企画調査委員会

名著探訪

現代都市論

柴田徳衛

東京大学出版会/1967年初版・1979年二版

 本書は通算出版数が三万部を超える名著である。それは,経済学分野に留まらず,都市工学や社会学などの隣接分野で幅広く読まれてきた証でもある。本著が刊行された時代は,わが国の都市問題が最も顕在化した時代である。1965年は首都圏整備法が改定されて近郊地帯(グリーンベルト)構想が破棄され,66年に日本の人口は1億人を超え,68年に都市計画法が公布され,69年に都市再開発法が公布されている。本著の紹介を頼まれたあと柴田先生にお
会いする機会があり,著者として本書を書いた狙いを直接お聞きすることができた。
 「当時,東京大学経済学部で通年開講していた講義録を基に書いた本だが,この時代の経済学部の学生諸君は,ケインズか数理経済的理論,あるいはマルクスの価値形態論等を主に学んでいたが,東京都立大学にいた私は,できるだけ身近な都市問題を広く理論的に整理し,彼らの興味を引こうと考えた。
 そこで,第1章では都市形成史を語った。原始社会から言語と文字・道具を用いて生産力を高め,集住し,四大文明に代表されるように5千年も前から都市を形成し始め,ギリシャ・ローマ時代の土木・建築技術を背景とする水道橋やアッピアン街道などの国土インフラや神殿・広場を核とする都市建設,文学や哲学など学問の基礎を築いた歴史を探った。
 この西欧を中心とする都市形成史に対して日本はどうであったのかが,第2章です。日本の主要都市になっていく中世・近世の城下町をたどり,米国の「都市問題」を紹介した片山潜,大阪市長であった関一など,明治中期から大正デモクラシーに輩出した都市研究家らの都市論を紹介し,しかし昭和の戦争に近づくとともに不幸にもそれらの輝かしい成果も実らなかったことを論んじたのです。
 ここで本書の半分を費やすことになってしまった。第3章では都市計画の主要課題である土地・住宅,都市交通,さらに都市形成の鍵である水問題(上下水道),ゴミ問題(清掃),公害・災害問題などを論じました。
 終章では,世界の都市から見て日本の都市はいかなる特質があるかを論じました。海外に行けば,“日本は大金持ちの国”とよく言われる。ある時期,確かに本四架橋を3本同時にかけたり,1兆5千億円で東京湾横断道路を建設した。しかし都市の中に一歩入ると木造家屋が密集し,また伝統文化が容易に壊されていくのも日本です。本書を書いた頃と社会経済環境は大きく変わったけれども,まだまだ日本の都市の総合的研究が社会に求めてられているのではないかなぁ。」
 柴田先生は,東京都立大学では「都市財政」を講じていたので,それもいれたかったが分量の関係から無理だったよ,とおっしゃっていた。その後,大学から美濃部知事の要請で都政の現場に携われ,東京経済大学教授を経て,前東京都立大学都市研究所客員教授,今日もお元気に著作されている。最近著は「東京の常識は世界の非常識」です。

紹介:東京都立大学教授 中林一樹

(都市計画251号 2004年10月25日発行)

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