企画調査委員会

新刊探訪

都市計画家石川栄耀:都市探究の軌跡

中島直人・西成典久・初田香成・佐野浩祥・津々見崇

鹿島出版会/2009年3月

 石川栄耀といえば,旧都市計画法により設置された都市計画地方委員会に内務省技師として採用され,名古屋では土地区画整理事業,東京では戦災復興計画を実践したことで,「旧都市計画法で最も功績があり,かつ最も典型的な旧法下の都市計画官」と評された都市計画家である。
 しかし,名古屋時代には,「『都市計画』と云う華々しい名前を有しながら自分達の仕事がどうも此の現実の『都市』とドコかで縁が切れている様な気がしてならない」と,あるべき都市計画の姿と現実の都市計画技師としての仕事の間の大きな溝に悩みはじめ,晩年には「都市計画は『計画者が都市に創意を加えるべきものではなくして』それは都市に内在する『自然』に従い,その『自然』が矛盾なく流れ得るよう,手を貸す仕事である」と,生態都市計画という発想に達したという。
 本著は,この石川栄耀について,単なる人物史研究としてではなく,「都市とはなにか」を強い信念を持って追究した技師として,つまり理念と技術を総合的に扱った都市計画家の一人として,その活動と思考の履歴,都市探究の軌跡,思想と生涯の全貌,を以下の構成で詳細にたどったものである。
 第1章:都市計画愛知地方委員会時代,都市計画技師としての本務であった土地区画整理事業に関する石川の思想と実践,第2章:石川独自の盛り場商店街での都市美運動の展開,第3章:東京に転任後の都市計画地方委員会技師としての計画設計の実務,外地(朝鮮,満州,上海)での活動,第4章:「都市動態の研究」から「都市計画及国土計画」に至る都市計画の基盤理論の探究の軌跡,第5章:生活圏構想と地方計画・国土計画論(生活重視の国土計画論),都市計画実務の集大成としての戦災復興の理念と実践,盛り場商店街の都市計画の実践,広場設計,第6章:東京都退職後,生態都市計画の発想,市民都市計画の実践,次世代への継承。
 石川は,「法定都市計画ではいい都市はできない」といい,生産第一主義でなく生活に軸を置いた都市計画,人間の郷土としての都市,人生の幸福の基礎的な部分としての都市のありようを問い続けた。また,日本都市計画学会誌の創刊号には,「都市計画未だ成らず」という論考で,都市に対する科学の樹立と都市に対する社会感情の感得によって生み出される「都市学」の必要性を説いている。
 これら一連の軌跡は,まさに,今日人口縮小・成熟社会を迎えた中で,近代都市計画制度の功罪,矛盾や限界を感じながら,日々まちづくりの現場で活動を重ねる市民や行政,専門家に勇気と誇りを与え,また,これからの都市や地域のあり様とともに,新たな都市計画の再構築・構造転換を考える大きな手掛かりになるものと確信する。

紹介:東海大学教授 加藤仁美

(都市計画283号 2010年2月25日発行)

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