企画調査委員会

名著探訪

ジオテクニクス:地域計画の哲学

ベントン・マッケイ著、波多江健郎訳

彰国社/1971年

 都市計画と農村計画の二分,さらに都市計画が交通計画や街路計画,公園計画などの分野毎となり,果ては地区計画や中心市街地計画などへとどんどん分化してきた。これが,日本が都市化社会の構築にかかっての90年である。そうした今,あらためて分化ではなく統合の地域計画をという声が聞こえてきているように思う。
 この本は,1928年に初版が出て34年置いた1962年に再版をみた特異な図書である。私は大学一年生の時,ひょんなことから波多江健郎さんという建築家の存在を知った。まず,ポール・D・スプライレゲンのアーバンデザインという翻訳本を手に入れ,次に購入したのがこの本だった。つまり本の内容を知って読もうとしたのではなく,翻訳者への親しみが動機である。購入日付が71年10月24日となっているので,大学3年生の時である。前著に比較すると絵図が少なく文字が多い本で読み進めるのに難儀した覚えがある。しかし読む挑戦が起きた本だった。その理由の一つが序文にあった。序文はせいぜい2,3ページが普通だが,今回チェックしてみると,翻訳本で19ページに及んでいる。そしてこの序文を寄せているのがルイス・マンフォードである。
 さて,本の内容であるが,はじめにとおわりにを除き14のタイトルで書き綴られている。1.ロンドンブリッジとタイムズスクエア,4. モナドサック山の上から,8. 生活することと存在すること,13. 固有の環境を開発することなどである。1921年以降の7年間で経験した地域計画プロジェクトでの思考を書きためたもので,ちょっと見には体系を感じない。しかし読み進めるうちに正に「地域計画の哲学」を理解することになる集成である。読む挑戦の理由の二つ目が,随所でソローを引用していることであった。私は造園を専攻したので入学直後1年生の授業で,H.ソローの「森の生活」やJ. P. マーシュの「人間と自然」のことを聴いていた。そこでこの本を一生懸命読まねばと思った。そして3つ目の理由がその当時,私たちが強い興味を示し読みあさっていたイアン・L.マックハーグの計画思想・Design withNature(1969)との関係であった。端的に言うと,マックハーグの新しい考えは,これからの環境時代の流行だなと思っていたのが,この本にも同じようなことが書かれていて,案外不易なのかなと思ったことだった。
 日本語訳が出されて39年,原著も34年たって再版されているので,こちらも読み直すにちょうどいいころ合いかと思い名著探訪として紹介させていただいた。

紹介:熊本県立大学教授 蓑茂寿太郎

(都市計画290号 2011年4月25日発行)

一覧へ戻る