企画調査委員会

名著探訪

Location and Land Use: Toward a General Theory of Land Rent (翻訳『立地と土地利用:地価の一般理論について』)

William Alonso

1964年(翻訳1966年)

 1960年代に汎用コンピュータが普及して多くの学問分野に適用されてくるにつれ,都市の土地利用計画にもコンピュータシミュレーション技法が導入されるようになった。当時,修士だった私は,もの珍しさからそれに飛びつき,都市の土地利用形成と線引き効果をテーマに修士論文を仕上げた。しかし,この方法には大きな疑問が残った。素朴なシミュレーションは,現実を文字通り「真似る」ことでモデルを組み立ててゆくが,現実は複雑であり,もぐらたたき的に現実の要因をひとつずつ「真似て」ゆくと,それらの関係は乗数的に増えてゆき,「真似る」作業は膨大となって行く。そしてついにはコンピュータの計算能力を超えて破綻してしまう。そんな折に,指導教官の下総薫教授から,理論は思考の節約をするから,土地利用理論の本を読んでみたらどうかと言って薦められた本が,この『立地と土地利用』である。
 著者のアロンゾ教授は,ペンシルバニア大学の地域科学学科で博士号を取得している。その博士論文が編纂されて出版された本が『立地と土地利用』である。土地利用理論の古典といえば,19世紀のチューネン農地土地利用理論である。しかしこの理論は,利潤追求の活動には適用できても,利潤追求でない住宅立地を説明することが出来なかった。アロンゾ理論の画期的な点は,チューネンの理論枠組みを受け継ぎつつ,住宅立地理論を確立した点にある。これが突破口となって,1970年代の新都市経済学(new urban economics)が発展して行くことになった。そんな時代の節目に,カルフォニア大学バークレイ校都市計画学科でアロンゾ教授の指導を受けることが出来たのは幸いであった。
 日本語翻訳は原著が出版されて2年後に出されている。副題である「地価の一般理論について」に関して多少の注釈が必要であろう。原著ではrentとなっているので,「地代」とする方がよりふさわしいであろう。もちろん「地代」と「地価」は表裏一体であるが,「地価」の理論的深化は,新都市経済学の成果を待つことになる。アロンゾ理論は経済学で発展して行くが,都市土地利用が経済理論だけでは説明しきれない部分が多々あるし,都市経済政策理論が都市計画の問題の全てを解いているわけではない。アロンゾ教授は修士で都市計画を学んでいるから,もちろんそれを認識していたに違いない。日本語の副題には隠れてしまっているToward a General Theoryとあるのは,経済理論を包含するもっと壮大な夢を表したかったのではなかろうか。アロンゾ教授の風貌を思い出すと,そんな気がしてくる。

紹介:青山学院大学教授 岡部篤行

(都市計画307号 2014年2月25日発行)

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