企画調査委員会

名著探訪

日本公園緑地発達史・欧米公園緑地発達史

佐藤昌

(株)都市計画研究所/1977年・1968年

 両書の著者である佐藤昌氏は,昭和の初めから平成13年100歳を目の前にして亡くなられるまで,常に造園界の最先端を歩かれた方であり,その残された多くの著作の中でも,ここで紹介する「日本公園緑地発達史」と「欧米公園緑地発達史」は,氏の博覧強記ぶりを遺憾なく発揮した大作であり,幅広い公園緑地分野の発達の歴史を明快なタッチで詳述した名著である。
 「日本公園緑地発達史」は,昭和52年に,前年に取得した博士論文をベースとして書き下ろされた上下2巻からなる大著である。上巻では,第I篇で公園の成立を江戸時代の園地造成と開放の歴史,レクリエーションの実態から説き起こし,諸外国の影響を受けながら制定された明治6年の太政官布達,これに基づく公園の経営的管理の実態から更に都市計画法制定による初期の公園計画までを論述している。第II篇では,初期の公園概念から昭和の初めの公園概念の確定までに展開された多くの公園理論を紹介し,第III篇では緑地概念の発生と展開を,地方計画理論の導入から緑地概念が次第に醸造され,東京緑地計画へと実を結び,その一部が戦時中の極めて厳しい社会情勢の中で防空緑地,防空空地計画へと展開していった過程を明らかにしている。第IV篇では終戦直後から都市公園法制定までの公園の実態を,第V篇では風致地区から始まる地域制緑地の発展を,第VI篇では公園緑地事業の進展を述べている。下巻では,第VII篇で公園緑地計画の進歩を豊富な資料を駆使して詳述しており,本論文の中核的部分を構成している。最終篇の第VIII篇では,公園の設計とその発展を豊富な事例図面を用いて紹介している。この著作により著者は昭和57年に日本農学賞および読売農学賞を受賞しており,これを以ってしても如何に優れた著作であるかが分かるであろう。
 「欧米公園緑地発達史」は,前著作に先立って昭和43年に発刊されたものである。著者は戦時中における満州での理想的な公園計画の実践,戦後の都市計画法の制定等を通じ常に諸外国の情報を収集し,その結果をイギリス及びアメリカの公園発達史を中心に,欧米諸国の歴史を取りまとめている。コモンからプレジャーパーク,レクリエーション・エリアまで公園を幅広く捉え,関与した人々,組織の変遷,法制度の発展等を多くの設計図,写真と共に詳述した類まれな歴史書である。
 以上の論述は何れも原典に照らして詳述されており,その資料性は高く,公園を専門とするものは勿論のこと,都市計画を専門とする人々にとっても座右において研究を進める際の第一歩として先ず目を通すべき必読の書といえるであろう。

紹介:東京農業大学名誉教授 平野侃三

(都市計画258号 2005年12月25日発行)

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