企画調査委員会
“Town Design” sixth edition
Architectural Press /1970年
日本の都市計画制度では景観や街並みの修景などが主要なテーマとして扱われていない。このことはとても奇妙なことではあるが,明治以降,近代的な都市の基盤施設整備や,第二次大戦による大規模な戦災からの復興に追われてきた経緯から,やむを得ないことなのかもしれない。1970年代後半からの景観ブームの中で,600以上もの自治体が自主条例等を制定して景観行政に取り組み,それを受けて,計画制度としては,2004年に景観法が,都市計画とは別体系として制定され,一応の決着をみた。
さて,本書は,ヨーロッパの都市デザインを解説した古典的名著である。英国では,伝統的に”city”ではなく”town”を用いるため,本書も”Town Design”である。内容は,ヨーロッパの歴史的なものから新開発までの都市や街並み景観について,全体計画,中心地区,商業地,工業地,住宅地など別に,形態的な特徴,特定の視点からの見え方などを写真や図を多用して説明している。新都市について比較的多く取り上げているが,英国では,新都市の開発整備が盛んに進められ,成長発展の時代であったことがその背景になっている。
筆者は,本書をロンドンの書店で手にし,購入した。A4版のハードカバー,アート紙で370頁もの大作なので,文字通り,ずっしりと重い。いつも傍に置き,ときどき興味あるものを拾い読みするようにして楽しんだ。その後,本書で取り上げられている都市に行き,書かれていることを確認したり,実感したりしたものである。
著者のフレデリック・ギバード卿(1908~1984)は,英国で活躍した建築家であり,ハーロウ・ニュータウンの計画,設計に携わった。そのデザインを追究する手かがりとして,ヨーロッパの都市や街並みのデザインについて探究したと思われ,本書はその成果を収録したものなのだろう。なお,類書は少なく,英国における都市デザインの先駆的な役割を果したと評価できる。
日本とヨーロッパの都市や建築,街並みは,多くの点で構造的に異なっている。また,それと深く関わる人々の意識も然り。日本も,成長発展の時代が終焉し,既成市街地の再整備などが主要テーマとなる中で,ヨーロッパの都市を参考としながら,じっくりと美しい都市や街並みを形成していく時代である。本書は,そうしたことを念頭に置いて,あらためて読む価値のあるものではないだろうか。
紹介:金沢大学教授 川上光彦
(都市計画300号 2012年12月25日発行)