企画調査委員会

名著探訪

町のなりたち<日本民衆史5>

宮本常一

未来社/1968年

 学生時代に都市や町のことをその成り立ちから深く捉える必要性を感じ,先輩の院生から紹介された本である。兵庫県に採用され実務を経験してからその思いはさらに強くなり,当時「町のなりたち」に続けて「村のなりたち」他の日本民衆史のシリーズを読んだが,この機会に改めて再読した。
 著者の宮本は民俗学者である。郵便局勤務,小学校教員,大阪府嘱託を経て晩年になって武蔵野美術大学教授・早稲田大学理工学部講師となった異色の学者である。若い頃から,日本中の離島・農山村に暮らす人々を訪ね歩き,その歩いた距離と民衆の中に深く入り込んだ調査活動は前人未到の域に達している。その姿から富山の薬売りとよく間違われたそうで,「歩く民俗学者」と言われている。
 本書の冒頭は,「元来日本は町のない国であった。」で始まる。西洋の都市国家に比して日本は「農村国家」だというのである。「律令国家の制度は生産力のきわめて低い稲作農業民族にこころみた北方民族的思考の実に雄大な実験であった」とし,「都府・国府などの都市的な形態は生まれながらも,・・・日本人の観念の中には都市の具体的なイメージはなかったといっていい。」と断定している。その論拠として,明治初期に徴兵制にそなえて,人口100人以上の輻輳地を全国的に調査した「共武政表」のデータの中に「町」の概念が無かったことを上げている。
 本書では,古代の町として「駅」,中世からの「市」,近世の「城下町づくり」,「門前町と宿場町」,「港町」など,日本の歴史の中で町がどのように生まれたかを著している。その記述には,宮本が日本中の村々を訪ね歩いた折に人々から聞き出した話が織り交ぜられており,また,絵画・日記などの歴史資料の分析も加わって日本の町を浮かび上がらせている。例えば,「城下町という言葉が幕末まではつかわれなかったのも当然で,藩民はただお城下とよんでいたのである。」,「市民的な町は農民もあきらかに町という概念でこれを見ていた。そして,堺の町,大阪の町というようによんでいたのである。」とある。
 民俗学の視点からみた町のなりたちであるが,都市計画が対象とする地域や町のことを知るには大変読みやすい入門書として若い人にお奨めしたい。

紹介:兵庫県建築士事務所協会 上原正裕

(都市計画288号 2010年12月25日発行)

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