企画調査委員会
GREATER LONDON PLAN 1944
1945年
パトリックアーバークロンビー(1879-1957)が著した『グレーター・ロンドン・プラン』ほど,明快なイメージを伴い,日本の都市計画に影響を与えた著作は,ないであろう。ロンドンの戦災復興計画として,広域圏の成長管理の道筋を示した『四つのリング』は,日本においては,現在なお,線引き制度に継承されている。
手元にある黄ばんだ原本は,ロンドンの古本屋で購入したものだが,理念・人口動態・コミュニティ・交通・緑地等の計画内容が大型図面で示されており,巻末には詳細なマスタープランが,カラー印刷で精緻に提案されている。この本は,前年に出版された『ロンドン・カウンティ・プラン』と双璧をなすものであり,戦時下という非常事態に,パトリック・ゲデスに起因する方法論に基づく調査を踏まえ,都市計画の王道ともいえる論が展開されていることに,大学院生であった私は大きな衝撃を受けた。
都市と田園の共生,拡大する都市の成長管理は,20世紀都市計画の重要な課題であり,前者として登場したのが田園都市論,後者として展開されたのがパークシステムであり,これらが合流し成立したのが広域計画であった。この潮流については,彼が1933年に著した『TOWN & COUNTRY PLANNING』で示唆しており,この計画に至る道筋を知るには必須の書となっている。
本書は,1940年のバーロウ委員会の提言を踏まえ,ロンドンの人口の分散と工業の再配置を進め,秩序ある大都市圏の形成を目指したものであった。第一のInner Urban Ringは工場を移転し,人口を減少させる地域,第二のSuburban Ringは,新たな変化を生じさせない地域,第三はGreen Belt Ring,第四がOuter Country Ringであり,古くからの特性を損なうことなく,ニュータウンを建設する地域とされた。世界の都市計画に影響を与えたグリーンベルトの考え方は,突然,登場した概念ではなく,ハワード,プールダムに始まり,アンウィンのグリーンガードル計画を下敷きにしたものであった。これらの計画は1938年のグリーンベルト法により,営造物緑地として実現しており,彼が,アンウィンの計画を高く評価していることも読み取ることができた。提案時点で,ロンドンの外周には1万4175haの緑地が確保されており,机上の空論ではなかったのである。グリーンベルト政策は,後退したとはいえ,なお,健在である。
彼は,本書の冒頭に,こう記している。
“All things are ready if our minds be so.”
志があれば,すべての道は,整えられている。
紹介:東京大学大学院教授 石川幹子
(都市計画275号 2008年10月25日発行)