企画調査委員会

名著探訪

LA CHARTE D’ATHENES・アテネ憲章

Le Corbusier・吉阪隆正編訳

鹿島出版会/1976年

 都市計画の分野は,建築系,土木系,農学系,社会学,経済学など多分野の集合体である。私は,土木系ではあるが,土木系も水理系,材料系,そして交通系ほかに分かれる。また,交通も道路,鉄道,港などそれぞれの交通施設から交通計画,あるいは著者の専門である都市交通管理に分岐して専門が存在する。この専門から都市計画をみると土地利用を中心に建築物と,上下水道や道路などの土木施設の静的なレイアウトにしかみえない。特に,わが国の技術の多くは,輸入技術のため官主導型できたため,都市,道路,交通がそれぞれ厚い壁で仕切られている。しかし,東京都心部の昼間は100万人を超す人口であっても夜間は10万人程度となる。少なくとも昼と夜の二つの都市計画があってもよい。あるいは,夏と冬など動的な都市計画を考えなければならない場面も多々ある。いいかえると,交通管理が重要性を帯びてきたのであろう。しかし,動的な都市計画をどう説明すべきか,具体的に説明をできないでいた。このメカニズムをどう説明しようか迷っている時期に,本書と巡り会った。本書の「都市計画のカギは『住む,働く,楽しむ,往来する』という4機能の中にある」という内容に興味を持った。すなわち,静的都市計画として,住宅,勤務地,余暇の場所を土地利用的に区分し,それぞれの機能環境を確保し,平日の時間帯あるいは週末にこの土地利用の違う地域を交通で結ぶという考え方で,動的な都市計画が豊かな都市生活を創ると考えての提案である。ただ,当時考えられていた交通は,徒歩に加えて路面電車と若干の自動車しか念頭になく,この憲章の誤算は,高速都市鉄道の発達や経済成長に伴う車保有の増加は,当時考えていた技術と数量をはるかに越したことである。この問題の解決策としては,「交通計画のバイブル」といわれている『ブキャナンレポート』に詳しい。この書も交通分野の学徒にとっては名著で,両書から得た知識と著者の専門的経験や関連研究成果から「都市問題研究:自家用車と公共交通1998.11」および「交通工学総論,成山堂書店」にまとめてあるので興味のある方は読んでほしい。交通の発達で,多面的,重層的,かつ広域的な生活が送れるようになった今日,都市計画のあり様も再検討の時期に差しかかっている。この時にこそ都市計画の担当者や研究者は,現代都市計画の基礎となっている本書のような古き名著を読まれることをお薦めしたい。

紹介:日本大学名誉教授 高田邦道

(都市計画306号 2013年12月25日発行)

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