企画調査委員会

類書探訪

第三世代の学問:『地球学』の提唱

竹内均・上山春平 著

中央公論社中公新/1977年

 都市計画の恩師の大塚全一先生は,研究者を「者」がつく職業になぞらえて,易者,医者,学者,役者,芸者に分けていた。そして,「計画をするなら『易者を目指せ』」との指南であった。物流の恩師の中西睦先生からは「理工学部出身なら数字は扱えるだろう。しかし都市も物流も,人々や社会とともにある。だからこそ,『縦書きの考え方を身につけろ』」と言われた。
 どちらも禅問答のようで思い悩んでいたとき,「この本は,是非読むべきですよ」と後輩に薦められた本が,「第三世代の学問」という新書だった。
 第一世代の学問が「自然を調べ,記述し,分類する(博物学)」,第二世代が「分類の結果を分析し演繹する(分析学)」,第三世代は「これらを総合化するもの(仮説法)」とのこと。データを集めたり分析するだけでは,総合的な視点を欠き,大きな潮流の変化も把握もできず,結局は新しい発見や本質的な解決にも結びつかないという趣旨である。
 仮説法については,ウェゲナーが唱えた大陸移動説を題材に展開している。ウェゲナーは植物分布や地形地質を調べ,「大陸移動説」を唱えるが,当時は「どのようなメカニズムで移動するのか」が証明できなかったために,否定されたままだった。しかしその後の技術の発達により,死後何十年かたって認められる。
 ここでは,「第一世代と第二世代の学問を通過していないと,第三世代と言っても与太話になってしまう」「根本は直感」「アリストテレスがすでに仮説法を言い当てている」などの言葉をちりばめながら,物理や哲学から生態学まで幅広く地球学を対談している。第三世代の学問として,仮説を立てて問題の枠組みを総合的に捉えることが重要との指摘は,30年たった今でも決して色あせることはない。
 この本を読んで以来,論理に裏打ちされた仮説を組み立てることこそが「易者に近づく道」,直感をさまざまな論理で総合化することこそが「縦書き思考に近づく道」と考えてきた。このことは,とりわけ専門である物流研究で役にたった。ただし,筆者にとって,道なかばであることに変わりはない。
 まだ見ぬ将来の都市生活を思い浮かべ,これを組み入れながら都市を計画する人にこそ,ぜひとも読んで欲しい本である。

紹介:東京海洋大学理事・副学長 苦瀬博仁

(都市計画279号 2009年6月25日発行)

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