企画調査委員会

名著探訪

土地区画整理の歴史と法制

小栗忠七

巖松堂書店/1935年10月

 土地区画整理事業はわが国都市計画の中心的事業手法であるが,この事業の成り立ちを詳しく解説した書物はそれほど多くない。その中でも,この本はまさに「原典」とも言うべき書である。
 発行は1935年(昭和10年)であるので,当然のことながら,今,書店に行っても買うことはできない。古本市場で時折出回っているのを見かけるが,おそらく目を通された方はそれほど多くはないものと思われる。私も学生時代はおろか実務に携わっていたころでも目にしていなかった。名前すら聞いたこともなかったといってよい。自ら土地区画整理事業に関連する論文を書くにあたって,初めて建設省のロッカーの中にあったこの本に出会い,その後,何とか古書店から購入した。
 今の方には殆ど読まれていないと思うので,簡単に内容を紹介すると,先ず,著者の小栗忠七氏は内務省都市計画課で法規に関わっておられた方である。その関係から本書の序は池田宏氏,飯沼一省氏,松村光麿氏(当時の内務大臣官房都市計画課長)から寄せられている。
 著者の前書きによれば「余は近世城下町時代の町割制より研究の歩みを進め,殊に土地整理の法制の発生より今日の変遷の所以を探求して現行法制の精神を把握せんと試みた。」とある。事実,本書は「近世都市の構成と新市街の弊害」から始まり,「在来の土地整理方法」,「耕地整理と土地区画整理の発達史」を経て「土地区画整理制度」,「土地区画整理行政」へと進んでいる。中でも,最初の耕地整理法からの変化,発達史のところは詳細な記述・記録に満ちている。地租条例,土地改良に係る法律,耕地整理法から1919年都市計画法の土地区画整理事業制度までの沿革が明解に示されている。
 土地区画整理事業そのものは関東大震災後の震災復興や第2次世界大戦後の戦災復興で大きく発展しているので,そのときの復興誌や記念誌でその時々の概要を把握することができるが,この本はその前の状況を説明する極めて貴重な出版物といえる。最後の章に掲載されている実際の事例を示す地図や写真も興味を引く。
 若い皆さんには,都市計画の理論と実践の記録を諸外国に求める前に,是非,先ずはこの本を手にされて,我が国まちづくりの重みを実感していただくのがよろしいのではないだろうか。

紹介:日本大学教授 岸井隆幸

(都市計画287号 2010年10月25日発行)

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