企画調査委員会

名著探訪

TAKING PART
:集団による創造性の開発

ローレンス・ハルプリン+ジム・バーンズ 著
杉尾伸太郎+杉尾邦江 訳

牧野出版/1989年

 「人の資源」を生かす
 集団的創造の方法論を展開する本書は「多様性」がキービジョンである21世紀において,政治,経済,環境,都市などのあらゆる分野における問題解決のためのバイブルとなる可能性を持っている。人それぞれの有する能力を資源として認め,集団で,より次元の高い「創造力」を発揮するための理論と実践手法は,今こそ希求されている。
 著者のローレンス・ハルプリンは20世紀を代表する,ランドスケープアーキテクトであり,アーバンデザイナーである。昨年秋,最後まで現役のエネルギッシュな人生に幕を下ろした。それはある一つの時代の終わりを告げていた。L.ハルプリンの残した業績は計り知れない。時代を先駆けた自然と共生するコミュニティー(The Sea Ranch)から都市の創造的な装置まで幅広い。彼の率いるプロジェクトでは常に,まったく新しい創造が求められた。L.ハルプリン事務所は常に張りつめた空気と新しいことへの挑戦で活気に溢れていた。それは,一人一人に才能を発揮するチャンスが与えられる,常に一流の仕事をこなすデザイン事務所の理想の姿であった。
 本書はその方法論をわかりやすく,自然体で書かれた, 「TAKING PART」(MIT PRESS, 1974)の翻訳である。この本自体がテイクパート・プロセスで作られている。最初に各自の動機のスコアに基づく紹介から始まる。L.ハルプリン,ジャーナリストのジム・バーンズ,精神科医のポール・バーム,そして舞踏家のアナ・ハルプリン夫人。4人の異なった専門分野の才が集団的創造の手法としてのワークショップを成功させるに至るプロセスを知ることになる。
 第2章ではテイクパートの手法であるRSVPの説明。R(資源)S(スコア)V(評価活動)P(パーフォーマンス)の明確に定義された要素とそれぞれの関係性の理論的展開が具体例を示しながら解説され,その後に続く各章ではその具体的な展開へとつながる。最終章ではハンドブックとして,実践に役立つマニュアルになるように構成されている。どこから読んでも自由という。
 社会的に話題となった,当時画期的なシー・ランチでの1968年のワークショップ「環境における実験」が原点となり,以来,ワークショップは瞬く間に世界へ敷衍していった。1978年にUC Berkeleyの特別カリキュラムでのWSに当時大学院生で参画したことは,筆者にとっては「目から鱗」の体験であった。「人と自然の共生」の意味と「集団的創造の神髄」にふれて以来,ランドスケープの世界に一生を捧げることになった。
 読者がそれぞれの分野でこの手法の真の伝道者となられることを願ってやまない。

紹介:長岡造形大学長 上山良子

(都市計画284号 2010年4月25日発行)

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