企画調査委員会

新刊探訪

都市保全計画:歴史・文化・自然を活かしたまちづくり

西村幸夫

東京大学出版会/2004年9月

 本書は,著者が長年一貫して進めてきた「都市保全」に関する研究蓄積に基づく大著である。特に都市計画が都市開発や都市基盤整備の技術や方法に主眼が置かれていた時期から,著者は一貫して歴史的都市環境の保全・保存に関する運動論や制度論に関わる文献調査等を継続してきた。その成果の集大成であり,いまでは都市計画の一翼を担うテーマとなっている都市保全計画の教科書としても活用できる構成に仕上げられている。
 第Ⅰ部では,まず「都市保全」および「都市保全計画」の概念整理を行った上で,日本の歴史的環境保全の歴史的変遷と都市保全計画の方法や地方自治体による実践について体系的に論じている。日本における歴史的環境の保全,特に都市部や農村集落における歴史的環境の保全の対象が,政策上の歴史観・価値観の変化とともに拡充し,その観点も単体としての価値から群としての価値へ,物的環境としての価値から地域固有の文化としての価値へと広がり,社会的にその重要性が共有されていく過程が大量な文献資料の読み込みから整理されている。加えて,その過程や具体の計画と方法の確立では,伝統ある地方都市が先導的役割を担ってきたことも明らかとしており,地方のまちづくりの現場を重視する著者独自の視点からも日本の都市保全計画が体系化されている。
 第Ⅱ部では,海外における都市保全計画の系譜と方法が整理されているが,欧米からアジアの先進事例まで幅広く網羅されている。特に,これまで欧米の都市計画がメジャーとして我々の学習対象であり,日本のモデルとして取り上げてこられたが,本書の特筆すべき点として,韓国,中国,台湾における歴史的経緯や法制度,計画体系が分かりやすく整理されている点が上げられる。経済成長著しいアジアの諸都市が,急速な都市開発の潮流の中,独自の歴史的環境の保全に取り組んでいる情報は詳しくは知られておらず,著者のアジア諸地域での豊富な研究蓄積に基づきながら,本書を通じて都市保全計画における日本以外のアジアの都市の先進性を確認することができる。
 これまで運動論や方法論の側面が主として研究され,論じられてきた「都市保全」が,本書では,極めて創造的で建設的な計画論として体系化され,その目的,対象,方法に関して事例を多数参照しながら,分かりやすく解説されている。長年の研究蓄積に基づいた情報リソースとして,また解説書,教科書としても必携の1冊である。

紹介:九州大学大学院助教授 出口敦

(都市計画255号 2005年6月25日発行)

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