企画調査委員会

名著探訪

「都市の文化」
:The Culture of Cities 1938

ルイス・マンフォード(Lewis Munford) 著
生田勉・森田茂介 訳(1955)、生田勉 訳(新訳)(1974)

丸善出版/1955年、鹿島出版会/1974年

 Lewis Munford のThe Culture of Cities は上記のように2度翻訳されている。学生時代に読んだものは2冊本として丸善から出版されたもので,かなり難解な訳となっていた記憶がある。新訳は,といっても1974年の訳書であるが,だいぶ読みやすくなっていて9版を重ね,現在でも大きな書店の棚に並んでいる。
 今回,ルイス・マンフォードの「都市の文化」を学会誌の名著紹介で取り上げた理由はいくつかある。
 第1には,九州大学工学部国際学術交流フォーラム「持続可能な都市のための地域デザイン」が2008年10月に開催されたが,それに引き続いて同じテーマでアフターイベントが11月21日に開かれた。そこに私が講師として呼ばれ,上記のメインテーマをもとに「都市計画はどう変わるか」を講演したが,講演にあたって30年ぶりにルイス・マンフォード著「都市の文化」を通読し,改めてその視野の広さと透徹した時代認識に感心したことである。
 第2には,この一連のイベントを中心的に担われた秋本福雄九州大学教授の意図にあり,近年の都市計画の中心的な話題となっている「持続可能性」の視点が,ルイス・マンフォードの「都市の文化」の中に色濃く盛り込まれているからである。都市化の急激な動向の中で,巨大都市の限界と生命をもととした有機的秩序の自律性に期待を寄せる考え方が明確にうたわれている。
 第3には,ルイス・マンフォードの「都市の文化」が1938年に執筆されたことから,20世紀初頭に誕生し,一定の確立をみた近代都市計画のあり方に深い関心を持って書かれていることである。特に19世紀末から20世紀初頭にかけて,都市が大きく構造転換したことを,目の当たりにしつつ執筆された書であるということである。近代都市計画のもつ近代化,大規模化のシステムに抗するコミュニテイの重要さを熱烈に説いていることである。
 第4には,近代都市計画が当時の国民国家体制の確立に伴う首都の拡大に対応するものとして誕生したこと,さらにその首都が世界都市化することを必然とするシステムに,マンフォードは強い関心を示していることである。現在の国民国家の枠を超えた市場経済の成立に伴う世界都市化に匹敵する動きが当時あり,そのような状況に抗するには地域主義が重要であることを説き,今日のグローバル化とローカル化の対比をすでに認識しているからである。

紹介:東京都市大学教授/横浜国立大学大学院特任教授 小林重敬

(都市計画278号 2009年4月25日発行)

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