企画調査委員会

新刊探訪

日本近現代都市計画の展開:1868-2003

石田頼房

自治体研究社/2004年4月

 石田頼房氏は, 明治政府が成立した後の日本の都市社会が直面した課題と, 課題に対応した政策ならびに都市計画技術について, 事実関係を実証的な方法で明らかにする研究分野での第一人者である。
 また石田頼房氏は, 自らが明らかにした事実関係を基にして, そのひとつひとつについて「施策の意味」, 「都市計画技術を採用した意図と効果の因果関係」を考察して, 学会論文で発表してきた。その膨大な研究業績に対して日本建築学会大賞が2004年4月に贈られたのである。
 表記の本は,長年に亘る氏の研究成果を, 氏の都市計画観の視点で日本近現代都市計画の歴史を通史としてまとめたものである。すなわち, 「都市計画技術を採用した計画主体の意図と結果に関する氏の都市計画観からの評価」によって歴史を書いたものである。
 この本の中で氏がしばしば書いている評価項目を紹介してみると, ①計画主体の空間価値観が, 直面する都市社会の問題を独自の課題に置き換えて, 施策を決定していること, ②施策は, 西欧から導入された都市計画技術が役だっていること, しかし西欧の技術は西欧人が持っている空間価値観から導かれたものであるのに対して, 導入した日本の側に価値観の相違に関する意識が欠けていたのではないか, ③これから日本の都市社会が共有すべき空間価値は, 住民参加と分権された地方自治制度のなかで築き上げなければならないものである④築き上げられた空間価値の実現過程は, sustainableの視点で実行されなくてはならない, 局地的・短期的な視点で前後の見境なく実行されたことが今日の低質な環境を作ってしまったことを銘記すべきである。
 著者の都市計画観にふれるだけでも, この本を読む価値がある。また, 明治以後に行われた殆ど全ての都市計画に関する研究文献を確かめながら読むことのできる都市計画の辞典としての本という側面をもっている。都市計画家にとって必携の本であるといえよう。

紹介:筑波大学名誉教授 川手昭二

(都市計画252号 2004年12月25日発行)

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