企画調査委員会
エンジニア・エコノミスト
:フランス公共経済学の成立
東京大学出版会/1992年
名著探訪ということで,都市計画に関する古典的な名著を紹介するコーナーなのですが,都市計画分野というより,公共経済学分野の著書です。また,学生時代等に読んで感銘を受けた文献,というお話なのですが,何分学生時代はあまり本を読まない不真面目な学生であったため,仕事を始めてから読んだ本を紹介させていただきます。従いまして,古典的というには新しいですが,1992年,約20数年前に出版された書籍です。
本書のタイトルであるエンジニア・エコノミストというものはあまり馴染みがないかもしれませんが,エンジニアという職業にあり,理論的考察の対象として経済問題を取り上げた,技術と経済の2つの領域を身につけた人々を指します。
本書は,19世紀の半ば,フランスのエンジニア・エコノミストであるジュール・デュピュイが,限界効用概念に基づき消費者余剰の考えを概念化されたこの時代を取り上げ,当時フランスのエンジニア・エコノミストの成り立ちや,どういったことを対象としていたかを研究したものです。
今でこそ公共事業の事業採択時において費用便益分析をはじめとする事業評価を行うことは当たり前になっていますが,本書が出版された頃は,建設省道路局(現国土交通省道路局)において事業評価の検討委員会を組織し,費用便益分析の適用について議論され始めた時期でした。
縁あって,その検討委員会にかかわりを持つことができ,また,その検討の中で本書に触れる機会を持ちました。現在,費用便益分析で用いられている消費者余剰の考え方が,19世紀のフランスですでに確立されていたこと,そしてそれがほとんど変わらずに現在用いられていることに非常に驚きを覚えました。
本コーナーの趣旨からは少し外れているかもしれませんが,そのあたりはご容赦いただき,もし手に取る機会があれば,是非ご一読を。
紹介:パシフィックコンサルタンツ(株) 河邊隆英
(都市計画319号 2016年3月15日発行)