企画調査委員会

名著探訪

英国都市計画の先駆者たち

ゴードン・E・チェリー 編、大久保昌一 訳

学芸出版社/1983年

 都市農村政策には,住民ニーズの的確な把握とその具現化及び時代の潮流への適合が欠かせない。都市化プロセスの変化と都市政策の転換を,英国のケースで見ると,「都市化と郊外化のプロセス」では,工業開発法('45) やニュータウン法('46) などの郊外型都市地域政策が展開され,中心市街地の空洞化をともなう「逆都市化の時代」('70年代中ごろ)になると,郊外型からインナーシティ型へと政策転換が図られ,国民に信を問う白書 「インナーシティ政策」 ('77) が公表され,「インナーシティ再生法」を制定し,ニュータウン政策を廃止した。これにより,戦後一貫して進められた郊外拡大化政策は停止され,インナーシティへの傾斜投資を行うコンパクト型都市政策へと転換した。
 このような都市政策の大転換期にあたる1981年,ゴードン・チェリー教授は,‘英国都市計画の8人の先駆者 (8人の侍) たちの生きかたをベースとした都市農村計画の一般的な歴史”という新たな視点に立ちながら,都市農村計画の思想,方法および言語がどのような背景で全世界に伝播していったのかの道筋を伝記的にまとめ, 血の通った近代都市農村計画史の概要をまとめた。 ハワードの田園都市協会を源流とした,20世紀英国の都市農村計画にユニークな貢献をなした8人についての伝記的論文を収録してある。トーマス・アダムス,パトリック・ゲデス,レイモンド・アンウィン,パトリック・アーバンクロンビー,ジョージ・ペプラー,トーマス・シャープ,フレデリック・オズボーン,そしてコーリン・ブキャナンの生涯についての注意深い記述と業績の評価である。8人の先駆者たちの生きかた, 発言そして行動を改めて透かし眺めてみると歴史的エポックの特別な意味を掴みとることが出来る。
 しかし,現時点でのわが国の国土計画,各市町村の都市農村計画の政策転換は余りにも遅すぎる。開発行政の指針となってきた全総計画を廃止し,開発から保全指向へとようやく国土政策の転換を決定し,新国土形成法が定められた。しかし現実には都道府県や市町村レベルでは,未だに拡大型のアンシャンレジームを払拭できず,生態系を破壊しかつ財政赤字を積み重ねるという愚行が後を絶っていない。政治が時代の潮流を読めずに (読まずに),都市農村政策を誤ると,国民・市民へのツケは重い。
 このような今日,改めて都市農村計画や都市デザインに携わる私たちの生きかたを問い直してくれる本書である。

紹介:北海道大学大学院教授 小林英嗣

(都市計画266号 2007年4月25日発行)

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