企画調査委員会
東京50km圏の将来像:総合都市交通体系調査より
本報告書は, 東京都市圏で実施されたパーソントリップ調査の実査データにもとづいた集計・解析, 将来交通予測および道路およびマストラの総合都市交通体系の計画策定に関する報告書である。
パーソントリップ調査は総合都市交通体系立案をめざした新たな都市交通調査手法として, それまでの自動車OD調査に代わるものとして開発された。その始まりは, 昭和42年の広島都市圏パーソントリップ調査である。広島における経験と成果を踏まえ翌43年に東京都市圏を舞台にして世界有数の規模で、 かつ大規模な予算をもって実査が実施された。 昭和44年には新全総にもとづき全国レベルの総合交通体系議論が起こるが, 広島・東京都市圏においては全国交通体系に先駆けて総合都市交通手法の確立に取り組んだわけである。
実査は, その後, 10年ごとに行われ, 新しいデータに基づく計画策定が行われている。また、他の大都市圏においても順次実施され報告書として取りまとめられている。
第1回の上記調査報告書は, 昭和43年の実査にはじまり, 44年の集計・解析, 45年の将来交通予測, 46年の計画策定までの4年間の成果をまとめたものである。この時期は, 本格的パーソントリップ調査としては初めてのものであり,また, 首都東京都市圏での調査ということもあって,各関係方面から大きな関心が寄せられた。 国, 自治体, 大学, 民間コンサルタントの総力を結集した態勢で、 多くの人材の参画と熱い議論のもとに進められた。
道路系だけでなく, 徒歩から鉄道系までを対象とした総合的調査・計画手法であるという点とともに, 土地利用計画と都市交通計画を一体として扱う手法であることに大きな意義を見ることが出来る。これにより, 都市圏拡大期における, 都市計画立案の科学的手法を確立したといえよう。本報告書は, 4年間の成果を1冊に纏めたものであり,これで全容は把握できるが, 毎年出された, 年次レポートを見ると, 調査・計画手法の開発・実施に取り組んだ当時の苦労の跡を見ることができる。
第2回の特色は, 第1回目では必ずしも十分に消化しきれなかった計画立案に関して, 新たな取り組みが行われている。例えば, 土地利用計画(ゾーン別フレーム配分)の前段として東京都市圏の都市構造に関する将来展望に第1回以上に力を入れ、 多くの議論を展開し提案を行っている。 また, 交通計画面では, 地区交通計画について第1回での成果のうえにエリアの拡大と計画手法の展開に取り組んでいる。
いずれにせよ, 上記の報告書は総合都市交通体系計画手法という新しい時代を切り開いた記念すべきものといえる。
紹介:JFEスチール (株) 特別顧問/早稲田大学理工学研究センター客員教授 小澤一郎
(都市計画263号 2006年10月25日発行)