企画調査委員会

新刊探訪

日比谷公園:一〇〇年の矜持に学ぶ

進士五十八

鹿島出版会/2011年5月

 日比谷公園は筆者進士五十八氏の造園研究人生の原点である。本書は筆者の長年研究してきた日比谷公園の自分史を綴ったポートフォリオである。筆者の造園研究の原点となった卒業研究の「日比谷公園の研究」,「公園利用者の占有空間特性」によって,公園における生活史の重さを発見すると同時に,自ら開発した調査方法のマンウォッチング調査から人間行動の原理に基づく公園という筆者の造園学の基本的視座が形成されていった。そこで筆者は人間生活と同様に公園が誕生から今日まで数々の経験と出来事を重ねながら現在にいたっていることを「公園生活史」と定義している。1,2章でわが国初の洋風公園として日比谷公園の誕生,3章で憧れの洋花・洋食・洋楽を味わえる開園当初の日比谷公園,4章で開園後十数年経った日比谷公園の木々の成長と落ち着き,5章で震災時の避難利用と戦災時の極限的利用の日比谷公園,6章で国民広場としての日比谷公園,7章で子どもの遊び場としての児童遊園と児童指導員の導入,8章でソーシャルオリエンテッドとしてパークマネジメントの到来,と日比谷公園生活史をこれまでの筆者の研究成果を踏まえながら解説,考察されている。そして11章の人生最高の師・井下清先生との出会いのエピソードは興味深く,さらに筆者が選んだ「公園の井下」の10大業績は公園経営の観点から詳しく解説され,パークマネジメントの研究者や公園指定管理者にとって有用な知見になると思われる。
 本書を通じて「公園は文化である」という筆者の強い主張を随所に感じることができる。『私の結論は「日比谷公園力」というものをあらためて再認識することであり,パークマネジメントの目標は「公園文化の創造にある」という考えを徹底的かつ具体的に追及することである。・・・(中略)・・・公園だからといってただ水と緑というわけだけではない。とくに日比谷公園百有余年の波乱万丈の公園生活史をみてわかるようにこの公園は,“人間的出来事”と“人間的雰囲気”が横溢している。たくさんの人びとの永い間の記憶や思い出,人びとの人生の面影がつまっている。人びとの生き方,それはライフスタイル“文化”である。そういうたくさんの文化が集積して“日比谷文化”ができあがっている。』(12章216-217頁)。このことこそ筆者が強調したい公園の矜持Pride of The Parkではないかと共感し,なるほどと教えていただいた。さらに巻末の日比谷公園生活史年表は,日比谷公園を熟知した筆者だからこそ大変わかりやすく整理されており,日比谷公園のキャリアを一目で容易に知ることができる。本書は研究者だけでなく公園をこよなく愛する市民の方々,造園を志す若い学生達にお勧めの名著である。

紹介:東京農業大学准教授 入江彰昭

(都市計画297号 2012年6月25日発行)

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