企画調査委員会

新刊探訪

都市空間の計画技法:人・自然・車

佐々波秀彦 監修

彰国社/1974年

 仕事柄転勤・引越しが多くまた狭い官舎住まいだったこともあって,仕事の本は基本的に職場に置くようにしてきた。それでも手元に置きたい本は自宅の書棚に溢れかえり,時々思いきって整理の大ナタを振るうことになる。本書は私が役所に入ってばかりの頃に入手したので40年近く経つが,そうした淘汰を免れて残った一冊で,今や若い頃を思い出させる古い写真のような愛着を覚える存在となったものである。当時の私は,念願の都市計画の仕事に携わるようになったものの,法制度や現実社会の力学など学生時代に「読み聞き」したこととは別次元の膨大な情報に晒されて方向感覚を見失いがちであった。しかし本書のお陰で「都市空間の計画」という概念とその重要さを改めて認識させられ,頭の中のもやもやが随分と整理されたことを覚えている。
 本書はタイトルからマニュアル的な技法書に見えるし,実際に欧米を中心とした事例も広く紹介されているが,その真髄は都市空間の計画論や戦略論にある。何よりもユニークなのは,「人と車」,「人と人」,「人と自然」という3部構成の章立てであり,それが本書の性格を良く表している。それぞれのテーマ毎に「人」に立脚した空間計画の考え方や戦略的な技法が具体的に分かり易く説明され,また全編を通して,「人のために」望ましい都市空間をめざす姿勢こそ最重要という明確な思想が貫かれている。安易に交通・インフラ,土地利用,公園・緑地という縦割りの章立てにしなかったところが秀逸であるが,恐らくこれは監修者である故佐々波秀彦先生の慧眼によるものだろう。勿論40年前の本だから既成市街地の更新などのテーマはほとんど触れられていなかったりするが,人の活動と生活の場としての望ましい都市空間を創ろうとする執筆者達の熱意が本書の随所から感じられ,それは時代を超えて現代にも通ずる普遍的な都市計画の命題であることを痛感させられる。
 本書の13人ほどの執筆者の中には私が仕事でお付き合いした方々も何人か含まれており,同時代の時間の流れを共有してきたことに感慨も覚える。それでなくとも本書を読み返すと,都市化の時代から人口減少時代に至る都市を取り巻く状況の変化と,それでも変わらない都市計画の永遠の命題について,いろいろ考えさせられることが多い。

紹介:(一財)民間都市開発推進機構 常務理事 竹内直文

(都市計画309号 2014年6月25日発行)

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