企画調査委員会

名著探訪

Urban Utopias in the Twentieth Century:Ebenezer Howard, Frank Lloyd Wright, and Le Corbusier.

Robert Fishman

1977年

 この本のところどころには,読み継ぎの場所を示す日付が書き込んである。それによると1987年の6月8日に購入し,8月に読み終えたようだ。思い返すとこの年はアメリカとイギリスに滞在していた。この本に登場するライトが活躍したシカゴ周辺,ハワードが手がけたレッチワース,コルビジェが模型を作って改造を提案したパリを訪れながら読んだことになる。
 タイトルが示すとおり,著者はハワードとライトとコルビジェが計画した都市を20世紀の理想を追求した代表像ととらえた。なぜこの3人を取り上げたのかといえば,彼らが,ともに19世紀末に形成されていった大都市を嫌い,理想都市を対置させたばかりでなく,20世紀に普遍性を獲得した自然との融合,都市の効率性,人間の尊厳などのテーマを掲げ,さらに組合方式,鉄筋コンクリート,最新の交通手段など都市に関わる先端技術やシステムを活用してそれらを具体的に計画することによって実現性あるものとしたからである。しかも,ハワードは2つの田園都市を実際に作り,ライトはアメリカの郊外に広大な住宅都市を展開させ,コルビジェは世界の都心に高層ビル群からなる中心地を形成させたという意味で,その理想は,単に計画されたにとどまらず,自らの手,または多くの人々の手によって実現されたという共通点を持っている。
 3人はまた,それぞれの思想の発展に伴って実務家から転じて都市計画を手掛けるにいたったという共通性を持つ。ハワードは発明に才があったが,社会運動家という立場からニュータウン建設に入り込んだ。ライトとコルビジェは建築家として著名であるが,それぞれ挫折を味わって理想都市を提案し,多くの都市に影響を与えた。もっとも,ジェーン・ジェイコブスのように,この3人の都市計画を否定することによって現代都市の再生を展望する視点も存在する。ジェイコブスは,アメリカのアーバン・リニューアルを批判する中で,コルビジェ的な高層ビル群からなるまちづくりを否定したとともに,ハワードやライトの郊外ニュータウン志向も人々の社会的関係を希薄にするまちづくりとして批判した。確かに,3人の理想都市に,市井の生活に目を向ける泥臭さは希薄であるが,彼らの理想都市論が未来の生活を取り込む器の提示であったとすれば,ジェイコブスの議論とはそもそも位相が異なっていたことになる。
 著者のフィッシュマンとは面識はないが,HPによればラトガーズ大学に長く勤務した後,現在はミシガン大学に移っている。この本は,彼がハーバード大学で1974年に学位をとった際の研究をベースにして書かれたもののようだ。

紹介:東京大学大学院教授 大西隆

(都市計画274号 2008年8月28日発行)

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