企画調査委員会
都市をつくった巨匠たち:シティプランナーの横顔
ぎょうせい/2004年3月
本書は, 日本都市計画史の第一人者越澤明氏の企画で, 多くの研究者がリレー方式で執筆し,雑誌「都・市・み・ら・い」に45号にわたって連載されたシリーズ「シティプランナーの横顔」を, 新谷洋二氏と越澤氏の監修で単行本として刊行したものである。
欧米都市計画の歴史は, 通常は都市計画の教科書の最初の部分に簡潔に紹介されている過ぎない。多くの高名な都市計画家も, その功績は詳細には知られていない。この本は, 欧米と日本の都市計画史上の著名な事績と人物を, 渡辺俊一, 大村謙二郎, 石川幹子, 鈴木隆といったそれぞれの分野の第一人者が詳細に紹介した, わが国では最初の著作といってよい。その内容は幅広く, オスマンのパリ改造, ホープレヒトのベルリン計画, 区画整理の父アディケス, ジッテ。イギリスのボーンビルとポートサンライト, ハワードと田園都市, アンウィン, ハムステッド, オズボーン, アーバークロンビー, ブキャナン。アメリカのランファンとワシントン, オルムステッド, ジョージ・ケスラー, クラレンス・スタイン, バセット, モーゼス。そして, 日本では銀座煉瓦街, 市区改正, 帝都復興, 小宮賢一, 北村徳太郎, 石川栄耀, 田村寿郎等が取り上げられている。オスマンによるパリ改造事業費の半分が超過収用を伴う街路整備費であったこと。アディケスが22年間の長きに渡ってフランクフルト市長を務めたことなど興味深い事実が随所に散見される。中でも, 異彩を放つのは, 井上孝氏の執筆したイギリスの都市計画家に関する数章である。恩師ホルフォードを始めとする人物論は,自らの交渉史が綴られ, その人物の姿が目に浮かぶ追悼文となっている。
アメリカ都市計画史の研究者として一点, 指摘すれば, ニューヨークのロバート・モーゼスは毀誉褒貶相半ばする人物であった。少なくとも参考文献にモーゼスを批判したピュリッツアー賞作家ロバート・カロの著名な大著「パワー・ブローカー」を提示すべきであったと思う。しかし, 評者はこの本を大学院のゼミで読み始め, 快適で贅沢な時間を味わうことが出来た。都市計画の人物論は, 都市計画の諸問題を包括的に俯瞰する視点を与えてくれる。参考文献も紹介され,より進んだ読書のための手かがりも付されている。この本が, 広く, 都市計画の研究者, 院生, 実務家によって読まれ, 若い世代の多くの研究者が, 都市計画史への関心を喚起されることを願っている。
紹介:東海大学教授 秋本福雄
(都市計画253号 2005年2月25日発行)