企画調査委員会
都市の論理
勁草書房/1968年
名著として本書を挙げる主な理由は,自治都市が備えるべき市民社会の条件を歴史的考察と論理的思考で分りやすく説いた点であろう。1968年に刊行されたが,その時代背景に全共闘運動や大都市・巨大都市の時代を迎えて総合計画づくりやコミュニティー研究が盛んであったことが思い起こされる。その時代精神を生き生きと写し出す意味でも名著のジャンルに入るのではないか。
627頁, 46万字余りの本書は, 「第一部・歴史的条件」と「第二部・現代の闘争」の二部構成から成り立っている。第一部の「序説」でコミュニティー概念の乱用を徹底的に批判し, それを都市概念で置き換えるべきことを論証し, 次いでルネッサンス期のドイツやイタリアに出現した「自由都市」を扱う章で, 職人階級が共和制で運営した自治都市こそコミュニティーという名に相応しいと主張する。「自由都市の挫折」や「自由都市の崩壊」と題した章では, 農村を基盤とする絶対王制並びにその官僚制との政治的戦いに敗れて自由都市が挫折してゆく過程が描かれ, エンゲルスやマウレルの都市分析の業績を最大限援用した歴史的考察がなされている。
第二部は,「序・今日の都市問題」「都市の破壊」「中央集権のなかの自治体」「独占資本主義下の自治体」「自治体の復権」「都市連合」と章が続く。いずれでも革新的活字メディアが報ずるデーターや歴史学者としての豊富な知見を縦横に駆使して論を展開し,独占資本と中央政府の官僚主義が一体となって都市自治体の成長・自立を阻んできたこと, とくに, 自治体財政を破壊しつつあることが重大であると訴えている。この論理的帰結として, 「自治体の復権」や「都市連合」の章でシビルミニマムにたつ都市政策への転換や補助金改革, 公団・公社の廃止統合, 労働組合を軸にした都市自治体連合などを提案している。ラディカルに論ずる著者の姿勢から社会主義イデオロギーが過剰なところも感じるが, その社会開発が昨今の地方分権議論や三位一体改革議論とあまりにも共通していることに驚かされる。
本書は精神神経学会(1966年)での著者の特別講演と, その後に続けられた地域保健医療や市民運動に関る有志による研究会の成果である, と武谷三男氏が冒頭で記している。 11年間も重版され, 本書の続編『社会主義をどう考えるか』(技術と人間, 1979年)の出版で一応の区切りがつけられた著者のテーマなのである。
紹介:関西学院大学教授 加藤晃規
(都市計画254号 2005年4月25日発行)