企画調査委員会

名著探訪

Urban Transportation Networks

Yosef Sheffi

Prentice-Hall /1985年

 都市交通計画では,交通需要予測の最終段階に交通量配分が登場する。配分理論は,交通ネットワーク均衡の理論と言い換えてもよい。本書は,ネットワーク上の利用者均衡について,OD需要が固定で経路選択行動が確定的な均衡モデルから需要がサービス水準によって変動するモデル,利用者の経路選択が確率的な均衡モデルまでを扱っている。非線形計画法を用いたそれぞれのモデルの定式化と計算法を詳細に記述した良書である。1980年代はネットワーク均衡に関して詳しく書かれた日本語のテキストがなく,この本を先生として勉強したことを思い出す。非線形計画法の理論やアルゴリズムだけでなく,最短経路探索のプログラミングについても丁寧に書かれており,この本で得られる知識とスキルはネットワーク均衡以外にも広く応用が効く。
 この英文テキストの優れているところは,内容が充実しているだけでなく,英語表現がわかりやすいという点にもある。分厚い原著を読もうと思っても,もって回った英語表現に最初の数ページでくじけてしまうことのある初学者にとって,英語表現がわかりやすいことほどありがたいことはない。
 最近では,ネットワーク交通理論の動学化やシミュレーションモデルの開発・適用が進化しており,静的なネットワーク均衡理論は古ぼけた印象を持たれるかもしれないが,最新の理論や解析手法を研究する上でも,クラシックな理論を基盤としておくことは悪くない。
 この出版物は,既に書店では販売されていないので,著作権を持つSheffi 教授は,自らのHPからテキスト全文を無償でダウンロードできるようにし,研究・教育目的だけではなく,実務目的でのいかなる利用も構わないとしている.有り難い限りである。
 交通工学の数理的な基礎理論の三本柱は,ネットワーク理論,交通流理論,交通行動理論である。ここで紹介したテキスト以外にも,わかりやすい英語で書かれた古典的テキストとして,交通流理論はDaganzo,C.(1997)Fundamentals of Transportation and Traffic Operations,Pergamonを,非集計交通行動モデルはBen-Akiva,M. & Lerman,S(1985)Discrete Choice Analysis,MIT Pressをお勧めする。

紹介:東京工業大学教授 朝倉康夫

(都市計画317号 2015年10月25日発行)

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