企画調査委員会

新刊探訪

近代・中国の都市と建築

田中重光

相模書房/2005年4月

 中国は2世紀半ぶりに自信をとりもどし,経済成長と謳歌しようとしている。古い町並みが壊され,新しい超高層ビルが出現している。本書は,こんな時期にタイムリーに出版された中国7都市-広州,黄埔,上海,南京,武漢,重慶,台北の都市の「近代史」である。著者,15年間渾身の研究成果がここにあらわれ,1842年のアヘン戦争から1945年のアジア太平洋戦争終結までの「近代」を中心に,さらに幾分時期的に幅を持たせながら,それぞれの都市の歴史をてぎわよくまとめていく。前書きやあとがきに述べられるように,欧米の「近代都市計画」がいかに中国の「近代」という時期に移入され,それが実施されていったかの苦悩の歴史を描くことが,本書の目的であった。日本のみならず,中国,台湾でも,類書がないわけではないが,本書ほどコンパクトに情報がつまったものはなく,ぜひ,多くの人々にお読みいただければと思う。
 ただ,難点を若干述べておきたい。第一にここに選ばれた7つの都市は,必ずしも,中国「近代」を代表するわけではないことである。中国は広大であり,「近代」に異なった成長を遂げた都市が無数-ウルムチ,ラサ,フフホト,仏山,北京,香港,マカオ,などなど-にある。第二点は,近代,欧米の都市計画等に関する概念,知識が,やや古風で,ステレオタイプかもしれない。マカオはアヘン戦争以前より,都市化が進んでいるし,中国東北,新疆の都市に外国の影響が及ぶのは,1860年以降である。欧米の都市計画について言えば,日本やロシアを経由したものと,イギリス本国からきたもの,アメリカの影響下にあったもの,それぞれ微妙ではあるが,本質的差異がある。そして,最後に,ここ20年に中国,欧米で進んだ中国「近代」都市に関する調査研究がほとんど参照されていない点が,惜しまれる。

紹介:東京大学助教授 村松伸

(都市計画257号 2005年10月25日発行)

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