企画調査委員会

新刊探訪

人文地理学事典

人文地理学会 編

丸善出版/2013年9月

 人文地理学は人間活動の空間活動を科学的に説明する研究分野であり,その対象は,およそ地球上に広がる様々な事象におよぶ。多様な研究トピックをコンパクトに,かつ体系的にまとめる作業には大きな苦労を伴ったものと推察する。日本におけるそれぞれのテーマを代表する研究者によって執筆された本書は,現代の人文地理学を概観するにふさわしい労作である。
 本書は,学史,基礎概念,手法,社会・地域・歴史諸事象と地理学の関係,地理教育という8部構成となっており,それぞれにおいて重要な項目の解説がなされている。それぞれの項目は見開きで2または4ページでコンパクトにまとめられ,関連する他項目の明示,さらに深く学びたい場合の文献紹介,巻末には多くの参考文献が掲載されており,初学者からその分野の専門家まで利用できるよう工夫されている。また,記述も初学者でも読めるよう平易かつ的確に解説されており,読み物としても楽しめる。
 全体を見て気づくのは,都市計画学会が対象とする内容がきわめて多いことである。「都市を研究する地理学」の章では,24項目が収録されており,かつその一つは「都市計画」である。他の章でも都市計画学会において研究対象とするキーワードが並んでおり,印象としては2/3以上の項目が都市計画学会の研究活動に関連する。また,参考文献においても,都市計画学会でも活躍している研究者によるものが含まれており,分野としての近さを再認識させられた。
 もう一つ感じたのは,社会問題になっている現代的トピックを意欲的に取り入れたということである。社会関係資本,経済特区,領土問題,空間のジェンダー分析,セクシュアリティの地理学,中心市街地,アーバンツーリズムなど,最近話題になっている項目が多数収録されている。他方で,歴史的に重要な地図や空間構成などについても充実した記述があり,時間的にもバランスがとれ,かつ特徴を出した編集となっている。
 都市計画を学び,研究する我々にとって,学問的に大先輩であり,また分野として類似性の高い人文地理学は,今後も大いに参考にし,研究交流していくべき学問領域である。それを最も現代的かつコンパクトにまとめあげられた本書は,都市計画研究者一人一人が座右に置くべき貴重な参考書である。

紹介:東京大学大学院工学系研究科教授 浅見泰司

(都市計画308号 2014年4月25日発行)

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