問題を示唆している。また,真の設計や計画とは,その地域の有する条件を十分利用し,地域の個性を表現すべきとし,まさに他の都市を真似るのではなく,その土地の歴史や地理的条件等を踏まえた都市計画の必要性が語られている。偉大な先人に思いをはせるとともに,これから都市計画に携わっていく皆さんに,ぜひお勧めしたい一冊である。

紹介:総務・企画委員 肥田利弘

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

進化する都市

-都市計画運動と市政学への入門

パトリック・ゲデス 著・西村一朗 訳/鹿島出版会/2015年11月

 5期20年間金沢市長だった山出保さんと金沢まち・ひと会議を中心とするまちづくり勉強会の成果及び座談会をまとめたものである。座談会そのものの内容を示しており,文章にすると表現しにくいような細かな内容を読むことができ,まさしく「金沢らしさ」という曖昧な表現をまとめた一冊といえよう。金沢の街は当たり前のように形成されたわけではなく,市長はじめ金沢を愛する人たちの努力よって培われた表れともいえる。そのまちづくりに関わっていた金沢をよく知る人だからこそ説得力があり,「金沢らしさ」を「ほんもの」「コミュニティ」「新しさと調和」の3点に絞り議論しており,同時に原点を振り返る思考にしてくれる一冊である。

紹介:総務・企画委員 沼田麻美子

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

金沢らしさとは何か

-まちの個性を磨くためのトークセッション

山出保+金沢まち・ひと会議/北國新聞社/2015年12月

 本書では,経済理論,都市計画制度,ガバナンス,市民社会,都市形成史,環境,交通,居住政策,防災,ファイナンス,国際協力など様々な立場から,アジアの開発途上国,新興国の都市の課題と処方策が集められている。現状だけでなく,制度や社会的状況,文化の違いからアジア都市の特性の由来が述べられており,人口移動・増加,都市化,経済成長,都市空間,都市交通問題,インフラ整備,所得格差,インフォーマル居住地,地方分権などが共通するキーワードとして挙げられている。自分の専門分野だけでなく,複雑に絡み合うそれらの様々な観点からアジア都市の形成過程を理解した上で,その都市づくりを考えていく際に参考となる一冊である。

紹介:総務・企画委員 中道久美子

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

グローバル時代のアジア都市論

-持続可能な都市をどうつくるか

松行美帆子 他 編/丸善出版/2016年1月

 本書は,長年新興国のインフラ開発支援の実務を経験してきた国際協力機構(JICA)職員の筆者による,戦略的なODAの解説と事例紹介である。都市鉄道や空港,都市開発などのセクター別の支援状況や,国別の動向を幅広く紹介しており,新興国におけるインフラ開発を概観することができる。アジア全体のインフラ需要と比較すると,円借款などの政府予算では少なく,民間企業の持つ資金やノウハウを結集することの必要性を述べている。日本の持つ技術力や長年の都市開発,および都市経営の経験が,新興国の発展に寄与できる可能性を感じることができる一冊である。

紹介:総務・企画委員 小林乙哉

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

新興国のインフラを切り拓く

-戦略的なODAの活用

山田順一 編著/日本建設工業新聞社/2015年11月

 著者は,ソーシャルメディアとWeb-GISを統合し,利用者間のコミュニケーション機能を持つ「ソーシャルメディアGIS」を提案しており,本書では豊富な事例とともにこれまでの研究成果を紹介している。これらの事例については,地域コミュニティ形成の活性化など,平常時の活用方法から,防災・減災を目指した例など,システム設計から運用方法まで詳しく知ることができる。また,集められた膨大な情報の提供方法の違いによる利用しやすさの評価など,今後GISを活用したシステムの運用にあたっての様々な知見を与えてくれる。

紹介:総務・企画委員 小嶋文

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

情報共有・地域活動支援のための

-ソーシャルメディアGIS

山本佳世子/古今書院/2015年10月

 戦後の人口増加のもとで進行した都市のスプロール的拡大期から人口減少社会における都市縮小期に移行した先に,都市空間はどう変化するか,あるべき都市計画の姿とは何かを明快に述べ,いわゆる「スポンジ化」した都市のたたみ方について新しい都市論を展開する。読み進めるうちに,都市や都市計画の役割を再考することや,周辺部から中心に向かって徐々にコンパクト化するという思考から脱却し現実的な都市縮小のプロセスを模索することの必要性について改めて気づかされるだろう。人口減少を前提とするこれからの都市計画に対し,都市のスポンジ化を前向きに捉え,スポンジ化の構造を生かした都市空間の形成について提言した貴重な一冊。

紹介:総務・企画委員 木梨真知子

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

都市をたたむ

-人口減少時代をデザインする都市計画

饗庭伸/共栄書房/2015年12月

 本書では光のまちづくり推進委員会メンバーが大阪での取り組み内容を中心に紹介している。大阪の都心部には水辺空間と重厚な歴史建造物が豊富に存在し,その魅力を高めるライトアップ,照明計画の重要性が説かれる。都市での電灯の普及と照明手法の変遷,シンガポールを中心とした海外事例の紹介のほか,実際に計画を立案して実現するにあたっての取り組み内容が詳細に述べられる。光の色合いを示す色温度,過度に明るい眩しさを表すグレアなどの重要な概念が説明されるほか,指標の数値ではなく照明は必ず現地で確認すべきこと,照明を増やすだけでなく「光の引き算」が重要なことなど,取り組みの実体験に基づく留意点が述べられている。

紹介:総務・企画委員 相尚寿

(都市計画322号 2016年9月15日発行)

光のまちをつくる

-水都大阪の実践

橋爪紳也+光のまちづくり推進委員会 編著/創元社/2015年12月

 本書は,世界12カ国・15都市で,建築・都市・ランドスケープのデザインに取り組んでいる(あるいは取り組んだ経験を持つ)日本人16名について,なぜ都市やランドスケープに興味を持ち,なぜ日本ではなく海外を選び,日本と海外での業務上の違いをどう感じ,どう工夫・克服してきたのか等々,16通りのリアルな経験や思いが語られている。経験の違いはあるものの,共通して浮かび上がるのは,都市やランドスケープという「多くの人に関わるもの」をデザインする上では,異国の人々のものの考え方や生活スタイルを十分理解し許容していこうという姿勢が重要であるということ。デザインスキルのみならず,人間力や行動力の大切さを改めて教えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 米沢秀明

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

海外で建築を仕事にする2

-都市・ランドスケープ編

福岡孝則 編著/学芸出版社/2015年10月

 京都近代化の歴史は,「千年の都」という歴史都市のイメージを「演出」するための努力の積み重ねであったことがさまざまなエピソードとして語られ,さらに客観的価値に裏付けられた歴史だけではなく,都市に内在する住民が持ち得てきたリアルな歴史という両面性への視座を促す。近代化との積極的な折り合いにより街に寄り添う様式を実現したモダニズム建築,京都市の都市改造事業と京都府の伝統的風致保存論といった切り口から描かれる近代京都の足跡は,ファサード保存やレプリカの新築など,近代建築の保存・活用をめぐる今日的議論にも一石を投じている。二紙に掲載された連載が並列的に収録された小さな物語集である本書は,さながら京町家の間口のように,さらに奥深い各テーマへの窓として読者を誘う。

紹介:情報委員 土井祥子

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

京都 近代の記憶

-場所・人・建築

中川理/思文閣出版/2015年9月

 「水都大阪」の復活をライフワークとする監修者の熱い想いの下,水辺からの都市の再生に携わる実践者が,海外事例も含む各地の取り組みとその成果や課題を取りまとめ,これから取り組む実践者に向けて,都市を分断する水辺から多様な交わりを紡ぎ出す場所へと転化していく要諦を「見つける」「伝える」「設える」「育てる」「広げる」の5つのアプローチとこれに対応した15のアクションとして事例と紐づけて体系化し,豊富な写真とともに分かりやすく紹介する。これからのまちづくりには,地域資源を活かした多様な主体の協働によるまちづくりが不可欠であり,その実践にあたり,本書から単なるノウハウだけでない刺激を得て,まちに出て実践に移すきっかけとしてほしい。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

都市を変える水辺アクション

-実践ガイド

泉英明 他 編著・橋爪紳也 監修/学芸出版社/2015年10月

 本書は,モビリティ・マネジメント(MM)を進めるためのプロセス(課題の認識,目標・シナリオの共有)を説いた上で,MMに係る様々な実践事例を整理した書である。取組み内容をはじめ,実現に至るまでの経緯等が目的別にまとめられているため,状況に応じ必要な知識を短時間で得ることが出来る。一方,本書を読破することで,MMにおける普遍的な要点,すなわちコミュニケーションの重要性を強く認識させられる。モビリティのあり方は,都市の構造に大きな影響を与え,人々の生活を左右する。都市をマネジメントする上で,都市に関わる様々な実務者が必読すべき一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

モビリティをマネジメントする

-コミュニケーションによる交通政策

藤井聡 他 編著 学芸出版社/2015年8月

 300mを超える超超高層建築物からアプローチするドバイの都市観について語られている本書は,高さを競いそして世界一を護持する文化観について,改めて気付かせてくれる。冒頭では,100mを超える超高層建築物の都市別本数が整理分析されており,世界の超高層建築物の位置づけが手に取るようにわかる。ドバイでは,300mを超える超超高層建築物が18本あり,2位のニューヨーク,香港,シカゴの6本を大きく引き離していることからも,ドバイで超超高層建築物が論じられる理由がよくわかる。また,本書はドバイの建築物についても幅広く言及されており,「建築版地球の歩き方」としても活用できる。超超高層建築物が示す都市観とは何かを改めて考える機会を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

ドバイ〈超〉超高層都市

-21世紀の建築論

松葉一清 他/鹿島出版会/2015年9月

 本書は水利用の視点から明治期の京都を取り上げる。前半では琵琶湖疏水開鑿の前後における水利用や水利権の実態を明らかにし,京都は地下水が豊富ながら表流水は乏しく,琵琶湖疏水は特定の産業の水資源確保というより表流水確保という意義が大きいと考察する。後半では京都市と伏見市の合併を取り上げ,水面の埋め立て開発計画の失敗という点で水と絡めた考察が展開される。京都というと歴史文化や観光という側面に焦点があたりがちながら,本書では工業化や上水道といった近代都市化に不可欠な表流水という観点から,豊富な関連文献や歴史資料を引用しつつ,「京の都」が「京都市」に変容していく時代がわかりやすく描かれている。

紹介:情報委員 相尚寿

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

水系都市京都

-水インフラと都市拡張

小野芳朗 編著/思文閣出版/2015年9月

を育み,まちを豊かで魅力的にする方法が整理されている。前半の事例紹介では,市民を巻き込み伝えてもらい,他者からの評価が誇りに繋がる点,市民やまちとともに徐々に変化し,将来のビジョンを共有して継続する点が共通している。どれも物,建築,交通などの垣根を超えており,手段や成果物に正解があるのではなく,まちをより良い場所にしたいという想いが大切であることがわかる。シビックプライドに関わらず,専門分野の枠に囚われない自由な発想のヒントが得られる。後半では,実践手法や考え方,評価チェックリストまで示されており,研究者・実務者を問わずバランスのとれた一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

シビックプライド2[国内編]

-都市と市民のかかわりをデザインする

伊藤香織 他 監修/宣伝会議/2015年9月

 姫路駅は,連続立体交差事業を契機として,我国では事例の少ないトランジットモール化を含めた,駅前広場の大規模なリニューアルに着手し,平成27年より供用を開始した。公共空間デザインの合意形成にあたっては,大掛かりな市民参加のプロセスを導入している。本書は,その過程と意図を1冊の書籍に凝縮したものであり,計画編,設計プロセス編,デザイン編,エリアマネジメント編で構成されている。本書を読むと,計画から竣工まで,行政・市民・専門家が苦悩しながら協働した様子が克明に刻まれている。また,度重なる議論で成熟した共通認識が,物の見事に設計図に反映されているのは驚くべきことである。是非一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画321号 2016年7月15日発行)

市民が関わるパブリックスペースのデザイン

-姫路市における市民・行政・専門家の創造的連携

小林正美 編著/エクスナレッジ/2015年3月

 この本では,住宅は金融や税制と大きく関連しているとわかっていながらも十分に理解できていなかったことが,丁寧に解説されている。それは難しい内容ではなく,そもそも住宅ローンや税金とは,といった今さら質問しづらい基本的なことやその成り立ちから始まり,最近よく聞く用語などの最新の事情まで,幅広く網羅されている。各章は身近な話題や経験を含む問題提起から始まり,質疑応答形式で話が進んでいき,最後に素朴な感想が書かれているため,金融や税制に苦手意識を持つ人も安心しながら読み進めていくことができる。建築女子だけでなく,都市計画に携わる学生や若手にとって広く参考になるだろう。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

建築女子が聞く住まいの金融と税制

大垣尚 他/学芸出版社/2015年7月

 本書は,人口減少に伴う大都市圏と地方それぞれの問題やマクロ経済への影響を整理するとともに,過去の政策を検証した上で,今後の取るべき対応策を提示している。本書の特徴は状況整理や課題認識だけでなく,その対応策に紙面を割いている点である。一般的に議論されている財政や経済対策,少子化対策,移民政策,コンパクトシティ,地方自治のあり方などに加えて,民間企業によるビジネスを通したイノベーションが人口減少問題に対して重要な役割を担うと述べている。国家の重要課題に対して,産学官あらゆる主体が共通のビジョンに向かって対策することの重要性を感じることのできる一冊である。

紹介:情報委員 小林乙哉

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃

-人口問題民間臨調 調査・報告書

日本再建イニシアティブ/新潮社/2015年6月

 本書は,交通工学研究会から従来より発行されている平面交差の計画と設計の自転車編である。平成24年11月に国土交通省・警察庁から発表された「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」の活用と普及を目指した手引きである。車道を中心とした自転車ネットワークを形成する方針の下,走行特性や交差点での交通事故の状況等の基本特性から設計の基本的な考え方,海外の状況,様々な交差点の設計事例,案内表示の方法など,わかりやすく解説している。自転車の利用は,今後も増加傾向であり,本書を参考にして,快適な自転車の走行環境が整備されることを期待したい。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

自転車通行を考慮した交差点設計の手引

交通工学研究会/交通工学研究会/2015年7月

 本書は,冒頭で社会基盤とは何かの解説がなされ,社会基盤と他の工業製品などとの対比からその特殊性を述べることから始まる。次に社会基盤の建設に関わる建設業界の特色や動向が紹介される。以降は,プロジェクト・資金,設計・施工・工程管理,調達・契約などの視点で,マネジメントの考え方や留意点が解説される。日本国内の慣習と世界標準の違いや海外事例で考慮すべき事項の紹介も充実している。都市計画を具現化するのは個々の建設事業であり,その背景や実情を初学者にも平易に解説し,また国際化の時代での留意点や戦略を考える基礎的情報を提供する本書は,特に実務への就職を目指す学生の方々には,ぜひご一読いただきたい。

紹介:情報委員 相尚寿

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

社会基盤マネジメント

堀田昌英 他/技報堂出版/2015年8月

 本書は,地域福祉の視座から,東日本大震災の被災状況,支援,地域復興,生活実態,ニーズ等を記録化・検証したものである。時代背景や被災状況の異なる阪神・淡路大震災等との対比から,被災以前の居住状況や被災後の避難者分散化,世帯分離の現状が述べられている。自らも被災した中で活動を続けた自治体の社会福祉協議会の役割の重要性,N POや当事者組織等による避難者支援活動の記録が集められている。そして,仮設住宅から復興住宅への移行に伴う新たなコミュニティ形成,そのまちづくりとの関わりへの発展,人材の必要性を問いかけている。今後の災害や人口減少・超高齢者社会における地域福祉のあり方を考える上で参考になる。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

東日本大震災と地域福祉

-次代への継承を探る

日本地域福祉学会東日本大震災復興支援・研究会 編/中央法規出版/2015年7月

 本書では,環境を器としながら経済,そして社会の持続可能性を保つために,日本で環境アセスメントから持続可能性アセスメントへ展開する課題と示唆が述べられている。欧米での事例では,各国の歴史の上で形成された代替案比較,定性・定量的評価の併用などの評価方法が紹介され,一部を切り取って導入しても実効性がないことが理解できる。その本質は,充分な情報公開のもと,人々の懸念する事項に正面から答える「意味ある応答」を実現することで,総論段階での合意形成を充分に行い,各論段階でも合意を得ることである。日本で立ち遅れている持続可能性を高める合意形成を問い直す,行政・実務者・研究者に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

都市・地域の持続可能性アセスメント

-人口減少時代のプランニングシステム

原科幸彦 他 編著/学芸出版社/2015年7月

 公共投資は,これまでは生産・雇用・消費を派生的に創出し経済全体を拡大させる「フロー効果」としての側面が強調されてきた。しかし,社会資本ストックとして定着した後に長期間効果を発揮する「ストック効果」があり,これこそが公共投資の本来的な効果としている。本書では,ストック効果の側面から,財政健全化等の社会的背景との整合性を図りつつ,真に必要な社会資本の集約・再編を提言している。都市計画の研究者・技術者からすれば,費用便益分析に代表されるように,ストック効果に着目することは至極当然のことではあるが,今一度携わっているプロジェクトの効果を見直すきっかけとして一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

インフラ・ストック効果

-新時代の社会資本整備の指針

インフラ政策研究会/中央公論新社/2015年8月

 本書は,市民生活行動学を,市民生活とそれに関わる諸事象を人間行動の視点から研究する学問と定義している。定義に示された思想に基づき,学際的かつ多面的に市民の生活行動について述べられており,本書の最大の特徴は,市民の生活行動について可能な限り網羅し学術的に述べている点である。さらに,海外の状況も豊富に盛り込まれ,それぞれの生活行動に関するデータの存在の有無や既存研究についても深く言及されており,市民生活行動学を考える基礎が備わっている。インフラを整備する側だけでなく,インフラを利用する側についても,市民行動学として扱っている点も斬新である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画320号 2016年5月15日発行)

市民生活行動学

土木学会土木計画学研究委員会/土木学会/2015年3月

 本書は,建築基準法四十二条二項の規定による,いわゆる「二項道路」あるいは「みなし道路」と呼ばれる道路について,その抱える問題,及びそれらの問題に関わる人々の助けとなる取組みが紹介されている。「二項道路」は,個々の道路それぞれが指定されたのではなく,条件によって一括指定され,また指定された基準時から相当の年月が経過している。そのため判定が難しく,また判定によってそれぞれの土地所有者に利害が生じること等,関係者の悩みの大きさが伝わる。法律面の整理,判例,行政の新しい取組みによる二項道路の解消取組み事例の紹介など,狭隘道路を抱えるまちづくりで行政,市民が協働するための多くの情報を与えてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

見えない道路

-建築基準法 二項道路

土岐悦康/創英社/2015年5月

 本書は,日本的な「集客都市」の構想の具体化に参考となる事例を,著者が世界各都市で調査した成果の一部である。都市型の観光に焦点を当て,韓国,フランス,ドイツ,イギリス,といった各国の都市における,観光振興における取り組みを紹介している。オリンピックを終えたロンドンの観光,建築物の再利用をアート活動に役立てるパリ,リヨンの夜の景観デザイン,ル・アーブルにおける戦後復興都市の観光資源化など,各地の観光に対する仕掛けが紹介される。著者は,外部からの流入・滞在を意識することにより市民もおのずと地域の価値に思い至るとしており,著者の提案するツーリズムによる好循環をはかるアイデアが多く詰まった一冊である。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

ツーリズムの都市デザイン

-非日常と日常の仕掛け

橋爪紳也/鹿島出版会/2015年5月

 政府開発援助60周年記念事業の一環としてまとめられた橋梁建設写真史。日本の技術貢献によって開発途上国に建設された橋は約2,000基にものぼるという。その中の厳選した50基について,美しい写真と共に建設に至った歴史的背景が,橋渡しの概念である「つなぐ」を基本に「大陸をつなぐ」橋,「地域をつなぐ」橋,「発展をつなぐ」橋,の3部構成で綴られている。それぞれの橋が現地の交通や物流のみならず,経済,文化,生活などの発展に深く関わってきた様子を垣間見ると,当時の技術者たちの熱意と努力に思いを馳せずにはいられない。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

世界をつなぐ架け橋

-Bridges connecting the world

国際開発ジャーナル社/丸善出版/2015年4月

 本書では,北イタリア山村地帯の村落をフィールドとした丹念な調査と深い洞察から,そこで暮らす人々の多様で洗練された生存の技術と生活の知を,ふんだんな写真と図説によって紹介している。地形に沿った空間構成の住居,気候や資材を活かした木造・石造或いはその組み合わせによる建築技法,食料・燃料の自給自足のテクノロジー…自然が有する「脅威と恵み」と,人間の側の「知的な取組」との関係性を示す数々の事例は,読み物としても面白い。地域の自立,地域資源の活用といったキーワードがあふれる昨今,地域固有の条件と人々の暮らしとの関わり方を改めて考えさせてくれる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

石造りのように柔軟な

-北イタリア山村地帯の建築技術と生活戦略

アンドレア ボッコ 他/鹿島出版会/2015年4月

 本書は,著者らが提唱する水都学を確立するために研究に取り組んできた研究者たちの成果を取りまとめたシリーズ第四段である。日本・欧米・アジアの各都市の港湾などの歴史的変遷を比較しながら,各都市の特徴を見出している。工学的,機能的な面でなく,信仰や祭祀など水辺に対する精神性や根源を考察するなど幅広い視点から人と都市,水の関係の本質を知ろうとしている。また,水車の立地や利用に焦点をあて,河川や運河が担ってきた様々な機能を知ることで中世~近代初期における水系や周辺地域の形成の歴史を探ろうとしている点は興味深い。地域の資源である水辺の再生・新たな利用を模索する上で多くの示唆を与えている。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

水都学Ⅳ 水都学の方法を探って

陣内秀信 他/法政大学出版局/2015年6月

 「TSUKUBA」というと,今では世界的に知られている都市の1つであるが,その発端となった筑波研究学園都市の形成について,計画の必要性から市街化熟成まで詳細に述べられている。本書の最大の特徴は,明治期から現在に至るまでの都市計画法制度との関連性を踏まえ,筑波研究学園都市の設計思想が述べられているという,今までにない視点での展開である。この観点は非常に斬新であり,筑波研究学園都市が日本の都市計画の発展とともに形成されていったと読み取ることができる。つくば万博といった国際博覧会の誘致やつくばエクスプレスの計画・実現など,つくばの市街化熟成におけるあっと驚くような史実も収録されており,是非とも一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

筑波研究学園都市論

三井康壽/鹿島出版会/2015年5月

 本書は,東京の現状や進行中の開発プロジェクトを紹介している。第1章では,世界主要都市との比較を通じて東京の特徴を指摘する。第2章では,地区ごとの開発事例を紹介しつつ,将来構想や実現に向けた制度の解説を加える。第3章は,東京圏広域計画,主要インフラの概要,開発実現のための諸制度を解説する。第4章は,開発に関わる多様な企業からの寄稿で構成される。いずれの部分も図表や写真が多用され,視覚的にもわかりやすい。各記事が短くまとめられており軽快に読み進められるほか,東京の現状や将来構想を収録する資料集としても価値ある構成となっている。

紹介:情報委員 相尚寿

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

東京150プロジェクト 多様な都市マネジメント

-新建築6月別冊

新建築社/新建築社/2015年5月

 九州大学大学院人間環境学府のアーバンデザイン学コースで開講されている講義「アーバンデザインセミナー」の取り組みをまとめた一冊。この講義は,地域の歴史・現況を読み解き,問題点や課題を分析し,将来像を検討する一連の作業を通じて,まちづくりに必要とされるスキルを養うことを目的としている。現地調査や文献調査に基づきテーマ設定を行い,現地に足を運んだり議論したりしながら論文形式の成果をまとめるのが講義の流れである。本書の前半は各教員の論説であり,後半は学生の成果事例が紹介されている。まちづくり教育の現場で役立つ実践書として,あるいは学生向け参考書として活用してほしい。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画319号 2016年3月15日発行)

都市理解のワークショップ

-商店街から都市を読む

九州大学大学院アーバンデザイン学コース 編/九州大学出版会/2015年4月

 本書では,高度消費社会の巨大市場システムに埋没してしまった住まいや暮らしについて,再度「住まいの主体性」に焦点をあて,生きる場所としての住まいを取り戻そうとする多くの事例等を交えてわかりやすく解説されている。また,「家族」単位をとりまく社会的変化について,所有形態の変化,家族形態の変化等に対して,現在の住み手相互の関係の変化に対応しきれていない制度についても触れている。「住まい」をとりまく育児や教育,防犯,防災,孤独死など現在の地域で抱える課題について,多面的な視点から問題提起する一冊となっている。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

住まいの冒険

-生きる場所をつくるということ

住総研主体性のある住まいづくり実態調査委員会 編著/萌文社/2015年4月

 本書の書名の「ドボク」には,社会基盤,都市,景観など広範な範囲に及び,学科名も異なるすべての学科を含むという意味が込められている。「ようこそ」という言葉が入っているため高校生向けの本かと思われるかもしれないが,さらにドボク学科へ入った後の講義の受け方,日常生活で役立つ視点,体験すべきこと,そして就職までを網羅している。大学関係者だけでなく行政,実務とさまざまな立場の人たちが経験を基にわかりやすく語っている。ドボクに関わる学生には是非傍らに置いて悩んだときに手にとっていただきたい一冊である。先生方や実際に働いている方にとっても,学生の興味を刺激する視点が再発見できるかもしれない。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

ようこそドボク学科へ!

-都市・環境・デザイン・まちづくりと土木の学び方

佐々木葉 監修/学芸出版社/2015年4月

 本書は,著者のハリケーン・カトリーナのおける被災体験を動機として,研究を開始した成果である。「災害復興」,「レジリエンス」,「ソーシャル・キャピタル」,「ソーシャル・ネットワーク」の概念や理論的背景を丁寧に整理している。また,ハリケーン・カトリーナ,関東大震災,阪神・淡路大震災,インド洋大津波の巨大災害を事例として,インタビューによる定性的評価と時系列などの定量的評価により,被災地での災害復興過程を検証しながら,災害復興においてソーシャル・キャピタルが果たす役割とは何かを検討している。今後の災害に対して地域コミュニティでどのように復興をしていくかを考える上で役に立つ一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

災害復興におけるソーシャル・キャピタルの役割とは何か

-地域再建とレジリエンスの構築

D.P.アルドリッチ 著・石田祐 他 訳/ミネルヴァ書房/2015年4月

 この本では,外国,特にヨーロッパと比較した際に感じる日本の都市景観に対する違和感の理由が,法律や裁判事例から論理的に述べられている。そして,日本の用途地域制とその建蔽率,容積率の数値設定の課題が実例を交えて紹介された上で,本来の住民参加の意味が語られている。そこには,街づくりにより「住民がそこで生活することに満足した結果として,街の美しさが形成される」こと,その前提として「自分がされたら迷惑だということを他人にはしないという,最低限の規律」があるべきだという一貫した主張がなされている。ドイツに長く住む著者ならではの視点に触れることで,日本の都市計画を見直す機会を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

ドイツ流街づくり読本 完

-ドイツのランドシャフトから日本の景観が学ぶこと

水島信/鹿島出版会/2015年4月

 近世大坂における蔵屋敷について,建築史的立場からその成立と変遷,接客・居住・役所といった空間構成,御殿の機能や住居の階層性等を,初出を含む豊富な指図や絵画資料をもとに詳述している。各国許から勧請された鎮守社の祭礼時には庶民に開放され大きな賑わいをみせた蔵屋敷は,自己完結した「物堅い藩候の邸」ではなく,都市における社会的装置として機能するとともに,人・モノ・情報の交差点として「天下の台所」の繁栄を支えたことを物語る。惣年寄らによる跡地運営とその後の職人町形成や,旅館業・貸倉庫業等の端緒となった事例からは,才覚に長けた大坂商人らの舞台としての蔵屋敷の姿が浮かび上がり,建築史から都市文化史への展開を期待できる一冊である。

紹介:情報委員 土井祥子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

大坂蔵屋敷の建築史的研究

植松清志 編著/思文閣出版/2015年3月

 本書は「タイ大洪水,フィリピン台風,カンボジア紛争などの災禍からの復興過程をたどり,アジアの一員としてのわれわれの役割,国際協力のあり方を考える。」と銘打ち,災害対応の地域研究シリーズの一環で刊行された。自然災害に加えて人為災害である紛争も取り上げ,地域の共助による対応から組織的な対応,日本との関係などを含め,現地の活動状況やその裏付けとなる制度などが詳述されている。災害が頻発するアジアにおいて,災害と如何に向き合うか,被害抑止・軽減から復興に至るまで,日本の蓄積が貢献できる領域は多い。アジアの経済成長で日本との関係も一層深まる中,防災分野においても日本の国際協力のあるべき姿が問われている。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

国際協力と防災

-つくる・よりそう・きたえる

牧紀男 他 編著/京都大学学術出版会/2015年3月

 本書は,建築・都市のプロジェクトマネジメントに係る業務の流れや組織体系,企画段階から実行段階において必要となる考え方を,実務経験の浅い者にも解りやすい構成で整理した書である。要点の整理に留まらない,実例に基づく事業収支の組み立てやプロセス毎のスケジュール,課題解決のエピソード等を交えた臨場感溢れる内容は,国内外を問わず多くのプロジェクトを経験してきた筆者ならでは。建築・都市開発の実務に興味がある者,既に実務に携わっている者が,今後質の高いプロジェクトの実現を目指す上で,参考とすべき一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

建築・都市のプロジェクトマネジメント

-クリエイティブな企画と運営

山根格/学芸出版社//2015年3月

 1995年に発生した阪神・淡路大震災の復興事業において,神戸市を中心に制度改革をしながら住民主権型の復興事業に至った経緯,「住民主権型」の「減災」のまちづくりが実現できる方向性について提示したものである。バブル崩壊後の時代に「成長神話」「土地神話」の発想がまだ行政にも根付いている上,阪神・淡路大震災により「安全神話」も崩壊した状況から始まったが,中央集権から地方分権,さらに被災地では地域の主権者である住民自身により災害に備える安全なまちづくりをするという発想の転換がされた様子が記されている。住民主権型のまちづくりが減災に繋がることが改めて実感できる一冊となっている。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画318号 2015年12月25日発行)

住民主権型減災のまちづくり

-阪神・淡路大震災に学び,南海トラフ地震に備える

中山久憲/ミネルヴァ書房/2015年3月

 本書は,公益財団法人国際交通安全学会の創立40周年記念事業の一環として,最近10年の取り組みの中で培ってきた知見を,国内外に向けた成果としてまとめたもので,日本語版と英語版が刊行されている。交通社会を取り巻く諸問題を広く捉え,各分野の専門家が交通安全を支えている技術体系や社会システムについて解説している。理論編と実践編で構成されており,国内外の交通社会の現状を精緻に捉え,その改善に向けた実践知を要約するとともに,交通社会の多様性を重視したアプローチの重要性を示唆している。技術や手段を作る皆さんの交通社会に関する知識や意識を横断的に共有することも重要だとしており,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

TRAFFIC AND SAFETY SCIENCES

-INTERDISCIPLINARY WISDOM OF IATSS

International Association of Traffic and Safty Sciences/IATSS/¥2015年3月

 小学生と「エコピース」という都市空間の地図をつくるという活動記録である。高層化した児童の居住空間は,まわりの景観に対して開放的だが,代償として足元の工事現場も眼にとまらず地域社会から孤立する。エレベータや自動車など現代の人間は「歩くこと」に対する喜びを知らずうちに喪失していることを問題とし,「歩くこと」のできる人・もの・空間の仕掛けに問いかけている。教育現場において都市空間の学習は,教員の力量に対して依存が大きいが,未知なる感性を持つこどもたちと都市の再生につないでいくための実践の書として是非活用,取り入れてほしい。教育関係者,建築やまちづくりを実践している方にお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

歩くこどもの感性空間

千代章一郎/鹿島出版会/2015年2月

 成長都市から成熟都市へ,人口増加から人口減少へ。都市づくりも「社会資本整備」から「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」へ価値基準が移行する中,地区単位でのエリアマネジメントが脚光を浴びている。我国では,依然としてその枠組みが十分に整備されていない中でも,実際にエリアマネジメントを担うまちづくり団体等が試行錯誤しながら取り組んできた事例が数多く盛り込まれている。本書は単に事例整理には留まらない。基礎概念から現行法制度,更には今後の展望まで体系的に整理されている。エリアマネジメントの全国的な普及の促進には,国民的な認知度の向上が不可欠であり,本書がそのきっかけとなることを望む。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

最新エリアマネジメント

-街を運営する民間組織と活動財源

小林重敬 編著/学芸出版社/2015年2月

 「『絵本の力』によって現代に生きる大人の疲弊した精神を徐々に回復し,自分らしい生き方と暮らし・まちづくりに向けての自らの思考の地平を取り戻すこと」─これをねらいとして,絵本に登場する数々のシーンをまちづくりの観点から読み解いた書籍。絵本の持つ自由で豊かな世界は私たちの凝り固まった頭や心をほぐし,「こんなまちに住みたいナ」という素直な想いを呼び覚ます力があるのを実感できる内容となっている。豊富なイラスト付きの解説が嬉しい。絵本は子どもが読むものという固定観念を見事に覆し,生き生きとしたまちや暮らしを維持するための貴重な示唆を与えてくれる一冊。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

こんなまちに住みたいナ

-絵本が育む暮らし・まちづくりの発想

延藤安弘/晶文社/2015年3月

 本書は,著者の約15年間にわたる研究記録を1冊に書き下ろしたものである。丹念なフィールドワークと緻密な整理によって農村空間の利用と管理の実態を明らかにし,地域再生ついて説得力のある考察と提言を示している。「地方創生」が叫ばれる昨今,農村地域の再生に対する期待は高まってきているが,本書を通読すると,農村地域の再生は,その足下の空間で営まれる日常生活や生産の実態と課題を丁寧に解明することが原点であり本質であることに改めて気づかされる。農村計画やアーバンフリンジを学ぶ学生の教科書としてはもちろんのこと,農村地域の再生に携わる実務者にとっても,多くのヒントを得ることができる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

農山村の荒廃と空間管理

-計画学の立場から地域再生を考える

齋藤雪彦/世界思想社/2015年2月

 本書は,1974年に刊行された復刻版である。ブランコ,すべり台,砂場といった定番の遊具が置かれ,遊び方に関して禁止事項が多い公園。これに対して,何もない場所に自由に子供たちがわくわくしながら秘密基地をつくるように自らの創意工夫で様々なものをつくりだせる空間が新しい(冒険)遊び場である。子供の主体性を重んじるデンマークで始まった。スウェーデンにおいて公園の体系の中にこの遊び場を位置づけた著者が,各国での展開状況やその効果・課題などを紹介している。訳者は日本版の冒険遊び場の生みの親である故大村虔一・璋子御夫妻。本書の最後部分では「遊びとは生きることである 大人にとっても。」は印象的であり,遊びの重要性を再認識する一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

新しい遊び場

-Adventure playgrounds

アービッド ベンソン 著・大村虔一 他 訳/鹿島出版会/2015年1月

 本書は,明治神宮を中心に,近代化において神社という空間が,人々や都市に与えた影響を多面的に論じているものである。特に,タイトルにある明治神宮については,その成り立ちから計画・設計思想にまつわる議論まで詳細に収録されている。また神社という空間における内苑と外苑の考え方やその創出,土地の取扱い,祭礼との関係についての記載にも興味がそそられる。さらに,内務省神社局や明治神宮造営局といった神社に関する行政組織やそこに関与していた内務官僚について述べられており,新たな知見を得ることができる。我々の生活に身近であり神聖な空間でもある神社について,学際的に考える機会を与えてくれる一冊と言えよう。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

明治神宮以前・以後

-近代神社をめぐる環境形成の構造転換

藤田大誠 他 編/鹿島出版会/2015年2月

 本書は,京都市の近郊に1972年に開発された向島ニュータウンにおける,地元大学と地域住民との協働のまちづくりの過程を克明に記したものである。高齢化,異文化対立,育児不安などの社会問題の解決に地元大学と地域住民が協力しながら取り組み,新しい「夢」を描いていこうとする姿は,ニュータウンの再生や,大学と地域との協働のモデルを探す読者にとって大いに参考になる。ニュータウンに関する類書の出版が近年相次いでいるが,著者らの専門は社会学であり,都市計画とは異なる視点からのニュータウン論として興味深く読める一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

京都発!ニュータウンの「夢」建てなおします

-向島からの挑戦

杉本星子 他/昭和堂/2015年3月

 本書は,編著者の馬場氏が,さまざまな形でパブリックデザインに関わってきた6名の人物に,インタビューする形で構成されている。民間の資金を集めて活動するまちづくり会社を設立し,まちの再生にとりくむ,個人が投資する形で社会参画する,という新しい仕組みづくりに取り組む,といった,様々な実践が,当時の思いとともに綴られており,編著者によるコメントも付されている。別の事業での挫折や失敗の経験を踏まえて,よりよい成功を生み出していった事例も少なくなく,このような「物語」は単一のプロジェクトを記述した資料からは得られない,貴重な情報であろう。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

PUBLIC DESIGN

-新しい公共空間のつくりかた

馬場正尊+OpenA/学芸出版社/2015年4月

 地域科学研究会主催の研修会における,空き家問題と対策についての講演資料をもとに加筆・修正して書籍化した一冊。様々な統計データや報告書,事例,条例等を示しつつ丁寧な解説が加えられているため,半日もあれば我が国の空き家問題の現状が把握できる内容となっている。さらに,空き家というと,つい戸建住宅をイメージしてしまうものであるが,本書では将来的に深刻化するであろう分譲マンションの空き家問題にも多くのページを割いている。人口減少と高齢化が急速に進む我が国では,空き家の増加は避けられない社会問題となっている。都市計画を志す学生や,自治体職員の方々には特に一読の価値がある。

紹介:情報委員 木梨真知

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

空き家(マンション)対策の自治体政策体系化

-人口減少社会のまちづくり処方箋

米山秀隆/地域科学研究会/2015年2月

 我が国は人口減少期に突入し,これまでの人口増加に対応した公共施設整備を見直し,既存施設の有効活用方策や効率的な維持管理手法について,自治体経営といった大きな視点から議論することが求められている。本書は,国や自治体が保有する施設ストックについて,民間企業や地域住民の知恵,技術,資金,ネットワークなどを最大限に活用する仕組みづくりの必要性を述べるとともに,建築物を対象とした公共施設について,先行自治体の再編計画や既存の再編手法が整理されている。公共サービスの質の維持と施設総量削減との両立を目指した公共施設の再編計画を検討している行政担当者の参考となる一冊である。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

公共施設の再編

-計画と実践の手引き

日本建築学会 編/森北出版/2015年2月

 縮小・衰退していく都市に残される空間ストックをネガティブに捉えるのではなくポジティブに捉え,コストをかけずに確保できる空間ストックをリノベーションすることによりまちを再生する,というのが本書のテーマである。歴史がもたらした都市の遺産である「レガシー」をまちと人々にインパクトを与える宝物にするリノベーションは,その場所にまつわる伝説「レジェンド」をキーとした「ストーリー」があるという。本書は,こういったまちづくりスケールのリノベーションの海外事例を豊富に掲載している。読後は,そのストーリーを肌で感じたく,世界各地に誘われる感覚になった。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

リノベーションの新潮流

-レガシーレジェンドストーリー

松永安光 他/学芸出版社/2015年5月

 企業に対する詳細かつ緻密なアンケート調査から,生業に関する東日本大震災からの復興実態が導き出され,産業別の復興段階や業況感などの分析結果が収録されている。また,時系列に状況変化(震災直前及びその後)に関する質問を行っているため,企業の震災の影響が直に反映されており,データとしての価値も極めて高いと言える。個別の経済再生や被災地における起業活動と起業家も紹介されており,阪神・淡路大震災との経済復興の比較も興味深い。さらに,被災都市の経済復興状況の地域性を読み取ることもでき,住まいや基盤の復興だけでなく,生業としての復興の重要性をあらためて気付かせてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

新しいフェーズを迎える東北復興への提言

-「創造的復興」は果たせるか,4年目のレビュー

東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト 編/南北社/2015年3月

 社会基盤分野の見えない壁を取り払い,学際的に論じている本書は,東日本大震災などの実例を踏まえ,成熟期の国土のあり方をレジリエンスの観点から示している。最近多用されているレジリエンスとは,そもそも何かを学際的にわかりやすく示した上で本書は展開されており,災害アセスメントの提案などこれからの国土・地域・都市づくりに必要なキーワードが随所に散りばめられており,魅力高いものとなっている。災害アセスメントの提案とそれを踏まえた土地利用規制,さらにそれを実行可能とするスマートシュリンク誘導策は非常に興味深く,日本の特性を踏まえ国土の成熟期において何をすべきかをあらためて真剣に考えなければならないことを示唆している。是非とも一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

レジリエンスと地域創生

-伝統知とビッグデータから探る国土デザイン

林良嗣 他 編著/明石書店/2015年3月

 本書は,首都大学東京の自然・文化ツーリズムコースで実施された,3年間の観光科学PBL(Project Based Learning)の取り組みがまとめられたものである。PBLでは,受講生が問題解決に取り組むこととなるが,その取り組みを促す授業の要素として,第2部のPBLの「メソッド」の部分では,(1)リサーチ,(2)プランニング,(3)プレゼンテーションに分けて詳しく語られる。第3部では,生徒が実際に完成させた成果についても,作成スケジュールを含め,ふんだんに紹介されており,新たに広がっている学びの方法について,教員,学生のどちらにとっても,貴重な資料となっている。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

観光を科学するPBL 2012-2014

首都大学東京観光科学PBL運営委員会/首都大学東京大学院観光科学域/2015年3月

 本書は,2004年に発生した新潟県中越地震の約10年間の復興の現状やプロセスを,被災地と向き合ってきた研究者が取りまとめたものである。阪神淡路大震災や台湾大地震からの多くの教訓で展開されたこと,協働の復興中山間地づくりを支えた中間支援組織の存在,中越大震災復興基金が果たした役割,復興支援員はどのような役割を担ったのか,復興の熟度の評価などがまとめられている。文中の“災害対応にも災害復興の先人の教訓に学び,自ら工夫することが不可欠である。しかし,先人の教訓に学ぶべきは,取り組みの「かたち」ではなく「こころ」でなければならい。”は印象的である。被災地の復興に取り組む上で,お勧めの一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画316号 2015年8月25日発行)

中越地震から3800日

-復興しない被災地はない

中越防災安全推進機構・復興プロセス研究会 編/ぎょうせい/2015年3月

 老朽危険家屋は,防災,衛生,景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることから,今や地方のみならず,全国的な課題となっている。また,「空屋等対策の推進に関する特別措置法」も施行され,国・自治体では様々な取組を実施しているところであるが,多くの自治体ではこれらの対策に苦慮している。本書は,専門家や実務者等によるシンポジウムの概要をとりまとめたものであり,事例報告等をはじめ有益な情報提供がなされていることから,今後の老朽危険家屋対策のひとつとして,行政代執行という手法を検討される行政担当者の参考となる一冊である。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

行政代執行の手法と政策法務

北村喜宣 他/地域科学研究会/2015年2月

 本書は,2002年に出版された同名書籍を,GISの活用や現地調査を通じて,図面を加え加筆した新版である。その理由は,地形や気象条件への対応だけでなく,周辺の山や寺社への見通し線が,街路や掘削の軸線として考慮され,その風景が都市デザインの中に取り込まれているからである。後の解説を読みながら各都市の図版を振り返ると,江戸時代の絵図を正確な地図に落とし,丁寧な検証を行った本書ならではの発見が味わえる。さらに鉄道駅・道路整備による都市構造の変化や取り組みも紹介されている。見過ごされている城下町の都市デザインの意味を知り,現代のまちづくりに活かすとともに,本来の土木の意義を見直す際に役立つ一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

図説 城下町都市

佐藤滋+城下町都市研究体/鹿島出版会/2015年2月

 世田谷区太子堂地区を対象に,現場で住民として奮闘してきたまちづくりへの熱い思いや悩みを綴っている。時代とともに行政側と住民側の姿勢が変化に至るまで,初めての試みの葛藤から定着に至るまでの試行錯誤を続けてきた過程が示されている。現在,都市計画では当たり前のように行われているワークショップ手法やまちづくりのキーワードなどにも変化が見られ,原点に触れることができる。「時代の変化につれて,暮らしを見直し,まちを改革していくのがまちづくりだと考えて活動してきた」と著者の姿勢を受け継ぎ,都市計画に携わる事業者,行政,住民はじめ,これから学ぶ学生にも是非一読していただきたい一冊である。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

太子堂・住民参加のまちづくり 暮らしがあるからまちなのだ!

梅津政之輔/学芸出版社/2015年2月

 本書は,戦間期から高度成長期までの時期において,都市郊外の村落がどのように市街地へと変容したのかの過程を土地区画整理事業が実施された前後の地区内に居住する人々の土地所有や労働,水利の維持管理に着目して,明らかにしている。公文書だけでなく,土地区画整理関係の地主資料(地主の手記,小作農民に関する資料,経営帳簿)が多く残っている兵庫県尼崎市郊外を事例とし,これらの豊富で貴重なデータやヒヤリングをもとに,市街地形成での自治体,地主,小作農民の役割や対立など,市街地形成の論理を民衆の側からとらえ直したものである。当時の人びとの意識を知ることのできる,一読の価値のある一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

村落からみた市街地形成

-人と土地・水の関係史 尼崎1925-73年

沼尻晃伸/日本経済評論社/2015年1月

 本書は,企業主催の先端工場見学や町場の工房体験,工場夜景見学をはじめ,世界遺産となった石見銀山・富岡製糸場をはじめとした近代化遺産や廃屋探訪を対象として,利用者に対する意識調査や企業側の活用事例を踏まえ,その実態を明らかにするとともに,産業観光という手法を通じて,地域の資源を活用し,市民やN POがどのようにまちの資産を活かすか(まちづかい)など活性化に繋げる企画・運営の考え方をまとめたものである。昨今,国際記念物遺跡会議(ICOMOS)から世界文化遺産への登録をユネスコに勧告され,多くの観光客が殺到している軍艦島などの明治日本の産業革命遺産についての記述もあり,この時期にタイムリーな一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

産業観光の手法

-企業と地域をどう活性化するか

産業観光推進会議/学芸出版社/2014年11月

 本書は,業種別の就業者数,床面積等の基礎データを踏まえ,都心・中心市街地における大街区化の必要性を説き,都心・中心市街地整備のプロセス,関連法,具体的手法を簡潔に整理した書である。とりわけ,手法については,土地区画整理事業,再開発事業といった法定事業のみならず,事業を実現するための定期借地,不動産信託等の土地活用制度についても示されており,実務上活用しうるメニューが,実例と合わせて体系的に整理されている。筆者が指摘する課題に直面している実務者の実用書として,また,ディベロッパーを目指す学生の参考書として,お薦めしたい一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画315号 2015年6月25日発行)

都心・中心市街地の再構築

蔵敷明秀/大成出版社/2014年10月

 本書は,観光による地域づくりをテーマとしている。観光資源を抱える「地域(行政・住民)」,ホテルや物産品販売等の「産業」,そして「観光客」,その三者のいずれかが一人勝ちするのではなく,いずれもがメリット(価値)を享受できるWin-Winの関係構築の重要性を説き,その共通価値の創造(C S V=Creating Shared Value)に三位一体で知恵を絞り汗を流した13の事例を紹介している。特に,「産業」が地域づくりに関与するのに欠かせない「儲かる仕組み(ビジネスモデ)」を組み込むことで,一過性の観光振興ではなく継続的な地域づくりを実践している点は大変興味深い。今後のまちづくり・地域活性化への数多くのヒントが詰まった一冊である。

紹介:情報委員 米沢秀明

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

CSV観光ビジネス

-地域とともに価値をつくる

藤野公孝 他/学芸出版社/2014年10月

 本書は,東洋大学国際共生社会研究センターが2010年から行っているアジア開発途上国地域における内発的発展支援手法の開発という研究課題に関してまとめた2冊名の書籍である。災害を中心に,エネルギー問題,社会福祉,移民,ICカードに着目した地域交通から,BOPビジネス,ソーシャルビジネスまで,テーマは多岐にわたる。その歴史や概念を説明した上で,最新の動向や事例が失敗例も含めて紹介されている。特に,適正技術,Win-Winの関係であることの重要性とともに,その根本として人材育成が鍵となることが様々な視点から述べられている。国際協力に関わる学生や研究者,実務者の参考となる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

国際開発と内発的発展

-フィールドから見たアジアの発展のために

北脇秀敏 他 編/朝倉書店/2014年9月

 本書は,自転車の交通事故に関する詳細な分析からはじまり,その後自転車をまちづくりに活かすための様々な方策を紹介している。そこでは,2012年に出た国交省・警察庁の自転車ガイドラインの活用方法を,写真つきの事例とともに示し,駐輪対策から高齢者対策,観光まちづくり,ネットワーク計画,海外の最新事例まで網羅している。車道上の自転車通行空間に関する多様な知見も得られ,今後,自転車を考えたまちづくりを進めていく上で,必読の書である。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

実践する自転車まちづくり

-役立つ具体策

古倉宗治/学芸出版社/2014年8月

 バリアフリー,ユニバーサルデザインの考え方について,法制度の変遷も紹介しながら,社会の様々な要素とのつながりについて示したのち,まちづくりにおける具体的な方策について紹介している。その中には,東日本大震災の経験も踏まえた,災害時の課題も含んでいる。多くの写真や図例を用いた説明が,紹介される事例の理解を助けてくれる。各章の始まりには,それぞれの内容の要点をまとめた「学修目標」が記載されており,ユニバーサルデザインについて初めて学ぶ学生にもやさしいつくりとなっている。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

建築・交通・まちづくりをつなぐ 共生のユニバーサルデザイン

三星昭宏 他/学芸出版社/2014年9月

 都市と農村のあり方は都市計画の永遠の課題であるが,本書は元カルビー(株)社長である松尾氏が実際の経験をもとに,元気で美しい農村のあり方を語っており,美しい農村を持続的に維持していくためには,生業として農業の重要性が述べられている。また,日本の農業が実はまだ大きな発展の可能性を秘めていることを食糧自給率から述べ,負の思考から正の思考へと転換を促している。例えば,本文中で「自給率すなわち国内産39%,海外産61%ということは,日本での需要に応えられる生産の余地が残っている」と述べている。こうした観点は,目から鱗であり,「そうか,なるほど」と思う農村を元気にするキーワードが本書には散りばめられており,是非とも一読をお薦めしたい一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

スマート・テロワール

-農村消滅論からの大転換

松尾雅彦/学芸出版社/2014年12月

 2014年7月,わが国の今後目指すべき国土像を描いた国土のグランドデザイン2050(以下,グランドデザイン)が公表された。本書は,国土交通省有志により執筆された,その平易な解説書である。グランドデザインで提示された時代の潮流,「コンパクト+ネットワーク」,「対流促進型国土」といったキーワード,それらに付随する基本戦略が,グランドデザイン本文には書かれていない,記述の根拠となったデータや事例とともに解説されている。グランドデザイン構築に関わった有識者からの寄稿も掲載され,現在改定が予定されている新たな国土形成計画に向けた潮流や最新のキーワードを知るうえで有用な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

「国土のグランドデザイン2050」が描くこの国の未来

国土交通省国土政策研究会 編著/大成出版社/2014年12月

 本書では,新しい産業を創造する技術進歩の条件として,「独創性(Originality)」,「多様性(Diversity),「市場性(Marketability)」の挙げ,それらから「オリバーケット(Oriverket)」という新しい名称を提案し,これらの要素を持ち合わせている都市を「オリバーケット・シティ」と名付けている。東京は,これらの要素があり技術を生む環境で,かつ交通インフラ,情報・通信インフラ,法制度,人的ネットワークという4つの社会資本が技術の進歩を支え,人口が多い分起業家も多く存在し,技術が起業に結びつき,新たな産業として成立し,都市の成長に結びつくとしている。江戸時代からの変遷を示しながら,東京という都市と経済の優位性に関する構造についてわかりやすくまとめられた一冊である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画314号 2015年4月25日発行)

先端産業を創りつづける知恵と技

杉山雅洋 他/成文堂/2014年10月

 本書では,都市のなりたちから現在の都市が抱える問題,そしてこれからの都市づくりに至るまでが網羅されており,その本質的な理論や事例を交えながら,わかりやすく解説されている。その一方で都市計画に関連する制度の説明は最小限に抑えられている。まえがきに書かれている「現在の制度を最初に頭に入れてしまうと,人間というのは不思議なもので,その制度が正しいという前提のもとで,その制度を守るための行動を取るようになります」という言葉が印象深い。タイトルこそ「入門」となっているが,教科書としてだけでなく,実務者も含め,都市計画に携わるすべての人に是非読んでいただきたい一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画313号 2015年2月25日発行)

入門都市計画

-都市の機能とまちづくりの考え方

谷口守/森北出版/2014年10月

 本書は,我国の都市交通計画の系譜が体系的に整理されるとともに,成熟社会における今後の交通計画の方向性に一定の示唆を与えてくれる。またその視点は交通一辺倒ではなく,常に「交通と土地利用」という都市計画の原理原則が意識されて論じられているのは興味深い。後半では,高速道路,鉄道,街路といった具体の交通施設の更新について,新しい価値観や計画理念を含んだ海外事例等を交えてわかりやすく解説されている。著者の略歴が,学術的にも実務的にも特徴を与えており,学生・行政関係者だけでなく専門家にとっても今一度頭の整理ができる一冊となっている。是非一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画313号 2015年2月25日発行)

成熟都市の交通空間

-その使い方と更新の新たな方向

浅野光行/技報堂出版/2014年2月

 本書では,「越境地域政策」について,行政境界を跨いだ越境地域を対象とする地域政策であると定義するとともに,境界を接する地域が抱える様々な課題を取り上げ,現行の枠組みにとらわれない政策連携等の可能性について,国内外の事例を中心に紹介している。これまでの我が国の地域政策は,国・県・市町村の階層構造からなる広域行政の枠組みの中で行われてきた。東日本大震災では,従来の枠組みを越えた地方自治体の独自の判断による行政支援の実例も出てきたことから,広域行政に対する新しい形態の必要性についても提起している。地域間連携の新たな発想を模索する第一歩として,実務者や実務に携わる研究者に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 肥田利弘

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

越境地域政策への視点

戸田敏行 他 編著/愛知大学三遠南信地域連携研究センター/2014年6月

 本書は,長い歴史をもった都市全体を,河川等水辺空間から総合的に考察し,アジアの「水都」の特徴を整理した書である。アジアの各都市を,文献,フィールドワークに基づき分析した各論稿は,河川等による都市構成,建築様式等への影響を丁寧に論じており,アジアにおける水都の多様性を認識出来る。一方,舟運や用水といった機能的な面だけでなく,水辺に思想的な拠り所を求めたアジアならではの水都の特徴を指摘した点は,長年水都を研究してきた編者ならではの視点。近年,経済発展のめざましいアジア諸国において質の高い都市開発を目指すにあたり,本書による指摘は大いに参考になるものであり,是非一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

水都学Ⅱ

-特集 アジアの水辺

陣内秀信 他/法政大学出版局/2014年3月

 本書は,平成24年度から実施している被災地企業アンケート調査等,継続的に収集した調査結果等を中心に,企業活動と経済財政動向,産業別の動向から復興過程を分析し,加えて,被災地での今後の産業創出に向けて国内外の事例を収集し,整理した書である。とりわけ,継続的に実施している企業アンケート調査等は,被災地企業の状況の変遷を確認出来る点において非常に有益であり,また,産業別の復興過程についても多角的かつ網羅的に整理されている。震災復興において,ますます雇用面,産業面の取組みが重要視される中,現況を把握する上で,貴重な資料となる一冊である。

紹介:情報委員 川田浩史

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

震災復興政策の検証と新産業創出への提言

-広域的かつ多用な課題を見据えながら「新たな地域モデル」を目指す

東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト 編/河北新報出版センター/2014年3月

 2000年にオランダで発生した花火工場の爆発事故によってまちの一地区が消失し,約1,000人もの人々が家を失った。復興プロジェクトオフィスと住民は将来のビジョンを形にするパートナーを求めて設計者選定のコンペを行ったのだが,建築家ペーター・ヒューブナーの応募案には一本の線も描かれていなかった。形式だけの住民参加ではない,住民と建築家との徹底した対話に基づくまちづくり。本書はその協同による地区再生の過程を詳細に記した一冊である。住民同士が対話し主体的に計画を提案していく工夫や,その吟味・調整を担う建築家の役割などの具体例が紹介され,復興プロジェクトの全容も多くの写真のおかげで非常にイメージしやすい。そして何より,被災者自らがまちの復興に取り組むことで人々の絆が深まり,地域への愛着を活性化させた様子が伝わってくる。日本においても,この協同の工夫の活用を検討する意義は十分にあると思われる。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

まちを育てる建築

-オランダ・ルームピークの災害復興と住民参加

鄭弼溶/鹿島出版会/2014年3月

 植民地において,建築,文化や言語などがその地域独自の要素と融合し,新しい要素へと成長するなど,植民地時代およびその後の影響の広がりを理解することは重要である。本書は,アジア諸国における植民地化の影響を,単に軍事的あるは政治的な関与だけではなく,多様な視点で解説している点に特徴がある。本書に登場する著者らは,西洋の手法を取り入れた日本の植民地建築や,外国人たちに順応しようとした大上海計画,あるいは中国遺産における日本の教育的影響,台湾における日本的要素の存在,マカオにおけるポルトガルと中国人,植民地化の影響を受けた韓国の都市計画問題などについて広く言及している。互いの文化が連携し相互影響したことが,いくつかの文脈の中で注意深く表現されているのは興味深い。アジア諸国で起きた植民地化について,多様な視点を理解するのに適した良書であり,植民地化による幅広い影響を再認したい。

紹介:情報委員長 森本章倫、Adilah Shamsul

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

Constructing the Colonized Land

-Entwined Perspectives of East Asia around WWII

Izumi Kuroishi/ASHGATE/2014年3月

 本書は,昭和年代までの道路交通政策をまとめた「道路交通政策史概観」の続編というべきもので,平成以降の道路交通政策に加え,特に進展著しいITSとの関係が述べられている。道路,鉄道の整備状況やバスの現状,高齢者運転等の交通安全,TDM推進やバリアフリー等の都市交通対策,排ガス等の環境対策,防災,国際化,規制緩和等,内容が多岐にわたる。さらに,資料編として,道路関連法の改正経緯や行政組織の変遷,交通事故死者数・道路実延長等の交通関係指標の年間推移があり,統計資料も充実している。平成からの道路交通政策全般を概観するには,お勧めの一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

道路交通政策とITS

道路交通問題研究会/大成出版社/2014年3月

 本書は,英国の都市デザイン行政を支援してきた外郭団体,CABEの取り組みを概説すると同時に,我が国の景観づくりの現状を批判的に考察し,今後の方向性を示した提言の書でもある。本書前半では,デザインやBuiltEnvironmentといったCABEの活動の根幹にある概念を説明しつつ,CABEの位置づけや役割,デザインレビュー・イネーブル・啓発・教育活動といった具体的な活動の内容が,豊富な事例とともに解説される。後半では,日本の景観協議やデザインレビューの現状が報告されるとともに,それに対する批判的考察が加えられ,最終的に将来に向けた10の提言が述べられる。英国CABEに関心のある読者のみならず,日本の景観づくりに問題意識を持つ研究者や実務担当者にとっても有益な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画312号 2014年12月25日発行)

英国CABEと建築デザイン・都市景観

坂井文 他 編著/鹿島出版会/2014年2月

 本書は,神奈川県藤沢市にある,辻堂駅前の広大な工場跡地での再開発事業を紹介している。筆者は各々事業に深く携わった,行政の長瀬氏と都市プランナーの菅氏である。市長から陣頭を任された長瀬氏は,通常の開発を進めれば大規模マンション団地ができ,何十年か後には,各地の団地やニュータウン開発で経験したのと同じ,高齢化や児童の減少による市への負担がのしかかることに思いを巡らせる。そこで,市が主導権を発揮して,地域のブランド力を高める開発構想を示し,地権者や開発事業者とのパートナーシップのもと,計画を進めていくことを市長に進言した。その結果としての,9年に渡る協働の詳細な経緯には,学ぶことが多く綴られている。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

湘南C-X物語

-新しいまちづくりの試み

菅孝能 他/有隣堂/2014年6月

 近代都市東京が形成された過程,特に過大に流入する人口に対して鉄道が果たした役割について,これほどまで深く掘り下げて論じているものは他に見たことがなく,後世まで残るであろう名著である。巨大過密都市東京と言われながらも,活発な都市活動が持続的に続けられているのは,鉄道というツールを使ってうまく克服し未来を築いてきたからであるということを,手に取るように理解することができる。都市と鉄道に関するデータが本文上段に示されており理解しやすい。また,鉄道会社別の都市に対する考え方の違い,具体には最後まで貨物を扱っていたことによる違いなど,目から鱗が落ちるようなことも述べられており,文句なく面白い。鉄道だけでなく首都圏計画や土地利用計画の観点からも述べられており,学際的な要素も含まれ是非とも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

鉄道が創りあげた世界都市・東京

矢島隆 他 編著/計量計画研究所/2014年3月

 1930年代生まれの都市プランナーと1970年代生まれの都市計画,建築,造園系の若手7名による討議の記録である。東日本大震災によって物理的空間が破壊され,更地の空間の上に未来の都市をどのように構築するか,近代都市計画の歴史やその課題を根本から考え直す。人口増,経済成長を前提とした戦後の都市計画から,人口減,少子高齢化,成熟した経済政策に転換した現在,その過去の歴史と文化を踏まえ,現在の都市計画の位置づけと,都市の規模について考えるきっかけを与えてくれる。また,現在の都市が抱えている問題や課題解決のためのヒントが散りばめられており,都市計画を学ばれている方に是非一読をお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 沼田麻美子

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

これからの日本に都市計画は必要ですか

蓑原敬 他/学芸出版社/2014年6月

 本書を読み終え,アートと都市の関係について体系的に学ぶことができる良書だ,と強い印象を抱いた。文化政策について時間軸をもって具体的な事例を交えながら展開し,また基本的な言葉も先行研究を示しながら定義している。文化政策の概論書として執筆されており,初学者にとってわかりやすい。文化政策,アーツ・マネジメント,創造都市といったキーワードの変遷が,時代を経るにつれ文化・アートの存在感が増しており,期待されていることを示している。本書には「なぜアートなのか」「アートは社会に役に立たないのか」といった批判的なトピックスに対する見解も示されている。価値観の多様化が進むまちづくりにおいて,文化・アートが担う役割・機能は大きい。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

文化政策の展開

-アーツ・マネジメントと創造都市

野田邦弘/学芸出版社/2014年4月

 本書は,西洋の伝統的な都市デザイン理論とは異なる,日本の都市構造,建物パターン,視覚的特徴等を探求したものである。文字のテクストから建物,都市,街路,都市形態に至るまで様々なスケールで,その背景や歴史,そして文化的な諸要素も加味しながらまとめられている。本書は第2版であり,大きな変更点として,第6章では前章までで個別に提示された要素について,名古屋を例にとって具体的に述べている。日本人も西洋の都市計画を学び,それが実際に排他的な支配力を振るってきたが,少し立ち止まって,日本人も気づいていない日本の都市のよさについて考え直す機会を与えてくれるだろう。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

日本の都市から学ぶこと

-西洋から見た日本の都市デザイン

バリー・シェルトン 著、片木篤 訳/鹿島出版会/2014年4月

 30年間東京に住むフランス人建築家,マニュエル・タルディッツによって書かれた東京に関する断章85編を収めたものである。複雑微妙な東京の諸相を歴史分析し,随所でヨーロッパの都市と比較しながら,建築のみならず都市形態,生活様態,メンタリティなどを独特の観点から紐解いている。日本の駅ビルを「シロアリの巣」と例え,東京を「さまざまな構造とインフラストラクチャー,断片,借用,実験」の一大コラージュと呼ぶ著者の視点は日本人のそれとは決して同化しない。文章は時に皮肉で辛辣だが,ユーモアのある言い回し,美しいイラストや装丁も相まって,まるで長編の物語を読んでいるような気持ちになる。日本人から見た東京とは全く異なる東京の姿を教えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 木梨真知

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

東京断想

マニュアル・タルディッツ 著、石井朱美 訳/鹿島出版会/2014年4月

 本書は,独立行政法人都市再生機構の前身,日本住宅公団の初代総裁である加納久朗の生涯が述べられている。タイトルにもあるように「国際人」であった加納が,公団総裁に就任するまでの仕事に対する姿勢や住宅都市への思いが記載されている。初期の日本住宅公団について記している各種書物においても,直面する課題に対して加納が全面支援して事業が進んだなど,その評価は高く,また本書の中でも,加納の住宅都市づくりに関する思想が示されており,目標に向かって突進した息遣いを感じることができる。読了後には,もし初代総裁が加納久朗でなかったら,公団の先進的かつ独創的な住宅都市づくりがここまで進まなかったとも思える。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

国際人・加納久朗の生涯

高崎哲郎/鹿島出版会/2014年4月

 まちづくりの本質は,自分たちの手で,自分たちが納得することである-本書では,こうしたDIY(Do It Yourself)の心がまちづくりの原点であるとした上で,(1)愉しく元気に(2)美しく美味しく(3)工夫を重ねる(4)ビジネスから(5)未来に向けて の5つの視点から,各視点ごとに3~4事例,計18の事例を紹介している。いずれも課題から活動内容,参考とすべきコツまでがわかりやすくまとめられている。これからまちづくりの活動に取り組もうとする幅広い方々に手に取っていただきたいが,特にこれからまちづくりを実践的に学ぼうとする学生のはじめの一歩としてもお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画311号 2014年10月25日発行)

まちづくりDIY

-愉しく!続ける!コツ

土井勉 他/学芸出版社/2014年2月

 同著者の「人間都市クリチバ」から10年。長年クリチバ市長や州知事を務めたレルネル氏,その懐刀の中村ひとし氏が離れた後,彼らの魔法が消えつつある。レルネル氏のまちは人が集まってつくる,人を大切にする,という言葉の意味を痛感させられる事実だ。しかし,都市は変わっても人は変わらない。その想いから,中村氏の生き様が描かれた本である。あまり知られていない中村氏の功績の裏には,人生を貫く意志がある。それを誇示しない謙虚さ,愛情,情熱といった中村氏の人柄と,その才能を引き出したレルネル氏や周辺の人物像に触れながら,都市計画,緑地計画,環境教育の本質を根本から見つめ直すために,熟読していただきたい一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

ブラジルの環境都市を創った日本人

-中村ひとし物語

服部圭郎/未来社/2014年3月

 景観計画やまちづくりの検討に際し,高さ制限を考える上ではまず本書を読むべきであるという一冊である。本書は高さ制限の歴史的変遷や高さ制限の実態と課題が体系的にまとめられ大変参考になる。特に戦前・戦後からバブル経済崩壊以降の高さ制限まで歴史的変遷から見た高さ制限の特徴は大変興味深い。また,高さ制限を活用したまちづくりとして,古都の景観保全をはじめ,山の眺望,水辺,都心の景観保全に至るまで様々な視点からの事例が詳しくまとめられている。景観計画を学ばれている方やまちづくりの実務に携わる方にとって大変参考になる。ぜひ一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

高さ制限とまちづくり

大澤昭彦/学芸出版社/2014年2月

 「近居」とは,明確な定義があるわけではないが,ふとした時に駆けつけられる概ね30分以内の距離に居住していることを指す。近居は本来,子育てや介護・福祉など,生活上の課題を解決するための自助手段であり,我国の都市政策や住宅政策にはこれまで必ずしも組み込まれてこなかったが,近年住生活基本計画の中に位置づけられた。都心部高層マンション群や郊外ニュータウン,地方集落においても,同居とは異なる近居ニーズがあり,既に近居促進に向けた補助や助成を行っている事例も紹介されている。近居を切り口として,住宅問題のみならず,地域再生や少子
高齢化問題解決のためのヒントが多様に散りばめられており,是非一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

近居

-少子高齢社会の住まい・地域再生にどう活かすか

大月敏雄+住総研 編著/学芸出版社/2014年3月

 ヤン・ゲール氏が,長年の研究をベースに,人々が心地よく歩き,自転車を利用するための,公共空間の在り方について論じている。人間のスケールに立脚した,時速5キロの速度で感じる空間のデザインが重要であるとし,目の高さの街の質の高さを,基本的人権とまで述べる。歩行者が心地良く歩ける環境という観点からは,近年欧州で広がるシェアドスペースの考え方に,歩行者に緊張を強いる点で警鐘を鳴らす場面も見られる。コペンハーゲンの徹底した自転車政策を中心に,自転車利用に適した街の計画についても論じられており,多くの事例写真と共に,生き生きした街の計画に向けて学ばせてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

人間の街

-公共空間のデザイン

ヤン・ゲール 著、北原理雄 訳/鹿島出版会/2014年3月

 タイトルとなっている,Medicine-Based Town(MBT)という言葉を軸に,都市計画と医学の協働について,医学の専門家と都市計画の専門家それぞれの立場から,事例と展望が述べられている。家庭と病院をつなぐ医療拠点を,まちの空き家対策の一つとして取り込む案や,公共交通を,通院等への手段としてだけではなく,医療・福祉等をつなぐさまざまなサービスを結び,新たな需要を得るためのツールとして再編する案など,様々な観点で医療と都市計画の連携が語られる。緊急時から予防まで,人々の健康について多様な場面で都市と医療が連携できる可能性があることを,本書は教えてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

医学を基礎とするまちづくり

-Medicine Based Town

細井裕司 他/水曜社/2014年1月

 本書は,都市地理学の基礎的な理論や考え方を解説した入門書である。社会,自然環境,防災や歴史的景観などへの地理学的アプローチ,都市空間形成メカニズム,グローバル化や人口減少問題への対応,今後の都市ビジョンなどの71のテーマをとりあげ,それぞれのテーマに関して,各分野の専門家総勢46名が,最新の研究成果を取り入れながら,タイトルにもあるように「わかりやすい」を心掛けた解説をおこなっている。また,都市地理学にゆかりのある研究者や重要なキーワードを簡潔に解説した25のコラム欄があり,面白く幅広い知識がえられる。学生など都市地理学を初めて学ぶ方にはお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

よくわかる都市地理学

藤井正 他 編著/ミネルヴァ書房/2014年3月

 ヨーロッパの風景画家であるベルナルド・ベロットが,18世紀に描いた欧州の風景画を,現在の実景と比較している。特に,ベロットが描いた風景画からは視点場や視対象といった景観構造を認識することができ,18世紀と現在をつなぐ新たなものの見方が示されている。また,ドレスデンなど,戦乱によって破壊された都市の建築物を復元する上で,意匠や色についてもベロットの風景画を参考にしたことが述べられており,古に書かれた風景画の現在への活用方策も示されている。18世紀の視点場と視対象が,現在と同じ視点場と視対象で示されていることで,過去と現在を融合させることができ,読了後には,本書を携えて欧州の街を旅したい気持ちになる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

複眼の景観

-ベルナルド・ベロット 構図を読む

萩島哲/九州大学出版会/2014年3月

 コミュニティデザインの最先端の現場に立つ著者らによる,11の実践の記録である。少子高齢化,人口減少,貿易の自由化の農業への影響,経済の衰退,若者の雇用といった深刻な問題に直面しつつも,地域の資源を活かし,人をつなぎ,仕組みをまわすことによって,地域を明るくしようとする取り組みを,現場の熱意そのままに読み手に伝える良書である。書き手が,まちづくりを主導してきたベテラン研究者から,自治体担当者,NPOメンバー,さらには外国で実践に取り組む大学教員など,バラエティに富んでいることによって,コミュニティデザインの幅の広さ,奥行きの深さを,複眼的に知ることができる内容になっている。各地の事例を幅広く知りたいだけでなく,これからコミュニティデザインの現場に関わりたいと考えている研究者,学生や実務者におすすめできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画310号 2014年8月25日発行)

地域を元気にする 実践!コミュニティデザイン

林まゆみ 編/彰国社/2013年10月

 本書は,冒頭で都市計画と交通計画が人を中心に発展し,物流が経済分野を含むことから後回しにされてきたことが述べられている。人々の生活を支える物流の観点からのアプローチがいかに少なかったことなど,物流を踏まえなければ都市問題を解決することができないことが語られており,是非とも一読をお薦めしたい。ここまで徹底的に物流の観点から都市や交通のあり方を述べているものは他にはない。また,物流について道路構造令や駐車場法など各種技術基準と連動させながら述べられており,東日本大震災を踏まえた災害と物流との関係といった最新の対策も収録されており,非常に親しみ易く読める名著である。読了後は,目から鱗が落ちる。人々が外出もせずにインターネットにより注文や宅配が可能となった社会経済状況において,これまで以上に物流について真剣に考えなくてはならない現在,本書は非常にタイムリーである。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

物流からみた道路交通計画

-物流を,分ける・減らす・換える

苦瀬博仁 監修/大成出版社/2014年2月

 2010年にその生涯を閉じた建築家大髙正人のまちづくり,建築とその思想背景について,作品と当時の執筆文やインタビューを元に丹念にたどる。ユルバニズムの探求,再開発のモデルである坂出人工土地,超高密度開発の広島基町住宅の計画から,建築の工業化の追及,都市デザイン,故郷福島県三春町でのまちづくりの実践に至るまで,大髙が切り開いてきた建築,都市,農村の姿とその思想が仔細に示されている。「彼がもっていた倫理がひとつの倫理(エシックス)が一つの美(エスタティックス)に還元されていったと思う」とは槇文彦の弁である。作品集を出すことを拒んできたという大家の足跡を関係者の努力の結集により記録した貴重な一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

建築家 大高正人の仕事

蓑原敬 他/エクスナレッジ/2014年2月

 戦災,火災,地震など,様々な災害により破壊された都市に焦点を当てて,それらの都市が破壊からどのような経過を経たのか,各章ごとに異なる著者による論が述べられている。アメリカで起きた複数の大火を取り上げた事例では,「物語」が果たした役割を分析し,ピカソの絵画で有名なゲルニカの事例では,「物理的回復」と「感情的回復」という言葉をキーワードに,都市の回復を分析している。またベルリンの事例では,一部ではそれまでの歴史を拒否する態度とともに,都市を回復させるという難しさを解く。それぞれの事例から得られる知見は,異なる場面でも重要な示唆を与えるものだと思われる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

リジリエント・シティ

-現代都市はいかに災害から回復するのか?

ローレンス・J・ベイル 他 編著/クリエイツかもがわ/2014年1月

 本書は,復興の現場で欠落してしまっている被災者の「住まいや暮らし」を再建することの重要性を謳っている。執筆者は学識経験者,弁護士,都市計画プランナー,行政職員など多岐にわたっており,東日本大震災の復興を通じて,主に政策・制度の枠組み,津波被災地,原発被災地の3つの視点から,様々な問題提起や提案を行っている。また所々で阪神・淡路大震災における筆者らの経験や実態が散りばめられており,その対比が興味深くもあり分かりやすい。現在災害復興に携わっている方だけでなく,これから携わるであろう,まちづくりの関係者にも一読いただきたい一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

住まいを再生する

-東北復興の政策・制度論

平山洋介 他 編/岩波書店/2013年11月

 「建った時の一瞬の美しさとともに,時間のみが創り出すことができる持続的な価値に目を向けよう。」これが,歴史的建造物の保存・活用の根底に流れる思想だと感じた。長い時間を経た建物は記憶の容器であり,現在と過去を結びつけるという直接の機能とは違った重要な側面をもつことへの気づきを本書は与えてくれる。第二部からは,中国地域の建築遺産が語られる。明治期の工場がホテルや文化施設となった「倉敷アイビースクエア」,製錬所が美術館になった「犬島製錬所美術館」,旅館が飲食,観光,文化交流施設となった「恋しき」など,いかに新たな生命が吹き込まれてきたのか知ることができる。是非一読してほしい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

中国地域のよみがえる建築遺産

中国地方総合研究センター 編/中国地方総合研究センター/2013年5月

 スペインのアンダルシア地方は,ヨーロッパの中でもイスラム文化の影響を色濃く残す地域である。本書は,この地域での民族や宗教の支配の移り変わりが,都市空間や建築にどのように投影されてきたか,そして都市と周辺の田園との関係をどう結び付けてきたか,丁寧な歴史の説明と豊富な写真そして精緻な図面を通じて伝えている。歴史的に異色の都市文化を有する地域ではあるが,それでも近年では,工業化の影響や過疎化の進展,グリーン・ツーリズムの発展など,欧州の他地域や我が国と共通する部分が見られてきている点も面白い。編者の実直かつ継続的なフィールドワークによって,読み物としても,記録資料としても興味深い一冊となっている。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

アンダルシアの都市と田園

陣内秀信+法政大学陣内研究室 編/鹿島出版会/2013年2月

 本書は,2011年12月に実施された東北大学東北アジア研究センター公開講演会の記録で,4つの講演と会場からの質疑を収録している。シベリアの村,沖縄の離島,東日本大震災時の途絶を題材とし,物流や交通が途絶した地域の実態を具体的にわかりやすく述べられている。ソ連では国の政策と負担によりどんな僻地でも都市部と同じ物価であったが,ソ連崩壊により物流コストが大きくなり,これまでと同じ生活ができなくなった。一方,沖縄の離島では,孤立していたが故に島独自の生活ルールがあったが,橋がかかり孤立が解消されるとそのルールは失われる。途絶により利便性が失われる事例と,孤立解消により独自性を失うという事例があり,都市や人との「つながり」を考えさせられる非常に興味深いテーマである。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

途絶する交通,孤立する地域

奥村誠 他/東北大学出版会/2013年10月

 ピーター・ライスは,オペラハウスの設計に参画したのを皮切りにポンピドーセンターの設計に携わり,関西国際空港や牛深ハイヤ橋の設計に参加した世界的な構造エンジニアで知られているが,1992年57歳の若さでこの世を去った。ピーター・ライスの建築への思い,構造設計に対する考え方,生き方,人となり,仕事の仕方について,レンゾ・ピアノ,リチャード・ロジャーズら11名によって語られている。世界中に多くの著名な建築物を創造した,ピーター・ライスの息遣いを感じることができ,また生前述べていたエンジニアの役割について引用しながら,建築家とエンジニアの相互連携性,チームワークの重要性が語られているのも非常に興味深い。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

ピーター・ライスの足跡

ケヴィン・バリー 編、三輪直美 訳/鹿島出版会/2013年12月

 空間やモノ,情報をシェアすることで,新たな価値を生み出そうとする考え方が,様々な分野で現れている。この考え方は,今や,単なるブームを超えて,所有や消費の概念の根底を問い直す,大きな時代の潮流となりつつある。本書は,ワーキングスペース,公共空間から,ネット上の情報空間まで,様々な分野を取り上げつつ,分野横断的に,空間,モノ,情報をシェアすることの意義や,それを,無理なく,しかし効果的に生み出すための場の創出のあり方を論じている。本書の特徴は,シェアの場を設計する側に焦点を当てたことにある。都市という,まさに,人々によってシェアされる場の創出に関わる都市計画関係者にとって,本書は,示唆を与える一冊といえよう。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

シェアをデザインする

-変わるコミュニティ,ビジネス,クリエイションの現場

猪熊純 他 編著/学芸出版社/2013年12月

 銀座の地域コミュニティーに深く関わる著者が,地域の歴史的経緯を踏まえながら,超高層ビル建設計画に対するまちづくりの取組みを紹介している。本書の中で著者は,銀座らしい街並みが自然と成立するように,神の見えざる手として働いてきたという,「銀座フィルター」の存在に言及している。しかしながら,時代の変遷と共にその力を頼れなくなっていることを示唆し,その中でどのように「銀座らしさ」を守っていくのか,地元の人々の姿勢,専門家の姿勢,行政の姿勢をそれぞれを描いている。めでたしめでたし,と完了した事業を振り返っているものではないので,本書とともに,その後の銀座のまちづくりを引き続き学びたい。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

銀座にはなぜ超高層ビルがないのか

-まちがつくった地域のルール

竹沢えり子/平凡社/2013年11月

 本書は,文化遺産を自然災害などの災害から防御して,後世に継承していく取り組みに関して,立命館大学が2003年度からのCOEプログラムに採択され,得られた膨大な研究成果を分かりやすく,一般社会に広く知ってもらうために刊行したものである。内容は,災害の歴史をはじめ,文化遺産を守る土木などの減災技術,市民を主体とした防災まちづくり,災害時交通などの計画とデザインと多岐の分野にわたっており,東日本大震災に関する記述もある。文化遺産防災学を体系的に示していることから,教科書的であるとともに,研究成果のエッセンスも示しており,興味深い内容となっている。文化遺産防災とは何かを知るにはお勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

テキスト 文化遺産防災学

立命館大学「テキスト文化遺産防災学」刊行委員会 編/学芸出版社/2013年3月

 政治的,制度的な共通点が多いにも関わらず,英国の中心市街地の商店街が発展しているのに対し,なぜわが国では衰退しているのか。本書では,この問いが,英国の都市政策,財源,組織の各面からの実証的データによって多角的に検証されている。英国では,中心市街地に市民が誇りを持ち,郊外とは異なる魅力を育てようとしている点は,郊外型ショッピングセンターと中心市街地が競合する構図となっているわが国の状況に対しても示唆的である。本書の最後では,英国から得られる知見に基づきながら,日本の中心市街地の衰退に対する具体的な処方箋が提示されている。研究者や学生だけでなく,中心市街地活性化に取り組む実務者にもおすすめできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

イギリスに学ぶ 商店街再生計画

-「シャッター通り」を変えるためのヒント

足立基浩/ミネルヴァ書房/2013年10月

 富山市中心市街地活性化基本計画で整備された,公共の広場である「富山市まちなか賑わい広場(愛称:グランドプラザ)」について,管理運営に携わる著者が,その整備プロセスや運営手法について述べている。再開発事業の当初,その敷地は百貨店のバックヤード的な道路となる予定だった。行政職員からの,まちなかの最も人通りの多い場所は広場にするべき,という提案から,再開発ビルのセットバックの協力も得て,現在休日のイベント実施率がほぼ100%の広場となったという。中心市街地の賑わいづくりのために,施設の利活用に向けた「攻め」の運営をしている著者らの活動は,多くの知見を与えてくれる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

にぎわいの場 富山グランドプラザ

-稼働率100%の公共空間のつくり方

山下裕子/学芸出版社/2013年10月

 本書は,日本建築学会・都市計画委員会・景観小委員会で2009年度から2012年度までに議論された内容を取りまとめたものである。景観法以降,「景観」の概念が矮小化されてゆく状況を危惧し,原点に立ち戻って「景観」とはなにか,今日的な意義を再考している。その上で,ポスト都市化時代と呼ぶこれからの人口減少の時代に,どのように景観とわたしたちが向き合っていくべきなのか,人間と環境のよりよい関わり方を現場による様々なアプローチを通じて示唆している。景観が置かれている“いま”を切り取っており,今後を担う学生はもちろん,都市デザインに携わる人に読んでもらいたい一冊である。

紹介:情報委員 加瀬靖子

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

景観再考

-景観からゆたかな人間環境づくり宣言

日本建築学会 編/鹿島出版会/2013年8月

 本書では,「環境演出」を,既存の都市や地域がもつ資源を活かしながら,建築などハードだけでなく人間の心理や行為などカタチのないものまでを含んだ横断的・包括的なデザインであると定義している。誰もが共有できるコミュニティの創出と実践・継続するプロデュース,価値観を生み出すブランディングの視点をもつデザインを提唱し,具体例を13のキーワードに分類して筆者の経験を中心に紹介する。その内容は家具から建築,都市計画,環境問題など多岐にわたり,現在の生活や都市構造には曖昧な価値観や多様なライフスタイルが存在し,分野横断的な視点が必要であることを再認識させる。実務者や実務に携わる研究者に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

まちを演出する

-仕掛けとしてのデザイン

伊藤考紀/鹿島出版会/2013年2月

 本書は,東日本大震災の現状や過去の国内外の復興の例を挙げながら,日本でも成熟した国として,時間をかけて都市を変革していく復興モデルに移行することが必要と問題提起し,復興・防災対策とは何か,被害想定や総合計画との関係など理論的説明を加え,総合的なまちづくりビジョンなしに復興はなく,納得ゆくプロセスが重要と指摘する。また,防災計画・復興計画の変遷,小千谷市での復興計画の策定とその評価等の実践面,南海トラフや首都直下の地震に備えた事前復興の重要性と方法についても解説されている。復興・防災計画の歴史,理論から実践までの全体像を理解できる一冊であり,都市計画に携わる方,学生などにぜひ一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

復興の防災計画

-巨大災害に向けて

牧紀男/鹿島出版会/2013年6月

 どなたも,行きたい場所になかなか辿り着けず,「案内表示を,もっときちんとしてくれればよかったのに」とお思いになったことがあるのではないだろうか。本書では,地下鉄駅の計画をはじめとして,著者が関わった事例を中心に,公共空間のサインシステムについて体系的に述べられている。前半は歴史編として,具体事例の改善経緯等を含む詳細な計画プロセスが述べられている。後半は理論編となっており,心理学,人間工学等をふまえたサインの計画プロセス,表現原則のための理論が展開されている。サイン計画そのものはもちろんのこと,それらを考慮した空間設計に向けて,今後のプロジェクトへの大きな助けとなるものと思われる。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

サインシステム計画学

-公共空間と記号の体系

赤瀬達三/鹿島出版会/2013年9月

 東日本大震災における避難者の数は最大で45万人を超えた。避難所は被災者であふれかえり,劣悪な環境から被災者を解放すべく,仮設住宅を早急に提供することが大きな課題となった。本書は,東日本大震災における仮設住宅建設の実情の記録であると同時に,大規模災害時における課題と今後のあり方を現場の視点から率直に語った一冊である。震災直後の混乱の中,仮設住宅の着工準備から完成後の対応に至るまで,試行錯誤を繰り返しながら奮闘する様子のほか,仮設住宅の種類や費用,関連制度の運用と手続き,苦情やトラブルへの対応策まで詳細に記されている。今後の災害対応のためにも,防災関係に携わる方にはぜひ一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 木梨真知子

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

実証・仮設住宅

-東日本大震災の現場から

大水敏弘/学芸出版社/2013年9月

 本書は,2004年出版された「土木人物事典」に新たに20名追加し,日本の社会基盤施設を築いてきた520名の実務者たちの記録が克明に記載されている。また,明治以降の国土を築いた人物史が随想風に52のエピソードとして新たに書き加えられ,さらには前書とは異なり,都市・道路・河川など分野毎に人物が収録され,日本の近代化を読み解く上で非常にわかりやすい。文中にもあるが,社会基盤施設(土木分野)では個人名を積極的に表に出さないなか,活躍した実務者について,経歴から携わったプロジェクトまで事細かに記載されている書物はこれ以外にはなく,是非とも一読をお薦めしたい。身近な社会基盤施設を築いた人物を再発見できる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

近代日本土木人物事典

-国土を築いた人々

高橋裕 他/鹿島出版会/2013年6月

 本書は,京都を中心に都市の近代化や象徴性,拠点性が明治期を中心に語られている。都市の多様性を考えるキーワードが随所に散りばめられており,読了後あらためて都市を取り巻く思考の奥深さを痛感した。京都の風致地区指定の思想とプロセスについて,関与した人物や職種から展開されている部分が非常に興味深い。また,都市の領域や区分について,行政地域の変遷や,東京・京都・大阪といった三府,六大都市の成立過程から述べられている。高等中学校制度と教育拠点の観点からも述べられ,高等中学校立地による都市の拠点性について,各都市の思惑が述べられている点や,修学旅行先の観点から都市について語られている点にも興味がそそられる。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

近代日本の歴史都市

-古都と城下町

高木博志/思文閣/2013年7月

 「公共空間を楽しくしたい」という気持ちを強く感じる一冊である。日本の多くの公共空間は「オフィシャル」の位置づけで,公平性が重んじられてきた。しかし公共空間は「オープン」や「コモン」であるべきで,「この空間は誰のものか」ではなく「誰のためにあるものなのか」という視点が大事だと述べている。公園,役所,水辺,学校など公共空間のリノベーション事例を実現手法を交え紹介。著者の実践やアイデアを,多くの写真やイラストを用いて紹介しており,読みやすさも工夫されている。読後は公共空間を見る目が変わる。既成概念に縛られず,変えることや新しいことにチャレンジする勇気をもらえる本である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

RePUBLIC

-公共空間のリノベーション

馬場正尊+OpenA/学芸出版社/2013年9月

 丹下健三の建築と都市デザインの背景,舞台裏を対談形式でまとめた書である。紹介者である私は,本書に登場する者に師事し,また本書に登場する組織で仕事をしてきたから,特に都市デザインの部分ではこれまで断片的にしか知らなかった事柄がつなぎ合わされ,体系化された思いがする。建築の部分にも同様な感想はあるものの,その時期に共に仕事をされていた方々による対談はやや懐古的に受け取れる。別の若い世代による対談は建築家独特の認識論の展開に十分には付いていけない感慨も残った。その他,関連する美術家,写真家などとの関係にも言及されており,丹下健三の作品,その背景を詳しく知りたい者には格好の書であることは間違いない。

紹介:担当理事 高見公雄

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

丹下健三を語る

-初期から1970年代までの軌跡

槇文彦 他 編著/鹿島出版会/2013年7月

 本書は,東京大学アジア生物資源環境研究センターが,経済成長が著しく人口密集地域であるアジアを対象に,生物資源の持続的利用という観点から,研究活動の成果をその活動方針の紹介も交えてとりまとめたものである。各メンバーは,樹木学,生態学,材料学,地域資源計画学,生態遺伝学,沿岸海洋環境学などのそれぞれの立場から,これまでの高エネルギー・資材投入,高収量の技術適用によってもたらされた問題と,それを見直す方策について,理論と事例の両面から述べている。生物資源環境の側から,これまでの都市や人為的影響を多面的に見直す際のヒントを与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 中道久美子

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

アジアの生物資源環境学

-持続可能な社会をめざして

東京大学アジア生物資源環境研究センター 編/東京大学出版会/2013年7月

 本書では,大地震に見舞われたむら,そして過疎化と高齢化に悩むむらという,2つの側面から,新潟県古志郡山古志村が語られている。東洋大学ライフデザイン学科を中心とした多くの研究者により,復興に向けた取組みについて,公営住宅の計画,健康づくり,景観,新たな営農方式といった様々な視点から,詳細な活動記録が綴られる。本書の中では,復興後のむらの持続可能な発展に向けた外部との様々な交流を「社会的支援」と呼び,そのあり方について検討している。むらの歴史や住民の主体性を尊重した交流の重要性,無理のない地域資源の活用による観光客の増加について具体的な事例が示されており,他地域への一助となることが期待される。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

山あいの小さなむらの未来

-山古志を生きる人々

東洋大学福祉社会開発研究センター 編/博進堂/2013年7月

 本書は,交通弱者に対してシビルミニマムの視点が先行しがちな我が国の交通政策に対して,経済的非効率性も含んでいることを読者に再認識させつつも,シニア層の交通政策の必要性に多面的側面から言及しているのが興味深い。シニア層の交通政策は地域によって多種多様であり,シニア層の基本的な交通特性から,様々な施策メニューや事例,その組み合わせまで幅広く提示している。特に事例は多様な研究データや成果に基づいており,実務的にも参考にすべきものは多い。学生を含めた若手研究者から行政担当者まで,それぞれの立場からシニア層の交通問題について読み解くことができる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

シニア社会の交通政策

-高齢化時代のモビリティを考える

高田邦道/成山堂書店/2013年5月

 7代目小川治兵衛は,明治から昭和初期にかけて,京都で活躍した庭師である。彼が手がけた庭園は,琵琶湖疏水の水を引き込み,周辺の山を借景するなど,自然主義の庭園であり,それまでの象徴主義的な庭園とは異なる新しい庭園文化を生み出した。本書は,単なる彼の伝記でも作品集でもない。琵琶湖疏水開発の歴史や,彼が庭園を手掛けた当時の有力者たちの人物像あるいは建築物も丹念にたどりながら,彼が表現しようとした庭園の世界を解説している。読後,都市空間は単なる機能論,意匠論だけではなく,時の文化,技術的潮流や権力構造などが絡み合う中で形づくられていくということに改めて気づかされる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

庭師小川治兵衛とその時代

鈴木博之/東京大学出版会/2013年5月

 本書では,自然を活かす,農と食を活かす,都市を活かす,歴史とアイデアを活かす,人を活かすという5つの視点から,20か所に及ぶまちづくりの事例が紹介される。食,農,医療福祉など,まちづくりで扱うフィールドが広がりつつある昨今,他分野の知見や他分野の方々との連携はますます重要となっている。本書で紹介される長野市の「風を活かしたまちづくり」,伊豆大島の「ジオパークを核とした地域づくり」といった取り組みは,地理学ならではの視点が活かされた例といえる。地域資源の発掘において,新たな気づきをもたらしてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

地域資源とまちづくり

-地理学の視点から

片柳勉 他 編著/古今書院/2013年5月

 本書は,全国に支部をもつ建築技術者組織である『新建築家技術者集団(新建)』の結成40周年を記念して出版された活動報告である。全国各地の会員各々が実際に取組んできた事例紹介に多くの紙面が割かれており,取り上げられているテーマも地元木材の活用や伝統工法を取り入れた住宅供給の取組み,保育・教育施設や福祉施設の設計プロセスの紹介,震災復興の取組みなど多岐にわたっていて興味深い。また,すべての事例において新建の理念とする「住む人使う人と協同して,地域に根ざした建築とまちづくり」が実践されていることが実によく分かる。まだ現場経験の浅い若手建築技術者や大学院生などに一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

社会派建築宣言

-誰もが人間らしく生きる生活空間の創造

新建築家技術者集団 編著/東洋書店/2013年4月

 東日本大震災からの地域産業の復興の現状を明らかにする被災地企業実態調査,地域産業の復興の現状分析,さらに再生可能エネルギーやスマートコミュニティの復興への貢献可能性検討の3部構成となっている。企業実態調査では,被災地に本社をもつ企業7千社からアンケート回答を得て,資金調達・投資・雇用等の側面から,被災企業への影響を客観的事実として提示していることが特筆される。今後の詳細分析の成果が待たれる。また,地域産業復興の現状分析についても,農業,漁業,水産加工業,商業,観光,地域金融など,事例や統計データ等を活用して分野網羅的に整理されており,今後の復興を考える上で貴重な資料となる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

東北地域の産業・社会の復興と再生への提言

-復興過程の現実に向き合い,地域の可能性を探る

東北大学大学院経済学研究科地域産業復興調査研究プロジェクト 編/河北新報出版センター/2013年3月

 本書は,都市計画分野の研究者のみならず,バイオマス,自然環境,水文,河川,土砂,コミュニティーといった幅広い研究者により執筆されている。都市および地域を取り巻く自然や広域性に視点をおき,持続可能な社会の構築に向けたあり方が学際的に示されている。広域連携についても,流域圏や定住自立圏など多様な観点から言及されており,さらに実際の三遠南信地域の連携についても論じられ,実際の連携空間をイメージすることができ,非常にわかりやすい。1つの視点では問題を解決することができず,多面的な視点を持って,都市および地域の問題を解決する必要性を改めて気付かせてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

都市・地域・環境概論

-持続可能な社会の創造に向けて

大貝彰 他/朝倉書店/2013年4月

 地方の中心市街地を舞台に汗を流す9人が,自らの取り組みや各々の考えるタウンマネージャー像を描く。仕事の内容はイベント開催から起業,ハード整備まで幅広いが,様々な人々と知り合い,つなげて組織化したり,起業家を発掘したりすることがベースである。企画立案から広報・準備・実行・定着に至るまでのプロセスを,リーダーとしてではなく裏方,世話人として支える。制度的な安定性は担保されていない仕事だが,やり甲斐もあって彼らはそれを引き受けている。本書を読むと,タウンマネージャーとは職業を超え,まちにコミットする生き方そのものであることを痛感する。まちづくりの最前線で同じ様に生きる人々を勇気づけてくれる書である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

タウンマネージャー

-「まちの経営」を支える人と仕事

石原武政 編著/学芸出版社/2013年6月

 本書は,神楽坂の歴史,まちなみ,まちづくりが体系的にまとめられた一冊である。現存する街並みは戦後に形成されているにも関わらず,来街者が歴史的情緒を感じる理由について,「まちの遺伝子」をキーワードに,多様な視点から考察されている。江戸期からの武家屋敷の賃借用の敷地割りが,現代の比較的小さな区画割と路地に引き継がれているといった歴史的経緯の解説,それらの街並みの風情を残すためのまちづくりの活動の詳細な記録,そして活動の成果としての地区計画やまちづくりのルールなど,今後のまちづくりへの様々な示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 小嶋文

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

粋なまち神楽坂の遺伝子

粋なまちづくり倶楽部/東洋書店/2013年4月

 本書は,サブタイトルに~ブームに流されず,地域の実情に合った生活交通とするために~とあるように,近年導入事例が増えてきているデマンド交通について,その特性・適性のみならず,実際に地域で導入しようとする際に陥りやすい「落とし穴」やチェックポイントをわかりやすく紹介している。著者が行ったセミナーの講演録をベースに構成されていることもあり,体系的な整理と数多くの事例資料,コラムによって,交通政策に不慣れな地方自治体職員や地域関係者にとっても読みやすいものとなっている。地域公共交通の研究者はもとより,デマンド交通の導入を検討している自治体職員にも是非手に取っていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

デマンド交通とタクシー活用

-その計画策定と運用評価

鈴木文彦/地域科学研究会/2013年3月

 本書は,1980年代の新社会都市学や都市論ブームのインパクトの後に展開した新たな都市社会学の諸領域から,建築学・文学・政策科学など隣接分野の都市研究の幅広い領域をカバーしている。内容は,都市社会の理論を解説する項目に加え,世界各地の主要都市を社会学的視点から捉える項目,都市再生と地域活性化に関する項目,メディアと都市との関係の項目,都市社会調査法の項目,隣接領域を含めた都市社会学に影響を与えた人物の項目など様々な視点から構成されている。また,1項目の解説が見開き2ページに収められ,用語の補注,参考文献も充実しており,読みやすい。最新の都市社会学の入門テキストとして,お勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

よくわかる都市社会学

中筋直哉 他 編著/ミネルヴァ書房/2013年4月

 本書は,著者が多くの都市で実際に携わった「まちづくり」の事例を交えながら,商店街の再生を中心とする「まちづくり」の処方箋を提示している。商店街が社会インフラとして生き残ることの必要性に加え,「まちづくり」の本質は「ひとづくり」であること,今流行りの6次産業の活用の可能性など活性化の方策について述べている。また,まちづくりの実践には地道な議論が必要であること,その議論には身近にある地域データの統計分析が重要であることも指摘している。「主張し,実行することが革命的な成果を生み出してくれる」とあり,まちづくりを実践されている方には参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

まちづくりのスマート革命

-主張する”まち”だけが生き残る

細野助博/時事通信社/2013年4月

 地域のまちづくりの実践の場での各主体の行動や社会変化を明らかにすることを意図し,国内外の豊富な事例紹介を通じて,地域レベルの相互学習のプロセスと経験蓄積の場の形成の重要性を示し,実験の普遍化に向けた場づくりの構造分析等を行っている。具体的には,スリランカやタイのアジアの草の根生活保障,高知県での中山間地域での集落支援,韓国の行政・住民・専門家の協力体制づくり,大阪府箕面市北芝地区のコレクティブタウン,北海道釧路市での地域生活支援ネットワークサロン等の取り組みが紹介され,高齢化社会に向けた組織,場,財源,制度など,今後の各地でのまちづくりの実践に参考となる示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画305号 2013年10月25日発行)

福祉社会の開発

-場の形成と支援ワーク

穂坂光彦 他/ミネルヴァ書房/2013年3月

 本書は,コミュニティ交通に関して,地方都市,過疎化地域の様々なタイプの成功した事例をとりあげ,住民,市民団体,事業者,民間企業,行政が協働しながら,どんな取り組みや活動をし,活性化できたのか,そのしくみやプロセスを報告している。コミュニティ交通は,各地域でとりまく環境条件が異なるため,そのままマネをすることができないことが多く,インフラや交通手段だけではなく,住民などを活性化させるプロセスがより参考になるといえる。また,コミュニティ交通づくりは地域づくり・まちづくりにも通ずるものであり,住民自治のマネージメント力の向上を目指す上でも参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

コミュニティ交通のつくりかた

-現場が教える成功のしくみ

森栗茂一 編著/学芸出版社/2013年3月

 本書は景観まちづくりを考える最初の一歩のガイドとしてのみならず,景観まちづくりを実践している方々にとっては指南書となる一冊である。著者の20年あまりの景観の専門家としての活動により得られたノウハウが体系的にまとめられており,景観をめぐるさまざまな考え方を整理しながら,良い景観を共有するための指標を示している。また,小布施をはじめとする日本各地の景観まちづくりの紹介については,人々の景観まちづくりの活動にスポットをあて,いかにその街の景観が形成されてきたか分かる。「景観まちづくりはまず,行動です」との著者の信念が 本書全体を通して伝わってくる。一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

市民のための景観まちづくりガイド

藤本英子/学芸出版社/2012年9月

 ジェイコブズ後のニューヨークの変容を"オーセンティシティ”をキー概念に克明に読み解いた大著。フロンティア達により形成されたオーセンティシティは,メディアを通じて普及・拡散して消費の対象となり,企業や行政による資本投入や開発が促され,当初の住民,空間,文化が小綺麗で高級化したまちに置き換わる姿等が描かれる。そして,生活し働き続けることを可能にし,暮らしに蓄えられた文化が保たれることにより都市は魂を宿すものだと提唱される。訳者による解説とあとがきは,ニューヨークで生起していることが我々のものでもあることを再認識させてくれる。まちづくりや都市計画に関与する全ての人々が手に取るべき好著である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

都市はなぜ魂を失ったか

-ジェイコブズ後のニューヨーク論

シャロン・ズーキン 著,内田奈芳美 他 訳/講談社/2013年1月

 本書は,著者が学生時代から現在に至るまで過ごした「新宿」という街の「場所の力」について,自分史と重ねつつも客観的に論じている。江戸時代の宿場として内藤新宿の起源から現代に到るまで,新宿の都市空間や文化の形成過程や地域関係者の苦悩が如実に描かれている。江戸四宿の遊里としての新宿,大名屋敷跡地の土地利用の変遷,玉川上水と淀橋浄水場,五街道と鉄道網の変遷,新宿老舗店舗,歌舞伎町の成り立ち,新宿駅西口の超高層都市計画など,新宿の歴史をあらゆる面から辿り,加えて新宿の未来図を提言している。本書を片手に携えて,改めて新宿という街を歩きたくなる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

新宿学

戸沼幸市 編著/紀伊國屋書店/2013年2月

 既に人口減少期に差しかかった我が国において,維持管理も含めた今後のインフラ整備に大きな課題を抱えていることは周知のことである。本書はその整備の方向性について,計画論,主体論,リスク分担論,ファイナンス論,技術論など様々な視点から述べられている。特に財政難や人手不足に陥っている行政にとって,持続可能性の観点から民間事業者との連携は不可欠であり,各視点における連携方策が示されている。補論として,東日本大震災の復興におけるインフラ整備の考え方にも触れられており,学生をはじめ,インフラ整備に携わる実務者にとっても多くを学べる一冊となっている。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

人口減少下のインフラ整備

宇都正哲 他 編/東京大学出版会/2013年1月

 本書は,東洋大学国際共生社会研究センターのメンバーがアジアの発展途上国地域の内発的発展に関する理論,方法,事例,今後の展望について総合的に分析,紹介を行っている解説書である。各メンバーは,社会学,経済学,環境工学,行政学,観光学などのそれぞれの領域から内発的発展論を検討・検証するとともに,具体的な事例を各章にコラムとして収録しており,理論と実例の両面から「内発的発展論」を学んだり,その考え方の視座を提起するものとなっている。自立・共生による地域づくりについて,理論的背景や事例を通じて多角的,体系的に学ぼうとするときのテキストとなる一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

国際開発と環境

-アジアの内発的発展のために

北脇秀敏 他/朝倉書店/2012年8月

 研究者や実務者が実際に直面した地方都市の問題と解決策について,多くの実例を用いて語られている。各章のはじめには,著者から地方が直面している問題に対する問いかけがあり非常に親しみやすく,地方都市の再生に取り組んでいる著者たちの息づかいを感じ取ることができ,奮闘している姿や熱い気持ちが伝わってくる。石川県の事例が多く収録されており,独自事例が掲載されている交通まちづくり,駐車場,景観,高齢者の居住福祉施策は興味深い。新たに整備されてきた郊外市街地がなぜ問題を抱えているのかの提起と,それに対応する戦略も掲載されており,地方都市の再生を検討する上でのヒントが多数隠されている。一読をお奨めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

地方都市の再生戦略

川上光彦/学芸出版社/2013年3月

 地域独自の食文化は,地域独自の生業と分かちがたく結びついている。そして,地域独自の生業から生み出されるのが文化的景観である。本書は,各地での事例をベースにしながら,食と文化的景観を一体のものと捉え,小スケールでの市場創出を足がかりとして地域振興を図ろうとする提案の書である。長く国家公務員として景観行政に当たってきた著者らによる,地域での創意工夫を凝らした小さな活動への評価と中央行政への鋭い批判は,現在の景観行政の課題を考えるうえで大いに示唆を与えてくれる。TPP論議の中,地域固有の食文化と,それを支える農業と文化的景観をいかなる方法によって保全していくべきかを考えさせてくれる意味でも,有用な一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画304号 2013年8月25日発行)

食と景観の地域づくり

-小さな活動からネットワークへ

井上典子 他/学芸出版社/2013年3月

 本書は,戦後広島の復興過程を,これまでほとんど焦点が当てられてこなかった地元建築家の活動を通して明らかにしたものである。地元建築家の人物像や復興にかける想いを描き出し,彼らが手掛けた復興建築一つひとつを丹念に記している。さらに,戦災復興都市計画と丹下健三の関わりや,広島平和記念聖堂のコンペに関する考察,広島闇市の形成過程に至るまで,そのテーマは多岐に渡っており,昭和20年代の広島における復興過程が立体的に理解できる。都市計画史に関心をもつ方のみならず,現在東日本大震災の復興に携わっている方にもぜひ一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

被爆都市 ヒロシマの復興を支えた建築家たち

石丸紀興 監修・李明 著/宮帯出版/2012年8月

 20年前に編者らが行ったマスシティ研究―日本の都市は西欧型都市とは異なる大衆的文化都市(経済活動や文化活動の集まるオアシス状の集住空間)であるという考え方から,生まれた書である。マスシティの特徴を凝縮した都市空間として「路地」を取りあげ,都市における路地の本質的な意味や役割を論じている。路地は,人の住まう都市の必須の要素であること,歴史や文化のなかで生成されてきた核心的都市装置であることを,上海,北京,ソウル,オールドデリー,イジョグジャカルタ,鹿港(ルーガン),プラハ,ベルリン,ニューヨーク,そして京都・大阪と,生き生きとした人間の生活空間として描きながら,証明している。路地から各都市の歴史的文脈,空間の原理をたどることのできる好書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

路地研究

-もうひとつの都市の広場

上田篤 他 編/鹿島出版会/2013年2月

 題名の通り,復興まちづくりの最前線の状況が収録され,現場の息づかいが伝わって来る。被災から2年が経過した時点での復興課題についても言及されており,次に来るべき大規模災害の復興における教訓も示されている。都市計画法制度に関する復興のみならず,災害廃棄物の処理,生業の復興,仮設まちづくり,地域コミュニティについても詳細に記されている。また,被災地の5自治体の市長が寄せる文章からは,復興に対する熱い思いを感じ取ることができ,どの市長もまち再建への夢を語っている。陸前高田市長の「細く長くご支援を」「忘れないでください」という言葉には,復興の長い道のりと被災地の強い思いが凝縮されている。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

東日本大震災 復興まちづくり最前線

大西隆 他 編著/学芸出版社/2013年3月

 「さるく」は,長崎県の方言で,「ぶらぶらとそぞろ歩く」の意味である。本書は,長崎を「さるく」ためのガイドブックである。長崎のガイドブックと言うと,幕末の遺構の紹介や,原爆の歴史を解説したものであると思われるかもしれないが,本書は,それとは異なる。本書のタイトルには,「もうひとつの」の言葉が冠せられている。すなわち,本書は,これまで語られることの少なかった時代の,長崎の歴史や文化,風土や暮らしに焦点をあて,それを丁寧に記述することを通して,新しい「さるき方」を提唱したものである。歴史的に脚光を浴びた時代の狭間に存在した何気ない人の暮らしに焦点をあて,その価値を掘り起こした本書は,長崎のさるく本であるとともに,全国の地方都市における地域資源の発見方法にヒントを与えてくれるものでもある。地方都市のまちづくりや観光振興に興味を持つ方に一読をお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

もうひとつの長崎さるく

-豊かな景観と育んだ歴史的個性

谷村賢治 他/晃洋書房/2012年11月

 昨年放映されたドラマでも話題となった「地域おこし協力隊」の各地での取り組みを紹介する一冊である。茨城県常陸太田市,高知県本山町,新潟県十日町市,秋田県鹿角市,長崎県対馬市の例を中心に,協力隊の方々が現地に入る経緯から活動の悩み,自らの経験や能力を活かした活動の状況などが生き生きと描き出されている。受け入れ側の自治体担当者のコメントも付与され,双方の視点から見られる構成となっている。都市から地方への移住者がよそ者の視点で地域おこしを担う姿は,地域づくりの一つの形態となりつつある。本書はこうした地域活性化のあり方とともに,今後のまちづくりを担う若者のライフスタイルを考える上でも参考になるであろう。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

僕ら地域おこし協力隊

-未来と社会に夢をもつ

矢崎栄司/学芸出版社/2012年12月

 本書は,明治大学がドイツの都市計画家を招いた国際セミナーを軸に,わが国のサステナブル社会実現に向けた提言をまとめている。具体的には,市民意識,私益・公益のバランス,都市計画の法的フレーム,税制,まちづくりの担い手などの面において,日本とドイツを中心とするEU諸国との違いを論説したうえで,ドイツのまちづくりから日本のまちづくりや震災復興に活かせることを提言している。著者のドイツにおける経験やセミナーにおける知見が本書内に散りばめられており,学生・研究者だけでなく実務者にも広く手にとっていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

サステイナブル社会のまちづくり

-ドイツ・EUの実務に学ぶ

澤田誠二 編著/明治大学出版会/2012年11月

 都市計画の定義から基本理念,都市計画法の3本柱である土地利用,都市施設,市街地開発事業について体系的に述べられている。さら環境アセスや防災,ユニバーサルデザイン,景観についても章立てられ,歴まち法など最新の法制度にも対応しており,都市計画に関することが全てコンパクトに集積されている。特に,土地利用では国土利用計画法との関係や地区計画,都市施設では交通計画,公園計画,供給処理計画が詳しく述べられており,実務本としても活用できる。都市計画を理解する上で非常に分かりやすく書かれていることから,入門本として,学生のみならず都市計画行政に初めて携わる方にも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

都市計画 第3版

樗木武/森北出版/2012年12月

 コモンズ=里山等の入会地と考える人はタイトルに面食らうかも知れない。本書は,地域コミュニティに存在する「住民が共同で利用し,便益を受ける資源」を都市のコモンズと位置づけ,児童公園,マンション,景観等の具体調査を通じて,そのガバナンスのあり方を提言する。提言の中には,まちづくりの現場で市民・専門家・自治体職員らに既に実践されているものも少なくないが,権利義務関係法,住民自治組織のルール,政策の三相を法概念として設定し,その相互関係を動態的に捉える理論枠組みは,今後の都市空間の利用・管理を考える上で示唆に富む。読み手を選ばない丁寧な論旨展開,コモンズ研究のレビューが充実しているのもうれしい。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画303号 2013年6月25日発行)

コモンズからの都市再生

高村学人/ミネルヴァ書房/2012年11月

 2年前の東日本大震災ではハード整備による防災対策の限界が明らかとなったが,これまでの防災対策の徹底的反省と,今後の防災対策のあり方をめぐる議論が必要とされている。本書は,国内外の様々な防災対策に精通した筆者が,東日本大震災を機に改めて「減災」をキーワードに著したものである。多くの先進事例が紹介されているが,そこに通底している姿勢は,「市民ネットワーク」というソフト面を重視している点である。ネットワークという言葉はともすれば抽象論に陥りやすいが,民間事業者による災害支援活動などの先駆的事例,自治体による震災時の土地利用計画策定など,様々な事例が詳述,整理されている。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

減災と市民ネットワーク

三舩康道/学芸出版社/2012年9月

 昨今,農山村再生において,スローフード,スローライフといったコンセプトをしばしば耳にするようになってきているが,本書は,こうした「スロー志向」の農村観光を確立しているイタリアのアグリツーリズモ(グリーンツーリズム)の成功の理由をわかりやすく説き明かしている。
 農家,市民,自治体,政府など,関係する様々な主体が,それぞれ自発的かつ創造的に活動を展開しながらも,互いに連携しながら紡がれていく成功への物語は,我が国の農山村再生にも大いに示唆を与える内容となっている。地域の価値を活かした地域づくりに関わる,多くの方々に是非読んでいただきたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

なぜイタリアの村は美しく元気なのか

-市民のスロー志向に応えた農村の選択

宗田好史/学芸出版社/2012年8月

 本書は,鳥取県を事例に,過疎地域の現状と課題解決の戦略について論じたものである。過疎地域の現象を人口減少,高齢化,過疎化に分けて,連携,個別対応,集約化,広域化などの戦略を提示した上で,福祉,林業,エコツーリズム,公共交通,医療,地域マーケティング,土地情報管理など幅広い分野における仕組みづくりとその有効性を検証する。そして戦略の展開に向けた自治体経営や体制づくりの方向を示している。全体として過疎地域の問題や戦略が体系的に整理されており,鳥取大学の研究者による調査と実践に基づく議論は説得力がある。都市計画も過疎地域との関係を抜きにしては語れない。一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

過疎地域の戦略

-新たな地域社会づくりの仕組みと技術

谷本圭志 他/学芸出版社/2012年11月

 本書は,著者のアメリカでの経験を踏まえた日本における真のランドスケープアーキテクチャーの育成を目指している。そのことを根底にして書かれていることから,本書を読めば,ランドスケープの計画設計思想から,実際の基本構想,基本計画,基本設計,実施設計,維持管理までの全てが理解できる。特に,各設計段階で必要とされる設計レベルや造成計画,供給処理計画,事業費の算出,契約内容までもが詳細に収録されており,さらに事例も多数紹介されていることから,ランドスケープの実務に初めて携わる技術者でも手に取るように分かる。一読をお奨めしたい。また,日本での技術者育成の実態を踏まえた次世代教育のあり方の示唆も含まれている。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

ランドスケープ計画・設計論

丸田頼一 他 編著/技報堂出版/2012年8月

 本書は,多摩ニュータウンの開発から現在までをわかりやすくまとめている。現在の多摩ニュータウンは高齢者団地というイメージがある。本書は住民アンケート調査にもとづいて居住実態を明らかにしており,入居開始年が異なる団地ごとに特性を示している。そして居住者への訪問ヒアリングにより,日常生活を深堀りし,居住している部屋の間取りとその使い方をパターン化し,住戸の改善点を指摘しているところが興味深い。子どもの屋外活動,市民活動,商店街に関する調査もまとめられている。最後には,住戸のリフォーム,住棟のリモデル,学校校舎のコンバージョンの提案がなされている。副題に「オールドタウンとは呼ばせない」とあるとおり,これからの多摩ニュータウンが楽しみと感じた一冊である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

多摩ニュータウン物語

-オールドタウンと呼ばせない

上野淳 他/鹿島出版会/2012年9月

 本書は我々が生きる環境について検討・認識する新しい視座として独自の思想である「レーベアム空間」を定義し,環境建築・都市を深く掘り下げている。世界最先端の環境建築の実例としてドイツ環境省やベルリン自由大学図書館などを取り上げ,新たな環境革命の潮流を読み取っている。また,環境重視時代における環境都市・地域づくりの典型例を3つの基本パターンに整理し,環境化へのアプローチのヒントを与えている。本書の後段では,環境建築の試行モデルとして具体的なプロジェクト提案を行っており興味深い。気持ち良い空間イメージが想起され,大いに触発される。一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

環境建築・都市への道

-感性と環境技術を結ぶレーベアム思想

山崎哲哉/鹿島出版会/2012年5月

 本書は,コミュニティデザインで話題の山崎氏の住民参加型デザインに対する考えを建築家の視点から往復書簡形式で探る。思想背景やそれに関連する文献,事例への言及等を交えながらも,軽快な文体で一気に読み進められる。これらの文献等も含めてたどれば,氏の考え方への理解が一層深まるであろう。なお,二人の著者は,ある駅周辺整備で共に仕事をする建築家とコミュニティデザイナーであり,その関係性ゆえに,つくるデザイン,つくらないデザインをめぐる意識,これらの関係に対する率直な議論が展開されている。住民参加型のまちづくりが広がるなか,参加のデザインの本質に対する気づきをもたらしてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

まちへのラブレター

-参加のデザインをめぐる往復書簡

乾久美子 他/学芸出版社/2012年9月

 「アーバンデザインセンター(UDC)」とは,全国5都市に存在する,公・民・学が構成するまちづくりの場であり,「連携による空間計画」,「専門家の主導」,「拠点と見える化」の3つの資質を持つ点に特徴がある。本書では,UDCに期待される役割,機能の解説から始まり,その運営手法,海外を含む各地での実践例の解説がなされている。本書には,理論と実践に関する知識が,バランスよく体系的にまとめられており,まちづくりの理論を知るうえでも,まちづくり,コミュニティデザイン,エリアマネジメントなどの各地の最新の動向を知るうえでも有用である。協働によるまちづくりのかたちを模索する研究者や実務家にお勧めできる一冊。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画302号 2013年4月25日発行)

アーバンデザインセンター

アーバンデザイン研究会 編著/理工図書/2012年9月

 著者自身の長崎と大阪における10年間の実績と経験に基づき,コミュニティ・ツーリズムとしての「まち歩き」の基本的考え方と具体的作法をまとめた書。本書で言う「まち歩き」は,単なる歴史講釈やウォーキングではない,生きたまちの空間体験であり,まちに生き,まちの一部である,熱意を持ったガイド=市民の存在が不可欠である。事務局サイドはその様な人材を発掘・養成しつつ,運営をサポートする。市民の主体性を引き出し,まちへの関与を強める点で,観光の一手法というレベルを超えた奥深さもあり,まちづくりの様々な場面で応用可能である。プロデュース側の視点から書かれており,自治体やまちづくりNPO関係者に薦めたい。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

「まち歩き」をしかける

-コミュニティ・ツーリズムの手ほどき

茶谷幸治/学芸出版社/2012年8月

 各所で活躍するエコノミストの藻谷氏とコミュニティデザイナー・山崎氏の対談本である。まちづくりはお金が儲からなければだめなのか?経済指標と実態とがずれていないか?といった問いに対して,一定の水準まで成長を遂げたいまの日本では,経済指標では表せないストックが重要であり,従来の大都市優位の価値観にとらわれない多様な生活の選択肢があることが国の豊かさにもなるという。こうした考え方が,藻谷氏の示す様々なデータと山崎氏の豊富な現場経験に裏打ちされて語られる。とにかく二人は日本の将来に前向きである。これからまちづくりや地域政策を学ぶ学生に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

藻谷浩介さん,経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?

藻谷浩介 他/学芸出版社/2012年7月

 ワールド・トレード・センター(WTC)を襲った惨劇からの復興を,被災直後から克明に記載している。復興計画プロセスについては,事業論,経営論,政治論などから多面的に述べられており,復興に関する全てが収録されていると言っても過言ではない。特に,復興着手前の遺体の捜索と瓦礫処理の記述は実に生々しく痛々しい。また,崩壊による粉塵が,WTC近辺のビルの空調に溜まり,その空調を利用した多くの人々が二次被害を受けたというショッキングな事例も収録されている。読了後に,改めて感じたことは,テロや戦争は,人間が引き起こすものであって,止めることができる。このような人的災害の復興が二度と起こらないよう祈り続けたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

復興の創造

-9/11からのニューヨークの価値観とアプローチ

デヴィット・マメン 著、林春男 訳/富士技術出版/2012年7月

 都市には,いつの時代も華やかに彩られる「光」と端に追いやられる「影」の部分が存在する。著者は歴史都市京都において,町家や祇園祭で注目される都心部を「光」,古くからの被差別部落を「影」とし,町家建築の意匠性や場所性を影の部分のまちづくりに取り込むことにより価値転換を図ることをニューヨークでの事例を挙げながら提案している。その中で過去都心部のまちづくりを担った町衆のように,今日における地元住民組織の重要性についても言及している。また,区域を細分化して評価する「モザイク模様の都市計画」にも説得力があり,まちづくりについて新たな示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

歴史都市京都の超再生

-町屋が蠢く,環境・人権・平和のための都市政策

リムボン/日本評論社/2012年8月

 郊外とは何かという原点に立ち戻り,その空間の定義,形成過程を国内外の思想や事例等を交えて整理するとともに,郊外緑地の機能や関連する法制度を網羅的に解説している。参考文献の紹介も含め,都市・緑地・環境等に携わる学生や研究者にとって,基礎的な知識を整理する上で有用な一冊である。また,これら知識の整理に留まらず,郊外が抱える人口減少,高齢化による空閑地の増加等の課題に対し,住民による緑地管理の広がり等の意識の変化を捉え,農を排除してきた郊外計画住宅開発から「農ある郊外」への転換と,PDCAサイクルによる動的な制御を可能とする計画論の必要性を提言する意欲作である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

郊外の緑地環境学

横張真 他 編/朝倉書店/2012年6月

 本書は,商品分類論などの商業立地論の基礎から,ハフモデル・グラビティモデル・空間的相互作用モデルといった所謂定数効用モデルの批判,それと対比されるランダム効用モデルの妥当性に至るまで,統計学・工学・人文地理学・経済学などの国内外の立地モデルを,やや過激ではあるが体系的に整理している。これだけであれば類似図書も見受けられるが,本書は近年の情報処理技術の飛躍的向上も相まって,ランダム効用理論を援用したGIS集計型ロジット商圏モデルの構築と検証について説明している。立地論の基礎・体系化から実務化ツールまで幅広にカバーしている点においては,大学院生から流通業界の実務者まで,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

GISロジット商圏モデルと立地論・業態論・商圏論

長塚四史郎/開文社出版/2012年7月

 本書は,日本各地で地方の鉄道とバスが衰退している厳しい状況下で,「地域の足(公共交通)を確保するために地域でどのように支えるか」について,様々な取り組みを紹介している。まず,鉄道・路線バスの廃止などの規制緩和の影響やそれに対する政策とその問題点を整理している。次に,沿線住民・NPO主体,交通事業者の自主努力,行政のサポート及び主導と活性化には欠かせないキープレーヤー別に全国各地の先進的な活性化の事例をレポートし,最後に今後の交通政策の方向性を述べている。最新の取り組みや政策などは刻々と変化しているが,現時点での鉄道とバスの地域公共交通活性化の全般的な状況を理解するうえで参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

地域で守ろう!鉄道・バス

堀内重人/学芸出版社/2012年1月

 本書は,現代の都市は,<抽象的普遍的個人>を対象とし,諸機能の合理的体系として人間の<理性>によって生み出された都市となっていて,日々のくらしの中での住民による都市への能動的働きかけが都市計画の原理から追放されている,という批判の下に,著わされた書である。筆者の「「場所」と「場」のまちづくりを歩く」(2004)の理論編であり,現代都市計画と相容れない「場のまちづくり」について,「主体と社会・空間の相互作用を媒介する,ミッシング・リンクを<意味>に求め,実体と意味の二重的存在(記号)としての<場>の概念を導入する」という方法論で,語られている。内容はやや難解であるが,筆者自身がこの方法論の是非は読者の判断に委ねたい,具体的制度手法についての言及が不十分,というように,多くの読者にまず触れていただきたい。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画301号 2013年2月25日発行)

場のまちづくりの理論

-現代都市計画批判

岩見良太郎/日本経済評論社/2012年6月

 本書は,飯田橋から四谷を経て赤坂までのびる,旧江戸城の<外濠>にフォーカスしたもので,従来注目されてこなかった,その価値を広く知ってもらうことを企図して戦略的に編まれている。歴史,気象,地理,都市計画,土木,建築,造園などの諸学のアプローチを通じて外濠の歴史とエコロジーを描き出した上で,まち歩きガイド,イベントの記録,住民インタビュー記事なども掲載し,最後は将来の計画提案で結ばれている。各トピックを2頁に収め,写真・イラスト・地図を豊富に用いており,読みやすさにも配慮されている。外濠の魅力だけではなく,ひとつの場所の意味や価値を表現するのに様々な可能性があることも教えてくれる,そんな書である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

外濠

-江戸東京の水回廊

法政大学エコ地域デザイン研究所 編/鹿島出版会/2012年4月

 単身高齢者の増加,低所得層の拡大,買物難民の発生,地域コミュニティの崩壊など,住まいを取り巻く課題は山積している。こうした状況下にあって,多世代で構成されるコミュニティによる共助は課題解決の一つの手法として期待される。本書では,戸建住宅,集合住宅に次ぐ第3の住まい方として「コレクティブハウジング」を位置づけ,食事を中心とした多世代の居住者間のつながりを生む仕掛けを,先行事例での多数の居住者の生の声,空間構成・事業方式等から多面的に紹介する。専門家の対談集からは今後の課題も伺えるなど,今後の住まい・コミュニティを考える上での貴重な示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 田村隆彦

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

第3の住まい

-コレクティブハウジングのすべて

小谷部育子+住総研コレクティブハウジング研究委員会 編著/エクスナレッジ/2012年6月

 本書は,2010年3月に佐賀県唐津市で開催された国際建築都市デザインワークショップ(主催:社団法人日本建築学会)の内容をまとめたものである。このワークショップでは,世界16カ国から集まった43名の学生が,唐津市を題材とした地域課題の分析と新たなビジョンの提案を行っているが,本書で紹介されている学生グループからの提案の数々やそれを構成する複数のプラン,スケッチなどは,唐津市以外の地方都市の空間の再生・再編の検討にも大きなヒントとなるものも多い。都市デザインを学ぶ学生はもちろんのこと,具体的な都市再生のアイデアを模索しているプランナーや自治体職員にも,是非手に取っていただきたい一冊である。

紹介:情報委員 鴨志田武史

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

唐津・都市の再編

-歩きたくなる魅力ある街へ

日本建築学会 編/鹿島出版会/2012年5月

 本書は,財団法人都市化研究公室で2007年より開催した「超高齢社会問題研究会」の成果であり,高齢者にとって住みやすい社会の実現のための今後の方向性を示している。統計データを利用しながら高齢者社会の現状を時系列で理解することができ,行政や民間等による政策・地域ケア・医療・住宅等の幅広い分野の具体的な取組みを見渡すことができる。また,超高齢社会に対応した社会インフラのあり方等が述べられており,高齢者対策財政支出は効果が小さいといわれているのに対して,「高齢者対策への財政支出は日本再生のカギとなる」との異なる意見を問題提起しているのが興味深い。今後の高齢化問題を考えるうえで参考となる一冊である。

紹介:情報委員 梶田佳孝

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

超高齢社会

高橋元 監修、光多長温 編/中央経済社/2012年6月

 災害と災害の狭間に立っている我々は,過去に起こった地震災害から何を学ぶべきか,そして将来発生する災害を如何に予想するのかを本書は示している。地震災害に対して,災害の発生前の対策,発生時の避難,発生後の復旧・復興の流れで書かれており,時系列で理解することができる。都市計画と建築規制によるハード面の整備だけでなく,自助・共助・公助の役割,消防活動などのソフト面の施策,そして予測については,火災延焼や避難のシミュレーションが体系的に示されており,非常にわかりやすい。また,過去の災害事例や新潟中越地震の復興や生活支援活動が収録され,東日本大震災についてのコメントもあり,時宜を得ており読み易い。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

都市防災学

-地震対策の理論と実践

梶秀樹 他/学芸出版社/2012年4月

 本書は著者の長年に亘るまちづくりの実践活動から生まれた都市環境デザイン論の良著である。近代都市計画の歴史から居住機能とまち再生,環境,歩行者空間,水辺,緑,歴史を生かしたまちづくり,さらには都市環境の演出に至るまで体系的にまとめられており,人間中心のまちづくりの視点で貫かれている。そして,人々を惹きつけるまちの「魅力」を実現する方法論の一つとして都市環境デザインを位置付けている。事例写真の充実ぶりは,実践活動を中心に活躍されている著者ならではのメッセージが感じられる。都市環境デザインやまちづくりを学びたい方はもちろん,実務として携わる人にとっても多くを学べる一冊である。ぜひ読んでいただきたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

都市環境デザインのすすめ

-人間中心の都市・まちづくりへ

中野恒明/学芸出版社/2012年5月

 「風景」は,人間が,景観からある種の情報を切り取り,そこに意味付けをすることで成立する。この理解に立つならば,「風景づくり」に対して,我々はどのような態度で臨むべきか,本書は,哲学から土木デザインまでの多様な専門分野における,風景論の第一人者13名による,「風景」を共通項とした論説集である。本書では,これまで日本人がどのように風景を生み出してきたか,また,将来,風景を生み出す思想や方法はいかにあるべきかが,多方面から論じられている。本書を通読することで,読者は,多様な専門分野からの論説の中に浮かび上がるかたちで,風景づくりの基礎になる考え方-風景の思想-を知ることができる。風景づくりに関心を持つすべての方に一読をお勧めできる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

風景の思想

西村幸夫 他 編著/学芸出版社/2012年6月

『アメリカ大都市の死と生』に触発された著者らが,ジェイン・ジェイコブズの仕事を若い人たちに紹介することを意図して書かれた最初のものである。ジェイン自身が図書館に寄贈した資料,記事,未公開の写真,手紙等,おおよそ100点の図版,情報源から,彼女の仕事の背景となった自身の生活や人生と,これに根差した深い洞察力と行動力をリアルに感じ取ることができる。とくに,後半の章では,アメリカの多くの都市で古い近隣住区の大規模都市更新の終焉をもたらすに至るジェイコブスの闘いの歴史が,「死と生」「都市の原理」「都市の経済学」「市場の倫理・統治の倫理」等の著作や映画における多くの言説や理論とともに,彼女の世界に引き込まれながらその背景に触れることができ,都市の計画に関心を寄せる学生や市民にお薦めの書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画300号 2012年12月25日発行)

常識の天才 ジェイン・ジェイコブズ

G.ラング 他 著・玉川英則 他 訳/鹿島出版会/2012年6月

 ○○とまちづくり。これまでまちづくりの中で特定テーマが多々議論されてきたが,駐車場に着目して体系的に整理されたものは見当たらない。中心市街地では,駐車場が土地利用に占める割合が最も高い都市も多く,まちづくりを進めるうえでも関わりがあることは多い。駐車場法が公布されてから50年余り,当初の目標であった駐車場の量的充足は概ね達成された現在,駐車場政策は質的なコントロールへと転換すべき時期に来ている。本書は,駐車場に関する歴史的経緯や国内外の事例を俯瞰し,まちづくりにおける駐車場の問題課題を整理した上で,今後の駐車場政策を提言している。交通関係者のみならずまちづくりに関わる方に広く一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

駐車場からのまちづくり

-都市再生のために

公益財団法人国際交通安全学会 編/学芸出版社/2012年4月

 これまで都市の復興計画史をテーマに多くの仕事をしてきた著者が,東日本大震災を機に改めて著した書籍である。前半は既刊『復興計画』の圧縮版,後半は東日本大震災を踏まえた著者の書き下ろしである。着目すべきは後者で,昭和三陸津波における内務省復興計画とその後の事業や,東日本大震災の発生直後から現在までの国や地方自治体の対応が解説されている。また,これらに対する著者の見解や今後の復興計画に向けたアイデア(例えば,あとがきの中の「まちづくり履歴診断マップ」)などがコンパクトにまとめられ,示唆に富んだ内容になっている。復興が緒についたばかりの三陸地方のみならず,地震に対する備えが全国的課題であることを踏まえ,広くお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

大震災と復旧・復興計画

越澤明/岩波書店/2012年3月

 本書は,日本計画行政学会の計画理論研究専門部会における議論を踏まえた上で,各専門分野の専門家がそれぞれの知識と経験をもとに,東日本大震災の復旧・復興について提言したものをまとめたものである。提言されている分野は多岐に渡る。行政のBCP(業務継続計画)対応のあり方にはじまり,不用地・不明地問題,健康都市づくりによる地域再生,コミュニティの再構築,水産業のあり方,サプライチェーンの復興,原発事故による風評被害の現況と対策など,幅広いテーマを見渡すことができる。現在進行中といえる,東日本大震災の復旧・復興への取り組みについて,その多面性を理解し,それぞれの状況を把握するのに適した一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

東日本大震災の復旧・復興への提言

梶秀樹 他 編/技報堂出版/2012年3月

 持続可能な都市再開発のために,アイデンティティはどう重要であるのか。著者らはこの問いに対して,都市論者の主張,スイスおよび日本の産業施設跡地の再開発事例,開発担当者へのインタビューを通じて,答えを見出そうとする。そして,ミックストユース,パブリック・オープンスペース,都市の自然,歩行者路のネットワークといった空間的要素,歴史の継承やアート,参加・協働,エリアマネジメントの仕組みによってアイデンティティが生まれ,経済,社会,環境的持続可能性に繋がるという共通性を指摘している。都市開発において何を考えるべきなのかを知る上で有用な一冊であり,特に都市計画を学ぶ学生に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

アイデンティティと持続可能性

-「縮小」時代の都市再開発の方向

木下勇 他/萌文社/2012年2月

 本書は,都市の魅力を高めるため,道路からのまちづくりのあり方をドイツの交通政策から示している。ボンの中心市街地活性化やハンブルクの道路空間のデザインガイドライン,自転車の広域的ネットワークとその楽しみ方も収録され,ドイツを熟知している著者でなければつぶさに把握することのできない事例や成功プロセスが多数収録されており,ドイツの事情が手に取るようにわかる。道路は誰のものか,道路空間のあり方や過ごし方をドイツの経験をもとに我々に語りかけている。是非一読をお薦めしたい。実際に,私がドイツに行く際に,視察地の参考とした本書は,ドイツの都市交通版「地球の歩き方」とも言える。ドイツに行きたくなる一冊である。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

シェアする道路

-ドイツの活力ある地域づくり戦略

エルファディング スザンネ 他/技報堂出版/2012年4月

 本書は,全国主要都市の防災上の課題を統計データ等をもとに把握し,防災性向上に向けた整備の方向性を示すとともに,整備の具体的な手法の1つとして土地区画整理事業を挙げている。東日本大震災による甚大な被害を経験して以降,首都直下型地震に対する備えに社会的関心が集まっているところだが,首都圏の老朽化した低層木造住宅が密集する市街地でスピーディに防災性の向上を図るためには,著者の提案する最低限の避難路(幅員8m)整備と現道拡幅を主体とした区画道路(幅員4m)整備の実現を目指す『修復型区画整理』は有効であろう。事業の実現化に向けて,土地区画整理事業の計画技術についても事例を交えた解説がなされているので,市街地整備に関わる実務者や学生に一読をお勧めしたい。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

老朽化した住宅系市街地の再生

-居住環境整備と震災対策のために

蔵敷明秀/大成出版社/2012年4月

 「公的企て(パブリックエンデバー)としてのアメリカ合衆国の都市計画について,その起源を南北戦争前後からのいくつかの先駆要素に求め,これらが都市計画に合流していく過程」(訳者「あとがき」)を,丁寧な筆致で著している。シカゴ世界博や都市美運動,マクミラン計画等といったトピックについて個々の事象を知識とするだけでなく読者に,それらの相関を著者に続いて俯瞰的に考察する視座を与えてくれる好著である。黎明期のアメリカ都市計画について,初学の研究者らが個別のトピックを掘り下げる前に手に取っておくに相応しい文献であろう。巻末に一次資料(図書)のリストが付置される等,資料性も高い訳書である。

紹介:情報委員 鹿野陽子

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

アメリカ都市計画の誕生

ジョン A. ピーターソン 著・兼田敏之 訳/鹿島出版会/2011年12月

 法律の全訳と聞くと,読むのに抵抗を感じる人もいるかもしれないが,本書はその心配はない。オランダの都市計画法制である空間整序法について,2006年制定の新法の全訳と共に,オランダの都市計画思想,1965年制定の旧法の制度疲労と改正の必要性,議会の審議過程が記載されている。また日本の都市計画関連法と対比していることから,読みやすい。オランダでは,建築と都市・地域計画分野の間に都市デザインという分野があり,その職種が官民の現場に存在し,そこで提案された空間像が法定都市計画になることもある,というような新たな知見を得ることができ,実務者にも一読をお奨めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画299号 2012年10月25日発行)

オランダの都市計画法制

-全訳・オランダ空間整序法

(財)日本都市センター/(財)日本都市センター/2012年1月

 本書は,竣工後25年が経過した「コーポラティブ住宅ユーコート」の成り立ちや住まい方を通じて,今後の集合住宅の管理・運営方法や地域コミュニティのあり方,住民合意形成プロセスについて言及している。著者等が行った入居者に対するアンケート結果や,親世代,子世代それぞれが語るユーコートに対する思いから,「共同」し「ともに住まう」ことの本質は何かを知ることができ,そこからまちづくりの本来のあり方についても窺い知ることができる。本書で紹介されている事例は決して特殊解ではないので,専門家や実務者のみならず,まちづくりに関わる学生にもお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 関口智彦

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

マンションをふるさとにしたユーコート物語

乾亨 他/昭和堂/2012年1月

 日本人は自国の優れた点を軽視しがちであり,外国人の新たな視点による指摘に驚かされることがしばしばある。本書もそのような書籍として注目に値する。著者は,日本の優れた特質とは「ママチャリ」「自転車町内」「公共交通」の三点であり,それらの連携による自動車不要の生活こそ,日本の偉大な財産であると指摘する。“ママチャリは世界に誇る日本の発明品!”“自動車以外の選択肢を持つ日本人の幸福”などの指摘はまさに「目から鱗」であり,一考に価すべき新たな気づきを与えてくれる。都市部の放置自転車対策や道路空間における自転車対応等,実務に携わる行政担当者にとって,今後の施策検討に向けたヒントが詰まった一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

世界が賞賛した日本の町の秘密

チェスター・リーブス 著・服部圭郎 訳/洋泉社/2011年12月

 著者は,経済統合が進む東南アジアの6つの大都市圏と東京圏・大阪圏を取り上げ,都市圏拡大と都市整備・地域計画の経緯,企業立地や就労の変化,最近の都市問題等について,植民地支配の歴史,資本主義と社会主義,民間主導と公共主導の相違などに着目しながら詳しく描き比較する。そして,アジアの地域統合を展望し,多様な連携関係の構築や,大都市圏と地方圏の格差を是正する地域政策の必要性を指摘している。日本でも大都市圏戦略基本法(仮称)を制定する方針が示されているが,成長戦略を考える上でも,また日本の経験を活かす意味でも,日本の大都市圏をアジアの中で位置づけて考えることの重要性を再認識させる。

紹介:情報委員 片山健介

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

東南アジアの大都市圏

-拡大する地域統合

生田真人/古今書院/2011年11月

 本書は,風景を言説化し,芸術文化面から広く風景について論じている。日本人と欧米人が描いた古典文学,美術作品における風景論について,学際的に触れられており,風景の奥深さを感じることができる。日本のみならず,欧米の風景論を文学作品や旅行記,画集から言葉や表現を豊かに汲み取り,本文中に展開している。また,国立公園の誕生と展開については,政治面からの風景の見方を歴史的に教示してくれる。さらに,風景を定数化し,百景・百選からの風景のあり方を論じている点も興味深い。あまりにも身近なゆえに,何も考えずとも心の中で自然な存在となっている風景であるが,本書を読み終えると,風景の見方が変わるであろう。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

自然の風景論

-自然をめぐるまなざしと表象

西田正憲/清水弘文堂書房/2011年12月

 現代社会は,「個人の確立」を基調に,市場経済,国民国家,市民社会から構成される社会であるが,明確な行き詰まりを見せている。本書は,こうした時代認識のもと,新しい社会のデザインに向けて,日本におけるコミュニティ,自然,風土といった概念への丁寧な考察をベースにしつつ,「ローカルな関係性」を基調とした社会を提示する。本書は,現代社会への考察,提案の書であるが,東日本大震災からの復興論でもある。地域や社会を読み解き,それを通じて復興すべきことの本質を提示した本書には,ともすれば近視眼的になりがちな復興論のなかにあって,一読の価値がある。復興の基盤となる思想を改めて問い直したいと思う読者にとって,本書は多くの示唆を与えてくれる一冊である。

紹介:情報委員 雨宮護

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

ローカリズム原論

-新しい共同体をデザインする

内山節+21世紀社会デザインセンター/農山漁村文化協会/2012年2月

 未曽有の巨大災害となった東日本大震災を,地球環境,社会経済,エネルギー,近代主義の見直し等の歴史的転換点と捉え,その特徴と意味を理解し,復興まちづくりにどう立ち向かうべきか,基本的考え方について検討,共有しようという書である。大震災直後から第一線で奮闘している専門家により,原発災害,仮設市街地,漁村集落や住まいの再生,そして,地域再生のための市民事業,風景,エコロジカル,ネットワーク等の提案が,現状に即した復興へのビジョンとして示されている。編者らが,長年培ってきた地域を主体とした協働のまちづくりという方法論が,被災地の地域の復元力と復興に何よりも必要とされていることにあらためて気づかされる。復興支援に関わる実務家や院生はもとより,被災地に心を寄せる市民にも広くお薦めしたい書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

東日本大震災からの復興まちづくり

佐藤滋 編/大月書店/2011年12月

 都市の拡大成長を前提とした法制度のしくみが,今や人口減少・市街地の縮退の中で多くの歪を生み出し,制度疲労を起こしている。本書は,雑誌「新都市」で約2年にわたり掲載された「都市計画法制90周年記念特別企画」を集大成したものである。旧法から90年,新法から40年の歴史を踏まえ,有識者の論考による制度設計の時代背景,現実の都市計画及び都市形成の検証,種々の問題提起が興味深い。土地利用(地域地区,集団規定,地区計画,開発許可,生産緑地),都市施設(街路事業,公園緑地計画),市街地開発事業(区画整理事業,再開発事業等)などが取り上げられ,巻末の図版・年表とともに,都市計画制度史を俯瞰することができる。都市計画制度の抜本的な方向転換が迫られる中で,傍らに置いておきたい書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

近代都市計画制度90年記念論集

-日本の都市計画を振り返る

(財)都市計画協会/(財)都市計画協会/2011年11月

 文化財は,地域資源として地域の活性化に寄与するなどの期待がある一方で,教育的な価値など,定量的,客観的な評価がしにくく,価値を維持し高めていく施策をとるには,その数字的根拠は曖昧である。本書は,具体的事例を通して,CVM(仮想評価法)による文化財の定量的な分析を試みる。そして同時に文化財と地域の関係性から,公的支援だけでなく,関連する市民グループや事業者など多様な関係者の協働が求められていることを述べている。編著者は「チケットを売り切る劇場」という書籍も編しており,同書籍でも成功事例の分析を通し「文化」の地域における役割を提示している。「文化」は地域において必要なもので,維持していかなくてはならないという編著者の思いを感じる。まちづくりにおける「文化」を考えるうえで参考となる書籍である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画298号 2012年8月25日発行)

文化財の価値を評価する

-景観・観光・まちづくり

垣内恵美子 編著/水曜社/2011年10月

 本書は日本や世界の災害調査をもとに,災害後のすまいの実態が事例とともに深く掘り下げられている。災害に見舞われると人々は何らかの「すまいの移動」を余儀なくされることに着目し,地震活動期の日本で生きる上でのすまい方の再構築を提案している。また,災害からどのように立ち直ってゆくのか,今後の発生が予想される東海・東南海・南海地震へどのように備えるかが語られ,人口減少・少子高齢化社会のもとで,これまでの人口増・経済発展を前提とした災害復興の枠組みを再構成する必要性を訴える。本書は,今後のすまいの考え方の新しい視点として参考になると思われる。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

災害の住宅誌

-人々の移動とすまい

牧紀男/鹿島出版会/2011年6月

 行政が維持管理し,禁止事項に溢れ,誰にも愛されない,そんな公園のあり方が変化しつつある。少子高齢化や財政難などの時代情勢の変化,エコロジー運動やこどもの遊び場づくりなどの市民活動の拡がりにより,様々な主体の協働の下で,管理運営方法を柔軟に考え,人々に獲得された場所が生み出されつつある。「パークマネジメント」とはこの移行を実現する諸行為を管理する技法であり,突き詰めれば地域の環境管理や公共空間のマネジメントへと接続される。本書は,パークマネジメントの概念,歴史,関連制度,機能・方法などを国内外の事例を交えつつ整理・紹介したものであり,より統合的視野を持ちたい方々にとって一読の価値がある。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

パークマネジメント

-地域で活かされる公園づくり

田代順孝 他/学芸出版社/2011年9月

 本書は内務大臣として今日の大都市東京の骨格を形成した帝都復興計画の策定者として有名な後藤新平の生涯について,その生い立ちから台湾総督府,満鉄経営,大連や長春の都市計画,東京市政要綱,帝都復興計画等の数々の偉業と苦悩について,人間関係を交えつつ詳細に記述している。財政難や合意形成の複雑さといった課題から,大規模な都市計画が事業化される場面に遭遇することが少なくなった昨今ではあるが,それらは時代の潮流ではなく歴史的にみても変わらずに直面していた都市計画上の大きな壁であり,都市計画の苦難と重要性を若者に認識させてくれる一冊である。

紹介:情報委員 大門創

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

後藤新平

-大震災と帝都復興

越澤明/筑摩書房/2011年11月

 都市の条件とは何か?この古典的な問いを前に著者は,都市を多様な人生の軌跡,すなわち「ライフスケープ(生き方の景観)」として捉える。成熟の段階に達した巨大都市(首都圏)を対象に,住まいとライフコースの関係の変化について,豊富なデータを基に実証的に明らかにしている。戦後都市住民の標準ライフコースである「中間層」の「家族」が「持家」を取得することに支援を集中する住宅システムの機能不全を指摘し,若者や女性など,多様なライフコースから眺めた都市のあり方,成熟の時代における都市の条件について考察している。都市の本質をめぐる論考であり,広く一読をおすすめしたい。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

都市の条件

-住まい,人生,社会持続

平山洋介/NTT出版/2011年10月

 1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災。建築制限の期限である3月17日までの苦悩や,その後の事業実施と合意形成の苦労の息遣いが聞こえてくる一冊である。2段階都市計画が誕生した背景,まちづくり協議会の進め方,土地区画整理事業を推進するための減歩緩和などの工夫も詳細に記載されている。震災発生から事業の収束まで,現場にて直接復興事業に携わった著者でなければ克明に書くことはできない内容である。東日本大震災の復興が計画策定から事業段階に移行する現在,是非とも一読をお奨めしたい一冊である。なお,この復興土地区画整理事業は,2011年3月28日に換地処分をむかえたばかりであり,運命を感じずにはいられない。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

神戸の震災復興事業

-2段階都市計画とまちづくり提案

中山久憲/学芸出版社/2011年9月

 資格と称号について,これほど真剣かつ詳細に記載されているものは見たことがない。名著である。明治期から建築士の必要性が議論されていたにもかかわらず,昭和25年の建築士法公布まで待たなければならなかった,苦悩と迷いと利害関係が克明に記載されている。さらに,建築士誕生に深く関与していた内藤亮一の生涯が,建築士法成立を軸に書かれている。「大改正をやれば誰かが倒れる」と言われ,内藤自身も大怪我をし,横浜の自宅から指令した事実も収録されおり,建築士誕生前夜の生々しさを感じることができる。読了後,都市計画士という資格はなぜ存在しないのか,都市計画家とは何か?新たな疑問が沸いてしまった。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

建築家と建築士

-法と住宅をめぐる百年

速水清孝/東京大学出版会/2011年8月

 過疎化や高齢化による地域の活力低下が叫ばれるなか,その再生に向けた万能薬は,いまだ見出されているとは言い難い。本書は,そうした地域の再生に向けて,対処療法的な一過性の取組みを講ずるのではなく,地域が足元を見つめなおし,知恵を絞り,地場の資源や人材といった地域の強みを活かして,一歩一歩着実に力をつけていくことが大切であると説く。本書では,地域を取り巻く近年の環境の変化を整理したうえで,事例分析に基づく地域再生の方策,地域再生の実践者のインタビュー,さらに,これからの地域再生に向けたポイントを取りまとめている。地域再生のヒントがちりばめられた本書は,再生に向けた取組みを講ずる際に参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

地域の力が日本を変える

-コミュニティ再生と地域内循環型経済へ

井上健二/学芸出版社/2011年7月

 本書は建築・都市を「地」と「図」に基づく「アーバン・ポシェ」の概念で読み解き,都市居住とアーバニズムの関係を検証しながら,21世紀の都市の向かうベクトルを「余白」という切り口で踏み込む。ボストンの高架高速道路を道路に埋設し「グリーンウェイ」という都市の「余白」を創出した事例などを示しつつ,21世紀の「余白」は20世紀のコモンズに匹敵するという著者の確信がしっかりと伝わってくる。本書のもう一つの魅力は,具体例が多く内容の濃い一冊であることだ。本全体の構成も「余白」のコンセプトを体現しているかのようだ。脚注の図版の充実はすばらしい。ぜひ,お勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

「ポシェ」から「余白」へ

-都市居住とアーバニズムの諸相を追って

小沢明/鹿島出版会/2011年4月

 戦後日本の都市と建築が織り成す都市空間の形成過程と苦悩が手に取るようにわかる。戦災復興,都市不燃化,再開発といった変遷から戦後の都市空間形成の息づかいが伝わって来て,文句なく面白い。それが本書を読み終えた感想である。普段何気なく使っている再開発を,日本におけるその用語の誕生から変容過程をつぶさに調査しており,学際的にも示唆に富んでいる。また計画論のみならず事業論が生々しく語られ,さらに事業推進プロセスが収録されている。再開発を推進させるヒントも隠されているため,再開発の現場で戦っている実務者にも,一読をお薦めしたい。既成市街地の再構築のあり方の重要性を今一度,気づかせてくれる一冊でもある。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

都市の戦後

-雑踏のなかの都市計画と建築

初田香成/東京大学出版会/2011年5月

 本書は,かつて大気汚染と交通渋滞に悩まされていたフランスの地方都市ストラスブールが,環境先進都市として変身を遂げるまでの物語である。筆者は同市に長く生活し,通訳として日本から訪れる専門家たちの調査や行政訪問等の場に数多く立ち会った経験や,歴代市長や行政担当者への直接のインタビューにより聞き出したまちづくり過程の生の声などを踏まえて同市のまちづくりを紹介している。地方の中小都市が「住みやすさ」を追求しながら,「交通権」を保証し,「格差社会化」に対応しようと努力した結果,「環境にやさしいコンパクトシティ」へと変貌を遂げる「物語」としてまとめられ,読めば誰もが同市に行ってみたいと思わせる一冊となっている。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

ストラスブールのまちづくり

-トラムとにぎわいの地方都市

ヴァイソン藤井由実/学芸出版社/2011年9月

 本書は,群集の恐ろしさを物語っている。花火大会,初詣,コンサート,スポーツ大会などのイベント時に発生する特異的な群集,通勤通学のピーク時や事故発生時に集中する群集が引き起こした事故を過去から現在までつぶさに調査し,事故発生原因と事故に至るまでの過程が収録されている。都市空間の中で発生する群集を侮ってはならないことを本書は改めて気づかせてくれる。今回の震災でも駅を中心に多くの人が集中しパニック寸前であった。群集事故を発生させないための広場や通路の設計思想のみならず,誘導などマネジメントのあり方が示されており,施設の計画設計者はもちろんのこと,都市イベントにかかわる担当者にも一読をお薦めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

群集安全工学

岡田光正/鹿島出版会/2011年5月

 本書は,地域固有の利益を示す「地区集合利益」という概念を導入し,当該地域の安全・景観などの居住環境を良好に確保するための法的な枠組み,手続き,効果を論じている。現在の都市計画・建築基準法制度による土地利用・建築規制の根底には「違法なものでなければ建築は自由」という認識がある。著者はその認識を,個人の利益よりも広く,一般の公益よりも狭い概念である「地区集合利益」を法解釈上の理念として提唱することで,理論的に制約できる可能性があるとする。博士論文をもとにした著作であり,書籍名からも,一見読みにくい印象を受ける。しかし,建築協定締結,地区計画策定手続き,建築紛争時の事業者・近隣住民・自治体による調整会などの事例を読みやすくまとめており,住民参加の街づくり手続きを興味深く読むことができる。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

都市環境行政法論

-地区集合利益と法システム

岩橋浩文/法律文化社/2010年12月

 本書は学術書ではなく「読み物」の書籍である。市街地再開発の分野の書籍であるが,専門書には書かれていない,経験談をまとめたものである。著者は再開発プランナーなど,再開発に携わる7名で,現場の合意形成の苦労を紹介している。専門書では「合意形成」と一言で記述されるところを,再開発事業のステップごとに,著者らが体験したケースが複数まとめられており,合意形成に奔走する著者らの苦労が感じ取れる。再開発のステップごとにケースがまとめられているため,各ケースのその後について詳細な記述がなく,再開発事業の顛末が気になってしまうのが残念である。しかしながら,本書は,合意形成の大変さ,再開発事業に必須のコミュニケーションの重要性を伝えるには十分な内容と感じる。気軽に読める本で,特に現場経験がない方に薦めたい。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

まちづくりびと

-再開発合意ものがたり

石原當市 他/日刊建設通信新聞社/2011年5月

 『アメリカ大都市の死と生』による都市論で有名なジェイン・ジェイコブズと,ニューヨーク州の公共事業を仕切る都市行政官ロバート・モーゼスとの1950年代から60年代にかけて,ニューヨークの下町改造をめぐり展開された闘いの物語である。ジェイコブズは当時大学も出ていない一介の主婦。彼女が愛するワシントンスクエアパークの貫通道路計画,グリニッジ・ビレッジの都市再生計画に対し,無秩序な都心近隣地域の多様で複雑な機能が連帯感のあるコミュニティを生みだしていると説き,ジャーナリズムを巻き込む市民活動から撤回に追い込み,先の名著を生み出す。最後の対立,ローワーマンハッタン・エクスプレスウェイ建設問題も市民側の勝利に終わる。二人の闘争の歴史と双方の見方を学ぶことは,今日の成熟都市の将来を計画する上できわめて重要である。

紹介:情報委員 加藤仁美

(都市計画295号 2012年2月25日発行)

ジェイコブズ対モーゼス

-ニューヨーク都市計画をめぐる闘い

アンソニー・フリント 編・渡邉泰彦 訳/鹿島出版会/2011年3 月

 半世紀前の「交通工学」は,自動車がより高速で安全に走れる道路建設およびその運用技術に主眼が置かれていたが,その後,現在に至る過剰な自動車需要への対処や,様々な政策立案や施策実施など幅広い交通処理技術が必要になってきており,その定義や対象範囲も多様化している。本書は,筆者が半世紀にわたる「交通工学」の研究・教育活動や自らが関わったプロジェクトの実践を通じて得た自身の経験をもとに,その概要や理念を様々な事例を交えながら網羅的にまとめ,解説したものである。各章には,筆者の次世代の研究者や交通政策に取組む行政担当者への期待が記されており,筆者の強いメッセージを感じ取ることができる一冊となっている。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

交通工学総論

高田邦道/成山堂/2011年3月

 本書は,都市思想家ジェイン・ジェイコブズによる都市計画論,都市経済論など都市論と総称すべき内容について,著作などを通じて,都市の本質とそのゆくえを考えていくものである。ジェイコブズの主要著作を彼女の足跡と共に「計画論」「経済論」「都市・社会の本質論」から解説した上で,都市論や日本の都市問題,次世代への期待に触れる彼女とのインタビュー部分は,彼女の人柄も垣間見え,特に興味深い。彼女が何を伝えていきたかったのか,都市問題に係る行政関係者や実務者など彼女の実践的な思想に是非触れて頂きたく,お勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 東孝

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

都市の本質とゆくえ

-J.ジェイコブズと考える

宮崎洋司 他/鹿島出版会/2011年5月

 本書では,地域社会に立脚した市民協働の組織により地域資源・需要を顕在化させて進められる自律したまちづくり(ハードな空間と何らかの関係を持つ)事業の総体を「まちづくり市民事業」と呼ぶ。冒頭では,同様な事業の現出した背景,ミッション等を整理して理論的枠組を与えた上で,新しい都市・地域のガバナンスや空間をもたらす「まちづくり市民事業」の可能性が記される。つづいて,豊富な事例紹介を通じてその方法・内容の輪郭が描かれ,その更なる推進に必要な制度の在り方について検討が加えられている。今後のまちづくりの展望を持ちたい,新しい社会システム実現に寄与したいと考えている方々にお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 土井良浩

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

まちづくり市民事業

-新しい公共による地域再生

佐藤滋 編著/学芸出版社/2011年3月

 都市が拡大する時には,都市計画の役割は明確であった。しかし,都市の人口が減るようになれば,都市計画の役割も変わる。我が国の都市計画はこうした転機に立っている。本書は,東京大学まちづくり大学院の講義と演習に関わった7 名により執筆されており,日本の都市計画法制の歴史にはじまり,土地利用計画や都市施設計画,市街地再開発事業や民間都市開発,更には市民参加やまちづくり条例など,さまざまな視点から総合的に,都市計画・まちづくりについて理解を深めることが出来る。これまでの都市計画の流れをつかみとり,さらに現在進行中の論点を把握するのに適しており,これからの都市計画のあり方について,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 西條啓

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

人口減少時代の都市計画

-まちづくりの制度と戦略

大西隆 編著/学芸出版社/2011年3月

 なぜ中心市街地は元気がなくなってしまったのか,再び元気になった中心市街地の成功要因とプロセスは何か,全国事例を基に述べられている。ただし,「成功事例をそのまま適用しようとしてもダメ」と書かれており,まずは自分たちの街を見直し,隠れていた資源を再発見した上で知恵を使うことが必要であるとのメッセージが付されている。また,活性化した街でも観光客のための商店街となってしまい,住民のための商店街ではなくなってしまったなど,活性化の難しさも生々しく語られている。本書のタイトル「活性化のツボ」の通り,活性化の糸口をつかむキーワードが本書の中にちりばめられており,一読を是非ともお奨めしたい。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

中心市街地活性化のツボ

-今,私たちができること

長坂泰之/学芸出版社/2011年4月

 本書は,著者が2009年度に日本建築学会賞を受賞した論文テーマである「住環境マネジメント」の著作である。住環境マネジメントとは,住宅地を対象としたエリアマネジメントのことで,地域が主体となった住環境の開発・維持・向上を目的とする継続的な活動である。既存の都市計画やまちづくりではカバーできない住環境の維持・向上の必要性,そのための手法,組織形態,方式などについて,アメリカのHOA(Homeowners Association)や横浜緑園都市など,国内外の事例を分析し,日本における展望について述べている。本書は,都市計画・まちづくりに関わる実務者・研究者だけでなく,住宅デベロッパーや,良好な住環境を保ちたいと考えている一住民にとっても参考となる書籍である。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

住環境マネジメント

-住宅地の価値をつくる

齊藤広子/学芸出版社/2011年3月

 本書で扱う「コミュニティデザイン」という概念は,コミュニティを促すような広場や住宅配置という物理的空間をデザインするということではなく,人のつながりのデザインのことであり,筆者が建築やランドスケープのデザインに関わる中で解決できない課題や限界に直面したことにより,生みだされたテーマである。「つくらないデザインとの出会い」「つくるのをやめると人が見えてきた」等の章立てに象徴されるように,まず,人と人をつなげること,そして人とまちとの関係づくりの中で,まちの担い手となるコミュニティのしくみや地域の力を育てていった各地での実践的活動が,大変楽しくわかりやすく紹介されている。とくに,まちづくりに関わる学生に,お薦めの書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

コミュニティデザイン

-人がつながるしくみをつくる

山崎亮/学芸出版社/2011年5月

 本書は,イギリスの歴史に関する最新の研究成果に基づき,16世紀から現代に至るイギリス史を通観したものである。16章立ての2部構成で,第1部では時系列的に16世紀以降のイギリス史を追い,第2部では重要なテーマごとに,それぞれの切り口からイギリスの近現代史を論じている。このうち,第2部において,「都市建設のビジョンとシステム」と題して,19世紀以降のイギリスで展開した,ハワードの田園都市をはじめとする都市建設のビジョンと,そうしたビジョンの実現に向けたシステムについて論じている。19世紀以降,国際社会の覇権を握り,日本の近代化にも大きな影響を及ぼしたイギリスにおいて,社会の要請を受けて都市計画がどのように展開していったのかを概観するうえで,参考となる一冊である。

紹介:情報委員 阿部貴弘

(都市計画294号 2011年12月25日発行)

近代イギリスの歴史

-16世紀から現代まで

木畑洋一 他/ミネルヴァ書房/2011年3月

 社会経済の急激な変化や地球規模での環境問題,あるいは少子高齢化の進展やライフスタイルの多様化などを背景として,交通サービスに対するニーズも大きく変化している。一方で,情報通信技術の高度化等により,交通計画や解析のための技術も飛躍的に向上し,多方面で新技術を活用した都市交通計画が求められている。本書では,このような背景の下,交通流動を解析する基本的な方法論から,個別交通ニーズの多様性を踏まえ,都市機能との関係を重視した交通計画に関する新しい考え方や分析技術を論じている。都市交通計画の専門家のみならず,これから研究活動を行う学生にとっても有用な一冊である。

紹介:情報委員 矢部努

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

情報化時代の都市交通計画

飯田恭敬 監修/コロナ社/2010年10月

 平成22年4月に施行された土壌汚染対策法の改正法を受け,「自然由来重金属類」の取り扱いと「リスクコミュニケーション」の方法という2つの大きなテーマに的を絞った実務書である。本書は,土壌汚染問題と自然由来重金属類の基礎的知識を理解するにあたり,詳細かつ体系的にまとめられ非常に分かりやすい。また土壌汚染リスクの問題についてリスクコミュニケーションの必要性を示しながら,その具体的方法と解説を行なっており,実践のためのノウハウがつまった実務担当者にはありがたい一冊である。土壌汚染問題に携わる事業者や実務担当者にとってはもちろんリスクコミュニケーションの方法・実践の参考として,とても参考になりお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

土壌汚染リスクと土地取引

-リスクコミュニケーションの考え方と実務対応

丸茂克美 他/プログレス/2011年1月

 本書は,交通権を提唱し,交通基本法の制定を呼びかけてきた交通権学会が,学会としての基本的な考え方や交通基本法に関わる諸課題を提示するとともに,施策や方向性について提言したものである。新しい人権としての交通権について述べるとともに,公共交通の維持や安全,環境などの,現在日本の交通問題について整理している。さらに,交通の制度改革として,地方分権化の必要性とその課題,会計,財政制度の改革課題,地方自治体の交通計画のあり方などについて論じている。地域交通の問題などに取り組む行政関係者や研究者などにお勧めの一冊である。

紹介:情報委員 土肥徹

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

交通基本法を考える

-人と環境にやさしい交通体系をめざして

交通権学会 編/かもがわ出版/2011年1月

 地道で持続的なまちづくりを進めていく上で,地域ブランドの構築は有効であり,すでに多くの自治体においてその試みが実践されている。本書は,そのような全国の150余の実践例を取り上げ,その経緯や取り組みの特徴などを丁寧に説明している。冒頭でも述べられているように,従来の地域ブランドの概念は論者によって異なり一義的ではなかったのだが,筆者は豊富な事例をもとに,多様な地域ブランドを包括的かつ体系的に整理している。地域ブランドの構築の肝は地道な営為の蓄積であることが再認識されるとともに,本書末尾にある自治体の安易な地名変更に対する筆者の危惧は重く響く。観光まちづくりに関わる方に広くお勧めしたい一冊である。

紹介:情報委員 佐野浩祥

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

地域ブランドと魅力あるまちづくり

-産業振興・地域おこしの新しいかたち

佐々木一成/学芸出版社/2011年2月

 「日野市に対するイメージが180度変わる!」「日野へ行ってみたい!」本書を読み終えた後の感想である。今まで日野市というと,単なる郊外ベッドタウンであり,途中下車することもなく通過都市というイメージであったが,こんなに都市と水とが密接で,奥深いとは。多摩川や浅川といった河川だけでなく,市街地や農地に用水路が縦横無尽に張り巡らされ,都市に個性と潤いを与えていることが伝わってくる。また,日野市民が過去から現在まで水と農とどのように共存してきたかが詳細に述べられている。都市と水と農が融合した理想的な都市像のエッセンスが多数収録されており,郊外の都市生活を豊かにするヒントが隠されている。

紹介:情報委員 大沢昌玄

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

水の郷 日野

-農ある風景の価値とその継承

法政大学エコ地域デザイン研究所 編/鹿島出版会/2010年11月

 本書は,観光振興策を考える上での入門書として執筆されたものである。著者は,県から委嘱された業務で観光振興策を検討することになった際に入門書がないことに気づき,自らの経験などをもとに執筆している。第1部では,著者の関わりが深い九州の事例を中心に成功例を紹介している。第2部では,観光振興を仕掛けるにあたり知っておくべき項目を提示している。第3部では,実践面での各論について論じている。各論では,行政が観光振興を進める際に組成する委員会,審議会,協議会などのあり方について具体的に論じている点などは興味深い。九州の事例やデータに偏っている部分はやや気になるが,観光振興策を検討するにあたってのヒントとなる書籍であろう。

紹介:情報委員 内田圭

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

観光まちおこしに成功する秘訣

-成果を上げるための処方箋

渡辺千賀恵/ぎょうせい/2011年1月

 本書は,八ツ場ダム建設事業中止問題を背景に,行政計画が変更または撤回された場合の事後措置として,地元の地権者等はどのような行政措置や生活保障を求めることができるのか,行政は如何に対応すべきかについて,論じたものである。内容は,国の行政計画の担保責任を基本として,ダム事業のあり方,これを取り巻く立法,住民の生活権等を検討し,ダム建設中止に伴いどのような措置が必要かを示す,という構成となっているが,これに関連する情報として,計画担保責任に関わる判例や行政計画の中止・変更等に伴う措置の事例が,簡潔に紹介されている。東日本大震災以降,エネルギー問題等の方向転換が議論される中,公共事業の計画変更とその後の措置方策に関して,参考となる書である。

紹介:情報委員長 加藤仁美

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

公共事業の中止

-八ツ場ダム・住民の生活再建

田辺愛壹/プログレス/2010年11月

 本書は,タイトルどおり「よくわかる都市計画法」として明快に解説されており,都市計画を学び始める人,都市計画の概要を把握したい人,都市計画の知識を再整理したい人など,それぞれの読み方・使い方に対応できる良著である。本書とあわせて,都市計画法の条文を見返すとその主旨がよく見えてくる。都市計画の考えの基礎知識をしっかり身につけることができる本書は,都市計画を学ぶ人の裾野を広げる一助となると思われる。現在の都市計画法の内容の理解および実務・研究を行なうにあたり,まず初めに本書を手に取ることをお勧めしたい。

紹介:情報委員 冨田剛史

(都市計画292号 2011年8月25日発行)

よくわかる 都市計画法

都市計画法制研究会 編著/ぎょうせい/2010年12月

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