企画調査委員会

名著探訪

都市工学読本:都市を解析する

奥平耕造

彰国社/1976年6月

 都市計画を学ぶとき,頻繁に「……となっている」という言い回しと出合う。既成事実を前提に議論がなされ,初学者には,なぜ,そのようになる必要があったのか,なぜ,そうしないといけないのかという疑問がわいてくる。物理学のように少ない原理から演繹されるのではなく,歴史的経緯や制度など個々の事実の重みが極めて大きい。しかし,それでも,どんな都市でも共通した基本的原理がないものだろうかと考えたくなる。たとえば,都心ほど地価や人口密度が高くなることを,アロンゾモデル等で説明することができるが,では,なぜ都心が発生したのだろうかと小学生的な疑問を持つと,これに対する明快な解答は今日まで書かれていないように思う。いずれにしても,このような「なぜ」が好きな理屈好きな若者にとっては,圧倒的な事実の前にして演繹的議論の活躍の場が少ない都市計画の中でフラストレーションが蓄積する。
 そんな若者たちの前に颯爽と登場したのが,本書「都市工学読本」である。極めて初等的な数理を用いて,都市現象が語られていくのである。いずれも単純化された議論であり,直ぐさま都市計画実務に役立つというのではないが,なにしろ,都市現象のメカニズムが見えてくるように思われ,都市を理解できた喜びを感じたのである。また,この本から「都市解析」という言葉を知り,研究者になった人も多いだろう。
 構成は,都市に現れる「量・形・分布」の第1部と「施設・圏域・配置」を中心にグラフ理論の応用を含む第2部よりなる。各章の内容は基礎的であるが,都市現象の主要な側面がほとんど語られているように思う。この本の出版から四分の一世紀経過して,都市解析の研究分野と比較してみると,成果は精緻になったが,大きな枠組みは,この本のそれと変わっていないことに驚く。
 都市計画にはさまざまなタイプの人が必要であると思う。「なぜ」に疑問を持ちたがる若い世代に,ぜひ,出合って欲しい一冊が「都市工学読本」なのである。

紹介:情報委員会担当理事 青木義次

(都市計画247号 2004年2月25日発行)

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