企画調査委員会
アーバンデザイン:町と都市の構成
Urban Design:The Architecture of Towns and Cities
青銅社/1966年
本書は,米国建築家協会のアーバンデザイン委員会がそのジャーナルに1962年12月号から1964年11月号にかけて発表した12編の論評を,当委員会のメンバーと外部の人たちの指導のもとにポール・D・スプライゲンが著したもので,波多江健郎の和訳で1966年に出版された著書である。
世界大戦後の急速な経済発展を背景に米国において爆発的な都市化が進展することが予見される中で,自然に対する理解や尊敬と自然への感応の重要性を説き,従来まで失敗を重ねてきた人間中心の都市建設に対し,いち早く警鐘を鳴らした本である。建築家や都市にかかわる各種のデザイナーがこれまで決して経験したことのなかった空間スケールを扱うことを自覚し,都市それ自体の創造的なデザインに向き合ううえで学ばなければならない事項や手がかりを説いている。まず,過去6000年に渡る偉大な建築や都市建設の蓄積が重要な手がかりとなるといった観点からアーバンデザインの遺産が述べられ,次いで,環境の質を決定していくうえで重要となる都市や地域が保有する固有の自然の形態や場所の感じ,歴史の重みや社会思想が述べられている。さらに,急速に進展する建築や交通にかかわる技術革新とともに都市の成長や規模拡大への対応といった当時の課題に対して説かれている。また,論述内容は過去の優良なデザインの例証,図面やスケッチを用いて解説されており,理解の大きな手助けとなるとともに実践的応用や教材としても利用しやすく,本書の特筆すべき点の一つでもある。
1970年代造園学から発展した緑地計画工学が都市をデザインする一分野として歩みだそうとしている時期でもあり,建築の枠組みをはるかに超え都市建設におけるランドスケープからのアプローチとして大いに学ぶことのできた著書である。国際連合人間居住計画の報告書によると21世紀に入った2007年には都市部で生活する人口が世界人口の半数を占めるに至り,2050年には世界人口の3分の2が都市に居住することが予測されている。21世紀は環境の世紀であるとともに「都市の世紀」とも言われ,地球規模において都市のウエイトが益々高まっている。このような中で,都市への産業や人口の集中を背景に依然人間や経済活動に中心が置かれがちであるが,都市自体が自然との共生を図り,自然を基盤とする負荷の低減や持続性を高めるよう,構造転換が強く求められており,都市デザインにおいて自然に対する理解と尊敬,自然への感応の重要性を説いた本書の価値は今も息づいている。
紹介:大阪府立大学大学院教授 増田昇
(都市計画299号 2012年10月25日発行)