企画調査委員会

名著探訪

輝く都市

ル・コルビュジエ 著、坂倉準三 訳

丸善/1956年9月

 本書のタイトルの直訳は「都市計画を考える方法」である。「輝く都市」とは,1930年に開催された第3回の「近代建築国際会議」(CIAM)にル・コルビュジエが発表した理想都市のタイトルであり,同時に,その計画理論を説明するため1935年に出版された大著のタイトルでもある。訳者坂倉準三は,ル・コルビュジエに師事するため1929年にパリに渡り,特に1931年から1936年まではアトリエの一員として「輝く都市」の理論が生み出された現場に身を置いていた建築家であり,本書をその理論の解説書(あるいは1935年の大著の要約決定版)と位置づけ,タイトルを借用したという訳である。「輝く都市(ヴィル・ラデューズ)」の「ラデューズ」という形容詞は,第一義的には「太陽が光り輝く」という意味であるが,第二義的には「幸福に満ちあふれた」という意味もあり,ル・コルビュジエは両方の意味を込めてこの言葉を用いている。寒冷なヨーロッパにおいては,太陽の恩恵は,単に暖房設備や公衆衛生といった経済的あるいは物理的な観点のみならず,心理的あるいは道徳的な観点からも住環境にとって極めて重要な要素であると認識されてきたのである。
 第二次世界大戦の勃発にともないパリを追われたル・コルビュジエは,疎開先で都市計画の理論的研究に没頭し,『人間の家』や『アテネ憲章』などの重要な著作を次々に執筆した。1942年に満を持してパリに戻ると,「近代建築国際会議」のフランス支部として「建築的刷新のための建設者会議」(ASCORAL)を組織し,フランスの戦後復興とその先をも見据えた実践的かつ組織的な研究を開始した。本書はその第1部会「一般理論及び総合」における研究の成果である。つまり,本書は「輝く都市」の単なる概説書ではなく,ル・コルビュジエが培ってきた「都市計画を考える方法」の集大成であり,同時に,後に実現される都市的規模の作品,即ち1947年からのマルセイユなどのユニテ・ダビタシオンの建設,さらには1951年からのインドのチャンディガールの新都市建設へと結びつく新たな段階の第一歩として位置づけることができる。なお,本書は大戦中の1943年に執筆されたものの,出版は大戦後の1946年まで待たなければならなかった。本書の邦訳は1956年に丸善から初版が刊行され,1968年に鹿島出版会からSD選書として再版され増刷を重ねている。ただし,丸善版とSD選書版とでは体裁が大きく異なり,特に丸善版にあった多くのカラー図版はSD選書版ではすべてモノクロ図版となっている。

紹介:大同工業大学 玉置啓二

(都市計画256号 2005年8月25日発行)

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