企画調査委員会

名著探訪

都市計画と用途地域制
:東京におけるその沿革と展望

堀内亨一 著

西田書店/1978年

 本書は,我が国における用途地域制について,旧都市計画法(1919年)に初めて導入されて以降,新都市計画法(1968年)の「地域地区」に至るまでの歴史的な変遷の経緯と背景を,東京に視点をおいて,わかりやすく解説するとともに,現行の用途地域の基となった1973年の指定が東京においてどのような考え方で行われたのかを詳述したものである。
 著者の堀内亨一氏(1918-2001)は,東京都庁で都市計画行政に従事し,1975年に首都整備局長を最後に退職された私の大先輩にあたる。都庁では直接お会いすることはなかったが,私が1987年に板橋区に都市計画担当の課長として赴任したとき,区の都市計画審議会会長を務めておられた氏にはじめてお目にかかり,1989年の用途地域見直しに向けた区案作成に当たって,大変温かなご指導をいただいた想い出がある。
 都内には現在も「土地区画整理事業を施行すべき区域」という現行都市計画法には見当たらない不思議な名称の都市計画決定区域があるが,板橋区においても土地利用上の大きな課題地区となっていた。本書では,それが戦後の緑地地域指定に端を発し,急激な都市化圧力の中で変容を余儀なくされ,新都市計画法の施行直前に,旧都市計画法に基づき緑地地域の廃止に合わせ指定されたものであることが,背景説明とともにリアルに描かれている。本書により,その歴史的な経緯を知ることができ,板橋区の市街地整備を考える際に大変参考になったことを思い出す。
 このほか,本書では,旧都市計画法に当初はなかった準工業地域が用途地域の種類に加えられた経緯なども知ることができる。また,最終章で提案されている動的用途地域制の考え方は,その後制度化された誘導容積型地区計画や再開発地区計画(現行の再開発等促進区を定める地区計画)の仕組みにつながる先進的なものである。別添付図として収録された東京都市計画用途地域の変遷過程を示す図面も興味深く見ることができる。
 本書は,東京の土地利用コントロールの中核をなす用途地域指定の原点を,行政実務者や研究者に教えてくれる大変貴重な基本文献といえる。

紹介:日本自動車ターミナル(株)代表取締役社長 河島均

(都市計画313号 2015年2月25日発行)

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