企画調査委員会

新刊探訪

日本の都市づくり:60プロジェクトによむ

公益社団法人日本都市計画学会 編

朝倉書店/2011年11月

今号は2011年11月に発行した本会60周年記念出版書籍を,会長経験者6名の先生方の紹介文とともに掲載します。

 日本都市計画学会創立60周年の記念出版として刊行された「60プロジェクトによむ 日本の都市づくり」は,企画の時期の点でも,また企画内容の点でも大変興味深いものとなっている。日本の都市づくりが人口減少社会,市街地縮減社会,高齢社会などの構造的な転換期にある時期に刊行され,さらに「プロジェクトによむ」という限定を加えている点である。なぜならプロジェクトは,一般的な計画や制度と異なり,それを起こす時代に極めて適合的な内容になるからである。その結果,時代を1960年代から2000年代に時代区分したタイトルづけも的確なタイトルとなっている。また個々のプロジェクトの内容に多くの場合,「その後」が記されており,都市を「づくる」行為は,その後の都市を「育てる」行為につながっていかなければいけないことを実証している点でも興味深い。たとえば,1960年代の中心市街地再開発,ニュータウン建設などは,その視点から読むと特に興味ある内容となっている。

紹介:東京都市大学教授 小林重敬


 都市計画学会賞を受賞した60のプロジェクトを通して,「都市計画学会の60年間を振り返るとともに,今後の社会に対して何を課題とし貢献していくべきかを考えるきっかけにしよう」という本書の意図は,概ね成功しているように見える。本書は,読者によって様々なとらえ方ができ,異なる読み方,使い方ができる。それが本書の何よりもの特徴であり,すばらしいところでもあろう。研究で事例を取り上げるとき,受賞作品からという選択の方法は,ある種の根拠を与えるものになるが,この60プロジェクトはそれに当てはまらないところがおもしろい。日本の社会経済の変化と都市計画プロジェクトの変遷を歴史として読み解くのもよし,単純に懐かしむのもよし,また,個々のプロジェクトを振り返るのもよしである。若い方々にとっては,歴史ストックとしてばかりでなく,今後に向けての反面教師として捉えることもできよう。それだけに,多くの分野,世代の方々に,是非,一読をお薦めしたい。

紹介:早稲田大学教授 浅野光行


 石川栄耀先生は社会への愛情が都市計画だといわれたそうだが,これを私はひとへの愛情がまちづくりだと言いたい。それなら都市の縮退化が叫ばれても,必要不可欠な仕事だと宣言できるからである。神は自然をつくり,人は都市をつくる。これは西洋のことかと思ったが,本書で日本人の凄さを改めて納得した。自然も都市も,産業も生活も,人々の幸せを願って数多の制約をクリアして,計画と理想を実現してきたこの集団の最高の履歴書『日本の都市づくり』のすべてに拍手したい。60プロジェクトを読み取る視点も,時代変遷やスケール分析も,巻末のデータ集も,そして論説都市計画家列伝も,文句なしである。学生諸君,必携必読書。造園家の私としても,公園単体の「駒沢」に始まり,パークシステムの「筑波」,グリーンマトリックスの「港北」へ進化する緑地計画を,また都市軸としてオープンスペースが位置づけられた「多摩NT・鶴牧」,緑地保全からエコロジーシステムをテーマとする「厚木森の里」「松戸21世紀の森」へ,そしてついにトータルランドスケープを意図した「各務原水と緑の回廊」へと,まちがいなく”自然と生命のまちづくり”の時代に向かっていることに感懐を憶えた。

紹介:東京農業大学名誉教授 進士五十八


 巻末の論説は,人材に着目して述べられていた。これに関連して「2007年問題」,つまり技術の世代間継承がある。ニュータウンや団地はこの50年の間の主要なプロジェクトであった。今,その再生が課題として浮かび上がってきている。この課題に取り組むためには,建設を支えた知識や技術の理解も必要だ。継承と協働の課題である。この本に取り上げられた震災復興の六甲道駅南地区再開発で,核的な役割を果した故A氏が,ある雑誌で,関係した専門家は皆,平素から親睦をはかり切磋琢磨している仲間であり,自ずからすばらしいチームワークの下に進めることができたと述懐されておられた。若い人たちの組織ばなれが懸念されるが,「平素からの親睦と切磋琢磨」の大事さを,読み取っていただきたいと思う。関西支部では「関西まちづくり賞」を1998年度より顕彰しており,2010年度までの13年間で31の業績が受賞している。そうした支部の顕彰事例と合わせながら読むのも興味深いと思う。

紹介:大阪大学名誉教授 鳴海邦碩


 天邪鬼な性格からか,こうした一覧物を手にすると,取り上げられなかったプロジェクト-ということは都市計画学会が授賞しなかったプロジェクトに関心が向く。身近な東京に絞れば,新宿副都心,臨海副都心,さらには東京駅周辺の東京都心や,アークヒルズ,六本木ヒルズも取り上げられていないことが分かる。そういう目で他の都市を眺めてみると,それぞれの都市の中心部のプロジェクトもあまり取り上げられていないようだ。繁華な場所で展開されるオールラウンドのプロジェクトには顕彰に値するきらりと光るものが見えにくいのか,それともエスタブリッシュされた都市開発を学会が評価することにためらいがあったのか,もちろん理由は分からない。少し時間ができたら,取り上げられなかったプロジェクトの取り上げられなかった理由に思いを馳せながら読み返してみると面白そうだと思った。

紹介:東京大学大学院教授 大西隆


 私と同い年の日本都市計画学会の還暦を記念してつくられた「日本の都市づくり」。紹介された60のプロジェクトを年代順に見ていくと,そこに大きな流れを読み取ることができる。第1は,ニュータウンに代表される都市基盤整備から,住民参加も含めた多様なまちづくりへの流れ。第2は,公的機関主導による開発から,民間主導による開発への流れ。第3は,人工物が卓越する事業から,自然を尊重した事業への流れである。私が深く関わった松戸市の「21世紀の森と広場」では,低地の盛土による芝生の造成を途中でストップさせ,ガイドツアー以外は立ち入り禁止の自然生態園をつくってビオトープ再生事業の先駆けとなった。それが,60プロジェクトの真ん中より少しあとの38番目にあるのも,時代の転換期を示唆しているように思われる。

紹介:東京大学大学院教授 武内和彦


(都市計画296号 2012年4月25日発行)

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