企画調査委員会
未来の交通
本書は,SD選書シリーズの一冊として刊行されたもので,原著は1968年に発刊されている。SD選書は中身の濃い内容で価格も手頃であったので,当時の学生にとってはとても重宝な書籍であった。
本書は,’60年代後半のアメリカが直面していた都市と交通問題をベースに,鉄道,軌道,自動車,バスといった地上走行に限らず,トンネル・チューブ方式,船舶,航空機に至るまでのあらゆる交通機関について,当時の課題と研究開発状況を整理し,未来の開発方向と可能性について論じていて,胸をワクワクさせながら読んだ記憶がある。
本書の本書の特徴は,実現の可能性を持った未来の物語であるという点であろう。プロローグで100年後の夢を語ることから始まり,未来の交通システムへの興味を持たせるとともに当時の課題を浮き彫りにして読者の意識を引きつけておいて,個々の交通機関の記述へと続く。その主な内容を挙げると,鉄軌道輸送では,まず,鉄軌道の利点を挙げ,その技術開発状況から自動運転方式の可能性や高速化への現状と課題を述べ,空気浮上式やリニアモータ方式の超高速輸送の開発状況と実用化の可能性へと進めている。次いで,新たな輸送方式としてトンネル・チューブを利用する利点と技術的課題などにも言及している。道路交通では,自動化ハイウェー,地下ハイウェーの考え方と可能性を論じており,それは今日研究開発されているITSにも通じるものである。都市内道路交通については,大気汚染問題から電気自動車の展開と技術的課題を述べるとともに,今日の「ハイブリット自動車」を「合の子自動車」として紹介しているし,新たな動力源としての燃料電池の見通しも述べている。また,交通混雑への解決策として空中を飛ぶ新しい手段,高速の動く歩道や短距離交通までも紹介している。地上交通の最後には道路交通と鉄道との連携を提案しており,具体例として進行しながらの乗り換えの仕組みや現在我々がDMVと呼んでいる機関をレールバス方式として紹介しているし,電気自動車とレールとの組合せなど幾つかの仕組みとその見通しを述べている。船舶では水中翼船やホバークラフトといった海上輸送の利活用の可能性に加えて,水中を行く貨客用潜水艦の利活用の提案と研究開発状況にも言及している。航空機では,ヘリコプター・VTOLの利活用と技術開発状況,ジャンボジェットの可能性,超音速機の可能性と課題について述べている。そして,最後にこれらを体系的な交通システムとして統合してこそ未来があると提言している。
本書が出版されて40年近くになる。本書に記述されている未来の中には,より進歩したもの,現実になったもの,未だ研究段階のものなど幾つか見られるが,当時交通に興味を持った私にとって,未来への期待を持つことの意味を考えさせられた書である。
紹介:名古屋産業大学大学院教授 伊豆原浩二
(都市計画271号 2008年2月25日発行)