企画調査委員会

名著探訪

都市計画法の要点 日本の都市計画法

大塩洋一郎             大塩洋一郎

住宅新報社/1975年          ぎょうせい/1981年

 大塩洋一郎氏は,1968年の都市計画法改正当時,建設省都市局都市計画課長として法案作成を担当した方である。『増補・都市計画法の要点』はいわゆる解説本だが,市街化調整区域のスプロール問題の研究に着手した大学院生の頃に読んで,立法の原点を記録しておきたいという著者の意気込みを感じた名著である。
 1968年法の特徴のひとつは区域区分制度と開発許可制度の導入である。同書には都市地域を①既成市街地,②一定期間内に計画的な開発を義務づけるべき市街化地域,③段階的な市街化を図るために当分の間市街化を抑制すべき市街化調整地域,④保存地域に四区分し,区域区分を担保するように開発許可制度を運用する方針を示した宅地審議会第六次答申(1967年)との相違を踏まえつつ,政策意図が解説されている。『日本の都市計画法』によると農業行政や法制局との調整の過程で二区分になり,調整区域は市街化を抑制すべき区域とされたが,法案の段階では,調整区域は将来市街化できる③と保全すべき④を含むため,「整備,開発及び保全の方針」の中で構想を示し,構想に照らして開発許可制度を柔軟に運用することも考えられたようである。市街化を抑制すべき調整区域は,1992年の調整区域地区計画,2000年の都市計画法改正で生まれた法34条11号12号によって,開発許可基準に適合すればどこでも立地が容認される区域から,範囲と用途を限定して立地を許容する区域に性格が変わりつつある。近年は上に述べた法案段階運用が可能になっているとみることもできる。
 ところで,平成の市町村合併を契機に,都市計画マスタープランを見直す市町村が少なくない。筆者もいくつかの都市マス見直しに参画し,「集約型都市構造」をめざして,合併前の旧町村部に集約拠点を配置し,調整区域地区計画によって担保する案も検討し,調整区域を市街化抑制区域と考える原則に忠実な県の同意指針があり,調整区域とならざるを得ない旧町村部で用途複合の拠点を計画化することの難しさを痛感した経験がある。しかし,人口減少時代において地域活力を維持するために「集約型都市構造」を実現しようとすれば,宅地審議会第六次答申のように細区分し,調整区域の性格を変えない範囲で柔軟に制度運用する方法を模索する必要があろう。両書は,改めて立法の原点に戻って,このように考える材料を提供してくれる名著といえよう。

紹介:三重大学大学院教授 浦山益郎

(都市計画285号 2010年6月25日発行)

一覧へ戻る